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第75巻(寅の巻)
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第50巻(丑の巻)
序文
総説
第1篇 和光同塵
01 至善至悪
〔1295〕
02 照魔燈
〔1296〕
03 高魔腹
〔1297〕
04 御意犬
〔1298〕
第2篇 兇党擡頭
05 霊肉問答
〔1299〕
06 玉茸
〔1300〕
07 負傷負傷
〔1301〕
08 常世闇
〔1302〕
09 真理方便
〔1303〕
第3篇 神意と人情
10 据置貯金
〔1304〕
11 鸚鵡返
〔1305〕
12 敵愾心
〔1306〕
13 盲嫌
〔1307〕
14 虬の盃
〔1308〕
第4篇 神犬の言霊
15 妖幻坊
〔1309〕
16 鷹鷲掴
〔1310〕
17 偽筆
〔1311〕
18 安国使
〔1312〕
19 逆語
〔1313〕
20 悪魔払
〔1314〕
21 犬嘩
〔1315〕
余白歌
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第50巻
> 第4篇 神犬の言霊 > 第17章 偽筆
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第一七章
偽筆
(
ぎひつ
)
〔一三一一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻
篇:
第4篇 神犬の言霊
よみ(新仮名遣い):
しんけんのことたま
章:
第17章 偽筆
よみ(新仮名遣い):
ぎひつ
通し章番号:
1311
口述日:
1923(大正12)年01月23日(旧12月7日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年12月7日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫の機嫌が悪くなってきたので、イル以下四人は戻ってきてやけくそになり、またグイグイと酒を飲み始めた。イルは酔って神がかりの真似を始めた。義理天上日の出神が筆先を出すと怒鳴ると、サールは墨をすって綴じた紙と共にイルに差し出した。
イルは横柄な面をしながら筆をひったくって、首を振りながら何事か一生懸命に書きつけた。そして高姫の作り声で結構な筆先を腹に入れるように、と言って皆に差し出した。サールは笑いながら受け取り、他の者に拝読して聞かせた。
一同が高姫を滑稽に真似たイルの筆先に笑い興じていると、斎苑の館から出張した役員の安彦と国彦がやってきた。二人は珍彦に用があるとイルたちに伝えた。イルは二人を珍彦館に案内した。
残されたサールたちは、酒盛りの最中に本部の役員が訪ねてきたので、対応しながらバツの悪い思いをして来意を勘繰っている。そこにイルが帰ってきて、冗談を交えつつ、本部の使いの役員たちは、珍彦と初稚姫と奥の間で密かに会っていると報告したので、一同はてっきり高姫の沙汰についての訪問だと直感した。
そこへ高姫がやってきて、イルに自分の間にちょっと来てほしいと依頼した。しかしイルは諧謔で高姫を煙に巻くばかりだったので、ハルを代わりに連れて行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-07-24 16:40:58
OBC :
rm5017
愛善世界社版:
237頁
八幡書店版:
第9輯 236頁
修補版:
校定版:
242頁
普及版:
119頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
の
形勢
(
けいせい
)
意外
(
いぐわい
)
にも
不穏
(
ふおん
)
の
景況
(
けいきやう
)
を
呈
(
てい
)
し、
002
何時
(
いつ
)
低気圧
(
ていきあつ
)
の
襲来
(
しふらい
)
するやも
図
(
はか
)
り
難
(
がた
)
き
殺風景
(
さつぷうけい
)
の
場面
(
ばめん
)
となつて
来
(
き
)
た。
003
イル
以下
(
いか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
自棄糞
(
やけくそ
)
になり、
004
グイグイと
又
(
また
)
もや
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
み
始
(
はじ
)
めた。
005
そしてイルは
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
006
イル
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
であるぞよ。
007
結構
(
けつこう
)
な
結構
(
けつこう
)
な
筆先
(
ふでさき
)
を
生宮
(
いきみや
)
に
書
(
か
)
かすによつて、
008
筆
(
ふで
)
と
墨
(
すみ
)
と
紙
(
かみ
)
との
用意
(
ようい
)
を
致
(
いた
)
されよ』
009
と
呶鳴
(
どな
)
り
出
(
だ
)
した。
010
サールは
矢庭
(
やには
)
に
墨
(
すみ
)
をすり、
011
紙
(
かみ
)
を
綴
(
と
)
ぢ
筆
(
ふで
)
を
洗
(
あら
)
つて
恭
(
うやうや
)
しくイルに
渡
(
わた
)
した。
012
イルは
故意
(
わざ
)
と
横柄面
(
わうへいづら
)
をしながら
其
(
その
)
筆
(
ふで
)
をひつたくり、
013
木机
(
きづくゑ
)
を
前
(
まへ
)
に
置
(
お
)
き、
014
何事
(
なにごと
)
か
首
(
くび
)
をふりながら
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
書
(
か
)
きつけた。
015
イルは
高姫
(
たかひめ
)
の
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をして、
016
イル
『これ
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
共
(
ども
)
、
017
否
(
いな
)
八衢
(
やちまた
)
人足
(
にんそく
)
や、
018
今
(
いま
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
がお
筆先
(
ふでさき
)
を
書
(
か
)
いたによつて、
019
有難
(
ありがた
)
く
拝読
(
はいどく
)
を
致
(
いた
)
すがよいぞや。
020
斯
(
こ
)
んな
結構
(
けつこう
)
な
筆先
(
ふでさき
)
は
又
(
また
)
と
見
(
み
)
ることは
出来
(
でき
)
ぬぞや。
021
此
