霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 玉茸(たまたけ)〔一三〇〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第2篇 兇党擡頭 よみ(新仮名遣い):きょうとうたいとう
章:第6章 玉茸 よみ(新仮名遣い):たまたけ 通し章番号:1300
口述日:1923(大正12)年01月20日(旧12月4日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫は杢助を呼びに祠の森を探し回った。ようやく草むらの中に呻きながら眠っている杢助を見つけて声をかけ、一緒に帰ろうと促した。杢助は、自分の妖怪の正体を見破られることを恐れ、高姫の介抱を拒み、高姫と言い争いになる。
杢助は、祠の森の受付の前にある大杉の上に、玉茸という薬になるキノコが生えているから、それを取って持ってきてくれるように高姫に頼んだ。
杢助が、人知れず取らないと効能が現れないと言いつけたので、高姫は受付の様子をうかがっていると、ハルとイルがそんなこともしらずに雑談にふけっている。二人は互いに、初稚姫は自分に気があると言ってきりのない空相談にふけっていた。
高姫はやむをえず裏口に回って梯子を引っ張りだし、大杉の受付から見えない裏側に立てかけた。そして梯子を上って玉茸らしきものを探し回った。
高姫は玉茸と見誤って梟に手を触れた。梟は敵だと思ってくちばしでこついたから、高姫は杉の大木の根元に落ちてしまった。しかしハルとイルは相変わらず空相談にふけっていたので、高姫が梯子から落ちて大杉の根元で苦しんでいることには気が付かなかった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-12 13:28:32 OBC :rm5006
愛善世界社版:74頁 八幡書店版:第9輯 176頁 修補版: 校定版:78頁 普及版:39頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)(ほこら)(もり)(くま)なく(たづ)(まは)つた。002(やうや)(くさ)むらの(なか)にウンウンと(うめ)きながら(ねむ)つてゐる杢助(もくすけ)姿(すがた)(なが)め、
003高姫『これ、004杢助(もくすけ)さま、005サア(かへ)りませう。006こんな(ところ)(よこ)たはつてゐてお風邪(かぜ)()したら大変(たいへん)ですよ。007サア(わたし)一緒(いつしよ)(かへ)らうぢやありませぬか』
008杢助『さう八釜(やかま)しう()つてくれな。009(おれ)はチツとばかり(あたま)(いた)いのだから、010自然(しぜん)のお(つち)(した)しんで(しば)らく此処(ここ)(やす)んで(かへ)るから、011(まへ)彼方(あちら)()つて(やす)んだが()からうぞ』
012高姫『これ杢助(もくすけ)さま、013(なん)()水臭(みづくさ)(こと)仰有(おつしや)るのだい。014二世(にせ)(ちぎ)つた夫婦(ふうふ)(なか)ぢやありませぬか。015(をつと)難儀(なんぎ)(つま)難儀(なんぎ)016(つま)(よろこ)びは(をつと)(よろこ)び、017何処(どこ)までも苦楽(くらく)(とも)にしようと(ちぎ)つた(なか)ぢやありませぬか。018そんな遠慮(ゑんりよ)はチツとも()りませぬ。019さア何卒(どうぞ)020(わたし)介抱(かいほう)して()げませう』
021杢助『いや何卒(どうぞ)(かま)うてくれな、022(わし)(からだ)何卒(どうぞ)(さは)らない(やう)にして()れ、023(たの)みだから……』
024高姫『これ此方(こち)(ひと)025(まへ)さまは(わたし)(いや)になつたのだな。026女房(にようばう)(をつと)(からだ)(さは)れない道理(だうり)何処(どこ)にありますか。027(をつと)病気(びやうき)素知(そし)らぬ(かほ)して、028女房(にようばう)()として(これ)放任(はうにん)して()れますか。029(この)高姫(たかひめ)一旦(いつたん)(まへ)さまと夫婦(ふうふ)約束(やくそく)をした(うへ)は、030仮令(たとへ)(この)肉体(にくたい)(こな)にならうと、031何処(どこ)までも貞節(ていせつ)(つく)さねばなりませぬ。032そんな水臭(みづくさ)(こと)仰有(おつしや)るものぢや(ござ)りませぬぞや』
