霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 変態(へんたい)動物(どうぶつ)〔六五六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第3篇 至誠通神 よみ(新仮名遣い):しせいつうしん
章:第11章 変態動物 よみ(新仮名遣い):へんたいどうぶつ 通し章番号:656
口述日:1922(大正11)年05月08日(旧04月12日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
館の中では、松姫とお節が火鉢を囲んでお陰話にふけっていた。やがて話の内容は、三五教とウラナイ教の違いに移って行く。
神素盞嗚大神の真意を伝えようとするお節だが、松姫はかたくなに変性男子への信仰を貫こうとする。
そこへ熊彦、虎彦が、三五教の馬公と鹿公を虐待して追い払ったことを、注進にやってきた。
松姫はそれを聞くと、うつむいてしまった。お節が熊彦(熊公)と虎彦(虎公)の行為を咎めると、二人は逆にお節を非難した。
しかし松姫は、二人に馬公と鹿公にお詫びをして、ここに連れてくるように、と命じた。熊彦と虎彦は不承不承に門を出て鹿公と馬公を探しに出た。
熊彦と虎彦は、仕方なく森の向こうにいる隆靖彦、隆光彦、馬公、鹿公のところまで行って、同道を懇願した。
熊彦と虎彦は謝罪の念を表すために、四足で歩いて戻ってくる。馬公と鹿公も同じく四足でついていった。隆靖彦、隆光彦は門外に姿を消した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-08 18:36:04 OBC :rm1911
愛善世界社版:176頁 八幡書店版:第4輯 95頁 修補版: 校定版:179頁 普及版:81頁 初版: ページ備考:
001 書院造(しよゐんづく)りのこつてりとした、002(あま)装飾(さうしよく)(ほどこ)して()瀟洒(せうしや)たる建物(たてもの)(なか)に、003三十路(みそぢ)()えた一人(ひとり)(をんな)と、004二十(はたち)前後(ぜんご)(やさ)しい(をんな)005(きり)丸火鉢(まるひばち)(なか)ひそひそと(なに)(ささや)(ばなし)(はじ)めて()る。
006(せつ)松姫(まつひめ)(さま)007(はる)景色(けしき)宜敷(よろし)御座(ござ)いますが、008かう薄雪(うすゆき)(たま)つた四方(よも)八方(やも)景色(けしき)009この(こけ)()した(には)から見渡(みわた)(とき)(うつく)しさは(また)格別(かくべつ)御座(ござ)いますな。010満目(まんもく)(みな)(ぎん)(むしろ)()()めたやうに、011それへ日輪(にちりん)(さま)()(ひかり)宿(やど)つてきらきらと反射(はんしや)して()(ところ)(まる)(たま)()()めたやうですなア、012荒金(あらがね)(つち)()守護(しゆご)(あそ)ばす(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)大御心(おほみこころ)は、013(この)景色(けしき)のやうに一点(いつてん)(ちり)もなく(けが)れもなく、014(じつ)瑞々(みづみづ)しい御霊(みたま)御座(ござ)いませう』
015松姫(まつひめ)左様(さやう)です、016(この)(ゆき)野辺(のべ)(なが)めますと、017(わらは)(たち)(こころ)(まで)018すがすがしうなつて()ます。019貴女(あなた)のお(くに)(この)(へん)とは(ちが)つて(ゆき)(ふか)く、020今頃(いまごろ)(さぞ)綺麗(きれい)(こと)御座(ござ)いませう、021何事(なにごと)天地(てんち)(あは)(かがみ)()つて、022国魂(くにたま)(きよ)(ところ)(また)それ相当(さうたう)(きよ)(うつく)しい景色(けしき)天地(てんち)自然(しぜん)(ゑが)()されるものです、023(わたくし)一度(いちど)比沼(ひぬ)真名井(まなゐ)(うづ)宝座(ほうざ)参拝(さんぱい)したいと(おも)つて()ますが、024何分(なにぶん)大任(たいにん)()はされて()ますので、025(いち)(にち)(やかた)をあけて()(わけ)にもゆかず、026(じつ)(かみ)(さま)のお(みち)(ひろ)いやうで、027窮屈(きうくつ)なもので御座(ござ)います。028(せつ)さま、029貴女(あなた)はこの(なつ)(はじ)め、030魔窟(まくつ)(はら)黒姫(くろひめ)さまの(はう)へお()しになつて以来(いらい)031(にはか)にお(こころ)(がは)りがして三五教(あななひけう)後戻(あともど)りをなさつたさうぢやが、032三五教(あななひけう)とウラナイ(けう)()(ちが)ひますか』
