霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 鰌鍋(どぢようなべ)〔一一六七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第5篇 清松懐春 よみ(新仮名遣い):せいしょうかいしゅん
章:第16章 鰌鍋 よみ(新仮名遣い):どじょうなべ 通し章番号:1167
口述日:1922(大正11)年11月28日(旧10月10日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-12 12:55:30 OBC :rm4316
愛善世界社版:259頁 八幡書店版:第8輯 122頁 修補版: 校定版:269頁 普及版:112頁 初版: ページ備考:
001 清春山(きよはるやま)峻坂(しゆんぱん)(うた)(うた)(なが)(のぼ)つて()二人(ふたり)(をとこ)があつた。002これは(ほこら)(もり)立出(たちい)でて伊太公(いたこう)(うば)(かへ)さむと(すす)()くバラモン(けう)のマツ(こう)003タツ(こう)両人(りやうにん)である。004マツ(こう)急坂(きふはん)(のぼ)(なが)(うた)()した。
005マツ公大足別(おほだるわけ)神司(かむづかさ)
006難攻(なんこう)不落(ふらく)(たの)みたる
007清春山(きよはるやま)岩窟(がんくつ)
008三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
009照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)
010不在(るす)(まも)りしポーロさま
011(その)(ほか)一同(いちどう)(ことごと)
012生言霊(いくことたま)(うち)ぬかれ
013(たちま)(こころ)(ひるがへ)
014(ぜん)(あく)かは()らねども
015三五教(あななひけう)結構(けつこう)だと
016部下(ぶか)(ひき)つれ河鹿山(かじかやま)
017(たうげ)()えて二三(にさん)(にち)
018以前(いぜん)にここを(のぼ)りしと
019()いたる(とき)(おどろ)きは
020寝耳(ねみみ)(みづ)のやうだつた
021ウントコドツコイ ハーハーハー
022(これ)から(さき)はだんだんと
023(みち)(けは)しくなつてくる
024タツ(こう)さまよ()をつけよ
025家来(けらい)(やつ)()ひつけて
026ポーロの(かへ)つた脱殻(ぬけがら)
027三五教(あななひけう)伊太公(いたこう)
028高手(たかて)小手(こて)にふん(じば)
029一先(ひとま)(かく)しておいたのを
030コリヤ(また)えらいドツコイシヨ
031地異(ちい)天変(てんぺん)勃発(ぼつぱつ)
032おれが(とら)へた人物(じんぶつ)
033(また)もや(おれ)がスタスタと
034(いき)()れるよな急坂(きふはん)
035(のぼ)つてスツパリ取返(とりかへ)
036治国別(はるくにわけ)()いさまに
037(かへ)(まを)さにや如何(どう)しても
038(みづ)()らさぬ兄弟(きやうだい)
039ウントコ ドツコイ ドツコイシヨ
040名乗(なのり)天晴(あつぱ)れしてくれぬ
041バラモン(けう)這入(はい)るよな
042(おれ)(おとうと)()たないと
043ダラ(すけ)ねぶつたやうな(かほ)
044ウントコドツコイ ヤツトコシヨ
045なかなか(たて)(くび)ふらぬ
046(まへ)()つて()(とほ)
047一度(いちど)兄貴(あにき)()ひたいと
048バラモン(けう)(かみ)(さま)
049今日(けふ)(まで)(いの)つた甲斐(かひ)あつて
050(おも)ひもよらぬ谷間(たにあひ)
051ベツタリコーと出会(でつく)はし
052ヤレヤレ(うれ)しとドツコイシヨ
053(よろこ)んで()たのは(みづ)(あわ)
054(てこ)でも(ぼう)でも()けつけぬ
055三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
056(むかし)(あに)ぢやと(おも)うたら
