霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 混線(こんせん)〔六五八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻 篇:第4篇 地異天変 よみ(新仮名遣い):ちいてんぺん
章:第13章 混線 よみ(新仮名遣い):こんせん 通し章番号:658
口述日:1922(大正11)年05月09日(旧04月13日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年2月28日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
ウラル教の宣伝使、テルヂーとコロンボは、自転倒島の大原山山麓を、月の光を浴びながら歩いていた。
すると傍らの森に怪しい人声がする。耳を済ませると、それはバラモン教の谷丸、鬼丸だった。谷丸と鬼丸は、高熊山の言照姫が産んだという玉照彦を奪って来たのであった。二人は玉照彦を使って、バラモン教の再興をしようと企んでいた。
テルヂーは夜道の途上で老木の上から天狗の声色を使って、谷丸と鬼丸を驚かして、玉照彦を奪おうと画策した。テルヂーは木に登り、コロンボは路傍の枯れ草の中に身を潜めた。
谷丸と鬼丸は、まさかの時にはばらばらに逃げて、天狗岩で落ち合おうと決めた。谷丸と鬼丸が老木の下にやってくると、テルヂーは樹上から天狗の声色を使って怒鳴りつけた。
鬼丸はおびえて天狗に詫びを言い始めるが、谷丸はまったく恐れず、逆に天狗を怒鳴りつけて、降りてくるようにと言い放つ。
谷丸の勢いに恐れたコロンボは、谷丸に詫び言を言う。谷丸は、それを鬼丸の副守護神だと勘違いする。そこへ、テルヂーが足を踏み外して樹上から落ち、物凄い音を立てた。
下にいた三人は驚いて、それぞれ逃げて行った。谷丸と鬼丸は、天狗岩を目指したが、テルヂーとコロンボの落ち合い場所も、同じ天狗岩だった。
コロンボが最初に天狗岩にたどり着いて待っていると、白いものを抱えた人影がやってきた。コロンボは、テルヂーが玉照彦を奪ってやって来たと勘違いして声をかけるが、それは谷丸だった。
谷丸はてっきり、声を掛けてきたのは鬼丸だと思って、二人は会話するが、それぞれ誤解したまま話がかみ合ってしまい、二人は互いに別人と話していることに気がつかない。
一方、鬼丸は天狗岩に来る途中に、路傍の岩に腰を掛けて休んでいると、下から駆け上がってくる人影がある。鬼丸はてっきり、谷丸だと思って声を掛けたが、これがテルヂーだった。二人はてっきりお互いに相棒だと思って声を掛け合うが、このとき満月が雲を別けて、皓皓と辺りを照らした。
テルヂーと鬼丸は、互いに名乗りあい、テルヂーは計画の一部始終を明かした。鬼丸は、バラモン教とウラナイ教の同盟軍を作って三五教に対抗しよう、と提案し、テルヂーを天狗岩に連れて来た。
谷丸は、玉照彦を苦労して奉迎したのは自分たちだ、と提携を断るが、よくよく見ると自分が抱えていたのは、玉照彦じゃなくて石だったとわかった。四人はそれぞれ、玉照彦を探し出して自分の陣営に迎えようと、元来た道を走り出した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-04-11 19:16:50 OBC :rm1913
愛善世界社版:213頁 八幡書店版:第4輯 109頁 修補版: 校定版:217頁 普及版:99頁 初版: ページ備考:
001(つき)()りわたる御空(みそら)より
002まばらの(ゆき)はちらちらと
003(はづ)かしさうに()つて()
004樹木(じゆもく)(しげ)れる木下闇(こじたやみ)
005ウラル(けう)宣伝使(せんでんし)
006テルヂー、コロンボの両人(りやうにん)
007常世(とこよ)(くに)(あと)()
008ウラルの(みち)(ひら)かむと
009海河(うみかは)山野(やまぬ)打渡(うちわた)
010自転倒(おのころ)(じま)()()れば
011(はるか)(そら)(むらさき)
012(くも)()(のぼ)(あや)しさに
013()れぞ(まさ)しく真人(しんじん)
014出現(しゆつげん)ならむ()(かく)
015(くも)目当(めあ)てに()()むと
016高熊山(たかくまやま)峰伝(みねづた)
017大原山(おほはらやま)山麓(さんろく)
018(つき)(ひかり)()(なが)
019二人(ふたり)テクテク(すす)()る。
020 片方(かたへ)(もり)(あや)しき(ひと)(こゑ)021何事(なにごと)ならむと両人(りやうにん)は、022()(あし)023()(あし)024摺寄(すりよ)つて、025(こゑ)出処(でどころ)(うかが)()る。
026谷丸(たにまる)『オイ、027鬼丸(おにまる)028()苦労(くらう)だつたなア。029鬼雲彦(おにくもひこ)(おん)大将(たいしやう)は、030三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)撃退(げきたい)され、031(つづ)いて(おに)(じやう)堅城(けんじやう)鉄壁(てつぺき)(かま)へ、032天下(てんか)席巻(せきけん)せむとして()鬼熊別(おにくまわけ)副将(ふくしやう)(また)033アヽ()悲惨(みじめ)(ざま)になつて、034フサの(くに)()(かへ)り、035()(のこ)された吾々(われわれ)は、036(とり)(つばさ)()られたやうな悲境(ひきやう)沈淪(ちんりん)し、037(なん)とかしてモウ一度(いちど)038大江山(おほえやま)039(おに)(じやう)回復(くわいふく)し、040吾々(われわれ)両人(りやうにん)両山(りやうざん)()(こも)り、041(ふたた)堂々(だうだう)陣取(ぢんど)り、042以前(いぜん)隆盛(りうせい)復活(ふくくわつ)せむと、043千辛(せんしん)万苦(ばんく)結果(けつくわ)(やうや)目的(もくてき)(たつ)し、044()うして高熊山(たかくまやま)言照姫(ことてるひめ)()んだとか()玉照彦(たまてるひこ)(かみ)(さま)をお(むか)へした以上(いじやう)は、045何程(なにほど)三五教(あななひけう)だつて、046どうする(こと)出来(でき)まい。