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第43巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 狂風怪猿
01 烈風
〔1152〕
02 懐谷
〔1153〕
03 失明
〔1154〕
04 玉眼開
〔1155〕
05 感謝歌
〔1156〕
第2篇 月下の古祠
06 祠前
〔1157〕
07 森議
〔1158〕
08 噴飯
〔1159〕
09 輸入品
〔1160〕
第3篇 河鹿の霊嵐
10 夜の昼
〔1161〕
11 帰馬
〔1162〕
12 双遇
〔1163〕
第4篇 愛縁義情
13 軍談
〔1164〕
14 忍び涙
〔1165〕
15 温愛
〔1166〕
第5篇 清松懐春
16 鰌鍋
〔1167〕
17 反歌
〔1168〕
18 石室
〔1169〕
余白歌
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第一六章
鰌鍋
(
どぢようなべ
)
〔一一六七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻
篇:
第5篇 清松懐春
よみ(新仮名遣い):
せいしょうかいしゅん
章:
第16章 鰌鍋
よみ(新仮名遣い):
どじょうなべ
通し章番号:
1167
口述日:
1922(大正11)年11月28日(旧10月10日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-01-12 12:55:30
OBC :
rm4316
愛善世界社版:
259頁
八幡書店版:
第8輯 122頁
修補版:
校定版:
269頁
普及版:
112頁
初版:
ページ備考:
001
清春山
(
きよはるやま
)
の
峻坂
(
しゆんぱん
)
を
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
登
(
のぼ
)
つて
行
(
ゆ
)
く
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
があつた。
002
これは
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
を
立出
(
たちい
)
でて
伊太公
(
いたこう
)
を
奪
(
うば
)
ひ
返
(
かへ
)
さむと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
くバラモン
教
(
けう
)
のマツ
公
(
こう
)
、
003
タツ
公
(
こう
)
の
両人
(
りやうにん
)
である。
004
マツ
公
(
こう
)
は
急坂
(
きふはん
)
を
上
(
のぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
005
マツ公
『
大足別
(
おほだるわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
006
難攻
(
なんこう
)
不落
(
ふらく
)
と
頼
(
たの
)
みたる
007
清春山
(
きよはるやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
も
008
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
009
照国別
(
てるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
に
010
不在
(
るす
)
を
守
(
まも
)
りしポーロさま
011
其
(
その
)
外
(
ほか
)
一同
(
いちどう
)
悉
(
ことごと
)
く
012
生言霊
(
いくことたま
)
に
打
(
うち
)
ぬかれ
013
忽
(
たちま
)
ち
心
(
こころ
)
を
翻
(
ひるがへ
)
し
014
善
(
ぜん
)
か
悪
(
あく
)
かは
知
(
し
)
らねども
015
三五教
(
あななひけう
)
が
結構
(
けつこう
)
だと
016
部下
(
ぶか
)
を
引
(
ひき
)
つれ
河鹿山
(
かじかやま
)
017
峠
(
たうげ
)
を
越
(
こ
)
えて
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
018
以前
(
いぜん
)
にここを
登
(
のぼ
)
りしと
019
聞
(
き
)
いたる
時
(
とき
)
の
驚
(
おどろ
)
きは
020
寝耳
(
ねみみ
)
に
水
(
みづ
)
のやうだつた
021
ウントコドツコイ ハーハーハー
022
之
(
これ
)
から
先
(
さき
)
はだんだんと
023
道
(
みち
)
は
峻
(
けは
)
しくなつてくる
024
タツ
公
(
こう
)
さまよ
気
(
き
)
をつけよ
025
家来
(
けらい
)
の
奴
(
やつ
)
に
言
(
い
)
ひつけて
026
ポーロの
帰
(
かへ
)
つた
脱殻
(
ぬけがら
)
へ
027
三五教
(
あななひけう
)
の
伊太公
(
いたこう
)
を
028
高手
(
たかて
)
や
小手
(
こて
)
にふん
縛
(
じば
)
り
029
一先
(
ひとま
)
づ
隠
(
かく
)
しておいたのを
030
コリヤ
又
(
また
)
えらいドツコイシヨ
031
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
し
032
おれが
捕
(
とら
)
へた
人物
(
じんぶつ
)
を
033
又
(
また
)
もや
俺
(
おれ
)
がスタスタと
034
息
(
いき
)
の
切
(
き
)
れるよな
急坂
(
きふはん
)
を
035
登
(
のぼ
)
つてスツパリ
取返
(
とりかへ
)
し
036
治国別
(
はるくにわけ
)
の
兄
(
に
)
いさまに
037
お
返
(
かへ
)
し
申
(
まを
)