033(せつ)『ハイ(まこと)にお(はづ)かしい(こと)御座(ござ)います、034(こころ)にちつとも根締(ねじ)めが()いものですから、035(かぜ)のまにまに()ぶられて、036つい彼方(あちら)此方(こちら)迂路(うろ)つき(まは)りました。037(しか)(なが)何方(どちら)(をしへ)(じつ)結構(けつこう)だと(おも)ひます、038(かみ)(さま)(もと)一株(ひとかぶ)039三五教(あななひけう)だとかウラナイ(けう)だとか、040名称(めいしよう)()かれて()りますが、041尊敬(そんけい)する(まこと)(かみ)(さま)()つとも(かは)りはありませぬ、042(ただ)(をしへ)(つた)ふる人々(ひとびと)解釈(かいしやく)浅深(せんしん)広狭(くわうけふ)(べつ)があるのみです。043(しか)(なが)人間(にんげん)(いた)しましては何事(なにごと)(かみ)(さま)にお(まか)せするより仕方(しかた)がありませぬ、044(この)()をお(つく)(あそ)ばして人民(じんみん)昼夜(ちうや)区別(くべつ)なくお(まも)(くだ)さる(かみ)(さま)(ねん)じさへすればよいのです、045(をしへ)高遠(かうゑん)だとか、046浅薄(せんぱく)だとか()ふのは人間(にんげん)解釈(かいしやく)如何(いかん)によるので、047(かみ)(さま)()自身(じしん)(たい)しては(なん)関係(くわんけい)()からうと(おも)ひます』
048松姫(まつひめ)(その)(かんが)へなれば何故(なぜ)ウラナイ(けう)へお()でになりましたか、049貴女(あなた)()主人(しゆじん)はいまだに三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(つと)めて()られるのではありませぬか。050二世(にせ)(ちぎ)夫婦(めをと)(なか)()みてゆく(みち)(たが)へば(にく)(あらそ)ふ」と()道歌(だうか)がありましたねエ、051(をつと)(ひがし)(つま)西(にし)へと()ふやうな信仰(しんかう)のやり(かた)はちと(かんが)へものですよ、052信仰(しんかう)(みち)(こと)にする(とき)屹度(きつと)家内(かない)(をさ)まりますまい、053夫唱(ふしやう)婦従(ふじゆう)()うて(をんな)(をつと)(したが)ふべきものたる以上(いじやう)054青彦(あをひこ)さまの(ほう)(たま)三五教(あななひけう)信奉(しんぽう)なさつた(はう)が、055()家庭(かてい)()めよいぢやありませぬか、056(ただし)青彦(あをひこ)さまを貴女(あなた)(ほう)ずるウラナイ(けう)帰順(きじゆん)させるとか、057どちらか(ひと)つの(みち)にお()めなさつたらどうでせう』
058(せつ)(じつ)(ところ)(わたくし)がこれへ(まゐ)りましたのは、059貴女(あなた)()いて(もら)()(こと)があるからで御座(ござ)います、060貴女(あなた)三五教(あななひけう)のどの(てん)(わる)いと思召(おぼしめ)すか』
061松姫(まつひめ)(べつ)(わたくし)としては彼是(かれこれ)申上(まをしあ)げるだけの権利(けんり)知識(ちしき)もありませぬ。062(しか)(なが)(いま)三五教(あななひけう)変性(へんじやう)女子(によし)御霊(みたま)混入(こんにふ)して、063変性(へんじやう)男子(なんし)(をしへ)にない種々(しゆじゆ)のものが輸入(ゆにふ)されて()りますから、064(この)(まま)にして()けば折角(せつかく)男子(なんし)()苦労(くらう)(みづ)(あわ)になつて、065天下(てんか)国家(こくか)(ため)由々敷(ゆゆしき)一大事(いちだいじ)と、066男子(なんし)系統(ひつぽう)高姫(たかひめ)さまが()心配(しんぱい)(あそ)ばし、067()むを()ずウラナイ(けう)をお()てなさつたのですから、068ならう(こと)なら三五教(あななひけう)方々(かたがた)(ひと)(かんが)(なほ)して(いただ)いて、069本当(ほんたう)(をしへ)()てて(もら)()いものです』
