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霊界物語
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第51巻(寅の巻)
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第61巻(子の巻)
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第71巻(戌の巻)
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
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第18巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 弥仙の神山
01 春野の旅
〔629〕
02 厳の花
〔630〕
03 神命
〔631〕
第2篇 再探再険
04 四尾山
〔632〕
05 赤鳥居
〔633〕
06 真か偽か
〔634〕
第3篇 反間苦肉
07 神か魔か
〔635〕
08 蛙の口
〔636〕
09 朝の一驚
〔637〕
10 赤面黒面
〔638〕
第4篇 舎身活躍
11 相身互
〔639〕
12 大当違
〔640〕
13 救の神
〔641〕
第5篇 五月五日祝
14 蛸の揚壺
〔642〕
15 遠来の客
〔643〕
16 返り討
〔644〕
17 玉照姫
〔645〕
霊の礎(四)
余白歌
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第18巻
> 第1篇 弥仙の神山 > 第2章 厳の花
<<< 春野の旅
(B)
(N)
神命 >>>
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第二章
厳
(
いづ
)
の
花
(
はな
)
〔六三〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
篇:
第1篇 弥仙の神山
よみ(新仮名遣い):
みせんのみやま
章:
第2章 厳の花
よみ(新仮名遣い):
いずのはな
通し章番号:
630
口述日:
1922(大正11)年04月24日(旧03月28日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
爺の豊彦は、一行を自分のあばら家に案内した。豊彦の息子は真名井参りの途中でバラモン教にさらわれて、今は生死もわからないという。
また娘は理由のわからない業病にかかり、十八ケ月も伏せっているという。先だってここを訪れた英子姫によると、これは病気ではなく妊娠だと言われたが、まったく心当たりがない。
悦子姫が見立てて、確かに妊娠であることを確認した。十八ケ月前、夢で白髪の老人が五つの玉を与え、それをお玉に飲ませる夢を親子ともども見た後から、腹が膨れてきたのだという。
悦子姫は、立派な神様の霊魂が宿っているのを見抜いた。そして、厳の御魂の大神がお生まれになる、と診断した。
そのとたん娘のお玉は起き上がり、白髪の神様からも、「七人の女の随一、厳の御霊の誕生」を告げられた、と明かす。そして陣痛を訴え始めた。
悦子姫が取り上げて、無事に女の子が生まれた。悦子姫は女児に、玉照姫と名前をつけた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-03-07 02:20:54
OBC :
rm1802
愛善世界社版:
33頁
八幡書店版:
第3輯 649頁
修補版:
校定版:
34頁
普及版:
15頁
初版:
ページ備考:
001
山
(
やま
)
と
山
(
やま
)
との
迫
(
せま
)
りたる
002
春野
(
はるの
)
の
花
(
はな
)
に
右左
(
みぎひだり
)
003
白
(
しろ
)
や
紫
(
むらさき
)
黄金
(
こがね
)
なす
004
男蝶
(
をてふ
)
女蝶
(
めてふ
)
の
翩翻
(
へんぽん
)
と
005
常世
(
とこよ
)
の
春
(
はる
)
を
舞
(
ま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ぶ
006
紫雲英
(
げんげ
)
の
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
き
満
(
み
)
ちた
007
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
の
田圃道
(
たんぼみち
)
008
景色
(
けしき
)
も
殊
(
こと
)
に
悦子姫
(
よしこひめ
)
009
谷
(
たに
)
の
水音
(
みなおと
)
潺湲
(
せんくわん
)
と
010
遠音
(
とほね
)
に
響
(
ひび
)
く
音彦
(
おとひこ
)
や
011
加米彦
(
かめひこ
)
夏彦
(
なつひこ
)
諸共
(
もろとも
)
に
012
白髪
(
しらが
)
親爺
(
おやぢ
)
の
豊彦
(
とよひこ
)
が
013
賤
(
しづ
)
の
伏屋
(
ふせや
)
へ
徐々
(
しづしづ
)
と
014
石
(
いし
)
の
田楽橋
(
でんがくばし
)
を
越
(
こ
)
え
015
蒲公英
(
たんぽぽ
)
の
花
(
はな
)
を
踏
