霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】サブスクのお知らせ
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第七章 (よひ)八衢(やちまた)〔一二四〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第2篇 中有見聞 よみ(新仮名遣い):ちゅううけんぶん
章:第7章 酔の八衢 よみ(新仮名遣い):よいのやちまた 通し章番号:1240
口述日:1923(大正12)年01月08日(旧11月22日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
智仁勇兼備の三五教の宣伝使・治国別もランチ将軍の奸計に陥り、地下の牢獄に転落して気絶してしまった。肺臓の呼吸は微弱となり、心臓の鼓動は休止し、治国別は竜公と共に見慣れぬ山野を彷徨していた。
想念の向かうままに進んで行くと、一方は屹立した山岳、一方は巨大な岩石に挟まれた谷間の狭いところに迷い込んだ。ここは中有界の入り口である。中有界は善霊・悪霊の集合地点で、一名精霊界ともいう。
治国別と竜公はいぶかりながらも進んで行くうちに、ランチ将軍の計略にかかって命を落として中有界にやってきてしまったことに気が付いた。
竜公は、死後の世界が生前よりも知覚・想念がはっきりとしていることに驚きを表した。治国別は、天国に昇って天人になる精霊を本守護神といい、善良な精霊を正守護神といい、悪の精霊を副守護神というと解説した。
二人が話しているところへ一人の守衛が現れた。守衛は三五教の治国別一行であることを確認すると、ここは精霊界の八衢であると告げ、二人を関所に通じる道に導いた。
治国別の供をしてどこまでも一緒に行きたいという竜公に対して、守衛は、善・信・智慧・証覚が同程度の者同士でないと同道できないのだ、と諭した。守衛は途中の谷道まで二人を案内し、関所への道を示すと、自分はまだ他の精霊の案内をしなければならないからと、光となってどこかへ飛んで行ってしまった。
二人が歩いていくと、万公が歩いているのに出会った。竜公が万公に話しかけ背中をたたきかけたところで、万公は消えてしまった。
治国別は、万公は現界にいるのだが、精霊のみが自分たちを心配して探しにきたのだと諭した。そして、肉体のある精霊に言葉をかけるものではないと竜公に気を付けた。
二人は赤い門を見つけて近づいて行った。赤門の前には二人の守衛がいた。一人は光明輝かしく優しい顔つきの男とも女とも知れない者、もう一人は赤面の唐辛子をかんだような顔をした男である。二人は秤の前に厳然として控えている。
優しい白い顔の守衛は竜公には秤に乗るように促した。赤い顔の男は、竜公は今のまま測ったなら地獄行きだが、死期はまだ来ておらず、肉体であと五六十年は活動するはずだと告げた。そして娑婆へ帰ったなら地獄へ落ちないように善をおこない、神を信仰し人のために誠を尽くすように諭した。
白い顔の守衛は懐から帳面を出して確認すると、治国別の寿命もまだ残っていた。守衛はまた数十年後に二人を測ることにしようと言い渡した。
そこへ、へべれけに酔った一人の男がやってきた。男はお寅の元夫でウラナイ教に暴れこんで千両の金を恐喝した熊公であった。熊公があまりに騒いで手に余った守衛は、伊吹戸主大神を呼んできた。
伊吹戸主大神は閻魔大王のような厳めしい容貌で現れ、四方を照らすその光明に竜公は目がくらんで大地に倒れてしまった。大神や守衛たちの様子にようやく気が付いた熊公は、生前の罪を測られることになった。
熊公は一度は地獄行きを言い渡されてしまうが、伊吹戸主大神の御慈悲により、残りの金がなくなるまで娑婆に返されることになった。
熊公は酒を飲み歩いている間に、酒屋の門口でぶっ倒れて人事不省になっていたのであった。目が覚めた熊公は恐ろしい夢を見たと改心し、人通りの多い街道に出ると貧しい者たちに金を施しはじめた。熊公はついには善良な三五教の信者となり、一生を送ることになった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-19 20:09:30 OBC :rm4707
愛善世界社版:107頁 八幡書店版:第8輯 510頁 修補版: 校定版:111頁 普及版:51頁 初版: ページ備考:
001(てん)(かがや)日月(じつげつ)
002黒雲(こくうん)とざす(とき)
003(たちま)(その)(ひかり)(ぼつ)する(ごと)
004智仁勇(ちじんゆう)兼備(けんび)
005三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)治国別(はるくにわけ)
006(たちま)妖雲(えううん)霊眼(れいがん)交錯(かうさく)されて
007悪虐(あくぎやく)無道(ぶだう)のランチ将軍(しやうぐん)
008奸計(かんけい)(おちい)
009暗黒(あんこく)無明(むみやう)地下(ちか)牢獄(らうごく)
010(たちま)顛落(てんらく)
011気絶(きぜつ)せしこそ是非(ぜひ)なけれ。
