霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一一章 手苦駄(てくだ)(をんな)〔一二四四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第47巻 舎身活躍 戌の巻 篇:第2篇 中有見聞 よみ(新仮名遣い):ちゅううけんぶん
章:第11章 手苦駄女 よみ(新仮名遣い):てくだおんな 通し章番号:1244
口述日:1923(大正12)年01月09日(旧11月23日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年10月6日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
人間の肉体は精霊の容器であり、天人の養成所である。一方で邪鬼、悪鬼の巣窟ともなる。この変化は、人間が主とするところの愛の情動如何によるのである。
人間が現世に住んでいる間は、すべての思索は自然的であるゆえに、人間の本体である精霊が、精霊の団体中に加わることはない。
しかしその想念が肉体を離脱する時は、各自所属の団体中に現れることができる。肉体を持っている精霊は、思いに沈みつつ黙然として徘徊しているので、精霊たちはこれをすぐに区別できる。精霊がこれと言葉を交わそうとすれば、肉体のある精霊は忽然として消失するのである。
人間が肉体を脱離して精霊界に入るときは、睡眠でもなく覚醒でもない、一種異様の状態にいる。そのときその人間は、十分に覚醒していると思っているし、諸々の感覚も肉体が覚醒しているときと少しも変わりはない。むしろ五感は精妙となる。
この状態で天人や精霊を見るときは、その精気凛々として活躍するを認めることができ、また彼らの言語も明瞭に聞くことができる。また親しく接触することもできる。
この状態を霊界では肉体離脱の時と言い、現界から見たときは、死と称しているのである。人間は、その内分すなわち霊的生涯においては精霊である。人間の想念および意志に属することからそのようにいうことができる。
意志・想念に属している事柄は人の内分であって、霊主体従の法則によって活動する。これが人をして人たらしめている所以である。人は、その内分以外に出ることはできない。だから精霊すなわち人間なのである。
肉体は精霊の活動機関である。本体である精霊の諸々の想念や情動に応じて、自然界における諸官能を全うする。肉体がこの機関としての活動を果たせなくなったとき、それを肉体上の死と呼ぶのである。
精霊と呼吸および心臓の鼓動との間には、内的交通がある。精霊の想念は呼吸と相通じ、愛より来る情動は心臓と通じている。肺臓と心臓の活動がまったく止むとき、霊と肉とがたちまち分離するときである。
肺臓の呼吸と心臓の鼓動とは、人間の本体である精霊そのものを肉体につなぐ命脈であり、この二つの官能が破壊されるときは、精霊はたちまち己に帰り、独立して復活することができるのである。
精霊の躰殻である肉体は、精霊から分離されたゆえに次第に冷却し、ついに腐敗糜爛するに至るものである。
人間の本体である精霊は、肉体分離後にもしばらくはその体内に残り、心臓の鼓動がまったく止むのを待って、全部脱出する。この現象は人間の死因によって違ってくる。ある場合には心臓の鼓動が長く継続し、ある場合には長くない。いずれにしても、この鼓動がまったく止んだ時は、人間の本体である精霊は直ちに霊界に復活しえるのである。しかしこれは瑞の御霊の大神のなし給うところであって、人間自身が行うことのできるところではない。
心臓の鼓動がまったく休止するまで精霊が肉体から分離しない理由は、心臓は情動に相応しているからである。情動は愛に属し、愛は人間生命の本体である。人間はこの愛によっておのおの生命の熱がある。愛による精霊と肉体の和合が継続する間は、精霊の生命はなお肉体中にあるのである。
人の精霊は、肉体の脱離期すなわち最後の死期にあたって、その瞬間抱持した最後の想念を死後しばらくの間は保存するものであるが、時を経るにしたがって、元世に在った時に平素抱持していた諸々の想念のうちに復帰する。
古人のことわざに最後の一念は死後の生を引くと言っているのは、誤謬である。どうしても平素の愛の情動がこれを左右するのである。そこで人間は平素よりその身魂を清め、善を云い善のために善をおこない、智慧と証覚とを得ておかなければならないのである。
さて、治国別と竜公は、八衢の関所に進んでくる精霊と赤白の守衛との問答に、謹慎の態度で聞き入っていた。そこに心中した男女の精霊がやってきた。赤の守衛が二人を怒鳴りつけて呼び止めると、二人は路上にうずくまってしまった。
二人は別々に引き離されて取り調べを受ける。女は生前は芸者で、八衢の守衛を色仕掛けで買収しようとする。赤の守衛は口八丁で口説きたてる女に辟易し、また後で取り調べると言い渡して岩窟に放り込んだ。
男の方は、女芸者に入れあげて勤め先の店の金を横領していた。男は、大きなお金をごまかした方がかえって政府から見逃され、有力者となり社会の善人となるのだ、と反論した。そしてそれが冥途の法律と違うのなら、なぜ最初から現界に冥途の法律を発布しないのか、と怒鳴りたてる有様であった。
