霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 (いすか)(はし)〔六四七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第1篇 神慮洪遠 よみ(新仮名遣い):しんりょこうえん
章:第2章 鶍の嘴 よみ(新仮名遣い):いすかのはし 通し章番号:647
口述日:1922(大正11)年05月06日(旧04月10日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
魔窟ケ原の岩屋で、高姫、黒姫、高山彦は、青彦らの首尾を待っていた。そこへ様子伺いに行っていた梅公は、辰公、鳶公を従えて息せき切って戻ってきた。
梅公の様子を見て、門番をしていた寅若は、不首尾を悟ってあざ笑う。
青彦らの戻りが遅いので、高姫は心配するが、黒姫は自分が信任した青彦たちをかばう。黒姫は夫の高山彦に同意を求めようとするが、高山彦も青彦たちに対して懐疑的なため、黒姫と喧嘩になり、高姫にたしなめられる。
そこへ、寅若に連れられて梅公たちが入ってきた。黒姫は首尾を尋ねるが、梅公たちははぐらかしてはっきり答えない。高姫が、青彦たちは三五教へ返ったのだろう、と問うと、ようやく梅公はその事実を認めた。
それを聞くと高姫はさっさとフサの国へ帰ろうと、鳥船指して由良の港へ走って出て行ってしまった。
高山彦は、このままでは高姫に合わせる顔がないと、世継王山に単身乗り込んで、玉照姫を奪おうと駆け出した。黒姫も高山彦の後に続いた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-03-30 17:14:07 OBC :rm1902
愛善世界社版:19頁 八幡書店版:第4輯 35頁 修補版: 校定版:19頁 普及版:7頁 初版: ページ備考:
001 (あし)()(すき)夏草(なつくさ)の、002生茂(おひしげ)りたる魔窟(まくつ)(はら)003山時鳥(やまほととぎす)(かな)しげに、004()()(おも)ひの岩窟(いはや)(なか)005高姫(たかひめ)006高山彦(たかやまひこ)007黒姫(くろひめ)(さん)(にん)は、008(おく)一室(ひとま)鼎坐(ていざ)して、009紫姫(むらさきひめ)青彦(あをひこ)の、010消息(たより)如何(いか)にと()()たる。011(ころ)しもあれや梅公(うめこう)は、012(たつ)013(とび)二人(ふたり)(したが)へて、014(いき)せき()つて()(かへ)りきぬ。
015寅若(とらわか)『ヨオ、016梅公(うめこう)ぢやないか、017何処(どこ)()つて()たのだ。018(ひど)(かほ)(いろ)()()れして()ないぢやないか、019何時(いつ)快活(くわいくわつ)なお(まへ)似合(にあ)はず、020どこともなく(かげ)(うす)()えて仕方(しかた)がないワ』
021梅公(うめこう)『エヽ、022(なん)でもない、023(まへ)()(まく)ぢやないから柔順(おとな)しく()つて()ろ』
024 寅若(とらわか)ニタリ(わら)ひ、
025寅若(とらわか)『ヘン、026やられよつたな、027(すつぽん)(しり)をやられたと()はうか、028(うそ)月夜(つきよ)(かま)()かれたと()為体(ていたらく)029(また)(ちが)つたら梟鳥(ふくろどり)夜食(やしよく)(はづ)れたと()塩梅(あんばい)(しき)だな、030黒姫(くろひめ)さまもよい家来(けらい)をお()ちになつて仕合(しあは)せだワイ、031イヒヽヽヽ』
032梅公(うめこう)『エヽ喧敷(やかまし)()ふな、033其処(そこ)退()け、034ソンナ(せま)入口(いりぐち)貴様(きさま)()つて()ては這入(はい)(こと)出来(でき)やしないワ』
