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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第1巻(子の巻)
序
基本宣伝歌
発端
第1篇 幽界の探険
第1章 霊山修業
第2章 業の意義
第3章 現界の苦行
第4章 現実的苦行
第5章 霊界の修業
第6章 八衢の光景
第7章 幽庁の審判
第8章 女神の出現
第9章 雑草の原野
第10章 二段目の水獄
第11章 大幣の霊験
第2篇 幽界より神界へ
第12章 顕幽一致
第13章 天使の来迎
第14章 神界旅行(一)
第15章 神界旅行(二)
第16章 神界旅行(三)
第17章 神界旅行(四)
第18章 霊界の情勢
第19章 盲目の神使
第3篇 天地の剖判
第20章 日地月の発生
第21章 大地の修理固成
第22章 国祖御隠退の御因縁
第23章 黄金の大橋
第24章 神世開基と神息統合
第4篇 竜宮占領戦
第25章 武蔵彦一派の悪計
第26章 魔軍の敗戦
第27章 竜宮城の死守
第28章 崑崙山の戦闘
第29章 天津神の神算鬼謀
第30章 黄河畔の戦闘
第31章 九山八海
第32章 三個の宝珠
第33章 エデンの焼尽
第34章 シナイ山の戦闘
第35章 一輪の秘密
第36章 一輪の仕組
第5篇 御玉の争奪
第37章 顕国の御玉
第38章 黄金水の精
第39章 白玉の行衛
第40章 黒玉の行衛
第41章 八尋殿の酒宴(一)
第42章 八尋殿の酒宴(二)
第43章 丹頂の鶴
第44章 緑毛の亀
第45章 黄玉の行衛
第46章 一島の一松
第47章 エデン城塞陥落
第48章 鬼熊の終焉
第49章 バイカル湖の出現
第50章 死海の出現
附記 霊界物語について
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霊界物語
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第1巻(子の巻)
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<<< 神界旅行(一)
(B)
(N)
神界旅行(三) >>>
第一五章
神界
(
しんかい
)
旅行
(
りよかう
)
の二〔一五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第1巻 霊主体従 子の巻
篇:
第2篇 幽界より神界へ
よみ(新仮名遣い):
ゆうかいよりしんかいへ
章:
第15章 神界旅行(二)
よみ(新仮名遣い):
しんかいりょこう(二)
通し章番号:
15
口述日:
1921(大正10)年10月18日(旧09月18日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1921(大正10)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
先は自分の間違いであったことを悟り、心を改めて一直線に神界への旅路についた。神言を唱えながら歩いていき、「幸」という男と「琴」という女が道連れになった。
細い道が幾筋となく展開するところに出た。自分はどの道を選んだらよいか、途方にくれたが、その中で正中と思われる小路を選んだ。橋をいくつも渡ったが、ある橋にさしかかると、真っ黒な四足の動物が現れて、自分を橋の下の川に投げ込んでしまった。
道に沿って溝を泳いで戻り、元の道まで引き返してきた。真っ黒な動物が追いかけてきたが、二匹の白狐が追い払った。再び道を選び、今度は三人が別々の道を進んだ。
山の中腹にさしかかり、大きな滝に出くわした。その滝で身を清めようと打たれてみると、自分の姿は大蛇になってしまった。すると、「琴」という女も大蛇の姿になって苦しんでいるのを見た。
山が急に海に変わると、「琴」の大蛇はものすごい勢いで行ってしまった。すると海も川もなくなって、自分は元の道の別れている場所に戻っていた。
今度は一番細い道を行くと、病人が狸を拝んでいたので、鎮魂で狸を追い払った。病人たちは感謝して喜び、取りすがってきたので一歩も進むことができない。天の声に促されて天の岩笛を吹くと、何もかも消えて、広い平坦な場所に進んでいた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm0115