047ウラナイ(けう)高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)(やつ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(ほね)()つて、048その結果(けつくわ)三五教(あななひけう)肝腎(かんじん)玉照姫(たまてるひめ)横奪(わうだつ)され、049(いま)(ところ)ではウラナイ(けう)追々(おひおひ)凋落(てうらく)(かぜ)()いて()よつたぢやないか。050それに引替(ひきか)三五教(あななひけう)は、051玉照姫(たまてるひめ)神力(しんりき)で、052あの(とほ)りの隆盛(りうせい)だ。053吾々(われわれ)(ほう)ずるバラモン(けう)も、054玉照彦(たまてるひこ)さへ()()らば、055三五教(あななひけう)もウラナイ(けう)も、056(ただ)一蹴(いつしう)(もと)(ほろ)ぼして(しま)ふのだが、057到底(たうてい)大将(たいしやう)があんな(こと)になつたのだから、058どうする(こと)出来(でき)やしない。059(しか)(なが)吾々(われわれ)仮令(たとへ)鬼雲彦(おにくもひこ)060鬼熊別(おにくまわけ)大将(たいしやう)屁古垂(へこた)れても(まこと)(かみ)さまは(けつ)して屁古垂(へこた)れないのだから、061一人(ひとり)になつても(この)(みち)()てねば()かぬと(おも)つて()たが、062()てば海路(かいろ)(かぜ)()くとやら、063今日(けふ)本当(ほんたう)結構(けつこう)()だつたネー。064それに(つい)てもお(まへ)随分(ずゐぶん)(ほね)()らしたものだ』
065鬼丸(おにまる)谷丸(たにまる)哥兄(あにい)066(べつ)(おれ)にそう(れい)()ふには(およ)ばぬぢやないか。067(まへ)(はたら)きつたら、068(じつ)華々(はなばな)しいものだつた。069山口(やまぐち)来勿止(くなどめ)まで()つた(とき)は、070来勿止(くなどめの)(かみ)沢山(たくさん)手下(てした)引連(ひきつ)れ、071(かた)(まも)つて()る。072(おれ)はモウ(この)難関(なんくわん)をどうして突破(とつぱ)しようと心配(しんぱい)でならなかつた、073その(とき)(まへ)来勿止(くなどめの)(かみ)(むか)つて、074強硬(きやうかう)談判(だんぱん)をやつたお(かげ)で、075ヤツと(その)()通過(つうくわ)高熊山(たかくまやま)(ふもと)まで(およ)ぎつく(やう)にして()けつけて、076ヤアこれでこつちのものだと安心(あんしん)して()最中(さいちう)へ、077神国守(みくにもり)(かみ)国依姫(くによりひめ)とか()女房(にようばう)()れて(その)()(あら)はれ、078(おれ)(たち)(にら)んだ(とき)(その)形相(ぎやうさう)(すさま)じさ、079(いま)(おも)つてもゾツとするよ』
080谷丸(たにまる)(しか)(なが)らイロイロと得意(とくい)弁舌(べんぜつ)(もつ)て、081(この)関所(せきしよ)をウマく()()け、082両人(りやうにん)岩窟(がんくつ)(まへ)()つた(ところ)083目的物(もくてきぶつ)言照姫(ことてるひめ)玉照彦(たまてるひこ)さまも、084姿(すがた)()えず、085イロイロと岩窟内(がんくつない)探険(たんけん)する最中(さいちう)086赤児(あかご)()(ごゑ)(みみ)這入(はい)つた(とき)(うれ)しさ、087(へそ)()()つてから、088あの(とき)(くらゐ)愉快(ゆくわい)(こと)はなかつたなア』
089鬼丸(おにまる)『お(かげ)玉照彦(たまてるひこ)(さま)奉迎(ほうげい)して(かへ)つたが、090女神(めがみ)(やう)立派(りつぱ)なお姿(すがた)母親(ははおや)()いて()言照姫(ことてるひめ)は、091皆目(かいもく)(かげ)()せなかつたぢやないか』
092谷丸(たにまる)吾々(われわれ)威勢(ゐせい)(おそ)れて遁走(とんそう)して(しま)つたのだ。093(しか)(はら)()(もの)094玉照彦(たまてるひこ)(さま)(せみ)脱殻(ぬけがら)同然(どうぜん)だ。095肝腎(かんじん)本尊(ほんぞん)()()れて(かへ)つたのだから、096言照姫(ことてるひめ)なんかどうでも()いぢやないか』
097玉照彦(たまてるひこ)大切(たいせつ)(かたはら)(やす)ませ(なが)ら、098一方(いつぱう)(うかが)(ひと)()りとも()らず、099(うれ)しさの(あま)(こゑ)高々(たかだか)(ささや)いて()る。100此方(こなた)木蔭(こかげ)()(ひそ)めた二人(ふたり)
101コロンボ『コレ、102テルヂーよ、103遥々(はるばる)常世(とこよ)(くに)からやつて()功名(こうみやう)(あら)はし、104ウラル(けう)(むかし)(いきほひ)回復(くわいふく)しようと(おも)つたのに、105バラモン(けう)(やつ)(せん)()されて(つま)らぬぢやないか。106(なん)とかして此方(こちら)(はう)へボツたくる手段(しゆだん)はあるまいかなア』
107テルヂー『さうじやなア、108(むか)ふはどうやら二人(ふたり)らしい。109此方(こちら)もヤツパリ二人(ふたり)だ。110(なん)とかして、111(ひと)(おど)かし、112玉照彦(たまてるひこ)(さま)をウマく()()れる工夫(くふう)(めぐ)らさねばなるまい。113現在(げんざい)五六間(ごろくけん)()(まへ)に、114肝腎(かんじん)(たま)(かがや)いて()るのだから、115成功(せいこう)不成功(ふせいこう)(あと)問題(もんだい)として、116吾々(われわれ)としては(この)(まま)(かへ)(こと)出来(でき)ないなア』
