霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 生命(いのち)(おや)〔九六〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第34巻 海洋万里 酉の巻 篇:第3篇 峠の達引 よみ(新仮名遣い):とうげのたてひき
章:第19章 生命の親 よみ(新仮名遣い):いのちのおや 通し章番号:960
口述日:1922(大正11)年09月14日(旧07月23日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年12月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
黒姫は、火の国に向かって山道を急いでいた。黒姫は向日峠の手前で街道に出る道がわからず、山中の遠回りの道に迷いこんでしまい、深谷川にかかる朽ちた丸木橋の手前で立ち止まっていた。
すると突然、三尺ばかりの一人の童子が現れ、この橋を渡らなければ想う人には会えない、という歌を歌うと忽然と消えてしまった。黒姫が不思議に思っていると、また七八人の童子が現れ、この先で大蛇の三公に縛られて生き埋めにされた高山彦やお愛という人がいる、と歌で告げた。
黒姫は高山彦と聞いてにわかに心配になってきた。そこへ玉治別の宣伝歌が聞こえてきた。玉治別が近くにいると知って心強くなった黒姫は、思い切って朽ちた丸木橋を渡り、無事に向こう岸に着いた。
すると、身なりがぼろぼろになって泣きはらした少女が向こうからやってきた。黒姫が心配して声をかけると、少女は泣き伏して、自分の姉が生き埋めにされたと黒姫に助けを求めた。
少女はお梅であった。黒姫はお梅を背負って道案内をしてもらい、三人が埋められている塚のところまでやってきた。黒姫は石を押しのけようと神号を唱えながら必死に押したが、石はびくともしなかった。
すると八人の童子がどこからともなく現れて、大きな石を投げ捨ててしまい、また煙となって消えてしまった。
黒姫は神に感謝し、一生懸命に土をかき分けて掘り起し出した。黒姫は三人の男女を掘り起こした。三人の縄を解き、草の上に寝かせて天の数歌を歌い、蘇生を祈願した。
お梅が汲んできた谷川の水を口に含ませると、お愛は気が付き、お梅に飛びついた。お梅は、三五教の宣伝使が助けてくれたのだとお愛に伝えた。孫公と兼公も気が付き、黒姫に礼を述べた。
黒姫は神助によって石を取り除き、三人を助けることができたことを告げた。一同は黒姫の後ろに端座して天津祝詞を奏上し、感謝祈願を行ったのち、元来た道を引き返して行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-09-19 10:15:01 OBC :rm3419
愛善世界社版:241頁 八幡書店版:第6輯 449頁 修補版: 校定版:251頁 普及版:105頁 初版: ページ備考:
001 黒姫(くろひめ)石塊(いしころ)だらけの谷道(たにみち)()国都(くにみやこ)へと(いそ)ぎつつ(すす)()く。002途中(とちう)深谷川(ふかたにがは)(あやふ)一本(いつぽん)丸木橋(まるきばし)()つて()る。003黒姫(くろひめ)石橋(いしばし)でも(たた)いて()(わた)ると()注意深(ちういぶか)人間(にんげん)になつて()た。004建日(たけひ)(やかた)建国別(たけくにわけ)宣伝使(せんでんし)を、005軽率(けいそつ)にも(わが)()では()いかと訪問(はうもん)して失敗(しつぱい)したのに()りたからである。006黒姫(くろひめ)一本橋(いつぽんばし)(うら)(のぞ)()むと、007幾年(いくねん)かの風雨(ふうう)(さら)された一本橋(いつぽんばし)は、008(はし)(つめ)(はう)七八分(しちはちぶ)ばかり()ちて()る。009これや如何(どう)したら()からうかと、010橋詰(はしづめ)(たたず)んで吐息(といき)()らして()る。011(をり)しも忽然(こつぜん)として(あら)はれた三尺(さんじやく)ばかりの一人(ひとり)童子(どうじ)黒姫(くろひめ)(かほ)見上(みあ)げてニヤリと(わら)ひ、
 
