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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第45巻(申の巻)
序文
総説
第1篇 小北の特使
01 松風
〔1191〕
02 神木
〔1192〕
03 大根蕪
〔1193〕
04 霊の淫念
〔1194〕
第2篇 恵の松露
05 肱鉄
〔1195〕
06 唖忿
〔1196〕
07 相生の松
〔1197〕
08 小蝶
〔1198〕
09 賞詞
〔1199〕
第3篇 裏名異審判
10 棚卸志
〔1200〕
11 仲裁
〔1201〕
12 喜苔歌
〔1202〕
13 五三の月
〔1203〕
第4篇 虎風獣雨
14 三昧経
〔1204〕
15 曲角狸止
〔1205〕
16 雨露月
〔1206〕
17 万公月
〔1207〕
18 玉則姫
〔1208〕
19 吹雪
〔1209〕
20 蛙行列
〔1210〕
余白歌
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第五章
肱鉄
(
ひぢてつ
)
〔一一九五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第45巻 舎身活躍 申の巻
篇:
第2篇 恵の松露
よみ(新仮名遣い):
めぐみのしょうろ
章:
第5章 肱鉄
よみ(新仮名遣い):
ひじてつ
通し章番号:
1195
口述日:
1922(大正11)年12月11日(旧10月23日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年9月12日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
松彦たちはお寅たちの身魂の因縁話の迷信にあきれていると、一人の娘がやってきて、義理天上日の出神の生き宮である魔我彦に、上義姫が用があるからちょっと来てくれと促した。
別館に居る松姫は、元は高城山のウラナイ教団を率い高姫の片腕として活躍していたあの凄腕の松姫である。三五教に帰順し、玉照彦を奉迎して帰った三五教の殊勲者でもある。
蠑螈別がウラナイ教の残党を集めて小北山に根拠を構えて邪教を宣伝し始めたので、言依別命は松姫に命じてウラナイ教に潜入させた。松姫はたちまち小北山の実権を握り、蠑螈別やお寅たちは表面上は蠑螈別を教祖としていたが、松姫の言にしたがっていた。
魔我彦はかねてから松姫に想いを寄せてあからさまに言い寄っていたが、松姫はわざわざ魔我彦を呼んで、改めてきっぱりと断りを入れた。
魔我彦は、松姫の侍女のお千代にも馬鹿にされ、気分を害して松姫の館を去っていく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-02-22 17:09:43
OBC :
rm4505
愛善世界社版:
81頁
八幡書店版:
第8輯 281頁
修補版:
校定版:
85頁
普及版:
33頁
初版:
ページ備考:
001
思
(
おも
)
はず
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひつぶれ
002
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らず
喋
(
しやべ
)
り
立
(
た
)
て
003
つひ
脱線
(
だつせん
)
の
其
(
その
)
挙句
(
あげく
)
004
お
寅
(
とら
)
の
前
(
まへ
)
でうつかりと
005
高姫
(
たかひめ
)
恋
(
こひ
)
しい
恋
(
こひ
)
しいと
006
云
(
い
)
つた
言葉
(
ことば
)
を
聞咎
(
ききとが
)
め
007
酒
(
さけ
)
つぎ
居
(
ゐ
)
たるお
寅
(
とら
)
さまは
008
烈火
(
れつくわ
)
の
如
(
ごと
)
く
憤
(
いきどほ
)
り
009
胸倉
(
むなぐら
)
とつて
抑
(
おさ
)
へつけ
010
前後
(
ぜんご
)
も
知
(
し
)
らぬ
正宗
(
まさむね
)
の
011
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
をば
打
(
う
)
ちたたき
012
義理天
(
ぎりてん
)
さまの
手
(
て
)
をかつて
013
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
に
連
(
つ
)
れ
込
(
こ
)
んで
014
布団
(
ふとん
)
の
上
(
うへ
)
に
寝
(
ね
)
させおき
015
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
繕
(
つくろ
)
ふ
可笑
(
をか
)
しさよ
016
末代
(
まつだい
)
さまと
崇
(
あが
)
めたる
017
松彦
(
まつひこ
)
一行
(
いつかう
)
此
(
この
)
居間
(
ゐま
)
の
018
乱
(
みだ
)
れ
果
(
は
)
てたる
有様
(
ありさま
)
を
019
眺
(
なが
)
めて
不審
(
ふしん
)
の
眉
(
まゆ
)
ひそめ
020
其
(
その
)
入口
(
いりぐち
)
に
佇
(
たたず
)
みて
021
魔我彦
(
まがひこ
)
さまが
棕櫚箒
(
しゆろばうき
)
022
持
(
も
)
つて
掃除
(
さうぢ
)
の
済
(
す
)
む
間
(
あひだ
)
023
阿呆待
(
あほま
)
ちし
乍
(
なが
)
らやうやうに
024
一間
(
ひとま
)
に
入
(
い
)
りて
座
(
ざ
)
につけば
