霊界物語.ネット
~出口王仁三郎 大図書館~
目 次
設 定
閉じる
×
霊界物語
三鏡
大本神諭
伊都能売神諭
出口王仁三郎全集
出口王仁三郎著作集
王仁文庫
惟神の道
幼ながたり
開祖伝
聖師伝
霧の海(第六歌集)
大本七十年史
大本史料集成
神霊界
新聞記事
新月の光
その他
王仁文献考証
検索は「
王仁DB
」で
←
戻る
霊界物語
霊主体従
第1巻(子の巻)
第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
第15巻(寅の巻)
第16巻(卯の巻)
第17巻(辰の巻)
第18巻(巳の巻)
第19巻(午の巻)
第20巻(未の巻)
第21巻(申の巻)
第22巻(酉の巻)
第23巻(戌の巻)
第24巻(亥の巻)
海洋万里
第25巻(子の巻)
第26巻(丑の巻)
第27巻(寅の巻)
第28巻(卯の巻)
第29巻(辰の巻)
第30巻(巳の巻)
第31巻(午の巻)
第32巻(未の巻)
第33巻(申の巻)
第34巻(酉の巻)
第35巻(戌の巻)
第36巻(亥の巻)
舎身活躍
第37巻(子の巻)
第38巻(丑の巻)
第39巻(寅の巻)
第40巻(卯の巻)
第41巻(辰の巻)
第42巻(巳の巻)
第43巻(午の巻)
第44巻(未の巻)
第45巻(申の巻)
第46巻(酉の巻)
第47巻(戌の巻)
第48巻(亥の巻)
真善美愛
第49巻(子の巻)
第50巻(丑の巻)
第51巻(寅の巻)
第52巻(卯の巻)
第53巻(辰の巻)
第54巻(巳の巻)
第55巻(午の巻)
第56巻(未の巻)
第57巻(申の巻)
第58巻(酉の巻)
第59巻(戌の巻)
第60巻(亥の巻)
山河草木
第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
第63巻(寅の巻)
第64巻(卯の巻)上
第64巻(卯の巻)下
第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
第81巻(申の巻)
←
戻る
第56巻(未の巻)
序文
総説
第1篇 自愛之柵
01 神慮
〔1431〕
02 恋淵
〔1432〕
03 仇花
〔1433〕
04 盗歌
〔1434〕
05 鷹魅
〔1435〕
第2篇 宿縁妄執
06 高圧
〔1436〕
07 高鳴
〔1437〕
08 愛米
〔1438〕
09 我執
〔1439〕
第3篇 月照荒野
10 十字
〔1440〕
11 惚泥
〔1441〕
12 照門颪
〔1442〕
13 不動滝
〔1443〕
14 方岩
〔1444〕
第4篇 三五開道
15 猫背
〔1445〕
16 不臣
〔1446〕
17 強請
〔1447〕
18 寛恕
〔1448〕
19 痴漢
〔1449〕
20 犬嘘
〔1450〕
余白歌
このサイトは『霊界物語』を始めとする出口王仁三郎等の著書を無料で公開しています。
(注・出口王仁三郎の全ての著述を収録しているわけではありません。未収録のものも沢山あります)
閉じる
×
この文献を王仁DBで開く
印刷用画面を開く
[?]
プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。
[×閉じる]
話者名の追加表示
[?]
セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。
[×閉じる]
追加表示する
追加表示しない
【標準】
表示できる章
テキストのタイプ
[?]
ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。
[×閉じる]
通常のテキスト
【標準】
コピー用のテキスト
その他の設定項目を表示する
ここから下を閉じる
文字サイズ
S
【標準】
M
L
フォント
フォント1
【標準】
フォント2
ルビの表示
通常表示
【標準】
括弧の中に表示
表示しない
古いブラウザでうまく表示されない時はこの設定を試してみて下さい
アンカーの表示
[?]
本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。
[×閉じる]
左側にだけ表示する
【標準】
表示しない
全てのアンカーを表示
宣伝歌
[?]
宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。
[×閉じる]
一段組
【標準】
二段組
脚注
[?]
[※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。
[×閉じる]
全ての脚注を開く
全ての脚注を閉じる(マーク表示)
【標準】
脚注マークを表示しない
文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色
[?]
底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。
[×閉じる]
外字1の色
[?]
この設定は現在使われておりません。
[×閉じる]
外字2の色
[?]
文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。
[×閉じる]
→
表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。
【新着情報】
10月30~31日に旧サイトから新サイトへの移行作業を行う予定です。
実験用サイト
|
サブスク
霊界物語
>
第56巻
> 第3篇 月照荒野 > 第14章 方岩
<<< 不動滝
(B)
(N)
猫背 >>>
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。
【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034 アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。
第一四章
方岩
(
はこいは
)
〔一四四四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻
篇:
第3篇 月照荒野
よみ(新仮名遣い):
げっしょうこうや
章:
第14章 方岩
よみ(新仮名遣い):
はこいわ
通し章番号:
1444
口述日:
1923(大正12)年03月17日(旧02月1日)
口述場所:
竜宮館
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年5月3日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
[×閉じる]
:
ヘルはベルを介抱し、目を覚まさせた。二人はデビスが死んだものと思って、宝石を残らずはぎとってしまった。するとベルとヘルは、分け前を巡ってその場で争い始めた。激しい格闘の末、二人ともその場に倒れてしまった。
そこへ宣伝歌を歌いながら求道居士とケリナがやってきた。求道とケリナは倒れている三人を見つけ、ケリナは一人が姉のデビスであることを認めた。求道はデビス姫を方岩の上に運び、介抱した。
デビスは目をさまし、修験者が自分を助けてくれたこと、妹のケリナも一緒にいることを知った。そして二人に、こんなところに荒行に来て、盗賊二人に襲われたいきさつを話した。
求道は、倒れている盗賊が自分を殺そうとしたベルとヘルだと認めながら、神様はこの両人を使って我々に苦集滅道の真諦をお示しになったのかもしれないと宣し直し、水をくんで介抱した。
ヘルは気が付いて、涙を流して求道に謝罪した。そしてデビスから奪った宝石を懐から出して、返そうと差し出した。ベルはそれを横合いから奪い取り、足をチガチガさせながら長く伸びた草丈のなかに身を隠して消えてしまった。
求道はヘルにデビスを背負わせ、神言を奏上しながら月夜の道をテルモン山の神館指して進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2024-07-01 19:25:10
OBC :
rm5614
愛善世界社版:
197頁
八幡書店版:
第10輯 219頁
修補版:
校定版:
208頁
普及版:
94頁
初版:
ページ備考:
001
ヘルは
月影
(
つきかげ
)
にベルの
姿
(
すがた
)
をよくよく
見
(
み
)
れば、
002
目
(
め
)
を
眩
(
まか
)
してゐる。
003
幸
(
さいは
)
ひ
傍
(
かたはら
)
に
小
(
ちひ
)
さい
水
(
みづ
)
だまりがあつてそれに
月
(
つき
)
が
光
(
ひか
)
つてるのを
認
(
みと
)
め、
004
口
(
くち
)
に
水
(
みづ
)
を
含
(
ふく
)
み
来
(
きた
)
り、
005
ベルの
面
(
かほ
)
や
口
(
くち
)
などに
幾回
(
いくくわい
)
となく
含
(
ふく
)
ませた。
006
漸
(
やうや
)
くにして
息
(
いき
)
を
吹返
(
ふきかへ
)
し、
007
四辺
(
あたり
)
をキヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
し
乍
(
なが
)
ら、
008
ベル『あーー、
009
一体
(
いつたい
)
此処
(
ここ
)
はどこだ。
010
エライ
所
(
ところ
)
へ
行
(
い
)
つて
来
(
き
)
た』
011
と
不思議
(
ふしぎ
)
相
(
さう
)
にヘルの
面
(
かほ
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
んでゐる。
012
ヘルは
声
(
こゑ
)
を
励