012 肺臓(はいざう)呼吸(こきふ)(やうや)微弱(びじやく)となり、013情動(じやうどう)(まつた)くとまると(とも)に、014心臓(しんざう)鼓動(こどう)休止(きうし)し、015治国別(はるくにわけ)竜公(たつこう)(とも)に、016()なれぬ山野(さんや)彷徨(はうくわう)することとなつた。017()くともなしに、018(わが)想念(さうねん)(むか)ふまま(すす)んで()くと、019一方(いつぱう)屹立(きつりつ)せる山岳(さんがく)020一方(いつぱう)巨大(きよだい)なる岩石(がんせき)(はさ)まれた谷間(たにあひ)(せま)(ところ)(まよ)()んだ。021ここは中有界(ちううかい)入口(いりぐち)である。022中有界(ちううかい)は、023善霊(ぜんれい)024悪霊(あくれい)集合(しふがふ)地点(ちてん)である。025一名(いちめい)精霊界(せいれいかい)とも(とな)へる。
026 竜公(たつこう)四辺(あたり)不思議(ふしぎ)光景(くわうけい)に、027治国別(はるくにわけ)(そで)をひき、
028竜公『モシ先生(せんせい)029此処(ここ)はどこでせうかな。030ランチ将軍(しやうぐん)奥座敷(おくざしき)(さけ)()んで()つたと(おも)へば、031局面(きよくめん)(たちま)一変(いつぺん)して、032斯様(かやう)谷底(たにそこ)033何時(いつ)()()たのでせう』
034治国別『どうも(へん)だなア、035(かす)かに記憶(きおく)(のこ)つてゐるが、036(なん)でも片彦(かたひこ)案内(あんない)で、037立派(りつぱ)座敷(ざしき)(はい)つたと(おも)へば、038(たちま)暗黒(あんこく)(あな)へおち()んだやうな()がした。039ヒヨツとしたら吾々(われわれ)肉体(にくたい)脱離(だつり)して、040(わが)精霊(せいれい)のみが(まよ)つて()たのではあるまいかな』
041竜公(なん)だかチツと空気(くうき)(ちが)(やう)ですな。042(しか)斯様(かやう)(ところ)()つても仕方(しかた)がありませぬ。043()ける(ところ)まで(すす)みませうか』
044 治国別(はるくにわけ)少時(しばし)双手(もろて)()み、045(かす)かな記憶(きおく)辿(たど)りながら、046(ふた)(みつ)つうなづいて、
047治国別『ウンウンさうださうだ、048ランチ、049片彦(かたひこ)将軍(しやうぐん)計略(けいりやく)にウマウマ(じやう)ぜられ、050生命(いのち)をとられて(しま)つたのだ。051アヽ(こま)つた(こと)をしたものだな』
052竜公『モシ先生(せんせい)053生命(いのち)をとられた(もの)が、054かうして二人(ふたり)()きて()りますか、055(へん)(こと)仰有(おつしや)いますなア』
056治国別人間界(にんげんかい)から()へば、057所謂(いはゆる)(いのち)をとられたのだ。058(しか)(なが)人間(にんげん)霊界(れいかい)(せき)をおいてゐる。059肉体(にくたい)はホンの精霊(せいれい)養成所(やうせいしよ)だ。060霊界(れいかい)から()へば、061()んだのではない、062復活(ふくくわつ)したのだ。063サア(これ)から吾々(われわれ)生前(せいぜん)(おい)て、064現界(げんかい)にて(つく)して()善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)検査(けんさ)する(ところ)があるに(ちが)ひない。065そこで(ひと)検査(けんさ)()けて天国(てんごく)(のぼ)るか地獄(ぢごく)へおとされるかだ』
066竜公『エヽそりや大変(たいへん)ですな、067一度(いちど)娑婆(しやば)(かへ)工夫(くふう)はありますまいかな』
068治国別何事(なにごと)(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)(さま)御心(みこころ)(まま)だから、069精霊界(せいれいかい)にふみ(まよ)ふも、070(あるひ)天国(てんごく)復活(ふくくわつ)するも、071現実界(げんじつかい)逆戻(ぎやくもど)りするのも、072吾々(われわれ)人間(にんげん)左右(さいう)()べき(ところ)でない。073最早(もはや)かくなる(うへ)は、074(かみ)(さま)にお(まか)せするより(みち)はなからうよ』
075竜公(わたし)はあなたから、076死後(しご)世界(せかい)があると()(こと)()いて()りましたが、077()うハツキリと死後(しご)生涯(しやうがい)(つづ)けるとは(おも)ひませなんだ。078気体(きたい)(てき)(たい)(たも)ち、079フワリフワリと中空(ちうくう)をさまよふものだと(かんが)へて()りましたが、080(いま)となつては、081吾々(われわれ)触覚(しよくかく)といひ、082知覚(ちかく)といひ、083想念(さうねん)といひ、084情動(じやうどう)といひ、085(あい)(こころ)といひ、086生前(せいぜん)よりも層一層(そういつそう)的確(てきかく)になつたやうな心持(こころもち)(いた)します。087(じつ)不思議(ふしぎ)ぢやありませぬか。088死後(しご)世界(せかい)はあると()(こと)(うけたま)はつて()りましたなれど、089是程(これほど)ハツキリした世界(せかい)とは(おも)ひませなんだ』
