霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 鷹鷲掴(たかわしづかみ)〔一三一〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第50巻 真善美愛 丑の巻 篇:第4篇 神犬の言霊 よみ(新仮名遣い):しんけんのことたま
章:第16章 鷹鷲掴 よみ(新仮名遣い):たかわしづかみ 通し章番号:1310
口述日:1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年12月7日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
イルは大速力で筆先を写し終おわると、三宝に乗せて高姫のところに持ってきた。そしてわざと荘重な言葉使いで神がかりの真似をして高姫をからかうが、高姫はイルが気違いになったと悪口して三宝をひったくろうとした。
イルはわざと三宝を握りしめたので、脚が音を立てて二つに割れた。その勢いで筆先は宙をかすめて炭火の中へぱっと落ち、たちまち三冊の筆先は煙となってしまった。高姫は怒ったが、イルは神徳が高いから筆先から煙の竜が出て天上に立ち上ったのだととっさにゴマをすった。高姫は勢いをそがれてしまった。
高姫は気を取り直して筆先の写しを持ってくるようにイルに命じたが、イルは、筆先のご神徳が高すぎて後光がさし、写せなかったと高姫をからかった。イルの上げては落とすからかいに、最後には高姫は顔を真っ赤にして去るようにと怒鳴った。
イルが受付に戻ると、ハル、テル、イク、サールの四人が筆先の写しをげらげら笑いながら読んでいる。イルは、高姫の態度が気に食わなかったから、筆先の元の本が燃えてしまっても、筆先を写してあることを言わなかったのだと伝えた。
それを聞いたハルたちは面白がって、ひとつここで筆先を大声で読んでやろうと言い出した。イルも賛成し、大声で読み始めた。筆先には、これは火にも焼けない水にも溺れないと書いてあったことを引いて、一同は面白がっている。
そこへ高姫が筆先の朗読の声を聞きつけてやってきて、今義理天上の悪口を言っていたのではないか、と声をかけた。筆先を読んでいたのではないかと問う高姫に対し、イルは日の出神様が体内に入り、しばらくするとあんなことを自分の口から仰ったのだととぼけた。
イルは、高姫の注意をそらしたすきに、尻の下に隠していた筆先の写しを懐に入れた。しかし高姫はそれに気が付いて懐から筆先の写しを掴みだすと、イルをやたらに打ち据えて、憎々しげに高笑いし、杢助と相談して処分すると捨て台詞をして去って行った。
五人をそれを見送って、頭をかき冷や汗を拭きながら笑っている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-07-23 19:06:29 OBC :rm5016
愛善世界社版:221頁 八幡書店版:第9輯 230頁 修補版: 校定版:226頁 普及版:111頁 初版: ページ備考:
001 イルは冷笑(れいせう)(うか)べながら、002高姫(たかひめ)()機嫌取(きげんと)りの(ため)に、003一間(ひとま)(はい)つて大速力(だいそくりよく)にて()(うつ)し、004直様(すぐさま)直筆(ぢきひつ)(みぎ)()にひん(にぎ)り、005(ひだり)()三宝(さんぱう)(つか)んで高姫(たかひめ)居間(ゐま)(まへ)まで(いた)り、006(もと)(とほ)りキチンと叮嚀(ていねい)にのせ、007目八分(めはちぶ)(ささ)げ、008(ふすま)(そと)から言葉(ことば)もいと荘重(さうちよう)に、
009イル日出(ひのでの)(かみ)義理(ぎり)天上(てんじやう)010只今(ただいま)()入来(じゆらい)011アイヤ、012高姫(たかひめ)殿(どの)013(この)(ふすま)をあけめされよ』
014()ばはつた。015高姫(たかひめ)(あま)荘重(さうちよう)言葉(ことば)に、016ハテ不思議(ふしぎ)(ふすま)をサツとあけ()れば、017イルは筆先(ふでさき)()せた三宝(さんぱう)(うやうや)しく(ささ)()つてゐる。
