霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 赤鳥居(あかとりゐ)〔六三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻 篇:第2篇 再探再険 よみ(新仮名遣い):さいたんさいけん
章:第5章 赤鳥居 よみ(新仮名遣い):あかとりい 通し章番号:633
口述日:1922(大正11)年04月25日(旧03月29日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
紫姫一行は、大江山方面へと向かっていた。鹿公は行き先を尋ねるが、紫姫は御神命で固く秘密を守るように言われている、と答える。
すると道中、暗夜に女性の悲鳴が聞こえてきた。紫姫は、若彦、馬公、鹿公に助けに行くようにと命を出す。三人は暗がりの中を悲鳴のした方へ向かっていく。
それはウラナイ教の手下が、黒姫の命でお節をさらってきていた所であった。鹿公はとっさに黒姫の作り声を出して、手下たちを誘導する。馬公が幽霊の真似をすると、ウラナイ教の手下たちは驚いて逃げていってしまった。
鹿公と馬公は、お節を助けて紫姫のところまで連れて行った。お節は、爺婆が亡くなったため、青彦(若彦)を追って聖地に行く途中、ウラナイ教の男二人にかどわかされたのだ、という。
若彦は、お節に名乗りをして二人は再会を果たした。お節は嬉しさに若彦にすがりつく。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-13 17:28:51 OBC :rm1805
愛善世界社版:80頁 八幡書店版:第3輯 666頁 修補版: 校定版:83頁 普及版:35頁 初版: ページ備考:
001(てん)(くわ)(すゐ)()(むす)びたる
002(あを)(あか)(しろ)()をこき()ぜて
003(みどり)(したた)足曳(あしびき)
004(やま)(やま)とに(つつ)まれし
005由良(ゆら)(なが)れに沿()(なが)
006彼方(かなた)()てる(むらさき)
007(けぶり)()あてに(すす)()
008紫姫(むらさきひめ)宣伝使(せんでんし)
009草木(くさき)()ゆる若彦(わかひこ)
010(うま)(むち)()膝栗毛(ひざくりげ)
011鹿(しか)()()めテクテクと
012(かた)斑鳩(いかるが)()(そら)
013笠西坂(かさにしさか)頂上(ちやうじやう)
014()(にん)(やうや)()きにけり。
015若彦(わかひこ)紫姫(むらさきひめ)(さま)016(この)風景(ふうけい)()地点(ちてん)四方(よも)景色(けしき)観望(くわんばう)して(いき)(やす)めませうか』
017紫姫(むらさきひめ)(わたし)もさう(おも)つて()ました、018弥仙(みせん)のお(やま)(むらさき)のお容姿(すがた)(あら)はし(たま)ひ、019連峰(れんぽう)(あつ)して(たか)雲表(うんぺう)(かしら)突出(つきだ)して、020(じつ)(なん)とも()へぬ雄大(ゆうだい)さで御座(ござ)いますね』
021若彦(わかひこ)左様(さやう)です、022(はる)弥仙山(みせんざん)(また)格別(かくべつ)ですな、023彼方(あちら)()ゆる四尾(よつを)神山(しんざん)024コンモリした()繁茂(しげみ)025桶伏山(をけふせやま)もちらりと()えて()ます、026(じつ)遠方(ゑんぱう)から()四尾山(よつをざん)一層(いつそう)崇高味(すうかうみ)()すやうですな、027昨夜(さくや)あの山麓(さんろく)悦子姫(よしこひめ)(さま)のお(やかた)(たづ)ねた(とき)は、028その(やう)立派(りつぱ)(やま)ぢやと(おも)ひませなンだが、029矢張(やつぱり)(おほ)きなものは近寄(ちかよ)つて()るよりも、030遠見(ゑんけん)(はう)余程(よほど)真相(しんさう)()れる(やう)ですな』
