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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第18巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 弥仙の神山
01 春野の旅
〔629〕
02 厳の花
〔630〕
03 神命
〔631〕
第2篇 再探再険
04 四尾山
〔632〕
05 赤鳥居
〔633〕
06 真か偽か
〔634〕
第3篇 反間苦肉
07 神か魔か
〔635〕
08 蛙の口
〔636〕
09 朝の一驚
〔637〕
10 赤面黒面
〔638〕
第4篇 舎身活躍
11 相身互
〔639〕
12 大当違
〔640〕
13 救の神
〔641〕
第5篇 五月五日祝
14 蛸の揚壺
〔642〕
15 遠来の客
〔643〕
16 返り討
〔644〕
17 玉照姫
〔645〕
霊の礎(四)
余白歌
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第18巻
> 第5篇 五月五日祝 > 第16章 返り討
<<< 遠来の客
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第一六章
返
(
かへ
)
り
討
(
うち
)
〔六四四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
篇:
第5篇 五月五日祝
よみ(新仮名遣い):
ごがついつかのいわい
章:
第16章 返り討
よみ(新仮名遣い):
かえりうち
通し章番号:
644
口述日:
1922(大正11)年04月28日(旧04月02日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
そのさなか、表にけたたましい音がした。梅公が出てみると、そこには常彦、板公、滝公が、青彦と紫姫の本心を確かめようと呼ばわっていた。常彦は、友人たちを邪教から救おうとやってきたのだ、と怒鳴りつける。
常彦は中に入り込み、酒宴の場に現れる。しかし逆に青彦、紫姫に、ウラナイ教になるように、と説得される。あくまで聞かない常彦に対し、青彦は棍棒をくらわせて追い出してしまう。
青彦らを信じきった黒姫は、青彦・紫姫一行に、綾彦とお民を預け、玉照姫と交換してくるように言いつける。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-03-07 12:44:45
OBC :
rm1816
愛善世界社版:
265頁
八幡書店版:
第3輯 735頁
修補版:
校定版:
273頁
普及版:
121頁
初版:
ページ備考:
001
微酔
(
ほろよひ
)
機嫌
(
きげん
)
の
梅公
(
うめこう
)
は
表
(
おもて
)
のけたたましい
物音
(
ものおと
)
に、
002
鹿公
(
しかこう
)
、
003
馬公
(
うまこう
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
走
(
はし
)
り
出
(
い
)
で
見
(
み
)
れば、
004
常彦
(
つねひこ
)
を
始
(
はじ
)
め
滝公
(
たきこう
)
、
005
板公
(
いたこう
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
006
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ
大声
(
おほごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げ
乍
(
なが
)
ら、
007
三人
『
青彦
(
あをひこ
)
、
008
紫姫
(
むらさきひめ
)
をこれへ
出
(
だ
)
せエ』
009
と
呶鳴
(
どな
)
りつけてゐる。
010
梅
(
うめ
)
、
011
ベランメー
口調
(
くてう
)
で、
012
梅公
『なゝゝゝ
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがるのでエ、
013
此処
(
ここ
)
を
何処
(
どこ
)
だと
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
やがるのでエ、
014
畏
(
おそれおほ
)
くも
勿体
(
もつたい
)
なくも
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
と
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
鎮坐
(
ちんざ
)
まします
珍
(
うづ
)
の
宝座
(
ほうざ
)
だぞ、
015
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
のやうな
反逆者
(
はんぎやくしや
)
の
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
処
(
ところ
)
ぢやない、
016
トツトと
去
(
い
)
にやがれ。
017
コラ
常彦
(
つねひこ
)
、
018
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なん
)
だ、
019
恩
(
おん
)
知
(
し
)
らず
奴
(
め
)
、
020
ドン
畜生
(
ちくしやう
)
奴
(
め
)
が、
021
永
(
なが
)
らく
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
になつて
居
(
ゐ
)
やがつて、
022