057コリヤ(また)エライ(かは)りやう
058さうぢやと()つてマツ(こう)
059折角(せつかく)兄貴(あにき)()(なが)
060(この)(まま)(わか)れるこたいやだ
061(おそれおほ)くも素盞嗚(すさのを)
062(かみ)(やかた)()めよせる
063魔神(まがみ)(いくさ)(したが)つて
064やつて()たのもバラモンの
065(かみ)(おん)(ため)()(つく)
066(その)褒賞(はうしやう)にウントコシヨ
067(こひ)しき(あに)如何(どう)かして
068()はして(もら)はうと(おも)うた(ゆゑ)
069天地(てんち)(あひだ)にドツコイシヨ
070ますます(さか)がキツウなつた
071(ころ)んで怪我(けが)をしてくれな
072モウ一人(ひとり)ともない両親(ふたおや)
073先立(さきだ)たれたる(さび)しさに
074兄貴(あにき)のことを(おも)()
075ウラルの(をしへ)本山(ほんざん)
076所々(ところどころ)広前(ひろまへ)
077(さが)してみたれどウントコシヨ
078ドツコイドツコイ ヤツトコセー
079(かげ)(かたち)見当(みあた)らぬ
080兄貴(あにき)竜宮(りうぐう)(はな)(じま)
081宣伝(せんでん)(こう)(そう)せずに
082此方(こちら)(くに)(かへ)()
083大方(おほかた)()んだであらうかと
084観念(くわんねん)してはみたものの
085(むし)()らすか如何(どう)しても
086(あきら)()れぬ()因果(いんぐわ)
087(ところ)もあらうに三五(あななひ)
088斎苑(いそ)(やかた)()つたとは
089(ゆめ)にも()らぬ(おどろ)きだ
090あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
091御霊(みたま)(さち)はひましまして
092(わたし)()らずに()にかけた
093三五教(あななひけう)伊太公(いたこう)
094家来(けらい)(やつ)をチヨロまかし
095()()のなしに取返(とりかへ)
096(まへ)(おれ)両人(りやうにん)
097治国別(はるくにわけ)(あに)(まへ)
098ゾロリと()してやらなけりや
099兄貴(あにき)(かほ)()つまいし
100(おれ)(おほ)きなドツコイシヨ
101(つら)をばさげて(いな)れない
102あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
103御霊(みたま)(さち)はひましまして
104(この)(さか)(やす)(たひら)けく
105(のぼ)(くだ)りをさしてたべ
106タツ(こう)(まへ)宣伝歌(せんでんか)
107(ひと)(うた)つてドツコイシヨ
108岩窟(いはや)(まへ)まで()かうかい
109ウントコドツコイ、ハーハーハー
110(いき)(くる)しうて言霊(ことたま)
111どうやら原料(げんれう)()れさうだ
112ハー惟神(かむながら)々々(かむながら)
113御霊(みたま)(さち)はひましませよ。
114ドレ一服(いつぷく)して()かうかい。115(さむ)(かぜ)()いてをつても、116(さか)(のぼ)(くだ)りは随分(ずゐぶん)(あせ)()るものだなア。117ここに丁度(ちやうど)よい(いは)がある、118()()いて仕方(しかた)がないが、119チツとは(からだ)相談(さうだん)しなくちや(からだ)大切(たいせつ)だからなア、120ハーハー フーフー』
121(いき)をはづませつつ()ふ。
122タツ(こう)(おれ)(ひと)此処(ここ)一休(ひとやす)みして、123元気(げんき)()け、124(さん)(にん)(やつ)がゴテゴテ(ぬか)したら、125()(たふ)し、126陥穽(おとしあな)突込(つつこ)んでおいて、127伊太公(いたこう)一人(ひとり)()(かへ)ることにしようかなア』
128()(なが)ら、129西(にし)(そら)(なが)め、130脚下(あしもと)谷川(たにがは)白布(しらぬの)(さら)したやうな泡立(あわだ)激流(げきりう)木々(きぎ)(こずゑ)(あひだ)からチラついてゐるのを()(なが)め、131愉快(ゆくわい)げに(あせ)()れてゐる。
