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第47巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 浮木の盲亀
01 アーク燈
〔1234〕
02 黒士会
〔1235〕
03 寒迎
〔1236〕
04 乱痴将軍
〔1237〕
05 逆襲
〔1238〕
06 美人草
〔1239〕
第2篇 中有見聞
07 酔の八衢
〔1240〕
08 中有
〔1241〕
09 愛と信
〔1242〕
10 震士震商
〔1243〕
11 手苦駄女
〔1244〕
第3篇 天国巡覧
12 天界行
〔1245〕
13 下層天国
〔1246〕
14 天開の花
〔1247〕
15 公義正道
〔1248〕
16 霊丹
〔1249〕
17 天人歓迎
〔1250〕
18 一心同体
〔1251〕
19 化相神
〔1252〕
20 間接内流
〔1253〕
21 跋文
〔1254〕
余白歌
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<<< 乱痴将軍
(B)
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第五章
逆襲
(
ぎやくしう
)
〔一二三八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻
篇:
第1篇 浮木の盲亀
よみ(新仮名遣い):
うききのもうき
章:
第5章 逆襲
よみ(新仮名遣い):
ぎゃくしゅう
通し章番号:
1238
口述日:
1923(大正12)年01月08日(旧11月22日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年10月6日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
アークは郊外を散歩しながら、科学知識のみを頼む現代人の無常さを嘆く歌を歌い、ひるがえって、自分が愛善の火と真信の光にめざめることができたことを神に感謝した。
タールは、アークもずいぶん変わったものだと話しかけた。二人は治国別の身の上を案じ、どうなったか気にかけつつ、詩歌を歌ったりなどしながら歩いている。
二人は、いずれランチ将軍、片彦将軍も治国別の徳によって三五教に帰順するだろうから、それまでバラモン軍に籍を置いて我慢するのみだと話し合っている。
そこへエキスがウラナイ教の元教主・蠑螈別を駕籠に載せて陣中に迎え入れてきた。自分の手柄を誇って威張り散らすエキスに対し、アークとタールは自分たちも昇進したのだから威張るなとたしなめ、エキスがうまい汁を吸ってきたのを悟ってからかった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-04-14 10:49:50
OBC :
rm4705
愛善世界社版:
72頁
八幡書店版:
第8輯 497頁
修補版:
校定版:
75頁
普及版:
34頁
初版:
ページ備考:
001
(アーク)
『
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
りの
枯野原
(
かれのはら
)
002
万木
(
ばんぼく
)
の
梢
(
こずゑ
)
は
羽衣
(
はごろも
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
003
肌
(
はだへ
)
をたち
切
(
き
)
るばかりの
004
寒風
(
かんぷう
)
に
戦慄
(
せんりつ
)
してゐる。
005
独
(
ひと
)
り
松柏
(
しようはく
)
のみは
蒼々
(
さうさう
)
たり
006
ヒヨやツムギや
百舌鳥
(
もづ
)
雀
(
すずめ
)
などが
007
悲
(
かな
)
しげな
声調
(
せいてう
)
を
搾
(
しぼ
)
つて
008
浮世
(
うきよ
)
の
無情
(
むじやう
)
を
訴
(
うつた
)
へてゐる。
009
吾
(
わが
)
目
(
め
)
に
収容
(
しうよう
)
さるるものは
010
生気
(
せいき
)
の
褪
(
あ
)
せた
011
細氷
(
さいひよう
)
の
波
(
なみ
)
を
敷
(
し
)
きつめた
012
銀冷
(
ぎんれい
)
の
世界
(
せかい
)
のみだ。
013
万有
(
ばんいう
)
一切
(
いつさい
)
はあらゆる
活動
(
くわつどう
)
を
休止
(
きうし
)
し
014
所謂
(
いはゆる
)
015
冬籠
(
ふゆごも
)
りの
最中
(
さいちう
)
である
016
かかる
冷酷
(
れいこく
)
無残
(
むざん
)
の
光景
(
くわうけい
)
を
眺
(
なが
)
めて
017
貧
(
まづ
)
しき
人
(
ひと
)
は
何
(
いづ
)
れも
寒気
(
かんき
)
と
飢餓
(
きが
)
に
泣
(
な
)
く
018
反対
(
はんたい
)
的
(
てき
)
に
富
(
と
)
めるものは
019
雪見
(
ゆきみ
)
の
宴
(
えん
)
を
張
(
は
)
り
020
嬋妍
(
せんけん
)
たる
美姫
(
びき
)
を
招
(
まね
)
き
021
青楼
(
せいろう
)
に
酒盃
(
しゆはい
)
をかたむけ
022
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
的
(
てき
)
歓楽
(
くわんらく
)
に
耽
(
ふけ
)
る
023
社会
(
しやくわい
)
は
真
(
しん
)
に
様々
(
さまざま
)
なものだ
024
