霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第五章 鞘当(さやあて)〔一二五九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻 篇:第1篇 変現乱痴 よみ(新仮名遣い):へんげんらんち
章:第5章 鞘当 よみ(新仮名遣い):さやあて 通し章番号:1259
口述日:1923(大正12)年01月12日(旧11月26日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月25日
概要: 舞台:浮木の森のバラモン軍の陣営 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
ランチ将軍が奥の居間に帰ってみると、清照姫と初稚姫は片彦将軍を囲んで笑い語らっている。ランチ将軍は嫉妬を抑えて、将軍が女にうつつを抜かすとは何事かと自分を棚に上げてたしなめた。
しかしランチ将軍があらわれると、二人の女はどうしたことか急に片彦に冷たくなり、ランチ将軍にまとわりつきだした。片彦が何を言っても二人の女は邪険に答え、得意になったランチ将軍は、片彦に退室を命じた。
ランチ将軍は二人の女をはべらせて雪見の宴を開こうと駕籠を呼んだ。アーク、タール、エキスらも呼ぼうとしたが、彼らは泥酔して雪に埋もれたため発見できなかった。そこで二人の副官(ガリヤ、ケース)と二人の美人だけ伴って雪をかきわけ、物見やぐらに到着した。
片彦はお民をくどこうとしていたが、ランチ将軍が三五教の二人の美人を連れて物見やぐらに雪見の宴を張っていると聞くと、お民を伴って物見やぐらに進んで行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-05-18 09:10:54 OBC :rm4805
愛善世界社版:63頁 八幡書店版:第8輯 610頁 修補版: 校定版:65頁 普及版:32頁 初版: ページ備考:
001 ランチ将軍(しやうぐん)(あわただ)しく(おく)(わが)居間(ゐま)(かへ)つて()ると、002清照姫(きよてるひめ)003初稚姫(はつわかひめ)(およ)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)がニコニコとして、004火鉢(ひばち)真中(まんなか)()巴形(どもゑがた)となつて喋々(てふてふ)喃々(なんなん)(わら)(ごゑ)()らして()る。005ランチ将軍(しやうぐん)(これ)()てやけて(たま)らず、006(たちま)一刀(いつたう)()()き、007片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)をめがけて梨割(なしわり)にする(ところ)だが、008(さすが)二人(ふたり)(をんな)にはしたない(をとこ)(おも)はれてはとの(かんが)へから、009腹立(はらだち)をグツと(おさ)へ、010(わざ)素知(そし)らぬ(かほ)して(その)()(すす)()つた。011されど(その)(くちびる)()()()(あし)(さき)(まで)(はげ)しき震動(しんどう)(かん)じて()た。012(いか)りの頂上(ちやうじやう)(たつ)した(とき)全身(ぜんしん)(はげ)しく(うご)くものである。013片彦(かたひこ)はランチ将軍(しやうぐん)()(きた)りしを()て、014(まなじり)()げ、
015片彦『ヤア(これ)(これ)将軍殿(しやうぐんどの)016何処(どこ)におはせられた。017いやもう二人(ふたり)のナイスに()()かれ、018甘酒(うまざけ)にもりつぶされ、019いかい酩酊(めいてい)(いた)して(ござ)る、020()無礼(ぶれい)(だん)(ひら)にお(ゆる)(くだ)さいませ』
021ランチ(べつ)(とが)めも(いた)さぬが、022(いやし)くも将軍(しやうぐん)()をもつて、023(すなは)三軍(さんぐん)指揮(しき)する(たふと)職権(しよくけん)(いう)しながら、024作法(さはふ)(わきま)へず、025拙者(せつしや)不在中(ふざいちゆう)(をんな)(うつつ)をぬかし、026(なん)(ざま)(ござ)る。027()とおたしなみなさい』