033杢助『ヤー、034(けつ)して(おれ)()()つたとて、035()(わる)うしておくれな。036(また)(まへ)(けつ)して(いや)だと()ふのでも(なん)でもない。037さア何卒(どうぞ)(はや)(やかた)(かへ)つて、038万事(ばんじ)万端(ばんたん)()()けてくれ』
039高姫『それだと()つて、040(これ)見捨(みす)てて(なん)気強(きづよ)(わたし)でも(かへ)られませうか。041(なん)なら罹重身倒(ラジオシンター)でも(さが)して()ませうか』
042杢助『いや、043(なん)にも()らない。044そんな結構(けつこう)(もの)(いただ)くと、045(かへ)つて神罰(しんばつ)(あた)るかも()れない。046(わし)がかうして怪我(けが)をしたのも、047(まつた)(かみ)(さま)()せしめだ。048(かみ)(さま)がお(ゆる)(くだ)さらば、049屹度(きつと)(なほ)して(くだ)さるだらう。050何程(なにほど)人間(にんげん)藻掻(もが)いた(ところ)仕方(しかた)がないからのう』
051高姫『それなら天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)して()げませうか』
052杢助『いや、053それには(およ)ばぬ。054()うなり()くのも(かみ)(さま)()都合(つがふ)だ。055祝詞(のりと)なんか奏上(あげ)ては、056(かへ)つて(おそ)(おほ)い。057何卒(どうぞ)(たの)みだから、058(やかた)(かへ)つてお(まへ)御用(ごよう)をしてくれ。059それが(なに)よりの功徳(くどく)だ。060さうすれば、061(わし)怪我(けが)もすぐ(なほ)るだらう』
062高姫『それなら、063鎮魂(ちんこん)をして()げませうか。064……(ひと)(ふた)()()……』
065()ひかけると、066杢助(もくすけ)(あわ)てて押止(おしとど)め、067(くる)しさうな(こゑ)()して、
068杢助高姫(たかひめ)069それに(およ)ばぬ。070そんな勿体(もつたい)ない(こと)()はぬやうにして()れ。071(かへ)つて(わし)(くる)しいから』
072高姫『それなら、073初稚姫(はつわかひめ)さまを()んで()ませうか。074そして介抱(かいほう)をさせたら貴方(あなた)()()るでせう。075到底(たうてい)(わたし)(やう)(ばば)アの介抱(かいほう)では、076病気(びやうき)がますます(おも)くなりませうからな』
077(やや)(そね)気味(ぎみ)になつて言葉(ことば)(とが)らし(はじ)めた。
078 (この)杢助(もくすけ)は、079その(じつ)ハルナの(みやこ)大雲山(たいうんざん)蟠居(ばんきよ)せる八岐(やまた)大蛇(をろち)片腕(かたうで)(きこ)えたる肉体(にくたい)(いう)する兇霊(きようれい)で、080獅子(しし)(とら)両性(りやうせい)妖怪(えうくわい)であり、081(その)()妖幻坊(えうげんばう)()大怪物(だいくわいぶつ)である。082妖幻坊(えうげんばう)はスマートに眉間(みけん)()みつかれ、083ここに大苦悶(だいくもん)(つづ)けてゐたのである。084されど高姫(たかひめ)(その)正体(しやうたい)看破(みやぶ)られむことを(おそ)れて、085(いち)()(はや)高姫(たかひめ)此処(ここ)立去(たちさ)らむ(こと)をのみ(のぞ)んでゐた。086されど高姫(たかひめ)何処(どこ)までも大切(たいせつ)(をつと)介抱(かいほう)をせなくてはならぬと(おも)ひつめ、087(すこ)しも其処(そこ)(うご)かうとはせない。088妖幻坊(えうげんばう)杢助(もくすけ)は、089人間(にんげん)形体(けいたい)負傷(ふしやう)()(もつ)保持(ほぢ)してゐるのは非常(ひじやう)苦痛(くつう)である。090ウツカリすると(その)正体(しやうたい)(あら)はれさうになつて()たので、091(こゑ)(はげ)まし(やや)(とが)(ごゑ)で、
