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霊界物語
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第61巻(子の巻)
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特別編 入蒙記
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第19巻(午の巻)
序
凡例
総説三十三魂
第1篇 神慮洪遠
01 高熊山
〔646〕
02 鶍の嘴
〔647〕
03 千騎一騎
〔648〕
04 善か悪か
〔649〕
第2篇 意外の意外
05 零敗の苦
〔650〕
06 和合と謝罪
〔651〕
07 牛飲馬食
〔652〕
08 大悟徹底
〔653〕
第3篇 至誠通神
09 身魂の浄化
〔654〕
10 馬鹿正直
〔655〕
11 変態動物
〔656〕
12 言照姫
〔657〕
第4篇 地異天変
13 混線
〔658〕
14 声の在所
〔659〕
15 山神の滝
〔660〕
16 玉照彦
〔661〕
17 言霊車
〔662〕
霊の礎(五)
余白歌
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> 第2篇 意外の意外 > 第5章 零敗の苦
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(B)
(N)
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第五章
零敗
(
ゼロはい
)
の
苦
(
く
)
〔六五〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻
篇:
第2篇 意外の意外
よみ(新仮名遣い):
いがいのいがい
章:
第5章 零敗の苦
よみ(新仮名遣い):
ぜろはいのく
通し章番号:
650
口述日:
1922(大正11)年05月07日(旧04月11日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫は、フサの国北山村のウラナイ教本部へと戻ってきた。魔我彦と蠑螈別はしきりに高姫に玉照姫の首尾を尋ねるが、高姫ははぐらかして鍵をかけて寝てしまう。
一同は、高姫の供をしていた鶴公と亀公に経緯を尋ねる。鶴公は、三五教の計略にかかって玉照姫を奪われてしまったことを明かす。
そこに高姫が現れる。魔我彦は弥仙山の失敗を慰める。高姫は誰がそのことをしゃべったのか問うと、鶴公は偽神がかりをやってごまかす。
そこへ、外に鳥船が着陸した物音が聞こえた。やってきたのは、黒姫、高山彦らの一行であった。高姫の機嫌を恐れてなかなか中に入れない間に、寅若は黒姫の失策を責め始める。
菊若は勇気を奮って中に入り、高姫に挨拶をした。高姫は亀公に一同を迎えにやらせた。一同揃って宴会を開き、ウラナイ教の本部は大乱脈の様相となった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-04-01 18:10:10
OBC :
rm1905
愛善世界社版:
61頁
八幡書店版:
第4輯 51頁
修補版:
校定版:
63頁
普及版:
27頁
初版:
ページ備考:
001
炎熱
(
えんねつ
)
火房
(
くわばう
)
に
坐
(
ざ
)
するが
如
(
ごと
)
く、
002
釜中
(
ふちう
)
に
在
(
あ
)
るが
如
(
ごと
)
き
酷暑
(
こくしよ
)
の
空
(
そら
)
、
003
雲路
(
くもぢ
)
を
別
(
わ
)
けて
降
(
くだ
)
り
来
(
く
)
る
一隻
(
いつせき
)
の
飛行船
(
ひかうせん
)
は、
004
フサの
国
(
くに
)
北山村
(
きたやまむら
)
のウラナイ
教
(
けう
)
が
本山
(
ほんざん
)
の
広庭
(
ひろには
)
に
無事
(
ぶじ
)
着陸
(
ちやくりく
)
したり。
005
魔我彦
(
まがひこ
)
、
006
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
音
(
おと
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
007
高姫
(
たかひめ
)
の
御
(
ご
)
帰館
(
きくわん
)
なりと、
008
取
(
と
)
るものも
取敢
(
とりあへ
)
ず、
009
表
(
おもて
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し
見
(
み
)
れば、
010
高姫
(
たかひめ
)
は
眼
(
まなこ
)
釣
(
つ
)
り、
011
得
(
え
)
も
謂
(
ゐ
)
はれぬ
凄
(
すさま
)
じき
形相
(
ぎやうさう
)
し
乍
(
なが
)
ら、
012
鶴
(
つる
)
、
013
亀
(
かめ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
014
船
(
ふね
)
より
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り、
015
高姫
『アヽ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
016
留守中
(
るすちう
)
大儀
(
たいぎ
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
017
別
(
べつ
)
に
変
(
かは
)
つた
事
(
こと
)
は
有
(
あ
)
りませなンだかな』
018
蠑螈別
『ハイ、
019
たいした
変
(
かは
)
りは
有
(
あ
)
りませぬが、
020
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
以前
(
いぜん
)
より、
021
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ
太白星
(
たいはくせい
)
の
様
(
やう
)
な
光
(
ひかり
)
を
発
(
はつ
)
した
光玉
(
くわうぎよく
)
、
022
夜半
(
やはん
)
の
頃
(
ころ
)
になると、
023
大音響
(
だいおんきやう
)
を
立
(
た
)
て、
024
庭前
(
ていぜん
)
に
落下
(
らくか
)
する
事
(
こと
)
屡
(
しばしば
)
で
有
(
あ
)
ります』
025
高姫
『それは
大変
(
たいへん
)
な
吉祥
(
きちしやう
)
だ。
026
併
(
しか
)
し
其
(
その
)
玉
(
たま
)
はどうなさつたか』
027
魔我彦
(
まがひこ
)
は
丁重
(
ていちよう
)
に
首
(
くび
)
を
下
(
さ
)
げ、
028
魔我彦
『
毎朝
(
まいあさ
)
早
(
はや
)
くより、
029
綿密
(
めんみつ
)
に
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
ましたが、
030
別
(
べつ
)
に
此
(
こ
)
れと
云
(
い
)
ふものも
落
(
おち
)
て
居
(
を
)
らず、
031
又
(
また
)
何
(
なん
)
の
形跡
(
けいせき
)
も
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
ませぬ』
032
高姫
『それは
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
だ。
033
いづれ
何
(
なに
)
か
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
るでせう』
034
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
の
出所
(
でどころ
)
は
分
(
わか
)
りましたか。
035
定
(
さだ
)
めて
良結果
(
りやうけつくわ
)
を
得
(
え
)
られたでせう。
036
万事
(
ばんじ
)
抜目
(
ぬけめ
)
も
無
(
な
)
いあなたの
事
(
こと
)
ですから、
037
大成功
(
だいせいこう
)
疑
(
うたがひ
)
なしと、
038
館内
(
くわんない
)
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
は
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
りを
今
(
いま
)
か
今
(
いま
)
かと
首
(
くび
)
を
長
(
なが
)
くして
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
ました。
039
どうぞ
早
(
はや
)
く
奥
(
おく
)
へお
這入
(
はい
)
り
下
(
くだ
)
さいまして、
040
結構
(
けつこう
)
な
御
(
お
)
土産話
(
みやげばなし
)
を、
041
一同
(
いちどう
)
に
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さいませ』
042
高姫
(
たかひめ
)
『………』
043
魔我彦
(
まがひこ
)
『コレコレ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
044
大切
(
たいせつ
)
な
神界
(
しんかい
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
、
045
玄関口
(
げんくわんぐち
)
で
尋
(
たづ
)
ねると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
046
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
沈黙
(
ちんもく
)
なさるも
当然
(
たうぜん
)
だ』
047
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『ア、
048
それもさうでした。
049
高姫
(
たかひめ
)
さま、
050
サア
奥
(
おく
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう』
051
高姫
(
たかひめ
)
は
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
る。
052
一同
(
いちどう
)
は
俄
(
にはか
)
に
上
(
うへ
)
を
下
(
した
)
へと、
053
バタバタ
歓迎
(
くわんげい
)
の
準備
(
じゆんび
)
に
多忙
(
たばう
)
を
極
(
きは
)
め
居
(
ゐ
)
る。
054
高姫
(
たかひめ
)
『
今日
(
けふ
)
は
無事
(
ぶじ
)
に
墜落
(
つゐらく
)
もせず、
055
遥々
(
はるばる
)
と
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのだから、
056
御
(
ご
)
神前
(
しんぜん
)
にお
神酒
(
みき
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
献上
(
けんじやう
)
し、
057
種々
(
いろいろ
)
の
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をお
供
(
そな
)
へ
申
(
まを
)
し、
058
ゆつくり
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
でも
張
(
は
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
059
あまり
急速力
(
きふそくりよく
)
で
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ましたので、
060
妾
(
わたし
)
は
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
頭痛
(
づつう
)
気味
(
ぎみ
)
だから、
061
奥
(
おく
)
へ
往
(
い
)
つて
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
ユツクリ
休息
(
きうそく
)
を
致
(
いた
)
します』
062
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『ア、
063
それはさうでせう。
064
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
御
(
お
)
休
(
やす
)
みになれば、
065
お
尋
(
たづ
)
ね
申
(
まを
)
す
訳
(
わけ
)
にもゆかず、
066
一寸
(
ちよつと
)
端緒
(
たんちよ
)
なりと、
067
一口
(
ひとくち
)
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませいナ』
068
高姫
(
たかひめ
)
『
神界
(
しんかい
)
の
御
(
お
)
経綸
(
しぐみ
)
、
069
秘密
(
ひみつ
)
は
何処
(
どこ
)
までも
秘密
(
ひみつ
)
ぢや。
070
今
(
いま
)
は
御
(
ご
)
神命
(
しんめい
)
に
依
(
よ
)
りて
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませぬ……コレ
鶴
(
つる
)
に、
071
亀
(
かめ
)
、
072
お
前
(
まへ
)
も
休
(
やす
)
みなさい。
073
種々
(
いろいろ
)
の
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふではないよ』
074
鶴公
(
つるこう
)
『
私
(
わたし
)
はチツトも
疲労
(
ひらう
)
して
居
(
を
)
りませぬ。
075
別
(
べつ
)
に
休
(
やす
)
む
必要
(
ひつえう
)
も
御座
(
ござ
)
いませぬから、
076
ゆつくりと
貴方
(
あなた
)
に
代
(
かは
)
つて、
077
亀
(
かめ
)
と
二人
(
ふたり
)
が
交
(