後足
(
あとあし
)
で
砂
(
すな
)
をかけて
出
(
で
)
やがつた
奴
(
やつ
)
ぢやないか、
023
よう
のめ
のめと
しやつ
面
(
つら
)
を
下
(
さ
)
げて
来
(
こ
)
られたものだ。
024
エー、
025
之
(
これ
)
から
一寸
(
いつすん
)
たりとも
入
(
い
)
れる
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りならぬ、
026
トツトと
帰
(
けえ
)
れ
帰
(
けえ
)
れ』
027
常彦
(
つねひこ
)
『
貴様
(
きさま
)
は
梅
(
うめ
)
ぢやないか、
028
兄弟子
(
あにでし
)
に
向
(
むか
)
つて
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだ、
029
ごて
ごて
云
(
い
)
はずに
奥
(
おく
)
に
行
(
い
)
つて、
030
青彦
(
あをひこ
)
や
紫姫
(
むらさきひめ
)
に、
031
常彦
(
つねひこ
)
さまがお
越
(
こ
)
しだから
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
まで
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れ』
032
梅公
(
うめこう
)
『
何
(
なに
)
馬鹿
(
ばか
)
を
云
(
い
)
うのだ、
033
又
(
また
)
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
青彦
(
あをひこ
)
を
かひ
出
(
だ
)
しに
来
(
き
)
たのだらう』
034
常彦
(
つねひこ
)
『
勿論
(
もちろん
)
の
事
(
こと
)
だ、
035
こんな
邪教
(
じやけう
)
に
友人
(
いうじん
)
が
眈溺
(
たんでき
)
して
居
(
ゐ
)
るのに、
036
黙
(
だま
)
つて
見
(
み
)
て
居
(
を
)
れるか。
037
ごでごで
吐
(
ぬか
)
さず、
038
貴様
(
きさま
)
は
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
り
取次
(
とりつ
)
げばよいのだ』
039
梅公
(
うめこう
)
『ヤア
常彦
(
つねひこ
)
、
040
貴様
(
きさま
)
は
今
(
いま
)
俺
(
おれ
)
に
向
(
むか
)
つて
兄弟子
(
あにでし
)
と
云
(
い
)
ひやがつたな、
041
何
(
なに
)
が
兄弟子
(
あにでし
)
だ、
042
ウラナイ
教
(
けう
)
に
居
(
を
)
つてこそ
俺
(
おれ
)
の
先輩
(
せんぱい
)
だが……
不人情
(
ふにんじやう
)
な……
勝手
(
かつて
)
に
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
きやがつて、
043
三五教
(
あななひけう
)
の
土持
(
つちも
)
ちをする
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
に
兄弟子
(
あにでし
)
も
糞
(
くそ
)
もあつたものかい、
044
これや、
045
此
(
この
)
梅公
(
うめこう
)
を
何時迄
(
いつまで
)
も
鼻垂
(
はなたれ
)
小僧
(
こぞう
)
と
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
やがるか、
046
今日
(
こんにち
)
では
押
(
お
)
しも
押
(
お
)
されもせぬ
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
参謀長
(
さんぼうちやう
)
だ。
047
折角
(
せつかく
)
今日
(
けふ
)
は
高姫
(
たかひめ
)
さまが
遥々
(
はるばる
)
お
越
(
こ
)
しになつて
目出度
(
めでた
)
く
祝
(
いはひ
)
をして
居
(
ゐ
)
るのに……
けち
をつけに
来
(
き
)
やがつたのだな』
048
常彦
(
つねひこ
)
『
何
(
なに
)
、
049
高姫
(
たかひめ
)
が
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るとな、
050
其奴
(
そいつ
)
は
恰度
(
ちやうど
)
都合
(
つがふ
)
が
良
(
い
)
い、
051
これから
俺
(
おれ
)
が
直接
(
ちよくせつ
)
談判
(
だんぱん
)
だ、
052
邪魔
(
じやま
)
ひろぐな、
053
そこ
除
(
の
)
けツ』
054
と
行
(
ゆ
)
かむとする。
055
鹿公
(
しかこう
)
、
056
馬公
(
うまこう
)
は
常彦
(
つねひこ
)
の
左右
(
さいう
)
より
両手
(
りやうて
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
057
鹿公、馬公
『これや、
058
常彦
(
つねひこ
)
、
059
此処
(
ここ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
る』
060
常彦
(
つねひこ
)
『ヤア
貴様
(
きさま
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
従僕
(
しもべ
)
であつた
馬
(
うま
)
、
061
鹿
(
しか
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
062
馬鹿
(
