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第19巻(午の巻)
序
凡例
総説三十三魂
第1篇 神慮洪遠
01 高熊山
〔646〕
02 鶍の嘴
〔647〕
03 千騎一騎
〔648〕
04 善か悪か
〔649〕
第2篇 意外の意外
05 零敗の苦
〔650〕
06 和合と謝罪
〔651〕
07 牛飲馬食
〔652〕
08 大悟徹底
〔653〕
第3篇 至誠通神
09 身魂の浄化
〔654〕
10 馬鹿正直
〔655〕
11 変態動物
〔656〕
12 言照姫
〔657〕
第4篇 地異天変
13 混線
〔658〕
14 声の在所
〔659〕
15 山神の滝
〔660〕
16 玉照彦
〔661〕
17 言霊車
〔662〕
霊の礎(五)
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> 第4篇 地異天変 > 第15章 山神の滝
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第一五章
山神
(
やまがみ
)
の
滝
(
たき
)
〔六六〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第19巻 如意宝珠 午の巻
篇:
第4篇 地異天変
よみ(新仮名遣い):
ちいてんぺん
章:
第15章 山神の滝
よみ(新仮名遣い):
やまがみのたき
通し章番号:
660
口述日:
1922(大正11)年05月09日(旧04月13日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年2月28日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
来勿止神は、松姫の来歴を尋ねた。そして、あらましは言照姫から聞いているが、まだ副守護神が残っているため、山の神の滝で七日七夜の荒行が必要だ、と松姫に告げた。
来勿止神は、松姫の荒行の世話を勝公と竹公に命じた。勝公と竹公は、荒行の決まりとして心ならずも松姫を虐待する。しかし勝公が去ると、竹公は松姫の禊の手伝いとして、自分も滝行を行うのだった。
四日目の朝、勝公がやってきて、来勿止神より禊完了の許しが出たことを告げた。三人は来勿止神のところに戻ってきた。来勿止神は松姫と竹公をいたわった。
そこへ、ウラル教とバラモン教の四人が関所の門前にやってきて、玉照彦を奪ったことや、松姫を打ちすえたことを懺悔し、許しを請い始めた。
勝彦は、来勿止神と松姫に、四人の処置を伺いに戻っていく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-04-13 17:53:38
OBC :
rm1915
愛善世界社版:
255頁
八幡書店版:
第4輯 125頁
修補版:
校定版:
259頁
普及版:
119頁
初版:
ページ備考:
001
松姫
(
まつひめ
)
は
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
に
導
(
みちび
)
かれ、
002
門
(
もん
)
の
傍
(
かたはら
)
の
細
(
ささ
)
やけき
二間
(
ふたま
)
造
(
づく
)
りの
室
(
へや
)
に
案内
(
あんない
)
された。
003
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『
此
(
こ
)
の
暗夜
(
あんや
)
に
女
(
をんな
)
の
身
(
み
)
として
此
(
こ
)
の
神山
(
しんざん
)
へ
御
(
ご
)
参拝
(
さんぱい
)
なされますに
就
(
つい
)
ては、
004
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
理由
(
わけ
)
がございませう。
005
私
(
わたし
)
は
此
(
こ
)
の
関所
(
せきしよ
)
を
守
(
まも
)
る
役目
(
やくめ
)
として
一応
(
いちおう
)
御
(
お
)
尋
(
たづ
)
ねして
置
(
お
)
く
必要
(
ひつえう
)
がございますから、
006
どうぞ
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
事情
(
じじやう
)
を
述
(
の
)
べて
下
(
くだ
)
さい』
007
松姫
(
まつひめ
)
『
御
(
お
)
恥
(
はづ
)
かしいことで
御座
(
ござ
)
いますが、
008
私
(
わたくし
)
は
今
(
いま
)
まで
大変
(
たいへん
)
な
取違
(
とりちが
)
ひを
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りましたものでございます。
009
ウラナイ
教
(
けう
)
の
分社
(
でやしろ
)
高城山
(
たかしろやま
)
の
麓
(
ふもと
)
の
館
(
やかた
)
に
於
(
おい
)
て、
010
三五教
(
あななひけう
)
に
対抗
(
たいかう
)
し、
011
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
ばかり
致
(
いた
)
して
来
(
き
)
ました
罪
(
つみ
)
の
深
(
ふか
)
い
女
(
をんな
)
でございます。
012
私
(
わたくし
)
の
師匠
(
ししやう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
、
013
黒姫
(
くろひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
方
(
かた
)
が
大変
(
たいへん
)
に
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
に
反対
(
はんたい
)
の
教
(
をしへ
)
をなさつたので、
014
私
(
わたくし
)
はそれを
真
(
ま
)
に
受
(
う
)
け、
015
何処
(
どこ
)
までも
天下
(
てんか
)
国家
(
こくか
)
のためにウラナイ
教
(
けう
)
を
拡張
(
くわくちやう
)
し、
016
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
の
一派
(
いつぱ
)
言依別
(
ことよりわけ
)
、
017
八島主
(
やしまぬしの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
主管
(
しゆくわん
)
せらるる
三五教
(
あななひけう
)
を
根底
(
こんてい
)
から
打
(
う
)
ち
壊
(
こわ
)
す
決心
(
けつしん
)
を
以
(
もつ
)
て、
018
昼夜
(
ちうや
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
続
(
つづ
)
けて
来
(
き
)
たものでございますが、
019
素盞嗚
(
すさのをの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
凡人
(
ただびと
)
の
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
るやうな
方
(
かた
)
ではなく、
020
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
世界
(
せかい
)
の
贖主
(
あがなひぬし
)
であるといふ
事
(
こと
)
を、
021
第一
(
だいいち
)
に
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
合点
(
がつてん
)
遊
(
あそ
)
ばし、
022
立
(
た
)
つても
坐
(
ゐ
)
ても
居
(
ゐ
)
られないので、
023
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
と
御
(
ご
)
相談
(
そうだん
)
の
上
(
うへ
)
私
(
わたくし
)
の
方
(
はう
)
へも
詳細
(
しやうさい
)
な
手紙
(
てがみ
)