035寅若(とらわか)『ハヽヽヽ、036可成(なるべく)這入(はい)らぬが()からうぜ、037()注進(ちうしん)申上(まをしあ)げるや(いな)形勢(けいせい)不穏(ふおん)038大地震(だいぢしん)でも勃発(ぼつぱつ)してみよ、039(この)岩窟(いはや)はガタガタだ。040(この)寅若(とらわか)()信任(しんにん)()いから駄目(だめ)だが、041(しか)紫姫(むらさきひめ)さまや、042青彦(あをひこ)さま、043それに(つい)梅公(うめこう)()たら(えら)いものだよ。044(ひと)今回(こんくわい)失敗(しつぱい)045(いや)046手柄話(てがらばなし)()かして(もら)はうかい、047何時(いつ)黒姫(くろひめ)()(くろ)いと仰有(おつしや)る、048間違(まちが)ひはあるまい、049(この)()一目(ひとめ)(にら)みたら(ちつ)とも(ちが)はぬと(あふ)せられるのだからなア、050アハヽヽヽ』
051(あご)をしやくつて入口(いりぐち)()(ふさ)がり、052きよくつた「きよくつた」は「曲(きょく)った」か? 「曲(きょく)る」とは、冷やかすとか、からかうという意味。やうな(わら)ひをする。053(おく)一室(ひとま)には高姫(たかひめ)054高山彦(たかやまひこ)055黒姫(くろひめ)(さん)(にん)056鳩首(きうしゆ)謀議(ぼうぎ)真最中(まつさいちう)なりける。
057高姫(たかひめ)『これ黒姫(くろひめ)さま、058紫姫(むらさきひめ)青彦(あをひこ)出立(しゆつたつ)してから、059もう(いつ)週間(しうかん)にもなるぢやありませぬか、060それに(いま)になつて、061(ねこ)(くしやみ)をしたとも、062()ンだ(はな)(つぶ)れたとも()便(たよ)りが()いぢやありませぬか、063貴女(あなた)のお眼識(めがね)(かな)つた(ばか)りか、064選抜(せんばつ)してお()りになつたのだから、065如才(じよさい)はありますまいが、066万一(まんいち)あつては大変(たいへん)だと()(かか)つてなりませぬワ』
067 黒姫(くろひめ)(やや)不安(ふあん)面持(おももち)にて、
068黒姫何分(なにぶん)突飛(とつぴ)談判(だんぱん)()つたものだから、069()つた()ンだと、070毎日(まいにち)問題(もんだい)(つぎ)から(つぎ)へと提出(ていしゆつ)され、071家庭(かてい)会議(くわいぎ)でも(ひら)いて連日(れんじつ)連夜(れんや)小田原(をだはら)評定(へうぢやう)(とき)(つひ)やして()るのでせう。072(はや)()るものは(やぶ)(やす)く、073(おそ)()るものは(やぶ)(がた)し、074大器(たいき)晩成(ばんせい)()つて(ひま)()(ほど)(みやく)があるのですよ、075(いち)(ねん)にすつと()びて(はな)()草木(さうもく)(あき)()れば(しほ)れて仕舞(しま)ひます。076(うめ)(さくら)077(もも)椿(つばき)などの喬木(けうぼく)になると、078()(ねん)(さん)(ねん)(はな)()かない(かは)りに、079(てん)()くやうに(その)(みき)成長(せいちやう)し、080毎年(まいねん)々々(まいねん)(はな)()く、081(わたし)眼識(めがね)(かな)つた紫姫(むらさきひめ)082青彦(あをひこ)(こと)ですから、083よもや寝返(ねがへ)りを()つと()(こと)はありますまい、084ナア高山彦(たかやまひこ)さま』
085高山彦(たかやまひこ)『サア、086(なん)とも保証(ほせう)(かぎ)りではないなア』
087 黒姫(くろひめ)088()(かど)()て、
089黒姫『エヽ(なん)仰有(おつしや)る、090高山彦(たかやまひこ)さま、091(あま)紫姫(むらさきひめ)や、092青彦(あをひこ)見損(みそこな)つてはいけませぬよ。093(まへ)さまの身魂(みたま)(むかし)鬼城山(きじやうざん)にあつて木常姫(こつねひめ)さまに(わる)(こと)(をし)へ、094今度(こんど)南高山(なんかうざん)宝取(たからと)りには道彦(みちひこ)(ため)大失敗(だいしつぱい)(えん)じ、095(いま)(また)ウラナイ(けう)(かへ)つてくると()身魂(みたま)だから、096ソンナ(かんが)へが()るのだよ、097自分(じぶん)(こころ)標準(へうじゆん)として青彦(あをひこ)紫姫(むらさきひめ)(こころ)測量(そくりやう)なさるとは、098(ちつ)残酷(ざんこく)()ふものだワ』
099 高山彦(たかやまひこ)(すこ)(こゑ)(たか)うして、
