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第三章 神命(しんめい)〔六三一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第1篇 弥仙の神山 よみ(新仮名遣い):みせんのみやま
章:第3章 神命 よみ(新仮名遣い):しんめい 通し章番号:631
口述日:1922(大正11)年04月24日(旧03月28日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
豊彦・豊姫らの家を出て、山を半分ほど登ったところで日が暮れて暗闇となってきた。一行は枯れ草の混じった禿げた芝生の上に横になって寝についた。
猿の声、大蛇の這うような音、虎狼が唸るような怪声が聞こえてくる。大木が折れるような岩石が崩壊するような凄まじい物音で加米彦は目を覚ました。
加米彦は恐ろしさに夏彦を起こそうとするが、夏彦はこんなことは山の中ではよくあることだと、取り合わない。夏彦はまたいびきをかいて寝てしまったので、加米彦は三人の間に寝て、夜が明けるのを待っていた。
春の夜は早く明けて、一行は朝の禊と拝を行った。そして朝食の後に山を登ると、ほどなくして頂上に達した。
加米彦は絶景を嘆賞していたが、悦子姫は山頂のご神前に暗祈黙祷していた。しばらくして、悦子姫は神勅が下ったので先に行く、と言い残してさっさと山を下ってしまった。
加米彦は慌てて後を追っていく。音彦と夏彦はゆうゆうとご神前に祝詞を上げてからくだり、山の五合目ほどで加米彦に追いついた。
一行は綾の聖地を指して宣伝歌を歌いながら進んで行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-07 02:22:14 OBC :rm1803
愛善世界社版:45頁 八幡書店版:第3輯 653頁 修補版: 校定版:46頁 普及版:21頁 初版: ページ備考:
001 (しづ)伏家(ふせや)(あと)にして、002悦子姫(よしこひめ)一行(いつかう)は、003胸突坂(むなつきざか)をテクテクと、004梯子(はしご)(のぼ)りに(のぼ)()く。005()西山(せいざん)(かたむ)きて、006(ひる)さへ(くら)深山(しんざん)を、007(くろ)色彩(いろど)群烏(むらがらす)008(ねぐら)(たづ)ねて右左(みぎひだり)009ガアガアガアと()(くる)ふ、010見上(みあ)ぐる(そら)(たか)(とんび)011(はね)一文字(いちもんじ)展開(てんかい)し、012悠々(いういう)(せま)らず空中(くうちう)征服(せいふく)せる態度(たいど)(しめ)()る。
013加米彦(かめひこ)『ヤアこれは大変(たいへん)014大切(たいせつ)一張羅(いつちやうら)宣伝使(せんでんし)(ふく)(とび)(やつ)015(くそ)をかけよつた。016(じつ)糞懣(ふんまん)(いた)りだ。017オイ(とび)(やつ)018不都合(ふつがふ)千万(せんばん)019一先(ひとま)此方(こつち)()(もど)せ、020天地(てんち)道理(だうり)()(さと)して()れうぞ』
021夏彦(なつひこ)『アハヽヽヽ、022ウフヽヽヽ』
023音彦(おとひこ)(なん)とか()はねば(むし)(をさ)まらぬ(をとこ)だなア、024何程(なにほど)人間(にんげん)(えら)いと()うても、025空中(くうちう)自由(じいう)自在(じざい)翺翔(かうしよう)するだけの神力(しんりき)()いから、026(だま)つて()寝入(ねい)るが利巧(りかう)だなア』
027加米彦(かめひこ)『エヽ忌々(いまいま)しい、028音彦(おとひこ)さま(まで)(とび)応援(おうゑん)をしたり、029水臭(みづくさ)(ひと)だ。030(くそ)忌々(いまいま)しい、031アヽ(くさ)()(さい)十八(じふはち)(さい)だ』
032音彦(おとひこ)大変(たいへん)其辺(そこら)(くら)くなつて()たぢやないか、033(みち)紛失(ふんしつ)しないやうに、034()(しやく)(くらゐ)距離(きより)(たも)つて()(こと)にしよう』
