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霊界物語
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第6巻(巳の巻)
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第18巻(巳の巻)
序
凡例
総説
第1篇 弥仙の神山
01 春野の旅
〔629〕
02 厳の花
〔630〕
03 神命
〔631〕
第2篇 再探再険
04 四尾山
〔632〕
05 赤鳥居
〔633〕
06 真か偽か
〔634〕
第3篇 反間苦肉
07 神か魔か
〔635〕
08 蛙の口
〔636〕
09 朝の一驚
〔637〕
10 赤面黒面
〔638〕
第4篇 舎身活躍
11 相身互
〔639〕
12 大当違
〔640〕
13 救の神
〔641〕
第5篇 五月五日祝
14 蛸の揚壺
〔642〕
15 遠来の客
〔643〕
16 返り討
〔644〕
17 玉照姫
〔645〕
霊の礎(四)
余白歌
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第一一章
相見
(
あひみ
)
互
(
たがひ
)
〔六三九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
篇:
第4篇 舎身活躍
よみ(新仮名遣い):
しゃしんかつやく
章:
第11章 相身互
よみ(新仮名遣い):
あいみたがい
通し章番号:
639
口述日:
1922(大正11)年04月28日(旧04月02日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
元ウラナイ教で、今は三五教の宣伝使となっていた常彦は、観音峠の頂上で旅の疲れからうとうとしていると、みすぼらしい二人の男が登ってくるのに出くわした。これは、黒姫の元から逃げてきた板公と滝公であった。
板公と滝公は、松姫のところも追い出され、困窮していた。二人は常彦を三五教の宣伝使と認め、空腹を満たすために食物の提供を求めた。常彦は握り飯を与えた。
飢えを満たした二人は常彦に礼を言う。常彦は、二人が板公と滝公であることを認め、このような境遇に陥った訳を尋ねた。二人は黒姫のところで失敗をして逃げた顛末を語った。
常彦は、青彦やお節、紫姫らの一行が黒姫のところに行ったと聞いて、三五教信心堅固な彼らがウラナイ教になったことを不審に思う。そこで魔窟ケ原に行って事の真相を確かめたい、と言う。
滝公と板公は、常彦に恩義を感じて、三五教の人間としてお供したい、と申し出て許可を得る。三人が須知山峠の頂上まで来て休んでいると、そこへ鬼鷹、荒鷹の二人が通りかかった。
鬼鷹、荒鷹は丹州に言われて、こちら方面にやってきたのだ、という。そして、弥仙山の麓の村で、玉照姫という尊い神人が生まれたこと、黒姫が玉照姫をウラナイ教に引き込んで利用しようとしていることを伝えた。
鬼鷹、荒鷹は丹州に言われたとおりの方向に旅を続けた。常彦は、弥仙山に興味を抱きつつ、最初に決めた目的地に進むことを思案した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-03-19 18:54:39
OBC :
rm1811
愛善世界社版:
187頁
八幡書店版:
第3輯 706頁
修補版:
校定版:
193頁
普及版:
85頁
初版:
ページ備考:
愛世版と校定版は目次「身」、本文「見」。八幡版は目次も本文も「見」。普及版は目次も本文も「身」。
001
降
(
ふ
)
りみ
降
(
ふ
)
らずみ
空
(
そら
)
低
(
ひく
)
う
002
四辺
(
あたり
)
は
暗
(
くら
)
く
黄昏
(
たそが
)
れて
003
山時鳥
(
やまほととぎす
)
遠近
(
をちこち
)
に
004
本巣
(
ほんざう
)
かけたか、かけたかと
005
八千八
(
はつせんや
)
声
(
こゑ
)
の
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
いて
006
声
(
こゑ
)
も
湿
(
しめ
)
りし
五月空
(
さつきぞら
)
007
憂
(
うき
)
に
悩
(
なや
)
める
人々
(
ひとびと
)
を
008
教
(
をし
)
へて
神
(
かみ
)
の
大道
(
おほみち
)
に
009
救
(
すく
)
はむものと
常彦
(
つねひこ
)
が
010
鬼ケ城
(
おにがじよう
)
山
(
ざん
)
後
(
あと
)
にして
011
足
(
あし
)
もゆらゆら
由良
(
ゆら
)
の
川
(
かは
)
012
蛇
(
じや
)
が
鼻
(
はな
)
、
長谷
(
はせ
)
の
郷
(
さと
)
を
越
(
こ
)
え
013
生野
(
いくの
)
を
過
(
す
)
ぎての
檜山
(
ひのきやま
)
014
須知
(
しゆち
)
、
蒲生野
(
こもの
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
015
駒
(
こま
)
に
鞭打
(
むちう
)
つ
一人旅
(
ひとりたび
)
016
観音峠
(
くわんおんたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
に
017
シトシト
来
(
きた
)
る
雨
(
あめ
)
の
空
(
そら
)
018
遠
(
とほ
)
く
彼方
(
あなた
)
を
見渡
(
みわた
)
せば
019
天神山
(
てんじんやま
)
や
小向山
(
こむきやま
)
020
花
(
はな
)
の
園部
(
そのべ
)
も
目
(
ま
)
の
下
(
した
)
に
021
横田
(
よこた
)
、
木崎
(
きざき
)
と
開展
(
かいてん
)
し
022
高城山
(
たかしろやま
)
は
雲表
(
うんぺう
)
に
023
姿
(
すがた
)
現
(
あら
)
はす
夜明
(
よあ
)
け
頃
(
ごろ
)
024
眼下
(
がんか
)
の
野辺
(
のべ
)
を
眺
(
なが
)
むれば
025
生命
(
いのち
)
の
苗
(
なへ
)
を
植
(
うゑ
)
つける
026
早乙女
(
さをとめ
)
達
(
たち
)
の
田
(
た
)
の
面
(
おも
)
に
027
三々
(
さんさん
)
伍々
(
ごご
)
と
隊
(
たい
)
をなし
028
御代
(
みよ
)
の
富貴
(
ふうき
)
を
唄
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
029
さながら
神代
(
かみよ
)
の
姿
(
すがた
)
なり。
030
常彦
(
つねひこ
)
は
峠
(
たうげ
)
の
上
(
うへ
)
の
岩石
(
がんせき
)
に
凭
(
もた
)
れ、
031
夜
(
よ
)
の
旅路
(
たびぢ
)
の
疲
(
つか
)
れを
催
(
もよほ
)
し、
032
昇
(
のぼ
)
る
旭
(
あさひ
)
を
遥拝
(
えうはい
)
しつつ、
033
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
睡魔
(
すゐま
)
に
襲
(
おそ
)
はれ
居
(
ゐ
)
る。
034
観音峠
(
くわんおんたうげ
)
の
頂上
(
ちやうじやう
)
さして、
035
東
(
ひがし
)
より
登
(
のぼ
)
り
来
(
く
)
る
二人
(
ふたり
)
の
乞食姿
(
こじきすがた
)
、
036
甲
(
かふ
)
(滝公)
『
人間
(
にんげん
)
も、
037
斯
(
か
)
う
落魄
(
おちぶ
)
れては、
038
どうも
仕方
(
しかた
)
がないぢやないか。
039
何程
(
なにほど
)
男
(
をとこ
)
は
裸
(
はだか
)
百貫
(
ひやくくわん
)
だと
云
(
い
)
つても、
040
破
(
やぶ
)
れ
襦袢
(
じゆばん
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
身
(
み
)
に
着
(
つ
)
けて、
041