117コロンボ『(しか)(いま)彼奴(あいつ)(はなし)()けば、118来勿止(くなどめの)(かみ)沢山(たくさん)部下(ぶか)()れて、119厳守(げんしゆ)して()山口(やまぐち)関所(せきしよ)も、120(ひと)(おく)神国守(みくにもり)関所(せきしよ)も、121(うま)突破(とつぱ)した(くらゐ)(やつ)だから、122中々(なかなか)(ちから)(つよ)(やつ)(ちが)ひないぞ。123吾々(われわれ)(やう)長途(ちやうと)(たび)疲労(くたび)れきつた肉弾(にくだん)(もつ)打向(うちむか)ふた(ところ)到底(たうてい)駄目(だめ)だ。124(なん)とか奇計(きけい)(めぐ)らすより仕方(しかた)がない。125……オイ、126テルヂーの哥兄(あにい)(まへ)(なに)()(かんが)へは()いて()ぬかなア』
127テルヂー『(いづ)(この)(みち)(とほ)つて(かへ)るのだから、128中途(ちうと)()()けて、129(なん)とかやらうぢやないか。130あまりヒソビソ(ばなし)をやつて()て、131(てき)(さと)られては一大事(いちだいじ)だ。132サア(おれ)()いて()い』
133足音(あしおと)(しの)ばせ、134(こし)(かが)め、135()(やう)にして(この)()(あと)に、136(もと)()(みち)引返(ひきかへ)し、137堺峠(さかひたうげ)山麓(さんろく)(かへ)()いた。
138テルヂー『何時(なんどき)バラモン(けう)(やつ)(かへ)つて()るか()れないから、139(はや)計略(けいりやく)をめぐらさねばならぬ、140(おれ)(この)老木(らうぼく)攀登(よぢのぼ)り、141(まつ)(えだ)をザアザアと(ゆす)つて、142天狗(てんぐ)声色(こはいろ)使(つか)ふから、143貴様(きさま)灌木(くわんぼく)(しげ)みに()(かく)し、144二人(ふたり)()れの(やつ)がビツクリして(こし)()かした(すき)(かんが)へ、145玉照彦(たまてるひこ)さまをソツと()きあげ、146堺峠(さかひたうげ)天狗岩(てんぐいは)(そば)まで()げて()れ、147そうすれば成功(せいこう)屹度(きつと)(うたがひ)()しだ』
148コロンボ『兄貴(あにき)計画(けいくわく)一寸(ちよつと)()くと面白(おもしろ)いが、149しかし当事(あてごと)(うし)のオモガイは(さき)から(はづ)れるとか()つて、150(あぶ)ない芸当(げいたう)だなア、151(まか)(ちが)へば(たか)()(うへ)から滑走(くわつそう)して、152(こし)()くか、153(あし)(ほね)()(くらゐ)結末(おち)かも()れないよ』
154テルヂー『エヽまだ(まつ)()(のぼ)らぬ(うち)から、155()ちるの、156()ちぬのつて、157せうもない(こと)()ふな。158(おれ)計略(けいりやく)(ひと)つとして今迄(いままで)欠点(おちど)があつたかい』
159コロンボ『天道(てんだう)(さま)(とむら)ひだ、160空葬(そらさう)だ』
161テルヂー『エー(また)怪体(けつたい)(わる)(こと)()(やつ)だ。162これから(たか)()(のぼ)らうと(おも)つて()るのに、163空葬(そらさう)だなんて、164(また)しても縁起(えんぎ)(わる)いことを()(やつ)だなア。165(しか)しながら、166何時(なんどき)(かへ)つて()るか()れない。167(はや)計画(けいくわく)()りかからう。168…………(おれ)貴様(きさま)(めう)言霊(ことたま)使(つか)はれたから、169今日(けふ)遠慮(ゑんりよ)して()く。170罰金(ばつきん)として貴様(きさま)木登(きのぼ)(やく)だ。171うまく天狗(てんぐ)言霊(ことたま)使(つか)ふのだよ』
172コロンボ『兄貴(あにき)173(おれ)木登(きのぼ)りの拙劣(へた)なのは、174(つね)から()()つて()るぢやないか。175そんな(こと)()はずに、176(まへ)上役(うはやく)だから、177ヤツパリ(うへ)(やく)をして()れ。178(おれ)下役(したやく)(つと)める。179こんな挽臼(ひきうす)(やう)(おも)たい(からだ)木登(きのぼ)りをして()(はづ)し、180地上(ちじやう)へスツテンコロンボーとやつては、181それこそ大変(たいへん)だ。182サアサア()()(みつ)ツだ』
183テルヂー『エー仕方(しかた)がない。184勇将(ゆうしやう)(もと)弱卒(じやくそつ)()り。185これも(おれ)(かた)(わる)いのだ』
186(ましら)(ごと)く、187大木(たいぼく)(みき)をかかへて、188樹上(じゆじやう)(たか)駆登(かけのぼ)つた。
189コロンボ『オーイ、190兄貴(あにき)191どこに()るのだ』
192テルヂー『馬鹿(ばか)ツ、193(おほ)きな(こゑ)(もの)()うと、194そこいらへ近寄(ちかよ)つて()二人(ふたり)(やつ)(きこ)えると大変(たいへん)だぞ。195チツと(しづ)かにせぬかい』
196コロンボ『(しか)作戦(さくせん)計画(けいくわく)を、197(おれ)充分(じゆうぶん)(をし)へて()かないものだから、198どう方針(はうしん)()つたら()いかサツパリ暗雲(やみくも)だ』
199テルヂー『暗雲(やみくも)だから結構(けつこう)だ。200(さいは)雪雲(ゆきぐも)(そら)201(まる)いお(つき)さまも()えず、202ボンヤリと其処(そこ)らが(くら)いので、203(この)芸当(げいたう)がうてるのだ。204グヅグヅして()ると発覚(はつかく)するぞ。205モウ()加減(かげん)沈黙(ちんもく)せい』
206コロンボ『アヽさぶしい(こと)だ。207なんだ(しろ)()()して(まね)いて()やがるぞ。208いやらしい(こと)だなア……………オイ(なん)だか(いや)らしい(やつ)が、209(ほそ)(しろ)()()して、210(おれ)(まね)いて()るワイ。211(おれ)(なん)とかして兄貴(あにき)(そば)(のぼ)つて()かうかなア』