092杢助『これ、093高姫(たかひめ)094何故(なぜ)そなたは(をつと)(まを)(こと)()いてくれないのか。095(まへ)高姫(たかひめ)()つて随分(ずいぶん)(がう)(もの)ぢやないか。096(をつと)病気(びやうき)(こころ)をひかれて、097肝腎(かんじん)(かみ)(さま)御用(ごよう)()ぎに(いた)さうとするのか。098そんな不心得(ふこころえ)のお(まへ)なら、099もう是非(ぜひ)がない。100(えん)()るから、101其方(そちら)()つてくれ』
102高姫杢助(もくすけ)さま、103(まへ)さまは(あたま)()つてチツと逆上(のぼ)せてゐるのだらう。104さうでなければ、105そんな水臭(みづくさ)いことを仰有(おつしや)(はず)がない。106ああ()(どく)(こと)だな。107ああ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
108杢助『こりや高姫(たかひめ)109(わし)最前(さいぜん)()うた(とほ)(かみ)(さま)(いまし)めにあつて()るのだから、110そんな(こと)何卒(どうぞ)()つてくれなと()つたぢやないか。111何故(なぜ)(をつと)言葉(ことば)をお(まへ)(もち)ひないのか』
112高姫『よう、113そんな(こと)仰有(おつしや)いますな。114初稚姫(はつわかひめ)があれだけ大切(たいせつ)にしてゐたスマートを(わたし)がお(とう)さまの命令(めいれい)だからと()つて千言(せんげん)万語(ばんご)(つひや)()きつけた(ところ)115初稚(はつわか)到頭(たうとう)(わたし)()(でう)についてスマートに(おほ)きな(いし)(いつ)つもかちつけ、116頭蓋骨(づがいこつ)()り、117大変(たいへん)()()したので、118スマートは、119あた気味(きみ)のよい、120キヤンキヤンと悲鳴(ひめい)をあげて()げて(しま)ひましたよ。121大方(おほかた)今頃(いまごろ)河鹿(かじか)(たうげ)懐谷(ふところだに)近辺(きんぺん)(たふ)れて()んで(しま)つてゐるに(ちが)ひありませぬ』
122杢助(なに)123スマートに(いし)をかちつけて初稚姫(はつわかひめ)()なしたと()ふのか。124ヤー、125それは結構(けつこう)だ。126()つべきものは()なりけりだな』
127高姫『そら、128さうでせう。129(まへ)さまの()(なか)這入(はい)つても(いた)くないお(ぢやう)さまですからな。130()つべからざるは女房(にようばう)なりけりと()ふお(まへ)さまは水臭(みづくさ)了簡(れうけん)でせうがな』
131杢助『もう(あたま)(いた)いのにクドクドとそんな(こと)()つてくれな。132(また)(いた)みが()まつてから不足(ふそく)なり、133(なん)なりと(うけたま)はらう。134それよりも(はや)(うち)(かへ)つて初稚姫(はつわかひめ)()んで()てくれ。135そしてお(まへ)(ひと)()れず受付(うけつけ)(まへ)にある大杉(おほすぎ)()(あが)つて玉茸(たまたけ)()(きのこ)があるから、136それをむしつて()てくれないか。137それさへあれば(わし)病気(びやうき)一遍(いつぺん)(なほ)るのだ』
138高姫『それなら、139ハルかイルに梯子(はしご)でもかけて()らせませうかな』
140杢助『いやいや、141これは秘密(ひみつ)にせなくては効能(かうのう)(あら)はれぬのだ。142仮令(たとへ)(むすめ)初稚姫(はつわかひめ)にだつて(さと)られちや無効(むかう)だぞ。143()(かく)144初稚姫(はつわかひめ)()んで()るよりも、145(まへ)(はや)(その)玉茸(たまたけ)をソツと()つて()てくれないか。146(をつと)女房(にようばう)()(あは)して(たの)むのだから……』
147(なみだ)両眼(りやうがん)()らして高姫(たかひめ)(をが)(たふ)した。148高姫(たかひめ)はオロオロしながら両眼(りやうがん)(なみだ)(うか)べ、