018高姫(なん)だ、019(まへ)はイルぢやないか。020(はら)(わる)い、021(わたし)吃驚(びつくり)さしたがなア。022ヘン日出(ひのでの)(かみ)なんて、023(えら)さうに()ふものぢやないワ。024日出(ひのでの)(かみ)(さま)(この)高姫(たかひめ)体内(たいない)にお(しづ)まり(あそ)ばすぞや。025(まへ)さまのやうなお(かた)に、026()うしてお(しづ)まり(あそ)ばすものか』
027 イルは()ちはだかつたまま、
028イル『アイヤ、029高姫(たかひめ)030よつく(うけたま)はれ。031日出(ひのでの)(かみ)(なんぢ)体内(たいない)宿(やど)ることもあり、032(また)筆先(ふでさき)宿(やど)(こと)もあるぞよ。033このイルに()たせた筆先(ふでさき)(すなは)日出(ひのでの)(かみ)()神体(しんたい)であるぞよ。034(ある)(とき)高姫(たかひめ)体内(たいない)宿(やど)り、035(ある)(とき)筆先(ふでさき)宿(やど)り、036イルの肉体(にくたい)(もつ)(これ)(まも)らせあれば、037只今(ただいま)のイルは(すなは)義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)(かみ)生宮(いきみや)であるぞよ。038粗末(そまつ)(いた)すと(ばち)(あた)るぞよ。039取違(とりちが)ひを(いた)すでないぞよ。040アフンと(いた)して目眩(めまひ)()るぞよ。041日出(ひのでの)(かみ)間違(まちが)ひはないぞよ。042おちぶれ(もの)(あなど)ることはならぬぞよ。043()んな()(かた)御用(ごよう)がさしてあるか(わか)らぬぞよ』
044高姫『あああ、045とうと、046日出(ひのでの)(かみ)(さま)()神徳(しんとく)()たれて半気違(はんきちが)ひになりよつた。047これだから(ねこ)小判(こばん)048(ぶた)真珠(しんじゆ)といふのだ。049(はや)此方(こちら)へかしなされ、050日出(ひのでの)(かみ)二人(ふたり)出来(でき)たら(をさ)まらぬからな』
051矢庭(やには)にパツと(ひつ)たくらうとする。052イルはワザとに三宝(さんぱう)(にぎ)()めた。053高姫(たかひめ)(ちから)をこめて、054グツと()いた拍子(ひやうし)に、055三宝(さんぱう)(おもて)(あし)とがメキメキと(おと)()てて(ふた)つになつた。056(その)(いきほひ)筆先(ふでさき)(ちう)(かす)めて、057ゴンゴンといこつてゐた「いこって」…「いこる」は関西の方言で、炭に火がついて赤くなった状態。炭火(すみび)(なか)へパツと()ちた。058(たちま)三冊(さんさつ)のお筆先(ふでさき)(くろ)(けむり)(りう)となつて(てん)(のぼ)つて(しま)つた。
059高姫『あああ、060(なん)(こと)ぢや、061これ、062イル、063()うして(くだ)さる。064折角(せつかく)(かみ)(さま)がお()(あそ)ばしたお直筆(ぢきひつ)を、065サツパリ(けむり)にして(しま)つたぢやないか』
066イル(なん)日出(ひのでの)(かみ)(さま)はえらいものですな。067たうとう結構(けつこう)()神体(しんたい)(あら)はれました。068貴女(あなた)御存(ごぞん)じの(とほ)り、069火鉢(ひばち)から()()日出(ひのでの)(かみ)となり、070あの(とほ)(くろ)(りう)となり、071(けむり)(つつ)まれて天上(てんじやう)なされました。072イヤ(けむり)ではなからう、073朝霧(あさぎり)夕霧(ゆふぎり)といふギリでせう。074それだから義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)(かみ)()竜体(りうたい)(あら)はして天上(てんじやう)なされました。075(なん)とマア貴女(あなた)()神徳(しんとく)高姫(たかひめ)さまで(ござ)いますな。076エヘヘヘヘ、077イヤもう(かん)()りまして(ござ)います』
078(くち)から出任(でまか)せに高姫(たかひめ)揶揄(からかひ)半分(はんぶん)()めそやした。079高姫(たかひめ)(おこ)らうと(おも)つて()つたが、080イルの頓智(とんち)()()まれ、081(うれ)しいやうな腹立(はらだ)たしいやうな、082(めう)気分(きぶん)になつて、083(むね)()でおろし、