斯
(
こ
)
うシヨボシヨボと、
042
雨
(
あめ
)
の
降
(
ふ
)
る
五月雨
(
さみだれ
)
の
空
(
そら
)
、
043
どこの
家
(
うち
)
を
尋
(
たづ
)
ねても、
044
戸
(
と
)
をピツシヤリ
閉
(
し
)
めて、
045
野良
(
のら
)
へ
出
(
で
)
て
居
(
を
)
る
者
(
もの
)
ばつかり、
046
茶
(
ちや
)
一杯
(
いつぱい
)
餐
(
よ
)
ばれる
所
(
ところ
)
も
無
(
な
)
し、
047
谷川
(
たにがは
)
の
水
(
みづ
)
を
掬
(
すく
)
つて
飲
(
の
)
めば、
048
塩分
(
しほけ
)
はあるが、
049
忽
(
たちま
)
ち
腹
(
はら
)
の
加減
(
かげん
)
を
悪
(
わる
)
うして
了
(
しま
)
ふ。
050
裸
(
はだか
)
で
物
(
もの
)
は
遺失
(
おと
)
さぬ
代
(
かは
)
りに、
051
何
(
なに
)
か
有
(
あ
)
りつかうと
思
(
おも
)
つても、
052
せめて
着物
(
きもの
)
丈
(
だけ
)
なつとなければ、
053
相手
(
あひて
)
になつて
呉
(
く
)
れる
者
(
もの
)
もなし。
054
純然
(
じゆんぜん
)
たるお
乞食
(
こじき
)
さまと、
055
誤解
(
ごかい
)
されて
了
(
しま
)
ふ。
056
実
(
じつ
)
に
残念
(
ざんねん
)
だなア』
057
乙
(
おつ
)
(板公)
『
天下
(
てんか
)
を
救済
(
きうさい
)
するの、
058
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
ぢやのと、
059
偉相
(
えらさう
)
に
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るウラナイ
教
(
けう
)
の
高城山
(
たかしろやま
)
の
松姫
(
まつひめ
)
も、
060
今迄
(
いままで
)
とは
態度
(
たいど
)
一変
(
いつぺん
)
し、
061
飯
(
めし
)
の
上
(
うへ
)
の
蠅
(
はへ
)
を
払
(
はら
)
ふ
様
(
やう
)
に
虐待
(
ぎやくたい
)
をしよつたぢやないか。
062
これと
云
(
い
)
ふのも、
063
ヤツパリ
此方
(
こちら
)
の
智慧
(
ちゑ
)
が
足
(
た
)
らぬからぢや。
064
雨
(
あめ
)
には
嬲
(
なぶ
)
られ、
065
風
(
かぜ
)
にはなぶられ、
066
おまけに
蚊
(
か
)
にまで
襲撃
(
しふげき
)
され、
067
七
(
しち
)
尺
(
しやく
)
の
男子
(
だんし
)
が、
068
此
(
この
)
広
(
ひろ
)
い
天地
(
てんち
)
に
身
(
み
)
を
容
(
い
)
るる
所
(
ところ
)
もなき
様
(
やう
)
になつたのも
要
(
えう
)
するに、
069
智慧
(
ちゑ
)
が
廻
(
まは
)
らぬからだよ。
070
あの
梅公
(
うめこう
)
の
奴
(
やつ
)
を
始
(
はじ
)
め、
071
松姫
(
まつひめ
)
の
如
(
ごと
)
きは、
072
随分
(
ずゐぶん
)
陰険
(
いんけん
)
な
代物
(
しろもの
)
だが、
073
巧妙
(
うま
)
く
黒姫
(
くろひめ
)
に
取入
(
とりい
)
つて、
074
今
(
いま
)
では
豪勢
(
がうせい
)
なものだ。
075
何
(
なん
)
とかして、
076
モウ
一度
(
いちど
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
部下
(
ぶか
)
になる
訳
(
わけ
)
にはいかうまいかなア』
077
甲
(
かふ
)
(滝公)
『
一旦
(
いつたん
)
男子
(
だんし
)
が
広言
(
くわうげん
)
を
吐
(
は
)
いて、
078
此方
(
こちら
)
から
暇
(
ひま
)
を
呉
(
く
)
れた
以上
(
いじやう
)
、
079
ノメノメと
尾
(
を
)
を
掉
(
ふ
)
つて
帰
(
い
)
ぬ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ようか。
080
鷹
(
たか
)
は
飢
(
う
)
ゑても
穂
(
ほ
)
を
喙
(
つ
)
まぬ……と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
081
ソンナ
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
くな、
082
暗
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
るぢやないか』
083
乙
(
おつ
)
(板公)
『
人間
(
にんげん
)
の
運命
(
うんめい
)
と
云
(
い
)
ふものは
定
(
き
)
まつて
居
(
ゐ
)
ると
見
(
み
)
える。
084
黒姫
(
くろひめ
)
や
高姫
(
たかひめ
)
、
085
松姫
(
まつひめ
)
はどこともなしに、
086
丸
(
まる
)
い
豊
(
ゆたか
)
な
顔
(
かほ
)
をして
居
(
を
)
るが、
087
丸顔
(
まるがほ
)
に
憂
(
うれ
)
ひなし、
088
長顔
(
なががお
)
に
憂
(
うれ
)
ひありと
云
(
い
)
つて、
089
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
金
(
かね
)
さへ
有
(
あ
)
れば、
090
社会
(
しやくわい
)
にウリザネ
顔
(
かほ
)
だと
言
(
い
)
つて、
091
歓待
(
もて
)
る
代物
(
しろもの
)
だけれど、
092
今日
(
けふ
)
の
様
(
やう
)
な
態
(
ざま
)
になつては、
093
ますます
貧相
(
ひんさう
)
に……
自分
(
じぶん
)
乍
(
なが
)
ら
見
(
み
)
えて
来
(
く
)
る。
094
自分
(
じぶん
)
から
愛想
(
あいさう
)
をつかす
様
(
やう
)
な
物騒
(
ぶつそう
)
な
肉体
(
にくたい
)
、
095
何程
(
なにほど
)
馬鹿
(
ばか
)
の
多
(
おほ
)
い
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だと
言
(
い
)
つて、
096
誰
(
たれ
)
が
目
(
め
)
をかけて
呉
(
く
)
れる
者
(
もの
)
が
有
(
あ
)
らうか。
097
アーア
仕方
(
しかた
)
がない。
098
何
(
なん
)
とか
一身
(
いつしん
)
上
(
じやう
)
の
処置
(
しよち
)
を
附
(
つ
)
ける
事
(
こと
)
にしようかい。
099
ヌースー
式
(
しき
)
をやつては、
100
神界
(
しんかい
)
へ
対
(
たい
)
して
罪
(
つみ
)
を
重
(
かさ
)
ね、
101
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
苦
(
くる
)
しみの
種
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
かねばならず、
102
実
(
じつ
)
、
103
さうだと
言
(
い
)
つて、
104
自殺
(
じさつ
)
は
罪悪
(
ざいあく
)
であり、
105
死
(
し
)
ぬにも
死
(
し
)
なれず、
106
困
(
こま
)
つた
者
(
もの
)
だ。
107
どうしたら
此
(
この
)
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
が
解
(
と
)
けるであらう。
108
否
(
いや
)
スツパリと
忘
(
わす
)
れられるだらう』
109
甲
(
かふ
)
(滝公)
『