が
参
(
まゐ
)
りました。
024
就
(
つい
)
ては
高姫
(
たかひめ
)
、
025
黒姫
(
くろひめ
)
御
(
お
)
二方
(
ふたかた
)
の
今迄
(
いままで
)
の
罪
(
つみ
)
を
許
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
かねばなりませぬので、
026
弟子
(
でし
)
としての
私
(
わたくし
)
も
立
(
た
)
つても
坐
(
ゐ
)
ても
居
(
ゐ
)
られませず、
027
何
(
なに
)
か
一
(
ひと
)
つの
荒修行
(
あらしうぎやう
)
を
致
(
いた
)
しまして、
028
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
顕
(
あら
)
はし、
029
それを
御
(
お
)
土産
(
みやげ
)
に
三五教
(
あななひけう
)
へ
参
(
まゐ
)
り、
030
師匠
(
ししやう
)
や
自分
(
じぶん
)
の
罪
(
つみ
)
を
赦
(
ゆる
)
して
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いばつかりに、
031
高城山
(
たかしろやま
)
の
館
(
やかた
)
を
振
(
ふ
)
り
捨
(
す
)
てて
一人
(
ひとり
)
とぼとぼと
此
(
こ
)
の
霊山
(
れいざん
)
に
修行
(
しうぎやう
)
がてら、
032
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
を
如何
(
どう
)
かして
御
(
お
)
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
し、
033
これを
土産
(
みやげ
)
に
三五教
(
あななひけう
)
へ
帰
(
かへ
)
るつもりで
参
(
まゐ
)
つたのでございます』
034
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『アヽさうでせう。
035
私
(
わたし
)
もうすうす
言照姫
(
ことてるひめ
)
様
(
さま
)
より
承
(
うけたま
)
はつて
居
(
を
)
りました。
036
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
貴女
(
あなた
)
は
余程
(
よほど
)
御
(
ご
)
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
て
居
(
ゐ
)
るやうだが、
037
未
(
ま
)
だお
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
に
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
沢山
(
たくさん
)
に
潜伏
(
せんぷく
)
して
居
(
を
)
りますから、
038
此
(
この
)
儘
(
まま
)
御
(
お
)
出
(
い
)
でになつても
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
下
(
くだ
)
さいますまい。
039
此
(
この
)
先
(
さき
)
に
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
の
滝
(
たき
)
がございますから、
040
其処
(
そこ
)
で
七日
(
なぬか
)
七夜
(
ななや
)
荒行
(
あらぎやう
)
をなさつて
副
(
ふく
)
守護神
(
しゆごじん
)
を
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
し、
041
至粋
(
しすゐ
)
至純
(
しじゆん
)
の
本心
(
ほんしん
)
に
復帰
(
たちかへ
)
り
水晶玉
(
すいしやうだま
)
に
磨
(
みが
)
き
上
(
あ
)
げた
上
(
うへ
)
、
042
御
(
お
)
出
(
い
)
でにならなくては
駄目
(
だめ
)
ですよ』
043
松姫
(
まつひめ
)
『
如何
(
いか
)
にも
左様
(
さやう
)
でございませう。
044
どうか
如何
(
いか
)
なる
荒行
(
あらぎやう
)
でも
厭
(
いと
)
ひませぬ、
045
どうぞ
御
(
お
)
命
(
めい
)
じ
下
(
くだ
)
さいませ』
046
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『
此処
(
ここ
)
の
修行
(
しうぎやう
)
は
大変
(
たいへん
)
に
辛
(
つら
)
いですが、
047
貴女
(
あなた
)
それが
忍
(
こば
)
り
切
(
き
)
れますか』
048
松姫
(
まつひめ
)
『
何程
(
なにほど
)
辛
(
つら
)
くても
構
(
かま
)
ひませぬ。
049
仮令
(
たとへ
)
生命
(
いのち
)
が
亡
(
な
)
くなつても、
050
御
(
お
)
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
の
罪
(
つみ
)
が
消
(
き
)
えさへすれば、
051
それで
満足
(
まんぞく
)
致
(
いた
)
します』
052
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『アヽそれは
感心
(
かんしん
)
な
御
(
お
)
心
(
こころ
)
がけだ。
053
それなら
是
(
これ
)
から
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず、
054
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
の
滝
(
たき
)
に
於
(
お
)
いて
修行
(
しうぎやう
)
をなされ、
055
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
に
断飲
(
だんいん
)
断食
(
だんじき
)
は
無
(
な
)
けれども、
056
貴女
(
あなた
)
は
自分
(
じぶん
)
の
罪
(
つみ
)
及
(
およ
)
び、
057
御
(
お
)
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
の
罪
(
つみ
)
、
058
其
(
その
)
他
(
た
)
部下
(
ぶか
)
一般
(
いつぱん
)
の
罪
(
つみ
)
の
贖
(
あがな
)
ひのために、
059
七日
(
なぬか
)
七夜
(
ななや
)
断飲
(
だんいん
)
断食
(
だんじき
)
をなし、
060
その
上
(
うへ
)
に
荒行
(
あらぎやう
)
をせなくては
本当
(
ほんたう
)
に
罪
(
つみ
)
は
消
(
き
)
えませぬぞ』
061
松姫
(
まつひめ
)
『
何分
(
なにぶん
)
よろしく
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
062
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『
勝
(
かつ
)
、
063
竹
(
たけ
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
064
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
へ
出
(
で
)
ておいで』
065
言下
(
げんか
)
に
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
066
勝公
(
かつこう
)
『
何用
(
なによう
)
でございます』
067
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『
別
(
べつ
)
に
外
(
ほか
)
の
事
(
こと
)
ではないが、
068
この
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