084高姫『お直筆(ぢきひつ)天上(てんじやう)なさつたが、085(しか)しマアマア結構(けつこう)だ。086(まへ)(うつ)しておいてくれたから、087一度(いちど)()(なほ)さして(いただ)かうかな。088滅多(めつた)にあんな結構(けつこう)なお筆先(ふでさき)()るものぢやないからな。089コレ、090イルや、091(はや)くあのお筆先(ふでさき)(うつ)しを、092ここへ()つて()てくれ』
093イル『ヘーエ、094(うつ)さして(いただ)かうと(おも)ひましたが、095何分(なにぶん)()神徳(しんとく)(たか)いお筆先(ふでさき)だものですから、096後光(ごくわう)がさしまして、097サツパリ()がくらみ、098一字(いちじ)々々(いちじ)(その)文字(もじ)鎌首(かまくび)()てて、099竜神(りうじん)さまになつて(うご)くやうに()えるものですもの、100到底(たうてい)吾々(われわれ)(ごと)神徳(しんとく)のない(もの)では、101(うつ)すことは(おろ)拝読(いただ)くでさへも()がマクマク(いた)します。102それでお(まへ)さまに(うつ)して(いただ)かうと(おも)つて、103(この)(とほ)()神体(しんたい)をここ(まで)(おく)つて()たので(ござ)います』
104揶揄好(からかひずき)のイルは、105(その)(じつ)スツクリ(うつ)()つて()ながら、106ワザとこんな(こと)()ふ。
107高姫『エーエ、108()()かぬことだなア、109(まへ)()(うつ)さな、110なぜ(ほか)(もの)(うつ)ささなかつたのだい』
111イル『それでもイルに(うつ)せよと、112貴女(あなた)()命令(めいれい)をお(くだ)しになつたものですから、113日出(ひのでの)(かみ)(さま)のお言葉(ことば)には(そむ)かれないと(おも)うて、114(ほか)(もの)には()せもしませなんだのですよ』
115高姫『エーエ、116()()かぬ(をとこ)だな。117あああ、118どうしたらいいかしらぬて……お(まへ)さまは(しばら)謹慎(きんしん)(ため)119彼方(あちら)(ひか)へて()りなさい。120そして受付(うけつけ)はハルに申付(まをしつ)ける。121こんな不調法(ぶてうはふ)(いた)して、122よい()()るといふ(こと)があるものかいな』
123イル『ハイ、124仕方(しかた)(ござ)いませぬ。125(しか)しながら(わたし)守護神(しゆごじん)霊界(れいかい)(うつ)したかも()れませぬから、126もし()()ましたら、127勘忍(かんにん)して(くだ)さるでせうなア』
128高姫馬鹿(ばか)(こと)()ひなさるな。129(まへ)()守護神(しゆごじん)がそんな(こと)()けてたまりますか。130(この)高姫(たかひめ)でさへも守護神(しゆごじん)()くといふ(こと)出来(でき)(ゆゑ)に、131(この)生宮(いきみや)()(とほ)してお()きなさるのだ。132エエ気色(きしよく)(わる)い、133彼方(あつちや)()つて(くだ)され。134(まへ)さまの(つら)()るのも(むね)クソが(わる)い。135結構(けつこう)結構(けつこう)なお筆先(ふでさき)三冊(さんさつ)まで()やして(しま)うて、136どうしてこれが(かみ)(さま)申訳(まをしわけ)()ちますか』
137イル霊国(れいごく)天人(てんにん)()はうと(おも)うて、138義理(ぎり)天上(てんじやう)さまが化相(けさう)(じゆつ)(もつ)て、139天上(てんじやう)なさつたのかも()れませぬよ。140さう気投(けな)げしたものぢや(ござ)いませぬワイ』
141高姫『エー(やかま)しい、142彼方(あつちや)()きなされ。143グヅグヅ(いた)して()ると、144(この)(はうき)()見舞(みま)(まを)すぞや』
145(かほ)真赤(まつか)にし、146捨鉢(すてばち)気味(ぎみ)になり、147半狂乱(はんきやうらん)になつて呶鳴(どな)()らすのであつた。148イルは、
149イル『ハイ』