(
この
)
筆先
(
ふでさき
)
さへ
腹
(
はら
)
へ
入
(
い
)
れこめて
居
(
を
)
れば、
022
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
人
(
ひと
)
が
叩
(
たた
)
き
落
(
おと
)
しても
落
(
お
)
ちぬお
神徳
(
かげ
)
が
頂
(
いただ
)
けるぞや。
023
イヒヒヒヒヒ、
024
此
(
この
)
筆先
(
ふでさき
)
は
誰
(
たれ
)
にも
読
(
よ
)
ます
筆先
(
ふでさき
)
ではないぞや。
025
後
(
のち
)
の
証拠
(
しようこ
)
に
書
(
か
)
かして
置
(
お
)
いたなれど、
026
受付
(
うけつけ
)
に
居
(
を
)
る
役員
(
やくゐん
)
が
肝腎
(
かんじん
)
の
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らぬと
話
(
はなし
)
がないから、
027
一寸
(
ちよつと
)
読
(
よ
)
ましてやるぞよ』
028
サール『アハハハハハ、
029
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがるのだい。
030
管
(
くだ
)
を
巻
(
ま
)
きやがつて、
031
然
(
しか
)
し
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
を
書
(
か
)
きよつたか。
032
一寸
(
ちよつと
)
読
(
よ
)
んでやらうかい。
033
おい、
034
ハル、
035
テル、
036
イク、
037
謹聴
(
きんちやう
)
するのだぞ』
038
と
云
(
い
)
ひながら
恭
(
うやうや
)
しく
押戴
(
おしいただ
)
き、
039
故意
(
わざ
)
と
剋面
(
こくめん
)
な
顔
(
かほ
)
をして
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
読
(
よ
)
み
始
(
はじ
)
めた。
040
サール
『
伊豆
(
いづ
)
の
霊
(
みたま
)
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
がイルの
肉体
(
にくたい
)
を
借
(
か
)
りて
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
事
(
こと
)
を
書
(
か
)
きおくぞよ。
041
しつかりと
聞
(
き
)
いて
置
(
お
)
かぬと
後
(
あと
)
で
後悔
(
こうくわい
)
致
(
いた
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るぞよ。
042
此
(
この
)
イルは
伊豆
(
いづ
)
の
霊
(
みたま
)
と
申
(
まを
)
して
湯本館
(
ゆもとくわん
)
の
安藤
(
あんどう
)
唯夫
(
ただを
)
殿
(
どの
)
の
身魂
(
みたま
)
が
憑
(
うつ
)
りて
居
(
を
)
るぞよ。
043
サールの
身魂
(
みたま
)
は
杉山
(
すぎやま
)
当一
(
たういち
)
殿
(
どの
)
のラマ
教
(
けう
)
の
時
(
とき
)
の
身魂
(
みたま
)
であるぞよ。
044
今
(
いま
)
はバラモン
教
(
けう
)
をやめて
三五教
(
あななひけう
)
に
這入
(
はい
)
りて
居
(
を
)
るなれど、
045
何
(
なに
)
を
申
(
まを
)
しても
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
のヤンチヤ
身魂
(
みたま
)
が
憑
(
うつ
)
りて
居
(
を
)
るから、
046
過激
(
くわげき
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
して
仕様
(
しやう
)
がないぞよ。
047
此
(
この
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
伊豆
(
いづ
)
の
身魂
(
みたま
)
が
申
(
まを
)
した
位
(
くらゐ
)
では
中々
(
なかなか
)
聞
(
き
)
きは
致
(
いた
)
さぬぞよ。
048
ラジオシンターでも
飲
(
の
)
まして
目
(
め
)
を
覚
(
さま
)
してやらぬ
事
(
こと
)
には
駄目
(
だめ
)
だぞよ。
049
それでも
治
(
なほ
)
らねば
谷口
(
たにぐち
)
清水
(
しみづ
)
と
申
(
まを
)
すドクトル・オブ・メヂチーネの
御
(
ご
)
厄介
(
やつかい
)
になるが
良
(
よ
)
いぞよ。
050
伊豆
(
いづ
)
の
湯ケ島
(
ゆがしま
)
には
因縁
(
いんねん
)
があるぞよ。
051
湯本館
(
ゆもとくわん
)
と
云
(
い
)
ふ
因縁
(
いんねん
)
の
分
(
わか
)
りたものは
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
、
052
オツト、
053
ドツコイ
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
のイルでないと
分
(
わか
)
りは
致
(
いた
)
さぬぞよ。
054
それぢやによつて
沢山
(
たくさん
)
の
人民
(
じんみん
)
が
水晶
(
すいしやう
)
の
温泉
(
をんせん
)
にイルの
身魂
(
みたま
)
と
申
(
まを
)
すぞよ。
055
今
(
いま
)
の
内
(
うち
)
に
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
さぬとサールもハルもテルもイクも、
056
皆
(
みな
)
アオ
彦
(
ひこ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
憑
(
うつ
)
りて
居
(
を
)
る
北村
(
きたむら
)
隆光
(
たかてる
)
に
書
(
か
)
きとめさして
置
(
お
)
いて、
057
末代
(
まつだい
)
名
(
な
)
を
残
(
のこ
)
さして
置
(
お
)
くぞよ。
058
それでも
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
さねば
摩利支
(
まりし
)
天
(
てん
)
の
身魂
(
みたま
)
の
憑
(
うつ
)
りて
居
(
を
)
る
松村
(
まつむら
)
真澄
(
まさずみ
)
に
細
(
こま
)
かう
書
(
か
)
き
残
(
のこ
)
さすぞよ。
059
それで
足
(
た
)
らねば