012童子(わが)(こひ)深谷川(ふかたにがは)丸木橋(まるきばし)
013  (わた)るにこはし(わた)らねば
014   (おも)(かた)には()はれない』
 
015(うた)つたきりポツと白煙(はくえん)(とも)()えて(しま)つた。016黒姫(くろひめ)(この)奇怪(きくわい)現象(げんしやう)にうたれて不安(ふあん)(くも)(つつ)まれ(なが)ら、017惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)』と一生(いつしやう)懸命(けんめい)祈願(きぐわん)()めて()る。
018 此処(ここ)向日峠(むかふたうげ)手前(てまへ)であつた。019()(くに)(みやこ)()くのには、020()国崎(くにざき)(とほ)るのが順路(じゆんろ)である。021されど黒姫(くろひめ)(ひだり)(ひろ)()(くに)街道(かいだう)のある(こと)()づかず、022(おも)はず(みぎ)(みぎ)へとやつて()て、023(この)山道(やまみち)(まよ)()んで()たのであつた。024(この)(とき)(また)もや忽然(こつぜん)として七八(しちはち)(にん)(ちひ)さき童子(どうじ)025(はし)(たもと)(あら)はれ(たがひ)()をつなぎ(なが)ら、
 
026童子(どうじ)『それ()た、027やれ()た、028(あら)はれた
029  向日峠(むかふたうげ)山麓(さんろく)の、030(くす)木蔭(こかげ)(おに)()
031 (おに)かと(おも)へば(おそ)ろしい
032  大蛇(をろち)三公(さんこう)(あら)はれて
033 お(あい)(かた)(しば)りつけ
034  高山彦(たかやまひこ)()(をとこ)
035 兼公(かねこう)(まで)もフン(じば)
036  (あな)穿(うが)つて()けよつた
037 (おほ)きな(いは)()つてある』
 
038()つたきり、039(また)もやプスと童子(どうじ)姿(すがた)()え、040(あと)には白煙(しろけぶり)(かす)かに(ゆら)いで()る。041黒姫(くろひめ)両手(りやうて)()(かうべ)(かたむ)け、
042黒姫(くろひめ)『はてな、043合点(がつてん)のゆかぬ(こと)だな。044(いま)(あら)はれた童子(どうじ)()(かみ)か、045(なに)かは()らぬが、046(なん)とはなしに()がかりな(こと)()つた(やう)だ。047高山彦(たかやまひこ)()(をとこ)がフン(じば)られて()められたとか、048(あい)(かた)(うづ)められたとか()つた(やう)だ。049()しや(こひ)しい(をつと)高山彦(たかやまひこ)(さま)(こと)ではあるまいか。050(あい)(かた)()つたのは、051大方(おほかた)愛子姫(あいこひめ)(こと)だらう。052向日峠(むかふたうげ)山麓(さんろく)()へば、053まだ(これ)から何程(なにほど)里程(りてい)があるか()らぬが、054(なに)()もあれ、055ヂツとしては()れなくなつた。056あゝ如何(どう)したら()からうかな。057……(わたし)(くらゐ)因果(いんぐわ)(もの)()にあらうか。058勿体(もつたい)ない、059若気(わかげ)(いた)りで、060折角(せつかく)(かみ)(さま)から(もら)うた(をとこ)()()てた天罰(てんばつ)(むく)うて()て、061する(こと)()(こと)062(なに)もかも(この)(やう)(いすか)(はし)(ほど)()(ちが)ふのであらう。063(おも)へば(おも)へば(つみ)(ふか)(この)()ぢやなあ』
064独言(ひとりご)ちつつ(ちから)なげに落涙(らくるい)(とも)垂頂(うなだ)れて()る。065()(とき)何処(どこ)ともなく宣伝歌(せんでんか)(きこ)()たる。
066(玉治別)朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
067(つき)()つとも()くるとも
068仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
069如何(いか)なる災難(さいなん)(きた)るとも
070(かみ)(まか)した宣伝使(せんでんし)
071(まこと)(ひと)つを()()けよ