ばか
)
な
真似
(
まね
)
さらす
と
為
(
た
)
めにならぬぞ』
063
馬公、鹿公
『
今日
(
けふ
)
は
目出度
(
めでた
)
い
日
(
ひ
)
だ、
064
馬
(
うま
)
と
鹿
(
しか
)
の
俺
(
おれ
)
に
免
(
めん
)
じて
何卒
(
どうぞ
)
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れ、
065
折角
(
せつかく
)
の
酒
(
さけ
)
が
醒
(
さ
)
めて
仕舞
(
しま
)
う』
066
梅公
(
うめこう
)
『ヤア
貴様
(
きさま
)
は
滝
(
たき
)
に
板
(
いた
)
、
067
又
(
また
)
のめ
のめと
何
(
なに
)
しに
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのだ、
068
貴様
(
きさま
)
は
高城山
(
たかしろやま
)
へ
行
(
い
)
つて
松姫
(
まつひめ
)
に
叩
(
たた
)
き
出
(
だ
)
され、
069
乞食
(
こじき
)
となつて
迷
(
まよ
)
うて
居
(
を
)
つたぢやないか。
070
又
(
また
)
しても
舞
(
ま
)
ひ
戻
(
もど
)
つて
来
(
き
)
やがつて、
071
口
(
くち
)
の
先
(
さき
)
で
ちよろまか
さうと
思
(
おも
)
つても……その
手
(
て
)
は
喰
(
く
)
はないぞ、
072
サアサア
不人情
(
ふにんじやう
)
者
(
もの
)
、
073
三匹
(
さんびき
)
の
奴
(
やつ
)
、
074
サア
帰
(
かへ
)
れ……こんな
奴
(
やつ
)
は
俺
(
おれ
)
一人
(
ひとり
)
で
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
075
オイ、
076
馬公
(
うまこう
)
、
077
鹿公
(
しかこう
)
、
078
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
つて
此
(
この
)
由
(
よし
)
を
注進
(
ちうしん
)
せい』
079
馬公、鹿公
『よし、
080
合点
(
がつてん
)
ぢや』
081
と
二人
(
ふたり
)
は
奥
(
おく
)
へ
飛
(
と
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
082
梅公
(
うめこう
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
相手
(
あひて
)
に
論戦
(
ろんせん
)
をやつて
居
(
ゐ
)
たが、
083
常彦
(
つねひこ
)
は
構
(
かま
)
はず
強硬
(
きやうかう
)
的
(
てき
)
に、
084
常彦
『サア
板公
(
いたこう
)
、
085
滝公
(
たきこう
)
、
086
続
(
つづ
)
けツ』
087
と
一同
(
いちどう
)
が
酒宴
(
しゆえん
)
の
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれたるを
見
(
み
)
て
高姫
(
たかひめ
)
は、
088
高姫
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
常彦
(
つねひこ
)
ぢやないか』
089
黒姫
(
くろひめ
)
『お
前
(
まへ
)
は
滝公
(
たきこう
)
、
090
板公
(
いたこう
)
、
091
何処
(
どこ
)
をうろついて
居
(
を
)
つたのだ、
092
よう
気
(
き
)
の
変
(
かは
)
る
男
(
をとこ
)
だな、
093
然
(
しか
)
し
今迄
(
いままで
)
の
事
(
こと
)
は
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
す、
094
サア
酒
(
さけ
)
でも
一杯
(
いつぱい
)
飲
(
の
)
んで
高姫
(
たかひめ
)
さまがお
越
(
こ
)
しだから、
095
とつくりと
誠
(
まこと
)
の
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひなさい』
096
常彦
(
つねひこ
)
『もうウラナイ
教
(
けう
)
の
話
(
はなし
)
は
何
(
なに
)
もかも、
097
みんな
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
る、
098
今更
(
いまさら
)
改
(
あらた
)
めて
聞
(
き
)
く
必要
(
ひつえう
)
はない、
099
又
(
また
)
何程
(
なにほど
)
頼
(
たの
)
んでも
一旦
(
いつたん
)
決心
(
けつしん
)
した
以上
(
いじやう
)
、
100
ウラナイ
教
(
けう
)
に
滅多
(
めつた
)
に
帰
(
かへ
)
つてやらぬぞ』
101
青彦
(
あをひこ
)
『これやこれや、
102
常彦
(
つねひこ
)
、
103
滝公
(
たきこう
)
、
104
板公
(
いたこう
)
、
105
何
(
なん
)
ぢや、
106
貴様
(
きさま
)
は
三五教
(
あななひけう
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かしよつて……
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
改心
(
かいしん
)
したら
如何
(
どう
)
だ』
107
常彦
(
つねひこ
)
『
青彦
(
あをひこ
)
、
108
貴様
(
きさま