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つの
持
(
も
)
ちやうだ。
110
刹那心
(
せつなしん
)
を
楽
(
たのし
)
むんだよ』
111
乙
(
おつ
)
(板公)
『
貴様
(
きさま
)
はまだ、
112
ソンナ
気楽
(
きらく
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
113
衣食
(
いしよく
)
足
(
た
)
りて
礼節
(
れいせつ
)
を
知
(
し
)
るだ。
114
今日
(
けふ
)
で
三日
(
みつか
)
も
何
(
なに
)
も
食
(
く
)
はずに、
115
胃
(
ゐ
)
の
腑
(
ふ
)
は
身代限
(
しんだいかぎ
)
りを
請求
(
せいきう
)
する。
116
一歩
(
いつぽ
)
も
歩
(
あゆ
)
む
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
なくなつて、
117
どうして
刹那心
(
せつなしん
)
が
楽
(
たのし
)
めよう。
118
刹那
(
せつな
)
々々
(
せつな
)
に
苦痛
(
くつう
)
を
増
(
ます
)
ばつかりぢやないか。
119
アーアこれを
思
(
おも
)
へば、
120
黒姫
(
くろひめ
)
の
御恩
(
ごおん
)
が
今更
(
いまさら
)
の
如
(
ごと
)
く
分
(
わか
)
つて
来
(
き
)
たワイ』
121
甲
(
かふ
)
(滝公)
『ヤア
情
(
なさけ
)
ない
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふな。
122
そら
其処
(
そこ
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
を
)
るぞ』
123
乙
(
おつ
)
(板公)
『モウ
斯
(
か
)
うなつちやア、
124
三五教
(
あななひけう
)
もウラナイ
教
(
けう
)
も
有
(
あ
)
るものぢやない。
125
食
(
く
)
はぬが
悲
(
かな
)
しさぢや。
126
飢渇
(
きかつ
)
に
迫
(
せま
)
つてから、
127
恥
(
はづか
)
しいも
何
(
なに
)
も
有
(
あ
)
つたものかい』
128
と
常彦
(
つねひこ
)
の
佇
(
たたず
)
む
前
(
まへ
)
に
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
り、
129
乙
(
おつ
)
(板公)
『モシモシ、
130
あなたは
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
ぢやありませぬか』
131
と
力
(
ちから
)
無
(
な
)
き
声
(
こゑ
)
に、
132
常彦
(
つねひこ
)
はフツと
目
(
め
)
を
醒
(
さま
)
し、
133
常彦
『アーア
夜
(
よる
)
の
旅
(
たび
)
で
草臥
(
くたび
)
れたと
見
(
み
)
えて、
134
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
寝込
(
ねこ
)
んで
了
(
しま
)
うたワイ。
135
……ヤアお
前
(
まへ
)
は
乞食
(
こじき
)
と
見
(
み
)
えるな。
136
何
(
なん
)
ぞ
御用
(
ごよう
)
で
御座
(
ござ
)
るか』
137
乙
(
おつ
)
は
何
(
なん
)
にも
言
(
い
)
はず、
138
口
(
くち
)
と
腹
(
はら
)
を
指
(
さ
)
し、
139
飢
(
うゑ
)
に
迫
(
せま
)
れる
事
(
こと
)
を
示
(
しめ
)
した。
140
常彦
(
つねひこ
)
『ヤア
一人
(
ひとり
)
かと
思
(
おも
)
へば、
141
二人
(
ふたり
)
連
(
づれ
)
ぢやな。
142
幸
(
さいは
)
ひ、
143
ここに
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
が
残
(
のこ
)
つて
居
(
を
)
る。
144
失礼
(
しつれい
)
だが
之
(
これ
)
をお
食
(
あが
)
りなさらぬか』
145
乙
(
おつ
)
(板公)
『ハイそれは
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
146
早速
(
さつそく
)
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませう。
147
……オイ
滝公
(
たきこう
)
、
148
助
(
たす
)
け
船
(
ぶね
)
だ
兵站部
(
へいたんぶ
)
が
出来
(
でき
)
たぞ。
149
サア
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
せ』
150
滝公
(
たきこう
)
『アーそんなら
頂戴
(
ちやうだい
)
しようかなア、
151
恥
(
はづか
)
しい
事
(
こと
)
だ。
152
旅人
(
たびびと
)
の
弁当
(
べんたう
)
を
貰
(
もら
)
つて
食
(
く
)
ふのは、
153
生
(
うま
)
れてから
始
(
はじ
)
めてだ』
154
と
四個
(
よんこ
)
の
握
(
にぎ
)
り
飯
(
めし
)
を
分配
(
ぶんぱい
)
し、
155
二
(
ふた
)
ツづつ、
156
飛
(
と
)
び
付
(
つ
)
く
様
(
やう
)
に
平
(
たひら
)
げて
了
(
しま
)
ひ、
157
乙
(
おつ
)
(板公)
『アーアこれで
少
(
すこ
)
し
人間
(
にんげん
)
らしい
気
(
き
)
がして
来
(
き
)
た。
158
……イヤ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
159
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
160
……
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
この
)
先
(
さき
)
は
又
(
また
)
どうしたら
宜
(
よ
)
からうかなア』
161
滝公
(
たきこう
)
『
刹那心
(
せつなしん
)
だよ。
162
又
(
また
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
がお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さる。
163
心配
(
しんぱい
)
するな。
164
……
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
か
知
(
し
)
りませぬが
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました。
165
これでヤツと、
166
こつちのものになりました』
167
と
見上
(
みあ
)
ぐる
途端
(
とたん
)
にハツと
驚
(
おどろ
)
き
顔
(
かほ
)
を
隠
(
かく
)
す。
168
常彦
(
つねひこ
)
『ヤア
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
らあなたは、
169
ウラナイ
教
(
けう
)
の
滝公
(
たきこう
)
さまぢやありませぬか。
170
ヤアあなたは
板公
(
いたこう
)
さま、
171
どうしてそんな
姿
(
すがた
)
におなりなさつた。
172
何
(
なに
)
か
様子
(
やうす
)
が
御座
(
ござ
)
いませう。
173
差支
(
さしつかへ
)
なくばお
聞
(
き
)
かせ
下
(
くだ
)
さいませいなア』
174
板公
(
いたこう
)
『
恥
(
はづか
)
しい
所
(
ところ
)
、
175