150一言(ひとこと)(のこ)し、151匆々(さうさう)(ふすま)()()めし、152(くび)をすくめ、153(した)()し、154(あご)をしやくりながら受付(うけつけ)足音(あしおと)(しの)ばせ(かへ)つて()た。155受付(うけつけ)にはハル、156テル、157イク、158サールの()(にん)筆先(ふでさき)(うつ)しをゲラゲラ(わら)ひながら()んでゐる。
159イル『オイ、160そんな(おほ)きな(こゑ)(わら)つてくれな、161(いま)義理(ぎり)天上(てんじやう)大変(たいへん)(おこ)つてゐるからな』
162ハル『ナアニ、163(おこ)(こと)があらうかい。164(はや)(うつ)して(はら)()()みておいて(くだ)されよ……と()つて(かへ)つたぢやないか。165(いま)一生(いつしやう)懸命(けんめい)他人(たにん)(ふんどし)()めこみてゐる(ところ)だ。166アハハハハ』
167サール『これ(ほど)(わか)りにくい文字(もじ)(うつ)させておいて、168(なん)(ため)高姫(たかひめ)さまが、169それ(ほど)(おこ)るのだい。170(おこ)(くらゐ)ならなぜ(うつ)せと()つたのだ。171本当(ほんたう)(わけ)(わか)らぬ(こと)をぬかすじやないか』
172イル『ナアニ、173そりやそれでいいのだが、174高姫(たかひめ)(やつ)175とうと、176(あやま)つて三冊(さんさつ)筆先(ふでさき)()(なか)へおとし、177()いて(しま)ひよつたのだ。178それで大変(たいへん)()機嫌(きげん)(わる)いのだよ』
179サール『イヒヒヒヒ、180そりやいい気味(きみ)だねえ、181随分(ずいぶん)(めう)(つら)をしただらう』
182イル(まる)きり、183(かまど)(うへ)不動(ふどう)さまを焼杭(やけぐひ)でくらはした(とき)のやうな(つら)をしよつて、184きつく(にら)みよつた。185そして(その)(うつ)しがあるだらうから、186すぐ()つて()いと()ひよつたので、187(おれ)(あんま)劫腹(ごふはら)だから、188あのお筆先(ふでさき)()威勢(ゐせい)(たか)うて後光(ごくわう)がさし、189一字(いちじ)々々(いちじ)文字(もじ)活躍(くわつやく)して、190鎌首(かまくび)()竜神(りうじん)になつて()(まは)るやうに()えたから、191()(うつ)しませなんだ……とやつた(ところ)192流石(さすが)高姫(たかひめ)真青(まつさを)(つら)して、193(その)失望(しつばう)194落胆(らくたん)加減(かげん)195(じつ)痛快(つうくわい)だつたよ。196それだから(おほ)きな(こゑ)()むなと()ふのだ』
197サール『アハハハハ、198成程(なるほど)199其奴(そいつ)面白(おもしろ)い。200オイ(みな)(やつ)201此処(ここ)(ひと)大声(おほごゑ)張上(はりあ)げて()んだろかい』
202イル『そんな(こと)したら、203高姫(たかひめ)がガンづくぢやないか』
204サール『なアに、205(おれ)廊下(らうか)見張(みはり)をしてゐるから、206(むか)ふへ(きこ)えるやうに()むのだ。207そして高姫(たかひめ)()よつたら、208筆先(ふでさき)(しり)(した)へかくし、209素知(そし)らぬ(かほ)してるのだ。210(いま)()んで()つたぢやないかと()ひよつたら、211イルの(はら)(なか)義理(ぎり)天上(てんじやう)さまがお這入(はい)りになつて、212あんな(おほ)きな(こゑ)でお筆先(ふでさき)()まれた……とかませばいいぢやないか』
213イル『なアる(ほど)214妙案(めうあん)だ、215それでは(おれ)(ひと)()んでやらうかなア』
216とサールを廊下(らうか)立番(たちばん)させ、217ハル、218テル、219イクを(まへ)(すわ)らせ、220イルはワザとに大声(おほごゑ)()して()(はじ)めた。
