まずは、大王の許しを得て、自分は芙蓉仙人、産土の神と共に、幽庁の審判を傍聴することになった。
審判の法廷には、河を渡ってきた旅人が土下座になってかしこまっていたが、そこにはさまざまな国の人間が混じっているのを認めた。
高座にある大王の容貌をふと見ると、恐ろしくものすごい顔になっていたので、思わずあっと驚いて倒れそうになったところを、芙蓉仙人と産土の神に支えられた。
裁判はただ、一人一人判決の言い渡しのみで次々と終了して行った。芙蓉仙人の説明によれば、大蛇の河を渡るときに、着衣の変色によって罪の大小軽重が明らかになるので、審理の必要がない、とのことであった。
審判を終えて、元の居間に戻ってきた大王のお顔は、また温和で慈愛に富んだ様子に戻っていた。
神諭にある艮の金神が、改心の出来た人には優しく現れるが、心に曇りがある人民には恐ろしい神として表れる、とあるのを拝読したとき、このときの幽庁の大王のことを思い出さずにはいられなかった。また、教祖の優美にして温和、慈愛に富めるご面貌は、大王のお顔を思い起こさせたのである。
大王が、これから幽界の修行を行うように、と告げると、産土の神は「よろしくお願い申し上げます」と述べて去っていった。また芙蓉仙人も大王に黙礼して退座された。
後には大王の前に自分だけが残されたが、すると再び大王の面貌は恐ろしく変わり、番卒がやってきると自分の白衣を脱がせて灰色の着物に着せ替え、第一の門から突き出してしまった。
辺りを見ると、枯れ草が氷の針のようになり、横の溝にはいやらしい虫が充満していた。後ろからは番卒が、鋭利な槍で突き刺そうと追ってくるので、やむを得ず前に進んでいった。
四五町行ったところで、橋のない深い広い河があった。のぞいてみると、旅人が落ちて体中を蛭がたかって血を吸われ、苦しんでいる。後からは鬼のような番卒が槍を持って追いかけてくる。
窮地にふと思い出した、産土神から授かった書を開いてみると、『天照大神、惟神霊幸倍坐世』としたためてある。自分は思わずこの神文を唱えると、身は大きな川の向こうへ渡っていた。
番卒はこれを見て、元の道を帰って行った。歩を進めると、にわかに寒気が酷烈となり、手足が凍えてどうすることもできない。
そこへ黄金色の光が現れ、はっと驚いて見る間に、光の玉が二三尺先に忽然と下ってきた。