028片彦『ヤアお(せつ)一応(いちおう)御尤(ごもつと)も、029拙者(せつしや)部下(ぶか)(たい)して模範(もはん)(しめ)さねばならない重要(ぢうえう)地位(ちゐ)()てるもの、030(をんな)なんかに(こころ)(とろ)かすやうな柔弱(にうじやく)なものでは(ござ)らぬ。031(しか)(これ)()両人(りやうにん)032(それがし)熱烈(ねつれつ)なる恋愛(れんあい)(そそ)(まを)すにより、033無下(むげ)()つるも(をとこ)(なさけ)ならじと、034迷惑(めいわく)ながら(をんな)(みちび)かれ此処(ここ)(まゐ)つた(ところ)(ござ)る。035イヤ如何(いか)固造(かたざう)かた(ひこ)も、036(をんな)魔力(まりよく)には(てき)()ず、037(ほね)(ふし)もゆるみ、038さつぱりガタ(ひこ)となつて(しま)ひました。039先程(さきほど)(まで)(この)ナイス、040貴方(あなた)熱烈(ねつれつ)なる(あい)(ささ)げて()たやうですが、041もはや(この)(とほ)り、042屋外(をくぐわい)(つめ)たき(ゆき)()つて()りますれば、043貴下(きか)(たい)する両人(りやうにん)恋情(れんじやう)(ひや)やかになつたと()えますわい。044どうかして(この)(うち)一人(ひとり)貴方(あなた)御用(ごよう)をさせたいと(おも)ひますが、045どうしたものか、046両人(りやうにん)(とも)(くび)左右(さいう)()り、047ランチキ将軍(しやうぐん)のお世話(せわ)にならうとも(また)世話(せわ)をしようとも(まを)しませぬ、048イヤもう(この)片彦(かたひこ)かたがたもつて迷惑(めいわく)でも(なん)でも(ござ)らぬ。049アハヽヽヽ』
050清照(きよてる)『モシ、051ランチ将軍(しやうぐん)(さま)052どこへ()つてゐやしたの、053(あたい)054どんなに(たづ)ねて()たか()れませぬよ』
055 ランチは(この)(こゑ)生返(いきかへ)つたやうな心持(こころもち)になり、056(かほ)(いろ)まで(いさ)ましく、057(にはか)元気(げんき)づき、
058ランチ『ヤア清照姫(きよてるひめ)殿(どの)059(まこと)()みませなんだ、060(じつ)軍務(ぐんむ)(じやう)(けん)につき調査(てうさ)すべき(こと)があり、061(しばら)(せき)(はづ)して()りました』
062清照姫将軍(しやうぐん)(さま)063そりや(うそ)でせう。064(あたい)がイヤになつたものだから、065何処(どこ)かへ(かく)れて()やしやつたのでせう、066(あたい)残念(ざんねん)ですわ、067アンアンアン、068オンオンオン』
069ランチ『エヘヽヽヽ、070オイ片彦(かたひこ)殿(どの)071如何(どう)(ござ)る、072可愛(かあい)いもので(ござ)らうがな』
073片彦『コレコレ清照姫(きよてるひめ)殿(どの)074貴女(あなた)(また)変心(へんしん)をしましたか』
075清照姫『ランチ将軍(しやうぐん)さまが、076あの(おほ)きな()をむいて(わたし)電波(でんぱ)077イヤ電信(でんしん)(おく)つて(くだ)さつたから、078どうしても返信(へんしん)変心(へんしん))をすべき義務(ぎむ)があるぢやありませぬか、079ホヽヽヽヽ』
080片彦『アヽどうも仕方(しかた)がない。081どうせ片彦(かたひこ)二人(ふたり)美女(びぢよ)左右(さいう)(はべ)らせ、082ナイスを一人(ひとり)独占(どくせん)して()ても仕方(しかた)がない。083清照姫(きよてるひめ)変心(へんしん)したのも(てん)配剤(はいざい)だらう、084イヤ清照姫(きよてるひめ)085拙者(せつしや)寛大(くわんだい)なる勇猛心(ゆうまうしん)発揮(はつき)して、086ランチ将軍(しやうぐん)にお(まか)(まを)す。087唯今(ただいま)(かぎ)片彦(かたひこ)(こと)(おも)()り、088ランチ将軍(しやうぐん)貞節(ていせつ)(つく)したがよからう』