070(せつ)変性(へんじやう)女子(によし)御霊(みたま)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(さま)(をしへ)はお()()らぬのですか』
071松姫(まつひめ)(なん)だか(むし)()きませぬ、072どこかに物足(ものた)らぬ(ところ)があるやうで御座(ござ)います、073合縁(あひえん)奇縁(きえん)()うて信仰(しんかう)(みち)にも(むき)074不向(ふむき)がありましてな』
075(せつ)『さう(いた)しますと貴女(あなた)(この)(ごろ)高姫(たかひめ)(さま)や、076黒姫(くろひめ)(さま)()意中(いちう)はお(わか)りになつて()ないのですか』
077松姫(まつひめ)『イヤ、078うすうす承知(しようち)(いた)して()ります、079()うかするとお二人(ふたり)(さま)(あや)しくなつて()ました、080やがて三五教(あななひけう)へお(かへ)りになるのでせう、081(しか)(なが)(わたくし)としては、082さうくれくれと(てのひら)(かへ)したやうに軽々(かるがる)しく、083(わが)精神(せいしん)玩弄物(おもちや)にする(こと)出来(でき)ませぬ』
084(せつ)『さうすると貴女(あなた)師匠(ししやう)(あふ)高姫(たかひめ)(さま)や、085黒姫(くろひめ)(さま)()命令(めいれい)でもお()きなさらぬお(かんが)へですか』
086松姫(まつひめ)仮令(たとへ)高姫(たかひめ)さまが顛覆(てんぷく)なされても、087(わたくし)最後(さいご)一人(ひとり)になる(ところ)(まで)ウラナイ(けう)()てて()きます。088師匠(ししやう)大切(たいせつ)だがお(みち)大切(たいせつ)です、089(みち)大事(だいじ)か、090師匠(ししやう)大切(たいせつ)か、091よく(かんが)へて御覧(ごらん)なさい、092それだと(まを)して師匠(ししやう)(そむ)くと()(こころ)(つゆ)(ほど)()ちませぬが、093()むを()ない場合(ばあひ)には矢張(やつぱり)本末(ほんまつ)自他(じた)公私(こうし)区別(くべつ)(あきら)かにするため、094ウラナイ(けう)孤城(こじやう)死守(ししゆ)する(かんが)へで御座(ござ)います』
095(せつ)『さう()きますと貴女(あなた)何処迄(どこまで)もお(かた)いのですなア』
096松姫(まつひめ)(いは)にさへも姫松(ひめまつ)()える(ためし)がある。097一心(いつしん)(まこと)(いは)でも射貫(いぬ)くと()ひます。098(わたくし)鉄石心(てつせきしん)如何(いか)なる砲火(はうくわ)威力(ゐりよく)(うご)かす(こと)出来(でき)ますまい、099これが(わたくし)唯一(ゆゐいつ)生命(せいめい)ですから(たれ)(なん)()つてもビクとも(いた)しませぬよ。100(やり)でも鉄砲(てつぱう)でも梃子(てこ)でも(ぼう)でも、101いつかな いつかな(うご)くやうな脆弱(ぜいじやく)御魂(みたま)ぢやありませぬ、102そんな動揺(ぐらぐら)するやうな信仰(しんかう)なら(はじ)めからしない(はう)がよろしい、103(せつ)さまが(わたくし)(たい)して何程(なにほど)婉曲(ゑんきよく)熱心(ねつしん)にお(すす)(くだ)さつても駄目(だめ)ですから、104何卒(どうぞ)(これ)(かぎ)()親切(しんせつ)有難(ありがた)()けますが、105もう()つて(くだ)さいますな。106(ひと)柔順(じうじゆん)忍耐(にんたい)(まこと)さへ徹底(てつてい)(てき)(まも)つて()れば(かみ)(さま)(まも)つて(くだ)さいます。107教派(けうは)如何(いかん)にかかはるものぢやありませぬ』
108 ()二人(ふたり)(はな)(をり)しも、109(あわ)ただしく()(きた)門番(もんばん)熊彦(くまひこ)110虎彦(とらひこ)二人(ふたり)