さにや
如何
(
どう
)
しても
038
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬ
兄弟
(
きやうだい
)
の
039
ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ
040
名乗
(
なのり
)
を
天晴
(
あつぱ
)
れしてくれぬ
041
バラモン
教
(
けう
)
に
這入
(
はい
)
るよな
042
俺
(
おれ
)
は
弟
(
おとうと
)
持
(
も
)
たないと
043
ダラ
助
(
すけ
)
ねぶつたやうな
顔
(
かほ
)
044
ウントコドツコイ ヤツトコシヨ
045
なかなか
縦
(
たて
)
に
首
(
くび
)
ふらぬ
046
お
前
(
まへ
)
の
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
る
通
(
とほ
)
り
047
一度
(
いちど
)
兄貴
(
あにき
)
に
会
(
あ
)
ひたいと
048
バラモン
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
049
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
祈
(
いの
)
つた
甲斐
(
かひ
)
あつて
050
思
(
おも
)
ひもよらぬ
谷間
(
たにあひ
)
で
051
ベツタリコーと
出会
(
でつく
)
はし
052
ヤレヤレ
嬉
(
うれ
)
しとドツコイシヨ
053
喜
(
よろこ
)
んで
見
(
み
)
たのは
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
054
梃
(
てこ
)
でも
棒
(
ぼう
)
でも
受
(
う
)
けつけぬ
055
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
056
昔
(
むかし
)
の
兄
(
あに
)
ぢやと
思
(
おも
)
うたら
057
コリヤ
又
(
また
)
エライ
変
(
かは
)
りやう
058
さうぢやと
言
(
い
)
つてマツ
公
(
こう
)
も
059
折角
(
せつかく
)
兄貴
(
あにき
)
に
会
(
あ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
060
此
(
この
)
儘
(
まま
)
別
(
わか
)
れるこたいやだ
061
畏
(
おそれおほ
)
くも
素盞嗚
(
すさのを
)
の
062
神
(
かみ
)
の
館
(
やかた
)
へ
攻
(
せ
)
めよせる
063
魔神
(
まがみ
)
の
軍
(
いくさ
)
に
従
(
したが
)
つて
064
やつて
来
(
き
)
たのもバラモンの
065
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
身
(
み
)
を
尽
(
つく
)
し
066
其
(
その
)
褒賞
(
はうしやう
)
にウントコシヨ
067
恋
(
こひ
)
しき
兄
(
あに
)
に
如何
(
どう
)
かして
068
会
(
あ
)
はして
貰
(
もら
)
はうと
思
(
おも
)
うた
故
(
ゆゑ
)
069
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひだ
)
にドツコイシヨ
070
ますます
坂
(
さか
)
がキツウなつた
071
転
(
ころ
)
んで
怪我
(
けが
)
をしてくれな
072
モウ
一人
(
ひとり
)
ともない
両親
(
ふたおや
)
に
073
先立
(
さきだ
)
たれたる
淋
(
さび
)
しさに
074
兄貴
(
あにき
)
のことを
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
し
075
ウラルの
教
(
をしへ
)
の
本山
(
ほんざん
)
や
076
所々
(
ところどころ
)
の
広前
(
ひろまへ
)
を
077
捜
(
さが
)
してみたれどウントコシヨ
078
ドツコイドツコイ ヤツトコセー
079
影
(
かげ
)
も
形
(
かたち
)
も
見当
(
みあた
)
らぬ
080
兄貴
(
あにき
)
は
竜宮
(
りうぐう
)
の
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
081
宣伝
(
せんでん
)
功
(
こう
)
を
奏
(
そう
)
せずに
082
此方
(
こちら
)
の
国
(
くに
)
へ
帰
(
かへ
)
り
来
(
き
)
て
083
大方
(
おほかた
)
死
(
し
)
んだであらうかと
084
観念
(
くわんねん
)
してはみたものの
085
虫
(
むし
)
が
知
(
し
)
らすか
如何
(
どう
)
しても
086
諦
(
あきら
)
め
切
(
き
)
れぬ
身
(
み
)
の
因果
(
いんぐわ
)
087
所
(
ところ
)
もあらうに
三五
(
あななひ
)
の
088
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
居
(
を
)
つたとは
089
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らぬ
驚
(
おどろ
)
きだ
090
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
091
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
092
私
(
わたし
)
が
知
(
し
)
らずに
手
(
て
)
にかけた
093
三五教
(
あななひけう
)
の
伊太公
(
いたこう
)
を
094
家来
(
けらい
)
の
奴
(
やつ
)
をチヨロまかし
095
四
(
し
)
の
五
(
ご
)