221イル義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)(かみ)(まこと)(しやう)まつの、222生粋(きつすゐ)五六七(みろく)神政(しんせい)筆先(ふでさき)であるぞよ。223高姫(たかひめ)肉宮(にくみや)は、224(むかし)(むかし)根本(こつぽん)神代(かみよ)から、225因縁(いんねん)ありて、226(かみ)御用(ごよう)使(つか)うて()りたぞよ。227この肉体(にくたい)高天原(たかあまはら)第一(だいいち)霊国(れいごく)天人(てんにん)身魂(みたま)であるぞよ。228高姫(たかひめ)身魂(みたま)引添(ひつそ)うて、229三千(さんぜん)世界(せかい)守護(しゆご)がさしてありたぞよ。230それについては杢助殿(もくすけどの)身魂(みたま)もヤツパリ霊国(れいごく)天人(てんにん)生粋(きつすゐ)身魂(みたま)であるぞよ。231霊国(れいごく)天人(てんにん)(みたま)結構(けつこう)(かみ)(をしへ)(いた)(おん)(やく)であるぞよ。232祭典(さいてん)拝礼(はいれい)などを(いた)(みたま)は、233天国(てんごく)天人(てんにん)御用(ごよう)であるぞよ。234(しか)(なが)()(くも)りて、235天人(てんにん)(みたま)一人(ひとり)もなくなり、236八衢(やちまた)人間(にんげん)(かみ)御用(ごよう)(いた)して()るぞよ。237世界(せかい)人民(じんみん)(みな)地獄(ぢごく)餓鬼(がき)(みたま)畜生道(ちくしやうだう)(みたま)ばかりであるから、238(この)()がサツパリ(くも)りて(しま)うたぞよ。239(よる)守護(しゆご)であるぞよ。240(この)(やみ)くもの()()()守護(しゆご)といたす(ため)に、241義理(ぎり)天上(てんじやう)因縁(いんねん)のある高姫(たかひめ)身魂(みたま)生宮(いきみや)(いた)して、242三千(さんぜん)世界(せかい)(かま)時節(じせつ)(まゐ)りたぞよ。243変性(へんじやう)男子(なんし)(みたま)日出(ひのでの)(かみ)(あら)はれるについて、244(かみ)から先走(さきばし)りに()してありたぞよ。245そして変性(へんじやう)女子(によし)(みたま)(この)()(くも)らす(みたま)であるぞよ。246(この)(まま)にしておいたなれば、247(この)()泥海(どろうみ)になるより仕様(しやう)がないぞよ。248三千(さんぜん)世界(せかい)救世主(きうせいしゆ)(この)高姫(たかひめ)より(ほか)にないぞよ。249それについては杢助殿(もくすけどの)(みたま)夫婦(ふうふ)(みたま)であるから、250高姫(たかひめ)引添(ひつそ)うて御用(ごよう)させるやうに(てん)大神(おほかみ)からの()仕組(しぐみ)であるぞよ。251初稚姫(はつわかひめ)杢助(もくすけ)(おん)()であるけれども、252(みたま)親子(おやこ)ではないぞよ。253高姫(たかひめ)肉体(にくたい)(じやう)母子(おやこ)となりて()るなれど、254(みたま)から(まを)せば天地(てんち)相違(さうゐ)があるぞよ。255高姫(たかひめ)一番(いちばん)(たか)霊国(れいごく)天人(てんにん)(みたま)であるなれど、256初稚姫(はつわかひめ)八衢(やちまた)(みたま)であるから、257到底(たうてい)258一通(ひととお)りでは(そば)へも()りつけぬなれども、259肉体(にくたい)(なに)()うても、260(あは)れみ(ぶか)結構(けつこう)人間(にんげん)ぢやによつて、261初稚姫(はつわかひめ)(わが)()(いた)して()るぞよ。262初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)改心(かいしん)(いた)されよ。263杢助(もくすけ)()ぢやと(まを)して慢心(まんしん)(いた)すでないぞよ。264それについてはイル、265イク、266サール、267ハル、268テル殿(どの)結構(けつこう)御用(ごよう)(いた)さすぞよ。269(この)筆先(ふでさき)()にも()けず(みづ)にも(おぼ)れぬ金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)であるから、270粗末(そまつ)(いた)したら目眩(めまひ)()るぞよ。271珍彦(うづひこ)(みたま)静子(しづこ)(みたま)(まこと)因縁(いんねん)(わる)(みたま)であるぞよ。