100高山彦(むかし)(むかし)(いま)(いま)ぢや、101身魂(みたま)経験(けいけん)()みて()()るから、102大概(たいがい)(ひと)(こころ)(そこ)はよく(わか)つて()る。103何時(いつ)(おれ)柔順(おとな)しくして不言(ふげん)実行(じつかう)主義(しゆぎ)()つて()れば、104貴様(おまへ)何時(いつ)(さき)()(なに)から(なに)(まで)105()いて()いて()(まは)し、106一言(ひとこと)()へば(ただ)ちに(まゆ)逆立(さかだ)鼻息(はないき)(あら)くし、107(くち)から(あわ)()ばすぢやないか、108(おれ)五月蠅(うるさ)いから何時(いつ)(だま)つて()るのだ。109今日(けふ)(さいは)高姫(たかひめ)(さま)(まへ)だから、110(おれ)(おも)つて()(こと)忌憚(きたん)なく吐露(とろ)したのだ』
111黒姫(くろひめ)『そりや(なに)()ひなさる、112貴方(あなた)(この)(いへ)主人(しゆじん)ぢやないか、113(わたし)()(こと)()くやうな素直(すなほ)身魂(みたま)ですかいな、114(なん)でも(かん)でも(ひと)(ひと)ケチをつけねば()かぬ因果(いんぐわ)身魂(みたま)だから』
115高山彦(たかやまひこ)今度(こんど)青彦(あをひこ)116紫姫(むらさきひめ)派遣(はけん)したのはお(まへ)発案(はつあん)だらう、117(その)(とき)(おれ)貴様(おまへ)剣呑(けんのん)だからそつと寅若(とらわか)でもつけてやつたら()うだと()うたぢやないか、118(その)(とき)貴様(おまへ)(くび)()り、119大変(たいへん)(すさ)びやうだつた、120アヽ、121(また)毎度(いつも)病気(びやうき)()(わい)(おも)つて辛抱(しんばう)して()たのだ。122此奴(こいつ)屹度(きつと)不成功(ふせいこう)123(いな)不成功(ふせいこう)のみならず、124青彦(あをひこ)125紫姫(むらさきひめ)三五教(あななひけう)間諜(まはしもの)だつたに(ちが)ひない』
126黒姫(くろひめ)(なに)()ひなさるのだい、127マア()()なされ、128屹度(きつと)(いま)(わか)る。129玉照姫(たまてるひめ)()れて青彦(あをひこ)(かへ)つて()ますよ。130()()れて(かへ)つて()なかつたら、131二度(にど)とお(まへ)さまにも高姫(たかひめ)さまにもお()にかかりませぬ(わい)なア』
132(あご)をしやくり、133上下(じやうげ)()ぐつ()みしめ、134(まへ)()()して()せける。135高山彦(たかやまひこ)はムツとしたか蠑螺(さざえ)のやうな拳骨(げんこつ)(かた)めて黒姫(くろひめ)横面(よこづら)(なぐ)らむとする。136スワ一大事(いちだいじ)高姫(たかひめ)(なか)()つて()り、
137高姫『ヤア()つた()つた、138(いぬ)()はぬ喧嘩(けんくわ)をすると()(こと)がありますか、139(ちつ)心得(こころえ)なさい。140(まへ)さま二人(ふたり)はウラナイ(けう)柱石(ちうせき)たる重要(ぢうえう)人物(じんぶつ)ぢやないか、141ソンナ(こと)(みな)(もの)教訓(しめし)出来(でき)ますか』
142黒姫(くろひめ)『ハイハイ、143左様(さやう)御座(ござ)います、144何分(なにぶん)(うち)のがヒヨツトコですから』
145高山彦(たかやまひこ)『こりや(くろ)146ヒヨツトコとは(なん)だ。147(おれ)がヒヨツトコなら貴様(おまへ)はベツトコだ』
148高姫(たかひめ)『コレコレ、149二人(ふたり)とも詔直(のりなほ)しだ詔直(のりなほ)しだ、150言霊(ことたま)をお(つつし)みなさらぬか』
151 ()かる(ところ)寅若(とらわか)先頭(せんとう)に、152(うめ)153(たつ)154(とび)(さん)(にん)(あら)はれ(きた)り、
155寅若(とらわか)黒姫(くろひめ)(さま)156(さん)(にん)の、157(わたくし)(かく)してのお使(つかい)(えら)(いきほひ)なくして(かへ)つて(まゐ)りました、158何卒(どうぞ)(くは)しくお()()(くだ)さいませ』