149高姫『これ、150杢助(もくすけ)さま、151(をつと)女房(にようばう)()(あは)して(たの)(ひと)何処(どこ)世界(せかい)にありますかいな。152それなら(これ)から玉茸(たまたけ)をとつて(まゐ)ります。153何卒(どうぞ)(しばら)此処(ここ)()つて()(くだ)さい。154(くる)しいでせうけれどな』
155杢助『それは()苦労(くらう)だ。156何卒(どうぞ)怪我(けが)をせない(やう)に、157そして(ひと)見付(みつ)からぬ(やう)()つて()(くだ)さい。158それ(まで)初稚姫(はつわかひめ)にも何人(たれ)にも()つてはいけませぬぞ』
159高姫『ハイ、160(なに)()呑込(のみこ)んで()ります。161それなら(これ)から()つて()()げませう。162(しばら)此処(ここ)に……ネー杢助(もくすけ)さま、163貴方(あなた)摩利支天(まりしてん)(さま)()身魂(みたま)だから、164(これ)(くらゐ)(きず)にはメツタに往生(わうじやう)なさる(こと)はありますまいからな』
165杢助『うん、166さうだ、167大丈夫(だいぢやうぶ)だよ。168(まへ)(をつと)(たい)する(はじ)めての貞節(ていせつ)だから、169何卒(どうぞ)怪我(けが)をせない(やう)にして玉茸(たまたけ)採取(さいしゆ)(たの)むよ』
170高姫『ハイ、171承知(しようち)(いた)しました』
172(おほ)きな(しり)をプリンプリンと()りながら、173杢助(もくすけ)(たふ)れて()姿(すがた)見返(みかへ)見返(みかへ)り、174チヨコチヨコ(ばし)りに受付(うけつけ)(まへ)大杉(おほすぎ)()(かげ)にソツと()()せた。175杢助(もくすけ)変化(へんげ)してゐた妖幻坊(えうげんばう)はヤツと一安心(ひとあんしん)して(もと)怪物(くわいぶつ)還元(くわんげん)し、176一先(ひとま)此処(ここ)立去(たちさ)らねば、177(また)(ひと)見付(みつ)けられては()(がた)苦痛(くつう)だと、178(たに)(なが)れを(つた)うてガサリガサリと(やま)()()(わた)り、179(むか)(がは)日当(ひあた)りのよき(くぼ)んだ(ところ)(よこ)たはり、180四辺(あたり)(ひと)なきを(さいは)ひ、181ウーンウーンと(うめ)(くる)しんでゐたのである。
182 ()一方(いつぱう)高姫(たかひめ)は、183(もり)木蔭(こかげ)()(しの)び、184受付(うけつけ)様子(やうす)(かんが)へてゐると、185イルとハルとが火鉢(ひばち)真中(まんなか)(かこ)み、186何事(なにごと)か「アツハツハハハハアツハツハハハハ」と(わら)ひながら雪駄直(せつたなほ)しが大仕事(おほしごと)受取(うけと)つた(やう)態度(たいど)で、187何時(いつ)(うご)かうともしない。188高姫(たかひめ)()()でならず、
189高姫(はや)両人(りやうにん)何処(どこ)かへ()つてくれたらよいがな。190()()かぬ(やつ)ばつかりだ。191(はや)玉茸(たまたけ)()つて杢助(もくすけ)さまに()げなくちや、192あの塩梅(あんばい)では大変(たいへん)(きず)(ふか)いから本復(ほんぷく)せぬかも()れない。193でも彼奴(あいつ)()()られちや(くすり)()かぬのだし、194エーぢれつたいことだなア』
195森蔭(もりかげ)地団駄(ぢだんだ)()んでゐる。196ハル、197イルはそんな(こと)()らず何事(なにごと)(わら)(きよう)じてゐる。198高姫(たかひめ)(みみ)をすまして(この)(はなし)()くより(ほか)()(すべ)はなかつた。199大杉(おほすぎ)一方(いつぱう)姿(すがた)()えない(やう)()をかくして()いて()れば、200イルは、
201イル如何(どう)(あや)しいものぢやないか。202エー、203杢助(もくすけ)さまだつて(みみ)がペラペラと(うご)くなり、204(また)今度(こんど)()初稚姫(はつわかひめ)さまは()うも一通(ひととほ)りの(ひと)ぢやない(やう)だし、205楓姫(かへでひめ)さまが素敵(すてき)美人(びじん)だと(おも)つてゐたのに、206これは(また)幾層倍(いくそうばい)とも()れないナイスぢやないか』