守衛は現界からやってくる精霊のありさまを嘆いた。そして大神様が厳の御霊、瑞の御霊の神柱を現界に送って改造に着手されているから、四五年もすれば効果が現れて今やってきたような人間の数が減るだろうと語り合っている。
治国別と竜公はこの様子を見て、自分たちが現界に帰ったらしっかりと舎身的活動をしなければならないと肝に銘じている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-04-22 18:39:01 OBC :rm4711
愛善世界社版:155頁 八幡書店版:第8輯 529頁 修補版: 校定版:163頁 普及版:77頁 初版: ページ備考:
001 人間(にんげん)肉体(にくたい)所謂(いはゆる)精霊(せいれい)容器(ようき)である。002そして天人(てんにん)養成所(やうせいしよ)ともなり、003(あるひ)邪鬼(じやき)004悪鬼(あくき)(ども)巣窟(さうくつ)となるものである。005(かく)(ごと)(おな)人間(にんげん)にして種々(しゆじゆ)変化(へんくわ)(きた)すのは、006人間(にんげん)(しゆ)とする(ところ)(あい)情動(じやうどう)如何(いかん)()つて、007(あるひ)天人(てんにん)となり、008(あるひ)精霊界(せいれいかい)(まよ)ひ、009(あるひ)地獄(ぢごく)妖怪(えうくわい)(てき)人物(じんぶつ)となるのである。010さうして、011人間(にんげん)現世(げんせ)()んでゐる(うち)は、012すべての思索(しさく)自然(しぜん)(てき)なるが(ゆゑ)に、013人間(にんげん)本体(ほんたい)たる精霊(せいれい)として、014(その)精霊(せいれい)団体中(だんたいちう)(くは)はることはない、015(しか)しながら(その)想念(さうねん)迥然(けいぜん)として肉体(にくたい)離脱(りだつ)する(とき)は、016(その)(かん)精霊(せいれい)(うち)にあるを(もつ)(あるひ)各自(かくじ)所属(しよぞく)団体中(だんたいちう)(あら)はるることがある。017(この)(とき)(ある)精霊(せいれい)(かれ)()(もの)容易(ようい)(これ)()諸々(もろもろ)精霊(せいれい)分別(ぶんべつ)することが出来(でき)るのである。018(なん)とならば肉体(にくたい)()つてゐる精霊(せいれい)は、019(まへ)()べた万公(まんこう)精霊(せいれい)(ごと)く、020(おも)ひに(しづ)みつつ、021黙然(もくねん)として前後(ぜんご)左右(さいう)徘徊(はいくわい)し、022()(かへり)みざること、023(あだか)盲目者(まうもくしや)(ごと)くに()ゆるからである。024()しも精霊(せいれい)(これ)とものを()はむとすれば、025()精霊(せいれい)忽然(こつぜん)として(けむり)(ごと)消失(せうしつ)するものである。026人間(にんげん)如何(いか)にして肉体(にくたい)脱離(だつり)し、027精霊界(せいれいかい)()るかと()ふに、028(この)(とき)人間(にんげん)睡眠(すゐみん)にも()らず、029覚醒(かくせい)にもあらざる一種(いつしゆ)異様(いやう)情態(じやうたい)()るものであつて、030(この)情態(じやうたい)()(とき)は、031(その)人間(にんげん)は、032(ただ)自分(じぶん)充分(じうぶん)覚醒(かくせい)して()るものとのみ(おも)うて()るものである。033(しか)して(この)(さい)()ける諸々(もろもろ)感覚(かんかく)醒々(さめざめ)として、034(あだか)肉体(にくたい)(もつと)覚醒(かくせい)せる(とき)(すこ)しも(かは)りはないのである。035五官(ごくわん)感覚(かんかく)も、036四肢(しこ)五体(ごたい)触覚(しよくかく)(とく)精妙(せいめう)となることは肉体(にくたい)覚醒時(かくせいじ)諸感覚(しよかんかく)触覚(しよくかく)到底(たうてい)(およ)ばざる(ところ)である。037(この)情態(じやうたい)にあつて、038天人(てんにん)(およ)精霊(せいれい)()(とき)は、039(その)精気(せいき)凛々(りんりん)として活躍(くわつやく)するを(みと)むべく、040(また)(かれ)()言語(げんご)をも明瞭(めいれう)()(こと)()らるるのである。041(なほ)不可思議(ふかしぎ)とすべきは、042(かれ)()天人(てんにん)(およ)精霊(せいれい)(した)しく接触(せつしよく)()ることである。043(この)(ゆゑ)人間(にんげん)肉体(にくたい)(ぞく)するもの、044(すこ)しも(この)(かん)混入(こんにふ)(きた)らないからである。045(この)情態(じやうたい)()んで霊界(れいかい)にては肉体(にくたい)離脱(りだつ)(とき)()ひ、046現界(げんかい)より()ては(これ)()(しよう)するのである。047(この)(とき)人間(にんげん)(その)肉体(にくたい)(なか)自分(じぶん)()(こと)(おぼ)えず、048(また)(その)肉体(にくたい)(そと)()()ることをも(おぼ)えないものである。