031紫姫(むらさきひめ)『アヽ()景色(けしき)にうたれ、032(おも)はず時間(じかん)(つひ)やしました、033そろそろ出掛(でかけ)ませうか』
034馬公(うまこう)『もう(ちつ)(やす)みていつたら如何(どう)です、035(これ)から(おく)()けば(やま)(やま)と、036双方(さうはう)から圧搾(あつさく)した(やう)殺風景(さつぷうけい)難路(なんろ)(ばか)りですよ、037充分(じゆうぶん)聖地(せいち)此処(ここ)から憧憬(どうけい)して名残(なごり)()しみ、038四尾山(よつをざん)袂別(けつべつ)挨拶(あいさつ)(をは)つて()かうではありませぬか、039随分(ずゐぶん)(この)(さき)急坂(きふはん)がありますから………』
040紫姫(むらさきひめ)『サア、041(すこ)(やす)みませうか』
042鹿公(しかこう)『アヽ、043さうなさいませ、044充分(じゆうぶん)英気(えいき)(やしな)つて(まゐ)りませう、045一歩(いつぽ)々々(いつぽ)大江山(おほえやま)接近(せつきん)するのですから、046(この)安全(あんぜん)地帯(ちたい)充分(じゆうぶん)浩然(こうぜん)()(やしな)つて()(こと)(いた)しませう。047(しか)(なが)最早(もはや)大江山(おほえやま)鬼雲彦(おにくもひこ)遁走(とんそう)し、048(あと)には鬼武彦(おにたけひこ)()眷属(けんぞく)()守護(しゆご)して()られるなり、049三嶽(みたけ)岩窟(がんくつ)滅茶(めつちや)々々(めつちや)となり、050(おに)(じやう)(また)鬼熊別(おにくまわけ)敗走(はいそう)以来(いらい)051(てき)(かげ)(とど)めて()ないぢやありませぬか、052それに(また)貴女(あなた)吾々(われわれ)(この)方面(はうめん)用向(ようむき)仰有(おつしや)らずに()()れておいでになつたのは、053(すこ)しく合点(がてん)(まゐ)りませぬ、054一体(いつたい)全体(ぜんたい)如何(どう)(あそ)ばす(つも)りですか。055(すこ)(くらゐ)()らし(くだ)さつても滅多(めつた)口外(こうぐわい)(いた)しませぬがな』
056紫姫(むらさきひめ)『いいえ、057悦子姫(よしこひめ)(さま)(つう)じて大神(おほかみ)(さま)の「一切(いつさい)秘密(ひみつ)(まも)れ」との()神命(しんめい)なれば、058仮令(たとへ)貴方(あなた)(わたし)(なか)でも(これ)ばかりは発表(はつぺう)する(こと)出来(でき)ませぬ、059(やが)真相(しんさう)(わか)るでせう』
060鹿公(しかこう)紫姫(むらさきひめ)(さま)は、061吾々(われわれ)二人(ふたり)元来(もとより)貴女(あなた)従僕(しもべ)062さう叮嚀(ていねい)なお言葉(ことば)をお使(つか)(くだ)さつては(じつ)(おそ)()ります、063何卒(どうぞ)今後(こんご)鹿(しか)064(うま)仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ』
065紫姫(むらさきひめ)『いえいえ、066今迄(いままで)(わたし)なれば極端(きよくたん)なる階級(かいきふ)制度(せいど)習慣(しふくわん)主人(しゆじん)気取(きど)りになるでせうが、067三五教(あななひけう)(すく)はれてより上下(じやうげ)隔壁(かくへき)念頭(ねんとう)よりすつかり散逸(さんいつ)させて仕舞(しま)ひました。068人間(にんげん)(つく)つた不合理(ふがふり)(てき)階級(かいきふ)制度(せいど)墨守(ぼくしゆ)するは、069(かへつ)大神(おほかみ)(さま)()神慮(しんりよ)違反(ゐはん)する(こと)となりませう。070(もと)一株(ひとかぶ)(おな)(かみ)(さま)分霊(わけみたま)ですからな』