)
こそ
良
(
よ
)
い
腰抜
(
こしぬ
)
けだ、
109
あれ
程
(
ほど
)
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
で
奮戦
(
ふんせん
)
をして
置
(
お
)
き
乍
(
なが
)
ら、
110
又
(
また
)
もやウラナイ
教
(
けう
)
に
尾
(
を
)
を
掉
(
ふ
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るとは……
腰抜
(
こしぬけ
)
野郎
(
やらう
)
だ。
111
然
(
しか
)
し
一
(
ひと
)
つ
思案
(
しあん
)
をして
見
(
み
)
よ、
112
如何
(
どう
)
しても
三五教
(
あななひけう
)
の
方
(
はう
)
が
奥
(
おく
)
が
深
(
ふか
)
いぢやないか、
113
さうして
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
の
教
(
をしへ
)
だ、
114
それは
貴様
(
きさま
)
もよく
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
、
115
何故
(
なぜ
)
又
(
また
)
こんな
処
(
ところ
)
へ
帰
(
かへ
)
つてきよつたのだ』
116
青彦
(
あをひこ
)
『ほつときやがれ、
117
俺
(
おれ
)
は
俺
(
おれ
)
の
自由
(
じいう
)
の
権
(
けん
)
でウラナイ
教
(
けう
)
に
這入
(
はい
)
つたのだよ、
118
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
如何
(
どう
)
しても
虫
(
むし
)
が
好
(
す
)
かない
哩
(
わい
)
、
119
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
三五教
(
あななひけう
)
なぞへ
這入
(
はい
)
る
馬鹿
(
ばか
)
があるか、
120
貴様
(
きさま
)
も
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
見切
(
みき
)
りを
付
(
つ
)
けたら
如何
(
どう
)
だ』
121
常彦
(
つねひこ
)
『
紫姫
(
むらさきひめ
)
と
云
(
い
)
ひ、
122
馬公
(
うまこう
)
、
123
鹿公
(
しかこう
)
まで
惚
(
とぼ
)
けやがつて
何
(
ど
)
の
醜態
(
ざま
)
だ。
124
サア
俺
(
おれ
)
に
跟
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い。
125
俺
(
おれ
)
は
貴様
(
きさま
)
が
可憐相
(
かはいさう
)
だから
友人
(
いうじん
)
の
情
(
なさけ
)
を
以
(
もつ
)
て
迎
(
むか
)
へに
来
(
き
)
たのだ。
126
こんな
処
(
ところ
)
に
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
127
如何
(
どん
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はされるか
知
(
し
)
れたものぢやない、
128
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
云
(
い
)
はぬ、
129
サア
俺
(
おれ
)
に
跟
(
つ
)
いて
帰
(
かへ
)
つて
呉
(
く
)
れ』
130
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ホヽヽヽ、
131
あの
常彦
(
つねひこ
)
さまの
仰
(
おつ
)
しやる
事
(
こと
)
、
132
妾
(
わたし
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さつても
三五教
(
あななひけう
)
は
何
(
なん
)
だか
虫
(
むし
)
が
好
(
す
)
きませぬ、
133
もうすつかりウラナイ
教
(
けう
)
に
身
(
み
)
も
魂
(
たましひ
)
も
入
(
い
)
れて
仕舞
(
しま
)
ひました。
134
何卒
(
どうぞ
)
おついでの
節
(
せつ
)
、
135
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまに
宜
(
よろ
)
しく
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たと
仰
(
おつ
)
しやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
136
常彦
(
つねひこ
)
『
流石
(
さすが
)
は
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
だ、
137
此処
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
て、
138
何
(
ど
)
れも
之
(
これ
)
も
皆
(
みな
)
籠絡
(
ろうらく
)
せられて
仕舞
(
しま
)
ひよつたか、
139
アヽ
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
をした
哩
(
わい
)
』
140
と
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み
乍
(
なが
)
ら
涙
(