132 タツ(こう)急坂(きふはん)()(なが)ら、133(ほそ)(こゑ)千切(ちぎ)千切(ちぎ)れに(うた)()した。134ここからは一層(いつそう)(みち)(けは)しくなり、135団子石(だんごいし)(せま)山路(やまみち)無遠慮(ぶゑんりよ)にころがつてる。
136タツ公清春山(きよはるやま)第一(だいいち)
137難所(なんじよ)(きこ)えし蜈蚣坂(むかでざか)
138(みち)真中(まなか)団子石(だんごいし)
139遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)()らぬ(かほ)
140(おれ)()転倒(こか)そと()つてゐる
141ホンに物騒(ぶつそう)()(なか)
142チツとも油断(ゆだん)出来(でき)はせぬ
143ウントコドツコイ(ひと)()
144()つてゐる(もの)でも()つたくり
145(わが)(ふところ)()やさむと
146何奴(どいつ)此奴(こいつ)(たく)みゐる
147悪魔(あくま)ばかりの()(なか)
148折角(せつかく)(くち)頬張(ほうば)つた
149パンでも(すき)があつたなら
150食指(しよくし)(おほい)(うご)かして
151ヤツトコドツコイ(えぐ)()
152直様(すぐさま)自分(じぶん)口中(こうちう)
153捻込(ねぢこ)(やう)なウントコシヨ
154悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)(やつ)ばかり
155バラモン(けう)神司(かむづかさ)
156大黒主(おほくろぬし)こそ天地(あめつち)
157(かみ)(こころ)(かな)うたる
158(まこと)のお(かた)(おも)うた(ゆゑ)
159ウントコドツコイ、マツ(こう)
160入信(にふしん)したのを(さいは)ひに
161(おれ)一寸(ちよつと)出来(でき)(ごころ)
162這入(はい)つて()たが(おも)うたより
163中身(なかみ)(わる)いバラモン(けう)
164こんな(こと)だと()つたなら
165ヤツパリ(もと)百姓(ひやくしやう)
166(くら)して()つたがよかつたと
167後悔(こうくわい)してもハーハーハー
168(あと)(まつり)仕方(しかた)ない
169ジツと(こら)へて開運(かいうん)
170時節(じせつ)()ちし(その)(うち)
171鬼春別(おにはるわけ)(したが)ひて
172(おい)()主人(しゆじん)片彦(かたひこ)
173斎苑(いそ)(やかた)堂々(だうだう)
174()()(とき)秘書役(ひしよやく)
175(えら)まれたるを(さいは)ひに
176一角(いつかど)今度(こんど)手柄(てがら)して
177(あたま)()げてみようかと
178(おも)うた(こと)(みづ)(あわ)
179河鹿(かじか)(たうげ)八合目(はちがふめ)
180三五教(あななひけう)言霊(ことたま)
181(あめ)(あられ)()びせられ
182(もろ)くも逃行(にげゆ)片彦(かたひこ)
183久米彦(くめひこ)さまの敗軍(はいぐん)
184(なが)めた(とき)馬鹿(ばか)らしさ
185(おい)()愛想(あいさう)がつきた(ゆゑ)
186モウこれきりで御免(ごめん)をば
187ヤツトコドツコイ(かうむ)らうと
188(まへ)(ひそか)にドツコイシヨ
189(しめ)(あは)せてトボトボと
190(みんな)(おく)れて坂道(さかみち)
191(くだ)つてみればこれは(また)
192(おも)ひもよらぬ三五(あななひ)
193(かみ)(つかさ)御供(みとも)たち
194(ほこら)(まへ)端坐(たんざ)して
195(なに)かは()らぬがブツブツと
196(わか)らぬことを(はな)してる
197コリヤ(たま)らぬと(おも)(ども)
198()(みち)のない一筋(ひとすぢ)
199(この)谷間(たにあひ)如何(どう)なろか
200(にはか)剽軽者(へうきんもの)となり
201滑稽(こつけい)諧謔(かいぎやく)あり(だけ)
202(つく)して相手(あひて)(わら)はせつ
203(こころ)(やはら)げゐたる(をり)
204フトした(こと)からマツ(こう)
205(あに)亀彦(かめひこ)ドツコイシヨ