夕日
(
ゆふひ
)
の
御影
(
みかげ
)
、
060
加藤
(
かとう
)
竿竹姫
(
さをだけひめ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
手
(
て
)
を
借
(
か
)
りて
書
(
か
)
き
残
(
のこ
)
さすぞよ。
061
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
は
蟇
(
がま
)
の
身魂
(
みたま
)
の
憑
(
うつ
)
りた
黒姫
(
くろひめ
)
と
因縁
(
いんねん
)
ありて、
062
伊豆
(
いづ
)
の
御魂
(
みたま
)
の
御
(
お
)
屋敷
(
やしき
)
へ
暫
(
しば
)
らく
逗留
(
とうりう
)
致
(
いた
)
し、
063
昔
(
むかし
)
からの
因縁
(
いんねん
)
を
調
(
しら
)
べておいたぞよ。
064
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
がすぼまらぬ、
065
牛糞
(
うしくそ
)
が
天下
(
てんか
)
をとると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るぞよ。
066
あんまり
聞
(
き
)
かぬと
浅田
(
あさだ
)
の
様
(
やう
)
に
首
(
くび
)
もまはらぬ
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
すぞよ。
067
浅田殿
(
あさだどの
)
は
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
な
御
(
おん
)
役
(
やく
)
であるぞよ。
068
そして
其
(
その
)
身魂
(
みたま
)
はテルの
身魂
(
みたま
)
であるから、
069
ラジオシンターをつけ
過
(
す
)
ぎて
困
(
こま
)
りてをるぞよ。
070
それでも
此
(
この
)
イルが
申
(
まを
)
す
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
したならば、
071
直
(
すぐ
)
に
癒
(
なほ
)
してやるかも
知
(
し
)
れぬぞよ。
072
ハルの
身魂
(
みたま
)
は
福井
(
ふくゐ
)
の
身魂
(
みたま
)
であるぞよ。
073
何時
(
いつ
)
も
辛
(
から
)
い
辛
(
から
)
い
山葵
(
わさび
)
ばかりを
作
(
つく
)
りて
居
(
ゐ
)
るから、
074
顔
(
かほ
)
までが
辛
(
から
)
さうにしがんで
居
(
ゐ
)
るぞよ。
075
チツと
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さぬと
鼻
(
はな
)
が
高
(
たか
)
いぞよ。
076
イクの
身魂
(
みたま
)
は
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
な
身魂
(
みたま
)
でありたなれど、
077
あまり
慢心
(
まんしん
)
を
致
(
いた
)
したによつて
守護神
(
しゆごじん
)
は
現
(
あら
)
はしてやらぬぞよ。
078
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
を
誠
(
まこと
)
に
致
(
いた
)
せばよし、
079
聞
(
き
)
かぬにおいては
杉原
(
すぎはら
)
の
身魂
(
みたま
)
をひきぬいて
来
(
き
)
て、
080
佐久
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
はして
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
さすぞよ。
081
人民
(
じんみん
)
が
何程
(
なにほど
)
シヤチになりても
神
(
かみ
)
には
叶
(
かな
)
はぬぞよ。
082
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
様
(
やう
)
に
致
(
いた
)
して
下
(
くだ
)
されよ。
083
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さぬと『
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
』の
種
(
たね
)
と
致
(
いた
)
すぞよ。
084
そこになりたら
何程
(
なにほど
)
地団駄
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
みて
口惜
(
くや
)
しがりても、
085
神
(
かみ
)
は
許
(
ゆる
)
しは
致
(
いた
)
さぬぞよ。
086
之
(
これ
)
は
大神
(
おほかみ
)
が
申
(
まを
)
すのではないぞよ。
087
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
身魂
(
みたま
)
獅子虎
(
ししとら
)
の
身魂
(
みたま
)
イルの
肉体
(
にくたい
)
を
一寸
(
ちよつと
)
借用
(
しやくよう
)
致
(
いた
)
して
皆
(
みな
)
の
八衢
(
やちまた
)
人間
(
にんげん
)
に
気
(
き
)
をつけたのであるぞよ。
088
今
(
いま
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
様
(
やう
)
に
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
から
立退
(
たちの
)
き
命令
(
めいれい
)
を
蒙
(
かうむ
)
らねばならぬぞよ。
089
改心
(
かいしん
)
なされよ。
090
足
(
あし
)
もとから
鳥
(
とり
)
が
立
(
た
)
つぞよ。
091
アハハハハ』
092
と
笑
(
わら
)
ひ
興
(
きよう
)
じてゐる。
093
そこへ
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
より
神勅
(
しんちよく
)
を
帯
(
お
)
びて
出張
(
しゆつちやう
)
した
二人
(
ふたり
)
の
役員
(
やくゐん
)
があつた。
094
一人
(
ひとり
)
は
安彦
(
やすひこ
)
、
095
一人
(
ひとり
)
は
国彦
(
くにひこ
)
であつた。
096
安彦
(
やすひこ
)
『
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
受付
(
うけつけ
)