(
ふ
)
みすだき
016
半
(
なかば
)
倒
(
たふ
)
れた
萱
(
かや
)
の
家
(
や
)
の
017
漸
(
やうや
)
う
表門
(
おもて
)
に
着
(
つ
)
きにける。
018
豊彦
(
とよひこ
)
は、
019
三
(
さん
)
月
(
ぐわつ
)
の
菱餅
(
ひしもち
)
の
様
(
やう
)
になつた
門口
(
かどぐち
)
の
戸
(
と
)
を
敲
(
たた
)
いて、
020
豊彦
『オイオイ、
021
お
婆
(
ばば
)
、
022
お
客
(
きやく
)
さまだ、
023
早
(
はや
)
う
開
(
あ
)
けぬか』
024
婆
(
ばば
)
(豊姫)
『
豊彦
(
とよひこ
)
どのか、
025
マアマア
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
され、
026
敷居
(
しきゐ
)
も
鴨居
(
かもゐ
)
も
斜
(
はすかい
)
になり、
027
戸
(
と
)
を
噛
(
か
)
みて
一寸
(
ちよつと
)
やそつとにや
開
(
あ
)
きはせぬ。
028
お
玉
(
たま
)
はお
玉
(
たま
)
で
身体
(
からだ
)
は
自由
(
じいう
)
にならず、
029
爺
(
ぢい
)
どの、
030
お
前
(
まへ
)
も
外
(
そと
)
から
力
(
ちから
)
を
添
(
そ
)
へて
下
(
くだ
)
さい。
031
アーア
貧乏
(
びんばふ
)
すると
戸
(
と
)
までが
嫌
(
いや
)
相
(
さう
)
に
歪
(
ゆが
)
み
出
(
だ
)
すなり、
032
壁
(
かべ
)
は
身上
(
しんじやう
)
の
痩
(
や
)
せたせいか
骨
(
ほね
)
を
出
(
だ
)
すなり、
033
情
(
なさけ
)
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
だ、
034
コンナ
茅屋
(
あばらや
)
にソンナ
立派
(
りつぱ
)
なお
客
(
きやく
)
さまに
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
うた
処
(
ところ
)
で、
035
腰
(
こし
)
を
掛
(
か
)
けて
貰
(
もら
)
ふ
処
(
ところ
)
もありやせぬワ』
036
豊彦
(
とよひこ
)
は
婆
(
ばば
)
アと
共
(
とも
)
に
内
(
うち
)
と
外
(
そと
)
から
年寄
(
としより
)
の
金剛力
(
こんがうりき
)
を
出
(
だ
)
し、
037
左
(
ひだり
)
の
方
(
かた
)
へグイツとしやくつた
其
(
その
)
途端
(
とたん
)
に、
038
半
(
なかば
)
破
(
やぶ
)
れた
古戸
(
ふるど
)
は
敷居
(
しきゐ
)
を
外
(
はづ
)
れてバタリと
中
(
なか
)
へ
転
(
こ
)
け
込
(
こ
)
みたり。
039
豊彦
(
とよひこ
)
『エーエ、
040
気
(
き
)
の
利
(
き
)
かぬ
婆
(
ばば
)
だ、
041
戸倒
(
とたふ
)
しものだナ、
042
サアサお
客
(
きやく
)
さま、
043
ずつと
奥
(
おく
)
へお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
044
加米彦
(
かめひこ
)
は、
045
加米彦
『お
爺
(
ぢい
)
さま、
046
奥
(
おく
)
へ
通
(
とほ
)
れと
云
(
い
)
つたつて
何処
(
どこ
)
に
奥
(
おく
)
があるのだい、
047
門口
(
かどぐち
)
へ
這入
(
はい
)
るなり、
048
もう
裏口
(
うらぐち
)
ぢやないか、
049
ウラナイ
教
(
けう
)
なら
奥
(
おく
)
の
奥
(
おく
)
に
奥
(
おく
)
があり、
050
其
(
その
)
又
(
また
)
奥
(
おく
)
にも
奥
(
おく
)
があるものだが、
051
こら
又
(
また
)
何
(
なん
)
と
狭
(
せま
)
い
箱枕
(
はこまくら
)
の
様
(
やう
)
な
家
(
うち
)
だなア』
052
音彦
(
おとひこ
)
は
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
がり
乍
(
なが
)
ら、
053
音彦
『コラコラ、
054
加米
(
かめ
)
、
055
又
(
また
)
はつしやぎよる、
056
ちつと
沈黙
(
ちんもく
)
せぬかい
失礼
(
しつれい
)
な』
057
加米彦
(
かめひこ
)
『ハイ、
058
如何
(
どう
)
も
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
、
059
加米彦
(
かめひこ
)
の
命令
(
めいれい
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
せないので
困
(
こま
)
る、
060
モシモシお
爺
(
ぢい
)
さま、
061
何卒
(
どうぞ
)
気
(
き
)
に
障
(
さ
)
へて
下
(
くだ
)
さいますな、
062
私
(
わたし
)
の
茅屋
(
あばらや
)
に
這入
(
はい
)
つて
居
(
ゐ
)
るお
客
(
きやく
)
が
申
(