089清照姫『オホヽヽヽ、090あの片彦(かたひこ)さまの(むし)のよい(こと)091自惚(うぬぼれ)もよい加減(かげん)にして()かんせいなア。092(おも)ひもかけぬものに(おも)()れとは、093マア(なん)()自惚者(うぬぼれもの)だらう。094()かぬたらしい。095(をとこ)()ふものは、096ほんとに自惚(うぬぼれ)(つよ)いものだよ』
097片彦『ランチ殿(どの)098(さぞ)()満足(まんぞく)(ござ)らうのう、099エーン、100エーン、101拙者(せつしや)(おほい)譲歩(じやうほ)(いた)して、102(とし)(わか)初稚姫(はつわかひめ)満足(まんぞく)(いた)す、103どうか拙者(せつしや)雅量(がりやう)(みと)めて(くだ)さい』
104ランチ(なん)なりと勝手(かつて)仰有(おつしや)い、105両人(りやうにん)(とも)拙者(せつしや)(をんな)(ござ)るぞ。106ヘン馬鹿(ばか)々々(ばか)しい、107拙者(せつしや)黙言(だま)つて()るかと(おも)つてよい()になり、108図々(づづ)しいにも(ほど)がある』
109片彦(おほ)せられなランチ殿(どの)110拙者(せつしや)()(いた)したのでもない、111(をんな)(はう)から秋波(しうは)(おく)り、112(をんな)(たの)まれて約束(やくそく)(いた)せし(まで)(こと)113(その)(をんな)拙者(せつしや)貴下(あなた)にお(まか)せしようと()ふのだから、114吾々(われわれ)感謝(かんしや)をこそ()くべけれ、115そのやうな、116(えのき)(はな)をこすつたやうな()挨拶(あいさつ)(うけたま)はりたくない、117コレ初稚姫(はつわかひめ)殿(どの)118こんな(わか)らない将軍(しやうぐん)(ところ)()らうよりも、119(わたし)居間(ゐま)(まゐ)りませう、120貴女(あなた)永久(えいきう)(あい)します』
121初稚姫『エヽすかぬたらしい、122(わたし)がいつ貴方(あなた)()きました。123(わたし)(ねえ)さまが()きな(ひと)()きなのです、124御免(ごめん)(くだ)さいませ』
125片彦(なん)だか(そと)陽気(やうき)(かは)つたと(おも)へば、126初稚姫(はつわかひめ)(さま)鼻息(はないき)までが(かは)つて()たわい、127ハヽ、128ウン、129(わか)つた、130(はづ)かしいのだな、131人前(ひとまへ)(つく)つて()るのだな。132ウンウンヨシヨシ可愛(かあい)いものだな』
133(くち)(おく)(つぶや)いて()る。134初稚姫(はつわかひめ)鋭敏(えいびん)(みみ)(この)(こゑ)()()り、
135初稚姫『モシ、136片彦(かたひこ)さま、137可愛(かあい)いものだ」などと()うて(くだ)さいますな、138(あて)139(むね)(わる)くなりました』
140ランチ『アハヽヽヽ、141片彦(かたひこ)殿(どの)142如何(どう)(ござ)る、143(いろ)年増(としま)艮刺(とどめさ)すと()(こと)御存(ごぞん)じかな。144アハヽヽヽ』
145片彦『チヨツ、146エーエイ』
147ランチ片彦(かたひこ)殿(どの)148チヨツ、149エーエイとは()無礼(ぶれい)では(ござ)らぬか、150上官(じやうくわん)命令(めいれい)だ、151この()退却(たいきやく)めされ』
152 片彦(かたひこ)(つる)一声(ひとこゑ)153()むを()ず、
154片彦『ヘーエ』
155(いや)さうな返事(へんじ)をしながら二人(ふたり)(をんな)(こころ)(のこ)し、156(つぎ)()()()し、157(ふすま)(そと)から上下(うへした)()()()めたまま(くちびる)をパツと(ひら)き、
158片彦『イーン』
159()ひながら、160拳骨(げんこつ)(ふた)(みつ)(くう)()ち、
161片彦『チヨツ、162上官(じやうくわん)命令(めいれい)だなんて、163チヨツ、164馬鹿(ばか)にして()る、165(しか)仕方(しかた)がない、166(おれ)上燗(じやうかん)一杯(いつぱい)やる(こと)にしよう、167(たみ)でも相手(あひて)にして』