212テルヂー『エー臆病者(おくびやうもの)の、213()()かぬ(やつ)つたら仕方(しかた)がない。214(おれ)(そば)()れば随分(ずゐぶん)(つよ)さうな(こと)()ひ、215立派(りつぱ)智慧(ちゑ)()しやがる(くせ)に、216一人(ひとり)になると()(おぢ)けやがつて……グヅグヅ()うてると(かへ)つて()るぞ。217(しろ)()()して(まね)(やう)()えたのは、218それは枯尾花(かれをばな)だ。219(むかし)から……幽霊(いうれい)正体(しやうたい)()たり枯尾花(かれをばな)……と()(こと)がある。220チツと臍下(さいか)丹田(たんでん)(たましひ)()ゑて……千騎(せんき)一騎(いつき)場合(ばあひ)だ。221奮闘(ふんとう)して()れないと(こま)るぢやないか』
222コロンボ『エー仕方(しかた)がない。223()(しげ)みへ(かく)れて()らうかなア』
224とコワゴワ枯尾花(かれをばな)(なか)()(かく)(ふる)うて()る。225()かる(ところ)鬼丸(おにまる)226谷丸(たにまる)両人(りやうにん)は、227玉照彦(たまてるひこ)(うやうや)しく(いだ)(なが)(すす)(きた)り、
228鬼丸(おにまる)『オイ谷丸(たにまる)229(なん)だか(めう)(こゑ)がして()たぢやないか。230三五教(あななひけう)(やつ)吾々(われわれ)行動(かうどう)探知(たんち)し、231玉照彦(たまてるひこ)(さま)横領(わうりやう)()たのぢやありますまいか』
232谷丸(たにまる)『そうだ、233人間(にんげん)(こゑ)らしかつた。234一人(ひとり)二人(ふたり)()たつて(かま)はぬが、235大勢(おほぜい)だと一寸(ちよつと)面倒(めんだう)だ、236此方(こちら)玉照彦(たまてるひこ)(さま)をお(まも)りせにやならず、237さうすれば、238(てき)(むか)つて奮闘(ふんとう)する(もの)(ただ)一人(ひとり)だ。239そつと……失礼(しつれい)だが……玉照彦(たまてるひこ)(さま)(この)(くさむら)()休息(きうそく)(ねが)つて、240二人(ふたり)様子(やうす)(かんが)へる(こと)にしようではないか』
241鬼丸(おにまる)『それでも、242玉照彦(たまてるひこ)(さま)がホギヤア ホギヤアとでも仰有(おつしや)らうものなら大変(たいへん)だぞ』
243谷丸(たにまる)玉照彦(たまてるひこ)(さま)244(まこと)申訳(まをしわけ)御座(ござ)いませぬが、245一寸(ちよつと)(しばら)くの(あひだ)此処(ここ)にお(やす)(くだ)さいませ。246(かなら)(かなら)()(こゑ)をお()てにならない(やう)にお(ねが)(いた)します』
247(うやうや)しく(みの)()き、248(その)(うへ)(かさ)(おほ)ひ、249()(えだ)()つて()せ、
250谷丸(たにまる)『サアもう()れで大丈夫(だいぢやうぶ)だ。251(こと)(きふ)なれば、252(いち)()()げる(こと)にせなくてはならぬが、253両人(りやうにん)(この)山中(さんちう)()()りバラバラになつて(しま)つては(こま)るから、254()()(ところ)()めて()かう。255………堺峠(さかひたうげ)天狗岩(てんぐいは)(まへ)だぞ。256()いか………』
257鬼丸(おにまる)『ハイハイ承知(しようち)(いた)しました』
258 両人(りやうにん)四辺(あたり)(うかが)(なが)ら、259ノソ……ノソと(にぎ)(こぶし)(かた)めて、260大木(たいぼく)(もと)(すす)んで()た。261コロンボは(くさ)(なか)から樹上(じゆじやう)(なが)め、262(めう)(こゑ)()し、
263コロンボ『イ………マ………ジヤ………』
264谷丸(たにまる)『ヤア(なん)だか(めう)(こゑ)がするぞ。265鹿(しか)でもなし、266(むし)でもなし、267(とり)(こゑ)でもなし、268怪体(けつたい)亡国(ばうこく)(てき)悲調(ひてう)()びた、269奇声(きせい)怪音(くわいおん)だないか』
270鬼丸(おにまる)『イ……ヤ……ラ……シイ………』
271谷丸(たにまる)『オイ鬼丸(おにまる)272貴様(きさま)までが、273イ……なんて、274(なに)()ふのだ。275シツカリせんかい。276(おれ)()いて()以上(いじやう)は、277百万人(ひやくまんにん)(りき)ぢや。278シツカリ(どう)()ゑるのだぞ』
279 (たちま)樹上(じゆじやう)より、
280声(テルヂー)『ザア ザア ザア、281ウーツ、282(その)(はう)大江山(おほえやま)悪神(あくがみ)残党(ざんたう)であらうがな。283不都合(ふつがふ)千万(せんばん)な、284高熊山(たかくまやま)神山(しんざん)()()玉照彦(たまてるひこ)(さま)(うば)つて(かへ)横道者(わうだうもの)285(いま)高熊山(たかくまやま)大天狗(だいてんぐ)(なんぢ)()(くび)引抜(ひきぬ)き、286(また)から()いて(まつ)()(えだ)()けてやらう。287それが(かな)はぬとあれば(いま)(その)(はう)(ふところ)()いて()玉照彦(たまてるひこ)(さま)を、288(この)()(した)にソツとおろし一時(いつとき)(はや)(この)()立去(たちさ)れツ』
289谷丸(たにまる)(なん)だ、290怪体(けつたい)天狗(てんぐ)()れば()るものぢやないか。291天狗(てんぐ)()(やつ)は、292(せん)()(むか)うの(こと)でも()つとる(はず)だ。293玉照彦(たまてるひこ)(さま)(ふところ)からソツと()せと(ぬか)しやがる。294此奴(こいつ)木葉(こつぱ)天狗(てんぐ)野天狗(のてんぐ)だらう。295………ヤイ樹上(じゆじやう)野天狗(のてんぐ)296木葉(こつぱ)天狗(てんぐ)297馬鹿(ばか)真似(まね)(いた)すと、298(この)(はう)反対(あべこべ)(また)から引裂(ひきさ)いてやらうか』
