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第二〇章 猿蟹(さるかに)合戦(がつせん)〔二二〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第5巻 霊主体従 辰の巻 篇:第3篇 予言と警告 よみ(新仮名遣い):よげんとけいこく
章:第20章 猿蟹合戦 よみ(新仮名遣い):さるかにがっせん 通し章番号:220
口述日:1922(大正11)年01月09日(旧12月12日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年4月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
顕恩郷の南には、エデン側をはさんで桃園郷という部落があった。顕恩郷の住人が蟹に変化するのに対し、桃園郷の住人は、猿のような出で立ちをしていた。
桃園郷は異常気象に見舞われて積雪・寒風吹きすさび、住人たちは飢えていた。ついに桃園郷の王は、顕恩郷を占領しようと企てた。
桃園郷の住人たちは夜陰にまぎれて顕恩郷に襲来し、果実で飢えを満たすと、鬨の声を上げて攻め寄せた。桃園王は大刀を引っさげて南天王の宮殿に暴れこんだ。
不意を突かれた南天王は桃園王の一撃に深手を負って、山中の鬼武彦の石像まで逃げて行った。
そこへ桃園郷の追っ手が迫ってきたが、鬼武彦の石像から怪しい光が発射し、強熱で桃園郷軍を追い払った。エデン河に追い立てられた桃園郷軍は、蟹と化した顕恩郷軍にさんざんに敗北した。
鷹住別の南天王は、最初の敗北と逃走で、顕恩郷の人々の信頼を失ってしまった。これはいつしか鷹住別が心を緩めて慢心し、祭祀の道をおろそかにした故であった。鷹住別夫婦は顕恩郷を飛び出して、モスコーへ逃げ帰ることになってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-03-27 13:52:13 OBC :rm0520
愛善世界社版:117頁 八幡書店版:第1輯 559頁 修補版: 校定版:120頁 普及版:53頁 初版: ページ備考:
001 顕恩郷(けんおんきやう)南方(なんぱう)なるエデン(がは)南岸(なんがん)にあたつて橙園郷(とうゑんきやう)といふ一大(いちだい)部落(ぶらく)がある。002この(くに)(をさ)橙園王(とうゑんわう)といふ。003この数年(すうねん)004(なに)ゆゑか霜雪(さうせつ)しきりに()(つも)り、005時々(ときどき)寒風(かんぷう)()ききたつて橙樹(とうじゆ)(みの)らず、006この(きやう)住民(ぢうみん)いづれも饑餓(きが)(せま)り、007ほとんど共喰(ともぐ)ひの惨状(さんじやう)であつた。008これに引換(ひきか)へ、009北岸(ほくがん)顕恩郷(けんおんきやう)は、010(きた)高山(かうざん)(めぐ)らし、011東西(とうざい)(ひく)(やま)(かこ)ひ、012気候(きこう)中和(ちうわ)()013果実(くわじつ)豊熟(ほうじゆく)して、014郷神(きやうしん)食事(しよくじ)(つね)()(あま)りつつあつた。
015 対岸(たいがん)橙園王(とうゑんわう)はこの(かは)(わた)り、016顕恩郷(けんおんきやう)占領(せんりやう)せむことを造次(ざうじ)にも顛沛(てんぱい)にも(わす)れなかつた。017されど顕恩郷(けんおんきやう)天上(てんじやう)より降下(かうか)したりてふ威力(ゐりよく)絶倫(ぜつりん)なる生神(いきがみ)親臨(しんりん)して(かた)くこれを(まも)り、018かつ棒岩(ぼういは)鬼武彦(おにたけひこ)神霊(しんれい)019(とき)(てき)(むか)つて無上(むじやう)神力(しんりき)発揮(はつき)(てき)(なや)ますとの風説(ふうせつ)(かた)(しん)(おそ)れ、020これが占領(せんりやう)躊躇(ちうちよ)しつつあつた。021されど数多(あまた)住民(ぢうみん)饑餓(きが)(せま)りて(くる)しむを坐視(ざし)するに(しの)びず、022()(はら)はかへられぬ場合(ばあひ)となり、023いちか、024ばちか、025一度(いちど)占領(せんりやう)(こころ)みむと、026住民(ぢうみん)(あつ)めて協議(けふぎ)結果(けつくわ)027夜陰(やいん)にまぎれ、028顕恩郷(けんおんきやう)(おそ)ひ、029自分(じぶん)らの安住所(あんぢうしよ)(さだ)めむとした。