(
はげ
)
まして、
013
ヘル『オイ、
014
ベル、
015
確
(
しつか
)
りせぬか、
016
汝
(
きさま
)
今
(
いま
)
、
017
ナイスに
喉
(
のど
)
を
締
(
し
)
められ、
018
目
(
め
)
を
眩
(
まか
)
してゐやがつたのだ。
019
俺
(
おれ
)
が
今
(
いま
)
いろいろと
介抱
(
かいはう
)
して
助
(
たす
)
けてやつたのだ。
020
サア、
021
早
(
はや
)
く
立
(
た
)
たぬか、
022
何時
(
なんどき
)
追手
(
おつて
)
が
来
(
く
)
るか
知
(
し
)
れないぞ。
023
此処
(
ここ
)
は
夜
(
よる
)
とはいへど
通道
(
とほりみち
)
だ、
024
サア、
025
確
(
しつか
)
りした
確
(
しつか
)
りした』
026
と
背中
(
せなか
)
をポンポン
叩
(
たた
)
いてゐる。
027
ベル『ああ
矢張
(
やつぱ
)
り
夢
(
ゆめ
)
だつたか、
028
エライ
所
(
ところ
)
へ
俺
(
おれ
)
は
行
(
い
)
つて
居
(
を
)
つた。
029
沢山
(
たくさん
)
な
赤
(
あか
)
や
青
(
あを
)
の
鬼
(
おに
)
が
鉄棒
(
かなぽう
)
持
(
も
)
つて
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
より
俺
(
おれ
)
を
追
(
おつ
)
かけて
来
(
く
)
る
其
(
その
)
苦
(
くる
)
しさ、
030
まア
夢
(
ゆめ
)
でよかつた。
031
併
(
しか
)
しあのナイスは
何
(
ど
)
うなつたか、
032
取逃
(
とりにが
)
しただらうな』
033
ヘル『ナニ、
034
汝
(
きさま
)
が
喉
(
のど
)
を
締
(
し
)
められヂタバタやつてるのを
見
(
み
)
るに
見
(
み
)
かねて、
035
後
(
うしろ
)
から
棒千切
(
ぼうちぎ
)
れでポンとやつた
所
(
ところ
)
、
036
脆
(
もろ
)
くも
倒
(
たふ
)
れよつたのだ。
037
それみよ、
038
そこに
倒
(
たふ
)
れてるだないか』
039
ベルはダイヤモンドの
光
(
ひかり
)
を
見
(
み
)
るより
早
(
はや
)
く、
040
ベル
『ヤツ』
041
と
云
(
い
)
つたきり、
042
猿臂
(
ゑんぴ
)
を
伸
(
の
)
ばして
頭
(
あたま
)
の
飾
(
かざり
)
をむしり
取
(
と
)
り、
043
矢庭
(
やには
)
に
懐
(
ふところ
)
に
捻込
(
ねぢこ
)
むだ。
044
ヘルは、
045
ヘル
『エー、
046
毒
(
どく
)
をくはば
皿
(
さら
)
までだ。
047
人殺
(
ひとごろし
)
の
大罪
(
だいざい
)
を
犯
(
おか
)
したのだから
宝石
(
はうせき
)
を
盗
(
ぬす
)
んでも
矢張
(
やつぱ
)
り
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
だ。
048
同
(
おな
)
じ
罪
(
つみ
)
になるのなら、
049
之
(
これ
)
でも
奪
(
と
)
つて
太
(
ふと
)
く
短
(
みじか
)
く
暮
(
くら
)
さうかい』
050
と
悪胴
(
わるどう
)
をすゑ、
051
デビスのコルプス
[
※
英語で死体のこと。corpse
]
を
探
(
さぐ
)
つて、
052
光
(
ひか
)
つた
物
(
もの
)
は
残
(
のこ
)
らず
剥
(
は
)
ぎ
取
(
と
)
つて
了
(
しま
)
つた。
053
ベル『アハハハハ、
054
脆
(
もろ
)
いものだな、
055
併
(
しか
)
し
之
(
これ
)
丈
(
だけ
)
沢山
(
たくさん
)
な
宝石
(
はうせき
)
を
体
(
からだ
)
につけやがつて、
056
実
(
じつ
)
に
贅沢
(
ぜいたく
)
な
者
(
もの
)
ぢやないか、
057
今日
(
こんにち
)
の
貴族
(
きぞく
)
生活
(
せいくわつ
)
をしてる
奴
(
やつ
)
は
皆
(
みな
)
是
(
これ
)
だからのう、
058
下
(
した
)
の
人間
(
にんげん
)
が
苦
(
くるし
)
むのも
無理
(
むり
)
はないワイ。
059
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
此
(
この
)
宝石
(
はうせき
)
をどつかの
町
(
まち
)
へ
持
(
も
)
つて
行
(
い
)
つて
売
(
うり
)
とばし、
060
罪亡
(
つみほろ
)
ぼしに
天下
(
てんか
)
の
貧民
(
ひんみん
)
を
与
(
あた
)
ふ
限
(
かぎ
)
り
助
(
たす
)
けてやらうぢやないか。
061
そすりや
人
(
ひと
)
の
一人
(
ひとり
)
位
(
ぐらゐ
)
殺
(
ころ
)
したつて
万民
(
ばんみん
)
を
助
(
たす
)
けるのだから、
062
大罪
(
だいざい
)
所
(
どころ
)
か
却
(
かへつ
)
て
天
(
てん
)
から
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
を
頂
(
いただ
)
くかも
知
(
し
)
れないぞ』
063
ヘル『
天
(
てん
)
から
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
を
頂
(
いただ
)
くことは
到底
(
たうてい
)
望
(
のぞ
)
まれないとしても、
064
せめて
罪
(
つみ
)
を
軽
(
かる
)
うしてもらふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
るだらう。
065
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
汝
(
きさま
)
の
持
(
も
)
つてゐる
宝石
(
はうせき
)
を
皆
(
みな
)
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
せ、
066
汝
(
きさま
)
に
持
(
も
)
たしておくと
又
(
また
)
愛我心
(
あいがしん
)
を
起
(
おこ
)
しよつて、
067
貧民
(
ひんみん
)
救済
(
きうさい
)
に
用
(
もち
)
ゐないかも
知
(
し
)
れない。
068
俺
(
おれ
)
に
持
(
も
)
たしておけば
此
(
この
)
宝
(
たから
)
を
善用
(
ぜんよう
)
して、
069
汝
(
きさま
)
の
罪
(
つみ
)
も
軽
(
かる
)
くなり
俺
(
おれ
)
の
罪
(
つみ
)
も
軽
(
かる
)
くなるやうにしてやるからなア』
070
ベル『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふな、
071
汝
(
きさま
)
のやうな
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いても
慄
(
ふる
)
うてるやうな
人間
(
にんげん
)
に
持
(
も
)
たしておくのは
険呑
(
けんのん
)
だ、
072
剛胆
(
がうたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
俺
(
おれ
)
のやうな
人間
(
にんげん
)
の
懐
(
ふところ
)
に
持
(
も
)
つてをれば、
073
如何
(
いか
)
なる
悪魔
(
あくま
)
も
狙
(
ねら
)
ふこた
出来
(
でき
)
ない、
074
サア、
075
スツパリこちらへ
渡
(
わた
)
せ』
076
ヘル『
馬鹿
(
ばか
)
云
(
い
)
ふない、
077
俺
(
おれ
)
が
助
(
たす
)
けてやらなかつたら
汝
(
きさま
)
は
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
生
(
い
)
きてるこた
出来
(
でき
)
ぬのだ。
078
そんな
執着心
(
しふちやくしん
)
はやめて、
079
皆
(
みな
)
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
すのだ』
080
ベル『
汝
(
きさま
)
はそんな
態
(
てい
)
のよい
事
(
こと
)
をいつて、
081
俺
(
おれ
)
から
宝石
(
はうせき
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
082
一人
(
ひとり
)
で
猫婆
(
ねこばば
)
をきめこむ
積
(
つも
)
りだらう。
083
今日
(
こんにち
)
の
奴
(
やつ
)
は
慈善会
(
じぜんくわい
)
だとか、
084
或
(
あるひ
)
は
孤児院
(
こじゐん
)
だとかぬかして
金
(
かね
)
を
集
(
あつ
)
め、
085
皆
(
みな
)
自分
(
じぶん
)
の
懐中
(
ふところ
)
を
肥
(
こや
)
す
奴
(
やつ
)
許
(
ばか
)
りだ。
086
一旦
(
いつたん
)
泥坊
(
どろばう
)
に
成
(
な
)
り
下
(
さが
)
つた
人足
(
にんそく
)
が、
087
慈善
(
じぜん
)
なんか
夢
(
ゆめ
)
にもあり
相
(
さう
)