072(かみ)(なんぢ)(とも)にあり
073(なんぢ)(まこと)(あら)はれて
074(なんぢ)(すく)(かみ)(みち)
075(この)()(すく)生神(いきがみ)
076天教(てんけう)のお(やま)のみでない
077(いた)(ところ)(かみ)()ます
078(かみ)(めぐ)みを(うべな)ひて
079飽迄(あくまで)()けよ三五(あななひ)
080黒姫司(くろひめつかさ)宣伝使(せんでんし)
081深谷川(ふかたにがは)丸木橋(まるきばし)
082如何(いか)(あやふ)()えつれど
083(なんぢ)(こころ)信仰(あななひ)
084(まこと)(はな)()くならば
085(やす)(わた)らむ(かみ)(はし)
086(すす)めよ(すす)(はや)(わた)
087(われ)玉治別(たまはるわけの)(かみ)
088(なんぢ)身魂(みたま)につき()ひて
089(なれ)行末(ゆくすゑ)(まも)りつつ
090此処迄(ここまで)(すす)(きた)りけり
091あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
092御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
093()つたきり、094宣伝歌(せんでんか)(こゑ)はピタリと()まつて(しま)つた。095黒姫(くろひめ)(この)宣伝歌(せんでんか)(ちか)(きこ)えたのに(ちから)()096玉治別(たまはるわけ)(この)(ちか)くに()()(こと)心強(こころづよ)(おも)ひ、097(しほ)れきつたる(こころ)取直(とりなほ)心待(こころま)ちに()つて()る。098されども玉治別(たまはるわけ)姿(すがた)どころか、099(けもの)一匹(いつぴき)姿(すがた)()せぬ。100黒姫(くろひめ)(おも)ひきつて(この)丸木橋(まるきばし)をチヨコチヨコ(わた)りに、101(むか)ふに(わた)(むね)()(おろ)(なが)ら、
102黒姫(くろひめ)『あゝ(あやふ)(こと)だつた。103ようまア()んな朽果(くちは)てた(はし)無事(ぶじ)(わた)れた(こと)だ。104(これ)()ふも矢張(やつぱり)(かみ)(さま)御恵(みめぐ)みだ、105まだ天道(てんだう)(さま)黒姫(くろひめ)()(たま)はざる(しるし)であらう。106あゝ有難(ありがた)有難(ありがた)勿体(もつたい)なや』
107両手(りやうて)(あは)せ、108(なみだ)(とも)感謝(かんしや)祈願(きぐわん)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)して()る。
109 そこに(ちから)なげにチヨロチヨロと(あら)はれ()十四五(じふしご)(さい)(をんな)がある。110()れば()()らし、111(いろ)(あを)ざめ、112(かみ)振乱(ふりみだ)し、113着物(きもの)(すそ)には(つち)(いつ)ぱい()いて()る。114黒姫(くろひめ)(この)少女(せうぢよ)()るより言葉(ことば)()け、
115黒姫(くろひめ)『これこれお(まへ)(ちひ)さい(をんな)身分(みぶん)として、116()んな(おそ)ろしい山道(やまみち)(なに)しに()たのだい。117()れば()()れて()る。118(かみ)(みだ)れ、119(かほ)(いろ)(あを)くなり、120着物(きもの)(すそ)には(あか)(つち)(いつ)ぱい()いて()るぢやないか。121(これ)には(なに)様子(やうす)のある(こと)であらう。122差支(さしつかへ)なくば(この)をばさまに()つて(くだ)さい。123(わたし)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)だ。124(わたし)(ちから)(およ)()けはお(まへ)(たす)けになりませう』
125親切(しんせつ)(いた)はり()へば、126少女(せうぢよ)(こし)(かが)慇懃(いんぎん)(れい)()(なが)ら、