かは
)
る
交
(
がは
)
る、
078
一切
(
いつさい
)
の
大失敗
(
だいしつぱい
)
……ウン……オツトドツコイ
顛末
(
てんまつ
)
を
演説
(
えんぜつ
)
致
(
いた
)
しませうか』
079
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
鶴
(
つる
)
、
080
亀
(
かめ
)
、
081
鶴
(
つる
)
は
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
、
082
亀
(
かめ
)
は
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
るぢやないか。
083
鶴
(
つる
)
には
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
の
間
(
あひだ
)
箝口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
く。
084
亀
(
かめ
)
には
一万
(
いちまん
)
年
(
ねん
)
が
間
(
あひだ
)
箝口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
く…』
085
鶴公
(
つるこう
)
『モシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
086
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
も
箝口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
かれては、
087
唖
(
おし
)
も
同様
(
どうやう
)
ですから、
088
そればつかりは
取消
(
とりけし
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
089
高姫
(
たかひめ
)
『イヤ、
090
今度
(
こんど
)
の
事
(
こと
)
に
関
(
くわん
)
してのみ
箝口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
くのだよ。
091
其
(
その
)
外
(
ほか
)
の
事
(
こと
)
はお
前
(
まへ
)
の
勝手
(
かつて
)
だ。
092
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
に
関
(
くわん
)
した
秘密
(
ひみつ
)
の
件
(
けん
)
だけは
言
(
い
)
うてはならない。
093
時節
(
じせつ
)
が
来
(
き
)
たならば、
094
高姫
(
たかひめ
)
が
皆
(
みな
)
に
披露
(
ひろう
)
するから、
095
サア
鶴
(
つる
)
、
096
亀
(
かめ
)
、
097
お
前
(
まへ
)
も
永
(
なが
)
らくお
供
(
とも
)
をして
呉
(
く
)
れて、
098
辛
(
つら
)
かつただらう。
099
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
、
100
誰
(
たれ
)
も
居
(
を
)
らぬ
所
(
とこ
)
へ
往
(
い
)
つてユツクリと
遊
(
あそ
)
びて
来
(
き
)
なさい、
101
又
(
また
)
いろいろの
事
(
こと
)
を
喋舌
(
しやべ
)
ると
煩雑
(
うるさ
)
いからな。
102
……
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
103
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
104
それなら
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します。
105
どうぞユツクリ
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
み、
106
皆
(
みな
)
さまと
仲
(
なか
)
よく、
107
神恩
(
しんおん
)
を
感謝
(
かんしや
)
して
下
(
くだ
)
さい。
108
妾
(
わたし
)
は
何
(
なん
)
だか
頭痛
(
づつう
)
がして、
109
モウこれつきり
暫
(
しばら
)
く
言
(
い
)
ひませぬから』
110
と
襖
(
ふすま
)
を
引開
(
ひきあ
)
け
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
力
(
ちから
)
無
(
な
)
げに
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
111
中
(
なか
)
より
固
(
かた
)
く
鍵
(
かぎ
)
をかけて
了
(
しま
)
ひけり。
112
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『サア
皆
(
みな
)
さま、
113
これから
祭典
(
さいてん
)
を
執行
(
しつかう
)
し、
114
終
(
をは
)
つて
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
だ。
115
今日
(
けふ
)
は
酒
(
さけ
)
の
飲
(
の
)
み
満足
(
たんのう
)
だ。
116
併
(
しか
)
し
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
むのはいいが、
117
酒
(
さけ
)
に
呑
(
の
)
まれない
様
(
やう
)
にして
下
(
くだ
)
さいよ』
118
甲
(
かふ
)
『
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
大将
(
たいしやう
)
、
119
あなたこそ
何時
(
いつ
)
も
酒
(
さけ
)
に
呑
(
の
)
まれるでせう。
120
今日
(
けふ
)
はあなたから
十分
(
じふぶん
)
の
御
(
ご
)
警戒
(
けいかい
)
を
願
(
ねが
)
ひますで。
121
何分
(
なにぶん
)
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
頭痛
(
づつう
)
を
起
(
おこ
)
してお
休
(
やす
)
みになつて
居
(
を
)
るのだから、
122
あまり
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
しては、
123
お
体
(
からだ
)
に
障
(
さは
)
つちやなりませぬからなア』
124
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『きまつた
事
(
こと
)
だ。
125
ソンナ
事
(
こと
)
に
抜
(
ぬ
)
かりの
有
(
あ
)
る
私
(
わし
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
るか』
126
祭典
(
さいてん
)
は
型
(
かた
)
の
如
(
ごと
)
く
厳粛
(
げんしゆく
)
に
行
(
おこな
)
ひ
了
(
をは
)
り、
127
一同
(
いちどう
)
は
別殿
(
べつでん
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
128
直会
(
なほらひ
)
の
宴
(
えん
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かし、
129
そろそろ
酒
(
さけ
)
の
酔
(
ゑい
)
が
廻
(
まは
)
るにつれて、
130
喧騒
(
けんさう
)
を
極
(
きは
)
め
出
(
だ
)
したり。
131
甲
(
かふ
)
『オイ
鶴
(
つる
)
、
132
随分
(
ずゐぶん
)
愉快
(
ゆくわい
)
だつたらうなア。
133
お
羨
(
うらや
)
ましい。
134
吾々
(
われわれ
)
もアヽ
云
(
い
)
ふお
供
(
とも
)
がして
見
(
み
)
たいワ』
135
鶴公
(
つるこう
)
『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
うても、
136
大
(
だい
)
飛行船
(
ひかうせん
)
に
乗
(
の
)
つて、
137
地上
(
ちじやう
)
の
森羅
(
しんら
)
万象
(
ばんしやう
)
を
眼下
(
がんか
)
に
見
(
み
)
くだし、
138
空中
(
くうちう
)
征服
(
せいふく
)
の
勇者
(
ゆうしや
)
になつて、
139
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
へ
渡
(
わた
)
るのだもの、
140
実
(
じつ
)
に
愉々
(
ゆゆ
)
快々
(
くわいくわい
)
、
141
筆紙
(
ひつし
)
の
尽
(
つく
)
すべき
限
(
かぎ
)
りでは
無
(
な
)
かつたよ』
142
甲
(
かふ
)
『
立派
(
りつぱ
)
に
目的
(
もくてき
)
は
達
(
たつ
)
しただらうな』
143
鶴公
(
つるこう
)
『
勿論
(
もちろん
)
の
事
(
こと
)
、
144
途中
(
とちう
)
に
墜落
(
つゐらく
)
もなく、
145
立派
(
りつぱ
)
に
目的地
(
もくてきち
)
に
到達
(
たうたつ
)
したのだ』
146
甲
(
かふ
)
『それは
定
(
き
)
まつて
居
(
ゐ
)
るが、
147
モ
一
(
ひと
)
つの
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
だ。
148
それはどうなつたのだい』
149
鶴公
(
つるこう
)
『
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
に
関
(
くわん
)
する
事
(
こと
)
は
千
(
せん
)
年間
(
ねんかん
)
の
箝口令
(
かんこうれい
)
が
布
(
し
)
かれてあるから、
150
紫
(
むらさき
)
だけは
言
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れな。
151
其
(
その
)
代
(
かは
)
りに
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
一件
(
いつけん
)
は、
152
事
(
こと
)
に
依
(
よ
)
つたら
報告
(
はうこく
)
してやらう。
153
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らモウ
少
(
すこ
)
し
酒
(
さけ
)
が
廻
(
まは
)
らぬと、
154
巧
(
うま
)
く
言霊
(
ことたま
)
が
運転
(
うんてん
)
しないワイ。
155
一
(
ひと
)
つ
滑車
(
くわつしや
)
に
油
(
あぶら
)
を
注
(
つ
)
ぐのだな』
156
亀公
(
かめこう
)
『コラコラ
鶴公
(
つるこう
)
、
157
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
に
関
(
くわん
)
する
事
(
こと
)
と
云
(
い
)
へば、
158
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
事
(
こと
)
だつて
言
(
い
)
はれぬぢやないか、
159
箝口令
(
かんこうれい
)
を
厳守
(
げんしゆ
)
せぬかい』
160
鶴公
(
つるこう
)
『ナーニ、
161
紫
(
むらさき
)
の
雲
(
くも
)
の
事
(
こと
)
さへ
言
(
い
)
はなかつたら
良
(
い
)
いぢやないか。
162
皆
(
みな
)
の
御
(
ご
)
連中
(
れんちう
)
が
証人
(
しようにん
)
ぢや、
163
ナア
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
164
高姫
(
たかひめ
)
さまはそう
仰有
(
おつしや
)
つただらう』
165
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
166
成功話
(
せいこうばなし
)
を
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
167
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
が
待
(
ま
)
ちに
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
つたのだ』
168
亀公
(
かめこう
)
『コラコラ
鶴
(
つる
)
、
169
滅多
(
めつた
)
の
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
うではないぞ』
170
鶴公
(
つるこう
)
『
貴様
(
きさま
)
は
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
はぬから、
171
生真面目
(
きまじめ
)
で
仕方
(
しかた
)
がない。
172
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
かぬ
奴
(
やつ
)
だ。
173
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
のお
口
(
くち
)
からは、
174
アンナ
事
(
こと
)
がどうしても
言
(
い
)
はれぬものだから、
175
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
代
(
かは
)
つて、
176
言
(
い
)
うではないぞと
仰有
(
おつしや
)
つたのは、
177
要
(
えう
)
するに
言
(
い
)
へと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ。
178
別
(
べつ
)
に
俺
(
おれ
)
の
口
(
くち
)
で
俺
(
おれ
)
が
喋
(
しや
)