愛善世界社版:
74頁
八幡書店版:
第1輯 72頁
修補版:
校定版:
74頁
普及版:
39頁
初版:
ページ備考:
001
神界
(
しんかい
)
の
旅行
(
りよかう
)
と
思
(
おも
)
つたのは
自分
(
じぶん
)
の
間違
(
まちが
)
ひであつたことを
覚
(
さと
)
り、
002
今度
(
こんど
)
は
心
(
こころ
)
を
改
(
あらた
)
め、
003
好奇心
(
かうきしん
)
を
戒
(
いまし
)
め
一直線
(
いつちよくせん
)
に
神界
(
しんかい
)
の
旅路
(
たびぢ
)
についた。
004
細
(
ほそ
)
い
道路
(
みち
)
をただ
一人
(
ひとり
)
、
005
足
(
あし
)
をはやめて
側眼
(
わきめ
)
もふらず、
006
神言
(
かみごと
)
を
唱
(
とな
)
へながら
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
007
そこへ「
幸
(
かう
)
」といふ
二十
(
にじつ
)
才
(
さい
)
くらゐの
男
(
をとこ
)
と「
琴
(
こと
)
」といふ
二十二
(
にじふに
)
才
(
さい
)
ばかりの
女
(
をんな
)
とが
突然
(
とつぜん
)
現
(
あら
)
はれて、
008
自分
(
じぶん
)
の
後
(
あと
)
になり
前
(
まへ
)
になつて
踉
(
つ
)
いてくる。
009
そのとき
自分
(
じぶん
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
力
(
ちから
)
を
得
(
え
)
たやうに
思
(
おも
)
ふた。
010
その
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
は
今
(
いま
)
幽体
(
いうたい
)
となり、
011
男
(
をとこ
)
の
方
(
はう
)
はある
由緒
(
ゆいしよ
)
ある
神社
(
じんじや
)
に、
012
神官
(
しんくわん
)
として
仕
(
つか
)
へてをる。
013
その
両人
(
りやうにん
)
には
小松林
(
こまつばやし
)
、
014
正守
(
まさもり
)
といふ
二柱
(
ふたはしら
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が
付随
(
ふずゐ
)
してゐた。
015
そして
小松林
(
こまつばやし
)
はある
時期
(
じき
)
において、
016
ある
肉体
(
にくたい
)
とともに
神界
(
しんかい
)
に
働
(
はたら
)
くことになられた。
017
細
(
ほそ
)
い
道路
(
みち
)
はだんだん
広
(
ひろ
)
くなつて、
018
そしてまた
行
(
ゆ
)
くに
従
(
したが
)
つてすぼんで
細
(
ほそ
)
い
道路
(
みち
)
になつてきた。
019
たとへば
扇
(
あふぎ
)
をひろげて
天
(
てん
)
と
天
(
てん
)
とを
合
(
あは
)
せたやうなものである。
020
扇
(
あふぎ
)
の
骨
(
ほね
)
のやうな
道路
(
みち
)
は、
021
幾条
(
いくすじ
)
となく
展開
(
てんかい
)
してゐる。
022
そのとき
自分
(
じぶん
)
はどの
道路
(
みち
)
を
選
(
えら
)
んでよいか
途方
(
とはう
)
に
暮
(
く
)
れざるを
得
(
え
)
なかつた。
023
その
道路
(
みち
)
は
扇
(
あふぎ
)
の
骨
(
ほね
)
と
骨
(
ほね
)
との
隙間
(
すきま
)
のやうに、
024
両側
(
りやうがわ
)
には
非常
(
ひじやう
)
に
深
(
ふか
)
い
溝渠
(
みぞ
)
が
掘
(
ほ
)
られてあつた。
025
水
(
みづ
)
は
美
(
うつく
)
しく、
026
天
(
てん
)
は
青
(
あを
)
く、
027
非常
(
ひじやう
)
に
愉快
(
ゆくわい
)
であるが、
028
さりとて
少
(
すこ
)
しも
油断
(
ゆだん
)
はできぬ。
029
油断
(
ゆだん
)
をすれば
落