299鬼丸(おにまる)『モシモシ谷丸(たにまる)さま、300そんな途方(とはう)もない(こと)()ふものぢや()りませぬ。301こんな大木(たいぼく)()まつて御座(ござ)天狗(てんぐ)に、302相手(あひて)になつて(たま)りますか………モシモシ樹上(じゆじやう)天狗(てんぐ)(さま)303(わたくし)大将(たいしやう)一寸(ちよつと)(さけ)()うて()りますから、304どうぞ()()のがし(くだ)さいませ。305これは(さけ)()つたので御座(ござ)います』
306谷丸(たにまる)『エー(なに)をゴテゴテ()ふのだ。307……オイ樹上(じゆじやう)天狗(てんぐ)308シツカリ()け、309()れこそはバラモン(けう)大棟梁(だいとうりやう)鬼雲彦(おにくもひこ)懐刀(ふところがたな)綽名(あだな)()つた谷丸(たにまる)ぢやぞツ。310野天狗(のてんぐ)千疋(せんびき)万疋(まんびき)(この)(はう)()つては河童(かつぱ)のこいた()(ほど)にも(かん)じないのだ。311サア(はや)()から()りて()(この)(はう)(まへ)謝罪(おわび)(いた)さぬか』
312 樹上(じゆじやう)(また)もや、
313声(テルヂー)『ザワザワザワ、314ウ………ツ』
315鬼丸(おにまる)『モシモシ天狗(てんぐ)(さま)316どうぞ(ゆる)して(くだ)さいませ』
317 (くさ)(なか)よりコロンボは、
318コロンボ『モシモシ谷丸(たにまる)さま、319どうぞ生命(いのち)ばかりはお(たす)(くだ)さいませ。320(ついで)天狗(てんぐ)(たす)けてやつて(くだ)さい、321アンアンアン』
322谷丸(たにまる)『ヤア(なん)だ。323鬼丸(おにまる)324貴様(きさま)余程(よつぽど)(こわ)いと()えるな。325副守(ふくしゆ)(やつ)326貴様(きさま)(からだ)から()()しやがつたと()えて、327(かや)(なか)(かく)れて、328()つともない、329()いて()るぢやないか』
330鬼丸(おにまる)『こんな(おそ)ろしい、331(こん)()(はく)()えると()(やう)()()うたのだもの、332(ふく)守護神(しゆごじん)()()しませうかい。333モウモウどうぞ()()さぬ(やう)にお(しづ)まり(くだ)さいませ。334あなたの(ふく)守護神(しゆごじん)随分(ずゐぶん)乱暴(らんばう)です。335どうぞ(ふく)守護神(しゆごじん)さま、336(しづ)まりを(ねが)ひます。337………コレ(この)(とほ)()(あは)して(をが)みます。338アンアンアン』
339コロンボ『オンオンオン』
340とソロソロ(いきほひ)()いたと()えて、341(おほかみ)()きを(はじ)めたり。
342鬼丸(おにまる)『アーア(うへ)には天狗(てんぐ)343(した)には(おほかみ)344コラまア、345どうしたら()からうかなア』
346 この(とき)テルヂーは、347どうした(はづ)みか、348(あし)()(はづ)し、349(かぜ)()つて『ズーズドン』と真逆(まつさか)(さま)()(きた)りぬ。350鬼丸(おにまる)は『キヤツ』と()つて(こし)()かす。351谷丸(たにまる)一生(いつしやう)懸命(けんめい)352(この)光景(くわうけい)面喰(めんくら)つたか、353もと()(みち)引返(ひきかへ)し、354玉照彦(たまてるひこ)引抱(ひつかか)へ、355天狗岩(てんぐいは)()して(いばら)(しげ)れる密林(みつりん)を、356遮二(しやに)無二(むに)()()けて()く。357コロンボは、
358コロンボ生命(いのち)あつての物種(ものだね)359(かね)ての約束(やくそく)天狗岩(てんぐいは)だ。360兄貴(あにき)361(あと)から(つづ)けツ』
362言葉(ことば)(のこ)し、363一生(いつしやう)懸命(けんめい)駆出(かけだ)す。
364鬼丸(おにまる)『アーア(なん)だ、365天狗(てんぐ)(やつ)366()から()ちて()(まは)して()やがるな。367ヤアこれでヤツと安心(あんしん)した。368………ヨウ(こし)()けたと(おも)へば、369まだ腰抜(こしぬ)けの未成品(みせいひん)だ。370天狗岩(てんぐいは)さして一散走(いちさんばし)りだ』
371(また)駆出(かけだ)す。
372テルヂー『アーア、373あまり(した)活劇(くわつげき)面白(おもしろ)いので、374(えだ)(はし)()つて、375一生(いつしやう)懸命(けんめい)(のぞ)いて()つたら、376何時(いつ)()にか、377()んな(ところ)墜落(つゐらく)して()る。378一寸(ちよつと)……コラ()(まは)して()たと()えるワイ。379…………オイ、380コロンボ、381(おれ)(おれ)だ……ヤア、382コロンボの(やつ)天狗岩(てんぐいは)()きよつたと()える。383……ドーレ彼奴(あいつ)捜索(そうさく)(かたがた)()つてやらうかなア。384それにしてもバラモン(けう)(やつ)()385(おれ)(たち)()をまはしとる()に、386(うま)関所(せきしよ)通過(つうくわ)しよつたと()える……エー残念(ざんねん)だが仕方(しかた)がない』
387地団駄(ぢだんだ)()みつつ、388(くさむら)(なか)(たうげ)(うへ)天狗岩(てんぐいは)さして、389(また)もや(のぼ)()く。390コロンボは(やうや)くにして、391朧月夜(おぼろづきよ)便(たよ)りに、392目的(もくてき)天狗岩(てんぐいは)(かたはら)(のぼ)()いた。393樹木(じゆもく)繁茂(はんも)して(くら)く、394(いは)のみ(しろ)(やみ)()()()る。
395コロンボ『アヽこれが目的(もくてき)天狗岩(てんぐいは)だ、396名高(なだか)(わり)には見映(みば)えのせぬ巨岩(きよがん)だなア。397(しか)(なが)俄天狗(にはかてんぐ)のテルヂーは、398どうしとるだらうか。399本当(ほんたう)に、400(えら)(やつ)()やがつて、401反対(あべこべ)荒胆(あらぎも)()つて(しま)ひよつた。402スツテの(こと)睾丸(きんたま)洋行(やうかう)する(ところ)だつた。403……アーア(はや)()()れれば()いのに……(さび)しい(こと)だ。404……そうして玉照彦(たまてるひこ)(さま)はウマく()()つたか()らぬテ』