まを
)
したので
御座
(
ござ
)
います』
063
豊彦
『さうだらう、
064
私
(
わたくし
)
の
茅屋
(
あばらや
)
に
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
たお
客
(
きやく
)
の
一人
(
ひとり
)
だ、
065
さう
八釜
(
やかま
)
しく
云
(
い
)
ふと
娘
(
むすめ
)
の
身体
(
からだ
)
に
障
(
さは
)
ります、
066
ちつとお
静
(
しづか
)
にして
下
(
くだ
)
さい』
067
加米彦
(
かめひこ
)
、
068
小声
(
こごゑ
)
になつて、
069
加米彦
『ハイ、
070
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
071
然
(
しか
)
し
余
(
あんま
)
り
軽蔑
(
けいべつ
)
して
下
(
くだ
)
さるな、
072
斯
(
か
)
う
見
(
み
)
えても
娘
(
むすめ
)
の
身体
(
からだ
)
に
障
(
さは
)
る
様
(
やう
)
な
不躾
(
ぶしつけ
)
な
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
しませぬワ』
073
豊彦
(
とよひこ
)
『コレコレ
婆
(
ばば
)
や、
074
座蒲団
(
ざぶとん
)
を
出
(
だ
)
さぬかい、
075
お
茶
(
ちや
)
を
酌
(
く
)
まぬか、
076
モシモシお
姫
(
ひめ
)
さま、
077
何卒
(
どうぞ
)
お
腰
(
こし
)
をかけて
下
(
くだ
)
さいませ』
078
婆
(
ばば
)
(豊姫)
『
皆
(
みな
)
さま、
079
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
080
早速
(
さつそく
)
乍
(
なが
)
らお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
しますが
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
誠
(
まこと
)
に
運
(
うん
)
の
悪
(
わる
)
いもので
御座
(
ござ
)
いまして、
081
一人
(
ひとり
)
の
息子
(
むすこ
)
に
嫁
(
よめ
)
を
貰
(
もら
)
ひ、
082
比沼
(
ひぬ
)
の
真名井
(
まなゐ
)
山
(
さん
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
をさせました
其
(
その
)
途中
(
とちう
)
に、
083
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
とやら
云
(
い
)
ふ
悪人
(
あくにん
)
の
手下
(
てした
)
共
(
ども
)
に
掻攫
(
かつさら
)
はれ、
084
生
(
い
)
きて
居
(
ゐ
)
るか
死
(
し
)
んで
居
(
ゐ
)
るか。
085
今
(
いま
)
に
便
(
たよ
)
りが
御座
(
ござ
)
いませぬ、
086
それに
又
(
また
)
一人
(
ひとり
)
の
妹娘
(
いもうとむすめ
)
は、
087
一年半
(
いちねんはん
)
ほど
前
(
まへ
)
から
身体
(
からだ
)
が
変
(
へん
)
になりまして、
088
酢
(
す
)
い
物
(
もの
)
が
食
(
く
)
ひ
度
(
た
)
いと
云
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
し、
089
腹
(
はら
)
は
段々
(
だんだん
)
、
090
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
太
(
ふと
)
り
出
(
だ
)
し、
091
最早
(
もはや
)
十八
(
じふはち
)
ケ
月
(
げつ
)
にもなりますのに、
092
脹満
(
てうまん
)
でもなければ
子
(
こ
)
でもない
様
(
やう
)
な、
093
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
業病
(
ごふびやう
)
に
罹
(
かか
)
つて
苦
(
くるし
)
みて
居
(
を
)
ります。
094
かう
云
(
い
)
ふ
山奥
(
やまおく
)
の
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
、
095
娘
(
むすめ
)
は
元来
(
もとより
)
臆病者
(
おくびやうもの
)
で、
096
十八
(
じふはつ
)
才
(
さい
)
の
今日
(
こんにち
)
まで
親
(
おや
)
の
側
(
そば
)
を
半時
(
はんとき
)
だつて
離
(
はな
)
れた
事
(
こと
)
はありませぬ、
097
それだから
子
(
こ
)
の
宿
(
やど
)
る
筈
(
はず
)
もなし、
098
腹
(
はら
)
を
抑
(
おさ
)
へて
見
(
み
)
れば
大
(
おほ
)
きな
塊
(
かたまり
)
がゴロゴロと
動
(
うご
)
いて
居
(
ゐ
)
るなり、
099
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