冬日
(
とうじつ
)
積雪
(
せきせつ
)
のために
025
労働
(
らうどう
)
の
機
(
き
)
を
得
(
え
)
ず
026
生命
(
いのち
)
の
糧
(
かて
)
を
求
(
もと
)
めて
泣
(
な
)
くもあれば
027
冷
(
つめ
)
たき
雪
(
ゆき
)
の
景色
(
けしき
)
をながめて
028
酒類
(
さけるゐ
)
にひたり
029
一宵
(
いつせう
)
千金
(
せんきん
)
を
浪費
(
らうひ
)
濫用
(
らんよう
)
して
030
猶
(
なほ
)
も
惜
(
を
)
しまぬものあり
031
顧
(
かへり
)
みれば
凡
(
すべ
)
て
社会
(
しやくわい
)
の
諸行
(
しよぎやう
)
は
無常
(
むじやう
)
なり
032
因果
(
いんぐわ
)
応報
(
おうはう
)
の
神理
(
しんり
)
に
暗
(
くら
)
き
033
現代人
(
げんだいじん
)
は
科学
(
くわがく
)
的
(
てき
)
知識
(
ちしき
)
のみを
漁
(
あさ
)
りて
034
永遠
(
ゑいゑん
)
の
天国
(
てんごく
)
を
知
(
し
)
らず
035
又
(
また
)
根底
(
ねそこ
)
の
国
(
くに
)
の
何
(
なん
)
たるを
解
(
かい
)
せず
036
酔生
(
すゐせい
)
夢死
(
むし
)
無意義
(
むいぎ
)
なる
037
生涯
(
しやうがい
)
を
送
(
おく
)
るあり
038
世間
(
せけん
)
の
無情
(
むじやう
)
冷酷
(
れいこく
)
を
歎
(
なげ
)
きて
039
厳寒
(
げんかん
)
の
空
(
そら
)
に
戦
(
おのの
)
き
慄
(
ふる
)
ひつつ
040
面白
(
おもしろ
)
からぬ
冬日
(
とうじつ
)
を
送
(
おく
)
るもあり
041
人生
(
じんせい
)
の
暗黒面
(
あんこくめん
)
は
042
椿
(
つばき
)
の
花
(
はな
)
の
梢
(
こずゑ
)
を
去
(
さ
)
る
如
(
ごと
)
く
043
ぽたりぽたりと
地上
(
ちじやう
)
に
降
(
ふ
)
る
044
悲喜
(
ひき
)
交々
(
こもごも
)
の
社会
(
しやくわい
)
のおとづれ
045
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
四辺
(
しへん
)
を
包
(
つつ
)
む
怪
(
あや
)
しさ。
046
○
047
アヽされどされど
048
愛善
(
あいぜん
)
の
火
(
ひ
)
と
信真
(
しんしん
)
の
光
(
ひか
)
りに
049
自
(
みづか
)
ら
眼
(
まなこ
)
醒
(
さ
)
めたる
吾人
(
ごじん
)
は
050
光栄
(
くわうえい
)
なり
幸
(
さいは
)
ひなり
051
天地
(
てんち
)
の
主
(
しゆ
)
なる
神
(
かみ
)
の
052
玉
(
たま
)
の
如
(
ごと
)
き
神格
(
しんかく
)
の
内流
(
ないりう
)
を
053
全身
(
ぜんしん
)
に
漲
(
みなぎ
)
らしつつ
054
智慧
(
ちゑ
)
と
証覚
(
しようかく
)
にひたりてより
055
世人
(
よびと
)
の
怖
(
おそ
)
るる
針
(
はり
)
刺
(
さ
)
す
如
(
ごと
)
き
厳冬
(
げんとう
)
も
056
万物
(
ばんぶつ
)
声
(
こゑ
)
を
潜
(
ひそ
)
むる
冷
(
つめ
)
たき
057
死
(
し
)
んだやうな
夜半
(
よは
)
の
空気
(
くうき
)
も
058
吾人
(
ごじん
)
には
暖
(
あたた
)
かき
春陽
(
しゆんやう
)
の
思
(
おも
)
ひあり
059
アヽ
主
(
す
)
の
神
(
かみ
)
よ
主
(
す
)
の
神
(
かみ
)
よ
060
わが
身魂
(
みたま
)
を
機関
(
きくわん
)
の
一部分
(
いちぶぶん
)
として
061
いや
永久
(
とこしへ
)
に
使
(
つか
)
はせ
給
(
たま
)
へ
062
無限
(
むげん
)
絶対
(
ぜつたい
)
無始
(
むし
)
無終
(
むしう
)
の
神格者
(
しんかくしや
)
063
愛善
(
あいぜん
)
の
肉
(
にく
)
と
064
神真
(
しんしん
)
の
血
(
ち
)
を
以
(
もつ
)
て
065
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
上
(
うへ
)
に
太陽
(
たいやう
)
の
如
(
ごと
)
く
月
(
つき
)
の
如
(
ごと
)
く
066
降
(
くだ
)
らせたまへ
067
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸
(
ち
)
はへませ』
068
と
歌
(
うた
)
つて
郊外
(
かうぐわい
)
の
散歩
(
さんぽ
)
をして
居
(
ゐ
)
るのはアークであつた。
069
一人
(
ひとり
)
はタールのバラモン
信者
(
しんじや
)
である。
070
タール
『オイ
大将
(
たいしやう
)
、
071
俄
(
にはか
)
に
悟
(
さと
)
つたらしいことを
云
(
い
)
ふぢやないか。
072
俺
(
おれ
)
は
悪党
(
あくたう
)
だからアークと
名
(
な
)
をつけたのだ、
073
それだからどこ
迄
(
まで
)
も
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
悪
(
あく
)
をやると
主張
(