お
目
(
め
)
にかかりました。
176
実
(
じつ
)
は
斯
(
か
)
うなるも
身
(
み
)
から
出
(
で
)
た
錆
(
さび
)
、
177
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
ひ
様
(
やう
)
がありませぬが、
178
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は、
179
あまり
宣伝
(
せんでん
)
の
効果
(
かうくわ
)
が
挙
(
あ
)
がらないので、
180
一寸
(
ちよつと
)
した
事
(
こと
)
をやりました。
181
それが
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り
大零落
(
だいれいらく
)
の
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
む
端緒
(
たんちよ
)
となつたのです』
182
滝公
(
たきこう
)
『
誠
(
まこと
)
に
赤面
(
せきめん
)
の
至
(
いた
)
り、
183
智慧
(
ちゑ
)
も
廻
(
まは
)
らぬ
癖
(
くせ
)
に、
184
人真似
(
ひとまね
)
をして、
185
大変
(
たいへん
)
な
失敗
(
しつぱい
)
を
演
(
えん
)
じ、
186
闇
(
やみ
)
の
谷底
(
たにそこ
)
へ
転落
(
てんらく
)
し、
187
生命
(
いのち
)
カラガラな
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
ひ、
188
終
(
つひ
)
には
黒姫
(
くろひめ
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そこ
)
ねたのみならず、
189
青彦
(
あをひこ
)
、
190
お
節
(
せつ
)
に
踏
(
ふ
)
み
込
(
こ
)
まれ、
191
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
逃
(
に
)
げて
来
(
き
)
ました。
192
それから
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
は
高城山
(
たかしろやま
)
へ
参
(
まゐ
)
り、
193
松姫
(
まつひめ
)
の
前
(
まへ
)
に
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
つて、
194
ウラナイ
教
(
けう
)
の
内幕
(
うちまく
)
を
暴露
(
ばくろ
)
してやらうと、
195
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に
出
(
で
)
た
所
(
ところ
)
、
196
中々
(
なかなか
)
の
強者
(
しれもの
)
、
197
吾々
(
われわれ
)
の
智嚢
(
ちなう
)
を
搾
(
しぼ
)
り
出
(
だ
)
した
狂言
(
きやうげん
)
も、
198
松姫
(
まつひめ
)
に
対
(
たい
)
しては
兎
(
う
)
の
毛
(
け
)
の
露
(
つゆ
)
程
(
ほど
)
も
脅威
(
けふゐ
)
を
与
(
あた
)
へず、
199
シツペイ
返
(
がへ
)
しを
喰
(
くら
)
つて、
200
生命
(
いのち
)
からがら
此処
(
ここ
)
までやつて
来
(
き
)
ました。
201
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
窮
(
きう
)
すれば
乱
(
らん
)
すと
云
(
い
)
ふ
諺
(
ことわざ
)
もありますが、
202
吾々
(
われわれ
)
は
一旦
(
いつたん
)
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
聞
(
き
)
いた
者
(
もの
)
、
203
仮令
(
たとへ
)
餓死
(
がし
)
しても
人
(
ひと
)
の
物
(
もの
)
を
失敬
(
しつけい
)
する
事
(
こと
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
厭
(
いや
)
で
堪
(
たま
)
らず、
204
最早
(
もはや
)
生命
(
いのち
)
の
瀬戸際
(
せとぎは
)
、
205
一生
(
いつしやう
)
の
大峠
(
おほたうげ
)
となつた
所
(
ところ
)
、
206
あなたに
巡
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
ひ、
207
一塊
(
いつくわい
)
のパンを
与
(
あた
)
へられて、
208
漸
(
やうや
)
く
人間
(
にんげん
)
心地
(
ごこち
)
が
致
(
いた
)
しました。
209
これもアカの
他人
(
たにん
)
に
恵
(
めぐ
)
まれるのであつたならば
残念
(
ざんねん
)
ですが、
210
有難
(
ありがた
)
い
事
(
こと
)
には、
211
一旦
(
いつたん
)
御
(
お
)
心易
(
こころやす
)
うして
居
(
ゐ
)
たあなたに
救
(
すく
)
はれたと
云
(
い
)
ふのも、
212
まだ
天道
(
てんだう
)
は
吾々
(
われわれ
)
を
棄
(
す
)
て
給
(
たま
)
はざる
証
(
しるし
)
と、
213
何
(
なん
)
となく
勇気
(
ゆうき
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
ました』
214
常彦
(
つねひこ
)
『
今
(
いま
)
のお
言葉
(
ことば
)
に、
215
青彦
(
あをひこ
)
お
節
(
せつ
)
が
黒姫
(
くろひめ
)
の
所
(
ところ
)
へ
往
(
い
)
つたと
仰有
(
おつしや
)
つたが、
216
ソレヤ
本当
(
ほんたう
)
ですか』
217
滝公
(
たきこう
)
『ヘエヘエ
本当
(
ほんたう
)
も
本当
(
ほんたう
)
、
218
一文
(
いちもん
)
生中
(
きなか
)
の、
219
掛値
(
かけね
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬ。
220
今頃
(
いまごろ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
も、
221
青彦
(
あをひこ
)
お
節
(
せつ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
男女
(
だんぢよ
)
に
欺
(
あざむ
)
かれて、
222
道場
(
だうぢやう
)
を
破
(
やぶ
)
られ、
223
フサの
国
(
くに
)
へでも
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つたかも
知
(
し
)
れますまい、
224
高城山
(
たかしろやま
)
の
松姫
(
まつひめ
)
の
様子
(
やうす
)
が
何
(
なん
)
だか
変
(
へん
)
で
御座
(
ござ
)
いましたから……』
225
板公
(
いたこう
)
『ナーニ
黒姫
(
くろひめ
)
はそんな
奴
(
やつ
)
ぢやない。
226
キツと
青彦
(
あをひこ
)
、
227
お
節
(
せつ
)
は
袋
(
ふくろ
)
の
鼠
(
ねずみ
)
、
228
舌
(
した
)
の
先
(
さき
)
で
巧
(
うま
)
くチヨロまかされて
居
(
を
)
るに
違
(
ちが
)
ひない。
229
それよりも
惜
(
を
)
しいと
思
(
おも
)
うのは、
230
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまに、
231
馬公
(
うまこう
)
鹿公
(
しかこう
)
と
云
(
い