168()ひながら、169すごすごと(かへ)()く。
170 ランチは片彦(かたひこ)室外(しつぐわい)()()し、171二人(ふたり)美人(びじん)中央(まんなか)色男(いろをとこ)気取(きど)りで胡床(あぐら)をかき、172()(ほそ)くしながら、
173ランチ『これは清照姫(きよてるひめ)殿(どの)174其方(そなた)(この)ランチの()をよけて、175いつの()にか片彦(かたひこ)以心(いしん)伝心(でんしん)とやらをやつて()たのぢやないか』
176清照姫『ハイ(べつ)左様(さやう)(こと)はありませぬ。177(しか)しながら貴方(あなた)()きですが、178片彦(かたひこ)さまの抱持(はうぢ)さるる思想(しさう)()()りましたから、179それで(わたし)片彦(かたひこ)さまは()うでも宜敷(よろし)いが、180(あたら)しい思想(しさう)だと(おも)つて、181(その)思想(しさう)()()んで()ます。182貴方(あなた)が、183(わたし)思想(しさう)(おな)思想(しさう)をもつて(くだ)さらば、184(この)(くらゐ)(うれ)しい(こと)はありませぬ。185(じつ)貴方(あなた)(たい)しては肉体美(にくたいび)(あい)し、186片彦(かたひこ)さまに(たい)しては(その)思想(しさう)(あい)して()るのですよ』
187ランチ片彦(かたひこ)新思想(しんしさう)とはどんな思想(しさう)だ、188(おれ)だつて思想(しさう)については、189先繰(せんぐ)(あたら)しい書物(しよもつ)をあさつて()るから、190片彦(かたひこ)には()けない(つも)りだ、191一体(いつたい)どんな(こと)()うて()るのだな』
192清照姫『ハイ、193片彦(かたひこ)さまの思想(しさう)はどうかと(ぞん)じまして(さぐ)つて()ました(ところ)194本当(ほんたう)()()れするやうな思想(しさう)(ござ)いますよ。195かいつまんで(まを)せば、196軍備(ぐんび)不必要(ふひつえう)論者(ろんじや)です、197武備(ぶび)撤廃(てつぱい)論者(ろんじや)ですよ、198そして平和(へいわ)耽美(たんび)生活(せいくわつ)(おく)りたいと()ふ、199ほんとに(あたら)しい思想(しさう)ですよ』
200ランチ片彦(かたひこ)()軍籍(ぐんせき)にありながら左様(さやう)(こと)(まを)したかな、201それは中々(なかなか)もつて不都合(ふつがふ)千万(せんばん)……ぢやない、202(わが)()()たる、203マヽヽヽ思想(しさう)だ。204ウン、205さうして武術(ぶじゆつ)(こと)については、206()()うて()たな』
207清照姫武術家(ぶじゆつか)臆病者(おくびやうもの)だと()つて()られました。208臆病者(おくびやうもの)なるが(ゆゑ)()(なか)(おそ)ろしくなり、209疑心(ぎしん)暗鬼(あんき)(しやう)じ、210(てき)なきに(てき)(つく)り、211何人(なにびと)自分(じぶん)(がい)するものはなきかと、212心中(しんちう)戦々(せんせん)兢々(きようきよう)として(やす)らかならず、213(つね)自己(じこ)保護(ほご)迷夢(めいむ)(おそ)はれ、214武術(ぶじゆつ)()り、215柔術(じうじゆつ)などを稽古(けいこ)するのだと()うて()られました。216ほんとに()(なか)愛善(あいぜん)(とく)さへあれば、217(とら)(おほかみ)でも悦服(えつぷく)して、218(けつ)して(その)(ひと)(てき)するものではありませぬ。219()して人間(にんげん)(おい)てをやです、220(わたし)はこの思想(しさう)(おほい)()()りました。221(こころ)邪悪(じやあく)分子(ぶんし)(ふく)んで()るものは、222(いたづら)(ひと)(こは)がり(ひと)(おそ)るるものです。223かかる人間(にんげん)()(まも)るために剣術(けんじゆつ)柔術(じうじゆつ)(まな)ぶものです。