035加米彦(かめひこ)何程(なにほど)(くら)くつても、036苦楽(くらく)(とも)にする吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)だ、037かういふ(とき)には加米彦(かめひこ)には大変(たいへん)都合(つがふ)がよい(わい)038無形(むけい)()ると()天眼通(てんがんつう)(ひら)けて御座(ござ)らぬノダ。039オイ夏彦(なつひこ)040(おれ)(こし)(つか)まへて()るのだぞ、041貴様(きさま)(からだ)(ちひ)さいから、042ひよつとすると(ふき)()(した)にでもなると、043(わか)らぬやうになるからなア』
044夏彦(なつひこ)『お(まへ)045それでもエロー(からだ)動揺(どうえう)して()るぢやないか、046(いづ)歩行(ほかう)すれば全身(ぜんしん)動揺(どうえう)するものだが、047(まへ)動揺振(どうえうぶり)はチト(へん)だぞ、048(ふる)うとるのぢやないかな』
049加米彦(かめひこ)()うでもよいワ、050(しつか)りと(おれ)(こし)(つか)まへて()るのだ、051(はな)しちやならぬぞ』
052夏彦(なつひこ)『ハヽヽヽヽ、053随分(ずゐぶん)()けぬ()(をとこ)だなア、054(こわ)いのだらう』
055加米彦(かめひこ)『こわいともこわいとも、056(きびす)(かは)大変(たいへん)(こわ)(わい)
057音彦(おとひこ)悦子姫(よしこひめ)さま、058かう(やみ)(とばり)がピタリと()りては仕方(しかた)()いぢや御座(ござ)いませぬか、059(よる)になると()()えない人間(にんげん)不自由(ふじゆう)ですなア』
060悦子姫(よしこひめ)何処(どこ)適当(てきたう)場所(ばしよ)()()かしませうか、061最早(もはや)(やま)半分(はんぶん)ばかり(のぼ)つたやうですが、062どうせ今日(けふ)参拝(さんぱい)()まして(かへ)(わけ)には()きますまいから』
063加米彦(かめひこ)『アヽ()()えぬ人間(にんげん)()(どく)なものだ、064(めくら)(せん)(にん)()(なか)とはよくも()つたものだ。065目明(めあ)一人(ひとり)加米彦(かめひこ)仕方(しかた)()いワ、066交際(おつきあひ)此処(ここ)御輿(みこし)(おろ)さうかい』
067夏彦(なつひこ)『オイ加米彦(かめひこ)068(なに)()ふのだ、069実際(じつさい)()()えるのか』
070加米彦(かめひこ)()えるとも()えるとも、071()()えぬ(やつ)(めくら)ぢやないか』
072夏彦(なつひこ)『ハヽア此奴(こいつ)()(あし)身魂(みたま)だな、073(くら)がりで()()える(やつ)(きつね)074(たぬき)075(いたち)(ねこ)か、076(また)(ちが)うたら(とら)077(くま)078(おほかみ)()代物(しろもの)だ。079オイ四足(よつあし)先生(せんせい)080今日(けふ)十分(じふぶん)威張(ゐば)るとよい(わい)081何処(どこ)其辺(そこら)(うさぎ)でも()つたら(さが)して丸喰(まるぐ)ひなとして()い』
082加米彦(かめひこ)(たれ)だつて()()えるが、083それや()(とも)すか、084()()けた(うへ)のこつた、085アハヽヽヽ』
086夏彦(なつひこ)大分(だいぶん)四足(よつあし)(こた)へたと()える(わい)087ソンナラもう四足(よつあし)称号(しやうがう)だけは只今(ただいま)(かぎ)り、088特別(とくべつ)仁慈(じんじ)をもつて解除(かいぢよ)してやらうかい』
089加米彦(かめひこ)(おほ)きに(はばか)りさま、090(いま)他人(たにん)ぢや、091()つて()いてくれ、092(また)()親類(しんるゐ)になつたら宜敷(よろし)うお(ねが)(まを)します、093オホヽヽヽ』
094悦子姫(よしこひめ)『モシモシ加米彦(かめひこ)さま、095夏彦(なつひこ)さま、096さう(やかま)しう仰有(おつしや)ると(この)(やま)にはだいじや沢山(たくさん)()ますから、097(ちつ)おとなしうなされませや』
098加米彦(かめひこ)『ハイハイ、099(なに)()たつてだいじや御座(ござ)いませぬ、100元来(ぐわんらい)豪胆(がうたん)不敵(ふてき)性質(うまれつき)101(なが)先生(せんせい)102千匹(せんびき)万匹(まんびき)(たば)になつてお(いで)になつても、103(ちつ)ともおろちい(こと)はありませぬ(わい)
