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第48巻(亥の巻)
序文
総説
第1篇 変現乱痴
01 聖言
〔1255〕
02 武乱泥
〔1256〕
03 観音経
〔1257〕
04 雪雑寝
〔1258〕
05 鞘当
〔1259〕
06 狂転
〔1260〕
第2篇 幽冥摸索
07 六道の辻
〔1261〕
08 亡者苦雑
〔1262〕
09 罪人橋
〔1263〕
第3篇 愛善信真
10 天国の富
〔1264〕
11 霊陽山
〔1265〕
12 西王母
〔1266〕
13 月照山
〔1267〕
14 至愛
〔1268〕
第4篇 福音輝陣
15 金玉の辻
〔1269〕
16 途上の変
〔1270〕
17 甦生
〔1271〕
18 冥歌
〔1272〕
19 兵舎の囁
〔1273〕
20 心の鬼
〔1274〕
余白歌
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> 第1篇 変現乱痴 > 第6章 狂転
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第六章
狂転
(
きやうてん
)
〔一二六〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
篇:
第1篇 変現乱痴
よみ(新仮名遣い):
へんげんらんち
章:
第6章 狂転
よみ(新仮名遣い):
きょうてん
通し章番号:
1260
口述日:
1923(大正12)年01月12日(旧11月26日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年10月25日
概要:
舞台:
浮木の森のバラモン軍の陣営
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
ランチ将軍が、二人の女にちやほやされながらいい気分で酒宴を張っていると、片彦がやってきてランチを怒鳴りつけ、この有様をハルナの都の大黒主へ報告すると息巻いた。
片彦はそれがいやなら初稚姫をこちらに渡せと迫るが、初稚姫から強烈に馬鹿にされてますます怒り、剣に手をかけてランチ将軍に切腹するか軍の支配権を渡せと詰め寄った。
ランチは二人の副官(ガリヤ、ケース)に目配せし、やにわに片彦の両手を縛らせた。そして物見やぐらの高殿から眼下の谷川に片彦を投げ込ませて殺害した。
ランチは得意になり、皆で踊ろうと提案した。あまり踊ったためか、二人の美人が頭にかぶっていたかつらがぽたりと落ちた。ランチと二人の副官があっと驚くとたんに、二人の美人は恐ろしい妖怪のような顔と変わり、大口をあけて迫ってきた。
三人は驚いたとたんに手すりにしりもちをついた。手すりはメキメキと音をたてて壊れ、三人もまた川に落ち込で沈んでしまった。
お民は、物見やぐらに上がって行った片彦が帰ってこないので、様子を見に梯子を上ってみれば、大きな白狐が二匹いて、お民をにらみつけた。お民は驚いて梯子から落ち、気絶してしまった。はるか向こうの方から涼しい宣伝歌の声が聞こえてくる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
ウロウ(ウロー)
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-08-07 18:05:15
OBC :
rm4806
愛善世界社版:
75頁
八幡書店版:
第8輯 615頁
修補版:
校定版:
78頁
普及版:
38頁
初版:
ページ備考:
001
雪見櫓
(
ゆきみやぐら
)
の
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
い
最高部
(
さいかうぶ
)
の
一室
(
いつしつ
)
には、
002
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
をはじめ
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
003
初稚姫
(
はつわかひめ
)
及
(
およ
)
びガリヤ、
004
ケースの
副官
(
ふくくわん
)
と
共
(
とも
)
に、
005
鐘
(
かね
)
や
太鼓
(
たいこ
)
や
拍子木
(
ひやうしぎ
)
などを
叩
(
たた
)
いて、
006
底抜
(
そこぬ
)
け
散財
(
さんざい
)
が
始
(
はじ
)
まつて
居
(
ゐ
)
る。
007
ランチは
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
に
交
(
かは
)
る
交
(
がは
)
る
酒
(
さけ
)
を
盛
(
も
)
り
潰
(
つぶ
)
され、
008
上機嫌
(
じやうきげん
)
になつて、
009
そろそろ
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
した。
010
ランチ
『オイ
姫
(
ひめ
)
、
011
イヤ
清
(
きよ
)
さま、
012
何
(
ど
)
うだ、
013
この
綺麗
(
きれい
)
な
雪
(
ゆき
)
の
色
(
いろ
)
とランチの
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
とは、
014
どつちが
美
(
うつく
)
しいか、
015
エーン』
016
清照姫
『それより
私
(
わたし
)
の
方
(
はう
)
からお
尋
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
しますが、
017
この
雪
(
ゆき
)
の
色