しゆちやう
)
して
居
(
ゐ
)
たが、
074
たうとう
治国別
(
はるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
とぶつつかつて
俄
(
にはか
)
に
屁古垂
(
へこた
)
れたぢやないか』
075
アーク
『
俺
(
おれ
)
があの
宣伝使
(
せんでんし
)
と
出会
(
であ
)
つたお
蔭
(
かげ
)
で、
076
今日
(
こんにち
)
の
地位
(
ちゐ
)
になつたのぢやないか、
077
エーン、
078
能
(
よ
)
く
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ、
079
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
、
080
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
の
帷幕
(
ゐばく
)
に
参
(
さん
)
じ、
081
重要
(
ぢうえう
)
会議
(
くわいぎ
)
に
参列
(
さんれつ
)
する
身分
(
みぶん
)
となつたのは、
082
矢張
(
やつぱ
)
り
治国別
(
はるくにわけ
)
さまのお
蔭
(
かげ
)
ぢや、
083
併
(
しか
)
し
治国別
(
はるくにわけ
)
さまはどうなつたのだらうかなア。
084
よもやあの
人格者
(
じんかくしや
)
がオメオメとランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
陥穽
(
かんせい
)
に
陥
(
おちい
)
る
筈
(
はず
)
はあるまいしなア………
何
(
なん
)
だか
俺
(
おれ
)
は
気
(
き
)
がかりでならないのだ。
085
何処迄
(
どこまで
)
も
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
表面
(
へうめん
)
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
し、
086
治国別
(
はるくにわけ
)
さまの
身辺
(
しんぺん
)
を
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けなければならない
義務
(
ぎむ
)
があるのだ。
087
それにつけてもビルの
奴
(
やつ
)
、
088
癪
(
しやく
)
に
触
(
さは
)
るぢやないか、
089
ランチの
従卒
(
じゆうそつ
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて、
090
無茶
(
むちや
)
苦茶
(
くちや
)
に
威張
(
ゐば
)
り
散
(
ち
)
らすのだからなア』
091
タール
『
威張
(
ゐば
)
りたい
奴
(
やつ
)
は
威張
(
ゐば
)
らして
置
(
お
)
くさ。
092
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
迄
(
まで
)
馬
(
うま
)
のお
世話
(
せわ
)
ばかりさされて
居
(
ゐ
)
るのだから、
093
一寸
(
ちよつと
)
は
威張
(
ゐば
)
らしてやつたて
好
(
い
)
いぢやないか。
094
誰
(
たれ
)
だつて
何
(
なに
)
かの
特権
(
とくけん
)
がなければ
勤
(
つと
)
まらぬからなア、
095
彼奴
(
あいつ
)
だつてさう
馬鹿
(
ばか
)
にしたものぢやないよ。
096
俺
(
おれ
)
だつて
貴様
(
きさま
)
だつて
二三
(
にさん
)
日前
(
にちぜん
)
迄
(
まで
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
惨
(
みじ
)
めなものだつたからな。
097
併
(
しか
)
し
人間
(
にんげん
)
は
一旦
(
いつたん
)
ドン
底
(
ぞこ
)
に
落
(
お
)
ちて
来
(
こ
)
ねば
駄目
(
だめ
)
だ。
098
「
人生
(
じんせい
)
の
破調
(
はてう
)
は
神
(
かみ
)
を
輸入
(
ゆにふ
)
す」とか、
099
どこやらの
哲学者
(
てつがくしや
)
が
吐
(
ほざ
)
いたぢやないか。
100
一旦
(
いつたん
)
失脚
(
しつきやく
)
せなくては、
101
真
(
しん
)
の
神
(
かみ
)
に
接
(
せつ
)
し
神
(
かみ
)
の
神力
(
しんりき
)
を
受
(
う
)
ける
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないものだ』
102
アーク
『さうだなア。
103
何
(
なん
)
でもエマーソンとか
云
(
い
)
ふ
哲人
(
てつじん
)
の
言葉
(
ことば
)
だと
聞
(
き
)
いてゐるが、
104
随分
(
ずゐぶん
)
エラーソン
に
云
(
い
)
つたものぢやなア。
105
アハヽヽヽ』
106
タール
『
古今
(
ここん
)
東西
(
とうざい
)
の
偉人
(
ゐじん
)
傑士
(
けつし
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
107
大抵
(
たいてい
)
孤児
(
こじ
)
か
貧児
(
ひんじ
)
か、
108
もしくは
私生児
(
しせいじ
)
或
(
あるひ
)
は
極
(
きは
)
めて
惨
(
みじ
)
めな
不仕合
(