104音彦(おとひこ)『エヽ(やかま)しい(わい)105沈黙(ちんもく)々々(ちんもく)
106 (ここ)()(にん)去年(こぞ)名残(なごり)枯草(かれくさ)(まじ)つた、107中年増(ちうどしま)頭髪(とうはつ)のやうな芝生(しばふ)(うへ)に、108右腹(みぎはら)(した)(あし)()(からだ)字形(じがた)につがねて(しづ)かに(しん)につきたり。
109 (こずゑ)(つた)(ましら)(むれ)110幾百(いくひやく)とも()らず、111前後(ぜんご)左右(さいう)にキヤツキヤツと亡国(ばうこく)(てき)啼声(なきごゑ)()して(さび)しさを()へてゐる。112(かぜ)()かぬにザアザアと大蛇(をろち)草野(くさの)(わた)るやうな(こゑ)113(とら)(おほかみ)(うな)るやうな怪声(くわいせい)114遠近(をちこち)(きこ)()たり、115大木(たいぼく)捻折(ねぢお)(おと)116大岩石(だいがんせき)一度(いちど)崩壊(ほうくわい)する(ごと)(すさま)じき物音(ものおと)加米彦(かめひこ)()()まし、117小声(こごゑ)になつて夏彦(なつひこ)(みみ)(くち)()せ、
118加米彦『オイ、119なゝ(なつ)120(なつ)121夏彦(なつひこ)ヤイ』
122 ()123カチカチカチ、
124加米彦『オヽ()きぬかい、125あの(おと)126きゝ()きよつたか』
127夏彦(なつひこ)(やかま)しう()ふない、128悦子姫(よしこひめ)(さま)安眠(あんみん)妨害(ばうがい)になるぞ、129貴様(きさま)コンナ深山(しんざん)()たら(これ)(くらゐ)(こと)はありがちだよ、130キヤアキヤア()うて(をんな)でも()(ころ)すやうな(こゑ)のするのは、131あれや(さる)(むれ)だ、132ザアザアと(おと)のするのは大蛇隊(だいじやたい)大活動(だいくわつどう)(おと)だ、133オンオンオンと(うな)つて()るのはあれや(おほかみ)(くま)先生(せんせい)いきつ()るのだよ、134()(えだ)()けるやうな(おと)がしたり、135岩石(がんせき)崩壊(ほうくわい)したりするやうな(こゑ)(きこ)えるのは鼻高(はなたか)悪戯(いたづら)だ、136惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)(くち)(なか)(とな)へて(はや)()ぬかい』
137加米彦(かめひこ)(ねえ)()つたつて、138コンナ気味(きみ)(わる)(ところ)安眠(あんみん)出来(でき)ぬぢやないか』
139夏彦(なつひこ)『お(まへ)罪障(ざいしやう)(ふか)(つみ)(おも)代物(しろもの)とみえる(わい)140梟鳥(ふくろどり)夜分(やぶん)になると(はしや)いで(ひる)はコンモリとした()(えだ)(ちい)さくなつて(おほ)きな()()いて(ふる)うて()るが、141(まへ)はそれと正反対(せいはんたい)(ひる)になると滅多(めつた)矢鱈(やたら)(はしや)(まは)し、142(よる)になると(ひる)(しほ)()ませたやうに、143百足(むかで)(つばき)()きかけたやうに(よわ)つて仕舞(しま)ふのだな、144強弱(きやうじやく)のハーモニイが()れぬ(をとこ)だ。145マアマア(おれ)(からだ)にでも(くら)ひついて(ふる)ひもつて()るがよい(わい)
146加米彦(かめひこ)(たの)(たの)む、147(しか)しながらコンナ(こと)を、148音彦(おとひこ)悦子姫(よしこひめ)さまに()うて()れては(こま)るよ、149極秘(ごくひ)にしてお(まへ)(はら)仕舞(しま)つて()いて()れ』
150夏彦(なつひこ)『ヨシヨシ、151承知(しようち)した、152その(かは)(あま)(ひる)になつて無茶(むちや)苦茶(くちや)(はしや)ぐと素破(すつぱ)()くからさう覚悟(かくご)して()れ、153(なん)()つても(かま)()(おれ)(にぎ)つて、154()れる(はう)をお(まへ)(つか)みて()るやうなものだからなア、155アハヽヽヽ』
156加米彦(かめひこ)『ソンナ(おほ)きな(こゑ)(わら)ふない、157安眠(あんみん)妨害(ばうがい)になるぞ、158サアサア()よう』