127少女(せうぢよ)(お梅)『をば(さま)128有難(ありがた)御座(ござ)います。129何卒(どうぞ)(たす)けて(くだ)さいませ。130(わたし)はお(うめ)(まを)(をんな)御座(ござ)います。131(あい)()(ねえ)さまが、132悪者(わるもの)()めに(とら)へられ、133(ころ)されて(つち)(なか)()められて(しま)ひました。134さうして二人(ふたり)(をとこ)(かた)一所(いつしよ)に…』
135此処迄(ここまで)()つてワツとばかり(こゑ)(はな)つて()きくづれる。136少女(せうぢよ)(いま)(まで)()りきつて()精神(せいしん)が、137黒姫(くろひめ)(なさけ)ある言葉(ことば)(ほだ)されヤツと安心(あんしん)した途端(とたん)()(ゆる)んで、138(ちから)()げに(たふ)れたのである。139黒姫(くろひめ)深谷川(ふかたにがは)(から)うじて(くだ)水筒(すゐとう)(みづ)()(きた)り、140少女(せうぢよ)(くち)(ふく)ませ面部(めんぶ)()きかけなどして甲斐(かひ)々々(がひ)しく介抱(かいほう)をして()る。141黒姫(くろひめ)熱心(ねつしん)なる介抱(かいほう)(かう)(むな)しからず、142少女(せうぢよ)(いき)()(かへ)し、143(くる)しげに(むね)()(なが)ら、
144(うめ)『あゝ(こは)(こは)い、145をばさま、146何卒(どうぞ)(たす)けて(くだ)さいまし。147(ねが)ひで御座(ござ)います』
148黒姫(くろひめ)『お(まへ)149最前(さいぜん)言葉(ことば)(ねえ)さまのお(あい)さまとやらが悪者(わるもの)(ころ)され、150土中(どちう)(うづ)められたと()ひましたな』
151(うめ)『はい、152高手(たかて)小手(こて)(いまし)めて、153(もり)(した)土中(どちう)(うづ)めて(しま)ひました。154さうして高山彦(たかやまひこ)()ふお(かた)と、155兼公(かねこう)()無頼漢(ならずもの)一所(いつしよ)に、156(ふか)(あな)()められ、157(おほ)きな(いし)(その)(うへ)(いく)つも(いく)つも()せて(かへ)つて(しま)ひました』
158 黒姫(くろひめ)高山彦(たかやまひこ)()くより、159(かほ)蒼白(まつさを)にし(くち)(とが)らせ、
160黒姫(くろひめ)『エ、161(なん)()ひなさる。162高山彦(たかやまひこ)()(ひと)如何(どう)なつたと()ふのだい』
163(うめ)『ハイ、164(ねえ)さまのお(あい)さまと(わたし)(しば)られて、165大蛇(をろち)三公(さんこう)()悪者(わるもの)(さいな)まれて()(ところ)三五教(あななひけう)宣伝歌(せんでんか)(うた)ひ、166(たす)けに()(くだ)さいましたお(かた)御座(ござ)います。167(その)(かた)目潰(めつぶし)をかけて引倒(ひつこ)かし、168荒縄(あらなは)(しば)り、169(ねえ)さまと一所(いつしよ)()めて(しま)ひました。170ウワーツ…………』
171(また)()()す。172黒姫(くろひめ)はあわてふためき(なが)ら、
173黒姫(くろひめ)『これこれお(うめ)さま、174シツカリして(くだ)され。175高山彦(たかやまひこ)さまは何処(どこ)()めてあるか。176さあ(はや)()つて(たす)けねばなるまい。177(あい)さまと()ふのは()国都(くにみやこ)愛子姫(あいこひめ)ではありませぬか。178さあ()きませう』
179(うなが)せば少女(せうぢよ)は、
180お梅『ハイ、181あまり(こは)かつたので()(とほ)くなり、182をばさまの(おつ)しやる(こと)がハツキリ(わか)りませぬが、183案内(あんない)しますから、184何卒(どうぞ)(たす)けてやつて(くだ)さいませ』
185黒姫(くろひめ)『あゝさうだらうとも、186無理(むり)もない。187可憐(かはい)さうに、188(こは)いのも(もつと)もだ。189それにしてもようまアお(まへ)(まぬが)れて()られたものだ。190サア一時(いつとき)愚図(ぐづ)々々(ぐづ)しては()られませぬ。191(いき)()れては取返(とりかへ)しがつきませぬからな』
192(うめ)『をばさま、193(わたし)案内(あんない)(いた)します。194何卒(どうぞ)()いて()(くだ)さい』