405一人(ひとり)(つぶや)いて()る。406其処(そこ)へノソノソと(しろ)(もの)(かか)へてやつて()一人(ひとり)(をとこ)
407コロンボ『ヤアうまく玉照彦(たまてるひこ)(さま)()()つて結構(けつこう)でした。408(わたし)大変(たいへん)心配(しんぱい)(いた)しました』
409谷丸(たにまる)『なんだ、410(まへ)(こゑ)まで()らして()るぢやないか。411(どう)()わらぬ(やつ)ぢやなア。412……玉照彦(たまてるひこ)(さま)(わた)して(たま)るものかい。413(この)(とほ)りチヤンと(ふところ)奉按(ほうあん)して()るのだ』
414コロンボ『それはそれは結構(けつこう)でした。415流石(さすが)大将(たいしやう)だけありますワイ』
416谷丸(たにまる)(きま)つた(こと)だよ。417貴様(きさま)(やう)泣声(なきごゑ)()して(ふる)うとるのはチツと(ちが)ふのだから』
418コロンボ『(しか)天狗(てんぐ)失敗(しつぱい)はどうでした。419別状(べつじやう)()りませぬかい』
420谷丸(たにまる)『ウン天狗(てんぐ)失敗(しつぱい)か。421彼奴(あいつ)一寸(ちよつと)(おつ)だつた。422(しか)(なが)肝腎(かんじん)玉照彦(たまてるひこ)さまに別状(べつじやう)()いのだから、423マア安心(あんしん)せい』
424コロンボ『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。425………あなたもチツトお(こゑ)がどうかなさいましたなア』
426谷丸(たにまる)『ウンあまり(にはか)出来事(できごと)で、427一寸(ちよつと)面喰(めんくら)つたものだから、428どうで(こゑ)(かは)らうかい。429三五教(あななひけう)(やつ)()()(たか)()(かんが)へて()るのだから、430チツとも油断(ゆだん)出来(でき)ないぞ』
431コロンボ『御尤(ごもつと)もです。432ヤツパリ哥兄(あにい)哥兄(あにい)だ。433(なに)から(なに)まで抜目(ぬけめ)()りませぬなア』
434谷丸(たにまる)(きま)つた(こと)だよ』
435 (はなし)かはつてテルヂーは、436(たうげ)七八(しちはち)合目(がふめ)まで(のぼ)()き、437路傍(ろばう)(いは)腰打掛(こしうちか)(いき)(やす)めて()る。438そこへ鼻息(はないき)(あら)(あが)つて()一人(ひとり)(をとこ)
439(をとこ)『ヤア哥兄(あにい)440イヤ参謀長(さんぼうちやう)441玉照彦(たまてるひこ)はどうだつた。442うまくいきましたかな』
443テルヂー『貴様(きさま)卑怯(ひけふ)な、444(した)(はう)から()(ごゑ)()しよるものだから、445到頭(たうとう)目的物(もくてきぶつ)をシテやられて(しま)つたのだ。446エー仕方(しかた)のない腰抜(こしぬけ)だナア』
447鬼丸(おにまる)(こし)(いち)()()けたと(おも)つた(だけ)で、448ヤツパリ(こし)はもとの(とほ)大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ。449(その)(てん)(かなら)(かなら)心配(しんぱい)して(くだ)さるな。450(しか)折角(せつかく)此処(ここ)まで仕組(しぐ)んだ玉照彦(たまてるひこ)さまを取逃(とりにが)すとは残念(ざんねん)(こと)だ。451そうだから上役面(うはやくづら)をして高上(たかあが)りをするものぢやないと、452何時(いつ)()うのですがなア』
453テルヂー『貴様(きさま)さう()つたつて、454ヤツパリ上役(うはやく)(つと)めが出来(でき)やせうまいがな。455マアマア生命(いのち)(だけ)(ひろ)つたら結構(けつこう)だと(おも)つて(あきら)めるのだなア』
456 (この)(とき)雪雲(ゆきぐも)()けて十六夜(じふろくや)満月(まんげつ)は、457明皎々(めいかうかう)二人(ふたり)(かほ)(てら)したまふ。
458テルヂー『ヤア貴様(きさま)はコロンボぢやないのか』
459鬼丸(おにまる)『ヤア貴様(きさま)谷丸(たにまる)ぢやないのか』
460テルヂー『ウン進退(しんたい)()谷丸(たにまる)ぢや。461何程(なにほど)(つき)はテルヂーでも、462吾々(われわれ)(こころ)真暗闇(まつくらやみ)だ。463暗闇(くらやみ)(まぎ)れに(あたま)(しり)を、464何時(いつ)()にか()()へて(しま)つたらしい』
465鬼丸(おにまる)『そんな(こと)仰有(おつしや)つても、466(わたくし)(あたま)からシリませぬワイ、467アハヽヽハア』
468テルヂー『ヤア貴様(きさま)はバラモン(けう)(やつ)だなア。469貴様(きさま)大将(たいしやう)はどうしたのだい』
470鬼丸(おにまる)『サツパリ婆羅門(ばらもん)だ。471(かさ)(ふる)くなれば(あたら)しいのと()へたら()いのだ。472(まへ)473(わし)大将(たいしやう)になつて()れないか。474こんな山路(やまみち)一人(ひとり)になつちや(こころ)(さび)しくつて仕方(しかた)がない』
475テルヂー『ウン、476なつてやらぬ(こと)もない。477(あたま)(ばか)りで(ある)(わけ)にも()かず。478………(おれ)大切(たいせつ)(あし)をどつかの谷底(たにそこ)へコロンボーして(しま)つたので(こま)つて()るのだ。479()うたり(かな)うたり。480サアこれから仲善(なかよ)うして()くのだぞ。481(この)俄天狗(にはかてんぐ)()いて()い。482貴様(きさま)小天狗(こてんぐ)にしてやらう』
483鬼丸(おにまる)『さうすると、484(まへ)(まつ)()から墜落(つゐらく)した天狗(てんぐ)だな。485………ヤアもう解約(かいやく)(いた)しませう。486アタ(おそ)ろしい、487天狗(てんぐ)主従(しゆじゆう)(えん)(むす)ぶなんて、488どんな(たた)りが()るか()れたものぢやない』