ぢややら
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らず、
100
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
の
為
(
た
)
めに、
101
年寄
(
としより
)
夫婦
(
ふうふ
)
が
泣
(
な
)
きの
涙
(
なみだ
)
で
暮
(
くら
)
して
居
(
を
)
ります。
102
それに
合点
(
がてん
)
のゆかぬは、
103
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
も
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
英子姫
(
ひでこひめ
)
さまとやら
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
が、
104
立派
(
りつぱ
)
な
家来
(
けらい
)
をお
伴
(
つ
)
れ
遊
(
あそ
)
ばして
此
(
この
)
茅屋
(
あばらや
)
へ
立寄
(
たちよ
)
つて
下
(
くだ
)
さいまして、
105
娘
(
むすめ
)
の
容態
(
ようだい
)
をつくづくと
眺
(
なが
)
め、
106
これは
妊娠
(
にんしん
)
だから
大切
(
たいせつ
)
にせよとの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
107
妊娠
(
にんしん
)
なれば
遠
(
と
)
うの
昔
(
むかし
)
に
生
(
うま
)
れて
居
(
を
)
らねばなりませぬが、
108
もう
十八
(
じふはち
)
ケ
月
(
げつ
)
にもなりますのに
何
(
なん
)
の
音沙汰
(
おとさた
)
も
無
(
な
)
し、
109
英子姫
(
ひでこひめ
)
さまの
仰
(
おつ
)
しやるには
四五
(
しご
)
日
(
にち
)
の
間
(
うち
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
を
遣
(
よこ
)
してやるから、
110
それに
頼
(
たの
)
みて
無事
(
ぶじ
)
に
子
(
こ
)
を
生
(
う
)
まして
貰
(
もら
)
へとの
事
(
こと
)
でした。
111
相手
(
あひて
)
も
無
(
な
)
いのに
子
(
こ
)
が
出来
(
でき
)
ると
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が
昔
(
むかし
)
からあるものでせうか』
112
悦子姫
(
よしこひめ
)
『アヽそれは
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
でせう、
113
一寸
(
ちよつと
)
妾
(
わたし
)
が
見
(
み
)
てあげませう』
114
とお
玉
(
たま
)
の
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
ひ、
115
腹
(
はら
)
を
撫
(
な
)
で、
116
悦子姫
『ア、
117
これは
全
(
まつた
)
く
妊娠
(
にんしん
)
です、
118
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
決
(
けつ
)
して、
119
人間
(
にんげん
)
と
人間
(
にんげん
)
との
息
(
いき
)
から
出来
(
でき
)
た
子
(
こ
)
ではありませぬ、
120
何
(
なに
)
か
心当
(
こころあた
)
りは
御座
(
ござ
)
いませぬか』
121
豊彦
(
とよひこ
)
『さう
聞
(
き
)
けば
無
(
な
)
い
事
(
こと
)
もありませぬ、
122
一昨年
(
おととし
)
の
秋
(
あき
)
の
初
(
はじ
)
め、
123
私
(
わたくし
)
の
夢
(
ゆめ
)
に
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
老人
(
らうじん
)
が
此
(
この
)
茅屋
(
あばらや
)
に
訪
(
たづ
)
ねて
御
(
お
)
いでになり、
124
立派
(
りつぱ
)
な
水晶
(
すゐしやう
)
とも
瑠璃
(
るり
)
とも
譬方
(
たとへかた
)
ない
玉
(
たま
)
を
五
(
いつ
)
つ
下
(
くだ
)
さいまして「
之
(
これ
)
をお
前
(
まへ
)
にやるから
娘
(
むすめ
)
に
呑
(
の
)
ましてやれ」と
仰
(
おつ
)
しやいました。
125
そこで
私
(
わたくし
)
は「
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
126
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
斯
(
こ
)
んな
硬
(
かた
)
いものが
呑
(
の
)
めますか」と
尋
(
たづ
)
ねましたら、
127
その
方
(
かた
)
の
云
(
い
)
はれるのには「
俺
(
わし
)
が
呑
(
の
)
ましてやらう、
128
決
(
けつ
)
して
呑
(