030 顕恩郷(けんおんきやう)神人(かみがみ)はすべて蟹面(かにづら)をなせるに()きかへ、031この(きやう)住民(ぢうみん)はいづれも猿猴(ゑんこう)のごとき容貌(ようばう)持主(もちぬし)であつた。032さうして全身(ぜんしん)(あら)()(しやう)じ、033ほとんど猩々(しやうじやう)のごとく、034言葉(ことば)(たん)にアオウエイの五音(ごおん)をもつてたがひに意思(いし)表示(へうじ)してゐたのである。
035 (あめ)(はげ)しく(かぜ)(つよ)く、036雷鳴(らいめい)なり(とどろ)()()すまし、037大挙(たいきよ)してエデンの大河(たいが)(おのおの)()をつなぎながら()(わた)り、038各自(かくじ)棍棒(こんぼう)(たづさ)へ、039あるひは石塊(いしころ)をもち、040顕恩郷(けんおんきやう)襲来(しふらい)した。041夜中(よなか)のこととてこの(きやう)神人(かみがみ)らは一柱(ひとはしら)として、042(てき)襲来(しふらい)感知(かんち)するものはなかつた。043橙園郷(とうゑんきやう)住民(ぢうみん)餓虎(がこ)のごとく果実(くわじつ)をむしり()り、044()ゑたる(はら)(ふく)らせ、045元気(げんき)はますます旺盛(わうせい)となつた。046住民(ぢうみん)らは一所(ひとところ)(あつ)まつて()していふ、
047『もはや吾々(われわれ)はかくのごとく元気(げんき)回復(くわいふく)したれば、048(つよ)きこと(おに)金棒(かなぼう)のごとし。049いかに南天王(なんてんわう)威力(ゐりよく)も、050鬼武彦(おにたけひこ)神力(しんりき)も、051(なん)(おそ)るるところかあらむ、052この()(じやう)じて南天王(なんてんわう)宮殿(きうでん)(おそ)へ』
053橙園王(とうゑんわう)(さき)()つて(とき)をつくつて(すす)()せた。054(ねぐら)(はな)れて(おどろ)きさわぐ(にはとり)羽音(はおと)南天王(なんてんわう)()()まし、055(みみ)をすまして殿外(でんぐわい)(こゑ)()きいつた。056つひに()()れぬ(こゑ)であつて、057ただウウ、058エエとのみ(きこ)ゆるのである。059ただちに殿内(でんない)神人(かみがみ)らを()びおこし偵察(ていさつ)せしめむとする(とき)しも、060橙園王(とうゑんわう)(いは)をもつて(つく)りたる鋭利(えいり)なる大刀(だいたう)引提(ひつさ)げ、061奥殿(おくでん)()がけて阿修羅(あしゆら)(わう)(あば)れたるごとく突進(とつしん)しきたり、062南天王(なんてんわう)()がけて(もの)をもいはず()りつけたり。063南天王(なんてんわう)はひらりと(たい)をかはし、064わづかに()をもつて山奥(やまおく)(のが)れ、065棒岩(ぼういは)(ふもと)にいたつて強敵(きやうてき)退散(たいさん)祈願(きぐわん)()めてゐた。066さうして南天王(なんてんわう)背部(はいぶ)重傷(ぢうしやう)()ひ、067苦痛(くつう)(もだ)えつつ岩下(がんか)打倒(うちたふ)れた。068春日姫(かすがひめ)はその(あと)()ひ、069()()南天王(なんてんわう)谷水(たにみづ)(すく)(きた)りて()ましめ介抱(かいほう)をつくした。070ウアーウアーの(こゑ)はますます(ちか)(きこ)えてきた。071鬼武彦(おにたけひこ)石像(せきざう)よりはたちまち(あや)しき(ひかり)(はつ)し、072敵軍(てきぐん)(むれ)にむかつて放射(はうしや)した。