025
隣
(
となり
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
呻
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
026
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまはひどい
奴
(
やつ
)
027
高姫
(
たかひめ
)
殿
(
どの
)
が
恋
(
こひ
)
しいと
028
囈言
(
うさごと
)
ばかり
並
(
なら
)
べ
立
(
た
)
て
029
夢中
(
むちう
)
になつて
呻
(
うな
)
り
居
(
を
)
る
030
お
寅
(
とら
)
は
眥
(
まなじり
)
つり
上
(
あ
)
げて
031
面
(
つら
)
を
膨
(
ふく
)
らす
折柄
(
をりから
)
に
032
万公
(
まんこう
)
さまが
手
(
て
)
を
組
(
く
)
んで
033
俄
(
にはか
)
に
装
(
よそほ
)
ふ
神懸
(
かむがか
)
り
034
ウンウンウンウンドスドスン
035
一
(
いつ
)
尺
(
しやく
)
ばかりも
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
り
036
両手
(
りやうて
)
をキチンと
胸
(
むね
)
に
組
(
く
)
み
037
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
耕
(
たがや
)
し
大神
(
だいじん
)
だ
038
潮時
(
しほどき
)
狙
(
ねら
)
つて
囁
(
ささや
)
けば
039
お
寅
(
とら
)
は
吃驚
(
びつくり
)
仰天
(
ぎやうてん
)
し
040
万公
(
まんこう
)
さまの
肉宮
(
にくみや
)
は
041
矢張
(
やつぱ
)
り
耕
(
たがや
)
し
大神
(
だいじん
)
か
042
そんなら
霊
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
で
043
お
菊
(
きく
)
の
婿
(
むこ
)
になるお
方
(
かた
)
044
あゝ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い
045
なぞと
頻
(
しき
)
りに
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
せ
046
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
腹立
(
はらだ
)
ちを
047
ケロリと
忘
(
わす
)
れたあどけなさ
048
松彦
(
まつひこ
)
初
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は
049
此
(
この
)
場
(
ば
)
の
有様
(
ありさま
)
打眺
(
うちなが
)
め
050
実
(
げ
)
に
迷信
(
めいしん
)
の
集団
(
しふだん
)
と
051
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
てたる
折
(
をり
)
もあれ
052
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
が
現
(
あら
)
はれて
053
これこれもうし
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
054
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
さま
055
上義姫
(
じやうぎひめ
)
さまがお
前
(
まへ
)
さまに
056
俄
(
にはか
)
に
用
(
よう
)
が
出来
(
でき
)
た
故
(
ゆゑ
)
057
お
客
(
きやく
)
様
(
さま
)
等
(
ら
)
に
失礼
(
しつれい
)
して
058
一寸
(
ちよつと
)
でよいから
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れと
059
仰有
(
おつしや
)
いましたよ
逸早
(
いちはや
)
く
060
御
(
お
)
いでなされと
手
(
て
)
を
支
(
つか
)
へ
061
話
(
はな
)
せば
魔我彦
(
まがひこ
)
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
062
皆
(
みな
)
さま
失礼
(
しつれい
)
致
(
いた
)
します
063
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまやお
菊
(
きく
)
さま
064
末代
(
まつだい
)
様
(
さま
)
や
皆様
(
みなさま
)
を
065
大切
(
たいせつ
)
にもてなし
成
(
な
)
されませ
066
暫
(
しばら
)
くしたら
又
(
また
)
此処
(
ここ
)
へ
067
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ますと
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
068
使
(
つか
)
ひの
娘
(
むすめ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
069
離
(
はな
)
れの
館
(
やかた
)