べるのに、
179
資本金
(
しほんきん
)
が
要
(
い
)
るのでもなし、
180
国税
(
こくぜい
)
を
納
(
をさ
)
める
心配
(
しんぱい
)
も
要
(
い
)
らぬのだから……
俺
(
おれ
)
は
俺
(
おれ
)
の
自由
(
じいう
)
の
権
(
けん
)
を
発揮
(
はつき
)
するのだ』
181
亀公
(
かめこう
)
『ソンナラお
前
(
まへ
)
の
勝手
(
かつて
)
にしたがよいワイ。
182
俺
(
おれ
)
だけは
何処
(
どこ
)
までも
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
るから…』
183
鶴
(
つる
)
は
酒
(
さけ
)
にグタグタに
酔
(
よ
)
ひ、
184
傲然
(
ごうぜん
)
として
肱
(
ひぢ
)
を
張
(
は
)
り、
185
鶴公
(
つるこう
)
『
今日
(
けふ
)
の
鶴公
(
つるこう
)
は、
186
要
(
えう
)
するに
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
の
代言者
(
だいげんしや
)
ぢや。
187
さう
心得
(
こころえ
)
て
謹聴
(
きんちやう
)
しなさい、
188
エヘン、
189
フサの
国
(
くに
)
をば
後
(
あと
)
にして
190
雲井
(
くもゐ
)
の
空
(
そら
)
を
高姫
(
たかひめ
)
が
191
翼
(
つばさ
)
ひろげて
鶴亀
(
つるかめ
)
の
192
二人
(
ふたり
)
の
勇士
(
ゆうし
)
を
伴
(
ともな
)
ひつ
193
高山
(
たかやま
)
短山
(
ひきやま
)
下
(
した
)
に
見
(
み
)
て
194
大海原
(
おほうなばら
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
195
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
にゆらゆらと
196
降
(
くだ
)
り
着
(
つ
)
いたは
由良湊
(
ゆらみなと
)
197
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
へテクテクと
198
三
(
さん
)
人
(
にん
)
駒
(
こま
)
を
並
(
なら
)
べつつ
199
黒姫館
(
くろひめやかた
)
に
立入
(
たちい
)
りて
200
委細
(
ゐさい
)
の
様子
(
やうす
)
を
尋
(
たづ
)
ぬれば
201
弥仙
(
みせん
)
の
山
(
やま
)
の
裾野原
(
すそのはら
)
202
賤
(
しづ
)
が
伏家
(
ふせや
)
に
世
(
よ
)
を
忍
(
しの
)
ぶ
203
豊彦
(
とよひこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
館
(
やかた
)
より
204
色
(
いろ
)
も
芽出度
(
めでた
)
き
訝
(
いぶ
)
かしの
205
雲
(
くも
)
立
(
た
)
ち
昇
(
のぼ
)
り
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
206
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
神人
(
しんじん
)
が
207
現
(
あら
)
はれました
事
(
こと
)
の
由
(
よし
)
208
聞
(
き
)
いたる
時
(
とき
)
の
嬉
(
うれ
)
しさよ
209
黒姫司
(
くろひめつかさ
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
210
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
手
(
て
)
を
尽
(
つく
)
し
211
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
青彦
(
あをひこ
)
の
212
二人
(
ふたり
)
の
勇士
(
ゆうし
)
に
一任
(
いちにん
)
し
213
玉照姫
(
たまてるひめ
)
をウラナイの
214
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
の
本山
(
ほんざん
)
に
215
迎
(
むか
)
へむものと
気
(
き
)
を
配
(
くば
)
り
216
心
(
こころ
)
を
尽
(
つく
)
す
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
217
どうした
拍子
(
へうし
)
の
瓢箪
(
へうたん
)
か
218
ガラリと
外
(
はづ
)
れて
三五
(
あななひ
)
の
219
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
間諜
(
まはしもの
)
220
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
青彦
(
あをひこ
)
は
221
手
(
て
)
の
掌
(
ひら
)
返
(
かへ
)
す
情
(
なさけ
)
無
(
な
)
さ
222
高姫司
(
たかひめつかさ
)
は
青筋
(
あをすぢ
)
を
223
立
(
た
)
ててカツカと
怒
(
おこ
)
り
出
(
だ
)
す
224
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
は
225
ソロソロ
喧嘩
(
けんくわ
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
す
226
此
(
この
)
有様
(
ありさま
)
を
見
(
み
)
る
俺
(
おれ
)
は
227
立
(
た
)
つても
坐
(
ゐ
)
ても
居
(
を
)
られない
228
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さまと
申
(
まを
)
さうか
229
愛想
(
あいさう
)
が
尽
(
つ
)
きたと
申
(
まを
)
さうか
230
言
(
い
)
ふに
謂
(
ゐ
)
はれぬ
為体
(
ていたらく
)
231
これから
奥
(
おく
)
は
有
(
あ
)
るけれど
232
此
(
こ
)
れより
先
(
さき
)
は
神界
(
しんかい
)
の
233
秘密
(
ひみつ
)
ぢや
程
(
ほど
)
にどうしても
234
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
青彦
(
あをひこ
)
の
235
誠
(
まこと
)
の
様子
(
やうす
)
は
話
(
はな
)
せない
236
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
237
高山彦
(
たかやまひこ
)
や
黒姫
(
くろひめ
)
は
238
さぞ
今頃
(
いまごろ
)
はブクブクと
239
面
(
つら
)
を
膨
(
ふく
)
らし
燻
(
くすぶ
)
つて
240
互
(
たがひ
)
に
顔
(
かほ
)
を
睨
(
にら
)
み
鯛
(
たひ
)
241
目
(
め
)
を
釣
(
つ
)
り
腮
(
あご
)
釣
(
つ
)
り
蛸
(
たこ
)
釣
(
つ
)
つて
242
一悶錯
(
ひともんさく
)
の
最中
(
さいちう
)
だらう
243
モウモウコンナ
物語
(
ものがたり
)
244
飲
(
の
)
みし
酒
(
さけ
)
迄
(
まで
)
冷
(
ひ
)
えて
来
(
く
)
る
245
三五教
(
あななひけう
)
は
日
(
ひ
)
に
月
(
つき
)
に
246
旭
(
あさひ
)
の
豊栄昇
(
とよさかのぼ
)
るごと
247
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
神力
(
しんりき
)
で
248
宇内
(
うだい
)
へ
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
るだらう
249
それに
引換
(
ひきか
)
へウラナイの
250
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
はゴテゴテと
251
貧乏
(
びんばふ
)
世帯
(
しよたい
)
の
夕日影
(
ゆふひかげ
)
252
段々
(
だんだん
)
影
(
かげ
)
が
薄
(
うす
)
くなり
253
終局
(
しまひ
)
に
闇
(
やみ
)
となるで
有
(
あ
)
らう
254
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
255
叶
(
かな
)
はぬ
時
(
とき
)
の
神頼
(
かみだの
)
み
256
鶴公司
(
つるこうつかさ
)
の
報告
(
はうこく
)
は
257
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づザツと
此
(
この
)
通
(
とほ
)
り』
258
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『オイ
鶴公
(
つるこう
)
、
259
真面目
(
まじめ
)
に
報告
(
はうこく
)
をせないか。
260
ソンナ
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
が
有
(
あ
)
つて
堪
(
たま
)
るものかい』
261
鶴公
(
つるこう
)
『
堪
(
たま
)
つても
堪
(
たま
)
らいでも、
262
事実
(
じじつ
)
は
事実
(
じじつ
)
だ』
263
蠑螈別
(
いもりわけ
)
『
仕方
(
しかた
)
がないなア』
264
鶴公
(
つるこう
)
『エーもう
此
(
この
)
鶴公
(
つるこう
)
は、
265
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
の
箝口令
(
かんこうれい
)
を
布
(
し
)
かれて
居
(
を
)
るが、
266
俺
(
おれ
)
の
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
に
対
(
たい
)
しては
言論
(
げんろん
)
自由
(
じいう
)
だ。
267
……オイ
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
、
268
チツと
酒
(
さけ
)
ばつかり
喰
(
くら
)
うて
居
(
を
)
らずに
発動
(
はつどう
)
せぬかい。
269
責任
(
せきにん
)
は
副守
(
ふくしゆ
)
が
負
(
お
)
ふのだよ。
270
……
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
現
(
あら
)
はれて
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
迄
(
まで
)
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
知
(
し
)
らすのであるから、
271
鶴公司
(
つるこうつかさ
)
は
何
(
なん
)
にも
知
(
し
)
らず、
272
高姫
(
たかひめ
)
殿
(
どの
)
、
273
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
鶴公
(
つるこう
)
を
恨
(
うら
)
めて
下
(
くだ
)
さるなよだ、
274
ヒヽン』
275
魔我彦
(
まがひこ
)
『サア
副守
(
ふくしゆ
)
先生
(
せんせい
)
、
276
細
(
こま
)
かく
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
277
鶴公
(
つるこう
)
『ウーン、
278
ウンウン、
279
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
す
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
のズル
公
(
こう
)
であるぞよ。
280
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
大体
(
だいたい
)
の
要領
(
えうりやう
)
は、
281
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
が
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
り、
282
今回
(
こんくわい
)
の
事件
(
じけん
)
は
全部
(
ぜんぶ
)
高姫
(
たかひめ
)
さん
一派
(
いつぱ
)
の
零敗
(
ゼロはい
)
だ。
283
大当違
(
おほあてちがひ
)
の
大失策
(
おほしくじり
)
だ。
284
それだから
頭痛
(
づつう
)
もせないのに
頭痛
(
づつう
)
がすると
言
(
い
)
つて、
285
此
(
この
)
不利益
(
ふりえき
)
極
(
きは
)
まる
報告
(
はうこく
)
を
避
(
さ
)
けたのだ。
286
何
(
いづ
)
れ
早晩
(
さうばん
)
分
(
わか
)
る
事実
(
じじつ
)
だから、
287
隠
(
かく
)
したつて
仕方
(
しかた
)
がない。
288
モウ、
289
ウラナイ
教
(
けう
)
は
駄目
(
だめ
)
だ。
290
バラモン
教
(
けう
)
は
間近
(
まぢか
)
まで
教線
(
けうせん
)
を
張
(
は
)
り、
291
猛烈
(
まうれつ
)
な
勢
(
いきほひ
)
でやつて
来
(
く
)
る。
292
ウラル
教
(
けう
)
は
又
(
また
)
もや
蘇生
(
そせい
)
した
様
(
やう
)
に、
293
此
(
この
)
フサの
国
(
くに
)
を
中心
(
ちうしん
)
として
押寄
(
おしよ
)
せて
来
(
き
)
て
居
(
を
)
る。
294
三五教
(
あななひけう
)
も
其
(
その
)
通
(
とほ
)
り。
295
三方
(
さんぱう
)
から
敵
(
てき
)
を
受
(
う
)
けて、
296
どうして
此
(
この
)
教
(
をしへ