の
主任
(
しゆにん
)
は
誰方
(
どなた
)
で
厶
(
ござ
)
るかな。
097
拙者
(
せつしや
)
は
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
より
教主
(
けうしゆ
)
八島主
(
やしまぬしの
)
命
(
みこと
)
の
命
(
めい
)
により
出張
(
しゆつちやう
)
致
(
いた
)
したもので
厶
(
ござ
)
る。
098
何卒
(
なにとぞ
)
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
当館
(
たうやかた
)
の
神司
(
かむつかさ
)
珍彦
(
うづひこ
)
に
面会
(
めんくわい
)
が
致
(
いた
)
したい』
099
イル『ヤー、
100
これはこれは
直使
(
ちよくし
)
のおいで、
101
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
之
(
これ
)
にて
御
(
ご
)
休息
(
きうそく
)
願上
(
ねがひあ
)
げ
奉
(
たてまつ
)
りまする。
102
とり
乱
(
みだ
)
したる
処
(
ところ
)
を
御覧
(
ごらん
)
に
入
(
い
)
れ、
103
真
(
まこと
)
に
赤面
(
せきめん
)
の
至
(
いた
)
りで
厶
(
ござ
)
りまする。
104
おい、
105
ハル、
106
テル、
107
サール、
108
イク、
109
早
(
はや
)
くお
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
のお
足
(
あし
)
の
湯
(
ゆ
)
を
湧
(
わ
)
かして
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
ぬか』
110
安彦
『いや、
111
決
(
けつ
)
してお
構
(
かま
)
ひなさるな。
112
珍彦
(
うづひこ
)
の
司
(
つかさ
)
にお
目
(
め
)
にかかりたければ、
113
直様
(
すぐさま
)
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
を
願
(
ねが
)
ひたい。
114
沢山
(
たくさん
)
に
徳利
(
とくり
)
が
並
(
なら
)
んでゐられますな。
115
桜
(
さくら
)
の
花
(
はな
)
の
如
(
ごと
)
き
盃
(
さかづき
)
が
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
に
散
(
ち
)
つて
居
(
ゐ
)
る
風情
(
ふぜい
)
は
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
風流
(
ふうりう
)
で
厶
(
ござ
)
る。
116
国彦
(
くにひこ
)
殿
(
どの
)
、
117
実
(
じつ
)
に
羨望
(
せんばう
)
の
至
(
いた
)
りでは
厶
(
ござ
)
らぬか』
118
国彦
『
如何
(
いか
)
にも、
119
落花
(
らくくわ
)
狼藉
(
らうぜき
)
、
120
夜半
(
よは
)
の
嵐
(
あらし
)
に
散
(
ち
)
らされて、
121
打落
(
うちおと
)
された
桜木
(
さくらぎ
)
の
麓
(
ふもと
)
の
様
(
やう
)
で
厶
(
ござ
)
る』
122
イル『いや、
123
もう
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
はチツとシーズンは
早
(
はや
)
う
厶
(
ござ
)
りますれど、
124
ここは
日当
(
ひあた
)
りがよいので、
125
早
(
はや
)
くも
桜
(
さくら
)
が
散
(
ち
)
りかけまして
厶
(
ござ
)
ります。
126
さア
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう』
127
安彦
(
やすひこ
)
『それは
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
ります』
128
とイルの
後
(
うしろ
)
に
従
(
したが
)
ひ
珍彦
(
うづひこ
)
の
舘
(
やかた
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
129
後
(
あと
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
顔
(
かほ
)
見合
(
みあは
)
せ、
130
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
きながら、
131
テル『おい、
132
如何
(
どう
)
だ。
133
サツパリぢやないか。
134
エー、
135
こりや
一通
(
ひととほ
)
りの
事
(
こと
)
ぢやないぞ。
136
屹度
(
きつと
)
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
にキツーイお
目玉
(
めだま
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
するのかも
知
(
し
)
れないぞ』
137
サール『
何
(
なに
)
、
138
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
にはチツとも
関係
(
くわんけい
)
はないわ』
139
テル
『
貴様
(
きさま
)
はラマ
教
(
けう
)
だから
放逐
(
はうちく
)
の
命令
(
めいれい
)
に
接
(
せつ
)
したかも
知
(
し
)
れないぞ。
140
あの
御
(
お
)
直使
(
ちよくし
)
がお
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
覗
(
のぞ
)
いて
厶
(
ござ
)
つたぢやないか』
141
サール
『
何
(
なに
)
、
142
そんな
事
(
こと
)
があるものかい。
143
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
受付
(
うけつけ
)
にサール
者
(
もの
)
ありと
聞
(
きこ
)
えたる
敏腕家
(
びんわんか
)
は
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
だなアと、
144
感嘆
(
かんたん
)
の
眼
(
まなこ
)
を
以
(
もつ
)
て
御覧
(
ごらん
)
になつて
居
(
を
)
つたのだよ』
145
テル
『さう
楽観
(
らくくわん
)
も
出来
(
でき
)