へスタスタと
070
肩
(
かた
)
怒
(
いか
)
らして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
071
別
(
べつ
)
の
館
(
やかた
)
には
松姫
(
まつひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
があり
間
(
ま
)
は
狭
(
せま
)
けれど
三間作
(
みまづく
)
り、
072
飾
(
かざ
)
りもなく
白木作
(
しらきづく
)
りで
小
(
こ
)
ザツパリした
家
(
いへ
)
である。
073
松姫
(
まつひめ
)
は
千代
(
ちよ
)
と
云
(
い
)
ふ
十二三
(
じふにさん
)
の
小娘
(
こむすめ
)
を
小間使
(
こまづかひ
)
として
此処
(
ここ
)
に
引籠
(
ひきこも
)
りウラナイ
教
(
けう
)
の
実権
(
じつけん
)
を
握
(
にぎ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
074
表面
(
へうめん
)
からは
蠑螈別
(
いもりわけ
)
が
教祖
(
けうそ
)
なれど
実力
(
じつりよく
)
は
此
(
この
)
松姫
(
まつひめ
)
にあつた。
075
それ
故
(
ゆゑ
)
蠑螈別
(
いもりわけ
)
もお
寅婆
(
とらばあ
)
さまも
一目
(
いちもく
)
を
置
(
お
)
いて
内部
(
ないぶ
)
では
全部
(
ぜんぶ
)
其
(
その
)
頤使
(
いし
)
に
甘
(
あま
)
んじて
居
(
ゐ
)
た。
076
無論
(
むろん
)
此
(
この
)
松姫
(
まつひめ
)
はもとウラナイ
教
(
けう
)
の
取次
(
とりつぎ
)
で
高城山
(
たかしろやま
)
に
教主
(
けうしゆ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
た
剛
(
がう
)
の
女
(
をんな
)
である。
077
さうして
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
し
玉照彦
(
たまてるひこ
)
を
奉迎
(
ほうげい
)
して
帰
(
かへ
)
つた
殊勲者
(
しゆくんしや
)
である。
078
松姫
(
まつひめ
)
は
蠑螈別
(
いもりわけ
)
一派
(
いつぱ
)
がウラナイ
教
(
けう
)
の
残党
(
ざんたう
)
を
集
(
あつ
)
め
小北山
(
こぎたやま
)
に
霊場
(
れいぢやう
)
を
開
(
ひら
)
き
邪教
(
じやけう
)
を
宣伝
(
せんでん
)
しウラル
教式
(
けうしき
)
を
盛
(
さかん
)
に
発揮
(
はつき
)
してゐたので、
079
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
が
特
(
とく
)
に
松姫
(
まつひめ
)
に
命
(
めい
)
じウラナイ
教
(
けう
)
に
差遣
(
さしつか
)
はし、
080
教理
(
けうり
)
を
根本
(
こんぽん
)
的
(
てき
)
に
改正
(
かいせい
)
せしめむとなし
給
(
たま
)
うたのである。
081
それ
故
(
ゆゑ
)
松姫
(
まつひめ
)
は
特別
(
とくべつ
)
の
神力
(
しんりき
)
備
(
そな
)
はり
流石
(
さすが
)
の
蠑螈別
(
いもりわけ
)
も
一歩
(
いつぽ
)
を
譲
(
ゆづ
)
り
徒
(
いたづら
)
に
教祖
(
けうそ
)
の
虚名
(
きよめい
)
に
甘
(
あま
)
んじ、
082
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
神
(
かみ
)
のお
出入
(
でいり
)
と
称
(
しよう
)
して
酒
(
さけ
)
に
浸
(
ひた
)
り
高姫
(
たかひめ
)
の
行衛
(
ゆくゑ
)
を
尋
(
たづ
)
ね
求
(
もと
)
めつつ
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
つて
悶々
(
もんもん
)
の
情
(
じやう
)
を
消
(
け
)
して
居
(
ゐ
)
たのである。
083
魔我
(
まが
)
『
上義姫
(
じやうぎひめ
)
様
(
さま
)
、
084
今
(
いま
)
お
千代
(
ちよ
)
さまを
以
(
もつ
)
て
私
(
わたし
)
をお
呼
(
よ
)
びなさいましたのは
何
(
なん
)
の
御用
(
ごよう
)
で
厶
(
ござ
)
りますか』
085
松姫
(
まつひめ
)
『
別
(
べつ
)
に
折入
(
をりい
)
つて
用
(
よう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はありませぬが、
086
お
前
(
まへ
)
さま、
087
私
(
わたし
)
の
事
(
こと
)
を
今日
(
こんにち
)
限
(
かぎ
)
り
云
(
い
)
はない
様
(
やう
)
にして
貰
(
もら
)
はないと
困
(
こま
)
りますから、
088
一寸
(
ちよつと
)
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
つたのです』
089
魔我
(
まが
)
『
私
(
わたし
)
が
貴女
(
あなた
)
に
対
(
たい
)
し、
090
何
(
なん
)
ぞお
邪魔
(
じやま
)
になる
事
(
こと
)
を
申
(
まをし
)
ましたか』
091
松姫
(
まつひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
いつでも
私
(
わたし
)
に
向
(
むか
)
つて、
092
いやらしい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るぢやないか。
093
今日
(
けふ
)
迄
(
まで
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
のばしに
色々
(
いろいろ
)
と
云
(
い
)
つてお
前
(
まへ
)
さまの
恋
(
こひ
)
の
鋭鋒
(
えいほう
)
を
避
(
さ
)
けて
来
(
き
)
ましたが、
094
今日
(
けふ
)
はお
前
(
まへ
)
さまに、
095
とつくり
云
(
い
)
うておかねばならぬ。
096
今
(
いま
)
のお
客様
(
きやくさま
)
は
松彦
(
まつひこ
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
でせうがな、
097
松彦
(
まつひこ
)
様
(
さま
)
は
誰方
(
どなた
)
の
生宮
(
いきみや
)
だと
思
(
おも
)
つてゐますか』
098
魔我
(
まが
)
『
末代
(
まつだい
)
日
(
ひ
)
の
王天
(
わうてん
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
生宮
(
いきみや
)
ぢやありませぬか』
099
松姫
(
まつひめ
)
『さうでせう。
100
さうだから
末代
(
まつだい
)
様
(
さま
)
とは
何
(
ど
)
うしても
夫婦
(
ふうふ
)
にならねばならぬ
因縁
(
いんねん
)
があるので、
101
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまは
私
(
わたし
)
の
事
(
こと
)
を
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りスツパリと
諦
(
あきら
)
めて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いのだ』
102
魔我
(
まが
)
『
昔
(
むかし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
末代
(
まつだい
)
さまと
上義姫
(
じやうぎひめ
)
さまと
夫婦
(
ふうふ
)
だつたでせう。
103
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今日
(
けふ
)
は
霊
(
みたま
)
とお
成
(
な
)
り
遊
(
あそ
)
ばし
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
が
違
(
ちが
)
つて
居
(
を
)
るのだから
貴女
(
あなた
)
と
私
(
わたし
)
と
夫婦
(
ふうふ
)
になつた
処
(
ところ
)
で
滅多
(
めつた
)
に
罰
(
ばち
)
は
当
(
あた
)
りますまい。
104
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
私
(
わたし
)
は
是
(
これ
)
まで
影
(
かげ
)
になり
日向
(
ひなた
)
になり
苦労
(
くらう
)
をして
来
(
き
)
たのだから、
105
藪
(
やぶ
)
から
棒
(
ぼう
)
をつき
出
(
だ
)
した
様
(
やう
)
に、
106
そんな
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
つても
仲々
(
なかなか
)
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しませぬぞや』
107
松姫
(
まつひめ
)
『これ
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さま、
108
影
(
かげ
)
になり
日向
(
ひなた
)
になり
私
(
わたし
)
のために
尽
(
つく
)
したとは、
109
どんな
事
(
こと
)
をして
下
(
くだ
)
さつたの。
110
お
礼
(
れい
)
も
申
(
まを
)
さねばなりませぬから
一寸
(
ちよつと
)
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい』
111
魔我
(
まが
)
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
の
生宮
(
いきみや
)
だけあつて
私
(
わたし
)
は
義理固
(
ぎりがた
)
いものですよ。
112
お
前
(
まへ
)
さまが
三五教
(
あななひけう
)
であり
乍
(
なが
)
ら、
113
うまく
化
(
ば
)
けて
這入
(
はい
)
つて
厶
(
ござ
)
つたのは
百
(
ひやく
)
も
千
(
せん
)
も
私
(
わたし
)
は
承知
(
しようち
)
してゐるのだ。
114
蠑螈別
(
いもりわけ
)
さまも「
彼奴
(
あいつ
)
あ
怪
(
あや
)
しい、
115
ヒヨツとしたら
爆裂弾
(
ばくれつだん
)
となつて
来
(
き
)
たのだらうから
酒
(
さけ
)
にでも
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
して
片
(
かた
)