489テルヂー『アハヽヽヽ、490(じつ)(ところ)491貴様(きさま)(たち)両人(りやうにん)492うまい(こと)をやりよつて、493大原山(おほはらさん)(ろく)木蔭(こかげ)で、494玉照彦(たまてるひこ)さまを()()れた自慢話(じまんばなし)をやつて()つたのを、495(おれ)(たち)両人(りやうにん)がソツと拝聴(はいちやう)して、496……此奴(こいつ)(ひと)計略(けいりやく)(もつ)横奪(わうだつ)せむものと、497(おれ)家来(けらい)のコロンボと()(やつ)を、498樹下(じゆか)薄原(すすきはら)(しの)ばせ、499(おれ)(まつ)()(うへ)(のぼ)つて、500天狗(てんぐ)声色(こわいろ)使(つか)ひ、501貴様(きさま)()両人(りやうにん)(おど)かして目的(もくてき)(たつ)しようと、502一幕(ひとまく)芝居(しばゐ)()つて()(ところ)503貴様(きさま)大将(たいしやう)谷丸(たにまる)が、504非常(ひじやう)剛腹(がうばら)(やつ)で、505(この)天狗(てんぐ)(さく)(ほどこ)(ところ)()かつたのだ。506実際(じつさい)(おれ)横目(よこめ)()(はな)人間(にんげん)だ、507(うたが)ふなら(おれ)(はな)()い。508一割(いちわり)(ひく)(はな)だらう』
509鬼丸(おにまる)『アハー、510それでヤツと安心(あんしん)しました。511モウ()うなれば、512(かみ)さまの(みち)(もと)一株(ひとかぶ)513ウラル(けう)とバラモン(けう)同盟軍(どうめいぐん)(つく)り、514玉照彦(たまてるひこ)(さま)行衛(ゆくゑ)(たづ)ね、515三五教(あななひけう)一泡(ひとあわ)()かせてやりませうかい』
516テルヂー『それも()からう。517(しか)肝腎(かんじん)(とき)になつて、518(おれ)(たち)()()()きを()はさぬやうにして()れよ』
519鬼丸(おにまる)『それは三五教(あななひけう)ぢやないが、520刹那心(せつなしん)ですよ。521何時(なんどき)神界(しんかい)()都合(つがふ)で、522どうなるやら予測(よそく)()からざるが、523吾々(われわれ)(かみ)(つか)ふる宣伝使(せんでんし)境遇(きやうぐう)524(その)(とき)はマア(その)(とき)525()(かく)玉照彦(たまてるひこ)(さま)行衛(ゆくゑ)協心(けふしん)戮力(りくりよく)捜査(さうさ)する(こと)(いた)しませう。526(わたし)()れから一寸(ちよつと)527天狗岩(てんぐいは)まで()つて()ねばなりませぬ。528約束(やくそく)があるのですから……(しか)天狗岩(てんぐいは)本当(ほんたう)天狗(てんぐ)()よつたら(こま)るから……どうぞテルヂーさま、529あなたのお(とも)をさして(くだ)さいな』
530テルヂー『ハヽヽハア、531(うま)(こと)()やがるなア。532天狗岩(てんぐいは)には大方(おほかた)谷丸(たにまる)大将(たいしやう)玉照彦(たまてるひこ)(さま)奉按(ほうあん)して()つて()るのだなア』
533鬼丸(おにまる)『サア(その)(へん)保証(ほしよう)出来(でき)ませぬが、534抜目(ぬけめ)()谷丸(たにまる)先生(せんせい)(こと)だから、535屹度(きつと)大切(たいせつ)保護(ほご)して、536(わし)()くのを()つて()られるでせう』
537テルヂー『谷丸(たにまる)()うたが最後(さいご)538(にはか)(また)(はし)やぎ()して、539(おれ)三行半(みくだりはん)(わた)すと()計画(けいくわく)だなア』
540鬼丸(おにまる)『イエイエ()うして、541あなたと此処(ここ)()うたのも(かみ)(さま)()引合(ひきあは)せでせう。542谷丸(たにまる)大将(たいしやう)中々(なかなか)ひらけ()ますよ。543屹度(きつと)(よろこ)んであなたと提携(ていけい)するに間違(まちが)()りませぬワ』
544テルヂー『(おれ)(じつ)天狗岩(てんぐいは)()かねばならぬのだ。545コロンボが(さき)()つて()つてる(はず)だから』
546鬼丸(おにまる)『あなたもヤツパリ天狗岩(てんぐいは)御用(ごよう)()るのですか。547……ア、548そんなら(べつ)にあたま()げて(たの)むぢやなかつたに……エライ言霊(ことたま)濫費(らんぴ)をしたものだ』
549テルヂー『アハヽヽヽ、550現金(げんきん)(やつ)だなア。551(くち)資本(もと)()らぬぢやないか。552何程(なんぼ)物価(ぶつか)騰貴(とうき)今日(けふ)(この)(ごろ)でも、553言霊(ことたま)(だけ)無料(むれう)だ。554(おや)讎敵(かたき)でも討損(うちそこ)なうた(やう)に、555そう()ぎこし苦労(くらう)をするものぢやない……サアサア()かう』
556とテルヂーは(さき)()つ。557鬼丸(おにまる)はブルブル(ふる)(なが)()いて()く。558(やうや)木下闇(こしたやみ)(しろ)()()天狗岩(てんぐいは)間近(まぢか)になつた。
559鬼丸(おにまる)『モシモシ谷丸(たにまる)()()ますかなア。560天狗(てんぐ)一疋(いつぴき)()れて()ました』
561テルヂー『それ()たか。562(すぐ)(はし)やぎやがる』
563谷丸(たにまる)(たれ)だ。564鬼丸(おにまる)(つく)(ごゑ)()やがつて、565(きつね)(たぬき)か、566(ただし)はウラル(けう)(やつ)だらう。567そんな()()谷丸(たにまる)ぢやないぞ。568(おれ)部下(ぶか)鬼丸(おにまる)最前(さいぜん)から此処(ここ)()()るのだ。569二人(ふたり)鬼丸(おにまる)()つて(たま)るか』
570テルヂー『オイ、571バラモン(けう)谷丸(たにまる)とやら、572(おれ)はウラル(けう)のテルヂーと()宣伝使(せんでんし)だ。573玉照彦(たまてるひこ)(さま)を、574()無事(ぶじ)奉按(ほうあん)して()たか』