090治国別人間(にんげん)肉体(にくたい)所謂(いはゆる)精霊(せいれい)容物(いれもの)だ。091精霊(せいれい)(なか)には天国(てんごく)(のぼ)つて天人(てんにん)となるのもあれば、092地獄(ぢごく)へおちて(おに)となるのもある。093天人(てんにん)になるべき(みたま)(しよう)して、094肉体(にくたい)方面(はうめん)から(これ)(ほん)守護神(しゆごじん)()ひ、095善良(ぜんりやう)なる精霊(せいれい)(しよう)して(せい)守護神(しゆごじん)といひ、096(あく)精霊(せいれい)(しよう)して(ふく)守護神(しゆごじん)()ふのだ』
097竜公人間(にんげん)(からだ)(なか)には、098さう本正副(ほんせいふく)三色(みいろ)人格(じんかく)(わか)つて()るのですか』
099治国別『マアそんなものだ。100吾々(われわれ)天人(てんにん)たるべき素養(そやう)()つてゐるのだが、101肉体(にくたい)のある(うち)天人(てんにん)になつて、102高天原(たかあまはら)団体(だんたい)(せき)をおく(もの)(きは)めて(まれ)だ。103(いま)人間(にんげん)大抵(たいてい)(みな)地獄(ぢごく)(せき)をおいてゐる(もの)ばかりだ、104(すこ)しマシな(もの)でも、105(やうや)くに精霊界(せいれいかい)(せき)をおく(くらゐ)なものだよ。106(この)精霊界(せいれいかい)(おい)善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)(さば)かれるのだから、107最早(もはや)過去(くわこ)(つみ)(つぐな)(すべ)もない。108あゝ(これ)(おも)へば、109人間(にんげん)肉体(にくたい)のある(うち)に、110(ひと)つでも()(こと)をしておきたいものだなア』
111 かく(はな)(ところ)へどこともなく、112一人(ひとり)守衛(しゆゑい)(あら)はれて()た。
113 守衛(しゆゑい)治国別(はるくにわけ)(むか)ひ、
114守衛『あなたは三五教(あななひけう)治国別(はるくにわけ)(さま)では(ござ)いませぬか』
115治国別『ハイ左様(さやう)(ござ)います。116エヽ一寸(ちよつと)(たづ)(いた)しますが、117ここは(あめ)八衢(やちまた)ではございませぬかな』
118守衛『お(さつ)しの(とほ)り、119ここは精霊界(せいれいかい)八衢(やちまた)(ござ)います、120サア(これ)から関所(せきしよ)案内(あんない)(いた)しませう』
121治国別有難(ありがた)(ござ)います。122オイ竜公(たつこう)123ヤハリ吾々(われわれ)最早(もはや)娑婆(しやば)人間(にんげん)ぢやないのだよ。124覚悟(かくご)せなくちや()けないよ』
125竜公仮令(たとへ)八衢(やちまた)()(ところ)で、126(この)(とほ)意思(いし)想念(さうねん)(とも)健全(けんぜん)なる以上(いじやう)は、127(けつ)して()んだのぢやありませぬから、128(なん)とも(おも)ひませぬワ』
129守衛竜公(たつこう)さまとやら、130()(どく)ながら、131あなたは八衢(やちまた)(おい)(すこ)しく暇取(ひまど)るかも()れませぬ。132そして治国別(はるくにわけ)(さま)とお(わか)れにならなきやならないでせう』
133竜公『エヽ(なん)仰有(おつしや)います、134(わか)れよと仰有(おつしや)つても(わたし)治国別(はるくにわけ)(さま)家来(けらい)ですから、135どこ(まで)()いて()きます。136家来(けらい)主人(しゆじん)(あと)()いて()かれぬと()ふ、137何程(なんぼ)霊界(れいかい)でもそんな道理(だうり)はありますまい』
138守衛『それは御尤(ごもつと)もですが、139(しか)しながら貴方(あなた)(ぜん)(しん)智慧(ちゑ)証覚(しようかく)とが、140治国別(はるくにわけ)(さま)同程度(どうていど)になつて()れば、141無論(むろん)(はな)さうと(おも)つても(はな)れるものぢやありませぬ。142(しか)しながら貴方(あなた)円相(ゑんさう)余程(よほど)治国別(はるくにわけ)(さま)(くら)べて見劣(みおと)りが(いた)しますから、143(わたし)(かんが)へでは、144どうも()一緒(いつしよ)(むつ)かしいやうに(かん)じられます。145(しか)しながら八衢(やちまた)関所(せきしよ)までお()でになつて、146伊吹戸主(いぶきどぬし)(かみ)(さま)のお(さば)きを()けねば、147到底(たうてい)(わたし)では決定(けつてい)(あた)へる(こと)出来(でき)ませぬ。148(また)決定(けつてい)(あた)へる(だけ)資格(しかく)権能(けんのう)もありませぬからなア』
149治国(はるくに)惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)150三五教(あななひけう)(まも)(たま)国治立(くにはるたち)大神(おほかみ)151豊国主(とよくにぬし)大神(おほかみ)152(まも)(たま)(さき)はへ(たま)へ』
153 竜公(たつこう)はしきりに、
154竜公惟神(かむながら)(たま)()はへませ。155(ひと)(ふた)()()(いつ)(むゆ)(なな)()(ここの)(たり)(もも)()(よろづ)
156数歌(かずうた)をうたふ。157守衛(しゆゑい)谷道(たにみち)立止(たちど)まり、