づけてやらうか」と、
116
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
アさまと
私
(
わたし
)
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
処
(
ところ
)
でソツと
相談
(
さうだん
)
をなさつた
事
(
こと
)
がある。
117
それでも
此
(
こ
)
の
魔我彦
(
まがひこ
)
はお
前
(
まへ
)
さまが
可愛
(
かあい
)
いものだから、
118
何
(
なん
)
とか
云
(
い
)
つて
助
(
たす
)
けておけば
否応
(
いやおう
)
なしにウンと
云
(
い
)
ふだらうと
思
(
おも
)
つたものだからいろいろと
弁解
(
べんかい
)
してヤツとの
事
(
こと
)
に
蠑螈別
(
いもりわけ
)
やあの
えぐい
お
寅婆
(
とらばあ
)
さまを
納得
(
なつとく
)
させ、
119
今
(
いま
)
ではお
前
(
まへ
)
さまがウラナイ
教
(
けう
)
第一
(
だいいち
)
の
権威者
(
けんゐしや
)
となり、
120
蠑螈別
(
いもりわけ
)
だつてお
寅
(
とら
)
さまだつて
貴方
(
あなた
)
を
内証
(
ないしよう
)
で
先生
(
せんせい
)
と
仰
(
あふ
)
ぎ、
121
何事
(
なにごと
)
も
皆
(
みな
)
貴女
(
あなた
)
の
神勅
(
しんちよく
)
を
受
(
う
)
けて
処置
(
しよち
)
する
様
(
やう
)
にならしやつたのも
皆
(
みな
)
魔我彦
(
まがひこ
)
が
斡旋
(
あつせん
)
の
功
(
こう
)
で
厶
(
ござ
)
りますよ。
122
此
(
この
)
魔我彦
(
まがひこ
)
が
居
(
ゐ
)
なかつたら
貴女
(
あなた
)
の
生命
(
いのち
)
は、
123
とうの
昔
(
むかし
)
になくなつてゐるのだ。
124
さア
之
(
これ
)
でもいやと
仰有
(
おつしや
)
いますか。
125
松彦
(
まつひこ
)
様
(
さま
)
が
成程
(
なるほど
)
末代
(
まつだい
)
日
(
ひ
)
の
王
(
わう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
りませう。
126
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らそれは
霊
(
みたま
)
の
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
、
127
私
(
わたし
)
と
貴女
(
あなた
)
は
肉体
(
にくたい
)
の
夫婦
(
ふうふ
)
の
縁
(
えん
)
を
結
(
むす
)
んで
頂
(
いただ
)
かねば
此
(
この
)
魔我彦
(
まがひこ
)
の
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
ちませぬ。
128
さあキツパリと
返答
(
へんたふ
)
を
聞
(
き
)
かして
下
(
くだ
)
さい。
129
返答
(
へんたふ
)
によつては
此
(
この
)
魔我彦
(
まがひこ
)
にも
考
(
かんが
)
へがありますから』
130
松姫
(
まつひめ
)
『ホヽヽヽヽ
考
(
かんが
)
へがあるとは
如何
(
どう
)
しようと
云
(
い
)
ふの。
131
お
前
(
まへ
)
さまに
考
(
かんが
)
へがあれば
此方
(
こちら
)
にも
亦
(
また
)
考
(
かんが
)
へがある。
132
サア
其
(
その
)
考
(
かんが
)
へを
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
ひませう』
133
魔我彦
(
まがひこ
)
は
言葉
(
ことば
)
につまり、
134
魔我
(
まが
)
『エ…………
其
(
その
)
考
(
かんがへ
)
と
云
(
い
)
ふのは
即
(
すなは
)
ち
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
だと
云
(
い
)
ふのです』
135
松姫
(
まつひめ
)
『ホヽヽヽヽ
感慨
(
かんがい
)
無量
(
むりやう
)
が
如何
(
どう
)
したと
云
(
い
)
ふの。
136
可笑
(
をか
)
しい
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るぢや
有
(
あり
)
ませぬか』
137
魔我
(
まが
)
『こんな
問答
(
もんだふ
)
はぬきにして
手取
(
てつと
)
り
早
(
ばや
)
く
条約
(
でうやく
)
成立
(
せいりつ
)
をさして
下
(
くだ
)
さいな』
138
松姫
(
まつひめ
)
『
何
(
なん
)
の
条約
(
でうやく
)
です。
139
治外
(
ちぐわい
)
法権
(
はふけん
)
、
140
内地
(
ないち
)
雑居
(
ざつきよ
)
、
141
条約
(
でうやく
)
改正
(
かいせい
)
、
142
機会
(
きくわい
)
均等
(
きんとう
)
の
流行
(
はや
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
窮屈
(
きうくつ
)
な
条約
(
でうやく
)
は
結
(
むす
)
び
度
(
た
)
くはありませぬ。
143
総
(
すべ
)
て
国家
(
こくか
)
でも
相互
(
さうご
)
の
間
(
あひだ
)
に
危険
(
きけん