のなしに
取返
(
とりかへ
)
し
096
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
と
両人
(
りやうにん
)
が
097
治国別
(
はるくにわけ
)
の
兄
(
あに
)
の
前
(
まへ
)
098
ゾロリと
出
(
だ
)
してやらなけりや
099
兄貴
(
あにき
)
の
顔
(
かほ
)
も
立
(
た
)
つまいし
100
俺
(
おれ
)
も
大
(
おほ
)
きなドツコイシヨ
101
面
(
つら
)
をばさげて
帰
(
いな
)
れない
102
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
103
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましまして
104
此
(
この
)
坂
(
さか
)
安
(
やす
)
く
平
(
たひら
)
けく
105
登
(
のぼ
)
り
下
(
くだ
)
りをさしてたべ
106
タツ
公
(
こう
)
お
前
(
まへ
)
も
宣伝歌
(
せんでんか
)
107
一
(
ひと
)
つ
歌
(
うた
)
つてドツコイシヨ
108
岩窟
(
いはや
)
の
前
(
まへ
)
まで
行
(
ゆ
)
かうかい
109
ウントコドツコイ、ハーハーハー
110
息
(
いき
)
が
苦
(
くる
)
しうて
言霊
(
ことたま
)
の
111
どうやら
原料
(
げんれう
)
が
切
(
き
)
れさうだ
112
ハー
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
113
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ。
114
ドレ
一服
(
いつぷく
)
して
行
(
ゆ
)
かうかい。
115
寒
(
さむ
)
い
風
(
かぜ
)
は
吹
(
ふ
)
いてをつても、
116
坂
(
さか
)
の
上
(
のぼ
)
り
下
(
くだ
)
りは
随分
(
ずゐぶん
)
汗
(
あせ
)
の
出
(
で
)
るものだなア。
117
ここに
丁度
(
ちやうど
)
よい
岩
(
いは
)
がある、
118
気
(
き
)
は
急
(
せ
)
いて
仕方
(
しかた
)
がないが、
119
チツとは
体
(
からだ
)
と
相談
(
さうだん
)
しなくちや
体
(
からだ
)
も
大切
(
たいせつ
)
だからなア、
120
ハーハー フーフー』
121
と
息
(
いき
)
をはづませつつ
言
(
い
)
ふ。
122
タツ
公
(
こう
)
『
俺
(
おれ
)
も
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
一休
(
ひとやす
)
みして、
123
元気
(
げんき
)
を
付
(
つ
)
け、
124
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
がゴテゴテ
吐
(
ぬか
)
したら、
125
蹴
(
け
)
り
倒
(
たふ
)
し、
126
陥穽
(
おとしあな
)
へ
突込
(
つつこ
)
んでおいて、
127
伊太公
(
いたこう
)
一人
(
ひとり
)
を
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
ることにしようかなア』
128
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
129
西
(
にし
)
の
空
(
そら
)
を
眺
(
なが
)
め、
130
脚下
(
あしもと
)
の
谷川
(
たにがは
)
の
白布
(
しらぬの
)
を
晒
(
さら
)
したやうな
泡立
(
あわだ
)
つ
激流
(
げきりう
)
が
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
の
間
(
あひだ
)
からチラついてゐるのを
打
(
う
)
ち
眺
(
なが
)
め、
131
愉快
(
ゆくわい
)
げに
汗
(
あせ
)
を
入
(
い
)
れてゐる。
132
タツ
公
(
こう
)
は
急坂
(
きふはん
)
を
攀
(
よ
)
ぢ
乍
(
なが
)
ら、
133
細
(
ほそ
)
い
声
(
こゑ
)
で
千切
(
ちぎ
)
れ
千切
(
ちぎ
)
れに
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
134
ここからは
一層
(
いつそう
)
道
(
みち
)
が
嶮
(
けは
)
しくなり、
135
団子石
(
だんごいし
)
が
狭
(
せま
)
い
山路
(
やまみち
)
に
無遠慮
(
ぶゑんりよ
)
にころがつてる。
136
タツ公
『
清春山
(
きよはるやま
)
で
第一
(
だいいち
)
の
137
難所
(
なんじよ
)
と
聞
(
きこ
)
えし
蜈蚣坂
(
むかでざか
)
138
道
(
みち
)
の
真中
(
まなか
)
に
団子石
(
だんごいし
)
139
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
も
知
(
し
)
らぬ
顔
(
かほ
)
140
俺
(
おれ
)
等
(
ら
)
を
転倒
(
こか
)
そと
待
(
ま
)
つてゐる
141
ホンに
物騒
(
ぶつそう
)
な
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ
142
チツとも
油断
(
ゆだん
)
は
出来
(
でき
)
はせぬ
143
ウントコドツコイ
人
(
ひと
)
の
手
(
て
)
に
144
持
(
も
)
つてゐる
物
(
もの
)
でも
引
(
ひ
)
つたくり
145
吾
(
わが
)
懐
(
ふところ
)
を
肥
(
こ
)
やさむと
146
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