206ヤツトコドツコイ ハーハーハー
207三五教(あななひけう)使(つか)はれて
208()にもめでたき宣伝使(せんでんし)
209治国別(はるくにわけ)となつてゐた
210それをば()いた(おれ)(むね)
211地異(ちい)天変(てんぺん)一時(いちどき)
212(おこ)りし(ごと)心地(ここち)した
213これもヤツパリ(かみ)(さま)
214(みづ)()らさぬお仕組(しぐみ)
215(なに)かの(はし)であらうかと
216(とどろ)(むね)()()ろし
217ヤツと悲劇(ひげき)(まく)()
218玉国別(たまくにわけ)御供(みとも)なる
219伊太公(いたこう)さまを(すく)()
220それを土産(みやげ)にマツ(こう)
221兄弟(きやうだい)名乗(なのり)()げさせて
222(おれ)もこれから三五(あななひ)
223信者(しんじや)にならうと決心(けつしん)
224(こころ)イソイソやつて()
225あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
226御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
227 (はなし)かはつて岩窟(いはや)(なか)には伊太公(いたこう)(はじ)(かふ)(おつ)(へい)(さん)(にん)車座(くるまざ)になつて、228面白(おもしろ)可笑(をか)しく()(きよう)(なが)ら、229雑談(ざつだん)をやつてゐる。230ポーロの留守役(るすやく)斎苑(いそ)(やかた)一同(いちどう)(ひき)つれて()(あと)は、231生物(いきもの)()つたら、232蝙蝠(かうもり)がここ(さいは)ひと吾物顔(わがものがほ)出入(でいり)(はじ)めかけてゐた(ぐらゐ)であつた。233そこへマツ(こう)家来(けらい)(じゆん)ずべき(さん)(にん)(をとこ)234マツ(こう)命令(めいれい)で、235伊太公(いたこう)(しば)()げ、236此処迄(ここまで)(おく)(きた)監視(かんし)(やく)(つと)めてゐたのである。237(しか)(なが)(さん)(にん)(をとこ)伊太公(いたこう)弁舌(べんぜつ)にチヨロまかされ、238(いまし)めの(なは)()き、239ポーロが(のこ)しおいた酒壺(さけつぼ)から(のこ)りの(さけ)()()し、240チビリチビリと()(なが)ら、241面白(おもしろ)さうに他愛(たあい)なく(しや)べつてゐる。
242(かふ)『エーもう今頃(いまごろ)先鋒隊(せんぽうたい)片彦(かたひこ)243久米彦(くめひこ)将軍(しやうぐん)は、244首尾(しゆび)よく難関(なんくわん)突破(とつぱ)し、245斎苑(いそ)(やかた)()かれる時分(じぶん)だろ。246斎苑(いそ)(やかた)(おい)ても随分(ずゐぶん)心配(しんぱい)だらうなア』
247伊太公(いたこう)『アハヽヽヽ、248斎苑(いそ)(やかた)には神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)神術(かむわざ)(そな)へてゐる生神(いきがみ)ばかりだから、249さう容易(ようい)には()くまいぞ。250(おれ)だつて、251(こと)(しな)()れば片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)(くらゐ)()(ひと)()つたら、252()()ばすのは(なん)でもないのだが、253昨夜(よんべ)(やう)谷底(たにそこ)(すべ)()ち、254向脛(むかふずね)()つて(うご)けぬ(ところ)(くく)られちや、255何程(なにほど)豪傑(がうけつ)でもたまらないからのう』
256(かふ)『ソラさうだ。257(たれ)だつて寝鳥(ねとり)(しめ)るやうな()()はされちや(かな)ひつこはないワ。258ナア伊太公(いたこう)さま、259(じつ)(おれ)(きみ)同情(どうじやう)してゐるのだ。260マツ(こう)の………大将(たいしやう)261(きび)しく牢獄(らうごく)()()んでおけと()やがつたが、262それでも(おれ)はかうして(きみ)同情(どうじやう)をよせ、263チツとも虐待(ぎやくたい)はせないのだから、264チツとは(おれ)(こころ)()つてくれな(こま)るよ』