なみだ
)
を
零
(
こぼ
)
し
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
141
青彦
(
あをひこ
)
『これほど
黒姫
(
くろひめ
)
さまが、
142
貴様
(
きさま
)
の
反対
(
はんたい
)
を
少
(
すこ
)
しもお
怒
(
おこ
)
りなく、
143
旧
(
もと
)
の
古巣
(
ふるす
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
いと
仰
(
おつ
)
しやるのは
普通
(
ふつう
)
の
人間
(
にんげん
)
には
出来
(
でき
)
ない
事
(
こと
)
だ』
144
常彦
(
つねひこ
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
金輪
(
こんりん
)
奈落
(
ならく
)
、
145
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
が
沈
(
しづ
)
まうがウラナイ
教
(
けう
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
堪
(
たま
)
るものかい。
146
これや
青彦
(
あをひこ
)
、
147
貴様
(
きさま
)
も
目
(
め
)
を
覚
(
さ
)
ましたら
如何
(
どう
)
だい』
148
青彦
(
あをひこ
)
『
何
(
なに
)
云
(
い
)
つてるのだい』
149
と
棍棒
(
こんぼう
)
を
把
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く
常彦
(
つねひこ
)
目蒐
(
めが
)
けて
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
喰
(
くら
)
はした。
150
常彦
(
つねひこ
)
は
身
(
み
)
に
数ケ所
(
すうかしよ
)
の
傷
(
いたで
)
を
負
(
お
)
ひ
悲鳴
(
ひめい
)
をあげて
表
(
おもて
)
へ
駆出
(
かけだ
)
した。
151
滝
(
たき
)
、
152
板
(
いた
)
の
二人
(
ふたり
)
も
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
す。
153
馬公
(
うまこう
)
、
154
鹿公
(
しかこう
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
青彦
(
あをひこ
)
の
棒
(
ぼう
)
を
引
(
ひ
)
つたくる。
155
一方
(
いつぱう
)
常彦
(
つねひこ
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は
戸口
(
とぐち
)
を
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
り、
156
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
を
何処
(
いづこ
)
ともなく
駆
(
か
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
157
後
(
あと
)
には
高姫
(
たかひめ
)
外
(
ほか
)
一同
(
いちどう
)
大口
(
おほぐち
)
開
(
あ
)
けて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
158
黒姫
(
くろひめ
)
『オホヽヽヽ、
159
到頭
(
たうとう
)
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
よつたが、
160
やつぱり
心
(
こころ
)
が
責
(
せ
)
めると
見
(
み
)
えてよう
居
(
を
)
りませぬ
哩
(
わい
)
。
161
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
青彦
(
あをひこ
)
、
162
お
前
(
まへ
)
もこれからあんな
乱暴
(
らんばう
)
をしちやいかぬよ』
163
青彦
(
あをひこ
)
『つひ
酒
(
さけ
)
の
機嫌
(
きげん
)
で……
余
(
あんま
)
りむかついたものだから、
164
やつてやりました』
165
高姫
(
たかひめ
)
『
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
青彦
(
あをひこ
)
はあれで……すつかり
吾々
(
われわれ
)
の
疑
(
うたがひ
)
がとけた、
166
畢竟
(
つまり
)
或
(
ある
)
意味
(
いみ
)
から
云
(
い
)
へば、
167
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
神徳
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
きなさつたのだ』
168
青彦
(
あをひこ
)
『
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
か
何
(
なに
)
か
知
(
し
)
りませぬが
真実
(
ほんと
)
に
乱暴
(
らんばう
)
な
奴
(
やつ
)
で
困
(
こま
)
つて
仕舞
(
しま
)
う、
169
三五教
(
あななひけう
)
に
這入
(
はい
)
ると
直
(
すぐ
)
あんな
ヤンチヤ
になると
見
(
み
)
える、
170
アヽ
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