企
(
たく
)
みゐる
147
悪魔
(
あくま
)
ばかりの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ
148
折角
(
せつかく
)
口
(
くち
)
へ
頬張
(
ほうば
)
つた
149
パンでも
隙
(
すき
)
があつたなら
150
食指
(
しよくし
)
を
大
(
おほい
)
に
動
(
うご
)
かして
151
ヤツトコドツコイ
剔
(
えぐ
)
り
出
(
だ
)
し
152
直様
(
すぐさま
)
自分
(
じぶん
)
の
口中
(
こうちう
)
へ
153
捻込
(
ねぢこ
)
む
様
(
やう
)
なウントコシヨ
154
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
奴
(
やつ
)
ばかり
155
バラモン
教
(
けう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
156
大黒主
(
おほくろぬし
)
こそ
天地
(
あめつち
)
の
157
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
に
叶
(
かな
)
うたる
158
誠
(
まこと
)
のお
方
(
かた
)
と
思
(
おも
)
うた
故
(
ゆゑ
)
159
ウントコドツコイ、マツ
公
(
こう
)
が
160
入信
(
にふしん
)
したのを
幸
(
さいは
)
ひに
161
俺
(
おれ
)
も
一寸
(
ちよつと
)
出来
(
でき
)
心
(
ごころ
)
162
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
たが
思
(
おも
)
うたより
163
中身
(
なかみ
)
の
悪
(
わる
)
いバラモン
教
(
けう
)
164
こんな
事
(
こと
)
だと
知
(
し
)
つたなら
165
ヤツパリ
元
(
もと
)
の
百姓
(
ひやくしやう
)
で
166
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
つたがよかつたと
167
後悔
(
こうくわい
)
してもハーハーハー
168
後
(
あと
)
の
祭
(
まつり
)
で
仕方
(
しかた
)
ない
169
ジツと
堪
(
こら
)
へて
開運
(
かいうん
)
の
170
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
ちし
其
(
その
)
内
(
うち
)
に
171
鬼春別
(
おにはるわけ
)
に
従
(
したが
)
ひて
172
俺
(
おい
)
等
(
ら
)
の
主人
(
しゆじん
)
の
片彦
(
かたひこ
)
が
173
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
堂々
(
だうだう
)
と
174
攻
(
せ
)
め
行
(
ゆ
)
く
時
(
とき
)
の
秘書役
(
ひしよやく
)
に
175
選
(
えら
)
まれたるを
幸
(
さいは
)
ひに
176
一角
(
いつかど
)
今度
(
こんど
)
は
手柄
(
てがら
)
して
177
頭
(
あたま
)
を
上
(
あ
)
げてみようかと
178
思
(
おも
)
うた
事
(
こと
)
も
水
(
みづ
)
の
泡
(
あわ
)
179
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
八合目
(
はちがふめ
)
180
三五教
(
あななひけう
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
181
雨
(
あめ
)
や
霰
(
あられ
)
と
浴
(
あ
)
びせられ
182
脆
(
もろ
)
くも
逃行
(
にげゆ
)
く
片彦
(
かたひこ
)
や
183
久米彦
(
くめひこ
)
さまの
敗軍
(
はいぐん
)
を
184
眺
(
なが
)
めた
時
(
とき
)
の
馬鹿
(
ばか
)
らしさ
185
俺
(
おい
)
等
(
ら
)
は
愛想
(
あいさう
)
がつきた
故
(
ゆゑ
)
186
モウこれきりで
御免
(
ごめん
)
をば
187
ヤツトコドツコイ
蒙
(
かうむ
)
らうと
188
お
前
(
まへ
)
と
密
(
ひそか
)
にドツコイシヨ
189
諜
(
しめ
)
し
合
(
あは
)
せてトボトボと
190
皆
(
みんな
)
に
遅
(
おく
)
れて
坂道
(
さかみち
)
を
191
下
(
くだ
)
つてみればこれは
又
(
また
)
192
思
(
おも
)
ひもよらぬ
三五
(
あななひ
)
の
193
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
御供
(
みとも
)
たち
194
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
に
端坐
(
たんざ
)
して
195
何
(
なに
)
かは
知
(
し
)
らぬがブツブツと
196
分
(
わか
)
らぬことを
話
(
はな
)
してる
197
コリヤ
堪
(
たま
)
らぬと
思
(
おも
)
へ
共
(
ども
)
198
逃
(
に
)
げ
路
(
みち
)
のない
一筋
(
ひとすぢ
)
の
199
此
(
この
)
谷間
(
たにあひ
)
が
如何
(
どう
)
なろか
200
俄
(
にはか
)
に
剽軽者
(
へうきんもの
)
となり
201
滑稽
(
こつけい
)
諧謔
(
かいぎやく
)
あり
丈
(
だけ
)
を
202
尽
(
つく
)
して
相手
(
あひて
)
を
笑
(
わら
)
はせつ
203
心
(
こころ
)
を
和
(
やはら
)
げゐたる
折
(
をり
)
204
フトした
事
(
こと
)
からマツ
公
(
こう
)
の
205
兄
(
あに
)
の
亀彦
(