が
山
(
やま
)
の
神
(
かみ
)
の
滝
(
たき
)
で、
069
七日
(
なぬか
)
七夜
(
ななや
)
の
荒行
(
あらぎやう
)
をなさるのだから、
070
お
前
(
まへ
)
は
十分
(
じふぶん
)
世話
(
せわ
)
を
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
るして
上
(
あ
)
げて
呉
(
く
)
れ。
071
荒行
(
あらぎやう
)
の
間
(
あひだ
)
は
決
(
けつ
)
して
此
(
こ
)
の
方
(
かた
)
に
同情
(
どうじやう
)
したり、
072
憫
(
あはれ
)
みをかけてはいけませぬぞ。
073
能
(
あた
)
う
限
(
かぎ
)
りの
虐待
(
ぎやくたい
)
をするのだ。
074
さうでなければ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
対
(
たい
)
し
重
(
かさ
)
ね
重
(
がさ
)
ね
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
御
(
お
)
気障
(
きざは
)
り、
075
到底
(
たうてい
)
何時
(
いつ
)
までかかつても
罪
(
つみ
)
は
消滅
(
せうめつ
)
するものではないから、
076
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
を
助
(
たす
)
けたいと
思
(
おも
)
ふなら、
077
十分
(
じふぶん
)
厳
(
きび
)
しき
行
(
ぎやう
)
をさしてあげて
呉
(
く
)
れなくてはなりませぬ』
078
勝公
(
かつこう
)
『ハイ
畏
(
かしこ
)
まりました。
079
何分
(
なにぶん
)
門番
(
もんばん
)
も
勤
(
つと
)
めねばなりませぬから、
080
竹
(
たけ
)
さんと
私
(
わたし
)
とが
代
(
かは
)
る
代
(
がは
)
る
世話
(
せわ
)
をします』
081
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『アヽそうだ。
082
若
(
わか
)
いものをよく
監督
(
かんとく
)
して、
083
落度
(
おちど
)
の
無
(
な
)
い
様
(
やう
)
に
十分
(
じふぶん
)
の
荒行
(
あらぎやう
)
をさせ、
084
立派
(
りつぱ
)
な
人間
(
にんげん
)
に
研
(
みが
)
いて
上
(
あ
)
げて
呉
(
く
)
れ』
085
二人
(
ふたり
)
は
一礼
(
いちれい
)
し、
086
勝公、竹公
『サア
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
、
087
早速
(
さつそく
)
ながら
是
(
これ
)
から
滝壺
(
たきつぼ
)
へ
参
(
まゐ
)
りませう。
088
何
(
いづ
)
れ
大
(
おほ
)
きな
灸
(
やいと
)
を
据
(
す
)
ゑられると
随分
(
ずゐぶん
)
熱
(
あつ
)
うて
辛
(
つら
)
いものだが、
089
そのために
大病
(
たいびやう
)
が
全快
(
ぜんくわい
)
した
時
(
とき
)
の
愉快
(
ゆくわい
)
といふものは、
090
口
(
くち
)
で
言
(
い
)
ふやうなことでないと
同様
(
どうやう
)
に、
091
お
前
(
まへ
)
さまも
是
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が
大
(
おほ
)
きな
灸
(
やいと
)
を
据
(
す
)
ゑます。
092
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
決
(
けつ
)
して
憎
(
にく
)
んでするのぢやないから、
093
悪
(
わる
)
く
思
(
おも
)
うて
下
(
くだ
)
さらぬ
様
(
やう
)
に
頼
(
たの
)
みますぜ』
094
松姫
(
まつひめ
)
『
罪
(
つみ
)
重
(
おも
)
き
妾
(
わたし
)
、
095
どんな
辛
(
つら
)
い
行
(
ぎやう
)
でも
甘
(
あま
)
んじて
致
(
いた
)
します。
096
何卒
(
どうぞ
)
よろしう
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
します』
097
勝公
(
かつこう
)
『よしよし、
098
サア
斯
(
か
)
う
来
(
く
)
るんだぞ、
099
松姫
(
まつひめ
)
の
女
(
あま
)
つちよ。
100
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐやがると
頭
(
あたま
)
を
かち
割
(
わ
)
らうか』
101
と
俄
(
にはか
)
に
言葉
(
ことば
)
や
行
(
おこな
)
ひに
大変動
(
だいへんどう
)
を
現
(
あら
)
はした。
102
松姫
(
まつひめ
)
『ハイ』
103
と
答
(
こた
)
へて
随
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
104
勝
(
かつ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
105
竹
(
たけ
)
は
松姫
(
まつひめ
)
の
後
(
うしろ
)
より
棒千切
(
ぼうちぎれ
)
を
以
(
もつ
)
て
背
(
せ
)
を
打
(
う
)
ち、
106
臀
(
しり
)
を
突
(
つ
)
き、
107
竹公
(
たけこう
)
『ヤイ
松姫
(
まつひめ
)
、
108
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
してゐやがるのだ。
109
早
(
はや
)
く
歩
(
ある
)
かぬか、
110
あた
面倒
(
めんだう
)
臭
(
くさ
)
い。
111
日
(
ひ
)
が
暮
(
くれ
)
てからやつて
来
(
き
)
やがつて、
112
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
楽
(
らく
)
に
寝
(
ね
)
ようと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのに、
113
滝
(
たき
)
まで
送
(
おく
)
つてやつて
貴様
(
きさま
)
を
大切
(
たいせつ
)
に
虐待
(
ぎやくたい
)
せねばならぬ。
114
今
(
いま
)
まで
慢神
(
まんしん
)
をして
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
に
敵対
(
てきと
)
うた
其
(
そ
)
の
みせしめ
だ』
115
と
言
(
い
)
ひつつ
棒千切
(
ぼうちぎ
)
れを
以
(
もつ
)
て、
116
松姫
(
まつひめ
)
の
後頭部
(
こうとうぶ
)
をカツンと
撲
(
なぐ
)
つた。
117
松姫
(
まつひめ
)
は
痛
(
いた
)
さを
堪
(
こら
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
118
松姫
(
まつひめ
)
『どうも
有難
(
ありがた
)
うございます。
119
これで
ちつと
は
妾
(
わたし
)
の
罪
(
つみ
)
も
軽
(
かる
)
くなりませうか』
120
竹公
(
たけこう
)
『ナニ
百
(
ひやく
)
や
二百
(
にひやく
)
撲
(
なぐ
)
つたつて、
121
頭
(
あたま
)
をかち
割
(
わ
)
つたつて、
122
貴様
(
きさま
)
の
罪
(
つみ
)
は
容易
(
ようい
)
に
浄
(
きよ
)
まるものか』
123
勝公
(
かつこう
)
『オイ
竹公
(
たけこう
)
、
124
あまりぢやぞ』
125
竹公
(
たけこう
)
『
何
(
なに
)
があまりぢや。
126
貴様
(
きさま
)
は
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