265伊太公(いたこう)『ソラさうだ、266(てき)(なか)にも味方(みかた)ありと()ふからなア、267(しか)しお(まへ)(たち)大黒主(おほくろぬし)(かみ)本当(ほんたう)(えら)(かみ)さまだと(おも)つてゐるか』
268(かふ)『さうだなア、269(なに)()つても化物(ばけもの)()(なか)だから、270善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)の、271(おれ)(たち)判断(はんだん)はつかないワ。272………(こけ)むす(いはほ)(へん)じて金殿(きんでん)玉楼(ぎよくろう)となり、273虎狼(こらう)野干(やかん)(くわ)して卿相(けいしやう)雲客(うんきやく)となり、274獅子(しし)(くわ)して万乗(ばんじやう)(そん)となり、275王位(わうゐ)()(よそほ)ひを(うづたか)くし、276袞竜(こんりう)(そで)薫香(くんかう)()らす()(なか)だからなア。277大黒主(おほくろぬし)もキツと(その)(せん)()れないだらうよ。278(むかし)鬼雲彦(おにくもひこ)とか()つたさうだから、279どうせ立派(りつぱ)(かみ)(さま)系統(けいとう)ぢやあるまい。280(しか)(なが)らこんな(こと)はここ(かぎ)りだ。281ノウ(おつ)(へい)282メツタに(しやべ)りやしようまいのう』
283(おつ)『そんな(こと)(しやべ)らうものなら、284(おれ)(くび)がなくなるワイ、285ナア(へい)286さうぢやないか』
287(へい)『さうともさうとも、288こんな(はなし)()いた以上(いじやう)直様(すぐさま)(かふ)(くび)をチヨン()るか、289後手(うしろで)にフン(じば)つて将軍(しやうぐん)(さま)(まへ)()()すのが本当(ほんたう)だ。290それを看過(かんくわ)しておくと()ふのはヤツパリ同罪(どうざい)だからなア。291(かふ)()つたのは(おれ)(たち)()うたやうなものだ。292それだから()へと()つたつて()気遣(きづか)ひないワ。293マア安心(あんしん)してくれ』
294伊太公(いたこう)(しか)大分(だいぶ)(さけ)がまはつたやうだが、295モウいい加減(かげん)(かへ)つたら如何(どう)だ。296(おれ)(じつ)はお師匠(ししやう)さまが()つてゐるのだからなア』
297(かふ)其奴(そいつ)一寸(ちよつと)(こま)る、298何程(なにほど)親密(しんみつ)なお(まへ)(おれ)との(なか)でも、299(まへ)取逃(とりに)がしたことが(わか)れば、300(おれ)はサーツパリだからなア。301どないでも大切(たいせつ)にするから、302一遍(いつぺん)マツ(こう)大将(たいしやう)(しら)べに()るまでここに()うして()つてくれ。303(まへ)にや()(どく)だけれど、304(おれ)だつてヤツパリ()(どく)ぢやないか』
305伊太公(いたこう)『さう()はれると(おれ)先生(せんせい)大事(だいじ)だから(かへ)りたいのだが、306情誼(じやうぎ)(ほだ)されて(かへ)ることも出来(でき)なくなつた。307(なん)人間(にんげん)()ふものは()(よわ)いものだなア、308自分(じぶん)(なが)自分(じぶん)がでに愛想(あいさう)がつきて()たわい』
309 岩窟(いはや)入口(いりぐち)からマツ(こう)(こゑ)
310マツ公『オーイ、311イル、312()るかなア』
313イル『イルは此処(ここ)()ります』
314マツ『三五教(あななひけう)の○○は如何(どう)したツ』
315イル『オイ、316伊太公(いたこう)317(たの)みぢや、318一寸(ちよつと)(しばら)(ろう)這入(はい)つとつて()れぬか、319こんな(ところ)みられちやそれこそサツパリだ。320あれあの(とほ)大将(たいしやう)臨検(りんけん)()よつた。321オイ(おつ)322(へい)(はや)伊太公(いたこう)さまを、323一寸(ちよつと)()でいいから、324(ろう)()れといてくれ、325(おれ)出口(でぐち)まで()つて(なん)とか(かん)とか()つて(かく)時間(じかん)(たも)つてゐるから、326手早(てばや)くやつてくれよ』