111(くま)112(とら)松姫(まつひめ)(さま)申上(まをしあ)げます、113只今(ただいま)大変(たいへん)(こと)出来(しゆつたい)(いた)しました、114それはそれは、115小気味(こきみ)よい大勝利(だいしようり)です、116何卒(どうぞ)(よろこ)(くだ)さいませ』
117松姫(まつひめ)『オヽお(まへ)熊公(くまこう)虎公(とらこう)さま、118エライ血相(けつさう)をして(あわた)だしく何事(なにごと)ですか』
119虎彦(とらひこ)貴方(あなた)御存(ごぞん)じの(とほ)り、120ウラナイ(けう)()(うへ)瘤仇敵(こぶがたき)121素盞嗚(すさのをの)(みこと)悪神(あくがみ)(をしへ)(ほう)ずる三五教(あななひけう)木端(こつぱ)武者(むしや)122(うま)123鹿(しか)()馬鹿面(ばかづら)した二人(ふたり)(やつ)がやつて()まして、124御免(ごめん)とも(なん)とも()はず、125(くぐ)(もん)(ひら)き、126吾々(われわれ)門番(もんばん)無断(むだん)で、127すつ(おく)(とほ)らうと(いた)します。128貴女(あなた)今迄(いままで)仰有(おつしや)つたでせう、129三五教(あななひけう)連中(れんちう)()たら、130一人(ひとり)たりとも(とほ)してはならぬ、131追払(おつぱら)へとの(あふ)せ、132(また)魔窟(まくつ)(はら)黒姫(くろひめ)さまのやうな馬鹿(ばか)()()つてはならないからと仰有(おつしや)つたのを、133我々(われわれ)(その)言葉(ことば)夢寐(むび)にも(わす)れず、134今日(けふ)(まで)よく(まも)り、135表門(おもてもん)厳重(げんぢう)(かた)めて()りました。136其所(そこ)へヌクヌクとやつて()て、137(もん)四足(よつあし)だの、138吾々(われわれ)四足(よつあし)身魂(みたま)だのと嘲弄(てうろう)するものですから、139エイ猪口才(ちよこざい)な、140礼儀(れいぎ)()らぬ畜生(ちくしやう)め、141畜生(ちくしやう)なら畜生(ちくしやう)相当(さうたう)制裁(せいさい)(くは)へてやらうと()うて、142吾々(われわれ)両人(りやうにん)六尺棒(ろくしやくぼう)(もつ)(あたま)()()つガンとやつた(ところ)143(くち)(ほど)にもない腰抜(こしぬ)野郎(やらう)144荒肝(あらぎも)(ひし)がれ、145大地(だいち)蛙踞(かへるつくばひ)になりめそめそと吠面(ほえづら)かわいて()る、146エヽ(この)(たふと)神門(しんもん)無断(むだん)(とほ)り、147(あま)つさへ(もん)(さま)四足(よつあし)だのと(ほざ)いた(うへ)148(なみだ)大地(だいち)(こぼ)して霊場(れいぢやう)(けが)しよつたので、149つい勇猛心(ゆうまうしん)発揮(はつき)して断行(だんかう)しました』
150松姫(まつひめ)『それは乱暴(らんばう)(こと)をなさつたものだ、151(たれ)がそんな(こと)をせいと()ひましたか、152これ熊公(くまこう)153真実(ほんと)にお(まへ)(たち)154虎公(とらこう)()ふやうな(こと)をしたのかい』
155熊彦(くまひこ)『ヘエヘエ、156そんな(こと)(どころ)ですか、157(あま)業腹(ごふばら)()つので(しり)をひん()くり、158虎公(とらこう)二人(ふたり)159両人(りやうにん)臀部(でんぶ)をエヽこの柔道(じうだう)百段(ひやくだん)腕拳(うでこぶし)(かた)めて、160(あを)くなる(ところ)まで(たた)いてやりました、161(その)(とき)(ざま)つたら(じつ)滑稽(こつけい)でしたよ』
162松姫(まつひめ)(その)二人(ふたり)(かた)()うなつたのかい』