の
)
み
難
(
にく
)
い
物
(
もの
)
ではない」と
仰
(
おつ
)
しやつてお
玉
(
たま
)
の
身体
(
からだ
)
をグツと
抱
(
かか
)
へ、
129
胸
(
むね
)
の
辺
(
あた
)
りに
無理
(
むり
)
に
押
(
お
)
し
込
(
こ
)
みなさつたと
思
(
おも
)
へば
目
(
め
)
が
覚
(
さ
)
めました。
130
さうすると
娘
(
むすめ
)
のお
玉
(
たま
)
がウンウンと
魘
(
うな
)
されて
居
(
ゐ
)
るので、
131
揺
(
ゆす
)
り
起
(
お
)
こしてやりますと、
132
お
玉
(
たま
)
の
身体
(
からだ
)
は
一面
(
いちめん
)
、
133
汗
(
あせ
)
びしよ
濡
(
ぬ
)
れになり、
134
私
(
わたくし
)
の
見
(
み
)
た
夢
(
ゆめ
)
と
同様
(
どうやう
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
た、
135
それから
身体
(
からだ
)
が
何
(
なん
)
となく
苦
(
くる
)
しくなつて
堪
(
たま
)
らぬと
云
(
い
)
ひました。
136
何
(
いづ
)
れ
夢
(
ゆめ
)
の
事
(
こと
)
だから
明日
(
あした
)
になつたら
苦
(
くる
)
しいのも
癒
(
なほ
)
るだらうと
云
(
い
)
つて、
137
その
晩
(
ばん
)
寝
(
やす
)
みました。
138
夜
(
よ
)
が
明
(
あ
)
けて
見
(
み
)
ればお
玉
(
たま
)
は
矢張
(
やつぱり
)
ウンウンと
呻
(
うな
)
つて
居
(
を
)
ります。
139
それつきり
十八
(
じふはち
)
ケ
月
(
げつ
)
の
今日
(
こんにち
)
まで、
140
腹
(
はら
)
が
段々
(
だんだん
)
膨
(
ふく
)
れる
許
(
ばか
)
りで、
141
身体
(
からだ
)
の
自由
(
じいう
)
も
利
(
き
)
きませず、
142
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
があればあるもので
御座
(
ござ
)
います、
143
何
(
なに
)
か
悪神
(
あくがみ
)
の
所作
(
しよさ
)
ではありますまいかな』
144
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ヤ、
145
心配
(
しんぱい
)
なされますな、
146
悪神
(
あくがみ
)
どころか
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
霊魂
(
みたま
)
が
宿
(
やど
)
らせられていらつしやいます。
147
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
大神
(
おほかみ
)
が
御
(
おん
)
生
(
うま
)
れになるのでせう。
148
妾
(
わたし
)
が
今
(
いま
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねがひ
)
を
致
(
いた
)
します』
149
と
何事
(
なにごと
)
か
小声
(
こごゑ
)
になつて
頻
(
しき
)
りに
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らしつつある
折
(
をり
)
しも、
150
お
玉
(
たま
)
は『ウン』と
一声
(
いつせい
)
諸共
(
もろとも
)
に
初
(
はじ
)
めて
起
(
お
)
き
直
(
なほ
)
り
夢中
(
むちう
)
になつて、
151
お玉
『ア、
152
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
153
これで
私
(
わたくし
)
も
助
(
たす
)
かります、
154
七
(
しち
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
の
随一
(
ずゐいつ
)
、
155
厳
(
いづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
御
(
ご
)
誕生
(
たんじやう
)
だと
何時
(
いつ
)
やら
見
(
み
)
えた
白髪
(
はくはつ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰
(
おつ
)
しやいました、
156
何卒
(
どうぞ
)
、
157
とり
上
(
あ
)
げの
用意
(
ようい
)
をして
下
(
くだ
)
さいませ、
158
強
(
きつ
)
い
陣痛
(
しきり
)
が
催
(
もよほ
)
して
来
(
き
)
ました』
159
豊彦
(
とよひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
は
吃驚
(
びつくり
)
し、
160
豊彦夫婦
『ヤア、
161
それは
大変
(
たいへん
)
ぢや、
162
早
(
はや
)
く
湯
(
ゆ
)
を
沸
(
わ
)
かさねばなるまい』
163
悦子姫
(
よしこひめ
)
『お
爺
(
ぢい
)
さま、
164
お
婆
(