195(さき)()つ。196されどお(うめ)夜前(やぜん)騒動(さうだう)()()かれ、197(その)(うへ)()(かさ)ねられた(いし)取除(とりの)(やう)として(ちから)一杯(いつぱい)気張(きば)つた結果(けつくわ)198身体(からだ)非常(ひじやう)(つか)れて(しま)ひ、199足許(あしもと)さへもヒヨロヒヨロである。200それ(ゆゑ)(おも)はしく(あし)(はこ)ばず、201(あま)りのもどかしさに黒姫(くろひめ)()()いて(たま)らず、
202黒姫(くろひめ)『お(うめ)さまとやら、203(この)をばが()うてやりませう。204(まへ)(わたし)背中(せなか)から案内(あんない)して(くだ)さい。205一刻(いつこく)猶予(いうよ)はなりませぬから……』
206()(なが)ら、207(うめ)をグツと()()ひ、208(つゑ)(ちから)雑草(ざつさう)()(しげ)山道(やまみち)を、209(われ)(わす)れて(すす)()く。210(ほとん)十丁(じつちやう)ばかりも()たと(おも)(とき)211(うめ)背中(せなか)より(ほそ)(こゑ)にて、
212お梅『をばさま、213あそこの(くすのき)根元(ねもと)に、214沢山(たくさん)(いし)()んで御座(ござ)いませう。215あそこに(ねえ)さまや、216二人(ふたり)(かた)()められて()られます。217ワーンワーン』
218(また)もや()()す。219黒姫(くろひめ)()(さけ)ぶお(うめ)(いた)はり(なが)ら、220(あはただ)しく(つか)(まへ)馳寄(はせよ)り、221背中(せなか)よりお(うめ)(おろ)し、222一生(いつしやう)懸命(けんめい)金剛力(こんがうりき)()して、223(くち)神号(しんがう)(とな)(なが)巨大(きよだい)(いし)()をかけ、224()せども()けどもビクとも(うご)かぬのに落胆(らくたん)し、225(なみだ)をタラタラと(なが)(なが)ら、226一生(いつしやう)懸命(けんめい)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(はじ)めた。
227 (この)(とき)丸木橋(まるきばし)(たもと)(あら)はれた三尺(さんじやく)ばかりの(はち)(にん)童子(どうじ)228何処(どこ)ともなく()(きた)り、229巨大(きよだい)なる(いし)(まり)()げる(やう)(かる)さうにポイポイと()()け、230四五間(しごけん)(さき)()げつけて(しま)つた。231さうして(また)もや白煙(しろけぶり)となつて童子(どうじ)姿(すがた)()えなくなつた。232黒姫(くろひめ)感謝(かんしや)(なみだ)(むせ)びつつ一生(いつしやう)懸命(けんめい)(つち)()()(あせ)みどろになつて()りだした。233()れば(さん)(にん)男女(だんぢよ)一緒(いつしよ)(まくら)(なら)べて()められて()る。234黒姫(くろひめ)(こころ)(うち)にて神助(しんじよ)(いの)(なが)ら、235(さん)(にん)身体(からだ)()()青草(あをくさ)(うへ)()かせ、236手早(てばや)(いましめ)(なは)一々(いちいち)()き、237(あま)数歌(かずうた)(うた)()げ、238(さん)(にん)蘇生(そせい)(いの)つた。
239 お(うめ)()()黒姫(くろひめ)水筒(すゐとう)()谷水(たにみづ)()(きた)り、240(さん)(にん)(くち)(ふく)ませた。241(あい)は『ウン』と一声(ひとこえ)(さけ)ぶと(とも)にムツクリと()(あが)り、242(うめ)姿(すがた)()(うれ)()に、
243お愛『ア、244(まへ)(いもうと)のお(うめ)であつたか。245ようまあ無事(ぶじ)()(くだ)さつた』
246()びつく(やう)にする。247(うめ)(うれ)しげに、
248お梅(ねえ)さま、249(うれ)しいわ、250三五教(あななひけう)をばさまが(たす)けて(くだ)さつたのですよ。251(れい)(まを)しなさい』
252 黒姫(くろひめ)二人(ふたり)(をとこ)(かほ)見較(みくら)べ、253高山彦(たかやまひこ)には(あら)ざるかと一生(いつしやう)懸命(けんめい)調(しら)べて()たが、
254黒姫『ヤア、255(これ)孫公(まごこう)ぢやつた。256まア如何(どう)したら()からう』