益々
(
ますます
)
三五教
(
あななひけう
)
が
嫌
(
いや
)
になつて
来
(
き
)
た
哩
(
わい
)
』
171
高姫
(
たかひめ
)
『ヤア
皆
(
みな
)
さま、
172
此処
(
ここ
)
が
大切
(
たいせつ
)
な
処
(
ところ
)
ぢや、
173
悪魔
(
あくま
)
奴
(
め
)
が
色々
(
いろいろ
)
と
手
(
て
)
を
換
(
か
)
へ
品
(
しな
)
を
替
(
か
)
へ、
174
引
(
ひ
)
き
落
(
おと
)
しに
来
(
く
)
るから
用心
(
ようじん
)
しなされ』
175
黒姫
(
くろひめ
)
『ヤア
青彦
(
あをひこ
)
、
176
紫姫
(
むらさきひめ
)
さま、
177
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが
貴方
(
あなた
)
はこれから
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
宅
(
たく
)
へ
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さるまいか、
178
貴方
(
あなた
)
でなければ
到底
(
たうてい
)
他
(
ほか
)
の
奴
(
やつ
)
をやつても
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
え
)
まい、
179
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
首尾
(
しゆび
)
よく
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
渡
(
わた
)
せば、
180
綾彦
(
あやひこ
)
、
181
お
民
(
たみ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
帰
(
かへ
)
してやるから……』
182
青彦
(
あをひこ
)
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
183
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
先方
(
むかう
)
の
豊彦
(
とよひこ
)
と
云
(
い
)
う
爺
(
ぢい
)
さまは
仲々
(
なかなか
)
頑固
(
ぐわんこ
)
な
奴
(
やつ
)
と
見
(
み
)
えますから
到底
(
たうてい
)
口先
(
くちさき
)
位
(
くらゐ
)
では
聞
(
き
)
くものぢやありませぬ。
184
力
(
ちから
)
にして
居
(
を
)
つた
綾彦
(
あやひこ
)
、
185
お
民
(
たみ
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
が
分
(
わか
)
らぬものだから、
186
今
(
いま
)
ではお
玉
(
たま
)
と
玉照姫
(
たまてるひめ
)
が
老夫婦
(
らうふうふ
)
の
生命
(
いのち
)
の
綱
(
つな
)
の
様
(
やう
)
なものであります、
187
私
(
わたし
)
が
談判
(
だんぱん
)
に
行
(
い
)
つても
駄目
(
だめ
)
でせう、
188
綾彦
(
あやひこ
)
、
189
お
民
(
たみ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
引連
(
ひきつ
)
れて
爺
(
ぢい
)
さまにお
目
(
め
)
通
(
どほ
)
りをしたならば、
190
御
(
お
)
礼
(
れい
)
返
(
がへ
)
しに
渡
(
わた
)
して
呉
(
く
)
れるかも
知
(
し
)
れませぬ』
191
黒姫
(
くろひめ
)
『そうかも
知
(
し
)
れぬ、
192
一切
(
いつさい
)
青彦
(
あをひこ
)
に
任
(
まか
)
しますから
何卒
(
どうぞ
)
往
(
い
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
193
青彦
(
あをひこ
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
と
共
(
とも
)
に
綾彦
(
あやひこ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
194
馬
(
うま
)
、
195
鹿
(
しか
)
の
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は、
196
五人
『
然
(
しか
)
らば
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
197
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
、
198
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
199
その
他
(
た
)
の
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
様
(
さま
)
、
200
何
(
なに
)
とぞ
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
201
斯
(
か
)
く
云
(
い
)
う
所
(
ところ
)
へ
俄
(
にはか
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たお
節
(
せつ
)