049人間(にんげん)(その)内分(ないぶん)(すなは)霊的(れいてき)生涯(しやうがい)(おい)精霊(せいれい)なりといふ理由(りいう)は、050(その)想念(さうねん)(およ)意思(いし)所属(しよぞく)せる事物(じぶつ)(うへ)から()てしか()ふのである。051(なん)とならば(この)(かん)事物(じぶつ)(ひと)内分(ないぶん)にして(すなは)霊主(れいしゆ)体従(たいじう)法則(はふそく)()つて活動(くわつどう)するから、052(ひと)をして(ひと)たらしむる所以(ゆゑん)である。053(ひと)(その)内分(ないぶん)以外(いぐわい)()づることを()ないものであるから、054精霊(せいれい)(すなは)人間(にんげん)である。055(ひと)肉体(にくたい)人間(にんげん)(いへ)(また)容器(ようき)()つても()いものである。056(ひと)肉体(にくたい)にして(すなは)精霊(せいれい)活動(くわつどう)機関(きくわん)にして、057自己(じこ)本体(ほんたい)たる精霊(せいれい)(いう)する(ところ)諸々(もろもろ)想念(さうねん)諸多(しよた)情動(じやうだう)相応(あひおう)じて、058(その)自然界(しぜんかい)()ける諸官能(しよくわんのう)(まつた)うし()ざるに立到(たちいた)つた(とき)は、059肉体(にくたい)(じやう)より()(これ)()()ぶのである。060精霊(せいれい)呼吸(こきふ)(および)心臓(しんざう)鼓動(こどう)との(あひだ)内的(ないてき)交通(かうつう)なるものがある。061そは精霊(せいれい)想念(さうねん)とは呼吸(こきふ)相通(あひつう)じ、062(その)(あい)より(きた)情動(じやうだう)心臓(しんざう)(つう)ずる(ゆゑ)である。063(それ)だから肺臓(はいざう)心臓(しんざう)活動(くわつどう)(まつた)()(とき)こそ、064(れい)(にく)とが(たちま)分離(ぶんり)する(とき)である。065肺臓(はいざう)呼吸(こきふ)心臓(しんざう)鼓動(こどう)とは、066人間(にんげん)本体(ほんたい)たる精霊(せいれい)(その)ものを(つな)(ところ)命脈(めいみやく)であつて、067(この)(ふた)つの官能(くわんのう)破壊(はくわい)する(とき)精霊(せいれい)(たちま)ちおのれに(かへ)り、068独立(どくりつ)復活(ふくくわつ)()るのである。
069 ()くて肉体(にくたい)(すなは)精霊(せいれい)躯殻(くかく)(その)精霊(せいれい)より分離(ぶんり)されたが(ゆゑ)次第(しだい)冷却(れいきやく)して、070(つひ)腐敗(ふはい)糜爛(びらん)するに(いた)るものである。
071 人間(にんげん)精霊(せいれい)呼吸(こきふ)(および)心臓(しんざう)内的(ないてき)交通(かうつう)をなす所以(ゆゑん)は、072人間(にんげん)生死(せいし)(くわん)する活動(くわつどう)()いては、073全般(ぜんぱん)(てき)に、074(また)個々(ここ)肺臓(はいざう)心臓(しんざう)両機関(りやうきくわん)()(ところ)である。075(しか)して人間(にんげん)精霊(せいれい)(すなは)本体(ほんたい)肉体(にくたい)分離後(ぶんりご)(いへど)も、076(なほ)少時(しばらく)(その)体内(たいない)(のこ)り、077心臓(しんざう)鼓動(こどう)(まつた)()むを()つて、078全部(ぜんぶ)脱出(だつしゆつ)するのである。079(しか)して(これ)人間(にんげん)死因(しいん)如何(いかん)()つて(しやう)ずる(ところ)現象(げんしやう)である。080(ある)場合(ばあひ)には心臓(しんざう)鼓動(こどう)(なが)継続(けいぞく)し、081(ある)場合(ばあひ)(なが)からざることがある。082(この)鼓動(こどう)(まつた)()んだ(とき)は、083人間(にんげん)本体(ほんたい)たる精霊(せいれい)(ただち)霊界(れいかい)復活(ふくくわつ)()るのである。084(しか)しながらこれは(みづ)御霊(みたま)大神(おほかみ)のなし(たま)(ところ)であつて、085人間(にんげん)自己(じこ)()くする(ところ)ではない。
086 (しか)して心臓(しんざう)鼓動(こどう)(まつた)休止(きうし)する(まで)087精霊(せいれい)(その)肉体(にくたい)より分離(ぶんり)せない理由(りいう)は、088心臓(しんざう)なるものは、089情動(じやうだう)相応(さうおう)するが(ゆゑ)である。090(すべ)情動(じやうだう)なるものは(あい)(ぞく)し、091(あい)人間(にんげん)生命(せいめい)本体(ほんたい)である。092人間(にんげん)(この)(あい)()るが(ゆゑ)に、093(おのおの)生命(せいめい)(ねつ)があり、094(しか)して(この)和合(わがふ)継続(けいぞく)する(うち)は、095相応(さうおう)存在(そんざい)あるを(もつ)て、096精霊(せいれい)生命(せいめい)(なほ)肉体中(にくたいちう)にあるのである。