ないぞ』
146
サール
『
俺
(
おれ
)
の
考
(
かんが
)
へでは、
147
如何
(
どう
)
も
高姫
(
たかひめ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
関
(
くわん
)
してぢやなからうかと
愚考
(
ぐかう
)
するのだ』
148
イク『そら、
149
さうだ。
150
それに
決
(
き
)
まつてるわ。
151
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
、
152
誰
(
たれ
)
の
事
(
こと
)
でもよい。
153
高姫
(
たかひめ
)
の
事
(
こと
)
としておけば
安心
(
あんしん
)
ぢやないか。
154
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
には、
155
よく
勤
(
つと
)
めたによつて
賞状
(
しやうじやう
)
を
遣
(
つか
)
はすと
云
(
い
)
ふ
恩命
(
おんめい
)
に
預
(
あづ
)
かるのかも
知
(
し
)
れないぞ、
156
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
157
あれだけ
八釜
(
やかま
)
し
家
(
や
)
の
高姫
(
たかひめ
)
に、
158
おとなしく
仕
(
つか
)
へてゐるのだからな』
159
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ、
160
イルはニコニコしながら
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
161
サール『おい、
162
イル、
163
何
(
なん
)
ぞよい
事
(
こと
)
があるのか。
164
大変
(
たいへん
)
嬉
(
うれ
)
しさうな
顔
(
かほ
)
ぢやないか』
165
イル
『ウツフフフフ(
声色
(
こわいろ
)
)
某
(
それがし
)
は
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
教主
(
けうしゆ
)
八島主
(
やしまぬしの
)
命
(
みこと
)
の
直命
(
ちよくめい
)
により、
166
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
を
主管
(
しゆくわん
)
する
珍彦
(
うづひこ
)
の
館
(
やかた
)
に
神命
(
しんめい
)
を
伝達
(
でんたつ
)
するものなり。
167
確
(
たしか
)
に
承
(
うけたま
)
はれ。
168
一、
169
此
(
この
)
度
(
たび
)
、
170
イル
事
(
こと
)
、
171
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
現
(
あら
)
はれし
上
(
うへ
)
は、
172
汝
(
なんぢ
)
をして
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
総監督
(
そうかんとく
)
に
任
(
にん
)
ずべし。
173
水晶魂
(
すいしやうだま
)
の
生粋
(
きつすゐ
)
の
其
(
その
)
方
(
はう
)
なれば、
174
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
として、
175
決
(
けつ
)
して
恥
(
はづ
)
かしくなき
人格者
(
じんかくしや
)
也
(
なり
)
。
176
神命
(
しんめい
)
ならば
謹
(
つつし
)
んでお
受
(
う
)
け
致
(
いた
)
されよ。
177
(笑声)ウエーヘエツヘヘヘヘヘ。
178
一、
179
サールなる
者
(
もの
)
、
180
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
事務
(
じむ
)
を
忽
(
おろそ
)
かに
致
(
いた
)
し
酒
(
さけ
)
を
呷
(
あふ
)
り
管
(
くだ
)
を
巻
(
ま
)
き、
181
イルの
命令
(
めいれい
)
を
奉
(
ほう
)
ぜず、
182
同僚
(
どうれう
)
が
事務
(
じむ
)
の
妨害
(
ばうがい
)
をなすこと、
183
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
の
悪者
(
しれもの
)
也
(
なり
)
。
184
故
(
ゆゑ
)
に
逸早
(
いちはや
)
く
鞭
(
むち
)
を
加
(
くは
)
へて
放逐
(
はうちく
)
致
(
いた
)
す
可
(
べ
)
きもの
也
(
なり
)
。
185
イツヒヒヒヒヒ。
186
一、
187
イク
事
(
こと
)
、
188
サールに
次
(
つ
)
ぐ
不届者
(
ふとどきもの
)
にしてバラモン
教
(
けう
)
を
失敗
(
しくじ
)
り、
189
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
なくして
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
に
座敷
(
ざしき
)
乞食
(
こじき
)
を
勤
(
つと
)
むる
段
(
だん
)
、
190
中々
(
なかなか
)
以
(
もつ
)
て
許
(
ゆる
)
し
難
(
がた
)
き
不届者
(
ふとどきもの
)
なれば、
191
之
(
これ
)
亦
(
また
)
鞭
(
むち
)
を
加
(
くは
)
へて
放逐
(
はうちく
)
す
可
(
べ
)
きもの
也
(
なり
)
。
192
一、
193
ハル
事
(
こと
)
、
194
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
曲者
(
くせもの
)
にして、
195
頭
(
あたま
)
をハル
事
(
こと
)
此
(
この
)
上
(
うへ
)
なき
名人
(
めいじん
)
なり。
196
否
(
いな
)
侫人
(
ねいじん
)
也
(
なり
)
。
197
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
きもの
聖場
(
せいぢやう
)
にあつては
神
(
かみ
)
の
名
(
な
)
を
汚
(
けが
)
し、
198
教
(
をしへ
)
を
傷
(
きず
)
つくる
事
(
こと
)
最
(
もつと
)
も
大
(
だい
)
也
(
なり
)
、
199
且
(
かつ
)
酒癖
(
さけくせ
)
悪
(
わる
)
く、
200
上
(
あ
)
げも
下
(
おろ
)
しもならぬ
動物
(
どうぶつ
)
なれば、
201
これには
箒
(