ふしあは
)
せ
者
(
もの
)
であつた
事
(
こと
)
を
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
ると、
109
人間
(
にんげん
)
と
云
(
い
)
ふものは、
110
何
(
ど
)
うしても
悲境
(
ひきやう
)
の
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
んで、
111
社会
(
しやくわい
)
の
辛酸
(
しんさん
)
を
嘗
(
な
)
めて
来
(
こ
)
なくては
到底
(
たうてい
)
駄目
(
だめ
)
だよ。
112
人間
(
にんげん
)
の
父母
(
ふぼ
)
の
恩愛
(
おんあい
)
は、
113
動
(
やや
)
もすれば
舐犢
(
しとく
)
の
愛
(
あい
)
に
流
(
なが
)
れ
易
(
やす
)
きものだ。
114
貴族
(
きぞく
)
の
伜
(
せがれ
)
が
鞭撻
(
べんたつ
)
ない
手
(
て
)
に
育
(
そだ
)
てられ、
115
人
(
ひと
)
となつた
所謂
(
いはゆる
)
寵児
(
ちようじ
)
は、
116
往々
(
わうわう
)
にして
放蕩
(
はうたう
)
遊惰
(
いうだ
)
の
鈍物
(
どんぶつ
)
となるの
事実
(
じじつ
)
は、
117
世間
(
せけん
)
には
随分
(
ずゐぶん
)
沢山
(
たくさん
)
あるものだからなア。
118
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
にも、
119
親
(
おや
)
はなくても
子
(
こ
)
は
育
(
そだ
)
つと
云
(
い
)
ふぢやないか。
120
人間
(
にんげん
)
は
何
(
ど
)
うしても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
保護
(
ほご
)
を
受
(
う
)
けなくては、
121
一力
(
いちりき
)
で
存在
(
そんざい
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
はしない、
122
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
愛
(
あい
)
に
触
(
ふ
)
れなくちや
駄目
(
だめ
)
だ。
123
俺
(
おれ
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
愛
(
あい
)
の
呼吸
(
こきふ
)
と
云
(
い
)
ふ
歌
(
うた
)
を
作
(
つく
)
つて
見
(
み
)
たのだが、
124
一
(
ひと
)
つ
謹
(
つつし
)
んで
拝聴
(
はいちやう
)
する
気
(
き
)
はないか』
125
アーク
『どうせ、
126
貴様
(
きさま
)
の
事
(
こと
)
だから
碌
(
ろく
)
な
歌
(
うた
)
は
詠
(
よ
)
めはしよまい。
127
併
(
しか
)
し
後生
(
ごしやう
)
のためだから、
128
一
(
ひと
)
つ
辛抱
(
しんばう
)
して
聞
(
き
)
いてやらう』
129
タールは、
130
エヘンと
咳払
(
せきばらひ
)
しながら、
131
タール
『
吾輩
(
わがはい
)
の
詩歌
(
しいか
)
は
左
(
さ
)
の
通
(
とほ
)
りだ。
132
天父
(
てんぷ
)
の
聖心
(
せいしん
)
にある
133
大愛
(
だいあい
)
の
鼓動
(
こどう
)
は
134
直
(
ただち
)
に
美
(
うつく
)
しく
135
而
(
しか
)
も
厳粛
(
げんしゆく
)
なる
136
自然
(
しぜん
)
の
情調
(
じやうてう
)
として
137
促々
(
そくそく
)
として
吾
(
わが
)
身
(
み
)
に
迫
(
せま
)
り
138
動
(
やや
)
もすれば
私欲
(
しよく
)
野念
(
やねん
)
のために
139
昂進
(
かうしん
)
し
攪乱
(
かくらん
)
する
140
吾
(
わが
)
心身
(
しんしん
)
の
脈搏
(
みやくはく
)
を
鎮静
(
ちんせい
)
し
141
かくて
従容
(
しようよう
)
として
142
捨身
(
しやしん
)
無為
(
むゐ
)
の
143
本然
(
ほんぜん
)
的
(
てき
)
活動
(
くわつどう
)
に
入
(
い
)
らねば
止
(
や
)
まない。
144
如何
(
いか
)
に
安息
(
あんそく
)
を
求
(
もと
)
めて
145
涼
(
すず
)
しき
山奥
(
やまおく
)
や
146
静
(
しづか
)
な
海浜
(
かいひん
)
に
遊
(
あそ
)
ぶも
147
若
(
も
)
し
夫
(
そ
)
れ
148
心霊
(
しんれい
)
の
内分
(
ないぶん
)
に
149
神
(
かみ
)
と
倶
(
とも
)
に
働
(
はたら
)
き
150
天界
(
てんかい
)
を
蔵
(
ざう
)
して
151
天地
(
てんち
)
と
呼吸
(
こきふ
)
を
斉
(
ととの
)
ふべき
152
霊覚
(
れいかく
)
を
欠
(
か
)
かむか
153
安息
(
あんそく
)
も
立命
(
りつめい
)
も
154
只
(
ただ
)
一場
(
いちぢやう
)
の
好夢
(
かうむ
)
にも
比
(
ひ
)
すべき
155
憐
(
あは
)
れなる
欺幻
(
ぎげん
)
に
156
過
(
す
)
ぎないであらう』
157
アーク
『
成程
(
なるほど