ば
)
アさま、
165
貴方
(
あなた
)
等
(
ら
)
は
此処
(
ここ
)
にぢつとして
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい、
166
これ
加米彦
(
かめひこ
)
や
夏彦
(
なつひこ
)
さま、
167
早
(
はや
)
くお
湯
(
ゆ
)
を
沸
(
わ
)
かしなさい』
168
加米彦
(
かめひこ
)
『ハイ(
妙
(
めう
)
な
声
(
こゑ
)
で)ナア
夏彦
(
なつひこ
)
、
169
どうで
碌
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
ぢや
無
(
な
)
いと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つた、
170
コンナ
山奥
(
やまおく
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
てお
産
(
さん
)
の
湯
(
ゆ
)
まで
沸
(
わ
)
かさして
頂
(
いただ
)
くとは、
171
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らぬ
光栄
(
くわうえい
)
ぢやないか』
172
夏彦
(
なつひこ
)
『ソンナ
勿体
(
もつたい
)
ない
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふものぢやない、
173
結構
(
けつこう
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
出産
(
しゆつさん
)
遊
(
あそ
)
ばすのぢや、
174
その
御用
(
ごよう
)
の
端
(
はし
)
に
使
(
つか
)
うて
貰
(
もら
)
ふのは
余程
(
よほど
)
の
因縁
(
いんねん
)
ぢや
無
(
な
)
くちや、
175
コンナ
御用
(
ごよう
)
が
仰
(
あふ
)
せ
付
(
つ
)
かるものかいヤイ、
176
あら
有難
(
ありがた
)
い
辱
(
かたじけ
)
ない』
177
お
玉
(
たま
)
『ウンウン』
178
音彦
(
おとひこ
)
『サア
早
(
はや
)
く、
179
加米彦
(
かめひこ
)
、
180
夏彦
(
なつひこ
)
、
181
湯
(
ゆ
)
を
沸
(
わ
)
かして
上
(
あ
)
げぬかい』
182
加米彦、夏彦
『ハイハイ』
183
と
破
(
わ
)
れ
鍋
(
なべ
)
に
水
(
みづ
)
を
盛
(
も
)
り、
184
閉蓋
(
とぢぶた
)
をチヤンとのせ、
185
薪
(
たきぎ
)
をポキポキ
折
(
を
)
つて
火鉢
(
ひばち
)
の
火
(
ひ
)
を
吹
(
ふ
)
き
点
(
つ
)
け、
186
座蒲団
(
ざぶとん
)
で
風
(
かぜ
)
をおこし、
187
湯沸
(
ゆわ
)
かしに
全力
(
ぜんりよく
)
を
注
(
そそ
)
いで
居
(
ゐ
)
る。
188
忽
(
たちま
)
ち
聞
(
きこ
)
ゆる
赤子
(
あかご
)
の
声
(
こゑ
)
、
189
赤子
『ほぎやア ほぎやア ほぎやア』
190
悦子姫
『アヽ
目出度
(
めでた
)
い
目出度
(
めでた
)
い、
191
サア
腹帯
(
はらおび
)
を
締
(
し
)
めてあげよう』
192
と
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
甲斐
(
かひ
)
々々
(
がひ
)
しくお
玉
(
たま
)
の
後
(
うしろ
)
に
廻
(
まは
)
り、
193
グツと
腹帯
(
はらおび
)
を
締
(
し
)
め、
194
悦子姫
『サア
之
(
これ
)
でもう
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です、
195
お
爺
(
ぢい
)
さま、
196
お
婆
(
ば
)
アさま、
197
ご
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
198
爺
(
ぢい
)
、
199
婆
(
ばば
)
(豊彦、豊姫)
『ハイハイ、
200
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
201
とりあげ
迄
(
まで
)
させまして
誠
(
まこと
)
に
何
(
なん
)
とも
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います』
202
音彦
『サア
湯
(
ゆ
)
が
沸
(
わ
)
いた
様
(
やう
)
です、
203
どれどれ
私
(
わたくし
)
が
湯
(
ゆ
)
を
浴
(
あぶ
)
せてやりませう、
204
ヤア
何
(
なん
)
と
長
(
なが
)
い
事
(
こと
)
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
居
(
ゐ
)
られたせいか、
205
立派
(
りつぱ
)
なお
子
(
こ
)
さまだワイ』
206
と
音彦
(
おとひこ
)
は
赤子
(
あかご
)
を
両手
(
りやうて
)
に
抱
(
かか
)
へ、
207
湯
(
ゆ
)
の
手加減
(