163熊彦(くまひこ)『ヘエ、164(その)二人(ふたり)ですか、165イヤ二匹(にひき)畜生(ちくしやう)ですか、166(もん)(そと)追放(おつぽ)()され、167めそめそと(をんな)(くさ)つたやうに()きついて愁歎場(しうたんば)一幕(ひとまく)(えん)じて()ました。168()節穴(ふしあな)より(のぞ)いて()ましたら(じつ)(あは)れなものでした、169イヤ気味(きみ)のよい、170溜飲(りういん)()がるやうでした。171アヽ大変(たいへん)(ほね)()つてウラナイ(けう)爆裂弾(ばくれつだん)未発(みはつ)(ふせ)()たのは、172(まつた)大神(おほかみ)(さま)広大(くわうだい)無辺(むへん)()神力(しんりき)(まを)すに(およ)ばず、173吾々(われわれ)両人(りやうにん)愛教(あいけう)大精神(だいせいしん)発露(はつろ)御座(ござ)います、174何卒(どうぞ)何分(なにぶん)何々(なになに)何々(なになに)して(くだ)さいますれば吾々(われわれ)益々(ますます)神恩(しんおん)(かたじ)けなみ、175層一層(そういつそう)厳格(げんかく)御用(ごよう)(つと)めます』
176松姫(まつひめ)竜若(たつわか)受付(うけつけ)(だま)つて()()たのかい』
177熊公(くまこう)指揮(しき)をなさつたでもなく、178なさらぬでもなし、179(わる)()へば瓢鯰(へうねん)(しき)ですな、180(しか)(なが)吾々(われわれ)(たい)一部(いちぶ)声援(せいゑん)(あた)へて()れましたから、181(その)功績(こうせき)矢張(やつぱり)等分(とうぶん)()差支(さしつかへ)()からうと(おも)ひます、182ヘエヘエいやもうエライ活動(くわつどう)(いた)しました』
183 松姫(まつひめ)184(ひざ)()()き、185(うつ)むいて何事(なにごと)(かんが)へて()る。
186(せつ)熊公(くまこう)187虎公(とらこう)188(いま)(うけたま)はれば三五教(あななひけう)馬公(うまこう)鹿公(しかこう)()えたやうですが、189真実(ほんと)(その)(やう)手荒(てあら)(こと)をなされましたのか、190ウラナイ(けう)時々(ときどき)乱暴(らんばう)(こと)をする(ひと)(あら)はれますな、191(けつ)して大神(おほかみ)(さま)はお(よろこ)びなされますまい』
192虎彦(とらひこ)『オイお(せつ)193(なに)(ぬか)しやがるのだ、194貴様(きさま)(ねこ)()たやうな(やつ)だ、195(うま)口先(くちさき)松姫(まつひめ)(さま)をチヨロマカしよつて、196(その)(うへ)(うま)197鹿(しか)畜生(ちくしやう)内外(ないぐわい)相応(あひおう)じ、198(この)(やかた)根底(こんてい)から顛覆(てんぷく)させようと仕組(しぐ)んで()るのだらう、199そんな(こと)貴様(きさま)()(とき)からチヤンと看破(かんぱ)して()るのだ、200貴様(きさま)(ついで)睾丸(きんたま)(にぎ)つて門外(もんぐわい)追放(おつぽ)()してやらうか』
201熊彦(くまひこ)『アハヽヽヽ(をんな)睾丸(きんたま)とは(いま)()(はじ)めだ、202そりや虎公(とらこう)貴様(きさま)肝玉(きもだま)間違(まちが)ひだないか』
203虎彦(とらひこ)『ちつと(くらゐ)(ちが)つたつて、204ゴテゴテ()ふな、205(きん)(きも)だけの間違(まちが)ひだ、206元来(ぐわんらい)(もん)から(おこ)つたもん(だい)だから、207(きも)(きん)言霊(ことたま)()(なほ)したのだ。208それだからお(せつ)守護神(しゆごじん)(おれ)がいつも、209きんもう九尾(きうび)悪神(わるがみ)()うたぢやないか、210アハヽヽヽ』
211松姫(まつひめ)『コレ虎公(とらこう)熊公(くまこう)212馬公(うまこう)鹿公(しかこう)とやらによくお(わび)をして(わたし)居間(ゐま)へお(むか)(まを)して()るのだよ、213本当(ほんたう)仕方(しかた)のない(をとこ)だなア』
214虎彦(とらひこ)『ヘエ、215(なん)仰有(おつしや)います、216あの(やう)爆裂弾(ばくれつだん)()れて()いと仰有(おつしや)るのですか、217貴女(あなた)(この)(ごろ)はちつと(へん)だと(おも)うて()ましたが、218矢張(やつぱり)脱線(だつせん)しとりますなア』
219松姫(まつひめ)『ごてごて()はいでも宜敷(よろし)い、220(むか)へてお()でなさいと()うたら(むか)へてお(いで)なさい。221熊公(くまこう)一緒(いつしよ)()くのだよ』
222 両人(りやうにん)は『ヘエ』と(いや)さうな返事(へんじ)(この)()()()(ちから)()げに表門(おもてもん)にやつて()た。