かめひこ
)
ドツコイシヨ
206
ヤツトコドツコイ ハーハーハー
207
三五教
(
あななひけう
)
に
使
(
つか
)
はれて
208
世
(
よ
)
にもめでたき
宣伝使
(
せんでんし
)
209
治国別
(
はるくにわけ
)
となつてゐた
210
それをば
聞
(
き
)
いた
俺
(
おれ
)
の
胸
(
むね
)
211
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
が
一時
(
いちどき
)
に
212
起
(
おこ
)
りし
如
(
ごと
)
き
心地
(
ここち
)
した
213
これもヤツパリ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
214
水
(
みづ
)
も
洩
(
も
)
らさぬお
仕組
(
しぐみ
)
の
215
何
(
なに
)
かの
端
(
はし
)
であらうかと
216
轟
(
とどろ
)
く
胸
(
むね
)
を
撫
(
な
)
で
下
(
お
)
ろし
217
ヤツと
悲劇
(
ひげき
)
の
幕
(
まく
)
を
上
(
あ
)
げ
218
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
御供
(
みとも
)
なる
219
伊太公
(
いたこう
)
さまを
救
(
すく
)
ひ
出
(
だ
)
し
220
それを
土産
(
みやげ
)
にマツ
公
(
こう
)
の
221
兄弟
(
きやうだい
)
名乗
(
なのり
)
を
遂
(
と
)
げさせて
222
俺
(
おれ
)
もこれから
三五
(
あななひ
)
の
223
信者
(
しんじや
)
にならうと
決心
(
けつしん
)
し
224
心
(
こころ
)
イソイソやつて
来
(
き
)
た
225
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
226
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
227
話
(
はなし
)
かはつて
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
には
伊太公
(
いたこう
)
を
始
(
はじ
)
め
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
車座
(
くるまざ
)
になつて、
228
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
打
(
う
)
ち
興
(
きよう
)
じ
乍
(
なが
)
ら、
229
雑談
(
ざつだん
)
をやつてゐる。
230
ポーロの
留守役
(
るすやく
)
が
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
一同
(
いちどう
)
を
引
(
ひき
)
つれて
出
(
で
)
た
跡
(
あと
)
は、
231
生物
(
いきもの
)
と
云
(
い
)
つたら、
232
蝙蝠
(
かうもり
)
がここ
幸
(
さいは
)
ひと
吾物顔
(
わがものがほ
)
に
出入
(
でいり
)
を
始
(
はじ
)
めかけてゐた
位
(
ぐらゐ
)
であつた。
233
そこへマツ
公
(
こう
)
の
家来
(
けらい
)
に
准
(
じゆん
)
ずべき
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
234
マツ
公
(
こう
)
の
命令
(
めいれい
)
で、
235
伊太公
(
いたこう
)
を
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げ、
236
此処迄
(
ここまで
)
送
(
おく
)
り
来
(
きた
)
り
監視
(
かんし
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めてゐたのである。
237
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は
伊太公
(
いたこう
)
の
弁舌
(
べんぜつ
)
にチヨロまかされ、
238
縛
(
いまし
)
めの
縄
(
なは
)
を
解
(
と
)
き、
239
ポーロが
残
(
のこ
)
しおいた
酒壺
(
さけつぼ
)
から
残
(
のこ
)
りの
酒
(
さけ
)
を
汲
(
く
)
み
出
(
だ
)
し、
240
チビリチビリと
呑
(
の
)
み
乍
(
なが
)
ら、
241
面白
(
おもしろ
)
さうに
他愛
(
たあい
)
なく
喋
(
しや
)
べつてゐる。
242
甲
(
かふ
)
『エーもう
今頃
(
いまごろ
)
は
先鋒隊
(
せんぽうたい
)
の
片彦
(
かたひこ
)
、
243
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は、
244
首尾
(
しゆび
)
よく
難関
(
なんくわん
)
を
突破
(
とつぱ
)
し、
245
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
着
(
つ
)
かれる
時分
(
じぶん
)
だろ。
246
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
於
(
おい
)
ても
随分
(
ずゐぶん
)
心配
(
しんぱい
)
だらうなア』
247
伊太公
(
いたこう
)
『アハヽヽヽ、
248
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
には
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
神術
(
かむわざ
)
を
備
(
そな
)
へてゐる
生神
(
いきがみ
)
ばかりだから、
249
さう
容易
(
ようい
)
には