(
いろ
)
と
私
(
わたし
)
の
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
と、
018
どつちが
白
(
しろ
)
う
厶
(
ござ
)
いますか、
019
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいねえ』
020
ランチ
『ウンさうだ。
021
どちらが
雪
(
ゆき
)
か、
022
どちらが
花
(
はな
)
か、
023
また
月
(
つき
)
か
判別
(
はんべつ
)
し
難
(
がた
)
い
三国一
(
さんごくいち
)
のナイスだ。
024
この
広
(
ひろ
)
い
五天竺
(
ごてんぢく
)
も、
025
清
(
きよ
)
さまのやうなシヤンは
又
(
また
)
とあるまい、
026
初
(
はつ
)
ちやまだとて
其
(
その
)
通
(
とほ
)
りだ。
027
それだからこのランチが
重要
(
ぢゆうえう
)
の
任務
(
にんむ
)
を
忘
(
わす
)
れ、
028
千金
(
せんきん
)
の
身
(
み
)
を
顧
(
かへり
)
みず、
029
此処
(
ここ
)
へお
交際
(
つきあひ
)
に
来
(
き
)
たのだよ、
030
随分
(
ずゐぶん
)
親切
(
しんせつ
)
なものであらう、
031
これでも
矢張
(
やつぱり
)
片彦
(
かたひこ
)
の
思想
(
しさう
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
るのかな』
032
清照姫
『ハイ
片彦
(
かたひこ
)
さまは
平和論
(
へいわろん
)
者
(
しや
)
ですからねえ、
033
何
(
なん
)
だか
其
(
その
)
思想
(
しさう
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りましたよ。
034
武術
(
ぶじゆつ
)
修業
(
しうげふ
)
は
臆病者
(
おくびやうもの
)
のする
事
(
こと
)
だと
仰有
(
おつしや
)
つた
点
(
てん
)
が
天来
(
てんらい
)
の
妙音
(
めうおん
)
、
035
金言
(
きんげん
)
玉辞
(
ぎよくじ
)
と
本当
(
ほんたう
)
に
嬉
(
うれ
)
しく
思
(
おも
)
ひましたわ、
036
武者
(
むしや
)
修業
(
しうげふ
)
だとか
云
(
い
)
つて、
037
武術
(
ぶじゆつ
)
修業
(
しうげふ
)
に
歩
(
ある
)
くやうな、
038
乞食
(
こじき
)
的
(
てき
)
生涯
(
しやうがい
)
を
送
(
おく
)
る
男
(
をとこ
)
はつまりませぬからねえ』
039
ランチ
『さうだ、
040
俺
(
おれ
)
もそれは
同感
(
どうかん
)
だ。
041
武者
(
むしや
)
修業
(
しうげふ
)
と
云
(
い
)
へば、
042
お
面
(
めん
)
、
043
お
籠手
(
こて
)
、
044
お
胴
(
どう
)
と
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
に
竹刀
(
しなひ
)
を
矢鱈
(
やたら
)
に
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
す
様
(
やう
)
な
武術家
(
ぶじゆつか
)
は
俺
(
おれ
)
も
大嫌
(
だいきら
)
ひだ。
045
あれは
武者
(
むしや
)
修業
(
しうげふ
)
でなく
無駄
(
むだ
)
修業
(
しうげふ
)
だ。
046
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
武者
(
むしや
)
修業
(
しうげふ
)
は
聊
(
いささ
)
か
選
(
せん
)
を
異
(
こと
)
にして
居
(
ゐ
)
る。
047
真
(
しん
)
の
武術
(
ぶじゆつ
)
修業
(
しうげふ
)
はそんなものぢやない。
048
或
(
あるひ
)
は
敵城
(
てきじやう
)
を
攻
(
せ
)
め、
049
又
(
また
)
防城
(
ばうじやう
)
と
云
(
い
)
つて
押寄
(
おしよ
)
せた
敵
(
てき
)
を
防禦
(
ばうぎよ
)
せむ
事
(
こと
)
を
考
(
かんが
)
へたり、
050
そして
諸国
(
しよこく
)
を
遍歴
(
へんれき
)
し、
051
堀
(
ほり
)
の
深浅
(
しんせん
)
や、
052
又
(
また
)
山城
(
さんじやう
)
なれば
何
(
いづ
)
れの
方面
(
はうめん
)
より
攻
(
せ
)
めたら
落
(
お
)
ちるか、
053
落
(
お
)
ちないか、
054
又
(
また
)
城
(
しろ
)
の
要害
(
えうがい
)
を
調
(
しら
)
べ、
055
又
(
また
)
平地
(
ひらち
)
にある
城
(
しろ
)
なれば
谷
(
たに
)
を
塞
(
ふさ
)
いで
水攻
(
みづぜめ
)
にするとか、
056
又
(
また
)
は
市街
(
しがい
)
を
焼
(
や
)
いて
火攻
(
ひぜめ
)
にするとか、
057
水源
(
すゐげん
)
の
所在
(
しよざい
)
及
(
および
)
糧道
(
りやうだう
)
を
絶
(
た
)
つとか、
058
さう
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
調
(
しら
)
べる
修業
(
しうげふ
)
をするのだ。
059
一
(
いち
)
人
(
にん
)
対
(
たい
)
一
(
いち
)
人
(
にん
)
のお
面