をなんと
聞
(
き
)
いたか。
127
松姫
(
まつひめ
)
に
親切
(
しんせつ
)
があるのなら、
128
十分
(
じふぶん
)
に
虐待
(
ぎやくたい
)
をしてやれと
仰有
(
おつしや
)
つたぢやないか』
129
勝公
(
かつこう
)
『ウーそれはさうだが、
130
あまり
役
(
やく
)
たいもないことをするものぢやないぞ。
131
虐待
(
ぎやくたい
)
も
十分
(
じふぶん
)
にするが
好
(
えー
)
が、
132
其処
(
そこ
)
は
又
(
また
)
、
133
それ
其処
(
そこ
)
ぢや、
134
人情
(
にんじやう
)
を
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
まずにな。
135
好
(
い
)
いか』
136
竹公
(
たけこう
)
『
貴様
(
きさま
)
は
偉
(
えら
)
さうに
先頭
(
せんとう
)
に
立
(
た
)
ちやがつて、
137
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
を
無視
(
むし
)
し、
138
且
(
かつ
)
又
(
また
)
松姫
(
まつひめ
)
の
修行
(
しうぎやう
)
を
妨
(
さまた
)
げ、
139
重
(
おも
)
い
罪
(
つみ
)
を
更
(
さら
)
に
重
(
おも
)
うしようとするのか』
140
松姫
(
まつひめ
)
『モシモシ
御
(
お
)
二方
(
ふたかた
)
、
141
妾
(
わたし
)
のことに
就
(
つい
)
て、
142
どうぞ
口論
(
いさかひ
)
はないやうにして
下
(
くだ
)
さいませ。
143
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
済
(
す
)
みませぬから』
144
竹公
(
たけこう
)
『エー
松姫
(
まつひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
145
何
(
なに
)
をゴテゴテと
干渉
(
かんせう
)
するのだ。
146
ふざけた
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
すとモー
一
(
ひと
)
つ
御
(
お
)
見舞
(
みまひ
)
だぞ。
147
イヤ
此
(
こ
)
の
棍棒
(
こんぼう
)
で
力
(
ちから
)
一
(
いち
)
パイ
首
(
くび
)
が
飛
(
と
)
ぶ
程
(
ほど
)
、
148
可愛
(
かはい
)
がつてやらうか』
149
松姫
(
まつひめ
)
『
重々
(
ぢうぢう
)
の
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
150
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
をかけて
済
(
す
)
みませぬ。
151
どうぞ
貴方
(
あなた
)
もお
疲
(
つか
)
れでせうから、
152
今日
(
けふ
)
はこれ
位
(
くらゐ
)
でお
休
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さいませ』
153
竹公
(
たけこう
)
『なにうまい
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふな。
154
矢張
(
やつぱ
)
り
頭
(
あたま
)
を
撲
(
なぐ
)
られるのが
苦
(
くるし
)
いと
見
(
み
)
えるな。
155
俺
(
おれ
)
は
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
から
何
(
なん
)
とはなしに、
156
むかついてむかついて
其処
(
そこら
)
の
岩
(
いは
)
でも
木
(
き
)
でも、
157
見
(
み
)
つけ
次第
(
しだい
)
撲
(
なぐ
)
り
度
(
た
)
うて
撲
(
なぐ
)
り
度
(
た
)
うて、
158
腕
(
かいな
)
が
唸
(
うな
)
つて
居
(
を
)
つたのだ。
159
今日
(
けふ
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
を
遵奉
(
じゆんぽう
)
して
心地
(
ここち
)
よい
程
(
ほど
)
、
160
貴様
(
きさま
)
の
頭
(
あたま
)
を
可愛
(
かはい
)
がつてやるのだ。
161
有難
(
ありがた
)
く
思
(
おも
)
へ。
162
荒行
(
あらぎやう
)
と
云
(
い
)
ふものは
辛
(
つら
)
いものだらう。
163
ウラナイ
教
(
けう
)
で
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで、
164
蛙
(
かへる
)
かなんぞのやうにザブザブと
水
(
みづ
)
をかぶつとるのとはちつと
段
(
だん
)
が
違
(
ちが
)
ふぞ。
165
何程
(
なにほど
)
辛
(
つら
)
くても
生命
(
いのち
)
の
瀬戸際
(
せとぎは
)
になつても、
166
僅
(
わづ
)
か
七日
(
なぬか
)
七夜
(
ななや
)
の
辛抱
(
しんばう
)
だ。
167
此処
(
ここ
)
で
修行
(
しうぎやう
)
をやり
損
(
そこ
)
ねたならば、
168
今
(
いま
)
まで
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
道
(
みち
)
を
邪魔
(
じやま
)
した、
169
自
(
みづか
)
らの
罪
(
つみ
)
で
万劫
(
まんごふ
)
末代
(
まつだい
)
根底
(
ねそこ
)
の
国
(
くに
)
に
落
(
おと
)
され、
170
無限
(
むげん
)
の
苦
(
くる
)
しみを
受
(
う
)
けねばならぬぞ。
171
此
(
こ
)
の
位
(
くらゐ
)
なことはホンの
宵
(
よひ
)
の
口
(
くち
)
だ。
172
九牛
(
きうぎう
)
の
一毛
(
いちまう
)
にも
如
(
し
)
かざる
苦
(
くるし
)
みだから、
173
勇
(
いさ
)
んで
修行
(
しうぎやう
)
をするのだぞ』
174
松姫
(
まつひめ
)
『ハイ』
175
と
答
(
こた
)
へた
儘
(
まま
)
、
176
頭部
(
とうぶ
)
より
流
(
なが
)
るる
血潮
(
ちしほ
)
の
眼
(
め
)
に
滲
(
し
)
み
込
(
こ
)
むを、
177
袖
(
そで
)
にそつと
拭
(
ぬぐ
)
ひつつ、
178
しよぼしよぼと
滝
(
たき
)
の
方
(
はう
)
へ
向
(
むか
)
つて
随
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
179
勝公
(
かつこう
)
『サア、
180
これが
名題
(
なだい
)
の
山神
(
やまがみ
)
の
滝
(
たき
)
だ。
181
ちつと
寒
(
さむ
)
うても
真裸体
(
まつぱだか
)
になつて、
182
頭
(
あたま
)
から
水
(
みづ
)
をかぶるのだ。
183
此処
(
ここ
)
は
猿
(
さる
)
が
沢山
(
たくさん
)
居
(
ゐ
)
る
処
(
ところ
)
だから、
184
顔
(
かほ
)
を
引
(
ひ
)
つ
掻
(
か
)
かれぬやうに
用心
(
ようじん
)
なさい。
185
昼
(
ひる
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だが、
186
夜分
(
やぶん
)
になると
千疋猿
(
せんびきざる
)
がやつて
来
(
き
)
て
悪戯
(
いたづら
)
をするから』
187
松姫
(
まつひめ
)
『ハイ、
188
有難
(
ありがた
)
うございます』
189
竹公
(
たけこう
)
『
勝公
(
かつこう
)
、
190
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつた。
191
お
前
(
まへ
)
は
門
(
もん
)
の
方
(
はう