)
ふ
若
(
わか
)
い
男
(
をとこ
)
だ。
232
キツと、
233
ウラナイ
教
(
けう
)
に
沈没
(
ちんぼつ
)
して
居
(
を
)
るに
相違
(
さうゐ
)
ない』
234
常彦
(
つねひこ
)
『ハテナ、
235
吾々
(
われわれ
)
も
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
の
知
(
し
)
らるる
通
(
とほ
)
り、
236
ウラナイ
教
(
けう
)
のカンカンであつたが、
237
余
(
あま
)
り
内容
(
ないよう
)
が
充実
(
じゆうじつ
)
せないのと、
238
黒姫
(
くろひめ
)
の
言心行
(
げんしんかう
)
一致
(
いつち
)
を
欠
(
か
)
いだ
其
(
その
)
点
(
てん
)
が
腑
(
ふ
)
に
落
(
お
)
ちず、
239
又
(
また
)
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
に
対
(
たい
)
して、
240
吾々
(
われわれ
)
部下
(
ぶか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
として
弁解
(
べんかい
)
の
辞
(
ことば
)
がないので、
241
アヽ
最早
(
もはや
)
ウラナイ
教
(
けう
)
は
前途
(
さき
)
が
見
(
み
)
えた。
242
根底
(
こんてい
)
から
崩
(
くづ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
243
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
で、
244
どうして
天下
(
てんか
)
の
修斎
(
しうさい
)
が
出来
(
でき
)
ようぞ、
245
信仰
(
しんかう
)
に
酔払
(
よつぱら
)
つた
連中
(
れんちう
)
は
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
、
246
稍
(
やや
)
命脈
(
めいみやく
)
を
保
(
たも
)
つて
居
(
ゐ
)
るが、
247
酔払
(
よつぱら
)
つた
酒
(
さけ
)
は
何時
(
いつ
)
しか
醒
(
さ
)
める
如
(
ごと
)
く、
248
信仰
(
しんかう
)
も
追々
(
おひおひ
)
冷却
(
れいきやく
)
するは
当然
(
たうぜん
)
の
帰結
(
きけつ
)
と、
249
前途
(
ぜんと
)
を
見越
(
みこ
)
して、
250
ヤツパリ
天下
(
てんか
)
を
救
(
すく
)
ふは
三五教
(
あななひけう
)
だと、
251
直
(
ただち
)
に
三五教
(
あななひけう
)
に
入信
(
にふしん
)
し、
252
鬼ケ城
(
おにがじよう
)
の
邪神
(
じやしん
)
退治
(
たいぢ
)
と
出掛
(
でか
)
け、
253
それより
諸方
(
しよはう
)
を
宣伝
(
せんでん
)
し
廻
(
まは
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ。
254
それにしても
合点
(
がつてん
)
のゆかぬは、
255
あれ
程
(
ほど
)
決心
(
けつしん
)
の
堅
(
かた
)
かつた
青彦
(
あをひこ
)
、
256
お
節
(
せつ
)
に
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまぢや。
257
これには
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
様子
(
やうす
)
が
有
(
あ
)
る
事
(
こと
)
であらう。
258
コラ
斯
(
か
)
うしても
居
(
を
)
られない。
259
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
へ
行
(
い
)
つて、
260
事
(
こと
)
の
真偽
(
しんぎ
)
を
確
(
たしか
)
め、
261
其
(
その
)
上
(
うへ
)
で
又
(
また
)
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
を
定
(
さだ
)
めねばなるまい。
262
アーア
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
たワイ』
263
と
手
(
て
)
を
組
(
く
)
んで
太
(
ふと
)
い
息
(
いき
)
をつく。
264
滝公
(
たきこう
)
『これに
就
(
つい
)
て
常彦
(
つねひこ
)
さま、
265
あなたは
何
(
なに
)
かお
考
(
かんが
)
へがありますか。
266
ならう
事
(
こと
)
なら、
267
私
(
わたくし
)
達
(
たち
)
も
共々
(
ともども
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
さして
頂
(
いただ
)
きたいのですが、
268
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うても
零落
(
おちぶ
)
れた
此
(
この
)
体
(
からだ
)
、
269
あなたの
顔
(
かほ
)
にかかはりますから……』
270
常彦
(
つねひこ
)
『ソラ
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
271
衣服
(
いふく
)
は
何時
(
なんどき
)
でも
替
(
か
)
へられる。
272
あなたの
今迄
(
いままで
)
の
失敗
(
しつぱい
)
の
経験
(
けいけん
)
に
会
(
あ
)
つて
鍛
(
きた
)
へ
上
(
あ
)
げられたる
其
(
その
)
身魂
(
みたま
)
は、
273
容易
(
ようい
)
に
得
(
え
)
られるものでない。
274
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
一緒
(
いつしよ
)
に
参
(
まゐ
)
りませう。
275
また
都合
(
つがふ
)
の
好
(
よ
)
い
所
(
ところ
)
が
有
(
あ
)
れば、
276
衣服
(
いふく
)
でも
買
(
か
)
つて
上
(
あ
)
げませう。
277
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
青彦
(
あをひこ
)
以下
(
いか
)
の
救援
(
きうゑん
)
に
向
(
むか
)
はねばならぬ。
278
サア
滝公
(
たきこう
)
、
279
板公
(
いたこう
)
、
280
参
(
まゐ
)
りませう』
281
二人
(
ふたり
)
は
何
(
なん
)
にも
言
(
い
)
はず、
282
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
283
常彦
(
つねひこ
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
284
西北
(
せいほく
)
指
(
さ
)
して、
285
今迄
(
いままで
)
の
衰耗
(
すゐまう
)
敗残
(
はいざん
)
の
気
(
き
)
に
充
(
みた
)
された
態度
(
たいど
)
は
忽
(
たちま
)
ち
枯木
(
かれき
)
に
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
きし
如
(
ごと
)
く、
286
イソイソとして
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
287
山頭
(
さんとう
)
寒巌
(
かんがん
)
に
倚
(
よ
)
りて
立
(
た
)
てる
古木
(
こぼく
)
も
春
(
はる
)
の