158守衛治国別(はるくにわけ)(さま)159(この)竜公(たつこう)さまをあなたにお(まか)(いた)しますから、160どうぞ此処(ここ)をズツと(ひがし)()つてお()(くだ)さいませ。161(すこ)しくあの(やま)をお(まは)りになると、162(やや)(たひら)かな(ところ)(ござ)います。163そこが(あめ)八衢(やちまた)関所(せきしよ)(ござ)いますから、164(わたくし)(これ)から(また)(つぎ)()()連中(れんちう)がありますから、165それを案内(あんない)して()ます。166左様(さやう)なら、167(これ)失礼(しつれい)を……』
168()ひながら電光(でんくわう)石火(せきくわ)(ごと)く、169空中(くうちう)(いち)()(ゑが)いて、170(ひかり)となつて西方(せいはう)()して()んで()く。171二人(ふたり)崎嶇(きく)たる山道(やまみち)をドシドシと、172三十丁(さんじふちやう)ばかり(のぼ)りつめた。173()れば万公(まんこう)(くび)(かたむ)け、174(くち)をポカンとあけ、175憂鬱(いううつ)気分(きぶん)此方(こなた)()して(すす)んで()るのを、176四五間(しごけん)ばかり手前(てまへ)()つけた。177竜公(たつこう)は、178治国別(はるくにわけ)(そで)をひいて、
179竜公『モシ先生(せんせい)180あこへ()るのは万公(まんこう)ぢやありませぬか。181(なん)だか心配(しんぱい)らしい(かほ)をして(ある)いて()るぢやありませぬか』
182治国別『ウン(たしか)万公(まんこう)だ、183(しか)しながら言葉(ことば)をかけちやいかないよ。184(むか)ふがもの()ふまで(だま)つてゐるがいい。185先方(むかふ)もの()つても、186こちらはもの()つちや()けないよ』
187 かく(はな)(をり)しも、188万公(まんこう)行歩(かうほ)蹣跚(まんさん)として、189二人(ふたり)(まへ)()ちふさがり不思議(ふしぎ)(さう)(かほ)をして、190二人(ふたり)(なが)めてゐる。191治国別(はるくにわけ)(こころ)(うち)にて、192(あま)数歌(かずうた)奏上(そうじやう)してゐる。193竜公(たつこう)はあわてて、194治国別(はるくにわけ)(いまし)めた(こと)打忘(うちわす)れ、
195竜公『オイ万公(まんこう)ぢやないか、196(なん)だみつともない、197(その)ザマは、198シツカリせぬかい』
199背中(せなか)をポンと(たた)きかけた拍子(ひやうし)に、200万公(まんこう)はプスツと(けぶり)(ごと)くに()えて(しま)つた。
201竜公『アヽ万公(まんこう)かと(おも)へば、202(なん)だ、203化物(ばけもの)だなア。204ヤツパリ霊界(れいかい)霊界(れいかい)だなア。205万公(まんこう)冥土(めいど)(きつね)()206()けてゐやがつたのだなア』
207治国別『エヽ仕方(しかた)のない(をとこ)だなア、208ありや万公(まんこう)間違(まちが)ひないのだ。209肉体(にくたい)はまだ現界(げんかい)()つて精霊(せいれい)のみが(おれ)(たち)()(うへ)(あん)じて、210(さが)しに()てゐるのだ。211肉体(にくたい)のある精霊(せいれい)言葉(ことば)をかけるものぢやない。212肉体(にくたい)のある精霊(せいれい)霊界(れいかい)にゐる(もの)言葉(ことば)をかければ、213すぐに()えるものだ。214それだから(おれ)()をつけておいたのに、215(こま)つた(をとこ)だな、216これから伊吹戸主(いぶきどぬし)(かみ)(さま)関所(せきしよ)()くのだから、217余程(よほど)心得(こころえ)ないと()かないぞ』
218竜公『ハイ、219キツと心得(こころえ)ます。220あなたがモシヤ天国(てんごく)へお()でになつたら、221(わたし)をどこ(まで)()れて()つて(くだ)さりませうねエ』
222治国別『どこへ(おれ)()つても()いて()るといふ真心(まごころ)があるのか、223それなら(おれ)(もし)天国(てんごく)()(とき)には、224八衢(やちまた)(かみ)(ねが)つて()れてゆく。225(しか)しながら、226(おれ)随分(ずゐぶん)(わか)(とき)にウラル(けう)悪事(あくじ)をやつて()(もの)だから、227善悪(ぜんあく)のハカリにかけられたら、228大抵(たいてい)地獄行(ぢごくゆき)だ。229地獄(ぢごく)()ちてもついて()るかなア。230万劫(まんごふ)末代(まつだい)(あが)れない悪臭(あくしう)紛々(ふんぷん)たる餓鬼道(がきだう)へおちても()いて()(かんが)へか』
231竜公先生(せんせい)がメツタにそんな(ところ)()ちなさる気遣(きづか)ひがありますものか。232どこ(まで)もお(とも)(いた)します』
233治国別地獄(ぢごく)へでもついて()るなア』
234竜公『ハイ、235()いて()きます。236(その)(かは)りにモシモ(わたし)地獄(ぢごく)()ちた(とき)には、237先生(せんせい)もついて()てくれますだらうなア』
238治国別『そりやキマつた(こと)だ。239(まへ)()すてて()(こと)()うして出来(でき)よう。240霊界(れいかい)現界(げんかい)(すべ)(あい)といふものが生命(せいめい)だ。241(あい)(はな)れては天人(てんにん)だつて、242精霊(せいれい)だつて、243人間(にんげん)だつて存在(そんざい)(ゆる)されないのだ』
244竜公『あゝそれを()いて安心(あんしん)(いた)しました。245どうぞ、246どこ(まで)(わたし)()れて()つて(くだ)さい』