159黒姫(くろひめ)『お(まへ)梅公(うめこう)160辰公(たつこう)161鳶公(とびこう)162首尾(しゆび)()うだつたな、163紫姫(むらさきひめ)164青彦(あをひこ)(うま)くやつたらうなア?』
165梅公(うめこう)『ヘエヘエ、166流石(さすが)青彦(あをひこ)167紫姫(むらさきひめ)御座(ござ)います、168(うめ)いことをやつて、169(この)(さん)(にん)ぢやないが鳶辰(とびたつ)やうにトツト凱歌(がいか)(そう)して、170何々(なになに)(なに)(むか)つて(かへ)りましたワ』
171黒姫(くろひめ)『アヽ、172さうかさうか、173それは()苦労(くらう)であつた。174サア(はや)玉照姫(たまてるひめ)(さま)のお居間(ゐま)のお掃除(さうぢ)()し、175皆様(みなさま)御飯(ごはん)やお(さけ)用意(ようい)をして()きなさい』
176梅公(うめこう)『ヘイ、177()つから(その)必要(ひつえう)(みと)めませぬがなア』
178黒姫(くろひめ)『そりや梅公(うめこう)179(まへ)(なん)()(こと)()ふのぢや、180必要(ひつえう)(みと)めるの(みと)めないのと何故(なぜ)(わし)()(こと)()かないのかい、181これこれ辰公(たつこう)182鳶公(とびこう)183(まへ)()苦労(くらう)ぢやつた。184どうぞ(くは)しく高姫(たかひめ)さまの(まへ)で、185青彦(あをひこ)紫姫(むらさきひめ)さまの天晴(あつぱれ)功名(こうみやう)した(こと)()かして(くだ)さい』
186鳶公(とびこう)『エー、187もう(あま)りの(こと)申上(まをしあ)げます(こと)出来(でき)ませぬ』
188辰公(たつこう)(なん)()つても六日(むゆか)菖蒲(あやめ)189十日(とをか)(きく)190(なに)()ンだやら薩張(さつぱり)(かみ)(さま)()都合(つがふ)(いただ)いて()ました』
191寅若(とらわか)『アハヽヽヽ、192此奴(こいつ)余程(よほど)(よわ)つて()やがるな、193()都合(つがふ)()ふのは卑怯者(ひけふもの)適当(てきたう)遁辞(とんじ)だ。194モシモシ黒姫(くろひめ)さま、195こいつは屹度(きつと)ものにならなかつたのですよ、196(たこ)揚壺(あげつぼ)(くら)つて(かへ)つたとより()えませぬな』
197黒姫(くろひめ)『これ寅若(とらわか)198(まへ)(たれ)(もの)(たづ)ねたかい、199弥仙山(みせんざん)()つて失敗(しつぱい)をして(かへ)つて()たやうな(をとこ)だから、200今度(こんど)(こと)彼是(かれこれ)()ふお(まへ)には資格(しかく)がない、201一段(いちだん)()りて(には)()がつて其処(そこ)掃除(さうぢ)でもしなさい。202これこれ梅公(うめこう)(はや)()ひなさいよ』
203 梅公(うめこう)(ひだり)()(あたま)三遍(さんぺん)ばかりも、204つるつると()でながら、
205梅公(うめこう)『ハイ、206(わたくし)紫姫(むらさきひめ)207青彦(あをひこ)その()一行(いつかう)(あと)()(がく)れに監視(かんし)して(まゐ)りました。208さうした(ところ)流石(さすが)青彦(あをひこ)さま、209綾彦(あやひこ)(たみ)両人(りやうにん)(まへ)()して豊彦爺(とよひこぢい)をアツと()はせ、210ヤアお(まへ)綾彦(あやひこ)であつたか、211(たみ)であつたか、212ヤア(とと)さまか、213(かか)さまか、214(いもうと)か、215(あに)さまかと一場(いちぢやう)悲喜劇(ひきげき)(あら)はれ、216其処(そこ)平和(へいわ)女神然(めがみぜん)たる紫姫(むらさきひめ)さまが、217おチヨボ(ぐち)ぱつ(ひら)いて仰有(おつしや)るには、218何事(なにごと)(みな)(かみ)(さま)のなさる(こと)219豊彦(とよひこ)さまも()うして若夫婦(わかふうふ)(かへ)つて御座(ござ)つた以上(いじやう)は、220(かみ)(さま)()恩返(おんがへ)しにお(たま)さま(はじ)め、221玉照姫(たまてるひめ)(さま)(かみ)(さま)(たてまつ)らねばなりますまいと、222さも流暢(りうちやう)(べん)談判(かけあひ)になりますと、223豊彦爺(とよひこぢい)は、224(よろこ)ぶの(よろこ)ばないのつて、225(くび)滅多(めつた)矢鱈(やたら)()つて()つて()りさがし、226千切(ちぎ)れはせぬかと(おも)(ほど)首肯(うなづ)いて、227仕舞(しまひ)(はて)にはドンと尻餅(しりもち)()き、228()(まは)しかけました。