にお
民
(
たみ
)
、
202
お節、お民
『ヤア、
203
これはこれは
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
』
204
黒姫
(
くろひめ
)
『ヤア、
205
お
節
(
せつ
)
にお
民
(
たみ
)
好
(
い
)
い
処
(
ところ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた、
206
松姫
(
まつひめ
)
には
機嫌
(
きげん
)
ようして
居
(
を
)
られるかな』
207
お
節
(
せつ
)
『
松姫
(
まつひめ
)
さまを
初
(
はじ
)
め
皆
(
みな
)
さま
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
で、
208
御
(
ご
)
神務
(
しんむ
)
に
鞅掌
(
おうしやう
)
されて
居
(
を
)
られます』
209
黒姫
(
くろひめ
)
『アヽそれは
重畳
(
ちようでふ
)
々々
(
ちようでふ
)
、
210
幸
(
さいは
)
ひウラナイ
教
(
けう
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
高姫
(
たかひめ
)
さまがおいでになつて
居
(
ゐ
)
る、
211
サア
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
を
申
(
まを
)
しあげなされ』
212
二人
(
ふたり
)
は、
213
『ハイ』
214
と
答
(
こた
)
へて
高姫
(
たかひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
215
お節、お民
『これは
予
(
かね
)
て
承
(
うけたま
)
はる
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
216
ようマアお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいました。
217
妾
(
わたし
)
はお
節
(
せつ
)
……お
民
(
たみ
)
と
申
(
まを
)
すもの、
218
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
の
いかい
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になつて
居
(
を
)
ります、
219
何卒
(
どうぞ
)
今後
(
こんご
)
とても
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さいませ』
220
高姫
(
たかひめ
)
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
若
(
わか
)
い
年
(
とし
)
にも
似合
(
にあ
)
はず
感心
(
かんしん
)
なお
方
(
かた
)
ぢや、
221
就
(
つ
)
いてはこれから
青彦
(
あをひこ
)
や
綾彦
(
あやひこ
)
に
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
い
処
(
ところ
)
があるので……お
二人
(
ふたり
)
とも
恰度
(
ちやうど
)
都合
(
つがふ
)
の
好
(
い
)
い
所
(
ところ
)
だ、
222
貴方
(
あなた
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
跟
(
つ
)
いて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
223
お
節
(
せつ
)
『ハイハイ
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
224
何処
(
どこ
)
までもお
道
(
みち
)
の
為
(
た
)
めなら
参
(
まゐ
)
りますから……』
225
茲
(
ここ
)
に
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
226
青彦
(
あをひこ
)
、
227
馬
(
うま
)
、
228
鹿
(
しか
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
229
綾彦
(
あやひこ
)
、
230
お
民
(
たみ
)
、
231
お
節
(
せつ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
高姫
(
たかひめ
)
その
他
(
た
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
を
述
(
の
)
べ、
232
悠々
(
いういう
)
として
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
りぬ。
233
アヽ
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
234
青彦
(
あをひこ
)
その
他
(
た
)
の
一行
(
いつかう
)
は
再
(
ふたた
)
びウラナイ
教
(
けう
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
るならむか。
235
(
大正一一・四・二八
旧四・二
北村隆光
録)
236
(昭和一〇・六・三 王仁校正)
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