)
ちぎる
秋茄子
(
あきなすび
)
、
158
根
(
ね
)
つから
面黒
(
おもくろ
)
くないわい。
159
併
(
しか
)
しながら、
160
治国別
(
はるくにわけ
)
さまに
感化
(
かんくわ
)
されて
俄詩人
(
にはかしじん
)
となつたぢやないか。
161
もう
是
(
これ
)
だけ
詩文
(
しぶん
)
が
綴
(
つづ
)
れるやうになりやタールも
文壇
(
ぶんだん
)
の
花
(
はな
)
として、
162
持
(
も
)
て
囃
(
はや
)
されるかも
知
(
し
)
れないよ。
163
アハヽヽヽ』
164
タール
『
併
(
しか
)
し
俺
(
おれ
)
は
何
(
ど
)
うしたものか、
165
バラモン
軍
(
ぐん
)
に
籍
(
せき
)
を
置
(
お
)
くのが、
166
きつう
嫌
(
きら
)
ひとなつたのだが、
167
それだと
云
(
い
)
つて
外
(
ほか
)
にする
事
(
こと
)
もなし、
168
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
いから
先
(
ま
)
づ
暫
(
しばら
)
くは
腰掛
(
こしかけ
)
だと
思
(
おも
)
うて、
169
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
や
片彦
(
かたひこ
)
将軍
(
しやうぐん
)
のお
髯
(
ひげ
)
の
塵
(
ちり
)
を
心
(
こころ
)
ならずも
払
(
はら
)
ふ
事
(
こと
)
としようかなア。
170
これが
処世法
(
しよせいほふ
)
の
最
(
もつと
)
も
優秀
(
いうしう
)
なる
道
(
みち
)
だらうよ』
171
アーク
『さうだ、
172
治国別
(
はるくにわけ
)
さまが
陣中
(
ぢんちう
)
にお
出
(
いで
)
になつたのだから、
173
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
此処
(
ここ
)
は
辛抱
(
しんばう
)
せなくてはなるまい。
174
ランチ、
175
片彦
(
かたひこ
)
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
も
何
(
いづ
)
れは
帰順
(
きじゆん
)
するだらうからなア。
176
さうすれば
吾々
(
われわれ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
となつて
天国
(
てんごく
)
を
地上
(
ちじやう
)
に
移写
(
いしや
)
する
事
(
こと
)
になるのだ。
177
これが
人間
(
にんげん
)
として
最
(
もつと
)
も
勝
(
すぐ
)
れたる
行
(
おこな
)
ひだ。
178
否
(
いな
)
人間
(
にんげん
)
として
最
(
もつと
)
も
嬉
(
うれ
)
しき
事業
(
じげふ
)
だ』
179
タール
『
時
(
とき
)
に
何
(
なん
)
だか
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
から、
180
甚
(
ひど
)
い
勢
(
いきほひ
)
で
鳴物入
(
なりものいり
)
でアーク
神
(
がみ
)
がやつて
来
(
く
)
るではないか。
181
ヨウヨウ
棺
(
くわん
)
が
来
(
く
)
るぞ、
182
而
(
しか
)
も
二挺
(
にちやう
)
だ』
183
アーク
『
如何
(
いか
)
にも
章魚
(
たこ
)
にも
足八本
(
あしはちほん
)
だ。
184
ヨウあいつはエキスぢやないか。
185
又
(
また
)
獲物
(
えもの
)
を
旨
(
うま
)
くチヨロまかして
持
(
も
)
ち
込
(
こ
)
んだのだらう。
186
彼奴
(
あいつ
)
は
又
(
また
)
、
187
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
の
御
(
おん
)
覚
(
おぼ
)
え
目出度
(
めでた
)
うなつて
威張
(
ゐば
)
り
出
(
だ
)
しちや、
188
大変
(
たいへん
)
だぞ』
189
エキスは
意気
(
いき
)
揚々
(
やうやう
)
として、
190
蠑螈別
(
いもりわけ
)
、
191
お
民
(
たみ
)
を
駕籠
(
かご
)
に
乗
(
の
)
せ、
192
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
番卒
(
ばんそつ
)
と
共
(
とも
)
に
此方
(
こちら
)
に
向
(
むか
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
るのであつた。
193
エキスはアーク、
194
タールの
両人
(
りやうにん
)
を
見
(
み
)
るより、
195
さも
得意気
(
とくいげ
)
に、
196
エキス
『ヤア
其
(
その
)
方
(
はう
)
はアーク、
197
タールの
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
、
198
お
出迎
(
でむか
)
へ
大儀
(
たいぎ
)
で
厶
(
ござ
)
る』
199
アーク、
200
タールの
両人
(
りやうにん
)
はエキスに「お
出迎
(
でむか
)
へ
大儀
(
たいぎ
)
」と
云
(
い
)
はれ、
201
殆
(
ほとん
)
ど
目下
(