223竜若(たつわか)『オイ両人(りやうにん)224ちつと貴様(きさま)顔色(かほいろ)(へん)だないか、225一体(いつたい)どうしたのだい』
226虎彦(とらひこ)()うしたも()うしたもあつたもんかい、227(もん)から(だい)もん(だい)(おこ)つて我々(われわれ)(はん)もん苦悩(くなう)真最中(まつさいちう)だ。228本当(ほんたう)馬鹿(ばか)()()つて()たよ』
229熊彦(くまひこ)()つた、230もんだともん(ちやく)結果(けつくわ)この熊公(くまこう)今日(けふ)もんもんの(じやう)()(がた)しだ』
231竜若(たつわか)貴様(きさま)出方(でかた)(わる)いから、232()(かへ)しを(くら)つたのだよ』
233熊彦(くまひこ)(なに)234出方(でかた)至極(しごく)完全(くわんぜん)無欠(むけつ)寸毫(すんがう)欠点(けつてん)なしだが、235(なに)()うてもお(せつ)(やつ)236()がな(すき)がな松姫(まつひめ)籠絡(ろうらく)しきつて()やがるものだから、237松姫(まつひめ)さまの性格(せいかく)ガラリ一変(いつぺん)し、238いつもなら、239比丘尼(びくに)(なに)やらを()せたやうに()びついて(よろこ)ぶのだけれど、240どんな結構(けつこう)報告(はうこく)をしてもビクともしやがらぬのだ。241(おれ)やもうお(せつ)(つら)()ても(はら)()つのだ。242エヽ怪体(けつたい)(わる)い、243ケツ、244ケヽケ怪体(けつたい)(わる)くて(はらわた)でんぐり(がへ)(わい)245それにまだまだ(ごう)()くのは、246折角(せつかく)追放(おつぽ)()した(うま)247鹿(しか)両人(りやうにん)此処(ここ)丁寧(ていねい)にお(むか)(まを)せと(ぬか)しやがるのだもの、248薩張(さつぱり)(はなし)にならないのだ』
249虎彦(とらひこ)(あま)てれ(くさ)いから、250両人(りやうにん)(とつ)くの(むかし)()(かへ)りやがつて、251其辺(そこら)()なかつたと報告(はうこく)して()かうかい』
252竜若(たつわか)『そんな(こと)()つた(ところ)で、253()()したら(あと)()かぬ片意地(かたいぢ)松姫(まつひめ)大将(たいしやう)だ、254仮令(たとへ)(ひやく)()でも(せん)()でも(あと)()つかけて(うま)255鹿(しか)二人(ふたり)此処(ここ)()れて()いと頑張(ぐわんば)つて、256(おほ)きな(かみなり)でも(おと)しよつたらどうする、257屹度(きつと)さうお(いで)になるに(きま)つて()るよ、258(とら)259(くま)両人(りやうにん)乱暴(らんばう)したのだから貴様(きさま)(たう)責任者(せきにんしや)だ、260七重(ななへ)(ひざ)八重(やへ)()つて、261二人(ふたり)さま、262(なん)仰有(おつしや)つてもお(たの)(まを)して、263(むか)(まを)して(おん)大将(たいしやう)のお()(どほ)りへ実検(じつけん)(そな)(たてまつ)るのだよ』
264虎彦(とらひこ)『さうだと()うて、265まさかそんな阿呆(あはう)げた(こと)(しち)(しやく)男子(だんし)として出来(でき)るものかい』
266竜若(たつわか)『オイ、267(とら)268(くま)両人(りやうにん)269上官(じやうくわん)命令(めいれい)服従(ふくじゆう)せぬか』
270虎彦(とらひこ)『ヘン、271一寸(ちよつと)272上役風(うはやくかぜ)()かし(あそ)ばす(わい)273(しか)(なが)今度(こんど)事件(じけん)上官(じやうくわん)責任(せきにん)だからさう(おも)ひなさい、274我々(われわれ)(ただ)上官(じやうくわん)目色(めいろ)()てやつただけのものだ、275万々一(まんまんいち)吾々(われわれ)行動(かうどう)(たい)し、276不都合(ふつがふ)(てん)ありとみた(とき)は、277上官(じやうくわん)職権(しよくけん)(もつ)て、278制止(せいし)せなくてはならぬ(はず)だ』
279竜若(たつわか)『その責任(せきにん)はどこ(まで)(この)(はう)背負(せお)ふのは当然(たうぜん)だ、280ゴタゴタ()はずに(はや)謝罪(あやま)つて()い』