な
事
(
こと
)
はないワイ。
088
そんな
偽善者
(
きぜんしや
)
に
宝
(
たから
)
を
持
(
も
)
たしておくと、
089
天下
(
てんか
)
の
宝
(
たから
)
を
悪用
(
あくよう
)
するから、
090
スツパリ
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
せ』
091
ヘル『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがるのだい、
092
汝
(
きさま
)
も
泥坊
(
どろばう
)
ぢやないか、
093
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
すのが
険呑
(
けんのん
)
なら、
094
汝
(
きさま
)
に
渡
(
わた
)
すのも
険呑
(
けんのん
)
だ。
095
サア、
096
早
(
はや
)
く
出
(
だ
)
さぬかい』
097
ベル『ヘン、
098
一旦
(
いつたん
)
懐
(
ふところ
)
へ
捻
(
ね
)
ぢ
込
(
こ
)
んだ
以上
(
いじやう
)
はメツタに
渡
(
わた
)
さないぞ。
099
第一
(
だいいち
)
黄金
(
こがね
)
や
宝石
(
はうせき
)
は
此
(
この
)
ベルのテースト
物
(
ぶつ
)
だから、
100
仮令
(
たとへ
)
命
(
いのち
)
が
亡
(
な
)
くなつても
渡
(
わた
)
す
気遣
(
きづか
)
ひがないワ。
101
グヅグヅぬかすと、
102
汝
(
きさま
)
の
命
(
いのち
)
も
取
(
と
)
つてやらうか、
103
さすれば
全部
(
ぜんぶ
)
俺
(
おれ
)
の
懐
(
ふところ
)
へ
這入
(
はい
)
るのだからなア』
104
ヘル『
何
(
なに
)
猪口才
(
ちよこざい
)
な、
105
美事
(
みごと
)
取
(
と
)
るなら
取
(
と
)
つてみよ、
106
俺
(
おれ
)
も
汝
(
きさま
)
の
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つて、
107
此
(
この
)
宝石
(
はうせき
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
私有物
(
しいうぶつ
)
となし、
108
ハルナの
都
(
みやこ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて、
109
天晴
(
あつぱ
)
れ
紳士
(
しんし
)
となる
積
(
つもり
)
だ。
110
そして
多額
(
たがく
)
納税
(
なふぜい
)
議員
(
ぎゐん
)
にでもなつて
巾
(
はば
)
を
利
(
き
)
かす
積
(
つもり
)
だ。
111
台泥
(
だいどろ
)
でさへも
衆議院
(
しうぎゐん
)
議員
(
ぎゐん
)
に
当選
(
たうせん
)
した
例
(
ためし
)
があるぢやないか。
112
渇
(
かつ
)
しても
盗泉
(
たうせん
)
の
水
(
みづ
)
を
呑
(
の
)
まずとは、
113
昔
(
むかし
)
の
奴
(
やつ
)
のほざく
言葉
(
ことば
)
だ。
114
俺
(
おれ
)
は
之
(
これ
)
から
逐鹿
(
ちくろく
)
場裡
(
ぢやうり
)
に
立
(
た
)
つて、
115
此
(
この
)
金
(
かね
)
を
撒
(
ま
)
き
散
(
ち
)
らし、
116
社会
(
しやくわい
)
の
優者
(
いうしや
)
となる
考
(
かんが
)
へだから、
117
其
(
その
)
第一
(
だいいち
)
着手
(
ちやくしゆ
)
として、
118
汝
(
きさま
)
の
所持品
(
しよぢひん
)
をスツカリ
取
(
と
)
つてやるのだ。
119
汝
(
きさま
)
の
物
(
もの
)
を
奪
(
と
)
つた
所
(
ところ
)
で
別
(
べつ
)
に
罪
(
つみ
)
にもなるまい。
120
又
(
また
)
命
(
いのち
)
を
取
(
と
)
つた
所
(
ところ
)
で
元々
(
もともと
)
だ。
121
汝
(
きさま
)
の
死
(
し
)
んでる
所
(
ところ
)
を
助
(
たす
)
けたのだから……』
122
ベル『コラ、
123
汝
(
きさま
)
は
宝
(
たから
)
をみると
俄
(
にはか
)
に
噪
(
はしや
)
ぎやがるのだ。
124
汝
(
きさま
)
は
已
(
すで
)
に
改心
(
かいしん
)
したと
云
(
い
)
つたぢやないか』
125
ヘル『きまつた
事
(
こと
)
だい、
126
つまらぬ
時
(
とき
)
には
誰
(
たれ
)
だつて
改心
(
かいしん
)
するが、
127
宝
(
たから
)
を
見
(
み
)
て
改心
(
かいしん
)
する
奴
(
やつ
)
があるかい。
128
サア
腕
(
うで
)
づくで
之
(
これ
)
から
奪
(
と
)
り
合
(
あひ
)
だ』
129
ベル『ヨーシ、
130
面白
(
おもしろ
)
い、
131
見事
(
みごと
)
取
(
と
)
つてみせう』
132
と
両方
(
りやうはう
)
から
四股
(
しこ
)
を
踏
(
ふ
)
み、
133
手
(
て
)
に
唾
(
つばき
)
し
乍
(
なが
)
ら、
134
辻相撲
(
つじずまう
)
を
取
(
と
)
るやうな
調子
(
てうし
)
で、
135
四
(
よ
)
つにからみ、
136
組
(
く
)
んづ
組
(
く
)
まれつ
転
(
ころ
)
げ
廻
(
まは
)
る。
137
互
(
たがひ
)
に
固
(
かた
)
い
爪
(
つめ
)
で
目
(
め
)
をひつかく、
138
鼻
(
はな
)
を
削
(
けづ
)
る、
139
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
面
(
つら
)
も
血達磨
(
ちだるま
)
の
様
(
やう
)
になつて
格闘
(
かくとう
)
を
始
(
はじ
)
め
双方
(
さうはう
)
共
(
とも
)
、
140
グニヤグニヤになり
半死
(
はんし
)
半生
(
はんしやう
)
の
態
(
てい
)
で、
141
其
(
その
)
場
(
ば
)
にドツカと
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
142
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
は
夜嵐
(
よあらし
)
につれて、
143
千切
(
ちぎ
)
れ
千切
(
ちぎ
)
れに
遠
(
とほ
)
く
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る、
144
之
(
これ
)
は
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
、
145
ケリナ
姫
(
ひめ
)
が
夜道
(
よみち
)
を
急
(
いそ
)
ぎ
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
行進
(
かうしん
)
しつつ
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
であつた。
146
求道
(
きうだう
)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
147
善神
(
ぜんしん
)
邪神
(
じやしん
)
を
立分
(
たてわ
)
ける
148
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
149
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
150
只
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
151
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
152
世
(
よ
)
の
過
(
あやまち
)
は
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
153
ここは
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふフサの
国
(
くに
)
154
御空
(
みそら
)
は
高
(
たか
)
く
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
155
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
はキラキラと
156
輝
(
かがや
)
き
玉
(
たま
)
ひ
吾々
(
われわれ
)
が
157
淋
(
さび
)
しき
野路
(
のぢ
)
を
帰
(
かへ
)
りゆく
158
行手
(
ゆくて
)
を
照
(
て
)
らさせ
玉
(
たま
)
ふなり
159
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
160
三五教
(
あななひけう
)
を
守
(
まも
)
ります
161
高天原
(
たかあまはら
)
の
霊国
(
れいごく
)
の
162
珍
(
うづ
)
の
司
(
つかさ
)