)
が
迫
(
せま
)
つた
時
(
とき
)
に
条約
(
でうやく
)
が
成立
(
せいりつ
)
するものだ。
144
天津
(
てんしん
)
条約
(
でうやく
)
だとて、
145
華府
(
くわふ
)
会議
(
くわいぎ
)
の
条約
(
でうやく
)
だとて、
146
決
(
けつ
)
して
天下
(
てんか
)
太平
(
たいへい
)
のために
結
(
むす
)
ばれたのぢやありませぬ。
147
貴方
(
あなた
)
と
私
(
わたし
)
との
間
(
あひだ
)
に
別
(
べつ
)
に
危険
(
きけん
)
の
要素
(
えうそ
)
が
含
(
ふく
)
まれて
居
(
ゐ
)
るのぢやなし、
148
何
(
なん
)
の
為
(
ため
)
の
条約
(
でうやく
)
ですか。
149
又
(
また
)
其
(
その
)
条文
(
でうぶん
)
の
趣
(
おもむき
)
は
何
(
ど
)
んな
事
(
こと
)
が
問題
(
もんだい
)
になつて
居
(
を
)
りますか。
150
それを
聞
(
き
)
いた
上
(
うへ
)
でなければ、
151
さうやすやすと
条約
(
でうやく
)
締結
(
ていけつ
)
批准
(
ひじゆん
)
交換
(
かうくわん
)
も
出来
(
でき
)
ぬぢやありませぬか』
152
魔我
(
まが
)
『
貴女
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
条約
(
でうやく
)
の
条
(
でう
)
と
私
(
わたし
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
情約
(
じやうやく
)
の
情
(
じやう
)
とは
情
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
て
天地
(
てんち
)
霄壌
(
せうじやう
)
の
相違
(
さうゐ
)
があります。
153
貴女
(
あなた
)
の
条
(
でう
)
はスヂと
云
(
い
)
ふ
字
(
じ
)
、
154
私
(
わたくし
)
の
情
(
じやう
)
は
青
(
あを
)
い
心
(
こころ
)
と
云
(
い
)
ふ
情
(
じやう
)
ですよ』
155
松姫
(
まつひめ
)
『
上義姫
(
じやうぎひめ
)
の
上
(
じやう
)
とは
違
(
ちが
)
ひますな』
156
魔我
(
まが
)
『そりや
全然
(
ぜんぜん
)
正反対
(
せいはんたい
)
です』
157
松姫
(
まつひめ
)
『
肝腎
(
かんじん
)
の
条
(
でう
)
が
正反対
(
せいはんたい
)
なれば
条約
(
でうやく
)
したつて
成立
(
せいりつ
)
せぬぢやありませぬか。
158
無条件
(
むでうけん
)
否
(
いな
)
無情漢
(
むじやうかん
)
だと
思
(
おも
)
はずに、
159
こんな
提案
(
ていあん
)
は
速
(
すみやか
)
に
撤回
(
てつくわい
)
して
下
(
くだ
)
さい。
160
末代
(
まつだい
)
日
(
ひ
)
の
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
今
(
いま
)
にお
越
(
こ
)
しになつたら
叱
(
しか
)
られますからな。
161
ホヽヽヽヽ、
162
あの
末代
(
まつだい
)
さまは
何
(
ど
)
うして
厶
(
ござ
)
るのだらう。
163
エーじれつたい。
164
好
(
す
)
きは
来
(
きた
)
らず
嫌
(
いや
)
は
来
(
きた
)
る、
165
本当
(
ほんたう
)
に
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
思
(
おも
)
ふ
様
(
やう
)
には
行
(
ゆ
)
かぬものだわ。
166
これ
千代
(
ちよ
)
さま、
167
お
前
(
まへ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが
早
(
はや
)
く
末代
(
まつだい
)
さまに
別館
(
べつくわん
)
へ
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さる
様
(
やう
)
お
招
(
まね
)
き
申
(
まを
)
して
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
168
千代
(
ちよ
)
『はい、
169
只今
(
ただいま
)
行
(
い
)
つて
参
(
まゐ
)
ります』
170
魔我
(
まが
)
『これ、
171
お
千代
(
ちよ
)
さま、
172
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つてくれ、
173
今
(
いま
)
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
つては
大
(
おほい
)
に
困
(
こま
)
る。
174
行
(
い
)
つてもいい
様
(
やう
)
になつたら
此
(
この
)
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
さまが
指図
(
さしづ
)
をするから』
175
千代
(
ちよ
)
『いえいえ、
176
私
(
わたし
)
は
魔我彦
(
まがひこ
)
さまの
召使
(
めしつか
)
ひぢやありませぬ。
177
上義姫
(
じやうぎひめ
)
様
(
さま
)
の
家来
(
けらい
)
ですから
貴方