)
を
守
(
まも
)
つて
呉
(
く
)
れ。
192
俺
(
おれ
)
はこれから
一
(
ひと
)
つ
此
(
こ
)
の
行者
(
ぎやうじや
)
を
十分
(
じふぶん
)
に
可愛
(
かはい
)
がつてやらにやならぬからな。
193
それから
六
(
ろく
)
と
初
(
はつ
)
とに
棍棒
(
こんぼう
)
を
持
(
も
)
つて、
194
至急
(
しきふ
)
やつて
来
(
く
)
るやうに
言
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れ』
195
勝公
(
かつこう
)
『さう
沢山
(
たくさん
)
棍棒
(
こんぼう
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て
如何
(
どう
)
するのだい』
196
竹公
(
たけこう
)
『きまつたことだ。
197
一本
(
いつぽん
)
位
(
くらゐ
)
の
棍棒
(
こんぼう
)
では
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
可愛
(
かはい
)
がつてやる
訳
(
わけ
)
にはいかぬ。
198
助太刀
(
すけだち
)
のためだ』
199
勝公
(
かつこう
)
『
併
(
しか
)
しなア、
200
竹公
(
たけこう
)
、
201
わが
身
(
み
)
を
抓
(
つめ
)
つて
他
(
ひと
)
の
痛
(
いた
)
さを
知
(
し
)
れと
言
(
い
)
ふことがあるなア。
202
世界
(
せかい
)
に
鬼
(
おに
)
は
無
(
な
)
いといふことも、
203
誰
(
たれ
)
やらに
聞
(
き
)
いたことがあるやうに
思
(
おも
)
ふ』
204
と、
205
それとは
無
(
な
)
しに
余
(
あま
)
り
虐待
(
ぎやくたい
)
をせぬようにと、
206
口
(
くち
)
には
言
(
い
)
はねど、
207
其
(
その
)
意
(
い
)
をほのめかしてゐる。
208
竹公
(
たけこう
)
『なに
謎
(
なぞ
)
のやうなことを
言
(
い
)
ひやがつて、
209
貴様
(
きさま
)
は
松姫
(
まつひめ
)
を
大切
(
たいせつ
)
にせいと
言
(
い
)
ふのぢやらう、
210
否
(
いや
)
結局
(
けつきよく
)
憎
(
にく
)
めといふのだらう。
211
何事
(
なにごと
)
も
竹
(
たけ
)
の
胸中
(
きようちう
)
に
有
(
あ
)
るのだ、
212
心配
(
しんぱい
)
せずに
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
れ。
213
さうして
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
さまに
俺
(
おれ
)
が
力
(
ちから
)
一
(
いち
)
パイ
虐待
(
ぎやくたい
)
して
可愛
(
かはい
)
がつて
居
(
ゐ
)
る
実状
(
じつじやう
)
を、
214
より
以上
(
いじやう
)
に
報告
(
はうこく
)
するのだぞ』
215
勝公
(
かつこう
)
『
竹
(
たけ
)
の
奴
(
やつ
)
が
松姫
(
まつひめ
)
の
頭
(
あたま
)
を
七八分
(
しちはちぶ
)
割
(
わ
)
り、
216
腕
(
かいな
)
を
折
(
を
)
り、
217
胴腹
(
どんばら
)
に
風穴
(
かぜあな
)
をあけよつたと
言
(
い
)
つて
置
(
お
)
かうか』
218
竹公
(
たけこう
)
『そうだ、
219
其処
(
そこ
)
は
貴様
(
きさま
)
の
都合
(
つがふ
)
にして
呉
(
く
)
れ。
220
マア
可成
(
なるべ
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
小
(
ちい
)
さいことはお
嫌
(
きら
)
ひだから、
221
言
(
い
)
ふのなら
十分
(
じふぶん
)
大
(
おほ
)
きく
言
(
い
)
ふのだな。
222
オイ
勝
(
かつ
)
、
223
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
呉
(
く
)
れ。
224
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
に
棍棒
(
こんぼう
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
く
)
るように
言
(
い
)
つて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
うたが、
225
こんな
女
(
をんな
)
一人
(
ひとり
)
を
虐待
(
ぎやくたい
)
するのに
応援
(
おうゑん
)
を
頼
(
たの
)
んだと
思
(
おも
)
はれては
残念
(
ざんねん
)
だ。
226
俺
(
おれ
)
が
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
にやつて
置
(
お
)
くから、
227
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
に
詳細
(
しやうさい
)
に
報告
(
はうこく
)
するのだぞ』
228
勝公
(
かつこう
)
『そんなら
松姫
(
まつひめ
)
さま、
229
暫
(
しばら
)
くの
辛抱
(
しんばう
)
だ。
230
どうぞ
立派
(
りつぱ
)
な
身魂
(
みたま
)
になつて
下
(
くだ
)
さいや』
231
松姫
(
まつひめ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
うございます』
232
竹公
(
たけこう
)
『エー
又
(
また
)
女
(
をんな
)
にベシヤベシヤと
正
(
しやう
)
月
(
ぐわつ
)
言葉
(
ことば
)
を
使
(
つか
)
ひやがつて、
233
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
れ』
234
勝公
(
かつこう
)
『
帰
(
かへ
)
れと
云
(
い
)
はなくても
誰
(
たれ
)
が
斯
(
こ
)
んな
怖
(
おそ
)
ろしい
処
(
ところ
)
に
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
があるか』
235
とトントンと
帰
(
かへ
)
つてゆく。
236
肌
(
はだ
)
を
裂
(
さ
)
く
如
(
ごと
)
き
寒風
(
かんぷう
)
は
木々
(
きぎ
)
の
梢
(
こずゑ
)
に
唸
(
うな
)
りを
立
(
た
)
てて
見舞
(
みま
)
うて
来
(
く
)
る。
237
月
(
つき
)
は
皎々
(
かうかう
)
として
東
(
ひがし
)
の
山
(
やま
)
の
頂
(
いただ
)
きから
滝壺
(
たきつぼ
)
をのぞいた。
238
竹公
(
たけこう
)
『
松姫
(
まつひめ
)
さま、
239
御
(
お
)
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ですが、
240
どうぞ
暫
(
しば
)
らく
辛抱
(
しんばう
)
して
下
(
くだ
)
さい。
241
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
は
中々
(
なかなか
)
厳格
(
げんかく
)
な
神
(
かみ
)
で
寸分
(
すんぶん
)
も
仮借
(
かしやく
)
をしませぬから、
242
私
(
わたし
)
も
実
(
じつ
)
は
満腔
(
まんこう
)
の
涙
(
なみだ
)
を
隠
(
かく
)
して、
243
失礼
(
しつれい
)
なことを
致
(
いた
)
しました。
244
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
到底
(
たうてい
)
貴女
(
あなた
)
の
身体
(
からだ
)
では、
245
此
(
こ
)
の
荒行
(
あらぎやう
)
は
続
(
つづ