224地獄界(ぢごくかい)(せき)(いう)し、225八衢(やちまた)彷徨(さまよ)うて()るものが武術(ぶじゆつ)(こころざ)すものです、226低脳児(ていなうじ)殺人狂(さつじんきやう)()(よろこ)んで人命(じんめい)(うば)財産(ざいさん)(うば)ひ、227(あるひ)(ひと)国土(こくど)(うば)(あるひ)(ひと)子女(しぢよ)(はづ)かしめ、228悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)(かぎり)(つく)して英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)(ほこ)り、229(その)驕慢券(けうまんけん)とも()ふべき窘笑(くんせう)を、230(むね)にブラブラ()げて()るのは、231本当(ほんたう)時代後(じだいおく)れだと片彦(かたひこ)さまが仰有(おつしや)いましたよ』
232ランチ『それだと()うて、233世界(せかい)国家(こくか)として存在(そんざい)する以上(いじやう)軍備(ぐんび)必要(ひつえう)だ。234仮令(たとへ)ミロクの()となつても軍備(ぐんび)撤廃(てつぱい)出来(でき)ない、235さう新思想(しんしさう)にかぶれて仕舞(しま)つては駄目(だめ)だ。236一方(いつぱう)(へん)せず片寄(かたよ)らず、237(その)中庸(ちうよう)()くのが(もつと)安全(あんぜん)(みち)だらうよ』
238初稚姫(ねえ)さま、239ランチ将軍(しやうぐん)さまのお言葉(ことば)は、240本当(ほんたう)間然(かんぜん)する(ところ)ありませぬが、241(しか)しながら三五教(あななひけう)治国別(はるくにわけ)さまとやらを、242(ふか)陥穽(おとしあな)()()(あそ)ばしたと()(こと)をチラリと()きましたが、243それを()くと、244本当(ほんたう)にゾツと(いた)しますね』
245清照姫『さう、246さうなの、247アヽいやらしい、248(なん)とランチさまも(ひど)(こと)をなさいます、249(わたし)それを()いて(にはか)にこの(ひと)がどことはなしに(いや)になつて()ましたよ。250矢張(やつぱり)片彦(かたひこ)さまがお(やさ)しくて、251仰有(おつしや)(こと)(あたら)しうて、252(むね)琴線(きんせん)()れるやうですわ』
253 ランチは(あわ)てて、
254ランチ『イヤイヤ(けつ)して(わたし)がしたのではない、255片彦(かたひこ)(はか)らひで(いた)したのだ。256彼奴(あいつ)偽善者(きぜんしや)だから、257(その)(はう)(たち)(まへ)でそんな(こと)()うて()るのだ。258彼奴(あいつ)武断派(ぶだんは)隊長(たいちやう)259軍国(ぐんこく)主義(しゆぎ)張本(ちやうほん)だ。260(しか)しながらあの治国別(はるくにわけ)(およ)竜公(たつこう)()(やつ)は、261どうしても(ゆる)(こと)出来(でき)ない(やつ)だ。262これを(ゆる)さうものなら、263バラモン(ぐん)根底(こんてい)より破壊(はくわい)せられなくてはならない、264大黒主(おほくろぬし)大棟梁(だいとうりやう)(さま)申訳(まをしわけ)ない、265(また)竜公(たつこう)とやら、266(わが)(ぐん)秘書役(ひしよやく)(つと)めながら(てき)裏返(うらがへ)つたのだから、267陥穽(おとしあな)(おちい)つて(くたば)るのも自業(じごふ)自得(じとく)だ、268仮令(たとへ)(あい)する(なんぢ)のためなればとて、269(これ)ばかりは(ゆる)(こと)出来(でき)ない』
270清照姫(あて)この(やかた)左様(さやう)(ひと)九死(きうし)一生(いつしやう)(くるし)みをしてゐらしやるかと(おも)へば、271(おそ)ろしくて仕方(しかた)(ござ)いませぬ。272どうか何処(どこ)かへ雪見(ゆきみ)にでも()れて()つて(くだ)さいな』
273ランチ『アハヽヽヽ、274(さすが)(をんな)だな。275()(よわ)(こと)()ふものだ。276(しか)(その)(よわ)いのが(をんな)特色(とくしよく)だ、277(をんな)可愛(かあい)(ところ)なのだ。278さらば、279これより早速(さつそく)雪見(ゆきみ)(えん)(もよほ)すため、280入口(いりぐち)風景(ふうけい)()物見(ものみ)()つて、281(さけ)()(かは)しながら(たの)しむ(こと)(いた)さう』