)
が、
297
拡張
(
くわくちやう
)
所
(
どころ
)
か
現状
(
げんじやう
)
維持
(
ゐぢ
)
も
難
(
むづ
)
かしい。
298
日向
(
ひなた
)
に
氷
(
こほり
)
だ。
299
風前
(
ふうぜん
)
の
灯火
(
ともしび
)
だ。
300
アツハヽヽヽ、
301
良
(
い
)
い
気味
(
きみ
)
だ。
302
世界一
(
せかいいち
)
の
黍団子
(
きびだんご
)
、
303
何程
(
なにほど
)
キビキビした
高姫
(
たかひめ
)
の
智嚢
(
ちなう
)
でも、
304
最早
(
もはや
)
底叩
(
そこたた
)
きだ。
305
底抜
(
そこぬ
)
けの
大失策
(
だいしつさく
)
だ。
306
底抜
(
そこぬ
)
け
序
(
ついで
)
に
自棄酒
(
やけざけ
)
でも
飲
(
の
)
み、
307
底抜
(
そこぬ
)
け
騒
(
さわ
)
ぎをやつたがよからうぞよ。
308
ウーン、
309
ウン、
310
もうズル
公
(
こう
)
はこれで
引取
(
ひきと
)
るぞよ。
311
蠑螈別
(
いもりわけ
)
、
312
魔我彦
(
まがひこ
)
、
313
好
(
すき
)
な
酒
(
さけ
)
でもズルズルベツタリに
飲
(
の
)
みたが
宜
(
よ
)
からうぞよ』
314
とグレンと
体
(
たい
)
をかわし、
315
汗
(
あせ
)
をブルブルかいて
正気
(
しやうき
)
に
返
(
かへ
)
つた
様
(
やう
)
な
姿
(
すがた
)
を
装
(
よそほ
)
ひ、
316
鶴公
『
何
(
なん
)
だか
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
仰有
(
おつしや
)
つたやうですな。
317
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
はれました。
318
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
で
言
(
い
)
つて
自分
(
じぶん
)
の
耳
(
みみ
)
へ
聞
(
きこ
)
えぬのだから、
319
大変
(
たいへん
)
に
不便利
(
ふべんり
)
だ。
320
知覚
(
ちかく
)
精神
(
せいしん
)
を
忘却
(
ばうきやく
)
し、
321
大死
(
たいし
)
一番
(
いちばん
)
の
境
(
きやう
)
に
立
(
た
)
ち、
322
感覚
(
かんかく
)
を
蕩尽
(
たうじん
)
し、
323
意念
(
いねん
)
を
断滅
(
だんめつ
)
して、
324
仮死
(
かし
)
状態
(
じやうたい
)
になつて
居
(
ゐ
)
たものだから、
325
言
(
い
)
うた
事
(
こと
)
がトンと
分
(
わか
)
らない。
326
…
鶴公
(
つるこう
)
は
何
(
なに
)
も
知
(
し
)
らぬぞよ。
327
高姫
(
たかひめ
)
の
先生
(
せんせい
)
殿
(
どの
)
、
328
屹度
(
きつと
)
鶴公
(
つるこう
)
を
叱
(
しか
)
つて
下
(
くだ
)
さるなよ。
329
守護神
(
しゆごじん
)
が
口
(
くち
)
を
借
(
か
)
つた
許
(
ばか
)
りであるぞよ』
330
甲
(
かふ
)
『アハヽヽヽ、
331
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
332
貴様
(
きさま
)
は
知
(
し
)
らな
知
(
し
)
らぬでよいワ。
333
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
奴
(
やつ
)
、
334
鶴公
(
つるこう
)
が
全部
(
ぜんぶ
)
言
(
い
)
つた
通
(
とほ
)
りだと
証明
(
しようめい
)
したよ。
335
ヤツパリ
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
責任
(
せきにん
)
があるのだ。
336
…モシモシ
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
337
一寸先
(
いつすんさき
)
や
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
だ。
338
飲
(
の
)
めよ
騒
(
さわ
)
げよと、
339
ウラル
教
(
けう
)
もどきに
乱痴気
(
らんちき
)
騒
(
さわ
)
ぎでもやりませうかい。
340
チツト
位
(
くらゐ
)
乱暴
(
らんばう
)
したつて、
341
劫腹
(
ごふばら
)
癒
(
い
)
やしだ。
342
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて、
343
高姫
(
たかひめ
)
さまだつて、
344
失敗
(
しつぱい
)
して
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て、
345
吾々
(
われわれ
)
に
荘重
(
さうちよう
)
な
口調
(
くてう
)
を
以
(
もつ
)
て、
346
戒告
(
かいこく
)
を
与
(
あた
)
へる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい』
347
亀公
(
かめこう
)
『
今
(
いま
)
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
の
言
(
い
)
つた
事
(
こと
)
も、
348
ズル
公
(
こう
)
の
副守
(
ふくしゆ
)
の
言
(
い
)
つた
事
(
こと
)
も、
349
全然
(
ぜんぶ
)
反対
(
はんたい
)
だ。
350
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
を
驚
(
おどろ
)
かさうと
思
(
おも
)
つて、
351
アンナ
芝居
(
しばゐ
)
をやりよつたのだ。
352
鶴
(
つる
)
位
(
ぐらゐ
)
の
知
(
し
)
つた
事
(
こと
)
かい。
353
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
は
此
(
この
)
亀公
(
かめこう
)
が
脳裡
(
なうり
)
に
秘
(
ひ
)
め
隠
(
かく
)
してあるのだ。
354
鶴
(
つる
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
ア、
355
ツルツルと
口
(
くち
)
が
辷
(
すべ
)
るから
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
らしてないのだよ。
356
屹度
(
きつと
)
一道
(
いちだう
)
の
光明
(
くわうみやう
)
がウラナイ
教
(
けう
)
の
上
(
うへ
)
に
輝
(
かがや
)
いて
居
(
を
)
るのだから、
357
さう
気投
(
きな
)
げをするものぢやない。
358
千秋
(
せんしう
)
万歳楽
(
ばんざいらく
)
の
鶴亀
(
つるかめ
)
の
齢
(
よはひ
)
と
共
(
とも
)
に、
359
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
は
立派
(
りつぱ
)
に
開
(
ひら
)
けて
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
の
世
(
よ
)
となるのだ。
360
闇
(
やみ
)
の
後
(
あと
)
には
月
(
つき
)
が
出
(
で
)
る。
361
夜
(
よる
)
が
過
(
す
)
ぐれば
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
となるのは、
362
天地
(
てんち
)
の
真理
(
しんり
)
だ。
363
暗中
(
あんちう
)
明
(
めい
)
あり、
364
明中
(
めいちう
)
暗
(
あん
)
あり、
365
明暗
(
めいあん
)
交々
(
こもごも
)
代
(
かは
)
り
行
(
ゆ
)
くは、
366
所謂
(
いはゆる
)
神
(
かみ
)
の
摂理
(
せつり
)
だ。
367
人
(
ひと
)
は
得意
(
とくい
)
の
時
(
とき
)
に
屹度
(
きつと
)
失望
(
しつばう
)
落胆
(
らくたん
)
の
種
(
たね
)
を
蒔
(
ま
)
き、
368
不遇
(
ふぐう
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
有
(
あ
)
る
時
(
とき
)
、
369
屹度
(
きつと
)
光明
(
くわうみやう
)
幸福
(
かうふく
)
の
因
(
いん
)
を
培
(
つちか
)
ひ
養
(
やしな
)
ふものだ。
370
何時
(
いつ
)
も
昼
(
ひる
)
ばつかり
有
(
あ
)
るものぢやない、
371
又
(
また
)
暗黒
(
あんこく
)
な
夜
(
よ
)
ばかりでもない。
372
善悪
(
ぜんあく
)
不二
(
ふじ
)
、
373
吉凶
(
きつきよう
)
同根
(
どうこん
)
、
374
明暗
(
めいあん
)
一如
(
いちによ
)
、
375
禍福
(
くわふく
)
一途
(
いちづ
)
、
376
大楽観
(
だいらくくわん
)
の
中
(
なか
)
に
大苦観
(
だいくくわん
)
あり、
377
大苦観
(
だいくくわん
)
の
中
(
なか
)
に
大楽観
(
だいらくくわん
)
あり、
378
天国
(
てんごく
)
に
地獄
(
ぢごく
)
交
(
まじ
)
はり、
379
地獄
(
ぢごく
)
に
天国
(
てんごく
)
現
(
あら
)
はる。
380
有耶
(
うや
)
無耶
(
むや
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
381
マアマア
心配
(
しんぱい
)
するな。
382
コンナ
結構
(
けつこう
)
な
事
(
こと
)
は
無
(
な
)
いのだよ。
383
人
(
ひと
)
は
心
(
こころ
)
の
持様
(
もちやう
)
一
(
ひと
)
つだ。
384
ドンナ
苦
(
くる
)
しい
事
(
こと
)
でも、
385
観念
(
かんねん
)
一
(
ひと
)
つで
大歓楽
(
だいくわんらく
)
と
忽
(
たちま
)
ち
一変
(
いつぺん
)
する
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
386
吁
(
あゝ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
387
と
拍手
(
はくしゆ
)
し、
388
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らして
居
(
を
)
る。
389
高姫
(
たかひめ
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
手拭
(
てぬぐひ
)
にて
鉢巻
(
はちまき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
390
ノコノコと
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
391
高姫
『ヤア
皆
(
みな
)
さま、
392
お
元気
(
げんき
)
な
事
(
こと
)
、
393
親
(
おや
)
の
心
(
こころ
)
は
子
(
こ
)
知
(
し
)
らず、
394
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
は
人間
(
にんげん
)
知
(
し
)
らず。
395
あなた
方
(
がた
)
は
実
(
じつ
)
に
羨
(
うらや
)
ましいお
身分
(
みぶん
)
だ。
396
妾
(
わたし
)
も
半時
(
はんとき
)
なりとあなた
方
(
がた
)
の
様
(
やう
)
な
気分
(
きぶん
)
になつて
見
(
み
)
たいワ』
397
魔我彦
(
まがひこ
)
『
何分
(
なにぶん
)
に
重大
(
ぢうだい
)
なる
責任
(
せきにん
)
を
負担
(
ふたん
)
して
御座
(
ござ
)
る
貴女
(
あなた
)
の
事
(
こと
)
ですから、
398
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
を
御
(
お
)
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
します。
399
今回
(
こんくわい
)
の
遠路
(
ゑんろ
)
の
御
(
ご
)
旅行
(
りよかう
)
、
400
さぞさぞお
疲
(
つか
)
れで
御座
(
ござ
)
いませう。
401
それに
就
(
つ
)
いても
言
(
い
)
ふに
謂
(
ゐ
)
はれぬ
御
(
ご
)
苦心
(
くしん
)
が
有
(
あ
)
つた
様
(
やう
)
です。
402
玉照姫
(
たまてるひめ
)
は
到頭
(
たうとう
)
三五教
(
あななひけう
)
に
取
(
と
)
られて
了
(
しま
)
つた
様
(
やう
)
ですなア』
403
高姫
(
たかひめ
)
『エー、
404
それは
誰
(
た
)
れが
言
(
い
)
つたのかなア』
405
魔我彦
(
まがひこ
)
『ズル
公
(
こう
)
が
詳細
(
しやうさい
)
に
報告
(
はうこく
)
を
致
(
いた
)
しました。
406
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
失敗
(
しつぱい
)
は
成功
(
せいこう
)
の
基
(
もと
)
、
407
失敗
(
しつぱい
)
が
無
(
な
)
くては
経験
(
けいけん
)
が
積
(
つ
)
みませぬ。
408
即
(
すなは
)
ち
万世
(
ばんせい
)
に
残
(
のこ
)
る
大偉業
(
だいゐげふ
)
は
七転
(
ななころ
)
び
八起
(
やお
)
きと
云
(
い
)
うて、
409
幾度
(
いくど
)
も
失敗
(
しつぱい
)
を
重
(
かさ
)
ね、
410
鍛
(
きた
)
へ
上
(
あ
)
げねば
駄目
(
だめ
)
ですよ。
411
イヤもう
御
(
ご