行
(
ゆ
)
くまいぞ。
250
俺
(
おれ
)
だつて、
251
事
(
こと
)
と
品
(
しな
)
に
依
(
よ
)
れば
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
位
(
くらゐ
)
は
屁
(
へ
)
一
(
ひと
)
つ
放
(
ひ
)
つたら、
252
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばすのは
何
(
なん
)
でもないのだが、
253
昨夜
(
よんべ
)
の
様
(
やう
)
に
谷底
(
たにそこ
)
へ
辷
(
すべ
)
り
落
(
お
)
ち、
254
向脛
(
むかふずね
)
を
打
(
う
)
つて
動
(
うご
)
けぬ
所
(
ところ
)
を
括
(
くく
)
られちや、
255
何程
(
なにほど
)
豪傑
(
がうけつ
)
でもたまらないからのう』
256
甲
(
かふ
)
『ソラさうだ。
257
誰
(
たれ
)
だつて
寝鳥
(
ねとり
)
を
締
(
しめ
)
るやうな
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされちや
叶
(
かな
)
ひつこはないワ。
258
ナア
伊太公
(
いたこう
)
さま、
259
実
(
じつ
)
ア
俺
(
おれ
)
も
君
(
きみ
)
に
同情
(
どうじやう
)
してゐるのだ。
260
マツ
公
(
こう
)
の………
大将
(
たいしやう
)
、
261
厳
(
きび
)
しく
牢獄
(
らうごく
)
へ
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
んでおけと
言
(
い
)
やがつたが、
262
それでも
俺
(
おれ
)
はかうして
君
(
きみ
)
に
同情
(
どうじやう
)
をよせ、
263
チツとも
虐待
(
ぎやくたい
)
はせないのだから、
264
チツとは
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
も
買
(
か
)
つてくれな
困
(
こま
)
るよ』
265
伊太公
(
いたこう
)
『ソラさうだ、
266
敵
(
てき
)
の
中
(
なか
)
にも
味方
(
みかた
)
ありと
云
(
い
)
ふからなア、
267
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神
(
かみ
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
偉
(
えら
)
い
神
(
かみ
)
さまだと
思
(
おも
)
つてゐるか』
268
甲
(
かふ
)
『さうだなア、
269
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
化物
(
ばけもの
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから、
270
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
の、
271
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
判断
(
はんだん
)
はつかないワ。
272
………
苔
(
こけ
)
むす
巌
(
いはほ
)
は
変
(
へん
)
じて
金殿
(
きんでん
)
玉楼
(
ぎよくろう
)
となり、
273
虎狼
(
こらう
)
野干
(
やかん
)
は
化
(
くわ
)
して
卿相
(
けいしやう
)
雲客
(
うんきやく
)
となり、
274
獅子
(
しし
)
は
化
(
くわ
)
して
万乗
(
ばんじやう
)
の
尊
(
そん
)
となり、
275
王位
(
わうゐ
)
の
座
(
ざ
)
に
装
(
よそほ
)
ひを
堆
(
うづたか
)
くし、
276
袞竜
(
こんりう
)
の
袖
(
そで
)
に
薫香
(
くんかう
)
を
散
(
ち
)
らす
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だからなア。
277
大黒主
(
おほくろぬし
)
もキツと
其
(
その
)
選
(
せん
)
に
洩
(
も
)
れないだらうよ。
278
昔
(
むかし
)
は
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
とか
云
(
い
)
つたさうだから、
279
どうせ
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
系統
(
けいとう
)
ぢやあるまい。
280
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らこんな
事
(
こと
)
はここ
限
(
かぎ
)
りだ。
281
ノウ
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
、
282
メツタに
喋
(
しやべ
)
りやしようまいのう』
283
乙
(
おつ
)
『そんな
事
(
こと
)
喋
(
しやべ
)
らうものなら、
284
俺
(
おれ
)
の
首
(
くび
)
がなくなるワイ、
285
ナア
丙
(
へい
)
、
286
さうぢやないか』
287
丙
(
へい
)
『さうともさうとも、
288
こんな
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
いた
以上
(
いじやう
)
は
直様
(
すぐさま
)
甲
(
かふ
)
の
首
(
くび
)
をチヨン
切
(
ぎ
)
るか、
289
後手
(
うしろで
)
にフン
縛
(
じば
)
つて
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
前
(
まへ
)
へ