(
めん
)
、
060
お
籠手
(
こて
)
では
詰
(
つま
)
らないからな、
061
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
云
(
い
)
ふ
武術
(
ぶじゆつ
)
と
云
(
い
)
ふものはマアこんなものだ、
062
エーン。
063
片彦
(
かたひこ
)
の
云
(
い
)
ふ
武術
(
ぶじゆつ
)
と
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
武術
(
ぶじゆつ
)
が
何
(
ど
)
れ
丈
(
だけ
)
異
(
ちが
)
ふかな、
064
器
(
うつは
)
が
大
(
おほ
)
きければ
矢張
(
やつぱり
)
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
大
(
おほ
)
きいからな。
065
何
(
なん
)
だ
猪口才
(
ちよこざい
)
な、
066
武備
(
ぶび
)
撤廃
(
てつぱい
)
とか
軍備
(
ぐんび
)
廃止
(
はいし
)
とか
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
うても、
067
最後
(
さいご
)
の
解決
(
かいけつ
)
は
矢張
(
やつぱり
)
武術
(
ぶじゆつ
)
でなくては
納
(
をさ
)
まらないのだ』
068
清照姫
『もしランチさま、
069
もうそんな
武張
(
ぶば
)
つた
話
(
はなし
)
はよして
下
(
くだ
)
さい、
070
私
(
わたし
)
何
(
なん
)
だか
恐
(
おそ
)
ろしくなつて
耐
(
たま
)
りませぬわ』
071
ランチ
『アハヽヽヽ、
072
遉
(
さすが
)
は
女
(
をんな
)
だ、
073
角張
(
かどば
)
つた
話
(
はなし
)
はお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
さぬと
見
(
み
)
えるわい、
074
それぢや
何
(
なに
)
か
些
(
ち
)
と
はんなり
とした
歌
(
うた
)
でも
歌
(
うた
)
つては
何
(
ど
)
うだ』
075
清照姫
『
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
から
一
(
ひと
)
つ
歌
(
うた
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
076
ランチ
『ヨシヨシ、
077
それぢや
一
(
ひと
)
つ
歌
(
うた
)
つてやらう、
078
太鼓
(
たいこ
)
や
拍子木
(
ひやうしぎ
)
で
力
(
ちから
)
一杯
(
いつぱい
)
囃
(
はや
)
して
呉
(
く
)
れ、
079
囃
(
はやし
)
が
悪
(
わる
)
いと
歌
(
うた
)
ひ
憎
(
にく
)
いからな』
080
清照姫
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
081
サア
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
082
貴女
(
あなた
)
太鼓
(
たいこ
)
を
打
(
う
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
083
私
(
わたし
)
拍子木
(
ひやうしぎ
)
を
打
(
う
)
ちますから』
084
茲
(
ここ
)
にランチは
酔
(
よひ
)
が
廻
(
まは
)
るにつれ、
085
銅羅声
(
どらごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
す。
086
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
は
拍子木
(
ひやうしぎ
)
や
太鼓
(
たいこ
)
で
歌
(
うた
)
に
合
(
あは
)
す。
087
二人
(
ふたり
)
の
副官
(
ふくくわん
)
は
耐
(
たま
)
りかね
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
088
両手
(
りやうて
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
し、
089
腰付
(
こしつき
)
をかしく
踊
(
をど
)
り
狂
(
くる
)
つた。
090
ランチ
『ハルナの
都
(
みやこ
)
で
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
091
天人
(
てんにん
)
のやうな
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
さま
092
衆人
(
しうじん
)
羨望
(
せんばう
)
の
的
(
まと
)
となり
093
清
(
きよ
)
きお
顔
(
かほ
)
を
一目
(
ひとめ
)
でも
094
拝
(
をが
)
みたいものだとやつて
来
(
く
)
る
095
それ
故
(
ゆゑ
)
ハルナの
都
(
みやこ
)
は
096
いつも
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
春
(
はる
)
のよだ
097
こんなナイスはまたと
世
(
よ
)
に
098
二人
(
ふたり
)
とあるまいと
思
(
おも
)
ふたに
099
こりや
又
(
また
)
どうした
事
(
こと
)
ぢやいな
100