207 ハルは、
208ハル『ウン、209さうだな、210(おれ)(たち)(をとこ)(うま)れた以上(いじやう)は、211あんなナイスと仮令(たとへ)一夜(いちや)でもいいから()うて()たいものだな。212(しか)初稚姫(はつわかひめ)さまだつて楓姫(かへでひめ)さまだつて、213(いづ)養子(やうし)(もら)はねばならぬのだから、214満更(まんざら)目的(もくてき)(はづ)れる(こと)もあるまい。215あんな(ひと)になると(かへ)つて器量(きりやう)(この)まぬものだ。216口許(くちもと)のしまつた(いろ)浅黒(あさぐろ)(をとこ)らしい(をとこ)(この)むものだよ。217貴様(きさま)だつて、218(おれ)だつて軍人(ぐんじん)教育(けういく)()けとるのだから、219何処(どこ)ともなしに軍人(ぐんじん)気質(きしつ)(のこ)つて凛々(りり)しい(ところ)があるなり、220(ひと)(からだ)(うご)かすにも(まは)(みぎ)221一二三(おちにさん)(しき)なり、222本当(ほんたう)(をんな)()きさうな(をとこ)だからな』
223イル『うん、224そらさうだ。225貴様(きさま)だつてあまり()てた男前(をとこまへ)でもなし、226(おれ)だつてさう掃溜(はきだめ)()てた(やう)男前(をとこまへ)でもなし、227婿(むこ)候補者(こうほしや)には(もつと)適当(てきたう)だ。228さうして宗教(しうけう)(かは)つたものと結婚(けつこん)すれば(たがひ)(その)信仰(しんかう)(こと)にするが(ゆゑ)に、229如何(どう)しても家庭(かてい)円満(ゑんまん)()くと()(てん)から、230三五教(あななひけう)信者(しんじや)三五教(あななひけう)信者(しんじや)結婚(けつこん)する(こと)になつてゐる。231()んでからでも(おな)団体(だんたい)天国(てんごく)()かうと(おも)へば、232(おな)思想(しさう)233信仰(しんかう)()つて()なくちや駄目(だめ)だからな。234それ(くらゐ)(こと)はあんな(ひと)になればよく承知(しようち)してゐるよ』
235ハル『エツヘヘヘヘヘ中々(なかなか)(もつ)前途(ぜんと)有望(いうばう)だ。236これだから三五教(あななひけう)結構(けつこう)だと()ふのだ。237(なん)()つても斎苑(いそ)(やかた)素盞嗚(すさのをの)(みこと)はイドムの(かみ)といつて縁結(えんむす)びの(かみ)(さま)だからな。238そして金勝要(きんかつかねの)(かみ)()(すこぶ)融通(ゆうづう)()(すゐ)(かみ)(さま)があつて「()ひたい(えん)なら()はしてやらう、239()りたい(えん)なら()つてもやるぞよ」と、240それはそれは中々(なかなか)(はな)せる(かみ)さまだから、241(おれ)(たち)には()つて()いだよ』
242イル『それはさうと、243イク、244サール、245テル(など)競争(きやうさう)場裡(ぢやうり)()つて中原(ちうげん)鹿(しか)()(やう)(こと)はあるまいかな』
246ハル『そりや大丈夫(だいぢやうぶ)だよ。247あんなシヤツ(つら)した()()かない頓馬(とんま)が、248如何(どう)して二人(ふたり)のナイスのお()()るものかね。249そんな(こと)到底(たうてい)駄目(だめ)だよ。250マア安心(あんしん)したがよからう』
251イル『さうお(まへ)(やう)楽観(らくくわん)して自惚(うぬぼ)れてゐる(わけ)にも()くまいぞ』
252ハル(なに)さ、253そんな心配(しんぱい)()らぬ。254チヤーンと運命(うんめい)(きま)つてゐるのだ。255初稚姫(はつわかひめ)(さま)があの凛々(りり)しい(いぬ)をつれて(ござ)つた(とき)256(ぼく)(つら)をチラツと()てニタツと(わら)つて()られた。257その(とき)情味(じやうみ)津々(しんしん)として(あふ)るる(ばか)りだつたよ。258そしてあの(すず)しい()からピカピカツと電波(でんぱ)(おく)られた(とき)(うつく)しさと()つたら、259まるでエンゼルの(やう)だつたよ。260あの目付(めつき)から(かんが)へても、261屹度(きつと)(おれ)思召(おぼしめし)があると()(こと)(うご)かぬ事実(じじつ)だ。262アーア、263(しか)しながら()()める(こと)だわい』