と
現
(
あ
)
れませる
163
稜威
(
みいづ
)
も
殊
(
こと
)
に
大八洲
(
おほやしま
)
彦
(
ひこ
)
164
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
165
忽
(
たちま
)
ち
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
りまし
166
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
危難
(
きなん
)
をば
167
救
(
すく
)
はせ
玉
(
たま
)
ひ
久方
(
ひさかた
)
の
168
天
(
あま
)
つ
御空
(
みそら
)
に
輝
(
かがや
)
きつ
169
帰
(
かへ
)
り
玉
(
たま
)
ひし
尊
(
たふと
)
さよ
170
バラモン
教
(
けう
)
のカーネルと
171
選
(
えら
)
ばれハルナを
立出
(
たちい
)
でて
172
鬼春別
(
おにはるわけ
)
や
久米彦
(
くめひこ
)
の
173
両将軍
(
りやうしやうぐん
)
に
従
(
したが
)
ひつ
174
山野
(
さんや
)
を
渡
(
わた
)
り
河
(
かは
)
を
越
(
こ
)
え
175
雨
(
あめ
)
には
浴
(
よく
)
し
荒風
(
あらかぜ
)
に
176
髪
(
かみ
)
梳
(
くしけ
)
ずりやうやくに
177
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
麓
(
ふもと
)
まで
178
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
179
至善
(
しぜん
)
至愛
(
しあい
)
の
大神
(
おほかみ
)
は
180
善
(
ぜん
)
をば
助
(
たす
)
け
悪神
(
あくがみ
)
を
181
懲
(
こらし
)
め
玉
(
たま
)
ふか
吾々
(
われわれ
)
の
182
率
(
ひき
)
ゆる
軍
(
いくさ
)
は
悉
(
ことごと
)
く
183
治国別
(
はるくにわけ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
184
打亡
(
うちほろ
)
ぼされ
這々
(
はふはふ
)
の
185
態
(
てい
)
にて
脆
(
もろ
)
くも
敗走
(
はいそう
)
し
186
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
やビクトリヤ
187
猪倉山
(
ゐのくらやま
)
にチクチクと
188
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
し
189
三千
(
さんぜん
)
余
(
よ
)
騎
(
き
)
を
従
(
したが
)
へて
190
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
191
千代
(
ちよ
)
の
固
(
かた
)
めと
立籠
(
たてこ
)
もる
192
又
(
また
)
もや
来
(
きた
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
193
治国別
(
はるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
に
194
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
諭
(
さと
)
されて
195
曇
(
くも
)
りし
胸
(
むね
)
も
漸
(
やうや
)
くに
196
黎明
(
れいめい
)
告
(
つ
)
ぐる
鶏
(
とり
)
の
声
(
こゑ
)
197
旭
(
あさひ
)
の
豊栄
(
とよさか
)
昇
(
のぼ
)
る
如
(
ごと
)
198
霊
(
みたま
)
もあかくなりにけり
199
鬼春別
(
おにはるわけ
)
を
初
(
はじめ
)
とし
200
久米彦
(
くめひこ
)
スパール
両司
(
りやうつかさ
)
201
手
(
て
)
もなく
神
(
かみ
)
の
正道
(
まさみち
)
に
202
帰順
(
きじゆん
)
されたる
不思議
(
ふしぎ
)
さに
203
吾
(
われ
)
も
心
(
こころ
)
を
翻
(
ひるがへ
)
し
204
バラモン
教
(
けう
)
の
御教
(
みをしへ
)
は
205
げに
美
(
うる
)
はしき
道
(
みち
)
なれど
206
不言
(
ふげん
)
実行
(
じつかう
)
と
知
(
し
)
りしより
207
すまぬ
事
(
こと
)
とは
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら
208
掌
(
て
)
の
裏
(
うら
)
返
(
かへ
)
す
藤堂
(
とうだう
)
式
(
しき
)
209
忽
(
たちま
)
ち
味方
(
みかた
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
に
210
鉾
(
ほこ
)
を
向
(
む
)
けたる
果敢
(
はか
)
なさよ
211
さはさり
乍
(
なが
)
ら
天地
(
あめつち
)
の
212
誠
(
まこと
)
に
敵
(
てき
)
する
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
ず
213
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
214
言
(
い
)
ひ
訳
(
わけ
)
立
(
た
)
たずと
意
(
い
)
を
決
(
けつ
)
し
215
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
216
たるを
憚
(
はばか
)
り
中間
(
ちうかん
)
の
217
法螺
(
ほら
)
吹立
(
ふきた
)
てる
修験者
(
しゆげんじや
)
218
墨
(
すみ
)
の
衣
(
ころも
)
に
身
(
み
)
を
纒
(
まと
)
ひ
219
頭
(
あたま
)
を
円
(
まる
)
く
剃
(
そ
)
りこぼち
220
百
(
もも
)
の
罪
(
つみ
)
をば
消滅
(
せうめつ
)
し
221
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
に
三五
(
あななひ
)
の
222
誠
(
まこと
)
を
尽
(
つく
)
し
奉
(
まつ
)
らむと
223
照国山
(
てるくにやま
)
の
谷間
(
たにあひ
)
に
224
百日
(
ももか
)
百夜
(
ももよ
)
の
荒行
(
あらぎやう
)
を
225
勤
(
つと
)
めて
遂
(
つひ
)
にビクトルの
226
山
(
やま
)
にまします
大神
(
おほかみ
)
に
227
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
仕
(
つか
)
へつつ
228
ゼネラル
様
(
さま
)
の
許
(
ゆる
)
しをば
229
蒙
(
かうむ
)
り
茲
(
ここ
)
に
宣伝
(
せんでん
)
の
230
漸
(
やうや
)
く
旅路
(
たびぢ
)
につきにけり
231
エルシナ
川
(
がは
)
の
畔
(
ほとり
)
迄
(
まで
)
232
スタスタ
来
(
きた
)
り
谷底
(
たにそこ
)
を
233
見下
(
みおろ
)
す
途端
(
とたん
)
に
訝
(
いぶ
)
かしや
234
渦
(
うづ
)
まく
淵
(
ふち
)
に
浮
(
うか
)
びゐる
235
四
(
よ
)
人
(
にん
)
のコルプス
見
(
み
)
るよりも
236
見逃
(
みのが
)
しならぬ
修験者
(
しゆげんじや
)
237
神
(
かみ
)
に
祈
(
いの
)
りて
助
(
たす
)
けむと
238
危
(
あやふ
)
き
路
(
みち
)
を
谷底
(
たにそこ
)
に
239
降
(
くだ
)
りてやうやう
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
240
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
け
喜
(
よろこ
)
びて
241
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
を
打
(
うち
)
わたり
242
ここ
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
りけり
243
道
(
みち
)
の
行手
(
ゆくて
)
に
諸々
(
もろもろ
)
の
244
悩
(
なや
)
みに
会
(
あ
)
ひて
玉
(
たま
)
の
緒
(
を
)
の
245
命
(
いのち
)
も
危
(
あやふ
)
き
所
(
ところ
)
をば
246
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
に
助
(
たす
)
けられ
247
ケリナの
姫
(
ひめ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
248
心
(
こころ
)
勇
(
いさ
)
みてテルモンの
249
山
(
やま
)
に
現
(
あ
)
れます
大神
(
おほかみ
)
の