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
すのが
本当
(
ほんたう
)
だ。
290
それを
看過
(
かんくわ
)
しておくと
云
(
い
)
ふのはヤツパリ
同罪
(
どうざい
)
だからなア。
291
甲
(
かふ
)
の
云
(
い
)
つたのは
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
言
(
い
)
うたやうなものだ。
292
それだから
言
(
い
)
へと
云
(
い
)
つたつて
言
(
い
)
ふ
気遣
(
きづか
)
ひないワ。
293
マア
安心
(
あんしん
)
してくれ』
294
伊太公
(
いたこう
)
『
併
(
しか
)
し
大分
(
だいぶ
)
酒
(
さけ
)
がまはつたやうだが、
295
モウいい
加減
(
かげん
)
に
帰
(
かへ
)
つたら
如何
(
どう
)
だ。
296
俺
(
おれ
)
も
実
(
じつ
)
はお
師匠
(
ししやう
)
さまが
待
(
ま
)
つてゐるのだからなア』
297
甲
(
かふ
)
『
其奴
(
そいつ
)
ア
一寸
(
ちよつと
)
困
(
こま
)
る、
298
何程
(
なにほど
)
親密
(
しんみつ
)
なお
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
との
仲
(
なか
)
でも、
299
お
前
(
まへ
)
を
取逃
(
とりに
)
がしたことが
分
(
わか
)
れば、
300
俺
(
おれ
)
はサーツパリだからなア。
301
どないでも
大切
(
たいせつ
)
にするから、
302
一遍
(
いつぺん
)
マツ
公
(
こう
)
の
大将
(
たいしやう
)
が
査
(
しら
)
べに
来
(
く
)
るまでここに
斯
(
か
)
うして
居
(
を
)
つてくれ。
303
お
前
(
まへ
)
にや
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だけれど、
304
俺
(
おれ
)
だつてヤツパリ
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ぢやないか』
305
伊太公
(
いたこう
)
『さう
言
(
い
)
はれると
俺
(
おれ
)
も
先生
(
せんせい
)
が
大事
(
だいじ
)
だから
帰
(
かへ
)
りたいのだが、
306
情誼
(
じやうぎ
)
に
絆
(
ほだ
)
されて
帰
(
かへ
)
ることも
出来
(
でき
)
なくなつた。
307
何
(
なん
)
と
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふものは
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
いものだなア、
308
自分
(
じぶん
)
乍
(
なが
)
ら
自分
(
じぶん
)
がでに
愛想
(
あいさう
)
がつきて
来
(
き
)
たわい』
309
岩窟
(
いはや
)
の
入口
(
いりぐち
)
からマツ
公
(
こう
)
の
声
(
こゑ
)
、
310
マツ公
『オーイ、
311
イル、
312
居
(
ゐ
)
るかなア』
313
イル『イルは
此処
(
ここ
)
に
居
(
を
)
ります』
314
マツ『
三五教
(
あななひけう
)
の○○は
如何
(
どう
)
したツ』
315
イル『オイ、
316
伊太公
(
いたこう
)
、
317
頼
(
たの
)
みぢや、
318
一寸
(
ちよつと
)
暫
(
しばら
)
く
牢
(
ろう
)
へ
這入
(
はい
)
つとつて
呉
(
く
)
れぬか、
319
こんな
所
(
ところ
)
みられちやそれこそサツパリだ。
320
あれあの
通
(
とほ
)
り
大将
(
たいしやう
)
が
臨検
(
りんけん
)
に
来
(
き
)
よつた。
321
オイ
乙
(
おつ
)
、
322
丙
(
へい
)
早
(
はや
)
く
伊太公
(
いたこう
)
さまを、
323
一寸
(
ちよつと
)
の
間
(
ま
)
でいいから、
324
牢
(
ろう
)
へ
入
(
い
)
れといてくれ、
325
俺
(
おれ
)
や
出口
(
でぐち
)
まで
行
(
い
)
つて
何
(
なん
)
とか
彼
(
かん
)
とか
云
(
い
)
つて
隠
(
かく
)
す
時間
(
じかん
)
を
保
(
たも
)
つてゐるから、
326
手早
(
てばや
)
くやつてくれよ』
327
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
328
入口
(
いりぐち
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
329
イル『これはこれはマツ
公
(
こう
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
、
330
御
(
ご
)
臨検
(
りんけん
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
331
貴方
(
あなた
)
の
仰
(
あふ
)
せの
通
(
とほ
)
り、
332
後手
(
うしろで
)
に
縛
(
しば
)
り、
333
どこもかも、
334
雁字搦
(
がんじがら
)
みにして
石牢
(
いしらう
)
へブチ
込
(
こ
)
み、
335
昨日
(
ゆふべ
)
から
叩
(
たた
)
いて
叩
(
たた
)
いて、
336
キヤアキヤア
言
(
い
)
はして
苦
(
くるし
)
めてやりました。
337
モウあゝしておけばメツタに
逃
(
に
)
げる
気遣
(
きづか
)
ひありませぬ。
338
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ。
339
サア、
340
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