071鹿公(しかこう)『ハイ、072有難(ありがた)御座(ござ)います。073左様(さやう)ならば今後(こんご)主従(しゆじゆう)障壁(しやうへき)撤去(てつきよ)し、074私交(しかう)(じやう)(おい)ては平等(べうどう)(てき)交際(かうさい)()して(いただ)きませう。075(しか)(なが)教理(をしへ)(うへ)(こと)()いては矢張(やつぱり)師弟(してい)関係(くわんけい)何処迄(どこまで)維持(ゐぢ)して()()御座(ござ)います、076何卒(どうぞ)(これ)だけはお(みと)()きをお(ねが)(まを)します』
077紫姫(むらさきひめ)(なん)だか(わたし)がお(まへ)さまの師匠(ししやう)なぞと()はれると、078(あし)(うら)までくすぐつたい(やう)()がしてなりませぬ』
079鹿公(しかこう)今後(こんご)(その)(つも)りでお(ねが)(いた)します、080(しか)(なが)貴女(あなた)(はな)(みやこ)へは(かへ)()うは御座(ござ)いませぬか』
081紫姫(むらさきひめ)『それは人間(にんげん)ですもの、082故郷(こきやう)(かへ)()いは山々(やまやま)ですが、083(かみ)(さま)()命令(めいれい)完全(くわんぜん)(はた)さなくてはなりませぬ、084それ(まで)(わたし)故郷(こきやう)(こと)はすつかり念頭(ねんとう)から分離(ぶんり)して()ます、085何卒(どうぞ)今後(こんご)故郷(こきやう)(こと)()つて(くだ)さいますな……、086サア若彦(わかひこ)さま、087(まゐ)りませう』
088(いさぎよ)駆出(かけだ)す。
089紫姫(むらさきひめ)一行(いつかう)
090(いづ)(みたま)瑞霊(みづみたま)
091(かみ)(めぐみ)河守駅(かうもりえき)
092やすやす(わた)船岡(ふなをか)
093深山(みやま)京都府福知山市大江町の豊受大神社が鎮座している船岡山のこと左手(ゆんで)(なが)めつつ
094(ひと)(こころ)のあか鳥居(とりゐ)
095鬼武彦(おにたけひこ)眷属(けんぞく)
096(あさひ)明神(みやうじん)(まつ)りたる
097(ほこら)(まへ)()ちどまり
098()()(さち)(いの)りつつ
099(また)もや(きた)()かむとす
100(ころ)しもあれや山林(さんりん)
101(かな)しき(をんな)(さけ)(ごゑ)
102(とり)()()(ましら)(こゑ)
103合点(がてん)ゆかぬと()ちとまり
104(かうべ)(かたむ)()()れば
105(たす)けて()れいと手弱女(たをやめ)
106(まさ)しく(さけ)びの(こゑ)なりき。
107 若彦(わかひこ)(この)(こゑ)()きつけらるる(ごと)面持(おももち)にて前後(ぜんご)(わす)(みみ)をすまし()る。
108馬公(うまこう)『モシモシ若彦(わかひこ)さま、109(なに)茫然(ぼんやり)として()なさる、110あの(こゑ)如何(どう)ですか、111(かな)(さう)乙女(をとめ)救援(きうゑん)(もと)むる(こゑ)ぢやありませぬか』
112若彦(わかひこ)(なん)とも合点(がつてん)のゆかぬ(こゑ)だ』
113 (さけ)(ごゑ)益々(ますます)(はげ)しく(きこ)(きた)る。
114紫姫(むらさきひめ)(みな)さま、115()苦労(くらう)ですが(わたし)(この)(ほこら)(まへ)()祈念(きねん)(いた)して()つて()ますから、116(みち)(くら)御座(ござ)いますが()()(なが)ら、117あの(こゑ)(たづ)ねて実否(じつぴ)調(しら)べて()(くだ)さいませぬか』
118若彦(わかひこ)『ハイ、119(かしこ)まりました、120貴女(あなた)一人(ひとり)此処(ここ)にお()たせしても()みませぬから、121鹿公(しかこう)()へて()きませう』