(
お
)
ちこむ
恐
(
おそ
)
れがある。
030
自分
(
じぶん
)
は
高天原
(
たかあまはら
)
に
行
(
ゆ
)
く
道路
(
みち
)
は、
031
平々
(
へいへい
)
坦々
(
たんたん
)
たるものと
思
(
おも
)
ふてゐたのに、
032
かかる
迷路
(
めいろ
)
と
危険
(
きけん
)
の
多
(
おほ
)
いのには
驚
(
おどろ
)
かざるを
得
(
え
)
ない。
033
その
中
(
なか
)
でまづ
正中
(
せいちゆう
)
と
思
(
おも
)
ふ
小径
(
こみち
)
を
選
(
えら
)
んで
進
(
すす
)
むことにした。
034
見渡
(
みわた
)
すかぎり
山
(
やま
)
もなく、
035
何
(
なに
)
もない
美
(
うつく
)
しい
平原
(
へいげん
)
である。
036
その
道路
(
みち
)
を
行
(
ゆ
)
くと
幾
(
いく
)
つともなく
種々
(
しゆじゆ
)
の
橋
(
はし
)
が
架
(
か
)
けられてあつた。
037
中
(
なか
)
には
荒廃
(
くわうはい
)
した
危
(
あぶ
)
ないものもある。
038
さういふのに
出会
(
でくは
)
した
時
(
とき
)
は、
039
「
天照
(
あまてらす
)
大神
(
おほかみ
)
」の
御
(
ご
)
神名
(
しんめい
)
を
唱
(
とな
)
へて、
040
一足
(
いつそく
)
飛
(
と
)
びに
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
したこともあつた。
041
そこへ
突然
(
とつぜん
)
として
現
(
あら
)
はれたのが
白衣
(
びやくい
)
の
男女
(
だんぢよ
)
である。
042
見
(
み
)
るまに
白狐
(
びやくこ
)
の
姿
(
すがた
)
に
変
(
かは
)
つてしまつた。
043
「
琴
(
こと
)
」と「
幸
(
かう
)
」との
二人
(
ふたり
)
は
同
(
おな
)
じくついてきた。
044
急
(
いそ
)
いで
行
(
ゆ
)
くと、
045
突然
(
とつぜん
)
また
橋
(
はし
)
のあるところにきた。
046
橋
(
はし
)
の
袂
(
たもと
)
から
真黒
(
まつくろ
)
な
四足動物
(
よつあし
)
が
四五頭
(
しごとう
)
現
(
あら
)
はれて、
047
いきなり
自分
(
じぶん
)
を
橋
(
はし
)
の
下
(
した
)
の
深
(
ふか
)
い
川
(
かは
)
に
放
(
はう
)
り
込
(
こ
)
んでしまつた。
048
二人
(
ふたり
)
の
連
(
つれ
)
も、
049
共
(
とも
)
に
川
(
かは
)
に
放
(
はう
)
りこまれた。
050
自分
(
じぶん
)
は
道路
(
みち
)
の
左側
(
ひだりがは
)
の
溝
(
みぞ
)
を
泳
(
およ
)
ぐなり、
051
二人
(
ふたり
)
は
道
(
みち
)
の
右側
(
みぎがは
)
の
溝
(
みぞ
)
を
泳
(
およ
)
いで、
052
元
(
もと
)
の
道路
(
みち
)
まできた。
053
前
(
まへ
)
の
動物
(
どうぶつ
)
は
追
(
おひ
)
かけ
来
(
き
)
たり、
054
また
飛
(
と
)
びつかうと
狙
(
ねら
)
ふその
時
(
とき
)
、
055
たちまち
二匹
(
にひき
)
の
白狐
(
びやくこ
)
が
現
(
あら
)
はれて
動物
(
どうぶつ
)
を
追
(
お
)
ひ
払
(
はら
)
つた。
056
三
(
さん
)
人
(
にん
)
はもとの
扇形
(
あふぎがた
)
の
処
(
ところ
)
に
帰
(
かへ
)
り、
057
衣服
(
いふく
)
を
乾
(
かわ
)
かして
休息
(
きうそく
)
した。
058
その
時
(
とき
)
非常
(
ひじやう
)
なる
大
(
おほ
)
きな
太陽
(
たいやう
)
が
現
(
あら
)
はれて、
059
瞬
(
またた
)
くまに
乾
(
かわ
)
いてしまつた。
060
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
思
(
おも
)
はず
合掌
(
がつしやう