はうき
)
を
以
(
もつ
)
て
頭
(
かしら
)
を
百
(
ひやく
)
打叩
(
うちたた
)
き、
202
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
放逐
(
はうちく
)
す
可
(
べ
)
きもの
也
(
なり
)
。
203
キユツツツツツ、
204
ウツフフフフフ。
205
一、
206
テル
事
(
こと
)
、
207
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
好々爺
(
かうかうや
)
にして、
208
よくイルの
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
を
服従
(
ふくじゆう
)
するにより、
209
之
(
これ
)
は
少
(
すこ
)
しく
教
(
をしへ
)
を
説
(
と
)
き
聞
(
き
)
かした
上
(
うへ
)
、
210
汝
(
なんぢ
)
が
僕
(
しもべ
)
に
使用
(
しよう
)
すべきもの
也
(
なり
)
。
211
ウエヘツヘヘヘヘヘ、
212
ホホホホホ、
213
エヘヘヘヘヘ』
214
テル『こりや、
215
イル、
216
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
217
イル
『あいや、
218
決
(
けつ
)
して
馬鹿
(
ばか
)
には
致
(
いた
)
さぬ。
219
八島主
(
やしまぬしの
)
命
(
みこと
)
の
御
(
ご
)
直命
(
ちよくめい
)
なれば、
220
襟
(
えり
)
を
正
(
ただ
)
して
行儀
(
ぎやうぎ
)
よく
承
(
うけたま
)
はりなされ』
221
サール『おい、
222
イル、
223
杢助
(
もくすけ
)
、
224
高姫
(
たかひめ
)
は
如何
(
どう
)
だ』
225
イル
『やア
者
(
もの
)
共
(
ども
)
、
226
騒
(
さわ
)
ぐな
騒
(
さわ
)
ぐな、
227
静
(
しづ
)
かに
致
(
いた
)
せ。
228
杢助
(
もくすけ
)
は
誠
(
まこと
)
に
以
(
もつ
)
て
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
なる
悪魔
(
あくま
)
なれば、
229
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
放逐
(
はうちく
)
すべし。
230
又
(
また
)
高姫
(
たかひめ
)
は
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
に
追返
(
おひかへ
)
すべし。
231
珍彦
(
うづひこ
)
は
一切
(
いつさい
)
の
事務
(
じむ
)
をイルに
引継
(
ひきつ
)
ぎ、
232
逸早
(
いちはや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
退却
(
たいきやく
)
す
可
(
べ
)
きもの
也
(
なり
)
。
233
右
(
みぎ
)
の
条々
(
でうでう
)
決
(
けつ
)
して
相違
(
さうゐ
)
これあるもの
也
(
なり
)
。
234
オツホホホホホ』
235
サール『ナーンダ、
236
馬鹿
(
ばか
)
にしてゐやがる。
237
俺
(
おれ
)
の
胸
(
むね
)
が
雨蛙
(
あまがへる
)
の
様
(
やう
)
になりよつた。
238
のうイク、
239
ハル、
240
テル。
241
イルの
奴
(
やつ
)
、
242
あまり
馬鹿
(
ばか
)
にするぢやないか。
243
一
(
ひと
)
つここらで
袋叩
(
ふくろだた
)
きにやつてやらうぢやないか』
244
イク『そりや
面白
(
おもしろ
)
い、
245
併
(
しか
)
しながらお
直使
(
ちよくし
)
の
御
(
ご
)
入来
(
じゆらい
)
だから、
246
まアまア
今日
(
けふ
)
は
見逃
(
みのが
)
しておけ。
247
おい、
248
イルの
奴
(
やつ
)
、
249
貴様
(
きさま
)
は
仕合
(
しあは
)
せものだ。
250
今日
(
けふ
)
から、
251
しよう
もない
芸当
(
げいたう
)
をやると
叩
(
たた
)
きのばすぞ』
252
イル
『
叩
(
たた
)
き
伸
(
の
)
ばして
太
(
ふと
)
るのは
鍛冶屋
(
かぢや
)
さまだ。
253
然
(
しか
)
しながら
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
も
本当
(
ほんたう
)
に
形勢
(
けいせい
)
不穏
(
ふおん
)
だぞ。
254
確
(
しつか
)
り
致
(
いた
)
さぬと、
255
どんな
御
(
ご
)
沙汰
(
さた
)
が
下
(
さが
)
るやら
分
(
わか
)
らぬから
気
(
き
)
をつけたが
宜
(
よ
)
からうぞ。
256
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
は
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
には
分
(
わか
)
らぬのだ。
257
初稚姫
(
はつわかひめ
)
と
珍彦
(
うづひこ
)
さまが
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
でソツと
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はつて
厶
(
ござ
)
るのだ』
258
イク『
成程
(
なるほど
)
、
259
大方
(
おほかた
)
タ
印
(
じるし
)
の
事
(
こと
)
だらうよ。
260
何卒
(
どうぞ
)
うまく
行
(
ゆ
)
くといいがな』
261
イル『あんな
奴
(
やつ
)
がけつかると
参詣者
(
さんけいしや
)
も
碌
(
ろく
)
に
詣
(
まゐ
)
つて
来
(
こ
)
ないからな。
262
然
(
しか
)
し
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
襖
(
ふすま
)
の
間
(
あひだ
)
から
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
声
(
こゑ
)
で、
263
イルさまイルさまと
仰有
(
おつしや
)
るのが
聞
(
きこ
)
えたよ。
264
イヒヒヒヒヒ
何
(
なに
)
か
此奴
(
こいつ
)
ア、
265
宜
(
よ
)
い
事
(
こと
)
があるに
違
(
ちが
)
ひない。
266
何
(
なに
)
せよ
昨夜
(
ゆうべ
)
の
夢