247治国別『ヤア、248あこに赤門(あかもん)()える、249どうやらアコが関所(せきしよ)らしいぞ。250サア(いそ)いで()かう』
251 治国別(はるくにわけ)(さき)()つて(すす)んで()く。252赤門(あかもん)(そば)近付(ちかづ)いて()れば、253二人(ふたり)守衛(しゆゑい)()つてゐる。254一人(ひとり)光明(くわうみやう)(かがや)(やさ)しい顔付(かほつき)(をとこ)とも(をんな)とも()れぬ(もの)255一人(ひとり)赤面(あかづら)唐辛(たうがらし)をかんだやうな(かほ)した(をとこ)256(はかり)(まへ)儼然(げんぜん)として(ひか)へてゐる。
257治国別『ヤア(みな)さま、258()苦労(くらう)ですなア、259ここで吾々(われわれ)(つみ)軽重(けいぢゆう)(しら)べて(いただ)くのですかな』
260 (やさ)しき守衛(しゆゑい)面色(かほいろ)(やは)らげて、
261優しき守衛『イヽヤ、262あなたは(しら)べるには(およ)びませぬ、263どうぞ(おく)へお(とほ)(くだ)さいませ……一人(ひとり)のお(かた)264一寸(ちよつと)ここへ(のこ)つて(くだ)さい。265(しら)べますから……』
266竜公『ヤア此奴(こいつ)大変(たいへん)だ。267先生(せんせい)268(ことわ)()つて(くだ)さいな』
269治国別霊界(れいかい)規則(きそく)だから仕方(しかた)がないワ。270()地獄行(ぢごくゆき)天国行(てんごくゆき)(しら)べて(もら)ふがよからうぞ』
271竜公『モシモシ、272門番(もんばん)さま、273現代(げんだい)娑婆(しやば)では何事(なにごと)簡略(かんりやく)(たふと)びますから、274そんな看貫(かんくわん)でかけるよな七面倒(しちめんだう)(くさ)(こと)はおやめになつたら()うですか』
275 赤顔(あかがほ)守衛(しゆゑい)はグルリと()をむき、276竜公(たつこう)(にら)みつけながら、
277赤顔の守衛不届(ふとど)(もの)ツ、278霊界(れいかい)法則(はふそく)蹂躙(じうりん)するかツ』
279呶鳴(どな)りつける。280竜公(たつこう)はちぢみ(あが)り、281不承(ふしよう)不承(ぶしよう)にカンカン「看貫秤(かんかんばかり)」(貫目を看る)のこと。台秤。(うへ)()()せた。282一方(いつぱう)地獄行(ぢごくゆき)283一方(いつぱう)天国行(てんごくゆき)金文字(きんもじ)(しる)してある。
284赤顔の守衛地獄行(ぢごくゆき)(はう)(さが)つたら、285()(どく)ながら、286(これ)から(くる)しい(くら)(ところ)()ちて(もら)はにやなりませぬ。287(また)天国行(てんごくゆき)(はう)(おも)かつたら、288天国(てんごく)()つて(もら)ひませう。289ここは一厘(いちりん)一毛(いちまう)掛値(かけね)のない、290正直(しやうぢき)一方(いつぱう)裁判所(さいばんしよ)だから、291地獄(ぢごく)仮令(たとへ)()ちても、292(けつ)して無実(むじつ)(つみ)ぢやないから、293満足(まんぞく)だらう』
294()ひつつ、295(ふところ)から帳面(ちやうめん)()して、
296赤顔の守衛三五教(あななひけう)信者(しんじや)竜公(たつこう)竜公(たつこう)
297と、298(あつ)(よこ)(なが)帳面(ちやうめん)()(ひろ)げてゐる。
299赤顔の守衛『ハヽア、300(まへ)はアーメニヤの(うま)れだな、301そしてウラル(けう)這入(はい)つて()つたな。302随分(ずゐぶん)後家倒(ごけたふ)しや女殺(をんなごろし)をやつて()たとみえる。303チヤンとここに()いてゐるぞ』
304竜公『モシモシ(ぜん)方面(はうめん)(ひと)(しら)べて(くだ)さい』
305赤顔の守衛(よろ)しい、306ハヽア、307(ぜん)(はう)(まる)がしてある』
308竜公『ヤア有難(ありがた)い、309満点(まんてん)ですかなア』
310赤顔の守衛『なに、311零点(れいてん)だ。312零点(れいてん)以下(いか)廿七度(にじふしちど)といふ冷酷漢(れいこくかん)だと()えるわい。313()(どく)ながらマア地獄行(ぢごくゆき)かなア、314(しか)()だお(まへ)生死簿(せいしぼ)には死期(しき)()てゐない。315まだ五六十(ごろくじふ)(ねん)娑婆(しやば)活動(くわつどう)すべき代物(しろもの)だ。316娑婆(しやば)(かへ)つたならば、317地獄(ぢごく)()ちない(やう)に、318(ぜん)(おこな)ひ、319(かみ)信仰(しんかう)し、320(ひと)(ため)(まこと)(つく)すがよからうぞ。321(いま)(この)(まま)肉体(にくたい)(はな)れようものなら、322()(どく)ながら地獄落(ぢごくおち)だ』
323竜公『エヽさうすると、324一度(いちど)娑婆(しやば)(かへ)れますかな』
325赤顔の守衛『まだ心臓(しんざう)微弱(びじやく)鼓動(こどう)継続(けいぞく)してゐる、326そして(はい)呼吸(こきふ)微弱(びじやく)ながら存在(そんざい)してゐるから、327キツト娑婆(しやば)(かへ)るだらう』
328竜公『ヤア、329それは有難(ありがた)い、330(しか)宣伝使(せんでんし)さまは()うですかな。331一寸(ちよつと)帳面(ちやうめん)(しら)べて(くだ)さいませぬか』