122紫姫(むらさきひめ)『いえいえ、123(けつ)して()心配(しんぱい)(くだ)さいますな、124(わたし)(これ)より宣伝使(せんでんし)となつて如何(いか)なる魔神(まがみ)(なか)にも単騎(たんき)進撃(しんげき)をやらねばならない(もの)御座(ござ)います、125何卒(どうぞ)(かま)ひなく一刻(いつこく)(はや)くあの(こゑ)(はう)(むか)つてお(すす)(くだ)さいませ』
126若彦(わかひこ)委細(ゐさい)承知(しようち)(いた)しました、127戦況(せんきやう)時々(じじ)刻々(こくこく)報告(はうこく)(いた)させます、128サアサア馬公(うまこう)129鹿公(しかこう)130サア出陣(しゆつぢん)だ』
131馬公(うまこう)『ここに(うま)()ります、132(せん)()名馬(めいば)133()(またが)(くだ)さいませ、134(てき)(むか)つて天晴(あつぱ)名将(めいしやう)武者(むしや)()りを発揮(はつき)するも一寸(ちよつと)(めう)ですぜ』
135鹿公(しかこう)(うま)でお()()らねば鹿(しか)()ります、136児屋根(こやね)(みこと)さまは鹿(しか)にお()(あそ)ばしたぢやありませぬか、137()()くは(わたくし)恩命(おんめい)(くだ)(たま)はらば結構(けつこう)ですが……』
138若彦(わかひこ)馬公(うまこう)139鹿公(しかこう)140馬鹿口(ばかぐち)たたく猶予(いうよ)があるか、141サア(はや)()きませう』
142(うま)143鹿(しか)『エー、144馬鹿(ばか)々々(ばか)しい、145突貫(とつくわん)々々(とつくわん)146一二(いちに)一二(いちに)
147(くら)がりの(みち)(こゑ)をあげて(すす)()く。148以前(いぜん)(こゑ)はピタリと()まりぬ。149(さん)(にん)暗夜(あんや)方向(はうかう)(うしな)当惑(たうわく)()るる(をり)しも暗中(あんちう)(ひと)(こゑ)
150(かふ)(滝公)『サア、151もう(これ)大丈夫(だいぢやうぶ)だ、152ああして(まつ)(した)猿轡(さるぐつわ)()めて引括(ひつくく)つて()けば()げる気遣(きづか)ひはない(わい)153マアゆつくりと(くら)がりを(さいは)休息(きうそく)でも(あそ)ばさうぢやないか』
154(おつ)(板公)休息(きうそく)しようと()つたつて(にはか)(くら)くなつて寸魔(すんま)尺哭(しやくこく)ぢや、155まるで(かま)(かぶ)つた(やう)ぢやないか』
156(かふ)(滝公)(かま)(かぶ)れば(そら)(ほし)()えない(はず)だ、157あれ()よ、158(くも)(ほころ)びからチラホラと(ほし)(ひかり)(かすか)(またた)いて()るぢやないか』
159(おつ)(板公)(なに)160何処(どこ)もかも天地(てんち)暗澹(あんたん)161(ほし)(ひと)つだに()えぬ(かな)しさだ』
162(かふ)(滝公)(これ)(ほど)立派(りつぱ)(ほし)()えて()るのに貴様(きさま)(また)何処(どこ)()いて()るのだ、163アハヽヽヽ、164やられ()つたな、165八畳敷(はちでふじき)に』
166(おつ)(板公)八畳敷(はちでふじき)(なん)だい』
167(かふ)(滝公)大方(おほかた)(たぬき)睾丸(きんたま)でも(かぶ)されよつたのだらう』
168(おつ)(板公)(なに)169ソンナ気遣(きづか)ひがあるものか、170ヤア方角(はうがく)間違(まちが)つて()つた。171(した)ばつかり()()つたものだから、172(ほし)()えなかつたのだ、173ホンに彼方(あちら)此方(こちら)(ほし)金米糖(こんぺいたう)(ひか)つて()(わい)
174(かふ)(滝公)『それこそ方角(はうがく)(てん)()がつて()つたのだ』
175(おつ)(板公)(なに)176()(ちが)つた(だけ)だよ、177アハヽヽヽ。178(しか)貴様(きさま)(おれ)二人(ふたり)では()(をんな)(この)(くら)がりに(かつ)いで()(わけ)にもゆかず、179(みち)(また)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)にでも出会(であ)つたら大変(たいへん)だからなア』