(
ゆめ
)
が
乙
(
おつ
)
だからな。
267
その
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
くと
忽
(
たちま
)
ち
俺
(
おれ
)
の
胸
(
むね
)
は
躍
(
をど
)
る、
268
腕
(
うで
)
は
鳴
(
な
)
る、
269
俺
(
おれ
)
の
精神
(
せいしん
)
は
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
つた
様
(
やう
)
になつて
来
(
き
)
た。
270
人間
(
にんげん
)
は
一代
(
いちだい
)
に
一度
(
いちど
)
や
二度
(
にど
)
は
運命
(
うんめい
)
の
神
(
かみ
)
が
見舞
(
みま
)
ふものだから、
271
此
(
この
)
風雲
(
ふううん
)
に
乗
(
じやう
)
ぜなくちや
人生
(
じんせい
)
は
嘘
(
うそ
)
だ。
272
之
(
これ
)
からこのイルさまは
立派
(
りつぱ
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて
驍名
(
げうめい
)
を
天下
(
てんか
)
に
輝
(
かがや
)
かし、
273
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
へでも
行
(
い
)
つて
大国
(
たいこく
)
の
刹帝利
(
せつていり
)
になるのかも
知
(
し
)
れぬぞ。
274
さうすれば
貴様
(
きさま
)
らを
右守
(
うもり
)
、
275
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
に
任命
(
にんめい
)
してやるからな』
276
サール『ヘン、
277
梟鳥
(
ふくろどり
)
の
又
(
また
)
宵企
(
よひだく
)
みだらう。
278
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
が
何程
(
なにほど
)
イルさまと
仰有
(
おつしや
)
つたつて、
279
あの
男
(
をとこ
)
は
受付
(
うけつけ
)
にイルか、
280
要
(
い
)
らないものか、
281
或
(
あるひ
)
は
道楽者
(
だうらくもの
)
だから
此処
(
ここ
)
にイル
事
(
こと
)
はイルさまと
仰有
(
おつしや
)
つたかも
分
(
わか
)
らないぞ。
282
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
貴様
(
きさま
)
も
用心
(
ようじん
)
せないと
駄目
(
だめ
)
だ。
283
気
(
き
)
をつけよ』
284
イル
『ヘン、
285
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
一富士
(
いちふじ
)
、
286
二鷹
(
にたか
)
、
287
三茄子
(
さんなすび
)
と
云
(
い
)
ふ
結構
(
けつこう
)
な
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たのだからな。
288
こんな
夢
(
ゆめ
)
は
出世
(
しゆつせ
)
する
運
(
うん
)
のいいものでなければ、
289
メツタに
見
(
み
)
られぬからのう』
290
サール
『そんな
夢
(
ゆめ
)
が
何
(
なに
)
いいのだ。
291
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ろ。
292
富士
(
ふじ
)
の
山
(
やま
)
程
(
ほど
)
借金
(
しやくきん
)
があつて、
293
如何
(
どう
)
にも
斯
(
か
)
うにも
首
(
くび
)
が
廻
(
まは
)
らず、
294
鷹
(
たか
)
い
息
(
いき
)
もようせず、
295
高姫
(
たかひめ
)
には
喚
(
わめ
)
かれ、
296
箒
(
はうき
)
で
叩
(
たた
)
かれ、
297
又
(
また
)
その
借金
(
しやくきん
)
は
茄子
(
なす
)
(
済
(
な
)
す)
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
ず、
298
高姫
(
たかひめ
)
の
圧迫
(
あつぱく
)
に
対
(
たい
)
しても
如何
(
いかん
)
とも
茄子
(
なす
)
ことが
出来
(
でき
)
ない
貴様
(
きさま
)
は
腰抜
(
こしぬ
)
けだよと
天教山
(
てんけうざん
)
の
木花姫
(
このはなひめ
)
さまが
夢
(
ゆめ
)
のお
告
(
つ
)
げだよ。
299
アツハハハハハ、
300
お
気
(
き
)
の
毒様
(
どくさま
)
、
301
のうイク、
302
ハル、
303
テル、
304
俺
(
おれ
)
の
判断
(
はんだん
)
は
当
(
あた
)
つとるだらう』
305
テル『そりや
貴様
(
きさま
)
、
306
当
(
あた
)
るに
定
(
きま
)
つてらア。
307
当一
(
たういち
)
と
云
(
い
)
ふぢやないか。
308
ウヘツエエエエエ』
309
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
所
(
ところ
)
へ
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
くやつて
来
(
き
)
たのは
高姫
(
たかひめ
)
であつた。
310
高姫
『これ、
311
イルさま、
312
お
前
(
まへ
)
一寸
(
ちよつと
)
此方
(
こちら
)
へ
来
(
き
)
てお
呉
(
く
)
れ。
313
御用
(
ごよう
)
が
出来
(
でき
)
たから』
314
イル
『はい、
315
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いませぬが、
316
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
の
用
(
よう
)
で
厶
(
ござ
)
りますかな。
317
御用
(
ごよう
)
の
筋
(
すぢ
)
を
承
(
うけたま
)
はらねばさう
軽々
(
かるがる
)
しく
行
(
ゆ
)
く
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬ。
318
此
(
この
)
イルさまに
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
くも
今日
(
けふ
)
只今
(
ただいま
)
より、
319