めした
)
扱
(
あつか
)
ひをせられたやうな
気分
(
きぶん
)
になつて
業
(
ごふ
)
が
沸
(
わ
)
いて
耐
(
たま
)
らないけれど、
202
態
(
わざ
)
と
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
をして
何気
(
なにげ
)
なう、
203
アーク『やあエキス
殿
(
どの
)
、
204
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
つた。
205
嘸
(
さぞ
)
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
が、
206
お
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばす
事
(
こと
)
だらう。
207
さうして
其
(
その
)
駕籠
(
かご
)
の
中
(
なか
)
の
客人
(
きやくじん
)
は
一体
(
いつたい
)
何人
(
なにびと
)
で
厶
(
ござ
)
るかなア』
208
エキスはさも
横柄
(
わうへい
)
に、
209
鬼
(
おに
)
の
首
(
くび
)
を
竹篦
(
たけべら
)
で
切
(
き
)
り
取
(
と
)
つたやうな
誇
(
ほこ
)
り
顔
(
がほ
)
で、
210
エキス
『
大切
(
たいせつ
)
なるお
客人
(
きやくじん
)
、
211
某
(
それがし
)
の
弁茶羅
(
べんちやら
)
、
212
アヽ
否
(
いな
)
、
213
器量
(
きりやう
)
によつてお
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
して
来
(
き
)
たのだ。
214
御
(
ご
)
本人
(
ほんにん
)
の
誰人
(
たれびと
)
なるかは、
215
ランチ、
216
片彦
(
かたひこ
)
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
にお
目
(
め
)
にかける
迄
(
まで
)
発表
(
はつぺう
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
217
さア
御
(
ご
)
両所
(
りやうしよ
)
、
218
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
めされ』
219
タール『
随分
(
ずゐぶん
)
威張
(
ゐば
)
つたものだなア。
220
エヽ
仕方
(
しかた
)
がない』
221
アーク
『エキスに
随
(
つ
)
いて
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
む
事
(
こと
)
にしようぢやないか。
222
大分
(
だいぶん
)
に
最前
(
さいぜん
)
から
郊外
(
かうぐわい
)
散歩
(
さんぽ
)
をやつたからなア』
223
エキスは
道々
(
みちみち
)
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
した。
224
エキス
『バラモン
教
(
けう
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
225
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
部下
(
ぶか
)
となり
226
産土山
(
うぶすなやま
)
の
高原
(
かうげん
)
に
227
館
(
やかた
)
を
建
(
た
)
てて
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
228
掻
(
か
)
き
乱
(
みだ
)
し
行
(
ゆ
)
く
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
229
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
牙城
(
がじやう
)
をば
230
屠
(
はふ
)
らむために
進
(
すす
)
み
往
(
ゆ
)
く
231
ランチ
将軍
(
しやうぐん
)
、
片彦
(
かたひこ
)
の
232
其
(
その
)
陣中
(
ぢんちう
)
に
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
233
ヒーロー
豪傑
(
がうけつ
)
このエキス
234
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
妙法
(
めうはふ
)
を
235
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
発揮
(
はつき
)
して
236
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
尊
(
みこと
)
さへ
237
攻
(
せ
)
めあぐみたるウラナイの
238
教
(
をしへ
)
の
司
(
つかさ
)
とあれませる
239
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
をば
240
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
に
靡
(
なび
)
かせつ
241
軍用金
(
ぐんようきん
)