159 夏彦(なつひこ)(はや)くも高鼾(たかいびき)をかいてゐる。160加米彦(かめひこ)(さん)(にん)中央(ちうあう)(はさ)まつて()()くるのを(いま)(おそ)しと()つて()る。161(あや)しの(こゑ)間断(かんだん)なく、162()時々(じじ)刻々(こくこく)強烈(きやうれつ)(きこ)(きた)る。
163 (はる)()()(やす)く、164(やみ)(とばり)はいつしか(そら)()くり()げられた。165百鳥(ももどり)(こゑ)(さは)がしく(さへづ)(はじ)めたり。166それと同時(どうじ)今迄(いままで)巨声(きよせい)怪音(くわいおん)はピタリと()まりぬ。167加米彦(かめひこ)(また)もや元気(げんき)回復(くわいふく)し、
168加米彦『アヽ(はる)(よさ)()ふものは(みじか)いものだな、169(いま)其処(そこ)()けたと(おも)へばもう()()けよつた。170サアサア音彦(おとひこ)さま、171()()けて手水(てうづ)でも使(つか)つて登山(とざん)しませうか、172もうこれだけぐつすり()たら(ひる)(つか)れもやすまつたでせう。173(わたくし)(つぶ)れる(ほど)よく()仕舞(しま)ひました』
174夏彦(なつひこ)『オヽ本当(ほんたう)(みな)よく()ましたな、175(しか)しこの(なか)(しめ)一人(ひとり)不寝番(ねずばん)(つと)めて()れた忠実(ちうじつ)なお(かた)がありますよ、176悦子姫(よしこひめ)さま、177どうぞ論功(ろんこう)行賞(かうしやう)()れないやうに(たの)みますぜ』
178加米彦(かめひこ)『ウンさうさう、179(すずめ)(やつ)に、180(からす)(やつ)181()(とき)にチウチウガアガア()うて()つた。182矢張(やつぱり)吾々(われわれ)のために不寝番(ねずばん)(つと)めて()れたと()え、183相変(あひかは)らずチウチウカアカアと忠勤振(ちうきんぶり)発揮(はつき)して御座(ござ)る。184ひとり(ふた)とりや、185三羽(さんば)四羽(よは)(とり)ぢやない、186何千(なんぜん)とも()れぬ(ほど)(とり)ぢや』
187夏彦(なつひこ)『ヘン(たれ)()くものがないのにやもめ行水(ぎやうずゐ)ぢやないが、188一人(ひとり)湯取(ゆうと)(わい)189ハヽヽヽ』
190悦子姫(よしこひめ)(いよいよ)191(あたら)しい光明(ひかり)(いただ)けました。192サアサア(さいは)此処(ここ)()いて()清水(しみづ)手水(てみづ)使(つか)つて、193(かみ)(さま)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)しませう』
194(かたはら)清水(しみづ)(くち)(すす)()(あら)ふ。195(さん)(にん)(かげ)(かたち)(したが)(ごと)(おな)(こと)繰返(くりかへ)したり。196祝詞(のりと)奏上(そうじやう)無事(ぶじ)()み、197()(にん)(こし)皮包(かはづつみ)より()(めし)()して手軽(てがる)朝餉(あさげ)をすまし、198悦子姫(よしこひめ)先頭(せんとう)にて頂上(ちやうじやう)目蒐(めが)けて行進(かうしん)199()もなく頂上(ちやうじやう)(たつ)したり。
200 (とし)()りたる老樹(らうじゆ)(しげ)みを()かして田辺(たなべ)(うみ)はキラキラ(ひか)り、201(ふね)白帆(しらほ)右往(うわう)左往(さわう)にまたたき()たり。
202加米彦(かめひこ)(なん)()絶景(ぜつけい)でせう、203悦子姫(よしこひめ)さま、204音彦(おとひこ)さま、205(しばら)(あせ)(かわ)(まで)御輿(みこし)(おろ)して呼吸(いき)調(ととの)へ、206(その)()()祈念(きねん)にかかりませうか』
207(みな)まで()はず、208どつかと(こし)(おろ)(あし)()()し、209膝頭(ひざがしら)()()る。210悦子姫(よしこひめ)徐々(しづしづ)神前(しんぜん)(すす)み、211何事(なにごと)(しき)りに暗祈(あんき)黙祷(もくたう)しつつありき。