の
方
(
はう
)
の
戦
(
いくさ
)
が
大変
(
たいへん
)
忙
(
いそが
)
がしいでせう、
341
どうぞ
門
(
もん
)
を
這入
(
はい
)
らずにトツトとお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
342
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
がお
待兼
(
まちかね
)
で
厶
(
ござ
)
いませう』
343
マツ
公
(
こう
)
『
逃
(
に
)
げないやうに、
344
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
で
貴様
(
きさま
)
たち
番
(
ばん
)
をして
居
(
を
)
れと
言
(
い
)
つたのだが、
345
そんな
打擲
(
ちようちやく
)
を
為
(
せ
)
いとは
言
(
い
)
はないぞ。
346
本当
(
ほんたう
)
に
左様
(
さやう
)
な
目
(
め
)
にあはしたのか、
347
エーン』
348
イル『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
もない、
349
誰
(
たれ
)
がそんな
残酷
(
ざんこく
)
なことを
致
(
いた
)
しますものか』
350
マツ
公
(
こう
)
『そんなら、
351
如何
(
どう
)
しておいたのだ』
352
イル『ヘー、
353
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は………エヽ
一寸
(
ちよつと
)
相手
(
あひて
)
に
致
(
いた
)
しました、
354
随分
(
ずゐぶん
)
面白
(
おもしろ
)
い
奴
(
やつ
)
で
厶
(
ござ
)
いますよ』
355
マツ
公
(
こう
)
『
何
(
なに
)
、
356
一寸
(
ちよつと
)
相手
(
あひて
)
にした?
随分
(
ずゐぶん
)
手
(
て
)
が
利
(
き
)
いてゐるだらうなア』
357
イル『ヘーヘー、
358
中々
(
なかなか
)
好
(
よ
)
う
利
(
き
)
いてゐますワ、
359
特
(
とく
)
に
左
(
ひだり
)
が
一番
(
いちばん
)
能
(
よ
)
う
利
(
き
)
きますよ。
360
呑
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよ
一寸先
(
いつすんさき
)
や
暗
(
やみ
)
よ………と
申
(
まを
)
しましてなア、
361
それはそれは
面白
(
おもしろ
)
いお
相手
(
あひて
)
で
厶
(
ござ
)
いますワ』
362
マツ
公
(
こう
)
『ハヽヽヽヽさうすると、
363
お
酒
(
さけ
)
でも
出
(
だ
)
して
大切
(
たいせつ
)
に
扱
(
あつか
)
うてゐたのだなア』
364
イル『ヘー、
365
マアざつと、
366
そんなもので
厶
(
ござ
)
います』
367
マツ
公
(
こう
)
『ウン、
368
其奴
(
そいつ
)
ア
偉
(
えら
)
いことをした。
369
定
(
さだ
)
めて
満足
(
まんぞく
)
して
居
(
を
)
るだらうなア』
370
イル『ヘイヘイ、
371
十二分
(
じふにぶん
)
に
満足
(
まんぞく
)
して
居
(
を
)
ります。
372
ソラ
昨夜
(
ゆふべ
)
も
賑
(
にぎ
)
やかう
厶
(
ござ
)
いましたよ。
373
ステテコを
踊
(
をど
)
つたり、
374
舞
(
まひ
)
をまうたり、
375
賑
(
にぎや
)
かいこつて
厶
(
ござ
)
いました』
376
マツ
公
(
こう
)
『ポーロの
大将
(
たいしやう
)
はどこに
居
(
ゐ
)
るのだ。
377
根
(
ね
)
つから
人
(
ひと
)
が
居
(
を
)
らぬやうぢやないか』
378
イル『ポーロですか、
379
アリヤもう
二三
(
にさん
)
日前
(
にちぜん
)
に
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
行
(
い
)
つて
了
(
しま
)
ひましたよ』
380
マツ
公
(
こう
)
『ナーニ、
381
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ?………
沢山
(
たくさん
)
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つたのか』
382
イル『ヘーヘー
何
(
なん
)
でも
十五六
(
じふごろく
)
人
(
にん
)
連
(
つ
)
れてゐたやうです、
383
チヤンと
遺書
(
かきおき
)
がして
厶
(
ござ
)
いました。
384
而
(
しか
)
も
三五教
(
あななひけう
)
の
信者
(
しんじや
)
になりましてなア』
385
マツ
公
(
こう
)
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
386
伊太公
(
いたこう
)
さまに
会
(
あ
)
はしてくれ。
387
オイ、
388
タツ
公
(
こう
)
、
389
サア
這入
(
はい
)
らう』
390
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
細
(
ほそ
)
き
入口
(
いりぐち
)
を
潜
(
くぐ
)
つてイルの
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
391
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
392
(
大正一一・一一・二八
旧一〇・一〇
松村真澄
録)
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