327()(なが)ら、328入口(いりぐち)()()し、
329イル『これはこれはマツ(こう)(おん)大将(たいしやう)330()臨検(りんけん)()苦労(くらう)(ござ)います。331貴方(あなた)(あふ)せの(とほ)り、332後手(うしろで)(しば)り、333どこもかも、334雁字搦(がんじがら)みにして石牢(いしらう)へブチ()み、335昨日(ゆふべ)から(たた)いて(たた)いて、336キヤアキヤア()はして(くるし)めてやりました。337モウあゝしておけばメツタに()げる気遣(きづか)ひありませぬ。338()安心(あんしん)(くだ)さいませ。339サア、340斎苑(いそ)(やかた)(はう)(いくさ)大変(たいへん)(いそが)がしいでせう、341どうぞ(もん)這入(はい)らずにトツトとお()(くだ)さいませ。342片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)(さま)がお待兼(まちかね)(ござ)いませう』
343マツ(こう)()げないやうに、344(この)岩窟(いはや)(なか)貴様(きさま)たち(ばん)をして()れと()つたのだが、345そんな打擲(ちようちやく)()いとは()はないぞ。346本当(ほんたう)左様(さやう)()にあはしたのか、347エーン』
348イル『イエイエ滅相(めつさう)もない、349(たれ)がそんな残酷(ざんこく)なことを(いた)しますものか』
350マツ(こう)『そんなら、351如何(どう)しておいたのだ』
352イル『ヘー、353(じつ)(ところ)は………エヽ一寸(ちよつと)相手(あひて)(いた)しました、354随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)(やつ)(ござ)いますよ』
355マツ(こう)(なに)356一寸(ちよつと)相手(あひて)にした? 随分(ずゐぶん)()()いてゐるだらうなア』
357イル『ヘーヘー、358中々(なかなか)()()いてゐますワ、359(とく)(ひだり)一番(いちばん)()()きますよ。360()めよ(さわ)げよ一寸先(いつすんさき)(やみ)よ………と(まを)しましてなア、361それはそれは面白(おもしろ)いお相手(あひて)(ござ)いますワ』
362マツ(こう)『ハヽヽヽヽさうすると、363(さけ)でも()して大切(たいせつ)(あつか)うてゐたのだなア』
364イル『ヘー、365マアざつと、366そんなもので(ござ)います』
367マツ(こう)『ウン、368其奴(そいつ)(えら)いことをした。369(さだ)めて満足(まんぞく)して()るだらうなア』
370イル『ヘイヘイ、371十二分(じふにぶん)満足(まんぞく)して()ります。372ソラ昨夜(ゆふべ)(にぎ)やかう(ござ)いましたよ。373ステテコを(をど)つたり、374(まひ)をまうたり、375(にぎや)かいこつて(ござ)いました』
376マツ(こう)『ポーロの大将(たいしやう)はどこに()るのだ。377()つから(ひと)()らぬやうぢやないか』
378イル『ポーロですか、379アリヤもう二三(にさん)日前(にちぜん)斎苑(いそ)(やかた)()つて(しま)ひましたよ』
380マツ(こう)『ナーニ、381斎苑(いそ)(やかた)へ?………沢山(たくさん)()れて()つたのか』
382イル『ヘーヘー(なん)でも十五六(じふごろく)(にん)()れてゐたやうです、383チヤンと遺書(かきおき)がして(ござ)いました。384(しか)三五教(あななひけう)信者(しんじや)になりましてなア』
385マツ(こう)(なに)()もあれ、386伊太公(いたこう)さまに()はしてくれ。387オイ、388タツ(こう)389サア這入(はい)らう』
390()(なが)(ほそ)入口(いりぐち)(くぐ)つてイルの(あと)(したが)ひ、391(おく)(おく)へと(すす)()る。
392大正一一・一一・二八 旧一〇・一〇 松村真澄録)
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