212加米彦(かめひこ)(とほ)(ひとみ)(はな)てば千山(せんざん)万嶽(ばんがく)重畳(ちようでふ)として際限(さいげん)()く、213各自(かくじ)にその容姿(ようし)(ほこ)(がほ)に、214特徴(とくちやう)発揮(はつき)して()(わい)215(ちか)きは(あを)く、216(あるひ)はコバルト(いろ)山容(さんよう)(かざ)り、217紺碧(こんぺき)(うみ)眼下(がんか)(かがや)き、218(てん)薄雲(うすぐも)(ころも)()ぎ、219(おく)(おく)(その)(おく)(まで)地金(ぢがね)(あら)はして()る。220(その)中心(ちうしん)名物(めいぶつ)(をとこ)加米彦(かめひこ)(だい)()になつて、221宇宙(うちう)森羅(しんら)万象(ばんしやう)睥睨(へいげい)して()る。222(この)()光景(くわうけい)(あたか)一幅(いつぷく)宇宙(うちう)大活人(だいくわつじん)(ぐわ)のやうだ。223(てん)広々(くわうくわう)として際限(さいげん)なく、224(うみ)洋々(やうやう)として(きは)まりなし、225燕雀(えんじやく)(なん)大鵬(たいほう)(こころざし)()らむ。226エイ、227(つばめ)(やつ)228小雀(こすずめ)餓鬼(がき)229(やかま)しい(わい)230(ちつ)沈黙(ちんもく)(まも)らないか、231安眠(あんみん)の、232オツトドツコイ悦子姫(よしこひめ)(さま)暗祈(あんき)黙祷(もくたう)妨害(ばうがい)になるぞ』
233音彦(おとひこ)『コラコラ加米彦(かめひこ)234(まへ)こそ妨害(ばうがい)になる、235(ちつ)言霊(ことたま)(つつし)まぬか』
236加米彦(かめひこ)『ハイハイ早速(さつそく)言霊(ことたま)停電(ていでん)(めい)じます』
237悦子姫(よしこひめ)『サアサア(みな)さま下向(げかう)(いた)しませう』
238加米彦(かめひこ)『モシモシ、239一寸(ちよつと)()つて(くだ)さい、240折角(せつかく)苦労(くらう)艱難(かんなん)をして頂上(ちやうじやう)()()め、241祝詞(のりと)()げずお(いの)りもせぬ(さき)下向(げかう)されては、242(なに)しに此処迄(ここまで)やつて()たのか(わけ)(わか)りませぬ、243どうぞ(しばら)くの(あひだ)()猶予(いうよ)(ねが)ひます』
244悦子姫(よしこひめ)(わたし)(いま)重大(ぢうだい)なる()神勅(しんちよく)(くだ)りました、245一刻(いつこく)猶予(いうよ)をする(こと)出来(でき)ませぬ、246一足(ひとあし)(さき)(をんな)足弱(あしよわ)247下向(げかう)(いた)します。248貴方(あなた)(がた)(ゆつ)くり祝詞(のりと)()げ、249(あと)から()ひついて(くだ)さい、250アリヨウス』
251加米彦(かめひこ)『エヽ仕方(しかた)がない、252肝腎(かんじん)女王(ぢよわう)見限(みかぎ)られては()かぶ()がない。253何事(なにごと)簡単(かんたん)(たふと)()(なか)ぢや、254繁文(はんぶん)縟礼(じよくれい)(てき)祝詞(のりと)(りやく)しまして、255道々(みちみち)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)しながら下向(げかう)(いた)しませう、256時間(じかん)経済(けいざい)(じやう)一挙(いつきよ)両得(りやうとく)だ』
257周章(あわて)狼狽(ふため)悦子姫(よしこひめ)(あと)()うて、258(くち)祝詞(のりと)(とな)へながら、259(くだ)(ざか)地響(ぢひび)きさせつつ()(くだ)る。
260 音彦(おとひこ)261夏彦(なつひこ)悠々(いういう)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)神言(かみごと)()げ、262(うやうや)しく再拝(さいはい)拍手(はくしゆ)(しき)()下向(げかう)()につく。
263 (やま)五合目(ごがふめ)(あた)りにて一行(いつかう)(あし)(そろ)ひたり。264これより、265加米彦(かめひこ)先頭(せんとう)()(あや)聖地(せいち)()して宣伝歌(せんでんか)(うた)ひながら(すす)()く。
266大正一一・四・二四 旧三・二八 加藤明子録)
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