250
宮居
(
みやゐ
)
をさして
進
(
すす
)
みゆく
251
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
ぞたのもしき
252
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
253
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みのいや
深
(
ふか
)
く
254
教
(
をしへ
)
の
露
(
つゆ
)
の
何処
(
どこ
)
までも
255
青人草
(
あをひとぐさ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
に
256
降
(
ふ
)
らさせ
玉
(
たま
)
へ
月照
(
つきてる
)
の
257
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
258
赤心
(
まごころ
)
籠
(
こ
)
めて
願
(
ね
)
ぎまつる
259
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
260
御霊
(
みたま
)
幸
(
さきは
)
ひましませよ』
261
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
優
(
やさ
)
しき
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げて
又
(
また
)
もや
歌
(
うた
)
ひつつ
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
262
ケリナ『
天津
(
あまつ
)
日
(
ひ
)
かげは
西山
(
せいざん
)
に
263
傾
(
かたむ
)
き
玉
(
たま
)
ひ
東
(
ひむがし
)
の
264
草野
(
くさの
)
を
分
(
わ
)
けて
昇
(
のぼ
)
ります
265
月照彦
(
つきてるひこ
)
の
御光
(
みひかり
)
は
266
草葉
(
くさば
)
の
露
(
つゆ
)
に
悉
(
ことごと
)
く
267
宿
(
やど
)
らせ
玉
(
たま
)
ひて
吾々
(
われわれ
)
が
268
行手
(
ゆくて
)
の
道
(
みち
)
を
守
(
まも
)
ります
269
野山
(
のやま
)
の
猛
(
たけ
)
き
獣
(
けだもの
)
や
270
いと
恐
(
おそ
)
ろしき
毒虫
(
どくむし
)
も
271
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
に
抱
(
いだ
)
かれし
272
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
害
(
そこな
)
ふ
事
(
こと
)
ならず
273
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
ひ
逃
(
に
)
げ
出
(
いだ
)
し
274
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
無事
(
ぶじ
)
にテルモンの
275
父
(
ちち
)
の
館
(
やかた
)
に
久々
(
ひさびさ
)
に
276
帰
(
かへ
)
りゆく
身
(
み
)
となりにけり
277
吾
(
わが
)
足乳根
(
たらちね
)
の
父母
(
ちちはは
)
は
278
変
(
かは
)
らせ
玉
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
もなく
279
神
(
かみ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
朝夕
(
あさゆふ
)
に
280
いと
忠実
(
まめやか
)
に
仕
(
つか
)
へますか
281
恋
(
こひ
)
しき
姉
(
あね
)
のデビス
姫
(
ひめ
)
282
いかに
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
果敢
(
はかな
)
みて
283
暮
(
くら
)
させ
玉
(
たま
)
ふことならむ
284
妾
(
わらは
)
が
今宵
(
こよひ
)
帰
(
かへ
)
りなば
285
父
(
ちち
)
と
母
(
はは
)
とはいふも
更
(
さら
)
286
恋
(
こひ
)
しき
姉
(
あね
)
の
君
(
きみ
)
迄
(
まで
)
も
287
必
(
かなら
)
ず
喜
(
よろこ
)
び
迎
(
むか
)
へ
入
(
い
)
れ
288
吾
(
わが
)
生命
(
せいめい
)
を
救
(
すく
)
ひたる
289
エミシの
君
(
きみ
)
を
尊
(
たふと
)
みて
290
厚
(
あつ
)
く
待遇
(
もてな
)
し
玉
(
たま
)
ふべし
291
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
有難
(
ありがた
)
や
292
恋
(
こひ
)
の
迷
(
まよ
)
ひの
夢
(
ゆめ
)
も
醒
(
さ
)
め
293
心
(
こころ
)
を
月
(
つき
)
に
照
(
て
)
らしつつ
294
夏
(
なつ
)
の
夜路
(
よみち
)
を
帰
(
かへ
)
りゆく
295
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
ぞ
楽
(
たの
)
しけれ
296
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
297
御霊
(
みたま
)
幸
(
さきは
)
ひましませよ
298
旭
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
299
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つ
共
(
とも
)
虧
(
か
)
くる
共
(
とも
)
300
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
む
共
(
とも
)
301
星
(
ほし
)
は
空
(
そら
)
より
墜
(
お
)
つる
共
(
とも
)
302
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
救
(
すく
)
ひ
玉
(
たま
)
ひたる
303
三五教
(
あななひけう
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
304
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
が
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
305
恵
(
めぐみ
)
はいかで
忘
(
わす
)
るまじ
306
命
(
いのち
)
の
親
(
おや
)
の
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
と
307
手
(
て
)
を
携
(
たづさ
)
へて
行
(
ゆ
)
く
野路
(
のぢ
)
は
308
如何
(
いか
)
なる
曲
(
まが
)
の
現
(
あら
)
はれて
309
行手
(
ゆくて
)
にさやる
事
(
こと
)
あるも
310
いかでか
恐
(
おそ
)
れむ
惟神
(
かむながら
)
311
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御守
(
みまも
)
りに
312
いと
安々
(
やすやす
)
と
帰
(
かへ
)
りゆく
313
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
314
御霊
(
みたま
)
幸
(
さきは
)
ひ
玉
(
たま
)
へかし』
315
と
歌
(
うた
)
ひつつ、
316
方岩
(
はこいは
)
の
間近
(
まぢか
)
に
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
317
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
はケリナ
姫
(
ひめ
)
と
共
(
とも
)
に
漸
(
やうや
)
く
方岩
(
はこいは
)
の
傍
(
かたはら
)
に
着
(
つ
)
いた。
318
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
にウンウンと
怪
(
あや
)
しい
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
るのでツと
立止
(
たちど
)
まり、
319
よくよく
見
(
み
)
れば
何者
(
なにもの
)
か
半死
(
はんし
)
半生
(
はんしやう
)
の
態
(
てい
)
で
呻吟
(
うめ
)
いてゐる。
320
求道
(
きうだう
)
『ハテナ、
321
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
人間
(
にんげん
)
が
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