)
心中
(
しんちう
)
お
察
(
さつ
)
し
申
(
まを
)
します』
412
高姫
(
たかひめ
)
『ヤアこれだけ
沢山
(
たくさん
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
や
信者
(
しんじや
)
がある
中
(
なか
)
に、
413
妾
(
わし
)
の
苦衷
(
くちゆう
)
を
察
(
さつ
)
して
呉
(
く
)
れる
者
(
もの
)
はお
前
(
まへ
)
だけだ、
414
アヽ
妾
(
わし
)
もこれで
死
(
し
)
ンでも
得心
(
とくしん
)
だ。
415
千歳
(
せんざい
)
の
後
(
のち
)
に
一人
(
ひとり
)
の
知己
(
ちき
)
を
得
(
え
)
れば
満足
(
まんぞく
)
だと
覚悟
(
かくご
)
して
居
(
ゐ
)
たが、
416
現在
(
げんざい
)
此処
(
ここ
)
に
一人
(
ひとり
)
の
知己
(
ちき
)
を
得
(
え
)
たか、
417
アヽ
有難
(
ありがた
)
や、
418
これと
云
(
い
)
ふのもウラナイ
教
(
けう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
…』
419
鶴公
(
つるこう
)
『
知己
(
ちき
)
を
得
(
え
)
ましたか。
420
千歳
(
せんざい
)
の
後
(
のち
)
で
無
(
な
)
くて
今
(
いま
)
チキに
妙
(
めう
)
チキチンのチンチキチン、
421
心
(
こころ
)
の
曲
(
まが
)
つた
魔我彦
(
まがひこ
)
が
共鳴
(
きようめい
)
しましたのは、
422
実
(
じつ
)
に
上下
(
じやうげ
)
一致
(
いつち
)
天地
(
てんち
)
合体
(
がつたい
)
の
象徴
(
しやうちやう
)
でせう。
423
併
(
しか
)
しこれは
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
すズル
公
(
こう
)
の
託宣
(
たくせん
)
ですから、
424
決
(
けつ
)
して
鶴公
(
つるこう
)
に
怒
(
おこ
)
つては
下
(
くだ
)
さるなよ。
425
…
神
(
かみ
)
は
物
(
もの
)
は
言
(
い
)
はなンだが、
426
時節
(
じせつ
)
参
(
まゐ
)
りて
鶴公
(
つるこう
)
の
口
(
くち
)
を
藉
(
か
)
りて
委細
(
ゐさい
)
の
事
(
こと
)
を
説
(
と
)
いて
聞
(
き
)
かすぞよ。
427
ウンウンウン、
428
ドスン……アーア
又
(
また
)
何
(
なん
)
だか
憑依
(
ひようい
)
しよつたな。
429
イヤ
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
発動
(
はつどう
)
したと
見
(
み
)
える。
430
飛行機
(
ひかうき
)
に
乗
(
の
)
つて
空中
(
くうちう
)
を
征服
(
せいふく
)
し
乍
(
なが
)
ら、
431
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
とやつて
居
(
を
)
つたと
思
(
おも
)
へば、
432
俄
(
にはか
)
の
暴風
(
ばうふう
)
に
翼
(
よく
)
を
煽
(
あふ
)
られ、
433
地上
(
ちじやう
)
目蒐
(
めが
)
けて
真
(
ま
)
つ
逆様
(
さかさま
)
に
顛落
(
てんらく
)
せしと
思
(
おも
)
ひきや、
434
ウラナイ
教
(
けう
)
の
本山
(
ほんざん
)
、
435
八咫
(
やあた
)
の
大広間
(
おほひろま
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
の
場席
(
ばせき
)
、
436
アーア
助
(
たす
)
かつた
助
(
たす
)
かつた』
437
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
鶴公
(
つるこう
)
、
438
ソンナ
偽神術
(
ぎしんじゆつ
)
をやつたつて、
439
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
はチヤンと
審神
(
さには
)
をして
居
(
ゐ
)
ますよ。
440
お
前
(
まへ
)
は
余程
(
よほど
)
卑怯者
(
ひけふもの
)
だ。
441
残
(
のこ
)
らず
責任
(
せきにん
)
を
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
に
転嫁
(
てんか
)
せうとするのだナ』
442
鶴公
(
つるこう
)
『イエイエ
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
443
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
に
割拠
(
かつきよ
)
する
副守
(
ふくしゆ
)
の
発動
(
はつどう
)
です。
444
どうぞ
此
(
この
)
副守
(
ふくしゆ
)
を
何
(
なん
)
とかして
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
445
高姫
(
たかひめ
)
『
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さま、
446
魔我彦
(
まがひこ
)
さま、
447
鶴公
(
つるこう
)
の
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
に
割拠
(
かつきよ
)
する
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
、
448
此
(
この
)
短刀
(
たんたう
)
を
貸
(
か
)
してあげるから、
449
剔
(
えぐ
)
り
出
(
だ
)
してやつて
下
(
くだ
)
さい。
450
鶴公
(
つるこう
)
の
願
(
ねが
)
ひだから……ナア
鶴公
(
つるこう
)
、
451
チツトは
痛
(
いた
)
くつても
辛抱
(
しんばう
)
するのだよ。
452
苦
(
く
)
の
後
(
あと
)
には
楽
(
らく
)
がある。
453
死
(
し
)
ぬのは
生
(
うま
)
れるのだ。
454
生
(
うま
)
れるのは
墓場
(
はかば
)
へ
近寄
(
ちかよ
)
るのだ。
455
仮令
(
たとへ
)
死
(
し
)
ンだ
所
(
ところ
)
で、
456
やがて
新
(
あたら
)
しくなるのだからナア、
457
ヒヽヽヽ』
458
鶴公
(
つるこう
)
『モシモシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
459
そンなことせなくつても、
460
副守
(
ふくしゆ
)
は
飛
(
と
)
ンで
出
(
で
)
ますよ。
461
ウンウンウン……ソレ、
462
もう
飛
(
と
)
ンで
出
(
で
)
ました。
463
ア、
464
もう
此
(
この
)
ズル
公
(
こう
)
は
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
には
居
(
を
)
らぬぞよ』
465
魔我彦
(
まがひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
にするない。
466
飛
(
と
)
ンで
出
(
で
)
たと
言
(
い
)
つてからまだ……
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
には
居
(
を
)
らぬぞよ……とは
誰
(
たれ
)
が
言
(
い
)
つたのだ。
467
ヤツパリ
副守
(
ふくしゆ
)
が
居
(
を
)
つて
貴様
(
きさま
)
の
口
(
くち
)
を
使
(
つか
)
つたのだらう。
468
肉体
(
にくたい
)
を
離
(
はな
)
れた
奴
(
やつ
)
が
貴様
(
きさま
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
使
(
つか
)
つて
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
ふ
理由
(
りいう
)
が
有
(
あ
)
るか』
469
鶴公
(
つるこう
)
『これは
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
惰力
(
だりよく
)
だ。
470
どうぞ
半時
(
はんとき
)
ばかり
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい』
471
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
又
(
また
)
もや
一隻
(
いつせき
)
の
飛行船
(
ひかうせん
)
天
(
てん
)
を
轟
(
とどろ
)
かし、
472
庭前
(
ていぜん
)
に
下
(
お
)
り
来
(
きた
)
る。
473
鶴公
(
つるこう
)
『あの
物音
(
ものおと
)
は
敵
(
てき
)
か、
474
味方
(
みかた
)
か。
475
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
476
青彦
(
あをひこ
)
、
477
玉照姫
(
たまてるひめ
)
を
捧持
(
ほうぢ
)
してウラナイ
教
(
けう
)
に
献納
(
けんなふ
)
に
来
(
き
)
たのか。
478
但
(
ただし
)
は
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
479
黒姫
(
くろひめ
)
、
480
悄然
(
せうぜん
)
として
泣
(
な
)
き
面
(
づら
)
かわき
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たのか。
481
……ヤアヤア
者共
(
ものども
)
、
482
一刻
(
いつこく
)
も
早
(
はや
)
く
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し、
483
実否
(
じつぴ
)
を
調
(
しら
)
べて
参
(
まゐ
)
れ。
484
世界
(
せかい
)
見
(
み
)
え
透
(
す
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が、
485
鶴公
(
つるこう
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
借
(
か
)
りて
申付
(
まをしつ
)
けるぞよ』
486
亀公
(
かめこう
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うのだ。
487
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
は
世界中
(
せかいぢう
)
見
(
み
)
え
透
(
す
)
き
遊
(
あそ
)
ばすのだが、
488
門口
(
かどぐち
)
へ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
者
(
もの
)
が
敵
(
てき
)
か
味方
(
みかた
)
か
分
(
わか
)
らぬと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な、
489
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
有
(
あ
)
るものかい』
490
鶴公
(
つるこう
)
『ウラナイ
教
(
けう
)
に
憑依
(
ひようい
)
する
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は、
491
先
(
ま
)
づ
此
(
この
)
位
(
くらゐ
)
な
程度
(
ていど
)
だよ、
492
イヒヽヽヽ』
493
亀公
(
かめこう
)
『
誠
(
まこと
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
高姫
(
たかひめ
)
さまの
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
だぞ。
494
チツトは
遠慮
(
ゑんりよ
)
を
致
(
いた
)
さぬかい』
495
鶴公
(
つるこう
)
『モシモシ
本当
(
ほんたう
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
、
496
高姫
(
たかひめ
)
さま、
497
貴女
(
あなた
)
はジツとして、
498
世界中
(
せかいぢう
)
の
事
(
こと
)
が
見
(
み
)
え
透
(
す
)
く
御
(
おん
)
身霊
(
みたま
)
、
499
表
(
おもて
)
へ
下
(
くだ
)
つて
来
(
き
)
た
飛行船
(
ひかうせん
)
の
主
(
ぬし
)
は
敵
(
てき
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
500
味方
(
みかた
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
501
どうぞお
知
(
し
)
らせ
下
(
くだ
)
さいませ。
502
これがよい
審神
(
さには
)
のし
時
(
どき
)
ぢや。
503
これが
分
(
わか
)
らぬよな
事
(
こと
)
では、
504
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまも
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
なものですよ。
505
貴女
(
あなた
)
の
信用
(
しんよう
)
を
回復
(
くわいふく
)
し……
否
(
いな
)
御
(
ご
)
威徳
(
ゐとく
)
を
顕彰
(
けんしやう
)
するのは、
506
今
(
いま
)
を
措
(
お
)
いて
他
(
ほか
)
にありませぬ。
507
サア
此
(
この
)
一瞬間
(