殺風景
(
さつぷうけい
)
なる
陣中
(
ぢんちう
)
へ
101
遉
(
さすが
)
の
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
さまも
102
尻
(
しり
)
端折
(
はしを
)
りてスタスタと
103
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
すやうなこのナイス
104
一人
(
ひとり
)
ばかりか
二人
(
ふたり
)
まで
105
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
さまのお
手
(
て
)
に
入
(
い
)
り
106
酒
(
さけ
)
汲
(
く
)
み
交
(
かは
)
してどんちやんと
107
騒
(
さわ
)
ぎ
廻
(
まは
)
るのはこれは
又
(
また
)
108
どうした
拍子
(
ひやうし
)
の
瓢箪
(
へうたん
)
か
109
遉
(
さすが
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
さまも
110
こんな
所
(
ところ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
たら
111
嘸
(
さぞ
)
やお
気
(
き
)
をば
揉
(
も
)
まれるだらう
112
ほんに
俺
(
おれ
)
程
(
ほど
)
仕合
(
しあは
)
せ
者
(
もの
)
が
113
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
にあるものか
114
ヨイトセノ、ヨイトセ
115
コレヤイノ、ドツコイシヨ
116
エーエーエ
117
ハーレ、ヤーレ、ヨイヤサ
118
ヨイヤサ、ヨイヤサ、ドツコイサ
119
二人
(
ふたり
)
のナイスに
取
(
と
)
り
巻
(
ま
)
かれ
120
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
楽
(
たの
)
しみを
121
今
(
いま
)
目
(
ま
)
のあたり
見
(
み
)
る
俺
(
わし
)
は
122
如何
(
いか
)
なる
前世
(
ぜんせ
)
の
因縁
(
いんねん
)
か
123
昔々
(
むかしむかし
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
124
も
一
(
ひと
)
つ
昔
(
むかし
)
のまだ
昔
(
むかし
)
125
ずつと
遠
(
とほ
)
き
神代
(
かみよ
)
から
126
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
によい
事
(
こと
)
を
127
して
来
(
き
)
た
報
(
むく
)
いでこんな
目
(
め
)
に
128
遇
(
あ
)
ふのであらう
有難
(
ありがた
)
い
129
運
(
うん
)
は
天
(
てん
)
にあり
福
(
ふく
)
は
寝
(
ね
)
て
待
(
ま
)
てと
130
これまで
度々
(
たびたび
)
聞
(
き
)
いたけど
131
こんな
結構
(
けつこ
)
とは
知
(
し
)
らなんだ
132
俺
(
おれ
)
に
引
(
ひ
)
きかへ
片彦
(
かたひこ
)
は
133
嘸
(
さぞ
)
今頃
(
いまごろ
)
は
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
に
134
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
吐息
(
といき
)
吐
(
つ
)
き
135
ポロリポロリと
涙
(
なみだ
)
をば
136
流
(
なが
)
してふさいで
居
(
ゐ
)
るだらう
137
是
(
これ
)
を
思
(
おも
)
へば
些
(
ち
)
とばかり
138
俺
(
おれ
)
も
同情
(
どうじやう
)
の
涙
(
なみだ
)
をば
139
落
(
おと
)
してやらねばなるまいが
140
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
気味
(
きみ
)
がよい
141
アヽドツコイシヨ、ドツコイツヨ
142
ヨイヨイヨイのヨイトサ
143
エーエーエ
144
ハーレ、ヤーレ、コレハノサ
145
ドツコイセエ、ドツコイセ。
146
アヽ
苦
(
くる
)
しい、
147
アヽもう
是
(
これ
)
で
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
らう、
148
サアこれからが
清
(
きよ
)
さまの
番
(
ばん
)
だよ。
149
歌
(
うた
)
つたり
歌
(
うた
)
つたり』
150
清照姫
『ランチ
様
(
さま
)
、
151
私
(
わたし
)
は
歌
(
うた
)
は
不調法
(
ぶてうはふ
)
で
厶
(
ござ
)
います、
152
どうぞ
貴方
(
あなた
)
歌
(
うた
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
153
ランチ
『エヽ
人
(
ひと
)
に
歌
(
うた
)
はして
置
(
お
)
いて
自分
(
じぶん
)
が
歌
(
うた
)
はないと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるか、
154
それなら
初
(
はつ
)
ちやま、
155
お
前
(
まへ
)
歌
(
うた
)
つたらどうだ』
156
初稚姫
『それでも