で
倒
(
たふ
)
れてゐるやうだ。
322
大方
(
おほかた
)
最前
(
さいぜん
)
のベル、
323
ヘル
如
(
ごと
)
き
悪人
(
あくにん
)
に
金
(
かね
)
を
奪
(
うば
)
はれた
上
(
うへ
)
、
324
切
(
き
)
られて
苦
(
くるし
)
んでゐるのだらう、
325
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
326
此
(
この
)
儘
(
まま
)
見逃
(
みのが
)
して
通
(
とほ
)
る
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬ。
327
ケリナさま、
328
貴女
(
あなた
)
は
此
(
この
)
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
かけて
待
(
ま
)
つてゐて
下
(
くだ
)
さい、
329
一寸
(
ちよつと
)
査
(
しら
)
べてみますから……』
330
ケリナ『ハイ、
331
妾
(
わたし
)
何
(
なん
)
だか、
332
気
(
き
)
にかかつてなりませぬワ、
333
私
(
わたし
)
の
姉
(
ねえ
)
さまぢや
厶
(
ござ
)
いますまいかな。
334
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
女
(
をんな
)
の
方
(
はう
)
から
査
(
しら
)
べて
下
(
くだ
)
さいませ。
335
此
(
この
)
衣類
(
いるゐ
)
から
考
(
かんが
)
へますれば
女
(
をんな
)
らしう
厶
(
ござ
)
います』
336
求道
(
きうだう
)
は
月
(
つき
)
にピカピカ
光
(
ひか
)
つてゐる
衣装
(
いしやう
)
を
目当
(
めあて
)
に
近
(
ちか
)
よつて
見
(
み
)
れば、
337
耳
(
みみ
)
から
多量
(
たりやう
)
の
血糊
(
ちのり
)
を
出
(
だ
)
し、
338
妙齢
(
めうれい
)
の
女
(
をんな
)
が
倒
(
たふ
)
れてゐた。
339
求道
(
きうだう
)
『ああこれはどこかの
貴婦人
(
きふじん
)
だ。
340
一通
(
ひととほり
)
の
家
(
いへ
)
の
娘
(
むすめ
)
ではないやうだ。
341
コレ、
342
ケリナさま、
343
一寸
(
ちよつと
)
来
(
き
)
て
御覧
(
ごらん
)
、
344
此
(
この
)
衣装
(
いしやう
)
と
云
(
い
)
ひ、
345
どうも
浄行
(
じやうぎやう
)
の
嬢
(
ぢやう
)
さまらしう
厶
(
ござ
)
いますよ』
346
ケリナはハツと
胸
(
むね
)
を
轟
(
とどろ
)
かし
乍
(
なが
)
ら、
347
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
寄添
(
よりそ
)
ひ、
348
よくよく
顔
(
かほ
)
をみれば、
349
擬
(
まが
)
ふ
方
(
かた
)
なき
姉
(
あね
)
のデビスであつた。
350
ケリナは
見
(
み
)
るよりアツと
許
(
ばか
)
りに
仰天
(
ぎやうてん
)
し、
351
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
倒
(
たふ
)
れて
了
(
しま
)
つた。
352
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
は
驚
(
おどろ
)
いて、
353
四辺
(
あたり
)
に
光
(
ひか
)
る
水
(
みづ
)
を
掬
(
すく
)
ひ、
354
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
にケリナの
面部
(
めんぶ
)
に
注
(
そそ
)
ぎ
漸
(
やうや
)
くにして
呼生
(
よびい
)
け、
355
ヘタヘタになつてゐる
姫
(
ひめ
)
を
方岩
(
はこいは
)
の
上
(
うへ
)
に
運
(
はこ
)
びおき、
356
自分
(
じぶん
)
の
蓑
(
みの
)
を
布
(
し
)
いて、
357
其
(
その
)
上
(
うへ
)
に
寝
(
ね
)
させ、
358
デビスの
介抱
(
かいはう
)
にかかつた。
359
デビスはウンと
息
(
いき
)
吹返
(
ふきかへ
)
し、
360
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
まはし
乍
(
なが
)
ら
修験者
(
しゆげんじや
)
の
姿
(
すがた
)
を、
361
不思議
(
ふしぎ
)
相
(
さう
)
に
凝視
(
みつめ
)
てゐる。
362
求道
(
きうだう
)
はヤツと
安心
(
あんしん
)
して、
363
求道
(
きうだう
)
『モシモシ、
364
貴女
(
あなた
)
はテルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
に
坐
(
ま
)
します
小国別
(
をくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
嬢
(
ぢやう
)
さまぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか。
365
拙者
(
せつしや
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
修験者
(
しゆげんじや
)
エミシで
厶
(
ござ
)
います。
366
決
(
けつ
)
して
悪
(
わる
)
い
者
(
もの
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いませぬから、
367
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ』
368
デビスは
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
を
聞
(
き
)
いて
安心
(
あんしん
)
し、
369
頭部
(
とうぶ
)
の
痛
(
いた
)
みを
抑
(
おさ
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
370
デビス『どうも
危
(
あやふ
)
い
所
(
ところ
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいまして、
371
此
(
この
)
御恩
(
ごおん
)
は
海山
(
うみやま
)
にも
譬
(
たと
)
へ
難
(
がた
)
う
存
(
ぞん
)
じます。
372
悪者
(
わるもの
)
に
出会
(
でつくは
)
し、
373
頭部
(
とうぶ
)
を
擲
(
なぐ
)
りつけられ、
374
気
(
き
)
が
遠
(
とほ
)
くなつて
居
(
を
)
りました。
375
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
がお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さらなかつたら、
376
妾
(
わらは
)
は
最早
(
もはや
)
千秋
(
せんしう
)
の
恨
(
うらみ
)
を
呑
(
の
)
んで
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
去
(
さ
)
つたに
違
(
ちが
)
ひありませぬ、
377
どうも
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
いました。
378
ああバラモン
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
、
379
よくマア
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
380
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸
(
ち
)
はひませ』
381
と
合掌
(
がつしやう
)
してゐる。
382
ケリナ
姫
(
ひめ
)
は
姉
(
あね
)
のデビスと
聞
(
き
)
いて
嬉
(
うれ
)
しさに
堪
(
た
)
へず、
383
方岩
(
はこいは
)
から
下
(
くだ
)
り
来
(
きた
)
つて、
384
デビスの
手
(
て
)
を
執
(
と
)
り、
385
涙
(
なみだ
)
の
声
(
こゑ
)
を
絞
(
しぼ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
386
ケリナ『
姉上
(
あねうへ
)
様
(
さま
)
、
387
お
懐
(
なつか
)
しう
存
(
ぞん
)
じます、
388
私
(
わたし
)
は
妹
(
いもうと
)
のケリナで
厶
(
ござ
)
います。
389
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
様
(
さま
)
や
姉上
(
あねうへ
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
をかけまして
誠
(
まこと
