精霊界は善霊・悪霊が集合する天界と地獄の中間的境域である。人の死後、八衢の中心にある関所に来るためにはいろいろの道をたどることになる。
東から来る者は良い方の精霊たちである。西から来るものはやや魂が曇っており、剣の山を渡ってくる。北から来るものは氷の橋を渡ってくる。南から来るものは燃えている山を通ってくる。
東北東からは身を没するばかりの雪の中を、東南からは枯れ野原を、西南からはけわしい岩山を、西北からはとがった小石の道を足を痛めながらやってくる。こうして苦しみながら八衢へ来るのは、いずれも地獄へ行く副守護神の精霊ばかりである。
善霊はいずれの方面から来ても、生前に尽くした愛善と信真の徳によって、精霊界をやすやすと歩いていくことができる。
八衢の関所は、正守護神も副守護神もすべてのものの会合するところであって、ここで善悪真偽を調べられ、あるいは修練をさせられ、ある一定の期間を経て地獄に落ちたり天国へ昇ったりするのである。
片彦は針の山を通って八衢の関所やってきた。関所の守衛は片彦を呼び止め、身柄を拘束した。片彦は金剛力を出して綱を引きちぎり、館の戸を無理に押しあけて走ってきて門の敷居に躓いて倒れてしまった。
ランチ将軍、副官のガリヤ、ケースが東の方からやってきた。三人は殺したと思った片彦が倒れているのを見つけて揺り起こした。片彦はランチ将軍と二人の副官を認めると、怒って挑みかかった。
ランチ将軍は、いさかいの元になった美人たちは妖怪であり、自分たちも高殿から川に落ち込んでここへやってきたのだ、と経緯を説明した。そしてこうなった上はまた旧交をあたためようと仲直りを申し出た。
そこへお民がやってきて合流した。お民はここは死後の八衢の関所だと伝えるが、ランチたちは信じない。そこへ十人ばかりの守衛たちが得物を手にしていかめしく五人の周りを取り囲んだ。
ランチはまだ自分が生きている気になって守衛たちを威嚇するが、逆に守衛に一喝され、ようやくもろ手を組んでいぶかり始めた。