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
の
八島主
(
やしまぬし
)
さまより
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
の
神司
(
かむづかさ
)
と
任命
(
にんめい
)
されたかも
知
(
し
)
れませぬぞや。
320
それぢやによつて、
321
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
のイルとはチツと
位
(
くらゐ
)
が
違
(
ちが
)
ひますから、
322
御用
(
ごよう
)
があればお
前
(
まへ
)
さまの
方
(
はう
)
から、
323
言葉
(
ことば
)
を
低
(
ひく
)
う
頭
(
かしら
)
を
下
(
さ
)
げて
尾
(
を
)
をふつて
賄賂
(
わいろ
)
でも
喰
(
く
)
はへて
御
(
お
)
出
(
い
)
でなさらぬと、
324
貴女
(
あなた
)
の
地位
(
ちゐ
)
は
殆
(
ほとん
)
ど
砂上
(
さじやう
)
の
楼閣
(
ろうかく
)
も
同様
(
どうやう
)
で
厶
(
ござ
)
りますぞや』
325
高姫
『エーエ、
326
辛気
(
しんき
)
なこと。
327
早
(
はや
)
く
来
(
き
)
なさらぬかいな。
328
誰
(
たれ
)
も
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
から
来
(
き
)
てゐないぢやないか』
329
イル
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
330
貴女
(
あなた
)
「エー
辛気
(
しんき
)
」と
仰有
(
おつしや
)
いましたね。
331
そら、
332
さうでせう。
333
蜃気楼
(
しんきろう
)
的
(
てき
)
空想
(
くうさう
)
を
描
(
ゑが
)
いて、
334
此
(
この
)
館
(
やかた
)
を
独占
(
どくせん
)
せむとする
泡沫
(
はうまつ
)
の
如
(
ごと
)
き
企
(
たく
)
みだから、
335
蜃気楼
(
しんきろう
)
が
立
(
た
)
つのも
無理
(
むり
)
はありませぬわい。
336
イツヒヒヒヒ』
337
高姫
『エーエ、
338
仕方
(
しかた
)
のない
男
(
をとこ
)
だな。
339
又
(
また
)
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
うてゐるのだな。
340
それならイルは
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
此処
(
ここ
)
を
帰
(
かへ
)
つて
貰
(
もら
)
ひませう。
341
其
(
その
)
代
(
かは
)
りにハルや、
342
一寸
(
ちよつと
)
私
(
わし
)
の
傍
(
そば
)
へ
来
(
き
)
ておくれ。
343
御用
(
ごよう
)
を
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かしたい
事
(
こと
)
があるから。
344
お
前
(
まへ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ても
賢
(
かしこ
)
かりさうな、
345
よう
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ひさうな
顔付
(
かほつき
)
きだ』
346
ハル
『はい、
347
参
(
まゐ
)
る
事
(
こと
)
は
参
(
まゐ
)
りますが、
348
何卒
(
どうぞ
)
箒
(
はうき
)
で
叩
(
たた
)
かぬやうに
願
(
ねが
)
ひますよ。
349
私
(
わたし
)
も
国
(
くに
)
には
妻子
(
つまこ
)
が
残
(
のこ
)
してあり……ませぬから、
350
箒
(
はうき
)
なんかで
叩
(
たた
)
かれちや、
351
まだ
持
(
も
)
たぬ
妻子
(
つまこ
)
がホーキに
迷惑
(
めいわく
)
致
(
いた
)
し、
352
宅
(
うち
)
の
大切
(
だいじ
)
の
夫
(
をつと
)
やお
父
(
とう
)
さまを
虐待
(
ぎやくたい
)
したと
云
(
い
)
つて
悔
(
くや
)
みますからな』
353
高姫
『エーエ、
354
文句
(
もんく
)
を
仰有
(
おつしや
)
らずに
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るのだよ』
355
ハル
『おい、
356
俺
(
おれ
)
が
行
(
い
)
つたら
屹度
(
きつと
)
貴様
(
きさま
)
等
(
たち
)
ア、
357
首
(
くび
)
だからな。
358
其
(
その
)
用意
(
ようい
)
をして
居
(
を
)
れよ。
359
然
(
しか
)
し
大抵
(
たいてい
)
の
事
(
こと
)
なら、
360
俺
(
おれ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
信認
(
しんにん
)
の
力
(
ちから
)
によつて、
361
千言
(
せんげん
)
万語
(
ばんご
)
を
費
(
つひや
)
し、
362
弁護
(
べんご
)
の
結果
(
けつくわ
)
助
(
たす
)
けてやるかも
知
(
し
)
れないから、
363
俺
(
おれ
)
の
後姿
(
うしろすがた
)
を
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまだと
思
(
おも
)
うて、
364
恭敬
(
きようけい
)
礼拝
(
らいはい
)
してゐるがよからうぞ。
365
エヘン』
366
と
肩肱
(
かたひぢ
)
怒
(
いか
)
らし、
367
高姫
(
たかひめ
)
の
後
(
うしろ
)
から
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めて
空
(
くう
)
を
打
(
う
)
ちながら、
368
一寸
(
ちよつと
)
後
(
うしろ
)
を
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り、
369
長
(
なが
)
い
舌
(
した
)
をニユツと
出
(
だ
)
して
四
(
よ
)
人
(
にん
)
に
見
(
み
)
せ、
370
腮
(
あご
)
をしやくり
尻
(
しり
)
を
振
(
ふ
)
り
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
371
(
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