イルは大速力で筆先を写し終おわると、三宝に乗せて高姫のところに持ってきた。そしてわざと荘重な言葉使いで神がかりの真似をして高姫をからかうが、高姫はイルが気違いになったと悪口して三宝をひったくろうとした。
イルはわざと三宝を握りしめたので、脚が音を立てて二つに割れた。その勢いで筆先は宙をかすめて炭火の中へぱっと落ち、たちまち三冊の筆先は煙となってしまった。高姫は怒ったが、イルは神徳が高いから筆先から煙の竜が出て天上に立ち上ったのだととっさにゴマをすった。高姫は勢いをそがれてしまった。
高姫は気を取り直して筆先の写しを持ってくるようにイルに命じたが、イルは、筆先のご神徳が高すぎて後光がさし、写せなかったと高姫をからかった。イルの上げては落とすからかいに、最後には高姫は顔を真っ赤にして去るようにと怒鳴った。
イルが受付に戻ると、ハル、テル、イク、サールの四人が筆先の写しをげらげら笑いながら読んでいる。イルは、高姫の態度が気に食わなかったから、筆先の元の本が燃えてしまっても、筆先を写してあることを言わなかったのだと伝えた。
それを聞いたハルたちは面白がって、ひとつここで筆先を大声で読んでやろうと言い出した。イルも賛成し、大声で読み始めた。筆先には、これは火にも焼けない水にも溺れないと書いてあったことを引いて、一同は面白がっている。
そこへ高姫が筆先の朗読の声を聞きつけてやってきて、今義理天上の悪口を言っていたのではないか、と声をかけた。筆先を読んでいたのではないかと問う高姫に対し、イルは日の出神様が体内に入り、しばらくするとあんなことを自分の口から仰ったのだととぼけた。
イルは、高姫の注意をそらしたすきに、尻の下に隠していた筆先の写しを懐に入れた。しかし高姫はそれに気が付いて懐から筆先の写しを掴みだすと、イルをやたらに打ち据えて、憎々しげに高笑いし、杢助と相談して処分すると捨て台詞をして去って行った。
五人をそれを見送って、頭をかき冷や汗を拭きながら笑っている。