229マアさうして(ぢい)()ふのには、230アヽ結構(けつこう)(こと)だ、231(うれ)しい(とき)には欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)232()()(あし)()(ところ)()らずと()(こと)だが、233(わし)(あま)(うれ)しくて()のまひ、234(いへ)のまひ、235身体(からだ)()(ところ)()らずぢや、236()ひまして、237それはそれは大変(たいへん)(よろこ)びましたよ。238あれ(くらゐ)(よろこ)びた(こと)(うま)れてから()(こと)も、239()いた(こと)もありませぬワ』
240黒姫(くろひめ)『アヽ、241さうだらうさうだらう、242(よろこ)びたらうな、243これ高山(たかやま)さまどうですかい、244これでも文句(もんく)がありますかい、245高姫(たかひめ)さま、246もうこれで、247(おほ)きな(かほ)本山(ほんざん)(かへ)つて(もら)はうと(まま)ですワイ、248オホヽヽヽ、249サア(その)(つぎ)梅公(うめこう)()ひなさい、250(またた)(ひま)()(どほ)しいやうな心持(こころもち)がする』
251梅公(うめこう)『サア、252これから(さき)時間(じかん)問題(もんだい)ですな、253()はぬ(はう)(かへ)つて先楽(さきたの)しみで(よろ)しからう。254オイ(とび)255(たつ)256貴様(きさま)(ちつ)()はぬかい』
257辰公(たつこう)『ヘン、258よい(ところ)ばつかり()つて糟粕(かす)ばつかり(ひと)()はさうと(おも)つたつて駄目(だめ)だよ、259貴様(きさま)報告(はうこく)した(あと)に……サアサア(その)(つぎ)諄々(じゆんじゆん)()()()(ところ)申上(まをしあ)げてお目玉(めだま)頂戴(ちやうだい)するのだな』
260梅公(うめこう)『エヽ(なに)()大将(たいしやう)になると責任(せきにん)(おも)い、261エイエイ仕方(しかた)がない、262ソンナラ(わたくし)申上(まをしあ)げます、263黒姫(くろひめ)さま喫驚(びつくり)なさいますな』
264黒姫(くろひめ)(なに)喫驚(びつくり)するものか、265喫驚(びつくり)するのは高山(たかやま)さまぢや、266(あま)(うれ)しいて喫驚(びつくり)する(もの)と、267(あま)阿呆(あはう)らしくて()はす(かほ)がなくて喫驚(びつくり)する(もの)出来(でき)ませうぞい』
268梅公(うめこう)『エヽ、269紫姫(むらさきひめ)270青彦(あをひこ)はお(たま)271玉照姫(たまてるひめ)(さま)()れて意気(いき)揚々(やうやう)と、272吾々(われわれ)何々(なになに)し、273何々(なになに)何々(なになに)何々(なになに)して仕舞(しま)ひました』
274黒姫(くろひめ)『これ梅公(うめこう)275アタもどかしい、276(はや)()はぬかいナ、277いつ(まで)(わし)()らすのだい』
278梅公(うめこう)『イエイエ、279(けつ)して()らすのぢやありませぬ、280()らすのですよ、281()らず()らずの()無礼(ぶれい)()気障(きざはり)282()らぬ(かみ)(たた)りなし、283どうぞ(わたくし)だけは今日(けふ)(ところ)帳外(ちやうはづ)れにして(くだ)さいませ』
284黒姫(くろひめ)怪体(けつたい)(こと)()ふぢやないか、285さうして青彦(あをひこ)一行(いつかう)はいつ(かへ)つて()るのだい』
286梅公(うめこう)『それはいつになるとも判然(はつきり)(こた)へが出来(でき)ませぬなア、287(これ)矢張(やつぱり)(とき)(ちから)でせう』