180(かふ)(滝公)『ちつたア出世(しゆつせ)しようと(おも)へば(これ)(くらゐ)苦労(くらう)はせなくちや()らないよ。181何時(いつ)黒姫(くろひめ)さまが苦労(くらう)出世(しゆつせ)(もと)ぢやと(おつ)しやるぢやないか、182ソンナ(よわ)(こと)()はずに、183サア(これ)から棒片(ぼうちぎれ)にでも(くく)りつけて、184貴様(きさま)(おれ)とが(かつ)いで魔窟(まくつ)(はら)岩窟(いはや)(かへ)るとしよう。185さうすれば富彦(とみひこ)だつて虎若(とらわか)だつて、186(おれ)(たち)(たい)今迄(いままで)(やう)無暗(むやみ)威張(ゐば)らなくなるよ。187吾々(われわれ)殊勲者(しゆくんしや)として黒姫(くろひめ)さまの信任(しんにん)益々(ますます)(あつ)く、188鼻高々(はなたかだか)高山彦(たかやまひこ)(おん)大将(たいしやう)以上(いじやう)待遇(たいぐう)されるかも()れないよ、189アハヽヽヽ』
190 鹿(しか)(にはか)(をんな)(つく)(ごゑ)()して、
191鹿公(しかこう)『コレコレ、192滝公(たきこう)193板公(いたこう)194(わし)黒姫(くろひめ)ぢや、195その(をんな)大切(たいせつ)踏縛(ふんじば)つて(はや)(かつ)いで、196(この)黒姫(くろひめ)(あと)()いて御座(ござ)れ、197愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると三五教(あななひけう)寝返(ねがへ)りを()つた青彦(あをひこ)馬公(うまこう)鹿公(しかこう)古今(ここん)無双(むさう)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)引率(ひきつ)れ、198(まへ)(たち)(くび)捻切(ねぢき)るかも()れぬ。199サアサ(はや)用意(ようい)をなされ、200コンナ(ところ)愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると()(こと)があるものかいのう』
201(かふ)(滝公)『ヤ、202()ぶより(そし)れとは此処(ここ)(こと)か、203(いま)(いま)とて、204…へ…一寸(ちよつと)……貴女(あなた)(さま)のお(うはさ)(いた)して()りました。205イヤもう(ほね)()れた(こと)御座(ござ)いました。206(せつ)阿魔女(あまつちよ)随分(ずゐぶん)()()いて()ましたよ』
207鹿公(しかこう)『ア、208さうぢやらう さうぢやらう、209彼奴(あいつ)仲々(なかなか)()()いた(やつ)ぢや、210強情(がうじやう)(をんな)ぢや、211サアサア(はや)(つき)()(うち)用意(ようい)をなされ』
212(かふ)213(おつ)(滝公、板公)『ハイ、214(かしこ)まりました、215暫時(しばらく)()(くだ)さいませ』
216鹿公(しかこう)『そのお(せつ)何処(どこ)()いてあるのだい』
217(おつ)(板公)『ハイハイ、218此処(ここ)から十間(じつけん)(ばか)先方(むかう)(まつ)()(ふもと)猿轡(さるぐつわ)()ませ、219手足(てあし)(しば)つて根元(ねもと)(しつか)(くく)つて()きました』
220鹿公(しかこう)『それはお骨折(ほねをり)ぢやつた、221(しか)(いき)()える(やう)(こと)はして()からうな』
222(おつ)(板公)(なに)223貴女(あなた)224()うせ()れて(かへ)つて(ころ)すか、225此処(ここ)(ころ)すか、226手間(てま)(おな)(こと)ですもの、227あの(とほ)猿轡(さるぐつわ)()めた以上(いじやう)は、228もう今頃(いまごろ)はコロリといつて()るかも()れませぬ』