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
は
聞
(
き
)
く
義務
(
ぎむ
)
はありませぬ。
178
私
(
わたし
)
は
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
様
(
さま
)
に
全権
(
ぜんけん
)
委員
(
ゐゐん
)
を
任
(
まか
)
されたのですから、
179
自分
(
じぶん
)
の
権利
(
けんり
)
を
執行
(
しつかう
)
すれば
宜
(
い
)
いのです。
180
阿呆
(
あはう
)
の
天上
(
てんじやう
)
さま、
181
大
(
おほ
)
きに
憚
(
はばか
)
りさま』
182
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らツツと
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
左
(
ひだり
)
の
足
(
あし
)
でポンと
畳
(
たたみ
)
を
脅
(
おびや
)
かしスタスタと
表
(
おもて
)
へ
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
かうとする。
183
魔我
(
まが
)
『こりやこりやお
千代
(
ちよ
)
殿
(
どの
)
、
184
何故
(
なぜ
)
長上
(
ちやうじやう
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
きき
)
ませぬか。
185
子供
(
こども
)
の
癖
(
くせ
)
に
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
い』
186
お
千代
(
ちよ
)
『
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
厳
(
いづ
)
の
言葉
(
ことば
)
を
如何
(
いか
)
にして
187
魔我彦
(
まがひこ
)
さまにまげらるべしやは。
188
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
も
腰
(
こし
)
も
魔我彦
(
まがひこ
)
が
189
恋
(
こひ
)
の
魔神
(
まがみ
)
にとらはれてゐる。
190
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
とはおとましや
191
赤
(
あか
)
い
顔
(
かほ
)
して
焔
(
ほのほ
)
吹
(
ふ
)
きつつ』
192
魔我
(
まが
)
『こりやお
千代
(
ちよ
)
、
193
そりや
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
す。
194
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日出
(
ひのでの
)
神
(
かみ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
るか。
195
世界
(
せかい
)
の
根本
(
こつぽん
)
の
根本
(
こつぽん
)
から
何
(
なに
)
もかも
知
(
し
)
りぬいた
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
大和
(
やまと
)
魂
(
だましひ
)
の
生粋
(
きつすゐ
)
の
生宮
(
いきみや
)
さまだぞ』
196
千代
(
ちよ
)
『ホヽヽヽヽ
不義理
(
ふぎり
)
の
天上
(
てんじやう
)
、
197
上義姫
(
じやうぎひめ
)
様
(
さま
)
に
弾
(
はじ
)
かれて
目
(
め
)
から
火
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
198
心
(
こころ
)
も
腰
(
こし
)
も
曲
(
まが
)
つた
魔我彦
(
まがひこ
)
様
(
さま
)
、
199
よう、
200
まアそんな
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
られたものですわ』
201
松姫
(
まつひめ
)
『
相生
(
あひおひ
)
の
松
(
まつ
)
の
緑
(
みどり
)
も
高砂
(
たかさご
)
の
202
幹
(
みき
)
の
根元
(
ねもと
)
に
荒浪
(
あらなみ
)
がうつ。
203
相生
(
あひおひ
)
の
松
(
まつ
)
の
緑
(
みどり
)
は
千代
(
ちよ
)
かけて
204
栄
(
さか
)
え
栄
(
さか
)
えて
曲
(
まが
)
る
事
(
こと
)
なし。
205
魔我彦
(
まがひこ
)
が
何程
(
なにほど
)
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
だとて
206
此
(
この
)
松
(
まつ
)
のみは
影
(
かげ
)
もささせぬ。
207
松彦
(
まつひこ
)
と
松姫
(
まつひめ
)
二人
(
ふたり
)
並
(
なら
)
ばして
208
松
(
まつ
)
の
神世
(
かみよ
)
の
千代
(
ちよ
)
を
祝
(
ことほ
)
ぐ』
209
魔我
(
まが
)
『
今日
(
けふ
)
か
明日
(
あす
)
か、
何時
(
いつ
)
吉日
(
きちにち
)
が
来
(
きた
)
るやと
210
まつ
甲斐
(
かひ
)
もなき
魔我彦
(
まがひこ
)
の
胸
(
むね
)