私
(
わたし
)
恥
(
はづ
)
かしいわ、
157
ナア
姉
(
ねえ
)
さま、
158
歌
(
うた
)
なんか
知
(
し
)
りまへんもの』
159
ランチ
『アハヽヽヽヽ、
160
今日
(
けふ
)
はまるで、
161
このランチ
将軍
(
しやうぐん
)
が、
162
芸者
(
げいしや
)
兼
(
けん
)
幇間
(
たいこもち
)
のやうなものだ。
163
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
取
(
と
)
るのは
並大抵
(
なみたいてい
)
のものぢやない、
164
唯
(
ただ
)
一言
(
いちごん
)
で
三軍
(
さんぐん
)
を
指揮
(
しき
)
するこのランチ
将軍
(
しやうぐん
)
も、
165
清照姫
(
きよてるひめ
)
さまにかかつては
弱
(
よわ
)
いものぢや』
166
かかる
所
(
ところ
)
へ
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
宙
(
ちう
)
を
切
(
き
)
つて
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
167
案内
(
あんない
)
もなく
物見櫓
(
ものみやぐら
)
にかけ
上
(
のぼ
)
り、
168
酒宴
(
しゆえん
)
の
席
(
せき
)
に
現
(
あら
)
はれて、
169
片彦
『ランチ
将軍殿
(
しやうぐんどの
)
、
170
貴方
(
あなた
)
は
三軍
(
さんぐん
)
を
指揮
(
しき
)
する
身分
(
みぶん
)
をもつて、
171
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かし、
172
軍職
(
ぐんしよく
)
をお
忘
(
わす
)
れなさるとは
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
の
御
(
お
)
振舞
(
ふるまひ
)
、
173
拙者
(
せつしや
)
は
是
(
これ
)
より
部下
(
ぶか
)
に
命
(
めい
)
じ
急使
(
きふし
)
を
立
(
た
)
て、
174
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
へ
将軍
(
しやうぐん
)
の
不行跡
(
ふしだら
)
を
報告
(
はうこく
)
仕
(
つかまつ
)
る、
175
覚悟
(
かくご
)
なさいませ』
176
と
気色
(
けしき
)
ばんで
仁王立
(
にわうだち
)
となつた
儘
(
まま
)
呶鳴
(
どな
)
り
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る。
177
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
も、
178
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は
吾
(
わが
)
部下
(
ぶか
)
とは
云
(
い
)
へ、
179
斯様
(
かやう
)
の
事
(
こと
)
を
大黒主
(
おほくろぬし
)
に
報告
(
はうこく
)
されようものなら
首
(
くび
)
は
胴
(
どう
)
について
居
(
ゐ
)
ない、
180
こりや
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になつたと、
181
俄
(
にはか
)
に
酒
(
さけ
)
の
酔
(
よ
)
ひも
醒
(
さ
)
め、
182
真青
(
まつさを
)
の
顔
(
かほ
)
をして、
183
やや
狼狽
(
うろた
)
へ
気味
(
ぎみ
)
になつて、
184
ランチ
『イヤ
片彦
(
かたひこ
)
殿
(
どの
)
、
185
物
(
もの
)
には
表裏
(
へうり
)
が
厶
(
ござ
)
る。
186
サウ
貴殿
(
きでん
)
のやうに
几帳面
(
きちやうめん
)
に
致
(
いた
)
されてはやりきれない、
187
まづ
一献
(
いつこん
)
召上
(
めしあが
)
れ』
188
と
盃
(
さかづき
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
す。
189
片彦
(
かたひこ
)
は
腹立紛
(
はらだちまぎ
)
れにビリビリ
慄
(
ふる
)
ひながら、
190
片彦
『
魂
(
たましひ
)
迄
(
まで
)
も
腐
(
くさ
)
り
切
(
き
)
つた
将軍
(
しやうぐん
)
の
盃
(
さかづき
)
は
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
る、
191
汚
(
けがら
)
はしう
厶
(
ござ
)
る』
192
と、
193
ランチの
差出
(
さしだ
)
した
盃
(
さかづき
)
を
無残
(
むざん
)
にも
叩
(
たた
)
き
落
(
おと
)
した。
194
盃
(
さかづき
)
は
金火鉢
(
かなひばち
)
の
上
(
うへ
)
に
落
(
お
)
ち、
195
パツと
三
(
みつ
)
つに
割
(
わ
)
れて
仕舞
(
しま
)
つた。
196
ランチ
『マアマアさう
云
(
い
)
つたものぢやない、
197
まづ
気
(
き
)
を
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
けられよ、
198
御
(
ご
)
所望
(
しよまう
)
とあらば
初稚姫
(
はつわかひめ
)
をお
譲