)
きますまい。
246
世
(
よ
)
は
呪
(
まじなひ
)
と
言
(
い
)
うて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は、
247
大難
(
だいなん
)
を
小難
(
せうなん
)
に
祭
(
まつ
)
り
替
(
か
)
へて
下
(
くだ
)
さるのだから、
248
私
(
わたし
)
もこれからスツパリと
素裸体
(
すつぱだか
)
になつて、
249
貴女
(
あなた
)
の
行
(
ぎやう
)
を
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げよう。
250
さうすれば
七日
(
なぬか
)
のものは
三日半
(
みつかはん
)
で
済
(
す
)
むといふ
道理
(
だうり
)
だ。
251
お
前
(
まへ
)
さま、
252
頭
(
あたま
)
を
割
(
わ
)
られて
血
(
ち
)
が
出
(
で
)
たと
思
(
おも
)
つてゐるだらうが、
253
ありや
血
(
ち
)
ぢやありませぬから
安心
(
あんしん
)
なさい。
254
私
(
わたし
)
が
紅殻
(
べにがら
)
の
汁
(
しる
)
を
棒
(
ぼう
)
の
先
(
さき
)
の
革袋
(
かはぶくろ
)
に
括
(
くく
)
りつけて
撲
(
なぐ
)
つたのですよ。
255
血
(
ち
)
と
見
(
み
)
えたのは
袋
(
ふくろ
)
の
紅殻
(
べにがら
)
だ。
256
撲
(
なぐ
)
られた
割
(
わり
)
には
痛
(
いた
)
くはありますまいがな』
257
松姫
(
まつひめ
)
『ハイ、
258
さうでございました。
259
別
(
べつ
)
に
何処
(
どこ
)
も
痛
(
いた
)
んで
居
(
を
)
りませぬ。
260
斯
(
こ
)
んなことで
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御意
(
ぎよい
)
に
召
(
め
)
すやうな
荒行
(
あらぎやう
)
が
出来
(
でき
)
ませうかな』
261
竹公
(
たけこう
)
『
出来
(
でき
)
ますとも。
262
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
形
(
かたち
)
だけをすれば
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいます。
263
可愛
(
かはい
)
い
世界
(
せかい
)
の
氏子
(
うぢこ
)
に
何
(
なに
)
を
好
(
この
)
んで
辛
(
つら
)
い
目
(
め
)
をさせなさいませう。
264
貴女
(
あなた
)
が
生命
(
いのち
)
がけの
荒行
(
あらぎやう
)
をして、
265
御
(
お
)
詫
(
わび
)
をしようと
決心
(
けつしん
)
なさつた
其
(
そ
)
の
心
(
こころ
)
が、
266
既
(
すで
)
に
貴方
(
あなた
)
の
罪
(
つみ
)
を
赦
(
ゆる
)
して
居
(
を
)
ります。
267
唯今
(
ただいま
)
の
貴女
(
あなた
)
は
最早
(
もはや
)
ちつとも
罪
(
つみ
)
は
無
(
な
)
いのですよ。
268
本当
(
ほんたう
)
の
生
(
うま
)
れ
赤児
(
あかご
)
の
心
(
こころ
)
ですワ。
269
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
余
(
あま
)
り
気分
(
きぶん
)
のよい
滝
(
たき
)
ですから、
270
清
(
きよ
)
めた
上
(
うへ
)
に
浄
(
きよ
)
めてお
出
(
い
)
でになつたら
宜敷
(
よろし
)
からう。
271
併
(
しか
)
し
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
は、
272
あゝ
見
(
み
)
えても
実際
(
じつさい
)
は
閻魔
(
えんま
)
さまの
化身
(
けしん
)
ですから、
273
中々
(
なかなか
)
賞罰
(
しやうばつ
)
を
厳重
(
げんぢう
)
になさるのです。
274
今
(
いま
)
帰
(
かへ
)
つた
勝公
(
かつこう
)
だつて
本当
(
ほんたう
)
に
優
(
やさ
)
しい、
275
慈悲
(
じひ
)
深
(
ぶか
)
い
人間
(
にんげん
)
です。
276
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
彼奴
(
あいつ
)
は
馬鹿
(
ばか
)
正直
(
しやうぢき
)
ですから
私
(
わたし
)
が
本当
(
ほんたう
)
に
貴女
(
あなた
)
を
虐待
(
ぎやくたい
)
したのだと
思
(
おも
)
つて
心配
(
しんぱい
)
をして
居
(
を
)
るのです』
277
松姫
(
まつひめ
)
『アヽさうでございますか。
278
なんとも
御
(
お
)
礼
(
れい
)
の
申
(
まを
)
しやうは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
279
何分
(
なにぶん
)
よろしう
御
(
ご
)
指導
(
しだう
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
280
斯
(
か
)
くして
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
経
(
た
)
つて、
281
四日目
(
よつかめ
)
の
朝
(
あさ
)
になつた。
282
松姫
(
まつひめ
)
『なんと
荘厳
(
さうごん
)
な
景色
(
けいしよく
)
ですな。
283
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
が
此
(
こ
)
の
滝
(
たき
)
に
輝
(
かがや
)
き
遊
(
あそ
)
ばして
七色
(
しちしよく
)
の
虹
(
にじ
)
を
御
(
お
)
描
(
ゑが
)
き
遊
(
あそ
)
ばし、
284
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
微妙
(
びめう
)
な
鳥
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
、
285
常磐木
(
ときはぎ
)
の
色
(
いろ
)
、
286
まるで
天国
(
てんごく
)
の
様
(
やう
)
ぢやありませぬか』
287
竹公
(
たけこう
)
『さうですとも、
288
貴女
(
あなた
)
の
心
(
こころ
)
が
清
(
きよ
)
まつたので
宇宙
(
うちう
)
一切
(
いつさい
)
が
荘厳
(
さうごん
)
雄大
(
ゆうだい
)
に
見
(
み
)
え、
289
環境
(
くわんきやう
)
すべて
楽園
(
らくゑん
)
と
化
(
くわ
)
したのですよ』
290
松姫
(
まつひめ
)
『
高城山
(
たかしろやま
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
景色
(
けしき
)
に
富
(
と
)
んだ
処
(
ところ
)
ですが、
291
到底
(
たうてい
)
比
(
くら
)
べものにはなりませぬワ』
292
竹公
(
たけこう
)
『それは
貴女
(
あなた
)
のお
心
(
こころ
)
が
曇
(
くも
)
つてゐたからですよ。
293
今度
(
こんど
)
見直
(
みなほ
)
して
御覧
(
ごらん
)
、
294
此
(
こ
)
の
景色
(
けしき
)
よりも
層一層
(
そういつそう
)
立派
(
りつぱ
)
です』
295
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
時
(
とき
)
しも
勝公
(
かつこう
)
は
莞爾
(
にこ
)
々々
(
にこ
)
として
馳
(
は
)
せ
来
(
きた
)
り、
296
勝公
(
かつこう
)
『アヽ
松姫
(
まつひめ
)
さん、
297
竹
(
たけ
)
さん、
298