229(かふ)(滝公)『イエイエ、230滅多(めつた)()ンでは()りますまい、231(この)滝公(たきこう)(いき)()れない(やう)に、232(こゑ)()さない(やう)に、233そこは注意(ちうい)周到(しうたう)(もの)です、234大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ』
235鹿公(しかこう)(わし)一寸(ちよつと)調(しら)べがてらにお(まへ)(あと)()いて()かうかな』
236(かふ)(滝公)『サアサ黒姫(くろひめ)(さま)237()実検(じつけん)(くだ)さいませ、238貴女(あなた)実地(じつち)()(もら)へばお(うま)(さき)功名(こうみやう)同然(どうぜん)239いやもう無上(むじやう)光栄(くわうえい)御座(ござ)います』
240鹿公(しかこう)『それはお手柄(てがら)手柄(てがら)241サア(はや)()せて(くだ)さい』
242板公(いたこう)随分(ずゐぶん)険難(けんのん)(くら)がり(みち)御座(ござ)いますから、243(わたくし)がお()()つて()げませう』
244鹿公(しかこう)『イヤイヤ、245滅相(めつさう)な、246(とし)()つても()だお(まへ)(やう)(わか)いお(かた)(たす)けられる(ほど)247耄碌(まうろく)はして()りませぬ(わい)248()(にぎ)られると発覚(はつかく)の……どつこい……八角(はつかく)(くそ)をこめて気張(きば)つても……お(せつ)()(にぎ)つて(めう)(こと)をするでないぞ』
249板公(いたこう)阿呆(あはう)らしい、250(なに)(おつ)しやいます、251ソンナラ(わたくし)(あと)から足音(あしおと)をたよつて()(くだ)さいませ、252アヽ(くら)(くら)い』
253(さぐ)(あし)(ある)()す。254(さん)(にん)(いき)()らし(やみ)(さいは)()いて()く。
255滝公(たきこう)『オイ、256板公(いたこう)257()(へん)だつたいな、258あまり(くら)くつて(はな)(つま)まれても(わか)らぬ(やう)だ、259テント方向(はうかう)がとれぬぢやないか』
260板公(いたこう)『ヤ、261此処(ここ)此処(ここ)だ、262オイお(せつ)263これから魔窟(まくつ)(はら)結構(けつこう)(ところ)(おく)つてやるのだ、264満足(まんぞく)だらう。265オイお(せつ)266返事(へんじ)をせぬか』
267滝公(たきこう)馬鹿(ばか)()うない、268(こゑ)をたてぬ(やう)猿轡(さるぐつわ)()めて()いた(もの)返事(へんじ)をするものかい、269狼狽(うろた)へた(こと)()ふな』
270板公(いたこう)『オヽ、271さうだつたな、272サアサアお(せつ)273(ほど)いてやらう、274ヤア(えら)猿轡(さるぐつわ)だ、275(いき)()らしては面白(おもしろ)くない、276ちつと(ゆる)めてやらう、277ヤア(ぬく)いぞ(ぬく)いぞ、278(たしか)(この)耆婆(きば)扁鵲(へんじやく)診察(しんさつ)()れば(きは)めて安心(あんしん)だ。279恢復(くわいふく)見込(みこみ)たしかだ。280予後(よご)(りやう)だ』
281 (うま)282(めう)(こゑ)()して、
283馬公『ヒユー、284ドロドロドロ、285(うら)めしやア、286仮令(たとへ)生命(いのち)はとらるるとも、287魂魄(こんぱく)(この)()(とど)まりて、288滝公(たきこう)289板公(いたこう)素首(そつくび)()()かいでやむべきか……』
290 (たき)291(いた)は、
292滝公、板公『ヤア、293()やがつた、294こいつア(たま)らぬ』