257身体(からだ)()()れて()た。258まだ何処(どこ)ともなしに温味(ぬくみ)がある。259黒姫(くろひめ)はお(あい)感謝(かんしや)言葉(ことば)(みみ)にもかけずに、260二人(ふたり)(をとこ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)鎮魂(ちんこん)をなし、261(あま)数歌(かずうた)(うた)()げて()る。262二人(ふたり)(やうや)く『ウーン』と(うめ)いて()(あが)四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)して()る。
263孫公(まごこう)『やあ、264黒姫(くろひめ)さまか。265ようまあ(たす)けて(くだ)さいました』
266()つたきり(なみだ)をタラタラと(なが)し、267大地(だいち)(かしら)()げて感謝(かんしや)して()る。268兼公(かねこう)四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)し、
269兼公『ヤア、270(あい)(さま)271(まこと)(あぶな)(こと)御座(ござ)いました』
272(あい)兼公(かねこう)273三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(さま)が、274(わたし)(たち)一同(いちどう)生命(いのち)(たす)けて(くだ)さつたのですよ。275(れい)(まを)しなさい』
276兼公(かねこう)(これ)(これ)は、277誰方(どなた)(ぞん)じませぬが、278()くもまあ生命(いのち)(ひろ)つて(くだ)さいました。279悪者(わるもの)()めにこんな(ところ)に、280生埋(いきう)めにされて()りました。281(すこ)貴女(あなた)のお()でが(おそ)かつたら、282生命(いのち)(たす)かりませぬでした。283(わたし)矢方(やかた)(むら)兼公(かねこう)(まを)して、284あまり()くない人物(じんぶつ)御座(ござ)います。285()うなつたのも(まつた)天罰(てんばつ)御座(ござ)いませう。286何卒(どうぞ)(かみ)(さま)にお(わび)をして(くだ)さいませ』
287黒姫(くろひめ)『まあ、288(なに)よりも結構(けつこう)御座(ござ)いました。289(わたし)結構(けつこう)なお神徳(かげ)(いただ)きまして、290()んな気持(きもち)()(こと)御座(ござ)いませぬ。291さうお(れい)()つて(もら)ひましては、292(わたし)折角(せつかく)善行(ぜんかう)(けぶり)となつて()えて(しま)ひます。293何事(なにごと)(みな)(かみ)(さま)(たす)けて(くだ)さつたのです。294(おほ)きな岩石(がんせき)(おさ)へつけてあつた(この)(つか)(ばば)アの(ちから)(およ)ばず、295(くる)しみ(もだ)えて()矢先(やさき)296木花(このはな)咲耶姫(さくやひめ)(さま)()化身(けしん)(あら)はれて、297(いは)取除(とりの)けて(くだ)さいました。298(その)(かげ)(みな)さまをお(たす)けする(こと)出来(でき)ましたのですから、299何卒(どうぞ)(かみ)(さま)にお(れい)申上(まをしあ)げて(くだ)さい』
300 孫公(まごこう)(はじ)めお(あい)301兼公(かねこう)302(うめ)()(にん)黒姫(くろひめ)(うしろ)端坐(たんざ)し、303天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)救命(きうめい)謝恩(しやおん)祝詞(のりと)(をは)つて一行(いつかう)()(にん)はもと()(みち)引返(ひきかへ)し、304向日峠(むかふたうげ)山道(やまみち)()して辿(たど)()く。
305 あゝ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
306大正一一・九・一四 旧七・二三 北村隆光録)
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