陽気
(
やうき
)
に
会
(
あ
)
ひて
深緑
(
しんりよく
)
の
芽
(
め
)
を
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
したる
如
(
ごと
)
く、
288
青
(
あを
)
ざめた
顔
(
かほ
)
は
忽
(
たちま
)
ち
桜色
(
さくらいろ
)
と
変
(
かは
)
り、
289
常彦
(
つねひこ
)
に
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
の
至誠
(
しせい
)
を
捧
(
ささ
)
げつつ、
290
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
き
匂
(
にほ
)
ふ
枯木峠
(
かれきたうげ
)
を
打渡
(
うちわた
)
り、
291
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひをエノキ
峠
(
たうげ
)
の
急坂
(
きふはん
)
後
(
あと
)
に
見
(
み
)
て、
292
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
をホドいて
夏風
(
なつかぜ
)
に、
293
そよぐ
蕨
(
わらび
)
の
野辺
(
のべ
)
を
打渡
(
うちわた
)
り、
294
とある
茶店
(
ちやみせ
)
に
立入
(
たちい
)
りて、
295
再
(
ふたた
)
び
腹
(
はら
)
を
拵
(
こしら
)
へ
忽
(
たちま
)
ち
太
(
ふと
)
る
大原
(
おほはら
)
の
郷
(
さと
)
、
296
テクテク
来
(
きた
)
る
須知山
(
しゆちやま
)
峠
(
たうげ
)
の
絶頂
(
ぜつちやう
)
に、
297
青葉
(
あをば
)
を
渡
(
わた
)
る
涼
(
すず
)
しき
夏
(
なつ
)
の
風
(
かぜ
)
を
受
(
う
)
け
乍
(
なが
)
ら、
298
かたへの
巌
(
いはほ
)
に
腰
(
こし
)
打掛
(
うちか
)
け、
299
常彦
(
つねひこ
)
『アヽ
早
(
はや
)
いものだ、
300
モウ
一息
(
ひといき
)
で
聖地
(
せいち
)
に
到着
(
たうちやく
)
する。
301
世継王
(
よつわう
)
山
(
ざん
)
の
山麓
(
さんろく
)
には、
302
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまの
経綸場
(
けいりんば
)
が
出来
(
でき
)
たと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
303
一
(
ひと
)
つ
立寄
(
たちよ
)
つて
見
(
み
)
ようかな。
304
大抵
(
たいてい
)
青彦
(
あをひこ
)
の
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
らうから………イヤイヤ
今度
(
こんど
)
は
素通
(
すどほり
)
をして、
305
青彦
(
あをひこ
)
に
対面
(
たいめん
)
し、
306
救
(
すく
)
はるるものならば、
307
どこまでも
誠
(
まこと
)
を
尽
(
つく
)
して
忠告
(
ちうこく
)
を
与
(
あた
)
へ、
308
其
(
その
)
上
(
うへ
)
にて
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
庵
(
いほり
)
を
御
(
お
)
訪
(
たづ
)
ねする
事
(
こと
)
にしよう。
309
幸
(
さいはひ
)
に
青彦
(
あをひこ
)
以下
(
いか
)
が
改心
(
かいしん
)
をして、
310
三五教
(
あななひけう
)
に
復帰
(
ふくき
)
したとすれば、
311
先
(
さき
)
へ
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
をお
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
れ
置
(
お
)
くのは
却
(
かへつ
)
て
青彦
(
あをひこ
)
の
為
(
ため
)
に
面白
(
おもしろ
)
くない。
312
友人
(
いうじん
)
の
道
(
みち
)
として
絶対
(
ぜつたい
)
秘密
(
ひみつ
)
にしてやるが
本当
(
ほんたう
)
だらう』
313
滝公
(
たきこう
)
『
青彦
(
あをひこ
)
さまはよもや、
314
ウラナイ
教
(
けう
)
になつて
居
(
を
)
る
気遣
(
きづか
)
ひは
有
(
あ
)
りますまい』
315
板公
(
いたこう
)
『
何
(
なん
)
とも、
316
保証
(
ほしよう
)
がでけぬ、
317
突然
(
とつぜん
)
の
事
(
こと
)
で
吾々
(
われわれ
)
も
岩窟
(
いはや
)
退治
(
たいぢ
)
に
来
(
き
)
たのだと
思
(
おも
)
つて
驚
(
おどろ
)
いたが、
318
後
(
あと
)
になつてよくよく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
319
どうも
黒姫
(
くろひめ
)
と
云
(
い
)
ひ、
320
青彦
(
あをひこ
)
、
321
紫姫
(
むらさきひめ
)
さま
其
(
その
)
他
(
た
)
の
顔色
(
がんしよく
)
に
少
(
すこ
)
しも
変
(
へん
)
な
色
(
いろ
)
が
浮
(
う
)
かんで
居
(
を
)
らなかつた。
322
黒姫
(
くろひめ
)
の
魔術
(
まじゆつ
)
に
依
(
よ
)
りて
剣尖山
(
けんさきやま
)
の
滝
(
たき
)
の
麓
(
ふもと
)
でうまくシテやられたのかも
知
(
し
)
れない、
323
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
常彦
(
つねひこ
)
さまをお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
して、
324
吾々
(
われわれ
)
も
弟子
(
でし
)
となつた
以上
(
いじやう
)
は、
325
青彦
(
あをひこ
)
さま
一行
(
いつかう
)
を
元
(
もと
)
の
道
(
みち
)
へ
救
(
すく
)
はねばなりますまい。
326
これから
首尾
(
しゆび
)
能
(
よ
)
く
凱旋
(
がいせん
)
する
迄
(
まで
)
、
327
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
の
庵
(
いほり
)
を
訪
(
たづ
)
ねなさらぬ
方
(
はう
)
が、
328
万事
(
ばんじ
)
の
都合
(
つがふ
)
が
良
(
よ
)
い
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
ひます。
329
ナア
常彦
(
つねひこ
)
さま』
330
常彦
(
つねひこ
)
『アヽ
私
(
わたくし
)
はさう
考
(
かんが
)
へるのだ。
331
何
(
なに
)
に
付
(
つ
)
けても
大事件
(
だいじけん
)
が
突発
(
とつぱつ
)
した
様
(
やう
)
なものだ』
332
と
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
333
坂
(
さか
)
を
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
る
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
、
334
男
(
をとこ
)
(荒鷹、鬼鷹)
『ヤアあなたは
常彦
(
つねひこ
)
さまぢやありませぬか。
335
何処
(
どこ
)
へお
出
(
い
)
でになつて
居
(
ゐ
)
ました?