288高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)さま、289青彦(あをひこ)(はじ)め、290紫姫(むらさきひめ)三五教(あななひけう)(かへ)つたのですよ』
291梅公(うめこう)『マア マア、292高姫(たかひめ)さまの天眼力(てんがんりき)にて()観察(くわんさつ)(とほ)り、293(まこと)(もつ)てお()(どく)千万(せんばん)294青彦(あをひこ)295紫姫(むらさきひめ)(その)()(とも)グレンをやりました。296今頃(いまごろ)世継王(よつわう)(ざん)(ふもと)(いは)(ざけ)でも()みて()るでせう』
297(あたま)(かか)小隅(こすみ)にすくみける。
298黒姫(くろひめ)『エヽソンナ青彦(あをひこ)ぢやない、299(また)紫姫(むらさきひめ)紫姫(むらさきひめ)ぢや、300三五教(あななひけう)()くなぞと、301そりや大方(おほかた)(ふく)守護神(しゆごじん)()かしに()つたのだらう、302屹度(きつと)(もど)つて()確信(かくしん)がある』
303高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)さま、304もう駄目(だめ)だ。305高山彦(たかやまひこ)さま、306(まへ)さまも立派(りつぱ)(おく)さまを()つて()満足(まんぞく)でせう、307この(いそが)しいのに(なが)らく逗留(とうりう)してお邪魔(じやま)をしました。308エライ馬鹿(ばか)()せて(くだ)さいましたナ、309アーア、310(しか)しこれも(なに)かの()都合(つがふ)だ。311左様(さやう)なら、312(かへ)ります』
313高山彦(たかやまひこ)『どうぞ(わたくし)()れて(かへ)つて(くだ)さい』
314高姫(たかひめ)『お(まへ)さまの勝手(かつて)になされ、315黒姫(くろひめ)さまを大切(たいせつ)にお(まも)りなさるがお(とく)だらう、316左様(さやう)なら』
317と、318大勢(おほぜい)()むるをも()かず、319(ひたい)青筋(あをすぢ)()て、320(えら)気色(けしき)(おもて)へかけ()し、321(つる)322(かめ)(きた)れと二人(ふたり)(ともな)魔窟(まくつ)(はら)驀地(まつしぐら)に、323由良(ゆら)(みなと)()して(はし)()く。
324高山彦(たかやまひこ)『こりや大変(たいへん)
325捻鉢巻(ねぢはちまき)326七分(しちぶ)三分(さんぶ)(しり)からげ、327細長(ほそなが)いコンパスに(あぶら)をかけ、328()()さうとする。329黒姫(くろひめ)はグツと(たもと)(にぎ)り、
330黒姫(くろひめ)高山(たかやま)さま、331血相(けつさう)()へて何処(どこ)へお(いで)るのだえ』
332高山彦(たかやまひこ)(きま)つた(こと)だ。333肝腎(かんじん)玉照姫(たまてるひめ)(まを)すに(およ)ばず、334青彦(あをひこ)335紫姫(むらさきひめ)(まで)三五教(あななひけう)()られて、336どうして高姫(たかひめ)さまに申訳(まをしわけ)()つか、337(これ)より(この)高山彦(たかやまひこ)世継王(よつわう)(ざん)悦子姫(よしこひめ)(やかた)にかけ()み、338玉照姫(たまてるひめ)小脇(こわき)にヒン()(かへ)らで()かうか、339愚図(ぐづ)々々(ぐづ)(いた)せば高姫(たかひめ)さまは飛行機(ひかうき)()つてフサ(くに)へお(かへ)りだ、340それ(まで)玉照姫(たまてるひめ)(さま)()()れてお(わび)をせにやならぬ、341邪魔(じやま)ひろぐな』
342蹶飛(けと)ばし、343突飛(つきと)ばし、344一生(いつしやう)懸命(けんめい)にかけ()したり。345黒姫(くろひめ)(こゑ)(かぎ)りにオーイオーイと(かみ)()(みだ)し、346(おび)()きずり(なが)高山彦(たかやまひこ)(あと)()ひ、347(あし)(まか)せて(はし)()く。
348大正一一・五・六 旧四・一〇 加藤明子録)
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