。
211
さり
乍
(
なが
)
ら
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
の
魔我彦
(
まがひこ
)
は
212
理
(
り
)
を
非
(
ひ
)
に
曲
(
ま
)
げても
通
(
とほ
)
さなおかぬ。
213
義理
(
ぎり
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
るなら
上義姫
(
じやうぎひめ
)
214
吾
(
わが
)
心根
(
こころね
)
もちとは
汲
(
く
)
ませよ』
215
松姫
(
まつひめ
)
『
山
(
やま
)
の
井
(
ゐ
)
の
底
(
そこ
)
にも
知
(
し
)
れぬ
水鏡
(
みづかがみ
)
216
汲
(
く
)
みとり
難
(
がた
)
きふり
釣瓶
(
つるべ
)
かな』
217
魔我
(
まが
)
『ふり
釣瓶
(
つるべ
)
いかにピンピン
覆
(
かへ
)
るとも
218
汲
(
く
)
んで
見
(
み
)
ようぞ
天上
(
てんじやう
)
車井
(
くるまゐ
)
』
219
松姫
(
まつひめ
)
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
車
(
くるま
)
に
釣瓶
(
つるべ
)
はかかるとも
220
片方
(
かたはう
)
は
汲
(
く
)
めど
片方
(
かたはう
)
からから。
221
並
(
なら
)
べては
少
(
すこ
)
しも
汲
(
く
)
めぬ
山
(
やま
)
の
井
(
ゐ
)
の
222
釣瓶
(
つるべ
)
を
如何
(
いか
)
に
濡
(
ぬ
)
らす
由
(
よし
)
なし』
223
千代
(
ちよ
)
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
恋
(
こひ
)
の
破
(
やぶ
)
れた
悲
(
かな
)
しさに
224
首
(
くび
)
をつる
瓶
(
べ
)
とおなり
遊
(
あそ
)
ばせ。
225
ホヽヽヽヽ
釣瓶
(
つるべ
)
おろしにかけられて
226
沈
(
しづ
)
み
給
(
たま
)
へり
恋
(
こひ
)
の
深井
(
ふかゐ
)
に』
227
魔我
(
まが
)
『まだ
年
(
とし
)
も
行
(
ゆ
)
かぬ
癖
(
くせ
)
して
魔我彦
(
まがひこ
)
に
228
何
(
なに
)
をつるつる
水臭
(
みづくさ
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふ』
229
千代
(
ちよ
)
『
如何
(
どう
)
しても
末代
(
まつだい
)
さまの
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
230
行
(
ゆ
)
かねばならぬ
魔我
(
まが
)
左様
(
さやう
)
なら』
231
魔我
(
まが
)
『まて
暫
(
しば
)
し、そんな
事
(
こと
)
なら
俺
(
おれ
)
が
行
(
ゆ
)
く
232
子供
(
こども
)
の
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
す
幕
(
まく
)
でないぞや』
233
松姫
(
まつひめ
)
『
義理
(
ぎり
)
天上
(
てんじやう
)
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
に
234
今日
(
けふ
)
は
改
(
あらた
)
め
一言
(
ひとこと
)
申
(
まを
)
す。
235
松彦
(
まつひこ
)
は
此
(
この
)
松姫
(
まつひめ
)
がその
昔
(
むかし
)
236
相知
(
あひし
)
り
合
(
あ
)
うた
珍
(
うづ
)
の
恋人
(
こひびと
)
。
237
恋人
(
こひびと
)
と
聞
(
き
)
いて
驚
(
おどろ
)
き
給
(
たま
)
ふまじ
238
神
(
かみ
)
の
許
(
ゆる
)
せし
夫婦
(
ふうふ
)
なりせば』
239
魔我
(
まが
)
『
何
(
なん
)
とまア
悪性
(
あくしやう
)
な
事
(
こと
)
になつて
来
(
き
)
た
240
こんな
事
(
こと
)
なら
救
(
すく
)
ふぢやなかつたに』
241
松姫
(
まつひめ
)
『
村肝
(
むらきも
)
の
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
ぞ
知
(
し
)
られける
242
枉
(
まが
)
のすくひし
魔我彦
(
まがひこ
)
司
(
つかさ
)
を』
243
魔我彦
(
まがひこ
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
244
魔我彦
『エーエ、
245
雪隠
(
せんち
)
の
火事
(
くわじ
)
だ』
246
松姫
(
まつひめ
)
『オホヽヽヽ』
247
千代
(
ちよ
)
『イヒヽヽヽ、
248
阿呆
(
あはう
)
阿呆
(
あはう
)
阿呆
(
あはう
)
』
249
魔我
(
まが
)
『エー、
250
コメツチヨの
癖
(
くせ
)
に
八釜
(
やかま
)
しいわい。
251
キヽヽヽヽ
気色
(
きしよく
)
が
悪
(
わる
)
いわい。
252
サツパリ
杓子
(
しやくし
)
だ。
253
源助
(
げんすけ
)
だ、
254
アーア』
255
(
大正一一・一二・一一
旧一〇・二三
北村隆光
録)
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