264イル『こりや、265貴様(きさま)266そんな(うま)(こと)があるかい。267(おれ)初稚姫(はつわかひめ)さまぢやなけりや、268どんな女房(にようばう)だつて()たないのだ。269貴様(きさま)楓姫(かへでひめ)さまが()うたり(かな)うたりだ。270楓姫(かへでひめ)さまは何時(いつ)もお(まへ)(こと)を「(なん)(をとこ)らしい(かた)だね」と()つて(ござ)つたぞ。271それに()めておけ』
272ハル馬鹿(ばか)()ふない。273先取権(せんしゆけん)(おれ)にあるのだ。274そんな(むし)のいい(こと)()つてくれなよ』
275イル馬鹿(ばか)にするない。276屹度(きつと)(おれ)初稚姫(はつわかひめ)さまを此方(こつち)(なび)かして()せようぞ』
277ハル(なに)278(おれ)()(ごと)279(なび)かしてお()にかけよう』
280などと何時迄(いつまで)()りなしに、281こんな空想談(くうさうだん)(ふけ)つてゐる。282高姫(たかひめ)()狂乱(きやうらん)せむばかり(いら)だてども、283何時迄(いつまで)()つても(うご)気遣(きづか)ひはなし、284二人(ふたり)(はなし)益々(ますます)佳境(かきやう)()り、285()()れても夜通(よどほ)ししても容易(ようい)(うご)かぬ様子(やうす)である。286高姫(たかひめ)是非(ぜひ)なく裏口(うらぐち)にまはり、287普請(ふしん)使(つか)つた梯子(はしご)引張(ひつぱ)()(きた)り、288大杉(おほすぎ)受付(うけつけ)から()えない方面(はうめん)()てかけ、289(ふと)(からだ)をシワシワと梯子(はしご)(ゆみ)(ごと)くしわませながら(やうや)(いち)(えだ)へとりつき、290蜘蛛(くも)()にひつかかりながら、291杢助(もくすけ)()つた玉茸(たまたけ)何処(どこ)にあるかと(さが)しまはつた。292されど(きのこ)らしいものは(すこ)しも見当(みあた)らない。293杢助(もくすけ)さまが(たしか)(この)(すぎ)だと()つたのだから、294何処(どこ)かにあるだらうと可成(なるべ)(おと)のせぬやう、295(えだ)から(えだ)(つた)(のぼ)つて()くと、296昼目(ひるめ)()えない梟鳥(ふくろどり)(まる)()()いてとまつてゐた。297高姫(たかひめ)(あま)(あわ)ててゐるので、298視覚(しかく)変調(へんてう)(きた)して()たと()え、299(ふくろ)両眼(りやうがん)()て、
300高姫『ほんに(たま)(やう)(まる)(きのこ)だ。301成程(なるほど)玉茸(たまたけ)とはよく()つたものだ』
302(ちひ)さい(こゑ)(ささや)(なが)(ふくろ)()一寸(ちよつと)()でた。303(ふくろ)(おどろ)いて無性(むしやう)矢鱈(やたら)高姫(たかひめ)(ひか)つた()(てき)見做(みな)し、304(とが)つた(くちばし)でこついたから(たま)らない、305高姫(たかひめ)はズズズズドスン、306「キヤツ、307イイイイ(いた)い」と小声(こごゑ)(さけ)んだ。308されどイル、309ハルの両人(りやうにん)勝手(かつて)(はなし)(うつつ)()かし、310女房(にようばう)選択談(せんたくだん)火花(ひばな)()らしてゐたから、311(すぎ)大木(たいぼく)根元(ねもと)()ちて(くる)しんでゐる高姫(たかひめ)(からだ)()につかなかつたのである。312(ほこら)(もり)村烏(むらがらす)御校正本・愛世版では「村烏」だが、校定版・八幡版では「群烏」に修正されている。(にはか)何物(なにもの)(おどろ)いたか、313ガアガアと縁起(えんぎ)(わる)さうな(こゑ)をして中空(ちうくう)()きながら翺翔(こうしやう)してゐる。
314大正一二・一・二〇 旧一一・一二・四 北村隆光録)
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