272(その)(なか)から(うま)れた(かへで)は、273(まこと)了簡(れうけん)(わる)豆狸(まめだぬき)守護神(しゆごじん)であるから、274(さん)(にん)(とも)(かみ)国替(くにがへ)(いた)さして、275神界(しんかい)でそれぞれの御用(ごよう)(おほ)せつけるぞよ。276(この)筆先(ふでさき)()いた(こと)間違(まちがひ)はないぞよ。277初稚姫(はつわかひめ)改心(かいしん)(いた)して(くだ)さらぬと、278何時(いつ)(ふね)(かへ)るか(わか)らぬぞよ。279可哀相(かあいさう)(もの)なれど、280(みたま)御用(ごよう)さすより仕様(しやう)がないぞよ。281(みづち)(みたま)であるから、282(いま)(まで)はばりてをりたなれど、283善悪(ぜんあく)立別(たてわ)かる時節(じせつ)(まゐ)りて、284高姫(たかひめ)此処(ここ)(あら)はれた以上(いじやう)は、285到底(たうてい)(かな)はぬぞよ。286(みな)(もの)よ、287(この)筆先(ふでさき)をよく(はら)()()みておいて(くだ)されよ。288杢助殿(もくすけどの)高姫(たかひめ)夫婦(ふうふ)になりたと(まを)して、289チヨコチヨコとせせら(わら)ひを(いた)して()るなれど、290人民(じんみん)()りた(こと)でないぞよ。291(かみ)何処(どこ)(まで)()()くから、292取違(とりちがひ)(いた)さぬやうに()用心(ようじん)なされよ。293義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)(かみ)筆先(ふでさき)一分(いちぶ)一厘(いちりん)間違(まちが)ひはないぞよ。294高天原(たかあまはら)霊国(れいごく)天人(てんにん)一番(いちばん)天上(てんじやう)身魂(みたま)であるぞよ。295(また)杢助殿(もくすけどの)には大広木(おほひろき)正宗(まさむね)殿(どの)(みたま)(さづ)けてあるぞよ。296(いま)(まで)摩利支(まりし)(てん)(みたま)(かか)りて()りたなれど、297神界(しんかい)都合(つがふ)により、298義理(ぎり)天上(てんじやう)命令(めいれい)により、299大広木(おほひろき)正宗(まさむね)御用(ごよう)をさして、300常世姫(とこよひめ)肉宮(にくみや)と、301末代(まつだい)結構(けつこう)御用(ごよう)(いた)させるから、302杢助殿(もくすけどの)何事(なにごと)(いた)しても(まを)してもゴテゴテ(まを)すでないぞよ。303(また)初稚姫(はつわかひめ)()(つよ)(みたま)なれども、304日出(ひのでの)(かみ)神力(しんりき)に、305トウトウ往生(わうじやう)(いた)して、306()(あし)のスマートを斎苑(いそ)(やかた)()(かへ)したのは、307まだしも結構(けつこう)であるぞよ。308これからスマートを一息(ひといき)でも、309(この)(ほこら)(もり)大門(おほもん)へよこしてみよれ、310初稚姫(はつわかひめ)(からだ)はビクとも(うご)かぬやうに(いた)してみせるぞよ。311杢助殿(もくすけどの)(みたま)水晶(すいしやう)であるから、312()(あし)()るのは大変(たいへん)()(きら)(あそ)ばすぞよ。313初稚姫(はつわかひめ)()(あし)()れて(まゐ)りたトガメに()つて神罰(しんばつ)(かうむ)り、314(いのち)がなくなる(ところ)でありたなれど、315(かみ)慈悲(じひ)によりて、316杢助殿(もくすけどの)身代(みがは)りに()て、317チツと(ばか)(きず)(いた)させ(ゆる)してやりたぞよ。318これをみて初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)改心(かいしん)(いた)されよ。319(かみ)御恩(ごおん)(おや)御恩(ごおん)とが(わか)らぬやうな(こと)では、320(まこと)(かみ)(そば)へは()りつけぬぞよ。321(あま)慢心(まんしん)(つよ)いので(おや)(そば)()れぬぞよ。322其方(そなた)改心(かいしん)出来(でき)たなれば、323義理(ぎり)天上(てんじやう)取持(とりもち)(いた)して、324杢助殿(もくすけどの)()はしてやるぞよ。325(はや)(みたま)(みが)いて(くだ)されよ、326(かみ)(まへ)(まへ)つに()をつけるぞよ。