(
ゆづ
)
り
申
(
まを
)
す』
199
片彦
『
魚心
(
うをごころ
)
あらば
水心
(
みづごころ
)
ありで
厶
(
ござ
)
る。
200
然
(
しか
)
らば
初稚姫
(
はつわかひめ
)
を
拙者
(
せつしや
)
に
綺麗
(
きれい
)
薩張
(
さつぱり
)
とお
渡
(
わた
)
し
下
(
くだ
)
さるか』
201
ランチ
『
武士
(
ぶし
)
の
言葉
(
ことば
)
に
二言
(
にごん
)
は
厶
(
ござ
)
らぬ』
202
初稚姫
『エヽ
好
(
す
)
かぬたらしい、
203
あんな、
204
カツクイのやうな
男
(
をとこ
)
、
205
妾
(
あたい
)
死
(
し
)
んでも
嫌
(
いや
)
だわ、
206
エヽ
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
い、
207
トツトと
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
208
姉
(
ねえ
)
さま、
209
塩
(
しほ
)
でも
撒
(
ふ
)
つて
帰
(
い
)
なして
下
(
くだ
)
さい。
210
私
(
わたし
)
はランチさまが
好
(
す
)
きだわ。
211
片彦
(
かたひこ
)
なんて、
212
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
いてもガタガタして、
213
体中
(
からだぢう
)
がガタガタ
彦
(
ひこ
)
になり、
214
嫌
(
いや
)
になりますわ。
215
マアあの
貧相
(
ひんさう
)
な
顔
(
かほ
)
わいのう。
216
ホヽヽヽヽ』
217
ランチ
『コレコレ
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
218
左様
(
さやう
)
な
気儘
(
きまま
)
を
云
(
い
)
ふものぢやない、
219
なぜ
将軍
(
しやうぐん
)
の
命
(
めい
)
を
承知
(
きか
)
ないのですか』
220
初稚姫
『ホヽヽ、
221
仕様
(
しやう
)
もない、
222
将軍
(
しやうぐん
)
の
命
(
めい
)
をきくものは
殺人器
(
さつじんき
)
同様
(
どうやう
)
の
低脳児
(
ていなうじ
)
の
雑兵
(
ざふひやう
)
ですよ。
223
私
(
わたし
)
は
独立
(
どくりつ
)
した
一個
(
いつこ
)
の
女
(
をんな
)
、
224
軍籍
(
ぐんせき
)
に
身
(
み
)
は
置
(
お
)
いて
居
(
を
)
りませぬ、
225
将軍
(
しやうぐん
)
さまだつて
私
(
わたし
)
に
命令
(
めいれい
)
する
権利
(
けんり
)
はありますまい、
226
嫌
(
いや
)
と
云
(
い
)
うたら
嫌
(
いや
)
ですよ』
227
片彦
『エヽ
恥
(
はぢ
)
の
上
(
うへ
)
に
恥
(
はぢ
)
をかかされ、
228
何
(
ど
)
うして
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
つか。
229
エヽもう
仕方
(
しかた
)
がない、
230
斯
(
か
)
うなれば
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
へ
御
(
ご
)
注進
(
ちゆうしん
)
だ。
231
ランチ
殿
(
どの
)
、
232
御
(
ご
)
切腹
(
せつぷく
)
なさるか、
233
但
(
ただ
)
しは
兜
(
かぶと
)
をぬいで、
234
支配権
(
しはいけん
)
を
片彦
(
かたひこ
)
にお
譲
(
ゆづ
)
りなさるか、
235
返答
(
へんたふ
)
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
る』
236
と
剣
(
つるぎ
)
の
柄
(
つか
)
に
手
(
て
)
をかけ、
237
チクリチクリとつめ
寄
(
よ
)
つた。
238
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
はセツパ
詰
(
つま
)
り、
239
しようこと
無
(
な
)
き
儘
(
まま
)
に、
240
二人
(
ふたり
)
の
副官
(
ふくくわん
)
に
何事
(
なにごと
)
をか
目
(
め
)
をもつて
命
(
めい
)
じた。
241
二人
(
ふたり
)
の
副官
(
ふくくわん
)
は、
242
矢庭
(
やには
)
に
片彦
(
かたひこ
)
の
左右
(
さいう
)
につつと
寄
(
よ
)
り、
243
両手
(
りやうて
)
を
手早
(
てばや
)
く
縛
(
しば
)
り、
244
三階
(
さんがい
)
の
高殿
(
たかどの
)
から、
245
眼下
(
がんか
)
の
谷川
(
たにがは
)
の
青淵
(
あをぶち
)
目蒐
(
めが
)
けて、
246
ドブンと
許
(
ばか
)
り
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだ。
247
ランチ
『アハヽヽヽヽ、
248
ても
心地
(
ここち
)
よく
斃
(
くたば
)
つたものだ。
249
ヤア
両人
(
りやうにん
)
、
250
出
(
で
)
かした
出
(
で
)
かした。
251
是
(
これ
)
より
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
副官
(
ふくくわん
)
の
職
(
しよく
)
を
解
(
と
)