282清照姫『ハイ、283早速(さつそく)()承知(しようち)284有難(ありがた)(ござ)ります。285サア初稚姫(はつわかひめ)さま、286将軍(しやうぐん)(あと)について、287(すこ)(とほ)うは(ござ)いますが、288物見櫓(ものみやぐら)までお(とも)(いた)しませう』
289ランチ『この積雪(せきせつ)に、290(をんな)(あし)では行歩(かうほ)になやむだらう。291(さいは)駕籠(かご)があるから、292従卒(じゆうそつ)(かつ)がしてやる』
293初稚姫(ねえ)さま、294さう(ねが)ひませうかな』
295清照姫(これ)(だけ)(ゆき)(なか)296どうせ駕籠(かご)(おく)つて(もら)はねば、297とても(ある)けませぬわ』
298 ランチはポンポンと()()つた。299(つぎ)()(ひか)へて()二人(ふたり)副官(ふくくわん)(あわただ)しく()(きた)り、
300二人の副官将軍(しやうぐん)(さま)301(なに)御用(ごよう)(ござ)いますか』
302ランチ『ウン、303今日(けふ)(まれ)なる大雪(おほゆき)だ。304四方(しはう)一面(いちめん)銀世界(ぎんせかい)305雪見(ゆきみ)(えん)(もよほ)すから、306(まへ)(たち)(とも)をせい。307そして駕籠(かご)五六挺(ごろくちやう)()つて()いと()うて()れ』
308 二人(ふたり)副官(ふくくわん)は、
309二人の副官『ハイ』
310()つたきり早々(さうさう)(この)()()つて()でて()く。
311 ランチは、312アーク、313タール、314エキス、315蠑螈別(いもりわけ)(など)所在(ありか)従卒(じゆうそつ)(めい)(さが)さしめ、316雪見(ゆきみ)(ともな)()かむとしたが、317折柄(をりから)積雪(せきせつ)(うづ)もつて()たため発見(はつけん)する(こと)出来(でき)なかつた。318(この)(とき)(たみ)片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)居間(ゐま)(まね)かれて、319いろいろと片彦(かたひこ)意味(いみ)ありげな(はなし)に、320(ひざ)をモヂモヂさせながら(くる)しさうに(とき)(うつ)して()た。321ランチ将軍(しやうぐん)()(にん)姿(すがた)()えざるに、322どこか雪見(ゆきみ)でもする(つも)りで郊外(かうぐわい)()つたのだらうと(おも)ひ、323二人(ふたり)副官(ふくくわん)二人(ふたり)美人(びじん)(ともな)ひ、324五人(ごにん)()駕籠(かご)()られながら物見櫓(ものみやぐら)をさして(すす)()く。325地上(ちじやう)()(しやく)(ばか)りの積雪(せきせつ)に、326駕籠舁(かごかき)足音(あしおと)はザク、327ザク、328ザクと馬丁(ばてい)押切(おしき)りにて馬糧(まぐさ)()るやうな(おと)をさせ、329綺麗(きれい)雪道(ゆきみち)にスバル(せい)数多(あまた)(いん)しながら、330(やうや)くにして物見櫓(ものみやぐら)安着(あんちやく)した。331此処(ここ)炭火(すみび)(こしら)へ、332(さけ)(かん)をなし、333雪見(ゆきみ)酒宴(しゆえん)(もよほ)(こと)となつた。
334 一方(いつぱう)片彦(かたひこ)はランチ将軍(しやうぐん)二人(ふたり)(をんな)(ともな)ひ、335物見櫓(ものみやぐら)雪見(ゆきみ)(えん)()つて()ると()(こと)を、336従卒(じゆうそつ)内報(ないはう)によつて()()り、337大方(おほかた)蠑螈別(いもりわけ)(その)()同伴(どうはん)せしならむと、338二挺(にちやう)駕籠(かご)(めい)じ、339(たみ)(とも)(ちう)()んで物見櫓(ものみやぐら)をさして(すす)()く。
340大正一二・一・一二 旧一一・一一・二六 加藤明子録)
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