097 (ひと)精霊(せいれい)肉体(にくたい)脱離期(だつりき)(すなは)最後(さいご)死期(しき)(あた)つて(その)瞬間(しゆんかん)抱持(はうぢ)した(ところ)の、098最後(さいご)想念(さうねん)をば、099死後(しご)(しばら)くの(あひだ)保存(ほぞん)するものであるが、100(とき)()るに(したが)つて、101精霊(せいれい)(もと)()()つた(とき)102平素(へいそ)抱持(はうぢ)したる諸々(もろもろ)想念(さうねん)(うち)復帰(ふくき)するものである。103さて(これ)()諸々(もろもろ)想念(さうねん)は、104()精霊(せいれい)全般(ぜんぱん)(てき)情動(じやうだう)(すなは)(しゆ)とする(ところ)(あい)情動(じやうだう)より(きた)るものである。105(ひと)(こころ)内分(ないぶん)(すなは)精霊(せいれい)が、106肉体(にくたい)より()かるるが(ごと)く、107(また)(ほとん)抽出(ちうしゆつ)さるるが(ごと)きを知覚(ちかく)し、108()感覚(かんかく)するものである。109古人(こじん)(ことわざ)最後(さいご)一念(いちねん)死後(しご)(せい)()くと()つてゐるのは誤謬(ごびう)である。110どうしても平素(へいそ)(あい)情動(じやうだう)(これ)左右(さいう)するものたる以上(いじやう)は、111人間(にんげん)平素(へいそ)より(その)身魂(しんこん)(きよ)め、112(ぜん)()(ぜん)(ため)(ぜん)(おこな)ひ、113()智慧(ちゑ)証覚(しようかく)とを()ておかなくてはならないものである。
114 さて治国別(はるくにわけ)115竜公(たつこう)(きは)めて謹慎(きんしん)態度(たいど)(もつ)て、116(あか)117(しろ)守衛(しゆゑい)がここに(すす)()精霊(せいれい)との問答(もんだふ)一言(ひとこと)()らさじと、118小男鹿(さをしか)(みみ)ふり()てて()()つた。119そこへノコノコやつて()たのは男女(なんによ)二人(ふたり)精霊(せいれい)であつた。120赤面(せきめん)守衛(しゆゑい)両人(りやうにん)(むか)ひ、
121赤顔の守衛『ヤアヤアそれなる両人(りやうにん)122(しばら)()て。123ここは八衢(やちまた)関所(せきしよ)だ。124(なんぢ)生前(せいぜん)行動(かうどう)()いて取査(とりしら)べる必要(ひつえう)がある』
125呶鳴(どな)りつけた。126二人(ふたり)はオヅオヅしながら、
127二人『ハイ』
128()つたきり、129路上(ろじやう)にうづくまつて(しま)つた。
130赤顔の守衛(その)(はう)両人(りやうにん)何者(なにもの)だ』
131男(徳)『ハイ、132(わたし)呉服屋(ごふくや)番頭(ばんとう)(とく)(まを)します』
133女(叶枝)(わたくし)叶枝(かなえ)(まを)芸者(げいしや)(ござ)います』
134赤顔の守衛『ウンさうだらう、135(その)(はう)両人(りやうにん)情死(じやうし)(いた)して、136ここ(まで)気楽(きらく)(さう)()()()つて意茶(いちや)ついて()たのだらう。137さてもさても暢気(のんき)代物(しろもの)だなア』
138『ハイ、139(まこと)面目(めんぼく)次第(しだい)(ござ)いませぬ。140中々(なかなか)()うして()うして、141気楽(きらく)(どころ)か、142(いま)(この)(さき)で、143三途(せうづ)(かは)(わた)り、144()アさまに散々(さんざん)(あぶら)をとられた(うへ)145いろいろと(はぢ)をかかされ、146ヤツとのことで此処(ここ)まで()げて(まゐ)りました』
147赤顔の守衛(その)(はう)(とく)とやら、148(しばら)此方(こちら)()()つてをれ。149(をんな)(はう)から(しら)べてやる』
150『ハイ、151どうぞ一緒(いつしよ)に、152なることならば………(しら)べて(いただ)()(ござ)います。153二世(にせ)三世(さんせ)も、154仮令(たとへ)()(すゑ)(やま)(おく)155どこへ()つても(はな)れないといふ(かた)約束(やくそく)(むす)んで(まゐ)つたので(ござ)いますから、156仮令(たとへ)(いつ)分間(ぷんかん)たりとも(はな)れることは出来(でき)ませぬ』
157赤顔の守衛『そんな勝手(かつて)(こと)が、158霊界(れいかい)では(とほ)ると(おも)ふか。159(しばら)(ひか)へて()らう………オイ(しろ)さま、160(しばら)(この)(とく)豚箱(ぶたばこ)(なか)()()んでおいて(くだ)さい』
161白顔の守衛『コレ(とく)さま、162(つら)からうが、163少時(しばらく)(あひだ)だから、164マアこちらへ()てゐなさい。165三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)一服(いつぷく)してゐられるから………豚箱(ぶたばこ)なんどに()れやしないから、166霊界(れいかい)のお(ちや)でも()んで、167叶枝(かなえ)さまの(しら)べが()むまで、168此方(こちら)でお(やす)みなさい』
169 (とく)(なみだ)(なが)しながら………
170『ハイ有難(ありがた)(ござ)います。171あなたの(やう)同情(どうじやう)のあるお言葉(ことば)でいつて(くだ)されば、172半日(はんにち)仮令(たとへ)(いち)(にち)(くらゐ)(はな)れた(ところ)(べつ)(くる)しいことは(ござ)いませぬ。173(あたま)から役人面(やくにんづら)して、174(こは)(かほ)呶鳴(どな)()てられると一寸(いつすん)(むし)にも五分(ごぶ)(たましひ)175チツとはムカツきますからなア』