575谷丸(たにまる)『ナニツ、576貴様(きさま)577玉照彦(たまてるひこ)(さま)(こと)(たづ)ねてどうする(つも)りだ。578仮令(たとへ)天地(てんち)(かへ)つても、579貴様(きさま)()(わた)すものかい。580天狗(てんぐ)化損(ばけそこな)()が……』
581コロンボ『アヽ、582テルヂー、583(いま)()たのかい。584(わたし)今迄(いままで)(まへ)だと(おも)つて、585一生(いつしやう)懸命(けんめい)(はな)して()つた。586馬鹿(ばか)らしい』
587テルヂー『アハヽヽヽ、588エライ混線(こんせん)したものだなア。589()れだけ需要者(じゆえうしや)()えて()ると、590電話(でんわ)交換局(かうくわんきよく)大抵(たいてい)ぢやないワイ』
591 (ふたた)(つき)皎々(かうかう)(かがや)(はじ)めた。592()(にん)(かほ)は、593菊石(あばた)まで()える(やう)になつて()た。
594谷丸(たにまる)『ウラル(けう)(おん)大将(たいしやう)595()れも(なに)かの(かみ)(さま)()引合(ひきあは)せだらう。596どうぞ打解(うちと)けて(なか)ようして(くだ)さいや。597(しか)(なが)(まつ)()から墜落(つゐらく)する(こと)()めて(くだ)さい。598(ひと)(ちが)へば、599(ひと)つより()生命(いのち)(ぼう)()らねばなりませぬぞ』
600テルヂー『それは有難(ありがた)う。601そんなら此処(ここ)平和(へいわ)条約(でうやく)締結(ていけつ)しませう。602(しか)玉照彦(たまてるひこ)さまは何方(どちら)()(あづか)つたら()いのだ、603先決(せんけつ)問題(もんだい)として、604それが()めたいのだ』
605谷丸(たにまる)()ればつかりは、606御免(ごめん)(かうむ)りたい。607折角(せつかく)(ほね)()つて奉迎(ほうげい)して()たのだから………ヤア玉照彦(たまてるひこ)さまは(つめ)たくなつて()らつしやる。608コリヤ大変(たいへん)だ……ハヽア、609あまり(あわて)(いし)間違(まちが)へてきたなア。610道理(だうり)でエロウ(おも)たくならつしやつたと(おも)うて()た。611エーエ(なん)(こと)だい』
612テルヂー『アハヽヽヽ、613(ざま)()なさい。614それだからあまり欲張(よくば)るものぢやありませぬぞ』
615谷丸(たにまる)『ヤアこりや大変(たいへん)だ。616一遍(いつぺん)(もと)(ところ)引返(ひきかへ)して(さが)して()うかな』
617テルヂー『今度(こんど)()()()ツで、618(さき)()つた(もの)(いただ)(こと)にしようかい。619(まへ)()かして()いたものだから、620()かしたものを(ひろ)ふのは(ひろ)(がち)だ。621サア(はし)つた(はし)つた』
622谷丸(たにまる)『テルヂー、623(まへ)から(さき)(はし)りなさい。624わしや、625ゆつくりと(あと)から(さが)しに()きます』
626テルヂー『それだと()つて、627(まへ)から(さき)()つて()れな、628何処(どこ)(おと)してあるか方角(はうがく)(わか)らぬぢやないか。629谷丸(たにまる)630()遠慮(ゑんりよ)()らぬ。631サアお(まへ)からお(さき)へお()でなさいませ、632最後(さいご)(いち)秒間(べうかん)勝負(しようぶ)ぢや』
633谷丸(たにまる)『アハヽヽヽ、634うまい(こと)仰有(おつしや)るワイ。635(まへ)()かねば、636(わたし)二日(ふつか)でも三日(みつか)でも()かせぬのだい。637(ひと)先頭(せんとう)()てて所在(ありか)(さが)さうと(おも)つて……本当(ほんたう)にウラル(けう)宣伝使(せんでんし)は、638狡猾(ずる)いなア』
639鬼丸(おにまる)『オイオイ谷丸(たにまる)640グヅグヅして()ると、641三五教(あななひけう)(やつ)(とほ)つて、642(ひろ)つて()んで(しま)ひますで。643サア(はや)()きませう』
644谷丸(たにまる)『エヽ()()かぬ(やつ)ぢやなア。645(おれ)()()うて(ひま)()れてる()に、646貴様(きさま)場所(ばしよ)()つてるのだから、647()んでソツと何々(なになに)せぬのぢやい。648頓馬(とんま)野郎(やらう)だ』
649テルヂー『オイ、650コロンボ、651鬼丸(おにまる)(くん)(そば)をチツトも(はな)れちやならぬぞ。652キユツと(そで)(つか)まへて何処(どこ)()つても(かま)はぬ、653()(ところ)()いて()くのだ。654そして何々(なになに)何々(なになに)して()るのだ。655()いか』
656コロンボ『承知(しようち)(いた)しました。657(しか)鬼丸(おにまる)(あし)(はや)かつたら、658どう(いた)しませう』
659テルヂー『(おび)なつと、660(あし)なつと、661()らひついて()くのだ。662()()かぬ(やつ)だなア』
663谷丸(たにまる)『アヽもうこうなつちや、664到底(たうてい)独占(どくせん)する(わけ)にはゆかなくなつて()た。665そんならモウ仕方(しかた)がない、666共有物(きよういうぶつ)として、667ユツクリと()きませう』
668とソロソロ(ある)(はじ)めた。669テルヂーは谷丸(たにまる)(そで)をグツト(にぎ)(なが)ら、
670テルヂー『オイ、671コロンボ、672鬼丸(おにまる)(はな)しちや()けないよ』
673谷丸(たにまる)『エーエ鳥黐桶(とりもちをけ)(あし)()つこんだ(やう)なものだ。674エライ(とこ)でダニが(くら)()きやがつて……アヽ()れも(なに)かの罪業(めぐり)だらう』
675(つら)(ふく)らし(なが)ら、676四本足(しほんあし)二組(ふたくみ)は、677堺峠(さかひたうげ)(ふもと)()して(いそ)(くだ)()く。
678大正一一・五・九 旧四・一三 松村真澄録)
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