073(てき)はその(ひかり)強熱(きやうねつ)()へかねて、074両手(りやうて)をもつて面部(めんぶ)(おほ)(かく)した、075頭髪(とうはつ)および全身(ぜんしん)()は、076ぢりぢりと(おと)して()けるばかりになつた。077いづれの敵人(てきびと)(のこ)らず谷川(たにがは)(あたま)突込(つつこ)み、078臀部(でんぶ)上方(じやうはう)()け、079あたかも(しり)花立(はなたて)のやうにして、080ぶるぶると(ふる)うてゐた。081このとき(しり)強熱(きやうねつ)()かれて赤色(せきしよく)(へん)じてしまつた。082顕恩郷(けんおんきやう)神人(かみがみ)らは、083たちまち得意(とくい)通力(つうりき)をもつて巨大(きよだい)なる(かに)(へん)じ、084谷川(たにがは)(さか)さまになつて(ふる)うてゐる敵住民(てきぢうみん)らの(あたま)左右(さいう)鋭利(えいり)なる(はさみ)にてはさみ()らむとした。085(なか)には(あたま)(けづ)られ、086(くび)をちぎられ、087悲鳴(ひめい)をあげて()(もの)もたくさんできた。088橙園王(とうゑんわう)(おそ)れて退却(たいきやく)(めい)じた。089いづれの人民(じんみん)橙園王(とうゑんわう)指揮(しき)にしたがひ、090(いのち)からがらエデンの(かは)(わた)つて橙園(とうゑん)(のが)(かへ)らむとして河中(かちう)(あし)(とう)ずるや、091巨大(きよだい)なる(かに)水中(すゐちう)にあまた(あつ)まりゐて、092(あし)()りちぎつた。093オーオーと(こゑ)()()げて()きながら、094(から)うじてその過半(くわはん)無事(ぶじ)南岸(なんがん)()き、095その()(のこ)らず(ほろ)ぼされてしまつた。096これより橙園郷(とうゑんきやう)住民(ぢうみん)容易(ようい)顕恩郷(けんおんきやう)襲撃(しふげき)するの(ねん)()つた。097されど何時(いつ)またもや襲来(しふらい)せむも(はか)りがたしと、098顕恩郷(けんおんきやう)神人(かみがみ)らは(やす)(こころ)もなかつた。099そして天津(あまつ)(かみ)降臨(かうりん)信任(しんにん)しゐたる南天王(なんてんわう)は、100(てき)橙園王(とうゑんわう)()()てられ、101卑怯(ひけふ)にも(すこ)しの抵抗(ていかう)をもなさず、102背部(はいぶ)大負傷(だいふしやう)をなして石神(いしがみ)のもとに()げゆき戦慄(せんりつ)しゐたるを()て、103神人(かみがみ)らは各自(かくじ)(こころ)もとなく(おも)ひ、104かつ天神(てんしん)天降(あまくだ)りを(うたが)ふやうになつてきた。
105 鷹住別(たかすみわけ)南天王(なんてんわう)は、106かくのごとく(もろ)くも橙園王(とうゑんわう)のために(はい)()り、107()ごろの神力(しんりき)発揮(はつき)()ざりしは、108衣食住(いしよくぢう)安全(あんぜん)()たる(うへ)に、109神人(かみがみ)らの尊敬(そんけい)畏拝(ゐはい)するにいつしか(こころ)をゆるめ、110やや慢心(まんしん)(きざ)し、111天地(てんち)神恩(しんおん)忘却(ばうきやく)し、112祭祀(さいし)(みち)忽諸(こつしよ)()したるがゆゑであつた。113これより南天王(なんてんわう)部下(ぶか)神人(かみがみ)らの信任(しんにん)(うしな)ひ、114やむを()夜陰(やいん)(まぎ)れ、115夫婦(ふうふ)()()をとつて(とほ)く、116()()なかはる草枕(くさまくら)117(たび)苦労(くらう)(かさ)ねて、118つひに(もと)のモスコーに(から)うじて()(かへ)ることを()た。
119大正一一・一・九 旧大正一〇・一二・一二 加藤明子録)
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