281熊彦(くまひこ)『オイ虎公(とらこう)282仕方(しかた)がないなア』
283不承(ふしやう)無精(ぶしやう)(くぐ)(もん)(ひら)き、284門外(もんぐわい)キヨロキヨロと見廻(みまは)して()る。285(はるか)(むか)ふの森蔭(もりかげ)(うま)286鹿(しか)両人(りやうにん)(はじ)め、287立派(りつぱ)女神(めがみ)二柱(ふたり)()つて()る。
288虎彦(とらひこ)『オイ熊公(くまこう)289何時(いつ)()にかなめくじりのやうにあんな(ところ)(まで)()つて()きやがつたぢやないか、290エヽ厄介(やくかい)(こと)(おこ)つたものぢや、291()うしようかなア』
292熊彦(くまひこ)()うしようも()うしようもあつたものぢやない、293謝罪(あやま)つてお(むか)へするより仕方(しかた)がないワ』
294虎彦(とらひこ)『それだと()うてあんな綺麗(きれい)美人(びじん)二人(ふたり)(そば)()つて()るぢやないか、295睾丸(きんたま)()げた(をとこ)が、296あんな綺麗(きれい)美人(びじん)(そば)謝罪(あやま)るなんて(をとこ)(かほ)全潰(まるつぶ)れだ、297(こま)つた(こと)だなア』
298熊彦(くまひこ)『エヽ、299()から()(さび)300誰人(だれ)()いて(もら)(わけ)にも()かず、301(はぢ)(しの)んで(まゐ)りませう、302サア虎彦(とらひこ)303(おれ)()いて()るのだよ』
304虎彦(とらひこ)本当(ほんたう)土竜(むぐらもち)になり()いワ、305せめて貴様(きさま)(あと)から(おれ)姿(すがた)(かく)して()かうかなア、306さうぢやと()うて貴様(きさま)より(おれ)(はう)()(たか)いから肝腎(かんじん)(かほ)(はう)()えるなり、307(こま)つた(こと)だ』
308熊彦(くまひこ)(いづ)(つら)()らされるのだ、309(しか)(いち)()(しの)ぎに(おれ)(あと)から、310(こし)(かが)めて()()るか、311邪魔臭(じやまくさ)ければ()(ばひ)になつて()いて()い、312さうすれば(しばら)くなりと(たす)かるだらう』
313 虎彦(とらひこ)熊彦(くまひこ)(あと)から()はぬ(ばか)りに()つぴり(ごし)をしながら()いて()く。
314熊彦(くまひこ)『モシモシ馬公(うまこう)鹿公(しかこう)315先刻(せんこく)(まこと)()無礼(ぶれい)(こと)(いた)しまして、316(なん)とも(かほ)(あは)しやうがありませぬ、317松姫(まつひめ)(さま)()命令(めいれい)(めん)(かぶ)つて(まゐ)りました』
318馬公(うまこう)『ハイ、319有難(ありがた)う、320吾々(われわれ)のやうな無礼者(ぶれいもの)に、321左様(さやう)鄭重(ていちよう)言葉(ことば)をお使(つか)(くだ)さつては(おそ)()ります、322貴方(あなた)背後(うしろ)()いて()(かげ)はなんで御座(ござ)いますか』
323熊彦(くまひこ)『これは(わたくし)影法師(かげぼうし)御座(ござ)います』
324馬公(うまこう)『お日様(ひさま)西(にし)(かがや)いて御座(ござ)るのに、325この影法師(かげぼうし)(みなみ)(はう)へさして()ますなア』
326熊彦(くまひこ)此奴(こいつ)高城山(たかしろやま)生擒(いけど)つた(とら)御座(ござ)います』
327虎彦(とらひこ)『オイ熊彦(くまひこ)328(あま)(ひと)馬鹿(ばか)(あつか)ひにするものぢやないぞ、329モシモシ(いま)(さへづ)つて()(やつ)は、330人間(にんげん)()えても此奴(こいつ)矢張(やつぱり)四足(よつあし)(くま)御座(ござ)います』