176 (あか)()(いか)らし、
177赤顔の守衛(だま)れ! 人間(にんげん)分際(ぶんざい)として左様(さやう)なことを(まを)すと直様(すぐさま)地獄(ぢごく)(おと)してやるぞ』
178『ハイ………どうせ、179(わたし)男地獄(をとこぢごく)180叶枝(かなえ)女地獄(をんなぢごく)と、181娑婆(しやば)でさへも仇名(あだな)をとつてきた(くらゐ)(ござ)いますから、182地獄落(ぢごくおち)覚悟(かくご)して()ります。183(しか)しながら、184どんな(つら)(ところ)でも(かま)ひませぬから、185二人(ふたり)一緒(いつしよ)にやつて(くだ)さい。186そればつかりが一生(いつしやう)()(ねがひ)(ござ)います』
187赤顔の守衛『エヽ(やかま)しい、188(しろ)さま、189(はや)(とく)隔離(かくり)して(くだ)さい』
190白顔の守衛『サア(とく)さま、191こちらへお()でなさい』
192『オイ、193叶枝(かなえ)194おれのことを(わす)れちやならないよ。195(おれ)もお(まへ)のこた、196一瞬間(いつしゆんかん)(わす)れないからなア』
197 叶枝(かなえ)(なん)応答(いらへ)もなく、198うつむいてメソメソ()いて()る。199(とく)(いろ)(しろ)守衛(しゆゑい)(みちび)かれ(やかた)玄関(げんくわん)()して()く。
200 (あか)帳面(ちやうめん)をくりながら、
201赤顔の守衛『オイ(をんな)202(その)(はう)随分(ずゐぶん)(わる)(こと)(いた)して()るが、203逐一(ちくいち)此処(ここ)白状(はくじやう)(いた)すのだぞ』
204叶枝『ハイ、205(べつ)(わる)(こと)(いた)した(おぼ)えは(ござ)いませぬよ』
206赤顔の守衛『バカを(まを)せ、207(その)(はう)芸者(げいしや)()りながら、208(げい)()らずに(にく)()つてゐるぢやないか』
209叶枝『ハイ、210(げい)()つても(にく)()つても、211商売(しやうばい)(ふた)つは(ござ)いませぬ。212(うた)(うた)つたり三味(しやみ)をひいたり、213太鼓(たいこ)(つづみ)()つのは遊芸(いうげい)(ござ)います。214そして(にく)をうるのは岩戸(いはと)(びら)きの神楽舞(かぐらまひ)215曲芸(きよくげい)をやつて、216(きやく)さまに(よろこ)ばせ(たの)します(きよ)商売(しやうばい)(ござ)います。217それ(ゆゑ)相場師(さうばし)博奕打(ばくちうち)(やう)片一方(かたいつぱう)(よろこ)片一方(かたいつぱう)(くや)むといふよなことは、218(けつ)してやつた(おぼ)えは(ござ)いませぬ。219どのお(きやく)さまも(この)(きやく)さまも、220(みな)221アハヽヽ、222オホヽヽ、223エヘヽヽと(わら)(きよう)じ、224まるで天国(てんごく)(はる)()うたやうだと仰有(おつしや)つて、225(よろこ)んで(くだ)さる(かた)ばかりで(ござ)います。226両方(りやうはう)のよい商売(しやうばい)といふのは、227芸者(げいしや)頬冠(ほほかぶ)(くらゐ)なものです。228これ(ほど)人間(にんげん)(よろこ)ばして()芸者(げいしや)(つみ)(ござ)いますなら、229政治家(せいぢか)宗教家(しうけうか)230一番(いちばん)(わる)いのはお医者(いしや)さま、231(その)(ほか)娑婆(しやば)()一般(いつぱん)人間(にんげん)(みな)大悪人(だいあくにん)(ござ)います。232(わたし)一旦(いつたん)()(かは)した(をとこ)心中立(しんぢうだ)てをして、233(いのち)まですてて、234ここ(まで)やつて()貞節(ていせつ)(をんな)(ござ)います。235どうぞ(わたし)(きよ)(うつく)しい(こころ)をお調(しら)(くだ)さいまして、236どうぞ天国(てんごく)へやつて(くだ)さいませ。237そしてあの(とく)さまだつて、238(けつ)して(わる)(ひと)ぢや(ござ)いませぬ。239どうぞ(わたし)一緒(いつしよ)天国(てんごく)(たび)をさして(くだ)さいます(やう)()(ねがひ)(いた)します』
240赤顔の守衛馬鹿(ばか)(まを)せ、241(とく)のこと(まで)242貴様(きさま)がゴテゴテ()場所(ばしよ)ぢやない。243貴様(きさま)のことばかり白状(はくじやう)すればいいのだ。244(なん)だベラベラと自己(じこ)弁護(べんご)ばかしやりやがつて、245おマケに情夫(じやうふ)(こと)(まで)口出(くちだ)しするとは、246中々(なかなか)(もつ)ての(ほか)代物(しろもの)だ。247()うなると()うしても、248貴様(きさま)(たち)両人(りやうにん)一緒(いつしよ)におくことは出来(でき)ぬ』
249叶枝『あ、250左様(さやう)(ござ)いますか、251折角(せつかく)ここ(まで)ついて()ましたけれど、252あなた(さま)()命令(めいれい)引分(ひきわ)けて(くだ)さるのならば、253冥土(めいど)規則(きそく)だと(おも)うて、254(わたし)はチツとも異議(いぎ)(まを)しませぬ。255(じつ)(ところ)(わたし)無理(むり)心中(しんぢう)をさされましたのです。256現界(げんかい)といふ(ところ)(おも)(やう)()かぬ(ところ)(ござ)いまして、257()きなお(かた)色々(いろいろ)故障(こしやう)出来(でき)て、258常住(じやうじう)()(わけ)には()かず、259(かね)はなし、260これに(はん)して、261(きら)ひで(きら)ひで仕方(しかた)のない(をとこ)(かね)()つて、262(まる)大根畑(だいこんばたけ)へネチがついた(ほど)263うるさい(くらゐ)しがみつきに()ますなり、264本当(ほんたう)浮世(うきよ)がイヤになつて(しま)つたのですよ。265……
266 (いや)なお(きやく)(わら)うてみせて
267  ()きの(ひざ)にて()きくらす
 
268といふ(あは)れな生涯(しやうがい)(つづ)けて()ました。269実際(じつさい)のこと(まを)しますれば、270あの(とく)といふ(をとこ)271御存(ごぞん)じの(とほ)り、272(あたま)(まで)がトク頭病(とうびやう)で、273そしてヅぬけたトク(とう)馬鹿(ばか)(ござ)います。274とくとお(しら)べの(うへ)275どうぞ(わたし)一所(ひとところ)()らない(やう)に、276特別(とくべつ)()取扱(とりあつかひ)()(ねがひ)(いた)します』
277赤顔の守衛『アハヽヽヽ、278貴様(きさま)余程(よほど)やり()だつたと()えるのう。279およそ幾人(いくにん)ばかり地獄(ぢごく)へおとしたか』
280叶枝『ハイ、281(わたし)(おと)したのぢや(ござ)いませぬが、282勝手(かつて)にお(きやく)さまの(はう)から()ちたのです』
283赤顔の守衛『それでも貴様(きさま)原動力(げんどうりよく)だ。284直接(ちよくせつ)におとさいでも、285間接(かんせつ)(おと)して()るのだ。286(げん)(いま)()徳公(とくこう)でもさうぢやないか』
287 叶枝(かなえ)(やや)言葉(ことば)()れ、288娑婆(しやば)人間(にんげん)をあやつつて()地金(ぢがね)()し、289(あか)肩先(かたさき)平手(ひらて)()()つポンポン(たた)き、290おチヨボ(ぐち)(そで)をあてながら、
291叶枝『ホヽヽヽヽ、292あの(むつ)かしい(かほ)わいな。293わたえ、294そんな(あか)(つら)した、295()のクルリと(おほ)きい、296(くち)(おほ)きい(をとこ)らしい(をとこ)297本当(ほんたう)()きだワ。298なア(あか)さま、299チツと可愛(かあい)がつて頂戴(ちやうだい)ね』
300赤顔の守衛『コリヤ()しからぬ、301(なん)心得(こころえ)てゐる。302ここは()はば霊界(れいかい)予審廷(よしんてい)だぞ。303審判官(しんぱんくわん)(むか)つて、304(なん)といふ失礼(しつれい)なことを(まを)すか』
305叶枝『ホヽヽヽヽ、306あのマア、307(むつ)かしい(かほ)しやんすことえな。308あたえ、309ますます可愛(かあい)くなつてよ』
310赤顔の守衛『エヽ、311馬鹿(ばか)(いた)すな。312(なん)心得(こころえ)()る』
313叶枝『お()(さは)りましたら御免(ごめん)なさいませ。314(しか)しながら霊界(れいかい)だつて、315(あい)情動(じやうどう)(かは)りはありますまい。316現界(げんかい)役人(やくにん)だつて(むつ)かしい(かほ)をして被告人(ひこくにん)(さば)いてゐやはりますが、317(をんな)被告(ひこく)()きますと、318(たちま)()(ほそ)うし、319(よだれ)をくらはります。320あんただつて、321(をんな)(たい)する(をとこ)やおまへんか、322さう七六(しちむつ)かしう、323四角(しかく)ばつてゐなしては、324()(なか)殺風景(さつぷうけい)でたまりませぬワ。325どこもかも行詰(ゆきつま)り、326不景気(ふけいき)(かぜ)吹捲(ふきまく)られて、327娑婆(しやば)人間(にんげん)青息(あをいき)吐息(といき)為体(ていたらく)328憂鬱(いううつ)(しづ)んでゐる亡者(まうじや)(ども)を、329妙音(めうおん)菩薩(ぼさつ)にも()すべき芸者(げいしや)が、330慰安(ゐあん)(あた)へ、331小口(こぐち)から天国(てんごく)(すく)うて()げて()たのですよ。332(まへ)さまだつて、333何時(いつ)(まで)もこんな(ところ)に、334そんな(むつ)かしい(かほ)をして、335しやちこばつてゐるよりも、336(わたし)一緒(いつしよ)天国(てんごく)へでも新婚(しんこん)旅行(りよかう)洒落(しやれ)たらどうだす………(あま)(わる)心持(こころもち)やしませぬで。337わたえの()(ぐらゐ)()たして()げますワ』
338赤顔の守衛『エヽ仕方(しかた)のない代物(しろもの)だなア。339貴様(きさま)余程(よほど)娑婆(しやば)暴威(ばうゐ)(ふる)うて()たのだらう。340中々(なかなか)弁舌(べんぜつ)はうまいものだ』
341叶枝『ホヽヽヽヽ、342その(こゑ)蜥蜴(とかげ)くらふか時鳥(ほととぎす)343外面(げめん)(によ)菩薩(ぼさつ)内心(ないしん)(によ)夜叉(やしや)344表裏(へうり)反覆(はんぷく)(つね)なきは()(なか)真相(しんさう)ですよ。345(まへ)さまもチツと世間(せけん)()つて()なさい。346さうすりや、347そんな偏狭(へんけふ)(あたま)改造(かいざう)されて、348(あたら)しい(をとこ)仲間(なかま)這入(はい)れないものでもありませぬワ、349大臣(だいじん)だつて国会(こくくわい)議員(ぎゐん)だつて、350元帥(げんすゐ)だつて、351紳士(しんし)紳商(しんしやう)だつて、352(かた)(ぱし)からこの(ゑくぼ)(なか)へ、353(みな)()()んで(しま)技能(ぎのう)()つてゐる、354天然(てんねん)美貌(びばう)355千変(せんぺん)万化(ばんくわ)魔力(まりよく)使(つか)(をんな)ですもの、356門番(もんばん)さまの一人(ひとり)二人(ふたり)(ぐらゐ)357()んだり()いたりするのは、358()のお(ちや)でもありませぬワ。359(まへ)さまも有名(いうめい)芸者(げいしや)叶枝(かなえ)にこれ(だけ)言葉(ことば)をかけて(もら)うたら、360余程(よほど)光栄(くわうえい)ですよ、361本当(ほんたう)仕合(しあは)せな()(かた)ねえ』
362 竜公(たつこう)(おも)はず()らず、
363竜公『ウツフヽヽ』
364()()した。
365赤顔の守衛貴様(きさま)調(しら)べは一朝(いつてう)一夕(いつせき)()かない。366(ひと)(くら)()み、367(やま)()み、368田畑(でんぱた)()み、369数多(あまた)亡者(まうじや)製造(せいざう)したしたたか(もの)だから、370(また)()つて調(しら)べてやる。371サア()てツ』
372()ひながら、373(まつ)()荒皮(あらかは)(やう)(うで)をグツと突出(つきだ)し、374(あし)()(やう)(やはら)こい(うで)をグツと(にぎ)り、375(いは)()をパツとあけて、376岩窟内(がんくつない)()()みおき、377(ふたた)(とく)(この)()(ひき)ずり(きた)り、378鹿爪(しかつめ)らしい(かほ)をして(しら)(はじ)めた。
379赤顔の守衛(その)(はう)生前(せいぜん)何商売(なにしやうばい)(いた)して()つたか』
380『ハイ、381最前(さいぜん)(まを)した(やう)呉服屋(ごふくや)番頭(ばんとう)間違(まちが)(ござ)いませぬ』
382赤顔の守衛(その)(はう)(いく)らの月給(げつきふ)(もら)つて()つたか』
383『ハイ、384(つき)親方(おやかた)食事持(しよくじもち)(じふ)(ゑん)ばかり(いただ)いて()りました』
385赤顔の守衛(その)(はう)(つき)十五六(じふごろく)(くわい)叶枝(かなえ)(そば)(かよ)うたであらう。386チヤンと(この)帳面(ちやうめん)(しる)してあるぞ』
387『ハイ仕方(しかた)がありませぬ、388仰有(おつしや)(とほり)(ござ)います』
389赤顔の守衛一度(いちど)(あそ)びに()くと(いく)らの(かね)()るか』
390『ハイ、391(すくな)(とき)七八(しちはち)(ゑん)392(おほ)(とき)五十(ごじふ)(ゑん)()ります』
393赤顔の守衛(わづ)(いつ)(げつ)(じふ)(ゑん)給料(きふれう)で、394()うして(その)(かね)出来(でき)るのだ』
395『ハイ、396(わたし)役徳(やくとく)によつて、397それ(だけ)()()します』
398赤顔の守衛『バカを(まを)せ。399帳面(ちやうめん)づらをゴマかしたのだらう』
400帳面(ちやうめん)づらをゴマかすのは(わる)(ござ)いますか。401娑婆(しやば)人間(にんげん)(ふで)(さき)一遍(いつぺん)五万(ごまん)(りやう)402十万(じふまん)(りやう)とゴマかして()りますよ。403(げん)積善(せきぜん)銀行(ぎんかう)御覧(ごらん)なさい。404二千万(にせんまん)(ゑん)(ふで)(さき)でゴマかしたぢや(ござ)いませぬか。405それでもヤツパリ紳士(しんし)とか紳商(しんしやう)とか、406有力者(いうりよくしや)とかの()(ほしいまま)にして()ります。407そして政府(せいふ)(あま)(これ)(きび)しく詮議(せんぎ)()(いた)しませぬ。408(これ)(おも)へば(ひと)つでもウマく帳面(ちやうめん)づらをゴマかした(やつ)が、409所謂(いはゆる)社会(しやくわい)善人(ぜんにん)です。410(わたし)(やう)(もの)をお()めなさるよりも、411モツと(おほ)きな(やつ)をお(しら)べなさりませ。412(つき)(かね)(ひやく)(りやう)二百(にひやく)(りやう)誤魔化(ごまくわ)した(よわ)人間(にんげん)や、413(こめ)一升(いつしよう)(かね)五十銭(ごじつせん)(くらゐ)(ぬす)んだ(あは)れな人間(にんげん)(しら)べるよりも、414なぜモツと(おほ)きな悪人(あくにん)巨頭(きよとう)をお(しら)べなさらぬのですか。415そんなことで()うして八衢(やちまた)審判所(しんぱんしよ)権威(けんゐ)(たも)たれませうか。416現界(げんかい)(おい)ても微罪(びざい)不検挙(ふけんきよ)内規(ないき)(おこな)はれて()りますよ』