327義理(ぎり)天上(てんじやう)日出(ひのでの)(かみ)(まを)(こと)間違(まちが)ひはないぞよ。328(この)筆先(ふでさき)義理(ぎり)天上(てんじやう)生神(いきがみ)高姫(たかひめ)生宮(いきみや)這入(はい)りて()いたのであるから、329日出(ひのでの)(かみ)()神体(しんたい)(その)(まま)であるから、330粗末(そまつ)には(いた)されぬぞよ。331もし(うたが)ふなら、332火鉢(ひばち)にくべてみよれ、333()けは(いた)さぬぞよ。334それで(まこと)生神(いきがみ)といふ(こと)(わか)るぞよ。335ぢやと(まを)して、336(けが)れた人民(じんみん)()で、337いらうたら、338()けぬとも(かぎ)らぬから、339余程(よほど)大切(たいせつ)(きよ)らかにして(くだ)されよ』
340()(をは)り、
341イル『ハツハハハ、342(うま)(こと)仰有(おつしや)るワイ、343()にも()けぬ(みづ)にも(おぼ)れぬと仰有(おつしや)つた筆先(ふでさき)が、344パツと()けたのだからたまらぬワイ。345イヒヒヒヒ、346これでは日出(ひのでの)(かみ)も、347サツパリ駄目(だめ)だなア』
348サール『それでも……(けが)れた人民(じんみん)(さは)りたら、349()けるかも()れぬぞよ……と()いてあつたぢやないか』
350イル『ハハハ、351そこが高姫(たかひめ)予防線(よばうせん)だ。352引掛戻(ひつかけもど)しの所謂(いはゆる)仕組(しぐみ)をやつてゐよるのだ。353()(かく)小気味(こぎみ)のよい(こと)だなア』
354 サールは、355いつの()にやら廊下(らうか)見張(みはり)(わす)れて、356イルの(まへ)(かしら)(あつ)()いて()た。357そこへ高姫(たかひめ)筆先(ふでさき)(こゑ)聞付(ききつ)けて、358足音(あしおと)(しの)ばせ、359半分(はんぶん)(あま)(すゑ)(はう)障子(しやうじ)(そと)から()(をは)り、
360高姫『コレ、361(まへ)(たち)362(いま)(なに)()うてゐたのだい』
363 この(こゑ)に、364イルは(おどろ)いて(しり)(した)(かく)し、365素知(そし)らぬ(かほ)して(その)(うへ)(すわ)つてゐる。
366高姫『コレ、367(この)障子(しやうじ)一寸(ちよつと)あけておくれ、368(いま)(なに)()つてゐたのだい。369筆先(ふでさき)拝読(いただ)いて()つたのだらう。370そして大変(たいへん)義理(ぎり)天上(てんじやう)さまの悪口(わるくち)()つて()つたぢやないか』
371 イルは小声(こごゑ)で、
372イル『オイ、373サール、374貴様(きさま)(ばん)をすると(ぬか)しよつて、375こんな(ところ)這入(はい)つてけつかるものだから、376これ()ろ、377とうと見付(みつ)けられたでないか』
378サール『ウン、379マア仕方(しかた)がないサ、380……ヤア高姫(たかひめ)(さま)381ようこそお()(くだ)されました。382サ、383這入(はい)(くだ)さいませ』
384突張(つつぱり)のかうてあつた障子(しやうじ)をサツと(ひら)いた。385高姫(たかひめ)受付(うけつけ)()へヌツと這入(はい)つて()た。
386高姫『コレ、387イルさま、388(まへ)389筆先(ふでさき)(うつ)さぬと()つたぢないか。390(いま)()んで()つたのは(なん)だいなア』
391イル『ハイ、392日出(ひのでの)(かみ)(さま)が、393(まへ)体内(たいない)にイルと仰有(おつしや)いまして、394(しばら)くすると、395あんな(こと)(わたし)(くち)から仰有(おつしや)つたので(ござ)います。396(まこと)結構(けつこう)()神勅(しんちよく)(ござ)いましたよ。397そして(また)(がま)守護神(しゆごじん)(わたし)肉体(にくたい)這入(はい)り、398高姫(たかひめ)(さま)天上(てんじやう)(さま)(わる)(こと)(まを)しますので、399イヤもう(こま)りました。400何卒(どうぞ)(ひと)鎮魂(ちんこん)をして(くだ)さいな』