てかげん
)
をした
上
(
うへ
)
、
208
悦子姫
(
よしこひめ
)
と
共
(
とも
)
に
行水
(
ぎやうずゐ
)
をさせる。
209
赤子
(
あかご
)
は
盥
(
たらひ
)
の
中
(
なか
)
で、
210
火
(
ひ
)
でも
身体
(
からだ
)
に
焦
(
こげ
)
ついた
様
(
やう
)
に
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をして
泣
(
な
)
き
立
(
た
)
て
居
(
ゐ
)
る。
211
悦子姫
(
よしこひめ
)
はいそいそとして、
212
悦子姫
『ア、
213
立派
(
りつぱ
)
な
丈夫
(
ぢやうぶ
)
なお
子
(
こ
)
さまだ。
214
お
爺
(
ぢい
)
さま、
215
お
婆
(
ば
)
アさま、
216
お
玉
(
たま
)
さま、
217
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませよ』
218
三
(
さん
)
人
(
にん
)
黙然
(
もくねん
)
として
涙
(
なみだ
)
を
零
(
こぼ
)
し
俯向
(
うつむ
)
き
居
(
ゐ
)
る。
219
加米彦
『
何
(
なん
)
と
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
があるものぢや
無
(
な
)
いか、
220
ナア
夏彦
(
なつひこ
)
、
221
十八
(
じふはち
)
ケ
月
(
げつ
)
で
子
(
こ
)
が
出来
(
でき
)
るとは
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
だ。
222
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
節季
(
せつき
)
が
来
(
く
)
ると
何時
(
いつ
)
も
たらい
(
不足
(
たらひ
)
)で
泣
(
な
)
くが、
223
此
(
この
)
赤
(
あか
)
ン
坊
(
ばう
)
は、
224
ほンのりと
温
(
ぬく
)
う
暖
(
あたた
)
まつて
矢張
(
やつぱり
)
たらい
(
盥
(
たらひ
)
)で
泣
(
な
)
くのだな、
225
アハヽヽヽ』
226
夏彦
(
なつひこ
)
『コラコラ
加米
(
かめ
)
、
227
又
(
また
)
そンな
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しよると、
228
お
玉
(
たま
)
さまの
身体
(
からだ
)
に
障
(
さは
)
つたら
如何
(
どう
)
するのだ』
229
加米彦
『
さはる
のは
加米
(
かめ
)
とはお
役
(
やく
)
が
違
(
ちが
)
ふ
哩
(
わい
)
、
230
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまが
さは
つて
御座
(
ござ
)
るぢやないか、
231
アハヽヽヽ』
232
音彦
(
おとひこ
)
『コラコラ
両人
(
りやうにん
)
、
233
静
(
しづか
)
にせぬか』
234
夏彦、加米彦
『ハイ
畏
(
かしこ
)
まりました』
235
お
玉
(
たま
)
『
皆様
(
みなさま
)
、
236
いかい
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりました。
237
生
(
で
)
けた
子
(
こ
)
は
男
(
をとこ
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
238
女
(
をんな
)
で
御座
(
ござ
)
いますか』
239
音彦
(
おとひこ
)
『オヽ、
240
さうさう、
241
あまり
嬉
(
うれ
)
しうて
調査
(
てうさ
)
するのを
失念
(
しつねん
)
して
居
(
ゐ
)
た。
242
アア
折角
(
せつかく
)
乍
(
なが
)
ら
割
(
わ
)
れて
居
(
ゐ
)
ますワ』
243
豊姫
(
とよひめ
)
『エ、
244
又
(
また
)
女
(
をんな
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
245
矢張
(
やつぱり
)
私
(
わたくし
)
の
家
(
うち
)
は
養子
(
やうし
)
でなければ
治
(
をさ
)
まらぬと
見
(
み
)
えます。
246
伜
(
せがれ
)
に
嫁
(
よめ
)
を
貰
(
もら
)
つて
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がさうと
思
(
おも
)
へば、
247
最前
(
さいぜん
)
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
り
行衛
(
ゆくへ
)
は
分
(
わか
)
らず、
248
矢張
(
やつぱり
)
妹
(
いもうと
)
のお
玉
(
たま
)
に
養子
(
やうし
)
をせねばなりませぬ、
249
今度
(
こんど
)
生
(
うま
)
れた
総領
(
そうりやう
)
も
養子
(
やうし
)
を
貰
(
もら
)
ふ
様
(
やう
)
になりました』
250
加米彦
(
かめひこ
)
、
251