)
して、
061
「
天照
(
あまてらす
)
大神
(
おほかみ
)
」の
御
(
おん
)
名
(
な
)
を
唱
(
とな
)
へて
感謝
(
かんしや
)
した。
062
今度
(
こんど
)
は
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
各自
(
かくじ
)
異
(
こと
)
なる
道路
(
みち
)
をとつて
進
(
すす
)
んだ。
063
「
幸
(
かう
)
」といふ
男
(
をとこ
)
は
左側
(
ひだりがは
)
の
端
(
はし
)
を、
064
「
琴
(
こと
)
」といふ
女
(
をんな
)
は
右側
(
みぎがは
)
の
道路
(
みち
)
をえらんだ。
065
それはまさかの
時
(
とき
)
、
066
この
路
(
みち
)
なれば
一方
(
いつぱう
)
が
平原
(
へいげん
)
に
続
(
つづ
)
いてゐるから、
067
その
方
(
はう
)
へ
逃
(
に
)
げるための
用意
(
ようい
)
であつた。
068
自分
(
じぶん
)
も
中央
(
ちゆうあう
)
の
道路
(
みち
)
を
避
(
さ
)
けて
三
(
み
)
ツばかり
傍
(
かたはら
)
の
道路
(
みち
)
を
進
(
すす
)
んだ。
069
依然
(
いぜん
)
として
両側
(
りやうがは
)
に
溝
(
みぞ
)
がある。
070
最前
(
さいぜん
)
の
失敗
(
しつぱい
)
に
懲
(
こ
)
りて、
071
両側
(
りやうがは
)
と
前後
(
ぜんご
)
に
非常
(
ひじやう
)
の
注意
(
ちうい
)
を
払
(
はら
)
つて
進
(
すす
)
んで
行
(
い
)
つた。
072
横
(
よこ
)
にもまた
沢山
(
たくさん
)
の
溝
(
みぞ
)
があり、
073
非常
(
ひじやう
)
に
堅固
(
けんご
)
な
石橋
(
いしばし
)
が
架
(
かか
)
つてゐた。
074
不思議
(
ふしぎ
)
にも
今
(
いま
)
まで
平原
(
へいげん
)
だと
思
(
おも
)
つてゐたのに
中途
(
ちゆうと
)
からそれが
山
(
やま
)
になり、
075
山
(
やま
)
また
山
(
やま
)
に
連
(
つら
)
なつた
場面
(
ばめん
)
に
変
(
かは
)
つてゐる。
076
さうして
其
(
そ
)
の
山
(
やま
)
は
壁
(
かべ
)
のやうに
屹立
(
きつりつ
)
し、
077
鏡
(
かがみ
)
のやうに
光
(
ひか
)
つてゐるのみならず、
078
滑
(
すべ
)
つて
足
(
あし
)
をかける
余地
(
よち
)
がない。
079
さりとて
引
(
ひ
)
き
返
(
かへ
)
すのは
残念
(
ざんねん
)
であると
途方
(
とはう
)
にくれ、
080
ここに
自分
(
じぶん
)
は
疑
(
うたが
)
ひはじめた。
081
これは
高天原
(
たかあまはら
)
にゆく
道路
(
みち
)
とは
聞
(
き
)
けど、
082
或
(
ある
)
ひは
地獄
(
ぢごく
)
への
道路
(
みち
)
と
間違
(
まちが
)
つたのではあるまいかと。
083
かう
疑
(
うたが
)
つてみると、
084
どうしてよいか
分
(
わか
)
らず、
085
進退
(
しんたい
)
谷
(
きは
)
まり
吐息
(
といき
)
をつきながら、
086
「
天照
(
あまてらす
)
大神
(
おほかみ
)
」の
御名
(
みな
)
を
唱
(
とな
)
へ
奉
(
まつ
)
り、
087
「
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
」を
三唱
(
さんしやう
)
した。
088
不思議
(
ふしぎ
)
にもその
山
(
やま
)
は、
089
少
(
すこ
)
しなだらかになつて、
090
自分
(
じぶん
)
は
知
(
し
)
らぬまに、
091
山
(
やま
)
の
中腹
(
ちゆうふく
)
に
達
(
たつ
)
してゐる。
092
幹
(
みき
)
の
周
(
まは
)
り
一丈
(
いちぢやう
)
に
余
(
あま
)
るやうな
松
(
まつ
)
や、
093
杉
(
すぎ
)
や、
094
桧
(
ひのき