331熊彦(くまひこ)『エヽいらぬ(こと)()ふものぢやない(わい)332モシモシ馬公(うまこう)鹿公(しかこう)さん、333(わたくし)良心(りやうしん)(せめ)られて貴方(あなた)(まへ)()()るだけの勇気(ゆうき)がありませぬ、334(わび)のために(はぢ)(しの)んで四足(よつあし)になつて(まゐ)りました、335何卒(どうぞ)336神直日(かむなほひ)337大直日(おほなほひ)見直(みなほ)()(なほ)して(くだ)さいまして()機嫌(きげん)(なほ)し、338(おく)へお(とほ)(くだ)さいませ、339松姫(まつひめ)(さま)大変(たいへん)なお目玉(めだま)頂戴(ちやうだい)(いた)しました。340三五教(あななひけう)のお(せつ)さまも()つて()なさいます、341貴方(あなた)(がた)がお()(くだ)さらねば(わたくし)(たち)今日(けふ)(かぎ)(はな)(した)干上(ひあ)つがて仕舞(しま)ひます。342何卒(どうぞ)343(とら)一匹(いつぴき)344(くま)一匹(いつぴき)(たす)けると(おも)うてお這入(はい)(くだ)さいませ』
345馬公(うまこう)『ハイ、346有難(ありがた)う、347何卒(なにとぞ)宜敷(よろし)うお(ねが)(いた)します』
348鹿公(しかこう)()丁寧(ていねい)なお(むか)有難(ありがた)感謝(かんしや)(いた)します』
349 熊公(くまこう)(うま)350鹿(しか)頭部(とうぶ)()(そそ)ぎ、
351熊公『ヤア、352(つむり)大変(たいへん)()(なが)れて()ります、353どうなさいました』
354馬公(うまこう)『これは貴方(あなた)のお慈悲(じひ)(むち)御座(ござ)います』
355鹿公(しかこう)『これも矢張(やつぱり)356貴方(あなた)(がた)のお(なさけ)で、357結構(けつこう)なお(かげ)(いただ)きました』
358 (とら)359(くま)(これ)()くより、360大地(だいち)犬踞(いぬつくばひ)となり拳大(こぶしだい)(いし)(ひろ)ひ、361片手(かたて)(ささ)(なが)ら、
362虎彦、熊彦『モシ馬公(うまこう)鹿公(しかこう)さま、363何卒(どうぞ)(わたくし)にもこの(いし)をもつて(あたま)沢山(どつさり)(かげ)(いただ)かして(くだ)さいませ、364さうでなければ(おく)這入(はい)(こと)出来(でき)ませぬ、365何卒(どうぞ)(ねが)ひで御座(ござ)います』
366馬公(うまこう)『それは絶対(ぜつたい)になりませぬ』
367鹿公(しかこう)折角(せつかく)()懇望(こんまう)なれど、368これ(ばか)りは御免(ごめん)(かうむ)りませう』
369隆靖彦(たかやすひこ)(みな)さまの真心(まごころ)(あら)はれて(じつ)気分(きぶん)()()(いた)しました。370何事(なにごと)(かみ)(さま)思召(おぼしめ)しで御座(ござ)いませう』
371隆光彦(たかてるひこ)何事(なにごと)(この)()(こと)(わたくし)にお(まか)(くだ)さいませ、372松姫(まつひめ)(さま)がお()(かね)でせう、373サア何卒(どうぞ)()案内(あんない)して(くだ)さいませ』
374 熊彦(くまひこ)375虎彦(とらひこ)四這(よつば)ひになり、
376熊彦、虎彦『サアサア四足(よつあし)(あと)()いて()(くだ)さい、377()案内(あんない)(いた)しませう』
378馬公(うまこう)『そんな(こと)をなさるには(およ)ばぬぢやありませんか、379ナア鹿公(しかこう)さま』
380鹿公(しかこう)『ヘエ、381さうですとも、382()両人(りやうにん)さま、383何卒(どうぞ)()つて()案内(あんない)して(くだ)さいな』
384(とら)385(くま)何卒(どうぞ)386(もん)這入(はい)(まで)この(まま)にさし(ゆる)して(くだ)さいませ』
387馬公(うまこう)『アヽ仕方(しかた)がない、388そんなら(うま)鹿(しか)四足(よつあし)になつて()つて()かうかなア』
389二人(ふたり)(あと)四這(よつば)ひになつて()いて()く。
390 (くま)先頭(せんとう)(とら)391(うま)392鹿(しか)393四四十六(ししじふろく)(あし)変態(へんたい)動物(どうぶつ)表門(おもてもん)さして、394のそりのそりと()つて()く。
395隆靖彦(たかやすひこ)(なん)(まこと)()ふものは(えら)いものですなア』
396隆光彦(たかてるひこ)『ヤア(じつ)感心(かんしん)(いた)しました』
397感歎(かんたん)しながら()(どく)さうな(かほ)をして()(にん)(あと)をつけて()く。
398大正一一・五・八 旧四・一二 加藤明子録)
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