295無茶(むちや)苦茶(くちや)()()す。296(あやま)つて(かたへ)谷川(たにがは)へザンブと二人(ふたり)()()みたり。
297 馬公(うまこう)手早(てばや)(つな)(ほど)猿轡(さるぐつわ)(はづ)し、
298馬公『ヤアお(せつ)さま、299しつかり()さいませ、300もう大丈夫(だいぢやうぶ)です』
301 お(せつ)(はじ)めて()()いたと()え、
302お節(なに)303(なんぢ)悪神(あくがみ)家来(けらい)(ども)304もう()うなる(うへ)はお(せつ)死物狂(しにものぐるひ)305()(もの)()せて()れむ』
306馬公(うまこう)『ヤア、307それは(ちが)ひます、308(わたくし)三五教(あななひけう)(うま)(まを)すもの、309貴女(あなた)のお(こゑ)(たづ)ねてお(たす)けに()たのです、310()安心(あんしん)なさいませ。311(いま)二人(ふたり)悪者(わるもの)(ども)(おどろ)いて逃行(にげゆ)途端(とたん)に、312(この)谷川(たにがは)()()みました。313あまり(くら)いので如何(どう)なつたか()りませぬが、314吾々(われわれ)(けつ)して悪者(わるもの)では御座(ござ)いませぬ。315サア鹿公(しかこう)316若彦(わかひこ)さま、317(この)(せつ)さまの()()いて(ひろ)(みち)まで()れて()つてあげませうか』
318(せつ)(はじ)めて安心(あんしん)(てい)
319お節『これはこれは(あやふ)(ところ)をようこそお(たす)(くだ)さいました。320アヽ(かみ)(さま)有難(ありがた)御座(ござ)います』
321(てん)(むか)つて合掌(がつしやう)感謝(かんしや)する(をり)しも、322(やま)(のぞ)いて()(はん)(ゑん)(つき)323(たちま)(みち)判然(はつきり)()()しにける。
324馬公(うまこう)『アヽ有難(ありがた)いものだ、325これで安心(あんしん)だ、326サア(はや)く、327紫姫(むらさきひめ)さまがお()ちかね、328(まゐ)りませう』
329とお(せつ)()()り、330()(にん)紫姫(むらさきひめ)暗祈(あんき)黙祷(もくたう)()らす(ほこら)(まへ)にやつと(かへ)()たりぬ。
331鹿公(しかこう)紫姫(むらさきひめ)(さま)332鹿(しか)野郎(やらう)功名(こうみやう)手柄(てがら)333()(くだ)さいませよ。334目的物(もくてきぶつ)首尾(しゆび)よく()()りました』
335紫姫(むらさきひめ)『ア、336それはそれは、337()苦労(くらう)(さま)338何処(どこ)のお(かた)だつたか()らぬが(あやふ)(ところ)御座(ござ)いましたな』
339(せつ)『ハイ、340有難(ありがた)御座(ござ)います、341(ちから)(たの)むお(ぢい)さまには()(わか)れ、342()アさまにも(また)死別(しにわか)れ、343(いま)(たよ)りなき(をんな)一人暮(ひとりぐら)し、344許婚(いひなづけ)(わたし)(をつと)(あと)(した)ひ、345聖地(せいち)(むか)つて(すす)()(をり)しも、346(みち)()(まよ)魔窟(まくつ)(はら)(とほ)りました。347(ところ)(うしろ)より「オーイオーイ」と(をとこ)(こゑ)348(なに)()もあれ、349(あや)しき(やつ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(なが)(みち)此処(ここ)まで()げて(まゐ)りました、350(をり)あしく道中(だうちう)岩石(がんせき)(つまづ)きバタリと()けて(たふ)れた(ところ)を、351()ひかけて()二人(ふたり)(をとこ)352()(かさ)なつて(わたし)高手(たかて)小手(こて)(しば)り、353(まつ)()(ふもと)()れて()つて、354()()(なぐ)るの乱暴(らんばう)狼藉(ろうぜき)355(わたし)(ちから)(かぎ)(いづ)れの(かた)かお(とほ)りあらばお(たす)(くだ)さるであらうと、356女々(めめ)しくも(こゑ)をたてました。357さうすると二人(ふたり)悪者(わるもの)(わたし)(くち)()ます猿轡(さるぐつわ)358最早(もはや)(かな)はぬと観念(かんねん)()(みは)り、359()(うと)くなりまする(さい)360(おも)はぬお(たす)けに(あづ)かりました。361(この)御恩(ごおん)()すとも(わす)れませぬ、362皆様(みなさま)()くお(たす)(くだ)さいました』