)
の
茂
(
しげ
)
つてゐる
山道
(
やまみち
)
を、
095
どんどん
進
(
すす
)
んで
登
(
のぼ
)
ると
大
(
おほ
)
きな
瀑布
(
ばくふ
)
に
出会
(
でくは
)
した。
096
白竜
(
はくりゆう
)
が
天
(
てん
)
に
登
(
のぼ
)
るやうな
形
(
かたち
)
をしてゐる。
097
ともかくもその
滝
(
たき
)
で
身
(
み
)
を
清
(
きよ
)
めたいと、
098
近
(
ちか
)
よつて
裸
(
はだか
)
になり
滝
(
たき
)
に
打
(
う
)
たれてみた。
099
たちまち
自分
(
じぶん
)
の
姿
(
すがた
)
は
瀑布
(
たき
)
のやうな
大蛇
(
だいじや
)
になつてしまつた。
100
自分
(
じぶん
)
はこんな
姿
(
すがた
)
になつてしまつたことを、
101
非常
(
ひじやう
)
に
残念
(
ざんねん
)
に
思
(
おも
)
つてゐると、
102
下
(
した
)
の
方
(
はう
)
から
自分
(
じぶん
)
の
名
(
な
)
を
大声
(
おほごゑ
)
に
呼
(
よ
)
ぶものがある。
103
姿
(
すがた
)
は
真黒
(
まつくろ
)
な
大蛇
(
だいじや
)
であつて、
104
顔
(
かほ
)
は「
琴
(
こと
)
」といふ
女
(
をんな
)
の
顔
(
かほ
)
であつた。
105
そして
苦
(
くる
)
しさうに、
106
のた
打
(
う
)
ちまはつて
暴
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ふてゐた。
107
よくよく
見
(
み
)
ると
大
(
おほ
)
きな
目
(
め
)
の
玉
(
たま
)
は
血走
(
ちばし
)
つて
巴形
(
ともゑがた
)
の
血斑
(
ちまだら
)
が
両眼
(
りやうがん
)
の
白
(
しろ
)
いところに
現
(
あら
)
はれてゐた。
108
自分
(
じぶん
)
は
蛇体
(
じやたい
)
になりながら、
109
女
(
をんな
)
を
哀
(
あは
)
れに
思
(
おも
)
ひ
救
(
すく
)
ふてやりたいと
考
(
かんが
)
へてゐると、
110
その
山
(
やま
)
が
急
(
きふ
)
に
大阪湾
(
おおさかわん
)
のやうな
海
(
うみ
)
に
変
(
かは
)
つてしまつた。
111
そのうちに「
琴
(
こと
)
」
女
(
ぢよ
)
の
大蛇
(
だいじや
)
が
火
(
ひ
)
を
吐
(
は
)
きながら、
112
非常
(
ひじやう
)
な
勢
(
いきほひ
)
で、
113
浪
(
なみ
)
を
起
(
おこ
)
して
海中
(
かいちゆう
)
に
水音
(
みづおと
)
たてて
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ。
114
自分
(
じぶん
)
は
水
(
みづ
)
を
吐
(
は
)
きながら、
115
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひかけて
同
(
おな
)
じく
海
(
うみ
)
に
飛
(
と
)
び
入
(
い
)
つて
救
(
すく
)
ふてやらうとした。
116
されど、
117
あたかも
十
(
じふ
)
ノツトの
軍艦
(
ぐんかん
)
で、
118
三十
(
さんじふ
)
ノツトの
軍艦
(
ぐんかん
)
を
追
(
お
)
ふやうに
速力
(
そくりよく
)
及
(
およ
)
ばぬところから、
119
だんだんかけ
離
(
はな
)
れて
救
(
すく
)
ふてやることができない。
120
そのうちに
黒
(
くろ
)
い
大蛇
(
だいじや
)
はまつしぐらに
泳
(
およ
)
いで
遥
(
はる
)
かあなたへ
行
(
い
)
つて、
121
黒
(
くろ
)
い
煙
(
けむり
)
が
立
(
た
)
つたと
思
(
おも
)
ふと
姿
(
すがた
)
は
消
(
き
)
えてしまつた。
122
さうすると
不思議
(
ふしぎ
)
にも
海
(
うみ
)
も
山
(
やま
)
もなくなつて、
123
自分
(
じぶん
)
はまた
元
(
もと
)
の
扇
(
あふぎ
)
の
要
(