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
は
丹州
(
たんしう
)
と
共
(
とも
)
に
弥仙山
(
みせんざん
)
の
麓
(
ふもと
)
に
当
(
あた
)
つて、
336
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
、
337
日々
(
にちにち
)
立昇
(
たちのぼ
)
るのを
見
(
み
)
て、
338
コレヤ
何
(
なに
)
か
神界
(
しんかい
)
の
経綸
(
けいりん
)
が
有
(
あ
)
るのだらうと
其
(
その
)
雲
(
くも
)
を
目当
(
めあて
)
に
参
(
まゐ
)
りました。
339
所
(
ところ
)
が
近
(
ちか
)
くへ
寄
(
よ
)
つて
見
(
み
)
れば、
340
恰度
(
ちやうど
)
虹
(
にじ
)
の
様
(
やう
)
で、
341
其
(
その
)
雲
(
くも
)
は
一寸
(
ちよつと
)
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
に
靉靆
(
たなび
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
342
コレヤ
大変
(
たいへん
)
だ、
343
どこまで
行
(
い
)
つても
雲
(
くも
)
を
掴
(
つか
)
むとは
此
(
この
)
事
(
こと
)
だと、
344
丹州
(
たんしう
)
さまにお
別
(
わか
)
れをして、
345
ここまでやつて
来
(
き
)
ました』
346
常彦
(
つねひこ
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
言霊戦
(
ことたません
)
の
勇士
(
ゆうし
)
、
347
荒鷹
(
あらたか
)
、
348
鬼鷹
(
おにたか
)
のお
二人
(
ふたり
)
さま、
349
どこへ
行
(
ゆ
)
く
積
(
つも
)
りだ』
350
荒鷹
(
あらたか
)
『
丹州
(
たんしう
)
さまは
吾々
(
われわれ
)
に
向
(
むか
)
ひ
仰有
(
おつしや
)
るには、
351
一寸
(
ちよつと
)
神界
(
しんかい
)
の
御用
(
ごよう
)
があるから
弥仙山
(
みせんざん
)
を
中心
(
ちうしん
)
として
暫
(
しばら
)
く
此
(
この
)
辺
(
へん
)
を
探険
(
たんけん
)
しようと
思
(
おも
)
ふから、
352
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
はこれから
聖地
(
せいち
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
け。
353
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
聖地
(
せいち
)
に
立寄
(
たちよ
)
る
事
(
こと
)
はならぬ。
354
須知山
(
しゆちやま
)
峠
(
たうげ
)
を
指
(
さ
)
して
行
(
ゆ
)
けとの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
355
どこを
目的
(
あて
)
ともなくやつて
来
(
き
)
ました。
356
其
(
その
)
時々
(
ときどき
)
に
神
(
かみ
)
が
懸
(
うつ
)
つて
知
(
し
)
らしてやるから、
357
安心
(
あんしん
)
して
行
(
ゆ
)
けとの
事
(
こと
)
、
358
大方
(
おほかた
)
伊吹山
(
いぶきやま
)
の
邪神
(
じやしん
)
退治
(
たいぢ
)
に
行
(
ゆ
)
くのではなからうかと
思
(
おも
)
つて
参
(
まゐ
)
りました。
359
併
(
しか
)
しあなたのお
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
るなり、
360
何
(
なん
)
だか
向
(
むか
)
ふへ
行
(
ゆ
)
くのが
張合
(
はりあひ
)
が
抜
(
ぬ
)
けた
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしてなりませぬワイ』
361
常彦
(
つねひこ
)
『それは
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くものだ。
362
何
(
なに
)
か
外
(
ほか
)
に
聞
(
き
)
いた
事
(
こと
)
は
有
(
あ
)
りませぬか』
363
鬼鷹
(
おにたか
)
『ヤア
有
(
あ
)
ります
有
(
あ
)
ります、
364
大変
(
たいへん
)
な
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
があるのですよ』
365
常彦
(
つねひこ
)
『
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
とは
何
(
なん
)
ですか』
366
鬼鷹
(
おにたか
)
『
弥仙山
(
みせんざん
)
の
麓
(
ふもと
)
の
村
(
むら
)
に、
367
お
玉
(
たま
)
と
云
(
い
)
ふ
娘
(
むすめ
)
があつて、
368
夫
(
をつと
)
も
無
(
な
)
いのに
腹
(
はら
)
が
膨
(
ふく
)
れ、
369
十八
(
じふはち
)
ケ
月目
(
げつめ
)
に
生
(
う
)
み
落
(
おと
)
したのが
女
(
をんな
)
の
子
(
こ
)
、
370
玉照姫
(
たまてるひめ
)
とか
云
(
い
)
つて、
371
生
(
うま
)
れてから
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
にもならないのに、
372
種々
(
いろいろ
)
の
事
(
こと
)
を
説
(
と
)
いて
聞
(
き
)
かせる、
373
さうして
室内
(
しつない
)
を
自由
(
じいう
)
に
立
(
た
)
つて
歩
(
ある
)
くと
云
(
い
)
ふ
噂
(
うはさ
)
で……あの
近在
(
きんざい
)
は
持切
(
もちき
)
りで
御座
(
ござ
)
います。
374
それに
就
(
つい
)
て、
375
ウラナイ
教
(
けう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
376
抜目
(
ぬけめ
)
のない……
其
(
その
)
子供
(
こども
)
を
何
(
な
)
んとか
彼
(
か
)
とか
云
(
い
)
つて、
377
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れようとし、
378
幾度
(
いくたび
)
も
使
(
つかい
)
を
遣
(
つか
)
はし、
379
骨
(
ほね
)
を
折
(
お
)
つて
居
(
を
)
るさうですが、
380
爺
(
ぢい
)
と
婆
(
ばば
)
アとが、
381
中々
(
なかなか
)
頑固者
(
ぐわんこもの
)
で
容易
(
ようい
)
に
渡
(
わた
)
さない。
382
家
(
うち
)
の
血統
(
ちすぢ
)
が
断
(
き
)
れると
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
るさうです。
383
なかなかウラナイ
教
(
けう
)
も
抜目
(
ぬけめ
)
がありませぬなア』
384
常彦
(
つねひこ
)
『
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
るものだなア。