401高姫日出(ひのでの)(かみ)さまなどと、402悪神(あくがみ)がお(まへ)(だま)して真似(まね)(いた)すのだらう。403それだからシツカリ(いた)さぬと悪魔(あくま)(ねら)はれると、404何時(いつ)(まを)してあらうがな。405エーエ(こま)つた(こと)だ、406サ、407そこを一寸(ちよつと)()ちなされ。408日出(ひのでの)(かみ)鎮魂(ちんこん)をして()げるから……』
409イル『イー、410ウーン、411一寸(ちよつと)ここは退()(わけ)には()きませぬ、412(しり)白根(しらね)()りましたので、413(しびれ)()れて()うする(こと)出来(でき)ませぬ。414何卒(どうぞ)(また)(あと)から鎮魂(ちんこん)して(くだ)さいな。415ああ高姫(たかひめ)さま、416あの(そと)御覧(ごらん)なさいませ、417(おほ)きな(わし)子供(こども)をくはへて、418それそれ(とほ)ります』
419高姫(たかひめ)視線(しせん)(そと)()け、420手早(てばや)(しり)()いた(うつ)しの筆先(ふでさき)(ふところ)()()み、421(せき)()へようとした。422されど(あま)(あわ)てて、423二冊(にさつ)(うま)(ふところ)這入(はい)つたが、424まだ一冊(いつさつ)(しり)(した)(のこ)つて()る。
425高姫『コレ、426イル、427そんな(こと)(まを)して、428(この)高姫(たかひめ)(そと)()かせておき、429(その)()(なん)だか(ふところ)(かく)したぢやらう、430サ、431(その)(ふところ)()せて御覧(ごらん)
432イル『ヘー、433()(ふところ)(わたし)(ふところ)(ござ)います。434何程(なにほど)一軒(いつけん)(うち)住居(ぢゆうきよ)して()つても、435(ふところ)(べつ)ですからな。436珍彦(うづひこ)(さま)会計(くわいけい)して(くだ)さるので、437(わたし)(ふところ)まで()詮議(せんぎ)()りますまい』
438高姫一寸(ちよつと)439(まへ)さま、440(めう)なものが(うつ)つてゐるから、441鎮魂(ちんこん)して()げよう。442(わたし)(すわ)らにやならぬから、443一寸(ちよつと)退()いて(くだ)さい。444(まへ)さまが一番(いちばん)正座(しやうざ)(すわ)ると()(こと)(みち)(ちが)ひますぞや』
445イル『ハイ、446承知(しようち)(いた)しました。447ああ杢助(もくすけ)さまが(かど)(とほ)らつしやるわいな』
448()ひながら、449(しり)(した)(のこ)りの筆先(ふでさき)をグツと()り、450(ふところ)()れようとした。451高姫(たかひめ)今度(こんど)(その)()()らず、452イルの態度(たいど)熟視(じゆくし)して()つたから、453たまらぬ。454矢庭(やには)にイルの(ふところ)()()れ、455三冊(さんさつ)(うつ)しの筆先(ふでさき)(つか)()し、456キリキリと(まる)めて、457イルの(はな)といはず、458()()はず、459滅多打(めつたうち)打据(うちす)ゑ、
460高姫『オホホホホ、461(あく)(たく)みの(あら)はれ(ぐち)462日出(ひのでの)(かみ)には(かな)ひますまいがな。463(やが)沙汰(さた)(いた)すから、464其処(そこ)()つて()るがよからうぞ。465イク、466ハル、467テル、468サールも同類(どうるゐ)だ。469(いま)杢助(もくすけ)さまと相談(さうだん)して、470沙汰(さた)(いた)すから()つてゐなさい』
471憎々(にくにく)しげに(にら)みつけ、472(ふところ)()()んで、473サツサと(わが)居間(ゐま)(かへ)()く。474(あと)見送(みおく)つて()(にん)(あたま)()き、475冷汗(ひやあせ)()きながら、
476五人(イル、イク、ハル、テル、サール)『あああ、477サーツパリ源助(げんすけ)だ、478ウンウン、479イヒヒヒヒ』
480大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 松村真澄録)
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