いつしゆんかん
)
が
貴女
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
し、
508
ウラナイ
教
(
けう
)
に
対
(
たい
)
し、
509
国家
(
こくか
)
興亡
(
こうばう
)
の
分
(
わか
)
るる
所
(
ところ
)
、
510
明
(
あきら
)
かに
命中
(
めいちう
)
させて、
511
一同
(
いちどう
)
の
胆玉
(
きもたま
)
を
取
(
と
)
り
挫
(
ひし
)
ぎ、
512
疑惑
(
ぎわく
)
を
晴
(
は
)
らしてやつて
下
(
くだ
)
さい』
513
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
鶴公
(
つるこう
)
、
514
一歩
(
ひとあし
)
出
(
で
)
れば
分
(
わか
)
る
事
(
こと
)
ぢやないか。
515
お
前
(
まへ
)
は
大
(
だい
)
それた、
516
神
(
かみ
)
を
審神
(
さには
)
せうとするのかい。
517
ソンナ
逆様事
(
さかさまごと
)
が
何処
(
どこ
)
に
有
(
あ
)
るものか。
518
恰度
(
ちやうど
)
学校
(
がくかう
)
の
生徒
(
せいと
)
が
校長
(
かうちやう
)
の
学力
(
がくりよく
)
を
試験
(
しけん
)
するよなものだ。
519
ソンナ
天地
(
てんち
)
の
転倒
(
ひつくりかへ
)
つた
事
(
こと
)
が
何処
(
どこ
)
に
有
(
あ
)
りますか。
520
心得
(
こころえ
)
なされツ』
521
鶴公
(
つるこう
)
『これは
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
みませぬ。
522
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
523
私
(
わたくし
)
も
実
(
じつ
)
は
今回
(
こんくわい
)
の
貴女
(
あなた
)
の
大失敗
(
だいしつぱい
)
を
回復
(
くわいふく
)
させ、
524
帰依心
(
きえしん
)
を
増
(
ま
)
さしめむが
為
(
ため
)
の、
525
血涙
(
けつるい
)
を
呑
(
の
)
みての
忠告
(
ちうこく
)
ですから、
526
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
つて
下
(
くだ
)
さつてはなりませぬ』
527
高姫
(
たかひめ
)
、
528
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
に、
529
高姫
『
今
(
いま
)
来
(
き
)
た
人
(
ひと
)
は
何
(
なに
)
して
居
(
ゐ
)
るのかなア、
530
早
(
はや
)
く
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れれば
良
(
よ
)
いのに……』
531
鶴公
(
つるこう
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
532
スツタ
揉
(
も
)
ンだと
掛合
(
かけあ
)
つとる
間
(
うち
)
に、
533
やがて
誰
(
たれ
)
か
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
ませう。
534
さうすればヤツと
胸
(
むね
)
撫
(
な
)
でおろし、
535
虎口
(
ここう
)
を
遁
(
のが
)
れたと、
536
一安心
(
ひとあんしん
)
する
人
(
ひと
)
が、
537
どつかに
一人
(
ひとり
)
現
(
あら
)
はれさうですよ』
538
高姫
(
たかひめ
)
チツトでも
暇
(
ひま
)
をいれようと
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
る。
539
外
(
そと
)
には
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
540
黒姫
(
くろひめ
)
、
541
寅若
(
とらわか
)
、
542
菊若
(
きくわか
)
、
543
富彦
(
とみひこ
)
の
五人
(
ごにん
)
連
(
づ
)
れ、
544
傷
(
きず
)
持
(
も
)
つ
足
(
あし
)
の
何
(
なん
)
となく
屋内
(
をくない
)
に
進
(
すす
)
みかね、
545
モヂモヂとして
入
(
い
)
りがてに
居
(
ゐ
)
る。
546
黒姫
(
くろひめ
)
『アヽ
誰
(
たれ
)
か
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れさうなものだなア。
547
何時
(
いつ
)
もの
様
(
やう
)
に
堂々
(
だうだう
)
と……
何
(
なん
)
だか
今日
(
けふ
)
は
閾
(
しきゐ
)
が
高
(
たか
)
くて
這入
(
はい
)
れない
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がする……オイ
寅若
(
とらわか
)
、
548
お
前
(
まへ
)
這入
(
はい
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
549
寅若
(
とらわか
)
『
此奴
(
こいつ
)
ア
一
(
ひと
)
つ
低気圧
(
ていきあつ
)
が
襲来
(
しふらい
)
しますよ。
550
ウツカリ
這入
(
はい
)
らうものなら、
551
暴風雨
(
ばうふうう
)
の
為
(
ため
)
に
何処
(
どこ
)
へ
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らされるか
分
(
わか
)
つたものぢや
有
(
あ
)
りませぬ。
552
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
に
横平
(
よこひら
)
たい
図体
(
づうたい
)
の
者
(
もの
)
は、
553
風
(
かぜ
)
が
能
(
よ
)
く
当
(
あた
)
つて
散
(
ち
)
り
易
(
やす
)
いから、
554
斯
(
こ
)
う
云
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
にはお
誂
(
あつら
)
ひ
向
(
むき
)
の
細長
(
ほそなが
)
い、
555
風
(
かぜ
)
を
啣
(
ふく
)
まぬ、
556
帆柱竹
(
ほばしらだけ
)
の
様
(
やう
)
な
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまが
適任
(
てきにん
)
でせう』
557
黒姫
(
くろひめ
)
『エー
一寸
(
ちよつと
)
も
自由
(
じいう
)
にならぬ
人
(
ひと
)
だな。
558
なぜお
前
(
まへ
)
はそれ
程
(
ほど
)
師匠
(
ししやう
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
用
(
もち
)
ひぬのだい』
559
寅若
(
とらわか
)
『ヘン、
560
師匠
(
ししやう
)
なぞと、
561
殊勝
(
しゆしよう
)
らしい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますワイ。
562
失笑
(
しつせう
)
せざるを
得
(
え
)
ませぬワ。
563
今
(
いま
)
までは
乞食
(
こじき
)
の
虱
(
しらみ
)
の
様
(
やう
)
に
口
(
くち
)
で
殺
(
ころ
)
して
御座
(
ござ
)
つたが、
564
今度
(
こんど
)
の
失敗
(
しつぱい
)
はどうです。
565
吾々
(
われわれ
)
の
顔
(
かほ
)
までが、
566
何
(
なん
)
ともなしに
痩
(
や
)
せた
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
しますワイ。
567
これと
云
(
い
)
ふも
全
(
まつた
)
く、
568
お
前
(
まへ
)
さまが
出
(
だ
)
しやばるからだ。
569
それだから
牝鶏
(
めんどり
)
の
唄
(
うた
)
ふ
家
(
うち
)
は
碌
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬと
言
(
い
)
ひませうがな。
570
此
(
この
)
役目
(
やくめ
)
は
大責任
(
だいせきにん
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
たせられる
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
直接
(
ちよくせつ
)
任務
(
にんむ
)
だ。
571
外
(
ほか
)
の
事
(
こと
)
なら
二
(
ふた
)
つ
返辞
(
へんじ
)
で
承
(
うけたま
)
はりませうが、
572
こればつかりは
真
(
ま
)
つ
平
(
ぴら
)
御免
(
ごめん
)
だ。
573
お
生憎
(
あいにく
)
様
(
さま
)
……』
574
と
白
(
しろ
)
い
歯
(
は
)
を
喰
(
く
)
ひ
締
(
し
)
め、
575
腮
(
あご
)
を
しやく
つて
見
(
み
)
せたり。
576
黒姫
(
くろひめ
)
『エー
剛情
(
がうじやう
)
な
男
(
をとこ
)
だナア。
577
一旦
(
いつたん
)
師匠
(
ししやう
)
と
仰
(
あふ
)
いだら、
578
何
(
なん
)
でも
彼
(
かん
)
でも
盲従
(
まうじゆう
)
するのが
弟子
(
でし
)
の
道
(
みち
)
だ。
579
師匠
(
ししやう
)
や
親
(
おや
)
は
無理
(
むり
)
を
云
(
い
)
ふものだと
思
(
おも
)
ひなされと、
580
常々
(
つねづね
)
云
(
い
)
うて
聞
(
き
)
かして
有
(
あ
)
るぢやないか。
581
何事
(
なにごと
)
に
依
(
よ
)
らず、
582
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
を
誓
(
ちか
)
つたお
前
(
まへ
)
ぢやないか。
583
モウお
前
(
まへ
)
は
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り、
584
師弟
(
してい
)
の
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
るから、
585
さう
思
(
おも
)
ひなさい』
586
寅若
(
とらわか
)
『トラ、
587
ワカらぬ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますな。
588
宇治
(
うぢ
)
の
橋姫
(
はしひめ
)
ぢやないが、
589
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
縁
(
えん
)
を
切
(
き
)
るの、
590
封
(
ふう
)
を
切
(
き
)
るのと、
591
口癖
(
くちぐせ
)
の
様
(
やう
)
に……
馬鹿
(
ばか
)
々々
(
ばか
)
しい。
592
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
此方
(
こちら
)
から
切
(
き
)
りたい
位
(
くらゐ
)
だ。
593
アツハヽヽヽ』
594
菊若
(
きくわか
)
『モシモシ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
595
私
(
わたくし
)
は
何時
(
いつ
)
も
申
(
まを
)
す
通
(
とほ
)
り、
596
善悪
(
ぜんあく
)
邪正
(
じやせい
)
の
外
(
ほか
)
に
超越
(
てうゑつ
)
し、
597
絶対
(
ぜつたい
)
信仰
(
しんかう
)
を
以
(
もつ
)
て
貴女
(
あなた
)
の
仰
(
あふ
)
せは、
598
徹頭
(
てつとう
)
徹尾
(
てつび
)
キク
若
(
わか
)
だ。
599
オイ
富彦
(
とみひこ
)
、
600
俺
(
おれ
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い。
601
何時
(
いつ
)
まで
閾
(
しきゐ
)
が
高
(
たか
)
いと
言
(
い
)
つて、
602
物貰
(
ものもら
)
ひの
様
(
やう
)
に
門口
(
かどぐち
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
たところで、
603
解決
(
かいけつ
)
がつかない。
604
常
(
つね
)
よりも
大股
(
おほまた
)
に
跨
(
また
)
げて
這入
(
はい
)
らうぢやないか、
605
黒姫
(
くろひめ
)
さまばつかりの
失敗
(
しつぱい
)
ぢやない。
606
総監督
(
そうかんとく
)
の
任
(
にん
)
に
当
(
あた
)
る
高姫
(
たかひめ
)
さまも、
607
其
(
その
)
責
(
せめ
)
を
負
(
お
)
ふべきものだ。
608
先
(
さき
)
んずれば
人
(
ひと
)
を
制
(
せい
)
すだ。
609
ナニ
構
(
かま
)
ふものか、
610
堂々
(
だうだう
)
と
這入
(
はい
)
つてやらうかい』
611
と
菊若
(
きくわか
)
はワザと
大
(
おほ
)
きな
咳払
(
せきばらひ
)
をなし、
612
富彦
(
とみひこ
)
を
従
(
したが
)
へ、
613
大手
(
おほて
)
を
揮
(
ふ
)
つて、
614
人声
(
ひとごゑ
)
のする
八咫
(
やあた
)
の
大広間
(
おほひろま
)
へ
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
615
菊若
(
きくわか
)
『これはこれは
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
616
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
で
御
(
ご
)
帰館