385
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
吾々
(
われわれ
)
も
一度
(
いちど
)
其
(
その
)
子
(
こ
)
が
見
(
み
)
たいものだが、
386
それよりも
先
(
さき
)
に
定
(
き
)
めた
問題
(
もんだい
)
から
解決
(
かいけつ
)
せなくてはならぬ。
387
其
(
その
)
問題
(
もんだい
)
さへ
解決
(
かいけつ
)
がつかば、
388
黒姫
(
くろひめ
)
の
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
り、
389
子供
(
こども
)
の
因縁
(
いんねん
)
も
分
(
わか
)
るだらう。
390
併
(
しか
)
し
鬼鷹
(
おにたか
)
さま、
391
荒鷹
(
あらたか
)
さま、
392
あなたは
何処
(
どこ
)
へ
行
(
ゆ
)
く
積
(
つも
)
りか』
393
荒
(
あら
)
、
394
鬼
(
おに
)
『まだ
行先
(
ゆくさき
)
不明
(
ふめい
)
……
私
(
わたくし
)
の
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
は
何処
(
どこ
)
で
御座
(
ござ
)
います……と
実
(
じつ
)
はあなたにお
尋
(
たづ
)
ねしたいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのです』
395
常彦
(
つねひこ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
丹州
(
たんしう
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
通
(
どほ
)
り、
396
行
(
ゆ
)
く
所
(
とこ
)
までお
出
(
い
)
でなさいませ。
397
神
(
かみ
)
の
綱
(
つな
)
に
操
(
あやつ
)
られて
居
(
を
)
るのだから、
398
今
(
いま
)
何
(
なに
)
を
考
(
かんが
)
へた
所
(
ところ
)
で
仕方
(
しかた
)
が
有
(
あ
)
りますまい。
399
併
(
しか
)
し
丹州
(
たんしう
)
さまは……あなた
方
(
がた
)
、
400
何
(
なん
)
と
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
ますか』
401
荒鷹
(
あらたか
)
『どうもあの
方
(
かた
)
は、
402
吾々
(
われわれ
)
としては、
403
正
(
せい
)
とも
邪
(
じや
)
とも、
404
賢
(
けん
)
とも
愚
(
ぐ
)
とも、
405
見当
(
けんたう
)
が
取
(
と
)
れませぬ。
406
つまり
一種
(
いつしゆ
)
の……
悪
(
わる
)
く
言
(
い
)
へば
怪物
(
くわいぶつ
)
ですなア。
407
併
(
しか
)
し
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
はれぬ
崇高
(
すうかう
)
な
所
(
ところ
)
があつて、
408
自然
(
しぜん
)
に
吾々
(
われわれ
)
は
頭
(
あたま
)
が
下
(
さ
)
がり、
409
何程
(
なにほど
)
下目
(
しため
)
に
見
(
み
)
ようと
思
(
おも
)
うても、
410
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
吾々
(
われわれ
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
は
服従
(
ふくじゆう
)
致
(
いた
)
します』
411
鬼鷹
(
おにたか
)
『
私
(
わたくし
)
も
同感
(
どうかん
)
です。
412
何
(
なん
)
でも
特別
(
とくべつ
)
の
神界
(
しんかい
)
の
使命
(
しめい
)
を
受
(
う
)
けた
方
(
かた
)
に
違
(
ちが
)
ひありませぬワ、
413
元
(
もと
)
吾々
(
われわれ
)
が
使
(
つか
)
つて
居
(
を
)
つた
其
(
その
)
時分
(
じぶん
)
から、
414
少
(
すこ
)
し
変
(
へん
)
だなアと
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
た。
415
今日
(
こんにち
)
の
所
(
ところ
)
では、
416
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
不可解
(
ふかかい
)
な
人物
(
じんぶつ
)
だ。
417
時々
(
ときどき
)
頭上
(
づじやう
)
より
閃光
(
せんくわう
)
を
発射
(
はつしや
)
したり、
418
眉間
(
みけん
)
からダイヤモンドの
様
(
やう
)
な
光
(
ひかり
)
が
放出
(
はうしゆつ
)
して
忽
(
たちま
)
ち
人
(
ひと
)
を
射
(
い
)
る。
419
到底
(
たうてい
)
凡人
(
ぼんじん
)
の
品等
(
ひんとう
)
すべき
限
(
かぎ
)
りではありませぬワ』
420
常彦
(
つねひこ
)
、
421
手
(
て
)
を
組
(
く
)
み、
422
首
(
くび
)
をうな
垂
(
だ
)
れ、
423
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
を
)
る。
424
荒鷹
(
あらたか
)
、
425
鬼鷹
(
おにたか
)
は、
426
荒鷹、鬼鷹
『
左様
(
さやう
)
なら
常彦
(
つねひこ
)
さま、
427
又
(
また
)
惟神
(
かむながら
)
に
再会
(
さいくわい
)
の
時
(
とき
)
を
楽
(
たのし
)
みませう』
428
と
一礼
(
いちれい
)
して、
429
スタスタ
坂
(
さか
)
を
南
(
みなみ
)
へ
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
430
常彦
(
つねひこ
)
は
少
(
すこ
)
しも
気付
(
きづ
)
かず、
431
瞑目
(
めいもく
)
して
俯
(
うつ
)
むいて
居
(
を
)
る。
432
滝公
(
たきこう
)
『モシ
常彦
(
つねひこ
)
さま
二人
(
ふたり
)
の
方
(
かた
)
はモウ
行
(
ゆ
)
かれました』
433
と
背中
(
せなか
)
を
揺
(
ゆす
)
る。
434
常彦
(
つねひこ
)
は
夢
(
ゆめ
)
からさめた
様
(
やう
)
な
心地
(
ここち
)
、
435
常彦
(
つねひこ
)
『ナニ、
436
二人
(
ふたり
)
はモウ
行
(
ゆ
)
かれたと……エー
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
仕組
(
しぐみ
)
だらう。
437
とも
角
(
かく
)
、
438
弥仙山
(
みせんさん
)
麓
(
ろく
)
へ
往
(
い
)
つて
見
(
み
)
たいやうな
気
(
き
)
がするが、
439
始
(
はじ
)
めに
思
(
おも
)
ひ
立
(
た
)
つた
青彦
(
あをひこ
)
の
事件
(
じけん
)
から
解決
(
かいけつ
)
するのが
順序
(
じゆんじよ
)
だ。
440
サア
皆
(
みな
)
さま、
441
参
(
まゐ
)
りませう……』
442
(
大正一一・四・二八
旧四・二
松村真澄
録)
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