363(うれ)(なみだ)()()しける。
364鹿公(しかこう)『モシ若彦(わかひこ)さま、365(さつ)する(ところ)貴方(あなた)れこぢやありませぬか』
366若彦『ハイ……』
367()つたきり若彦(わかひこ)俯向(うつむ)()る。
368鹿公(しかこう)『アハヽヽヽ、369これはこれは、370(はづか)しう御座(ござ)るか、371(ひさ)()りの恋女房(こひにようばう)対面(たいめん)372柔和(やさ)しい言葉(ことば)(ひと)つも()けておあげなさつては如何(どう)ですか、373吾々(われわれ)()ると(おも)つて()()(こと)()()はず、374()()うても()()かず、375(われ)(わが)(こころ)(いつは)つて()らつしやるのでせう。376吾々(われわれ)であつたなればソンナ虚偽(きよぎ)(こと)(いた)しませぬワ、377「ア、378(まへ)女房(にようばう)か、379()うマア無事(ぶじ)()()れた、380これと()ふも(かみ)(さま)のお(かげ)381()ひたかつた()ひたかつた」としつかと()きしめ(うれ)(なみだ)()れにけり……と()場面(ばめん)だ。382吾々(われわれ)(しばら)退却(たいきやく)(いた)さう、383ナア若彦(わかひこ)さま、384(せつ)さまとゆつくり(ほど)()(おも)()物語(ものがたり)385しつぽりとなされませや、386ずつしりとお()(あそ)ばせ、387紫姫(むらさきひめ)さま、388馬公(うまこう)389(しばら)()()かせませう』
390若彦(わかひこ)『イヤ有難(ありがた)御座(ござ)います、391皆様(みなさま)のお(かげ)392斯様(かやう)(ところ)でお(せつ)殿(どの)()ふのも(かみ)(さま)のお摂理(せつり)御座(ござ)いませう。393モシモシお(せつ)どの、394(わたくし)(おぼ)えて()ますか、395青彦(あをひこ)ですよ』
396(せつ)『ア、397貴方(あなた)青彦(あをひこ)さま、398(なつか)しう御座(ござ)います。399()うマア無事(ぶじ)()(くだ)さいました』
400(うれ)しさに前後(ぜんご)(わす)れ、401青彦(あをひこ)()獅噛(しが)()(やう)身体(からだ)をもだえ()(さけ)ぶ。
402鹿公(しかこう)『カチカチ、403観客(くわんきやく)(みな)さま、404これで幕切(まくきり)(いた)します。405今後(こんご)成行(なりゆき)(また)明晩(みやうばん)(つづ)(もの)として(えん)じまする、406何卒(なにとぞ)不相変(あひかはらず)()贔屓(ひいき)(もつ)賑々(にぎにぎ)しく()入来(じゆらい)あらむ(こと)(ひとへ)(こひねが)()(たてまつ)ります、407アハヽヽヽ』
408紫姫(むらさきひめ)『オホヽヽヽ、409鹿公(しかこう)410(とき)場合(ばあひ)()ります、411洒落(しやれ)もいい加減(かげん)にしなさいや』
412馬公(うまこう)『オイ鹿(しか)413(なに)()ふのだ、414サアサア(みな)さま、415(つき)()ました、416もう一息(ひといき)だ、417(あま)岩戸(いはと)まで(いそ)ぎませう』
418大正一一・四・二五 旧三・二九 北村隆光録)
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