(
きくわん
)
遊
(
あそ
)
ばされまして、
617
お
芽出
(
めで
)
たう
存
(
ぞん
)
じます』
618
高姫
(
たかひめ
)
『
此
(
この
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
が
霊眼
(
れいがん
)
で
見
(
み
)
た
通
(
とほ
)
り、
619
お
前
(
まへ
)
は
黒姫
(
くろひめ
)
のお
使
(
つかい
)
で、
620
飛行船
(
ひかうせん
)
に
乗
(
の
)
つて
遠方
(
ゑんぱう
)
ご
苦労
(
くらう
)
だつたなア。
621
あア
見
(
み
)
えても
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
622
黒姫
(
くろひめ
)
さまも
大抵
(
たいてい
)
ぢやない。
623
非常
(
ひじやう
)
な
御
(
ご
)
苦心
(
くしん
)
だ。
624
何事
(
なにごと
)
も
時節
(
じせつ
)
には
敵
(
かな
)
はぬから、
625
お
前
(
まへ
)
が
帰
(
かへ
)
つたら、
626
どうぞ
慰
(
なぐさ
)
めて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいよ。
627
妾
(
わし
)
もつい
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つて、
628
怒
(
おこ
)
つて
帰
(
かへ
)
るは
帰
(
かへ
)
つたものの、
629
何
(
なん
)
だか
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
事
(
こと
)
が
気
(
き
)
になつて、
630
後
(
うし
)
ろ
髪
(
がみ
)
曳
(
ひ
)
かるる
様
(
やう
)
な
気
(
き
)
がしてならなかつた。
631
アヽ
可哀相
(
かはいさう
)
に……
魔窟
(
まくつ
)
ケ
原
(
はら
)
の
陰気
(
いんき
)
な
岩窟
(
いはや
)
で、
632
黒姫
(
くろひめ
)
さまも
第二
(
だいに
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
をして
御座
(
ござ
)
るであらう』
633
菊若
(
きくわか
)
『イエ、
634
黒姫
(
くろひめ
)
さま
始
(
はじ
)
め、
635
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
636
寅若
(
とらわか
)
も、
637
今
(
いま
)
門前
(
もんぜん
)
へ
飛来
(
ひらい
)
致
(
いた
)
しまして、
638
余
(
あま
)
り
貴方
(
あなた
)
に
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
がないので、
639
門口
(
かどぐち
)
にモガモガと
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
で、
640
這入
(
はい
)
るにも
這入
(
はい
)
られず、
641
帰
(
かへ
)
るにも
帰
(
かへ
)
られぬと
言
(
い
)
つて、
642
煩悶
(
はんもん
)
苦悩
(
くなう
)
の
自由
(
じいう
)
権利
(
けんり
)
を
極端
(
きよくたん
)
に
発揮
(
はつき
)
して
居
(
を
)
られます』
643
高姫
(
たかひめ
)
『アヽさうだらうさうだらう、
644
妾
(
わし
)
の
見
(
み
)
たのは
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
だつた。
645
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
は
依然
(
いぜん
)
として
岩窟
(
いはや
)
に
止
(
とど
)
まつて
居
(
ゐ
)
られる。
646
副守
(
ふくしゆ
)
の
先生
(
せんせい
)
肉体
(
にくたい
)
をひつぱつて
来
(
き
)
たのだな。
647
何分
(
なにぶん
)
顕幽
(
けんいう
)
を
超越
(
てうゑつ
)
して
居
(
を
)
る
天眼通
(
てんがんつう
)
だから、
648
ツイ
軽率
(
けいそつ
)
に
見誤
(
みあやま
)
つたのだ。
649
霊眼
(
れいがん
)
と
云
(
い
)
ふものは
余程
(
よほど
)
注意
(
ちうい
)
をせなならぬものだ、
650
ホツホヽヽヽ』
651
鶴公
(
つるこう
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
652
貴方
(
あなた
)
の
霊眼
(
れいがん
)
は
実
(
じつ
)
に
重宝
(
ちようほう
)
ですなア。
653
活殺
(
くわつさつ
)
自在
(
じざい
)
、
654
実
(
じつ
)
に
一分
(
いちぶ
)
一厘
(
いちりん
)
の
隙
(
すき
)
も
有
(
あ
)
りませぬワ。
655
さうなくては
一方
(
いつぱう
)
の
将
(
しやう
)
として、
656
多数
(
たすう
)
を
率
(
ひき
)
ゐる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬワイ。
657
イヤもう
貴方
(
あなた
)
の
神智
(
しんち
)
神識
(
しんしき
)
には……
否
(
いな
)
邪智
(
じやち
)
頑識
(
ぐわんしき
)
には、
658
実
(
じつ
)
に
感服
(
かんぷく
)
の
外
(
ほか
)
なしで
御座
(
ござ
)
います』
659
高姫
(
たかひめ
)
『エーつべこべ
何
(
なに
)
理屈
(
りくつ
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
660
神界
(
しんかい
)
の
事
(
こと
)
が
物質
(
ぶつしつ
)
かぶれのお
前
(
まへ
)
に
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
るものか。
661
斯
(
こ
)
うして
幾十
(
いくじふ
)
年
(
ねん
)
も
神界
(
しんかい
)
の
為
(
ため
)
に
尽
(
つく
)
して
居
(
を
)
る
妾
(
わたし
)
でさへも、
662
あまり
奥
(
おく
)
が
深
(
ふか
)
うてまだ
其
(
その
)
蘊奥
(
うんあう
)
を
究
(
きは
)
めて
居
(
ゐ
)
ない
位
(
くらゐ
)
だのに、
663
僅
(
わづ
)
か
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
足
(
た
)
らずの
入信者
(
にふしんじや
)
が
分
(
わか
)
つてたまるものか……
誠
(
まこと
)
が
分
(
わか
)
りたら、
664
口
(
くち
)
をつまへて
黙
(
だま
)
りて
居
(
を
)
つて、
665
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
さなならぬ
様
(
やう
)
になるぞよ。
666
ゴテゴテと
喋舌
(
しやべ
)
りたい
間
(
あひだ
)
は、
667
誠
(
まこと
)
の
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
て
居
(
を
)
らぬのであるぞよ。
668
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
致
(
いた
)
して、
669
うぶの
心
(
こころ
)
になりて、
670
誠
(
まこと
)
の
御用
(
ごよう
)
を
致
(
いた
)
して
下
(
くだ
)
されよ……と
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
のお
筆先
(
ふでさき
)
にチヤンと
書
(
か
)
いて
有
(
あ
)
るぢやないか。
671
筆先
(
ふでさき
)
の
読
(
よ
)
みよが
足
(
た
)
らぬと、
672
そンな
屁理屈
(
へりくつ
)
を
言
(
い
)
はねばならぬ。
673
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
は
理屈
(
りくつ
)
では
可
(
い
)
けませぬぞエ。
674
絶対
(
ぜつたい
)
服従
(
ふくじゆう
)
、
675
帰依心
(
きえしん
)
、
676
帰依道
(
きえだう
)
、
677
帰依師
(
きえし
)
でなければ
信仰
(
しんかう
)
の
鍵
(
かぎ
)
は
握
(
にぎ
)
れませぬぞエ』
678
鶴公
(
つるこう
)
『
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
にはよい
避難所
(
ひなんじよ
)
を
見
(
み
)
つけられますなア。
679
鍵
(
かぎ
)
が
握
(
にぎ
)
れぬなぞと、
680
うまく
仰有
(
おつしや
)
いますワイ。
681
鶴公
(
つるこう
)
の
名論
(
めいろん
)
卓説
(
たくせつ
)
を
握
(
にぎ
)
り
潰
(
つぶ
)
すと
云
(
い
)
ふ
心算
(
しんざん
)
でせう』
682
高姫
(
たかひめ
)
『きまつた
事
(
こと
)
だ。
683
古参者
(
こさんもの
)
の
吾々
(
われわれ
)
に、
684
新参
(
しんざん
)
のお
前
(
まへ
)
たちが、
685
太刀打
(
たちうち
)
しようと
思
(
おも
)
つたつてそりや
駄目
(
だめ
)
だ。
686
駄目
(
だめ
)
の
事
(
こと
)
は
言
(
い
)
はぬが
宜
(
よろ
)
しい。
687
あつたら
口
(
くち
)
に
風
(
かぜ
)
引
(
ひ
)
かすよなものだ。
688
何時
(
いつ
)
までもツルツルと
理屈
(
りくつ
)
を
仰有
(
おつしや
)
るなら、
689
モウ
神
(
かみ
)
のツルを
切
(
き
)
らうか』
690
鶴公
(
つるこう
)
『ツルなつと、
691
カメなつと、
692
縁
(
えん
)
なつとお
切
(
き
)
りなさい。
693
三五教
(
あななひけう
)
もウラナイ
教
(
けう
)
も
奉斎
(
ほうさい
)
主神
(
しゆしん
)
は
同
(
をんな
)
じ
事
(
こと
)
だもの。
694
私
(
わたくし
)
は
神
(
かみ
)
さまと
直接
(
ちよくせつ
)
交渉
(
かうせふ
)
致
(
いた
)
します。
695
人
(
ひと
)
を
力
(
ちから
)
にするな、
696
師匠
(
ししやう
)
を
杖
(
つゑ
)
につくなと、
697
三五教
(
あななひけう
)
もどきに
貴女
(
あなた
)
も
始終
(
しじう
)
仰有
(
おつしや
)
つたぢやありませぬか。
698
嘘
(
うそ
)
を
吐
(
つ
)
く
師匠
(
ししやう
)
を
杖
(
つゑ
)
に
突
(
つ
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
699
熟々
(
つくづく
)
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ればみる
程
(
ほど
)
厭
(
いや
)
になつて
来
(
き
)
ましたワイ。
700
何
(
いづ
)
れ
私
(
わたくし
)
が
脱退
(
だつたい
)
すれば、
701
千匹猿
(
せんびきざる
)
の
様
(
やう
)
に、
702
喧
(
やかま
)
し
屋
(
や
)
の
革新派
(
かくしんは
)
が
従
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るでせう。
703
さうすればウラナイ
教
(
けう
)
もシーンとして、
704
世間
(
せけん
)
から
見
(
み
)
て、
705
大
(
おほ
)
きな
館
(
やかた
)
で
沢山
(
たくさん
)
人
(
ひと
)
が
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だがナンした
静
(
しづ
)
かな
所
(
ところ
)
ぢやと、
706
世間
(
せけん
)
から
申
(
まを
)
す
様
(
やう
)
になるぞよ。
707
さうでなければ
誠
(
まこと
)
が
開
(
ひら
)
けぬぞよと
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
のお
筆先
(
ふでさき
)
にも
出
(
で
)
て
居
(
ゐ
)
る
通
(
とほ
)
り、
708
貴方
(
あなた
)
も
御
(
ご
)
本望
(
ほんもう
)
でせう。
709
筆先
(
ふでさき
)
の
実地
(
じつち
)
証明
(
しようめい
)
が
出来
(
でき
)
て、
710
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
は
益々
(
ますます
)
揚
(
あが
)
り、
711
旭日
(
きよくじつ
)
昇天
(
しようてん
)
のウラナイ
教
(
けう
)
となりませう』
712
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
鶴公
(
つるこう
)
、
713
よう
物
(
もの
)
を
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
なさいや、
714
ソンナ
浅薄
(
せんぱく
)
な
仕組
(
しぐみ
)
ぢや
有
(
あ
)
りませぬぞエ。
715
お
前
(
まへ
)
はチツトばかり
青表紙
(
あをべうし
)
や、
716
蟹文字
(
かにもんじ
)
を
噛
(
かぢ
)
つて
居
(
ゐ
)
るから、
717
仕末
(
しまつ
)
にをへぬ。
718
マアマア
時節
(
じせつ
)
を
待
(
ま
)
ちなさい。
719
枯木
(
かれき
)
にも
花
(
はな
)
咲
(
さ
)
く
時
(
とき
)
が
来
(
く
)
る。
720
後
(
あと
)
になつて、
721
アーアあの
時
(
とき
)
に
短気
(
たんき
)
を
起
(
おこ
)
さなかつたらよかつたにと、
722
地団駄
(
ぢだんだ
)
踏
(
ふ
)
みてジリジリ
悶
(
もだ
)
えをしてもあきませぬぞエ。