き、
252
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
及
(
およ
)
び
久米彦
(
くめひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
後任者
(
こうにんしや
)
に
命
(
めい
)
ずる』
253
二人の副官
『ハイ、
254
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います』
255
ランチ
『ガーター
勲章
(
くんしやう
)
を
与
(
あた
)
ふべき
所
(
ところ
)
だが、
256
これは
後日
(
ごじつ
)
又
(
また
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
に
奏上
(
そうじやう
)
して
与
(
あた
)
へらるるやう
手続
(
てつづ
)
きを
致
(
いた
)
してやらう』
257
二人の副官
『ハイ、
258
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います、
259
何分
(
なにぶん
)
宜敷
(
よろし
)
くお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
260
両手
(
りやうて
)
を
縛
(
しば
)
られて
高殿
(
たかどの
)
から
谷川
(
たにがは
)
へ
投
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれた
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
は、
261
ブカリ ブカリと
浮
(
う
)
きながら
早瀬
(
はやせ
)
を
流
(
なが
)
れゆく。
262
ランチ
及
(
およ
)
び
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
を
眺
(
なが
)
め、
263
手
(
て
)
を
打
(
う
)
つてウロウ ウロウと
歓声
(
くわんせい
)
をあげてゐる。
264
清照姫
(
きよてるひめ
)
、
265
初稚姫
(
はつわかひめ
)
は
吃驚
(
びつくり
)
したやうな
顔
(
かほ
)
をして、
266
初稚姫
『アレマア、
267
妾
(
あて
)
恐
(
こは
)
いわ、
268
姉
(
ねえ
)
さま、
269
何
(
ど
)
うしまひよう、
270
逃
(
に
)
げて
帰
(
かへ
)
りませうか』
271
清照姫
『さうね、
272
こんな
怖
(
こは
)
い
人
(
ひと
)
ばかり、
273
妾
(
あたい
)
、
274
もうよう
居
(
を
)
りませぬわ』
275
ランチ
『アハヽヽヽヽ、
276
清照姫
(
きよてるひめ
)
殿
(
どの
)
、
277
初稚姫
(
はつわかひめ
)
殿
(
どの
)
、
278
何
(
なに
)
も
怖
(
こは
)
い
事
(
こと
)
はない。
279
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
に
危害
(
きがい
)
を
加
(
くは
)
へようと
云
(
い
)
ふのではない、
280
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
を
可愛
(
かあい
)
がつてやり
度
(
た
)
いばかりに
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
をなきものにしたのだ。
281
凡
(
すべ
)
て
軍人
(
ぐんじん
)
は
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
や
二百
(
にひやく
)
人
(
にん
)
殺
(
ころ
)
した
位
(
くらゐ
)
で、
282
気
(
き
)
を
弱
(
よわ
)
らして
居
(
を
)
つては
軍職
(
ぐんしよく
)
が
勤
(
つと
)
まらない。
283
大根
(
だいこん
)
の
葉
(
は
)
についた
害虫
(
がいちう
)
を
草鞋
(
わらぢ
)
で
踏
(
ふ
)
みにじるやうな
心持
(
こころもち
)
だ。
284
一
(
いち
)
日
(
にち
)
の
内
(
うち
)
に
二万
(
にまん
)
三万
(
さんまん
)
と
云
(
い
)
ふ
人間
(
にんげん
)
を
殺
(
ころ
)
さなくては、
285
何
(
ど
)
うしても
国家
(
こくか
)
を
守
(
まも
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬのだからな』
286
清照姫
『ランチ
様
(
さま
)
、
287
もうそんな
怖
(
こは
)
い
話
(
はなし
)
はよして、
288
この
勾欄
(
こうらん
)
の
傍
(
そば
)
で
三
(
さん
)
人
(
にん
)
様
(
さま
)
手
(
て
)
を
繋
(
つな
)
いで、
289
面白
(
おもしろ
)
可笑
(
をか
)
しく
踊
(
をど
)
つて
下
(
くだ
)
さいな。
290
私
(
わたし
)
怖
(
こは
)
くて
体
(
からだ
)
が
慄
(
ふる
)
へて
来
(
き
)
ましたよ』
291
初稚姫
『
姉
(
ねえ
)
さま、
292
私
(
わたし
)
も
怖
(
こは
)
くなつてよ。
293
一遍
(
いつぺん
)
ランチさまの
品
(
しな
)
の
好
(
よ
)
い
体
(
からだ
)
で
踊
(
をど
)
つて
欲
