玉は次第に大きくなり、たちまちうるわしい女神の姿に変化した。全身金色にして紫摩黄金の肌で玲瓏透明にましまし、白の衣装と緋のはかまという出で立ちの、愛情あふれるばかりの女神であった。
女神は、自分は「大便所の神である」と告げ、懐から八寸ばかりの比礼を授けると、再会を約して電光石火のごとく天に帰って行った。
後に教祖のお話にあった金勝要神であることがわかって神界の微妙なる御経綸に驚かざるを得なかった。
女神と分かれた後、太陽も月も星も見えない山野を進んでいった。冷たい道の傍らに汚い水溜りがあり、その中に三十歳余りの青年が陥って虫にたかられ、苦しんでいた。
思わず「天照大神、惟神霊幸倍坐世」と繰り返すと、青年は水溜りから這い上がることができた。
青年は感謝の念を述べ、竜女を犯した自分と祖先の罪により、あのような罰を受けていたと語った。
それから自分は天照大神の御神号を一心不乱に唱えつつ前進した。すると神力著しく、たちまち全身が温かくなった。
四五十丁も行くと、断崖に突き当たった。後ろからは鋭利な刃物が迫ってきており、下を見ると、谷川の流れに落ちた旅人を、恐ろしい怪物が口にくわえて、浮き沈みしていた。
自分は神号を唱えると、怪物の姿は消えてしまった。怪物の難から助かった旅人は、舟木と言った。彼は喜んで自分の道連れとなった。
二人連れで進んでいくと、口の大きな怪物が、二人を逃がすな、と長剣をふるって襲い掛かってきた。神号を唱えても効果がなく、進退窮まったところへ、先ほどの女神が現れて、比礼を振るようにと言った。比礼を振ると、怪物は退却してしまった。
やれやれと思うまもなく、突然大蛇が現れて二人を飲み込んでしまった。そして轟然とした音と共に、奈落の底へ落ちていった。
気がつくと、幾千丈とも知れない滝の下に、両人は身を横たえていた。周囲は鋭い氷の柱で囲まれており、身動きすれば氷の剣に身を貫かれてしまう態であった。
自分は満身の力をこめて、「アマテラスオホミカミサマ」と唱えると、身体が自由になり、滝もどこともなく消えうせてしまった。
今度は、茫々たる雪の原野が現れた。雪の中には幾百人ともわからないほど、人間の手足や頭の一部が出ていた。にわかに、山が崩れるかという響きがして雪塊が落下し、自分を埋めて身動きができなくなってしまった。
一生懸命、惟神霊幸倍坐世をなんとか唱えると、ようやく身体の自由が利くようになってきた。舟木の全身が雪にうずもれていたので、比礼を振ると、舟木は雪の中から全身を現した。
天の一方より、またまた金色の光が現れて雪の原野は一度にぱっと消え、短い雑草の野原に変わった。
雪に埋もれていたあまたのひとびとは自分の前にひれ伏し、救世主の出現と感謝した。救世主と一緒に、神業に参加したいと希望する人もたくさんあった。その中には実業家、教育家、医者、学者なども混じっていた。
以上は水獄の中でも一番軽いところであった。第二段、第三段となると、このような軽々しい苦痛ではなかった。