を
献納
(
けんなふ
)
させ
242
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
の
片腕
(
かたうで
)
に
243
勧
(
すす
)
めむためとやうやうに
244
お
供
(
とも
)
をなして
帰
(
かへ
)
りけり
245
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
が
246
もはや
吾
(
わが
)
手
(
て
)
に
入
(
い
)
るからは
247
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
妖術
(
えうじゆつ
)
を
248
使
(
つか
)
うて
世人
(
よびと
)
を
苦
(
くる
)
しむる
249
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
250
仮令
(
たとへ
)
幾万
(
いくまん
)
ありとても
251
如何
(
いか
)
でか
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
やある
252
これも
全
(
まつた
)
くバラモンの
253
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
引
(
ひ
)
き
合
(
あは
)
せ
254
ランチ、
片彦
(
かたひこ
)
両将
(
りやうしやう
)
も
255
嘸
(
さぞ
)
や
満足
(
まんぞく
)
なさるだらう
256
此
(
この
)
陣中
(
ぢんちう
)
に
俺
(
おれ
)
のよな
257
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はした
258
勇士
(
ゆうし
)
が
又
(
また
)
とあるものか
259
アーク、タールの
両人
(
りやうにん
)
よ
260
これから
俺
(
おれ
)
は
将軍
(
しやうぐん
)
の
261
帷幕
(
ゐばく
)
に
参
(
さん
)
じ
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
を
262
それ
相当
(
さうたう
)
の
職掌
(
しよくしやう
)
に
263
使
(
つか
)
うてやらう
楽
(
たの
)
しんで
264
御
(
お
)
沙汰
(
さた
)
をまつがよからうぞ
265
お
前
(
まへ
)
も
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
番卒
(
ばんそつ
)
の
266
小頭
(
こがしら
)
みたよな
役
(
やく
)
をして
267
居
(
を
)
つた
所
(
ところ
)
で
詰
(
つま
)
らない
268
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
に
云
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
269
立
(
た
)
ち
寄
(
よ
)
るならば
大木
(
たいぼく
)
の
270
密葉
(
みつえう
)
の
影
(
かげ
)
ぞ
親方
(
おやかた
)
と
271
箸
(
はし
)
は
太
(
ふと
)
いがよいと
云
(
い
)
ふ
272
社会
(
しやくわい
)
の
真理
(
しんり
)
を
悟
(
さと
)
るなら
273
今日
(
けふ
)
から
俺
(
おれ
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
と
274
なつて
神妙
(
しんめう
)
に
仕
(
つか
)
へよや
275
今
(
いま
)
から
注意
(
ちうい
)
を
与
(
あた
)
へ
置
(
お
)
く
276
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
277
バラモン
教
(
けう
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
278
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はへましませよ』
279
アークは
蠑螈別
(
いもりわけ
)
の
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
る
棒端
(
ぼうばな
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
280
アーク
『オイ、
281
此
(
この
)
駕籠
(
かご
)
、
282
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つた』
283
エキス『
待
(
ま
)
つたとは
何
(
ど
)
うぢや、
284
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
将軍
(
しやうぐん
)
のお
目
(
め
)
にかけねばならぬ
大切
(
たいせつ
)
なお
客様
(
きやくさま
)
だ、
285
邪魔
(
じやま
)
ひろぐと
容赦
(
ようしや
)
は
致
(
いた
)
さぬぞ』
286
アークは、
287
アーク
『こりやエキス、
288
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
今
(
いま
)
何
(
なん
)
と
申
(