723
よう
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
を
当
(
あて
)
て
心
(
こころ
)
と
相談
(
さうだん
)
をして
見
(
み
)
なさい』
724
鶴公
(
つるこう
)
『ヤツパリ、
725
私
(
わたくし
)
の
様
(
やう
)
なプロテスタントにも
未練
(
みれん
)
がかかりますかなア』
726
高姫
(
たかひめ
)
『プロテスタント
派
(
は
)
だから
余計
(
よけい
)
可愛
(
かあい
)
のだ。
727
敵
(
てき
)
を
愛
(
あい
)
せよと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
仰有
(
おつしや
)
る。
728
改心
(
かいしん
)
の
出来
(
でき
)
ぬ
悪人
(
あくにん
)
程
(
ほど
)
、
729
妾
(
わたし
)
は
可愛
(
かあい
)
いのだ。
730
不具
(
ふぐ
)
な
子
(
こ
)
程
(
ほど
)
親
(
おや
)
は
余計
(
よけい
)
憐
(
あは
)
れみを
加
(
くは
)
へたがる
様
(
やう
)
に、
731
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
慈愛
(
じあい
)
と
云
(
い
)
ふものは、
732
親
(
おや
)
が
子
(
こ
)
を
思
(
おも
)
ふと
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ』
733
鶴公
(
つるこう
)
『アヽ
仕方
(
しかた
)
がない。
734
流石
(
さすが
)
は
高姫
(
たかひめ
)
さまだ。
735
チツトも
攻撃
(
こうげき
)
の
出来
(
でき
)
ない
様
(
やう
)
に、
736
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
鉄条網
(
てつでうまう
)
を
張
(
は
)
つて
了
(
しま
)
つた』
737
高姫
(
たかひめ
)
『
早
(
はや
)
く
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
此方
(
こちら
)
へお
迎
(
むか
)
へして
来
(
こ
)
ないか。
738
コレコレ
亀公
(
かめこう
)
、
739
黒姫
(
くろひめ
)
さま
一同
(
いちどう
)
にどうぞお
這入
(
はい
)
りなさいませと
言
(
い
)
つて、
740
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
を
申
(
まを
)
してお
出
(
い
)
で……』
741
亀公
(
かめこう
)
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
742
鶴公
(
つるこう
)
『オイ
亀公
(
かめこう
)
、
743
鶴
(
つる
)
と
亀
(
かめ
)
とは
配合物
(
つきもん
)
だ。
744
俺
(
おれ
)
も
従
(
つ
)
いて
往
(
い
)
かう』
745
亀公
(
かめこう
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
が
来
(
く
)
ると
又
(
また
)
難問題
(
なんもんだい
)
が
突発
(
とつぱつ
)
すると
仲裁
(
ちうさい
)
に
困
(
こま
)
るから、
746
マア
控
(
ひか
)
へとつて
呉
(
く
)
れ』
747
鶴公
(
つるこう
)
『ナーニ、
748
鶴
(
つる
)
と
亀
(
かめ
)
と
揃
(
そろ
)
うてゆけば、
749
鶴亀
(
くわくき
)
凛々
(
りんりん
)
だ。
750
活機
(
くわつき
)
臨々
(
りんりん
)
として
高姫
(
たかひめ
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
は、
751
天
(
てん
)
より
高
(
たか
)
く
輝
(
かがや
)
き
亘
(
わた
)
り、
752
大空
(
おほぞら
)
に
塞
(
ふさ
)
がる
黒姫
(
くろひめ
)
……オツトドツコイ
黒雲
(
くろくも
)
は、
753
高山彦
(
たかやまひこ
)
のイホリを
掻
(
か
)
き
分
(
わ
)
けて、
754
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
となるに
定
(
きま
)
つて
居
(
を
)
る。
755
それは
此
(
この
)
鶴公
(
つるこう
)
が
鶴証
(
くわくせう
)
するよ。
756
アハヽヽヽ』
757
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
鶴公
(
つるこう
)
、
758
お
前
(
まへ
)
は
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
なさい。
759
亀公
(
かめこう
)
一人
(
ひとり
)
で
結構
(
けつこう
)
だ』
760
鶴公
(
つるこう
)
『これは
高姫
(
たかひめ
)
さまのお
言葉
(
ことば
)
とも
覚
(
おぼ
)
えませぬ。
761
折角
(
せつかく
)
遠方
(
ゑんぱう
)
からお
出
(
い
)
でになつたのに、
762
亀公
(
かめこう
)
一人
(
ひとり
)
を
出
(
だ
)
しては、
763
チツト
不待遇
(
ふたいぐう
)
ぢや
有
(
あ
)
りませぬか。
764
鶴亀
(
つるかめ
)
の
揃
(
そろ
)
はぬのは、
765
あまりお
芽出
(
めで
)
たうは
有
(
あ
)
りますまいぞ。
766
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
は
芽出
(
めで
)
たい
様
(
やう
)
にと、
767
鶴亀
(
つるかめ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
連
(
つ
)
れてお
出
(
い
)
でになつたが、
768
ヤツパリ……ヤツパリだから、
769
御
(
お
)
案
(
あん
)
じ
遊
(
あそ
)
ばすのも
無理
(
むり
)
は
御座
(
ござ
)
いますまい。
770
……エー
仕方
(
しかた
)
が
有
(
あ
)
りませぬ。
771
大譲歩
(
だいじやうほ
)
を
致
(
いた
)
しまして、
772
鶴公
(
つるこう
)
は
本陣
(
ほんぢん
)
に
扣
(
ひか
)
へて
居
(
を
)
りませう。
773
……オイ
亀公
(
かめこう
)
、
774
一人
(
ひとり
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
775
鶴公
(
つるこう
)
は
奥
(
おく
)
にハシヤいで
居
(
ゐ
)
ます……と
黒姫
(
くろひめ
)
さま
一行
(
いつかう
)
に
伝言
(
でんごん
)
をするのだよ』
776
亀公
(
かめこう
)
『
勝手
(
かつて
)
に、
777
何
(
なん
)
なと
吐
(
ほざ
)
けツ』
778
と
足
(
あし
)
を
早
(
はや
)
めて
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したり。
779
黒姫
(
くろひめ
)
の
一行
(
いつかう
)
は
亀公
(
かめこう
)
に
案内
(
あんない
)
され、
780
喪家
(
さうか
)
の
犬
(
いぬ
)
の
様
(
やう
)
に
悄気返
(
しよげかへ
)
つて、
781
コソコソと
足音
(
あしおと
)
までソツと、
782
薄氷
(
はくひよう
)
を
踏
(
ふ
)
む
様
(
やう
)
な
体裁
(
ていさい
)
で
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれたり。
783
高姫
(
たかひめ
)
『アヽ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
784
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
785
ようマア
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さつた。
786
今
(
いま
)
も
今
(
いま
)
とて
霊眼
(
れいがん
)
で
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
心労
(
しんらう
)
を
拝観
(
はいくわん
)
して
居
(
ゐ
)
ました。
787
お
前
(
まへ
)
さまは
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
容器
(
いれもの
)
だらう。
788
黒姫
(
くろひめ
)
さまや、
789
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
は
屹度
(
きつと
)
アンナ
利巧
(
りかう
)
な
事
(
こと
)
はなさいますまい』
790
黒姫
(
くろひめ
)
『ハイ
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
の
有
(
あ
)
り……もせぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しまして、
791
何分
(
なにぶん
)
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
権幕
(
けんまく
)
が
強
(
つよ
)
いものですから、
792
黒姫
(
くろひめ
)
の
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
も
持
(
も
)
て
余
(
あま
)
して
居
(
ゐ
)
られますワイ。
793
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
も
第二
(
だいに
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
をやつて
居
(
ゐ
)
られます。
794
此処
(
ここ
)
に
参上
(
みえ
)
たのはヤツパリお
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
の
容器
(
いれもの
)
で
御座
(
ござ
)
います』
795
高姫
(
たかひめ
)
『それはそれは
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
どの、
796
遠路
(
ゑんろ
)
の
所
(
ところ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
797
サアサアどうぞ
妾
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
へお
出
(
い
)
で
下
(
くだ
)
さいませ。
798
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
同志
(
どうし
)
、
799
何
(
なに
)
かの
相談
(
さうだん
)
を
致
(
いた
)
しませう』
800
ハイと
答
(
こた
)
へて、
801
黒姫
(
くろひめ
)
、
802
高山彦
(
たかやまひこ
)
は、
803
高姫
(
たかひめ
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ、
804
ホツと
一息
(
ひといき
)
つき
乍
(
なが
)
ら、
805
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
指
(
さ
)
してシホシホと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
806
後
(
あと
)
には
魔我彦
(
まがひこ
)
、
807
蠑螈別
(
いもりわけ
)
、
808
鶴公
(
つるこう
)
、
809
亀公
(
かめこう
)
、
810
寅若
(
とらわか
)
、
811
菊若
(
きくわか
)
、
812
富彦
(
とみひこ
)
、
813
甲
(
かふ
)
乙
(
おつ
)
丙
(
へい
)
丁
(
てい
)
戊
(
ぼう
)
己
(
き
)
其
(
その
)
他
(
た
)
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
者
(
もの
)
、
814
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れ、
815
喧々
(
けんけん
)
囂々
(
ごうごう
)
、
816
遂
(
つい
)
には
打
(
う
)
つ、
817
蹴
(
け
)
る、
818
擲
(
なぐ
)
る、
819
泣
(
な
)
く、
820
笑
(
わら
)
ふ、
821
怒
(
おこ
)
るの
一大
(
いちだい
)
修羅場
(
しゆらぢやう
)
が
現出
(
げんしゆつ
)
されウラナイ
教
(
けう
)
の
本山
(
ほんざん
)
は
鼎
(
かなへ
)
の
沸
(
わ
)
くが
如
(
ごと
)
く
大乱脈
(
だいらんみやく
)
の
幕
(
まく
)
に
包
(
つつ
)
まれにける。
822
(
大正一一・五・七
旧四・一一
松村真澄
録)
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PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
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【霊界物語ネット】
霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
を掲載しました。
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【05 零敗の苦|第19巻(午の巻)|霊界物語/rm1905】
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