(
ほ
)
しいわ』
294
ランチ
『ヨシヨシ
踊
(
をど
)
つてやらう、
295
併
(
しか
)
しお
前
(
まへ
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
手
(
て
)
を
繋
(
つな
)
いで
踊
(
をど
)
らうぢやないか』
296
初稚姫
『
姉
(
ねえ
)
さま、
297
一緒
(
いつしよ
)
に
踊
(
をど
)
りませうよ』
298
清照姫
『それなら
五
(
ご
)
人
(
にん
)
輪
(
わ
)
になつて
面白
(
おもしろ
)
う
踊
(
をど
)
つて
見
(
み
)
ませう、
299
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さま、
300
貴女
(
あなた
)
、
301
将軍
(
しやうぐん
)
さまの
右
(
みぎ
)
のお
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つてお
上
(
あ
)
げ、
302
私
(
わて
)
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
上
(
あ
)
げます』
303
ランチ
『ヤアこれは
面白
(
おもしろ
)
い』
304
と
顔
(
かほ
)
の
紐
(
ひも
)
を
解
(
と
)
き、
305
副官
(
ふくくわん
)
と
五
(
ご
)
人
(
にん
)
輪
(
わ
)
になつて
踊
(
をど
)
り
初
(
はじ
)
めた。
306
余
(
あま
)
り
踊
(
をど
)
つたためか、
307
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
が
頭
(
あたま
)
に
被
(
かぶ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
鬘
(
かつら
)
はポタリと
落
(
お
)
ちて、
308
テカテカの
青坊主
(
あをばうず
)
……ランチと
二人
(
ふたり
)
はアツと
驚
(
おどろ
)
く
途端
(
とたん
)
に、
309
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
はさも
恐
(
おそ
)
ろしい
鬼
(
おに
)
とも
蛇
(
じや
)
とも
妖怪
(
えうくわい
)
とも
分
(
わか
)
らぬ
顔
(
かほ
)
になり、
310
大口
(
おほぐち
)
をあけてワツと
迫
(
せま
)
つて
来
(
く
)
る。
311
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
驚
(
おどろ
)
いた
途端
(
とたん
)
にヒヨロ ヒヨロと
蹣
(
よろめ
)
き、
312
一度
(
いちど
)
にドツと
勾欄
(
こうらん
)
に
尻餅
(
しりもち
)
をついた。
313
勾欄
(
こうらん
)
は、
314
メキメキと
音
(
おと
)
をたて、
315
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
落
(
お
)
ちた
青淵
(
あをぶち
)
にドブンと
音
(
おと
)
を
立
(
た
)
て、
316
石
(
いし
)
を
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んだやうに
水中
(
すゐちう
)
に
沈
(
しづ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
317
下
(
した
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たお
民
(
たみ
)
は、
318
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の、
319
三階
(
さんがい
)
へ
上
(
のぼ
)
つた
儘
(
まま
)
下
(
お
)
りて
来
(
こ
)
ないのに
不審
(
ふしん
)
をおこし、
320
段梯子
(
だんばしご
)
を
上
(
のぼ
)
つて
見
(
み
)
れば、
321
大
(
おほ
)
きな
白狐
(
びやくこ
)
が
二匹
(
にひき
)
、
322
お
民
(
たみ
)
の
顔
(
かほ
)
を
目
(
め
)
を
瞋
(
いか
)
らして
白眼
(
にら
)
みつけて
居
(
ゐ
)
る。
323
お
民
(
たみ
)
はアツと
云
(
い
)
つて
反身
(
そりみ
)
になつた
儘
(
まま
)
、
324
段梯子
(
だんばしご
)
の
上
(
うへ
)
からドスン、
325
ガタガタガタ、
326
ウンといつたきり
気絶
(
きぜつ
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
327
遥
(
はる
)
か
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
より
涼
(
すず
)
しき
声
(
こゑ
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
328
果
(
はた
)
して
何人
(
なにびと
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
であらうか。
329
(
大正一二・一・一二
旧一一・一一・二六
加藤明子
録)
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