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だつた。
299
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
今日
(
けふ
)
は
行
(
ぎやう
)
の
中途
(
なかば
)
だけれど、
300
モウ
修行
(
しうぎやう
)
が
済
(
す
)
んだから
直様
(
すぐさま
)
御
(
お
)
山
(
やま
)
へ
参詣
(
まゐ
)
つて
宜
(
よろ
)
しいとの
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
が
下
(
くだ
)
りました。
301
お
悦
(
よろこ
)
びなさいませ』
302
松姫
(
まつひめ
)
『それは
何
(
なに
)
より
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
うございます』
303
と
滝壺
(
たきつぼ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
304
感謝
(
かんしや
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
つて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
打
(
う
)
ち
連
(
つ
)
れ
立
(
だ
)
つて、
305
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
の
庵
(
いほり
)
に
向
(
むか
)
つて
帰
(
かへ
)
りゆく。
306
竹公
(
たけこう
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
307
おかげで
無事
(
ぶじ
)
に
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
修行
(
しうぎやう
)
が
終
(
をは
)
りました』
308
松姫
(
まつひめ
)
『
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
309
いろいろと
厚
(
あつ
)
き
広
(
ひろ
)
き
思召
(
おぼしめし
)
に
依
(
よ
)
りまして、
310
汚
(
きたな
)
い
身魂
(
みたま
)
を
洗
(
あら
)
つて
頂
(
いただ
)
きました』
311
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
『アヽそうだつたか、
312
結構
(
けつこう
)
々々
(
けつこう
)
、
313
モウそれで
何処
(
どこ
)
へ
出
(
だ
)
しても
立派
(
りつぱ
)
なものだ。
314
お
前
(
まへ
)
さんの
修行
(
しうぎやう
)
のおかげで
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
のお
迎
(
むか
)
へも
出来
(
でき
)
ませう。
315
お
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
の
罪
(
つみ
)
も
全然
(
すつかり
)
赦
(
ゆる
)
されませう、
316
よう
辛
(
つら
)
い
行
(
ぎやう
)
をなさいました。
317
アヽ
竹公
(
たけこう
)
、
318
お
前
(
まへ
)
も
大変
(
たいへん
)
な
心配
(
こころくば
)
り、
319
気遣
(
きづか
)
ひであつたな。
320
私
(
わし
)
の
心
(
こころ
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るのはお
前
(
まへ
)
ばつかりだ』
321
と
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
を
袖
(
そで
)
にそつと
拭
(
ぬぐ
)
ふ。
322
暫
(
しばら
)
くは
沈黙
(
ちんもく
)
の
幕
(
まく
)
が
下
(
お
)
りた。
323
此
(
この
)
時
(
とき
)
門前
(
もんぜん
)
に
慌
(
あはただ
)
しく
駆来
(
かけきた
)
る
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
、
324
男
(
をとこ
)
『モシモシ
此
(
こ
)
の
門
(
もん
)
開
(
あ
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
325
勝
(
かつ
)
は
立上
(
たちあが
)
り
大石門
(
だいせきもん
)
をギーと
左右
(
さいう
)
に
開
(
あ
)
けた。
326
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
勝
(
かつ
)
は
驚
(
おどろ
)
き、
327
勝公
(
かつこう
)
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
此
(
こ
)
の
間
(
あひだ
)
やつて
来
(
き
)
た
不届者
(
ふとどきもの
)
、
328
バラモン
教
(
けう
)
の
谷丸
(
たにまる
)
、
329
鬼丸
(
おにまる
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
330
又
(
また
)
二人
(
ふたり
)
も
味方
(
みかた
)
を
殖
(
ふ
)
やして
来居
(
きを
)
つたのだな。
331
玉照彦
(
たまてるひこ
)
様
(
さま
)
だと
思
(
おも
)
つて
大
(
おほ
)
きな
岩石
(
がんせき
)
を
大事
(
だいじ
)
さうに
抱
(
かか
)
へて
帰
(
かへ
)
り、
332
途中
(
とちう
)
で
気
(
き
)
がついて
又
(
また
)
もや
二度目
(
にどめ
)
のお
迎
(
むか
)
ひに
来居
(
きを
)
つたのだらう。
333
モウモウ
余人
(
よにん
)
は
知
(
し
)
らず
貴様
(
きさま
)
に
限
(
かぎ
)
つて、
334
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
通過
(
つうくわ
)
さすことは
出来
(
でき
)
ないと
来勿止
(
くなどめの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
厳命
(
げんめい
)
だ』
335
谷丸
(
たにまる
)
、
336
鬼丸
(
おにまる
)
は
大地
(
だいち
)
にペタツと
坐
(
すわ
)
り、
337
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
338
谷
(
たに
)
、
339
鬼
(
おに
)
『モーシ
門番
(
もんばん
)
様
(
さま
)
、
340
今日
(
けふ
)
の
谷丸
(
たにまる
)
、
341
鬼丸
(
おにまる
)
は
先日
(
せんじつ
)
の
両人
(
りやうにん
)
とは
違
(
ちが
)
ひます。
342
どうぞ
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいませ』
343
勝公
(
かつこう
)
『
違
(
ちが
)
うと
云
(
い
)
つたつてお
前
(
まへ
)
の
容貌
(
ようばう
)
と
云
(
い
)
ひ、
344
姿
(
すがた
)
と
云
(
い
)
ひ、
345
何処
(
どこ
)
に
一
(
ひと
)
つ
変
(
かは
)
つたとこがないぢやないか』
346
谷
(
たに
)
、
347
鬼
(
おに
)
『ハイ
形
(
かたち
)
の
上
(
うへ
)
はちつとも
変
(
かは
)
つて
居
(
を
)
りませぬが、
348
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
は
天地
(
てんち
)
の
相違
(
さうゐ
)
に
変
(
かは
)
りました』
349
勝公
(
かつこう
)
『いよいよ
以
(
もつ
)