332赤顔の守衛宣伝使(せんでんし)(さま)天国行(てんごくゆき)(みたま)だから、333(この)帳面(ちやうめん)には(しる)してない。334モシ(しろ)さま、335あなた一寸(ちよつと)(しら)べて()(くだ)さい』
336 (しろ)(かほ)守衛(しゆゑい)(ふところ)から帳面(ちやうめん)取出(とりだ)し、
337白顔の守衛三五教(あななひけう)三五教(あななひけう)
338()ひながら、339見出(みだ)しを()(なか)(ほど)をパツとめくつて、
340白顔の守衛『ヤア(この)(かた)もまだ、341寿命(じゆみやう)がありますわい。342現世(げんせ)(おい)てまだまだ数十(すうじふ)(ねん)343活動(くわつどう)して(もら)はなくちや、344ハア、345なりませぬよ。346(しか)しながら、347伊吹戸主(いぶきどぬし)(かみ)(さま)()意見(いけん)()かなくちやシツカリしたこた()へませぬワ』
348竜公(わたし)(つみ)測量(そくりやう)免除(めんぢよ)して(くだ)さいますだらうな』
349赤顔の守衛『エヽ(いま)すぐに地獄(ぢごく)へやるべき精霊(せいれい)でもないから、350(しら)べた(ところ)駄目(だめ)だ。351数十(すうじふ)(ねん)(のち)(あらた)めてハカる(こと)にしませう』
352竜公『ヤアそりや有難(ありがた)い、353(みな)さま、354エライお()をもませました』
355赤顔の守衛『ハヽヽ、356吾々(われわれ)日々(にちにち)(これ)役目(やくめ)だから、357(べつ)()()ましないが、358(まへ)随分(ずゐぶん)()をもんだだらう』
359竜公『モシ先生(せんせい)360(いま)(しろ)守衛(しゆゑい)のお言葉(ことば)をお(きき)になりましたか、361あなたは(いま)から天国行(てんごくゆき)資格(しかく)がある(さう)ですなア』
362治国別『ヤア(じつ)汗顔(かんがん)(いた)りだ。363まだ寿命(じゆみやう)があるさうだから、364一度(いちど)現界(げんかい)()つて、365大神(おほかみ)(さま)(ため)366()(なか)(ため)に、367一働(ひとはたら)きをさして(いただ)かうかなア』
368 ()(はな)(ところ)へ、369ヘベレケに()うた一人(ひとり)(をとこ)370行歩(かうほ)蹣跚(まんさん)として八衢(やちまた)赤門(あかもん)にドンと行当(ゆきあた)り、
371男(権太)『ドヽドイツぢやい、372バヽバカにすない、373(おれ)(たれ)だと(かんが)へてゐる? おれはヤケ(ざけ)(ごん)()つたら、374(たれ)()らぬ(もの)のない哥兄(にい)さまだぞ、375エヽーン、376こんな(ところ)(あか)(もん)()てやがつて、377往来(わうらい)(さまた)げをするといふ(こと)があるかい。378(たた)きこはせ(たた)きこはせ』
379赤顔の守衛『コリヤ コリヤ、380ヤケ(ざけ)権太(ごんた)とやら、381ここを何処(どこ)ぢやと心得(こころえ)てゐる』
382権太『ドコも、383クソもあつたものけえ、384ここは帝大(ていだい)入口(いりぐち)だ、385赤門(あかもん)ぢやないか。386(おれ)(さけ)()うとると(おも)うて(あんま)馬鹿(ばか)にするない、387(おれ)だつて(あし)があるのだから、388赤門(あかもん)(ぐらゐ)はくぐるのだからなア。389(なが)らく校番(かうばん)(つと)めて()つたのだから、390学士(がくし)連中(れんちう)よりも赤門(あかもん)勝手(かつて)はよく()つてゐるのだい。391何時(いつ)()門番(もんばん)()392(かは)りやがつたのだ、393エヽーン、394(なん)(その)(つら)ア、395真白(まつしろ)けな(つら)しやがつて、396(をとこ)だてら白粉(おしろい)をぬり、397チツクをつけ、398おれやそれが(しやく)にさはつてたまらぬのだ。399(いま)学士(がくし)青年(せいねん)学生(がくせい)といふ(やつ)ア、400(みな)貴様(きさま)のやうな代物(しろもの)ばかりだ。401(なん)でえ、402そんなコハイシヤツ(つら)しやがつて、403(にら)んだつて、404(なに)(こわ)いか、405江戸(えど)()哥兄(にい)さまだぞ。406鬼瓦(おにがはら)みたやうな(つら)しやがつて、407門番(もんばん)(さけ)()つぱらつてそんな(あか)(かほ)するといふ(こと)があるかい。408今日(けふ)から免職(めんしよく)だ。409サア、410トツトと()ね……』
411(あか)『コリヤコリヤ権太(ごんた)412ここは冥土(めいど)八衢(やちまた)だぞ。413(なん)心得(こころえ)()るか』
414権太『ヤア、415成程(なるほど)416道理(だうり)でチツトそこらの様子(やうす)(ちが)ふと(おも)うて()つたワ。417どこぞ、418ここらにコツプ(ざけ)でも()つてる(ところ)はないか、419エヽー、420チツト案内(あんない)してくれたら()うだ』
421赤顔の守衛此奴(こいつ)ア、422(あんま)り、423()うてゐるので()()はぬ。424コレ(しろ)さま、425一寸(ちよつと)伊吹戸主(いぶきどぬし)大神(おほかみ)(さま)に、426()(いた)しませうと()つて(うかが)つて()(くだ)さらぬか』