又
(
また
)
もや
はしや
いで、
252
加米彦
『お
爺
(
ぢい
)
さま、
253
お
目出度
(
めでた
)
う、
254
これで
貴方
(
あなた
)
の
家
(
うち
)
の
運
(
うん
)
も
開
(
ひら
)
ける、
255
養子
(
やうし
)
が
三代
(
さんだい
)
続
(
つづ
)
けば
長者
(
ちやうじや
)
になると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ、
256
お
喜
(
よろこ
)
びなさい、
257
私
(
わたくし
)
も
嬉
(
うれ
)
しい、
258
お
目出度
(
めでた
)
い、
259
手
(
て
)
の
舞
(
ま
)
ひ
足
(
あし
)
の
踏
(
ふ
)
む
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らずだ。
260
どつこいしよ どつこいしよ』
261
と
跳上
(
はねあが
)
り
田楽橋
(
でんがくばし
)
を
踏
(
ふ
)
み
外
(
はづ
)
し、
262
小溝
(
こみぞ
)
の
中
(
なか
)
へバサリと
落
(
お
)
ち、
263
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア
折角
(
せつかく
)
の
着物
(
きもの
)
を
濡
(
ぬ
)
らして
仕舞
(
しま
)
つた』
264
夏彦
(
なつひこ
)
『ハヽヽヽ、
265
狼狽者
(
あはてもの
)
だな』
266
悦子姫
(
よしこひめ
)
『もうこれでお
案
(
あん
)
じなさる
事
(
こと
)
は
要
(
い
)
りませぬ、
267
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です。
268
名
(
な
)
はおつけなさいますか』
269
豊彦
(
とよひこ
)
『
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬが、
270
貴女
(
あなた
)
様
(
さま
)
のお
世話
(
せわ
)
になつた
子供
(
こども
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
271
何卒
(
どうぞ
)
お
名
(
な
)
をやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
272
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
273
ソンナラ
妾
(
わたし
)
が
名
(
な
)
をあげませう、
274
玉照姫
(
たまてるひめ
)
とつけませう』
275
豊彦
(
とよひこ
)
、
276
豊姫
(
とよひめ
)
、
277
お
玉
(
たま
)
、
278
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に
口
(
くち
)
を
揃
(
そろ
)
へて、
279
豊彦、豊姫、お玉
『
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
280
悦子姫
(
よしこひめ
)
『サアサア
私
(
わたくし
)
は
之
(
これ
)
からお
山
(
やま
)
へ
参拝
(
さんぱい
)
を
致
(
いた
)
して
参
(
まゐ
)
ります。
281
又
(
また
)
帰
(
かへ
)
りがけに
悠
(
ゆつ
)
くり
伺
(
うかが
)
ひます、
282
左様
(
さやう
)
なら』
283
と
早
(
はや
)
くも
門口
(
かどぐち
)
を
跨
(
また
)
げる。
284
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
何
(
なに
)
も
云
(
い
)
はず
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
して
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
方
(
かた
)
に
向
(
むか
)
つて
拝
(
をが
)
ンで
居
(
ゐ
)
る。
285
音彦
(
おとひこ
)
は、
286
音彦
『サア、
287
加米彦
(
かめひこ
)
、
288
夏彦
(
なつひこ
)
出陣
(
しゆつぢん
)
だ』
289
と
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
旧来
(
もとき
)
し
道
(
みち
)
に
引返
(
ひきかへ
)
し、
290
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
又
(
また
)
もや
道
(
みち
)
に
這
(
は
)
ひ
出
(
で
)
た
急坂
(
きふはん
)
の
木
(
き
)
の
根
(
ね
)
の
段梯子
(
だんばしご
)
を
渡
(
わた
)
つて
奥
(
おく
)
へ
奥
(
おく
)
へと
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
291
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