かなめ
)
の
道
(
みち
)
に
帰
(
かへ
)
つてゐた。
124
今度
(
こんど
)
は
決心
(
けつしん
)
して
一番
(
いちばん
)
細
(
ほそ
)
い
道路
(
みち
)
を
行
(
ゆ
)
くことにした。
125
そこには
人
(
ひと
)
が
五六十
(
ごろくじふ
)
人
(
にん
)
と
思
(
おも
)
ふほど
集
(
あつ
)
まつてゐる。
126
見
(
み
)
るに
目
(
め
)
の
悪
(
わる
)
いもの、
127
足
(
あし
)
の
立
(
た
)
たないもの、
128
腹
(
はら
)
の
痛
(
いた
)
むものや、
129
種々
(
しゆじゆ
)
の
病人
(
びやうにん
)
がゐて
何
(
なに
)
か
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
祈
(
いの
)
つてをる。
130
道路
(
みち
)
にふさがつて
何
(
なに
)
を
拝
(
をが
)
んでをるかと
思
(
おも
)
へば、
131
非常
(
ひじやう
)
に
劫
(
がふ
)
を
経
(
へ
)
た
古狸
(
ふるだぬき
)
を
人間
(
にんげん
)
が
拝
(
をが
)
んでをる。
132
その
狸
(
たぬき
)
は
大
(
おほ
)
きな
坊主
(
ぼうず
)
に
見
(
み
)
せてゐる。
133
拝
(
をが
)
んでゐるものは、
134
現体
(
げんたい
)
を
持
(
も
)
つた
人間
(
にんげん
)
ばかりであつた。
135
しかし
一人
(
ひとり
)
も
病気
(
びやうき
)
にたいして
何
(
なん
)
の
効能
(
かうのう
)
もない。
136
自分
(
じぶん
)
は
狸
(
たぬき
)
坊主
(
ぼうず
)
にむかつて
鎮魂
(
ちんこん
)
の
姿勢
(
しせい
)
をとると、
137
その
姿
(
すがた
)
は
煙
(
けむり
)
のごとく
消
(
き
)
えてしまい、
138
すべての
人
(
ひと
)
は
皆
(
みな
)
病
(
やまひ
)
が
癒
(
い
)
えた。
139
芙蓉
(
ふよう
)
仙人
(
せんにん
)
に
聞
(
き
)
いてみれば、
140
古狸
(
ふるだぬき
)
の
霊
(
れい
)
が、
141
僧侶
(
そうりよ
)
と
現
(
あら
)
はれて
人
(
ひと
)
を
悩
(
なや
)
まし、
142
そして
自己
(
じこ
)
を
拝
(
をが
)
ましてゐたのであつた。
143
その
狸
(
たぬき
)
の
霊
(
れい
)
を
逐
(
お
)
ひ
払
(
はら
)
つたとともに
衆人
(
しうじん
)
が
救
(
すく
)
はれ、
144
盲人
(
まうじん
)
は
見
(
み
)
え、
145
跛
(
びつこ
)
は
歩
(
あゆ
)
み、
146
霊
(
れい
)
は
畜生道
(
ちくしやうだう
)
の
仲間
(
なかま
)
に
入
(
い
)
るのを
助
(
たす
)
かつたのである。
147
衆人
(
しうじん
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
感謝
(
かんしや
)
して
泣
(
な
)
いて
喜
(
よろこ
)
び、
148
とり
縋
(
すが
)
つて
一歩
(
いつぽ
)
も
進
(
すす
)
ましてくれぬ。
149
しかるに
天
(
てん
)
の
一方
(
いつぱう
)
からは「
進
(
すす
)
め、
150
すすめ」の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えるので、
151
天
(
あま
)
の
石笛
(
いはぶえ
)
を
吹
(
ふ
)
くと、
152
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
跡形
(
あとかた
)
もなく
消
(
き
)
えて、
153
扇
(
あふぎ
)
の
紙
(
かみ
)
のやうな
広
(
ひろ
)
い
平坦
(
へいたん
)
なところに
進
(
すす
)
んでゐた。
154
(
大正一〇・一〇・一八
旧九・一八
加藤明子
録)
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