427 (しろ)はうなづきながら門内(もんない)姿(すがた)(かく)した。428(しばら)くすると、429金冠(きんくわん)(いただ)いた仏画(ぶつぐわ)でみる閻魔(えんま)大王(だいわう)(ごと)(いかめ)しい容貌(ようばう)をした伊吹戸主(いぶきどぬし)(かみ)430四辺(あたり)光明(くわうみやう)(てら)しながら、431悠々(いういう)(あら)はれ(たま)うた。432(この)光明(くわうみやう)()らされて、433竜公(たつこう)()もくらむばかり、434ヨロヨロと大地(だいち)(たふ)れ、435地上(ちじやう)にかぶりついて(ふる)うてゐる。436治国別(はるくにわけ)莞爾(くわんじ)として判神(はんしん)(むか)ひ、437叮嚀(ていねい)会釈(ゑしやく)してゐる。438判神(はんしん)(また)治国別(はるくにわけ)(むか)つて(れい)(かへ)した。
439(あか)『コリヤ権太(ごんた)440伊吹戸主(いぶきどぬし)(さま)のお()ましだ。441サア此処(ここ)(その)(はう)(つみ)(しら)べるのだから、442(この)(はかり)にかかれ』
443権太『こりや(はかり)をようせよ、444ハカリが(わる)いと地獄(ぢごく)()ちるぞ。445(たか)(たか)(さけ)()りやがつて、446ハカリで誤魔化(ごまくわ)さうと(おも)つても駄目(だめ)だ。447(あさ)から(ばん)まで汗水(あせみづ)たらして(はたら)き、448()(くれ)になつて、449(いち)(にち)(つか)れを(やす)むべく大切(たいせつ)(かね)使(つか)つて、450(おれ)たち貧乏人(びんばふにん)(さけ)()ひに()くのだ。451それにハカリを(わる)うすると冥加(みやうが)(わる)いぞ』
452赤顔の守衛『チエツ、453エヽまだ()うてゐやがる。454コリヤここは地獄(ぢごく)八丁目(はつちやうめ)だぞ』
455権太()ゴク御尤(ごもつと)もだ、456八升(はつしよう)でも九升(くしよう)でも、457タダの(さけ)なら(なん)ぼでも()つて()いだ、458メツタにあとへは()かぬのだからなア』
459 (あか)(ごふ)をにやし、460ピシヤツと横面(よこつら)(ちから)(まか)せて(なぐ)りつけた。461権太(ごんた)はビツクリして、462ハツと()がつけば、463光明(くわうみやう)(かがや)判神(はんしん)儼然(げんぜん)(わが)(まへ)()つてゐる。464そして赤鬼(あかおに)(はかり)()つて(おほ)きな()(にら)みつけてゐる。
465権太『モシ、466ここは(なん)といふ(ところ)(ござ)います』
467赤顔の守衛()()めたか、468ここは八衢(やちまた)だ、469(いま)(その)(はう)娑婆(しやば)()ける(おこな)ひの善悪(ぜんあく)(しら)べて、470(これ)から地獄(ぢごく)へやるか、471天国(てんごく)(すく)うてやるかといふ(ところ)だ。472サア判神(はんしん)(さま)(まへ)だ、473神妙(しんめう)にこの(はかり)(うへ)にのれ。474そして正直(しやうぢき)白状(はくじやう)するのだぞ。475(その)(はう)娑婆(しやば)(おい)(つく)した善悪(ぜんあく)全部(ぜんぶ)此処(ここ)につけとめてあるから、476正直(しやうぢき)申上(まをしあ)げよ』
477権太『ハイ、478申上(まをしあ)げます、479(わたし)は……エー……権太(ごんた)(まを)すのは仇名(あだな)(ござ)いまして、480……エー(じつ)は、481(よひ)どれの熊公(くまこう)(まを)しやす』
482赤顔の守衛成程(なるほど)483それに間違(まちが)ひない、484(その)(はう)(あんま)(さけ)(くら)()うて、485社会(しやくわい)(てき)(つと)めを(いた)さないによつて、486(とら)といふ女房(にようばう)()げられた(こと)があらうがな』
487権太(熊公)『ハイ(おそ)()りました。488(たしか)(ござ)います』
489赤顔の守衛『そして(その)()(その)(はう)焼糞(やけくそ)になり、490(となり)屋敷(やしき)(まで)抵当(ていたう)()れて(かね)()り、491(みな)()んで(しま)つただらう』
492権太(熊公)『ハイ、493()れに相違(さうゐ)(ござ)いませぬ』
494赤顔の守衛『それから浮木(うきき)(むら)(その)(はう)女房(にようばう)だつたお(とら)侠客(けふかく)をして()つた(とき)495幾度(いくど)(さけ)()うてグヅを()きに()つたであらうがな』
496権太(熊公)『ハイ、497それも(その)(とほ)りで(ござ)います』
498赤顔の守衛(しか)何時(いつ)とても袋叩(ふくろだた)きに()ひ、499無念(むねん)をこらへて辛抱(しんばう)(いた)した、500それ(だけ)感心(かんしん)だ。501(この)忍耐力(にんたいりよく)()つて、502今迄(いままで)悪事(あくじ)棒引(ぼうびき)だ』
503権太(熊公)『ハイ有難(ありがた)(ござ)います』
504赤顔の守衛『それから(その)(はう)小北山(こぎたやま)のウラナイ(けう)本山(ほんざん)()つて、505(とら)蠑螈別(いもりわけ)脅迫(けふはく)し、506一千(いつせん)(りやう)(かね)をフンだくり、507(みな)()んで(しま)つたであらうがな』
508権太(熊公)『ハイ、509それに相違(さうゐ)(ござ)いませぬ』
510赤顔の守衛『なぜさういふ(わる)(こと)(いた)すのか』
511(こゑ)(とが)らして()ふ。