て
怪
(
け
)
しからぬ
奴
(
やつ
)
だ。
350
皮
(
かは
)
は
何時
(
いつ
)
でも
変
(
かは
)
るぞよ。
351
霊魂
(
みたま
)
は
中々
(
なかなか
)
変
(
かは
)
らぬぞよと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
教
(
をし
)
へてござる。
352
それに
何
(
なん
)
ぞや、
353
心
(
こころ
)
が
変
(
かは
)
りましたとは
益々
(
ますます
)
合点
(
がつてん
)
のゆかぬ
奴
(
やつ
)
だ』
354
谷
(
たに
)
、
355
鬼
(
おに
)
『そのお
疑
(
うたが
)
ひは
御尤
(
ごもつと
)
もでございますが、
356
今
(
いま
)
までの
取違
(
とりちが
)
ひ、
357
慢神
(
まんしん
)
の
雲霧
(
くもきり
)
が
晴
(
は
)
れまして、
358
すつぱりと
青天
(
せいてん
)
白日
(
はくじつ
)
の
様
(
やう
)
な
魂
(
たましひ
)
に
生
(
うま
)
れ
変
(
かは
)
りました。
359
何程
(
なにほど
)
人間
(
にんげん
)
が
利巧
(
りかう
)
や
智慧
(
ちゑ
)
をだして
焦慮
(
あせ
)
つて
見
(
み
)
た
所
(
ところ
)
で
駄目
(
だめ
)
だ。
360
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
許
(
ゆる
)
しない
事
(
こと
)
は
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
で
掌
(
てのひら
)
が
覆
(
かへ
)
ると
云
(
い
)
ふことをつくづくと
悟
(
さと
)
らして
頂
(
いただ
)
きました。
361
アーア
心
(
こころ
)
程
(
ほど
)
怖
(
おそ
)
ろしいものは
御座
(
ござ
)
いませぬ。
362
今迄
(
いままで
)
私
(
わたくし
)
は
三五教
(
あななひけう
)
や、
363
ウラル
教
(
けう
)
、
364
ウラナイ
教
(
けう
)
が
敵
(
かたき
)
ぢやと
思
(
おも
)
つて、
365
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
其
(
そ
)
の
敵
(
てき
)
を
征服
(
せいふく
)
したいと
憂身
(
うきみ
)
を
窶
(
やつ
)
し、
366
大活動
(
だいくわつどう
)
を
続
(
つづ
)
けて
居
(
ゐ
)
ました。
367
然
(
しか
)
るに
豈
(
あに
)
図
(
はか
)
らむや、
368
その
大悪魔
(
だいあくま
)
の
敵
(
てき
)
は
私
(
わたくし
)
等
(
ら
)
の
心
(
こころ
)
の
中
(
なか
)
にみんな
潜
(
ひそ
)
んで
居
(
を
)
りました。
369
斯
(
こ
)
うおかげを
頂
(
いただ
)
いた
以上
(
いじやう
)
は、
370
天ケ下
(
あめがした
)
に
敵
(
てき
)
も
無
(
な
)
ければ、
371
他人
(
たにん
)
も
無
(
な
)
い、
372
鬼
(
おに
)
も
大蛇
(
をろち
)
も
何
(
なに
)
もありませぬ。
373
吾々
(
われわれ
)
は
松姫
(
まつひめ
)
と
云
(
い
)
ふウラナイ
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に
対
(
たい
)
し、
374
非常
(
ひじやう
)
な
暴虐
(
ばうぎやく
)
を
加
(
くは
)
へ、
375
大方
(
おほかた
)
半死
(
はんし
)
になるとこ
迄
(
まで
)
打擲
(
ちやうちやく
)
を
致
(
いた
)
しましたことを、
376
今更
(
いまさら
)
乍
(
なが
)
ら
悔
(
く
)
いまして、
377
立
(
た
)
つても
坐
(
ゐ
)
ても
居堪
(
ゐた
)
まらず、
378
四
(
よ
)
人
(
にん
)
のものが、
379
どうぞして
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
の
所在
(
ありか
)
を
尋
(
たづ
)
ね
御
(
お
)
詫
(
わび
)
をせなくてはならないと
思
(
おも
)
うて、
380
そこら
を
探
(
さが
)
す
内
(
うち
)
、
381
道
(
みち
)
で
会
(
あ
)
うた
杣人
(
そまびと
)
に
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
れば、
382
三四日
(
さんよつか
)
以前
(
いぜん
)
の
暮
(
く
)
れ
方
(
がた
)
に
霊山
(
れいざん
)
の
方
(
はう
)
に
向
(
むか
)
つて、
383
一人
(
ひとり
)
の
女
(
をんな
)
が
上
(
あが
)
つたと
云
(
い
)
ふことを
聞
(
き
)
き、
384
之
(
これ
)
は
正
(
まさ
)
しく
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
に
間違
(
まちが
)
ひあるまいと、
385
飛
(
と
)
び
立
(
た
)
つ
許
(
ばか
)
り
悦
(
よろこ
)
んで
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
打揃
(
うちそろ
)
ひ
御
(
おん
)
目
(
め
)
にかかつて
御
(
お
)
詫
(
わび
)
をしようと
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たのです。
386
どうぞ
此処
(
ここ
)
を
通
(
とほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
387
又
(
また
)
先達
(
せんだつて
)
は
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
に
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
を
致
(
いた
)
しました
其
(
その
)
罪
(
つみ
)
も
御
(
お
)
詫
(
わび
)
せなくてはなりませぬ。
388
何事
(
なにごと
)
も
過去
(
くわこ
)
のことは
水
(
みづ
)
に
流
(
なが
)
して、
389
吾々
(
われわれ
)
の
過
(
あやま
)
ちをお
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいますやうに』
390
勝公
(
かつこう
)
『さてもさても
妙
(
めう
)
なことが
出来
(
でき
)
たものだ
哩
(
わい
)
。
391
変
(
かは
)
り
易
(
やす
)
いは
秋冬
(
しうとう
)
の
空
(
そら
)
と
聞
(
き
)
いてゐるが、
392
こりや
又
(
また
)
大変
(
たいへん
)
の
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
が
起
(
おこ
)
つたものだ。
393
一寸
(
ちよつと
)
皆
(
みな
)
さま
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
394
松姫
(
まつひめ
)
様
(
さま
)
もまだ
此処
(
ここ
)
にゐられますから、
395
伺
(
うかが
)
つた
上
(
うへ
)
で
会
(
あ
)
はせませう』
396
と
門内
(
もんない
)
に
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
しける。
397
(
大正一一・五・九
旧四・一三
外山豊二
録)
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【15 山神の滝|第19巻(午の巻)|霊界物語/rm1915】
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