まを
)
した。
289
吾々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
は
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
の
片腕
(
かたうで
)
となつて
帷幕
(
ゐばく
)
に
参列
(
さんれつ
)
する
重役
(
ぢゆうやく
)
だ。
290
貴様
(
きさま
)
の
不在中
(
ふざいちゆう
)
に
任命式
(
にんめいしき
)
が
行
(
おこな
)
はれたのだから、
291
知
(
し
)
らぬのも
無理
(
むり
)
はないが、
292
余
(
あま
)
りの
暴言
(
ばうげん
)
ぢやないか。
293
此
(
この
)
方
(
はう
)
に
対
(
たい
)
し「
出迎
(
でむか
)
へ
大儀
(
たいぎ
)
」などと
部下
(
ぶか
)
扱
(
あつか
)
ひをなすとは
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
の
汝
(
なんぢ
)
の
振舞
(
ふるま
)
ひ、
294
吾々
(
われわれ
)
は
上役
(
うはやく
)
の
職権
(
しよくけん
)
をもつて
其
(
その
)
方
(
はう
)
を
放逐
(
はうちく
)
致
(
いた
)
さうか』
295
エキス
『ソヽそんな
事
(
こと
)
ア
俺
(
おれ
)
は
知
(
し
)
らなかつたのだ。
296
間違
(
まちが
)
つて
居
(
を
)
れば
許
(
ゆる
)
して
貰
(
もら
)
はなくては
仕方
(
しかた
)
がない。
297
併
(
しか
)
し
最
(
もつと
)
も
大切
(
たいせつ
)
なる
客人
(
きやくじん
)
をお
連
(
つ
)
れ
申
(
まを
)
して
来
(
き
)
たのだから、
298
さう
頭
(
あたま
)
ごなしに
呶鳴
(
どな
)
りつけられちや、
299
このエキスも
引合
(
ひきあ
)
はぬぢやありませぬか』
300
アーク
『
知
(
し
)
らなければ
仕方
(
しかた
)
がない、
301
差許
(
さしゆる
)
す、
302
併
(
しか
)
しながら、
303
今
(
いま
)
約束
(
やくそく
)
をして
置
(
お
)
くが、
304
エキス、
305
其
(
その
)
方
(
はう
)
は、
306
将軍
(
しやうぐん
)
様
(
さま
)
のお
見出
(
みだ
)
しに
預
(
あづ
)
かつて、
307
吾々
(
われわれ
)
と
同役
(
どうやく
)
になつても
決
(
けつ
)
して
威張
(
ゐば
)
つてはならないぞ。
308
なあエキス、
309
こりやエキスの
野郎
(
やらう
)
、
310
よいかエキス』
311
タール『やい、
312
エキス、
313
今
(
いま
)
アーク
重役
(
ぢゆうやく
)
さまの
言葉
(
ことば
)
を
能
(
よ
)
く
腹
(
はら
)
に
入
(
い
)
れたか。
314
やいエキス、
315
エー
聞
(
き
)
いただらうなあエキス、
316
何
(
ど
)
うだいエキス、
317
返答
(
へんたふ
)
は』
318
エキス
『さう
沢山
(
たくさん
)
さうにエキスエキスと
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
つちや、
319
お
客
(
きやく
)
さまに
対
(
たい
)
し
外聞
(
ぐわいぶん
)
が
悪
(
わる
)
いぢやありませぬか。
320
一口
(
ひとくち
)
仰有
(
おつしや
)
つたら
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
るぢやありませぬか』
321
アーク『
今
(
いま
)
は
俺
(
おれ
)
が
上役
(
うはやく
)
だから、
322
今
(
いま
)
の
中
(
うち
)
に
沢山
(
たくさん
)
さうに
呼
(
よ
)
びつけにして
置
(
お
)
かぬと、
323
重役
(
ぢゆうやく
)
になつたら、
324
もう
呼
(
よ
)
ぶ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ないからなア。
325
エキス、
326
さうだらうエキス、
327
きつと
羽張
(
はば
)
つてはいけないぞ。
328
こりやエキス』
329
タール
『アハヽヽヽ、
330
何
(
なに
)
か
旨
(
うま
)
い
液
(
しる
)
吸
(
す
)
うて
来
(
き
)
たと
見
(
み
)
えるな。
331
それでエキスエキスとアークさまが
云
(
い
)
ふのだらう』
332
アーク
『
旨
(
うま
)
い
液
(
しる
)
を
吸
(
す
)
うて
来
(
き
)
よつたのだ。
333
盗人
(
ぬすびと
)
の
上前
(
うはまへ
)
をはねて
二千
(
にせん
)
両
(
りやう
)
、
334
蠑螈別
(
いもりわけ
)
から
五千
(
ごせん
)
両
(
りやう
)
、
335
都合
(
つがふ
)
七千
(
しちせん
)
両
(
りやう
)
のエキス(
液吸う
)たから、
336
これ
位
(
くらゐ
)
云
(
い
)
うてもよいのぢや』
337
エキスは、
338
エキス
『ウフヽヽヽヽ』
339
と
私
(
ひそ
)
かに
笑
(
わら
)
ふ。
340
(
大正一二・一・八
旧一一・一一・二二
加藤明子
録)
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