512権太(熊公)(あんま)りムカツパラが()つてたまりませぬので、513ウヽヽヽヽついグヅつてやる()になりました。514どうせお寅婆(とらばば)アの(こと)だから、515一文(いちもん)生中(きなか)()気遣(きづか)はひない……が……ダダでもこねて、516無念(むねん)(ばら)しをしようと(おも)ひやして、517一寸(ちよつと)(こころ)みにゴロついてみた(ところ)518悪党婆(あくたうばば)アに似合(にあ)はず意外(いぐわい)にも()()れて、519一千(いつせん)(りやう)くれましたので、520これ(さいは)ひと(ふところ)にたくし()み、521それから()んで()んで()(つづ)けました。522まだここに五百(ごひやく)(りやう)ばかり(のこ)つてゐます、523どうぞ、524……地獄(ぢごく)沙汰(さた)(かね)次第(しだい)()ひますさうですから、525(この)(かね)をあなたに()げますから、526……地獄行(ぢごくゆき)(だけ)はこらへて(くだ)さいませ……』
527赤顔の守衛馬鹿(ばか)(まを)せ、528至正(しせい)至直(しちよく)529寸毫(すんがう)虚偽(きよぎ)(ゆる)さぬ(この)八衢(やちまた)(おい)て、530賄賂(わいろ)提供(ていきよう)するとは(もつ)ての(ほか)だ。531(その)(はう)がお(とら)から(うば)ひとつた一千(いつせん)(りやう)(つみ)(じつ)(おも)いけれど、532(その)(ため)にお寅婆(とらばば)アと魔我彦(まがひこ)とに改心(かいしん)動機(どうき)(あた)へた功徳(くどく)()つて、533(その)(はう)功罪(こうざい)比較(ひかく)し、534第三(だいさん)天国(てんごく)(つか)はすべき(ところ)であつたが、535(この)神聖(しんせい)なる八衢(やちまた)(おい)賄賂(わいろ)使(つか)はむと(いた)した(つみ)()つて、536ヤツパリ地獄落(ぢごくおち)だ。537有難(ありがた)(おも)へ』
538権太(熊公)『それなら、539モウ(この)五百(ごひやく)(りやう)提供(ていきよう)しませぬから、540どうぞ天国(てんごく)へやつて(くだ)さい。541(たの)みます』
542赤顔の守衛『モシ伊吹戸主(いぶきどぬし)(かみ)(さま)543如何(いかが)取計(とりはか)らひませうか』
544伊吹戸主(この)権太(ごんた)(こと)545(よひ)どれの(くま)はまだ五百(ごひやく)(りやう)酒代(さかて)(のこ)してゐるから、546(この)(かね)がなくなる(まで)娑婆(しやば)(かへ)してやつたがよからう。547冥土(めいど)へかやうなムサ(くる)しい(かね)などを持込(もちこ)まれては、548大変(たいへん)だから……』
549赤顔の守衛『コリヤ権太(ごんた)550(その)(はう)はまだここへ()るのは(はや)い、551(この)五百(ごひやく)(りやう)(かね)がとこ、552(さけ)()んで(しま)(まで)553娑婆(しやば)(かへ)つたがよからう。554長生(ながいき)がしたくば、555(この)(かね)使(つか)はずに、556(さけ)辛抱(しんばう)して()つたがよからうぞ』
557権太(熊公)『ハイ有難(ありがた)うございます、558(しか)しながら何程(なにほど)()ぬのが(いや)だと()つても、559現在(げんざい)五百(ごひやく)(りやう)(かね)()ちながら()みたい(さけ)()まずに()れませうか。560それならコレからマ一度(いちど)娑婆(しやば)()てお(さけ)頂戴(ちやうだい)して(まゐ)ります』
561 (あか)は、
562赤顔の守衛『サア(はや)(かへ)れ』
563()ひさま、564背中(せなか)をポンと(たた)いた拍子(ひやうし)に、565権太(ごんた)(けむり)となつて()えて(しま)つた。566権太(ごんた)熊公(くまこう)はお(とら)から(うば)()つた(かね)(さけ)()(ある)き、567衣笠村(きぬがさむら)酒屋(さかや)門口(かどぐち)でブツ(たふ)れ、568(いち)()人事(じんじ)不省(ふせい)になつてゐたが、569(やうや)()がさめ、
570権太(熊公)『あゝあ、571(こは)(ゆめ)()た。572モウ(さけ)はコリコリだ』
573()ひながら、574(ふところ)から(かね)()()し、575人通(ひとどほり)(おほ)街道(かいだう)()で、576乞食(こじき)らしい(もの)(とほ)(まへ)(いち)(ゑん)()(ゑん)とまきちらし、577(ほどこ)しをなし、578(つひ)には善良(ぜんりやう)なる三五教(あななひけう)信者(しんじや)となり、579善人(ぜんにん)評判(ひやうばん)()つて一生(いつしやう)(おく)(こと)となつた。580(この)熊公(くまこう)物語(ものがたり)(のち)()ぶる(こと)があるであらうと(おも)ふ。581あゝ惟神(かむながら)(たま)()はへませ。
582大正一二・一・八 旧一一・一一・二二 松村真澄録)
文芸社文庫『あらすじで読む霊界物語』絶賛発売中!
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / 本サイトに掲載されている霊界物語等の著作物の電子データは飯塚弘明ほか、多数の方々の協力によって作られました。(スペシャルサンクス) / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki