治国別と竜公は、伊吹戸主神の関所で優待されしばらく休息していた。するとその前を勢いよく通りかかった六十男がある。赤顔の守衛があわてて男を引き留める。
男は鬼淫偽員の欲野深蔵だと名乗り、威張りかえっている。守衛たちに尋問された深蔵は、逆におかしな理屈をまくし立て、大股で関所を突破しようとした。
この騒ぎに伊吹戸主の神は関所の窓を開けてちょっと覗かせ給うた。欲野深蔵は伊吹戸主神の霊光に打たれてその場に悶絶し、泡を吹いて苦しみだした。番卒たちは深蔵の体を荷車に乗せ、地獄道の大門内へ運び去ってしまった。
八衢では、色の白い守衛が天国に行くべき人間を調べ、恐ろしい顔の赤い守衛が地獄へ行くべき人間を調べることになっている。
しばらくすると、バラモン教の宣伝使がここをくぐろうとした。宣伝使は自分が死んだことに気付かずに門を通ろうとするが、守衛に一喝されてようやくここが死後の世界であることを認めた。
守衛の取り調べにより、この宣伝使は神を信ぜずに世人を迷わせた偽宣伝使であることが判明したが、神の存在を無信仰者に伝えた徳によって地獄行きだけは免れた。そして、しばらく中有界で心を磨いて修業する猶予を与えらえた。
守衛は、その間に神様の御神格の内流を得て善と真を知覚し、意識し、証覚しうるものであり、自分の力でそれを得ると思ったら、たちまち天の賊となって地獄へおちなければならない、と注意を与えた。
治国別と竜公は、この様子を見ながら話し合っている。治国別は、善のために善をおこない真のために真を行う真人間にならなければならないと自らを省みた。そして、少しばかり言霊が利くようになったのは自分が修業した結果神力が備わったと思っていたが、それはたいへんな間違いであったと悟った。
いずれも瑞の御霊・神素盞嗚尊様の御神格が自分の精霊を充たし、肉体をお使いになっておられたということに思い至った。そして神様の恵みによってはっきりと霊界の様子を見、悟らせていただいたことに感謝を表した。
治国別と竜公が、神の諭しへの感謝の涙に暮れていると、伊吹戸主神は会釈して座を立ち、館の奥深くに入らせ給うた。二人がその姿を見ると、伊吹戸主神は丸い玉のように光り輝き、その神姿は判然と見えず、月のような光が七つ八つ九つの円球の周囲を取り巻き、次第に奥の間に隠れ給うのだった。
智慧と証覚のすぐれた神人を、それより劣った証覚者が拝するときは、光のように見えて目もまばゆくなるもののである。神の神格は神善と神真であり、それより発する智慧証覚はすなわち光である。
二人は愕然としてものも言わず、再び関所に目を放ち、ここに集まり来る精霊の様子を瞬きもせずにうかがっていた。