417赤顔の守衛馬鹿(ばか)(まを)せ、418現界(げんかい)(ちが)つて、419霊界(れいかい)審判所(しんぱんしよ)は、420一厘(いちりん)一毛(いちまう)相違(さうゐ)(ゆる)さぬのだ。421仮令(たとへ)塵切(ちりぎ)一本(いつぽん)でも()つた(やつ)盗人(ぬすびと)だ』
422『それなら何故(なぜ)冥土(めいど)法律(はふりつ)現界(げんかい)発布(はつぷ)して(くだ)さらぬのか。423(わたし)(たち)現界(げんかい)最善(さいぜん)(つく)さうと(おも)へば、424霊界(れいかい)()(とが)められる、425本当(ほんたう)善悪(ぜんあく)去就(きよしう)(こま)ります。426それ(ほど)427(いま)となつて(ちひ)さいこと(まで)詮議立(せんぎだ)てなさるのなら、428なぜ(ゆめ)になりとも、429冥土(めいど)法律(はふりつ)()うだと()らしては(くだ)さらぬのだ。430(まる)人間(にんげん)陥穽(おとしあな)へおとすよな、431そんな残酷(ざんこく)法律(はふりつ)がどこにありますか。432(わたし)(けつ)して左様(さやう)不徹底(ふてつてい)不完全(ふくわんぜん)法律(はふりつ)命令(めいれい)には絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)(いた)しませぬ。433それよりも、434あなた、435大切(たいせつ)(わたし)女房(にようばう)をどこへ(かく)しましたか。436あべこべに誘拐罪(いうかいざい)で、437冥府(めいふ)審判所(しんぱんしよ)告発(こくはつ)(いた)しますぞ』
438赤顔の守衛(いま)娑婆(しやば)()(やつ)は、439ドイツも此奴(こいつ)も、440(みな)弱肉(じやくにく)強食(きやうしよく)441優勝(いうしよう)劣敗(れつぱい)(もつ)最善(さいぜん)生活法(せいくわつはふ)ときめてゐやがるからサツパリ始末(しまつ)()へない。442スツカリ良心(りやうしん)痳痺(まひ)し、443癲狂(てんきやう)痴呆(ちはう)境遇(きやうぐう)陥落(かんらく)して()るのだから、444(つみ)(だん)じやうもない、445癲狂者(てんきやうしや)痴呆(ちはう)(たい)し、446法律(はふりつ)適用(てきよう)出来(でき)ないから、447貴様(きさま)放免(はうめん)する。448(その)(かは)一生(いつしやう)八衢(やちまた)四辻(よつつじ)()つて、449亡者(まうじや)道案内(みちあんない)なと(いた)すがよからう』
450(かま)うて(くだ)さるな、451自由(じいう)(けん)です。452(まへ)さま(たち)人間(にんげん)(さば)権利(けんり)がどこにあるか。453人間(にんげん)(さば)(もの)(かみ)(さま)より(ほか)にない(はず)だ。454ヘン(あま)偉相(えらさう)()ふな、455婦人(ふじん)誘拐者(いうかいしや)()が、456今度(こんど)(おれ)(はう)から承知(しようち)をしないのだ。457(はや)叶枝(かなえ)をここへ()せばよし、458()さぬに(おい)ては死物狂(しにものぐる)ひだ。459()れて()れて()れまはしてやらうか』
460赤顔の守衛『あゝあ、461(こま)つた気違(きちがひ)夫婦(ふうふ)がやつて()たものだなア。462現界(げんかい)人間(にんげん)何奴(どいつ)此奴(こいつ)(みな)こんなものだ。463なア(しろ)さま、464コリヤ(ひと)現界(げんかい)から根本(こんぽん)改良(かいりやう)やらねば駄目(だめ)だなア』
465白顔の守衛『あゝさうだから、466大神(おほかみ)(さま)から(いづ)御霊(みたま)467(みづ)御霊(みたま)神柱(かむばしら)現界(げんかい)(おく)り、468(いま)改造(かいざう)着手(ちやくしゆ)されつつあるのですよ。469やがて四五(しご)(ねん)(さき)にゆけばキツと効果(かうくわ)(あら)はれ、470癲狂者(てんきやうしや)痴呆(ちはう)や、471(めくら)(つんぼ)(かず)()るでせう。472さうすれば吾々(われわれ)御用(ごよう)(つと)めよくなるでせう』
473竜公『モシ先生(せんせい)474(いづ)御霊(みたま)475(みづ)御霊(みたま)神柱(かむばしら)現界(げんかい)()してあると()はれましたなア。476大方(おほかた)変性(へんじやう)男子(なんし)477変性(へんじやう)女子(によし)(こと)ぢやありますまいか』
478治国別『ウンさうだ。479(おれ)(たち)余程(よほど)シツカリ(いた)さねばならないわい。480(まへ)(これ)から十分(じふぶん)注意(ちうい)をして娑婆(しやば)(かへ)つたら、481舎身(しやしん)(てき)活動(くわつどう)をやるのだなア』
482大正一二・一・九 旧一一・一一・二三 松村真澄録)
絶賛発売中『超訳霊界物語2/出口王仁三郎の「身魂磨き」実践書/一人旅するスサノオの宣伝使たち』
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