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
が
厶
(
ござ
)
いませぬ。
390
何卒
(
どうぞ
)
お
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
391
そして
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
は
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
でゐられますかな』
392
と
畳
(
たた
)
みかけて
問
(
と
)
ひかけた。
393
デビス
姫
(
ひめ
)
は
頭
(
かしら
)
がフラフラとしてややもすれば
気
(
き
)
が
遠
(
とほ
)
くなり
行
(
ゆ
)
くのをキツと
気
(
き
)
を
張
(
は
)
りつめて、
394
妹
(
いもうと
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り、
395
デビス『ああ
恋
(
こひ
)
しき
妹
(
いもうと
)
であつたか、
396
不思議
(
ふしぎ
)
な
所
(
ところ
)
で
会
(
あ
)
ひました。
397
ようマア
無事
(
ぶじ
)
でゐて
下
(
くだ
)
さいました。
398
モウ
之
(
これ
)
で
私
(
わたし
)
は
命
(
いのち
)
が
亡
(
な
)
くなつても、
399
あなたの
顔
(
かほ
)
さへ
見
(
み
)
れば
得心
(
とくしん
)
で
厶
(
ござ
)
います』
400
ケリナ『お
姉様
(
あねえさま
)
、
401
気
(
き
)
を
確
(
たしか
)
に
持
(
も
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ。
402
そんな
心細
(
こころぼそ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
はない
様
(
やう
)
に
頼
(
たの
)
みます。
403
さぞエライお
怪我
(
けが
)
でお
苦
(
くる
)
しう
厶
(
ござ
)
いませうが
之
(
これ
)
から
私
(
わたし
)
が
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
り、
404
心
(
こころ
)
限
(
かぎ
)
りの
御
(
ご
)
介抱
(
かいはう
)
を
申上
(
まをしあ
)
げますから
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
なさいませ。
405
キツと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
で
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
なさいますからな。
406
貴方
(
あなた
)
は
今
(
いま
)
此
(
この
)
修験者
(
しゆげんじや
)
に
助
(
たす
)
けられたのですよ。
407
私
(
わたし
)
も
此
(
この
)
お
方
(
かた
)
に
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けられ、
408
今送
(
いまおく
)
つて
戴
(
いただ
)
いて、
409
御
(
ご
)
両親
(
りやうしん
)
の
館
(
やかた
)
へ
帰
(
かへ
)
る
途中
(
とちう
)
で
厶
(
ござ
)
います。
410
どうしてマアこんな
惨酷
(
むごたら
)
しい
目
(
め
)
にお
会
(
あ
)
ひなさつたので
厶
(
ござ
)
いますか』
411
デビス『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
のお
宝
(
たから
)
、
412
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
神宝
(
しんぱう
)
が
紛失
(
ふんしつ
)
致
(
いた
)
しまして、
413
それが
為
(
ため
)
に
父上
(
ちちうへ
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
414
病気
(
びやうき
)
に
取
(
と
)
りつかれ、
415
御
(
ご
)
老体
(
らうたい
)
の
事
(
こと
)
とて、
416
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
病
(
やまひ
)
は
重
(
おも
)
る
許
(
ばか
)
り、
417
そこへあなたの
行方
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
らなくなつたものですから、
418
益々
(
ますます
)
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
を
遊
(
あそ
)
ばし……
私
(
わし
)
はとても
命
(
いのち
)
は
長持
(
ながも
)
てはせないが、
419
せめて
生前
(
せいぜん
)
にケリナに
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
うて
死
(
し
)
にたいものだ……とお
歎
(
なげ
)
き
遊
(
あそ
)
ばすので、
420
私
(
わたし
)
は
立
(
た
)
つてもゐてもをれなくなり、
421
今日
(
けふ
)
で
三七
(
さんしち
)
廿一
(
にじふいち
)
日
(
にち
)
の
間
(
あひだ
)
、
422
国人
(
くにびと
)
が
恐
(
おそ
)
れて
昼
(
ひる
)
さへも、
423
よう
近
(
ちか
)
づかない、
424
魔
(
ま
)
の
山
(
やま
)
と
称
(
とな
)
へられてるスガの
山
(
やま
)
の
森林
(
しんりん
)
に
通
(
かよ
)
ひ、
425
アン・ブラツクの
滝
(
たき
)
にかかつて、
426
荒行
(
あらぎやう
)
をすませ、
427
今日
(
けふ
)
は
行
(
ぎやう
)
のあがりで、
428
此処
(
ここ
)
迄
(
まで
)
やつと
帰
(
かへ
)
り、
429
方岩
(
はこいは
)
の
上
(
うへ
)
で
満願
(
まんぐわん
)
の
御
(
お
)
礼
(
れい
)
や
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
めてゐる
最中
(
さいちう
)
、
430
二人
(
ふたり
)
の
悪者
(
わるもの
)
が
現
(
あら
)
はれて、
431
こんな
目
(
め
)
にあはしたので
厶
(
ござ
)
いますよ。
432
ああ
修験者
(
しゆげんじや
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
、
433
妹
(
いもうと
)
が
助
(
たす
)
けられ、
434
私
(
わたし
)
迄
(
まで
)
が
助
(
たす
)
けられたとは、
435
何
(
なん
)
たる
深
(
ふか
)
い
因縁
(
いんねん
)
で
厶
(
ござ
)
いませう。
436
修験者
(
しゆげんじや
)
様
(
さま
)
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
437
茅屋
(
あばらや
)
なれど、
438
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
439
緩
(
ゆつく
)
り
御
(
ご
)
逗留
(
とうりう
)
下
(
くだ
)
さいませ。
440
定
(
さだ
)
めて
両親
(
りやうしん
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
441
数多
(
あまた
)
の
役員
(
やくゐん
)
や
信者
(
しんじや
)
も
喜
(
よろこ
)
ぶことで
厶
(
ござ
)
いませう』
442
求道
(
きうだう
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います、
443
申上
(
まをしあ
)
げたい
事
(
こと
)
は
海山
(
うみやま
)
厶
(
ござ
)
いますが、
444
貴女
(
あなた
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
負傷
(
ふしやう
)
をしてゐられますから、
445
お
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませ、
446
種々
(
いろいろ
)
の
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かせては、
447
却
(
かへ
)
つてお
障
(
さはり
)
になりますから
御
(
ご
)
全快
(
ぜんくわい
)
の
後
(
のち
)
緩
(
ゆつく
)
りと
申上
(
まをしあ
)
げます。
448
何卒
(
どうぞ
)
気
(
き
)
を
緩
(
ゆつく
)
りと
落着
(
おちつ
)
けて
下
(
くだ
)
さいませ』
449
デビス『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います、
450
何分
(
なにぶん
)
宜
(
よろ
)
しうお
願
(
ねがひ
)
申
(
まを
)
します』
451
ケリナ『お
姉
(
あねえ
)
さま、
452
あなたを
苦
(
くるし
)
めた
奴
(
やつ
)
は
此処
(
ここ
)
に
倒
(
たふ
)
れてゐる
両人
(
りやうにん
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬか』
453
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
にデビス
姫
(
ひめ
)
は
後
(
あと
)
振返
(
ふりかへ
)
りみれば、
454
以前
(
いぜん
)
の
悪者
(
わるもの
)
が
二人
(
ふたり
)
大
(
だい
)
の
字
(
じ
)
になつて
唸
(
うな
)
つてゐる。
455
デビス『ああ
此
(
この
)
賊
(
ぞく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
456
鬼春別
(
おにはるわけ
)
将軍
(
しやうぐん
)
だと
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
いて
居
(
を
)
りましたが、
457
どうで
碌
(
ろく
)
な
奴
(
やつ
)
ぢや
厶
(
ござ
)
いますまい』
458
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
に
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
はハツと
胸
(
むね
)
を
躍
(
をど
)
らせ、
459
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
460
求道
(
きうだう
)
『ハテさて
浅
(
あさ
)
ましい
事
(
こと
)
だ、
461
ゼネラル
様
(
さま
)
は
又
(
また
)
もや
邪道
(
じやだう
)
に
逆転
(
ぎやくてん
)
遊
(
あそ
)
ばしたのかなア。
462
何
(
どう
)
した
悪魔
(
あくま
)
が
魅入
(
みい
)
れたのだらう。
463
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
464
実否
(
じつぴ
)
を
査
(
しら
)
べてみよう』
465
と
心
(
こころ
)
に
囁
(
ささや
)
き
乍
(
なが
)
ら、
466
よくよく
見
(
み
)
れば、
467
以前
(
いぜん
)
のベル、
468
ヘルの
両人
(
りやうにん
)
であつた。
469
求道
(
きうだう
)
『ああ
此奴
(
こいつ
)
は、
470
ケリナさま、
471
最前
(
さいぜん
)
吾々
(
われわれ
)
を
殺
(
ころ
)
さうとしたベル、
472
ヘルの
両人
(
りやうにん
)
です。
473
テもさても
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
ですなア』
474
ケリナ『
何
(
なん
)
と
呆
(
あき
)
れた
者
(
もの
)
ですなア。
475
併
(
しか
)
し
何程
(
なにほど
)
悪人
(
あくにん
)
だとて、
476
此
(
この
)
儘
(
まま
)
放
(
ほ
)
つておけば
死
(
し
)
んで
了
(
しま
)
ひますから、
477
助
(
たす
)
けておやりなさいますでせうなア』
478
求道
(
きうだう
)
『
尤
(
もつと
)
もです、
479
何程
(
なにほど
)
悪人
(
あくにん
)
でも
見捨
(
みす
)
てて
行
(
ゆ
)
く
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きませぬ。
480
吾々
(
われわれ
)
が
悪人
(
あくにん
)
か、
481
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
が
悪人
(
あくにん
)
か、
482
到底
(
たうてい
)
人間
(
にんげん
)
では
分
(
わか
)
りませぬ。
483
仁慈
(
じんじ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
心
(
こころ
)
を
矯直
(
ためなほ
)
さむと、
484
此
(
これ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
をお
使
(
つか
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばし、
485
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
は
此
(
この
)
やうなものだとお
示
(
しめ
)
しになつてるのかも
知
(
し
)
れませぬ。
486
此
(
これ
)
等
(
ら
)
両人
(
りやうにん
)
を
使
(
つか
)
つて、
487
吾々
(
われわれ
)
に
苦集
(
くしふ
)
滅道
(
めつだう
)
の
真諦
(
しんたい
)
をお
示
(
しめ
)
しになつたのかも
知
(
し
)
れませぬ。
488
さうすれば
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
絶好
(
ぜつかう
)
唯一
(
ゆゐいつ
)
のお
師匠
(
ししやう
)
様
(
さま
)
と
思
(
おも
)
はねばなりませぬ。
489
ああ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
490
と
水
(
みづ
)
をくくんで、
491
両人
(
りやうにん
)
の
介抱
(
かいはう
)
を
懇切
(
こんせつ
)
にやつてゐる。
492
漸
(
やうや
)
くにして
二人
(
ふたり
)
は
気
(
き
)
がついて
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
493
血
(
ち
)
みどろの
体
(
からだ
)
を
曝
(
さら
)
して、
494
求道
(
きうだう
)
の
前
(
まへ
)
に
両手
(
りやうて
)
を
突
(
つ
)
き
自分
(
じぶん
)
の
不都合
(
ふつがふ
)
を
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
謝罪
(
しやざい
)
した。
495
求道
(
きうだう
)
は
二人
(
ふたり
)
の
心
(
こころ
)
を
憐
(
あは
)
れみ、
496
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
祈願
(
きぐわん
)
を
籠
(
こ
)
め、
497
懐
(
ふところ
)
より、
498
照国山
(
てるくにやま
)
の
渓間
(
たにま
)
にて
採取
(
さいしゆ
)
したる
石綿
(
いしわた
)
[
※
この石綿はアスベストのことではなくオニフスベというキノコだと思われる。止血作用がある
]
を
取出
(
とりいだ
)
し、
499
血糊
(
ちのり
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ
取
(
と
)
り
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
二三回
(
にさんくわい
)
繰返
(
くりかへ
)
した。
500
ヘルは
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
501
ヘル『
貴方
(
あなた
)
は
求道
(
きうだう
)
様
(
さま
)
で
厶
(
ござ
)
いましたか。
502
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
頂
(
いただ
)
き
乍
(
なが
)
ら、
503
自我心
(
じがしん
)
の
欲
(
よく
)
にからまれ、
504
こんな
不心得
(
ふこころえ
)
な
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました。
505
之
(
これ
)
は
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
の
衣装
(
いしやう
)
からぼつたくつた
宝玉
(
はうぎよく
)
で
厶
(
ござ
)
います。
506
スツパリお
返
(
かへ
)
し
申
(
まを
)
します。
507
何卒
(
どうぞ
)
之
(
これ
)
をお
受取
(
うけと
)
り
下
(
くだ
)
さいませ』
508
と
懐
(
ふところ
)
から
差出
(
さしだ
)
すを、
509
ベルは
目敏
(
めざと
)
く
眺
(
なが
)
め、
510
横合
(
よこあひ
)
からグツと
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り
懐
(
ふところ
)
に
捻
(
ね
)
ぢ
込
(
こ
)
み、
511
足
(
あし
)
をチガチガさせ、
512
丈余
(
ぢやうよ
)
も
伸
(
の
)
びた
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
し、
513
何処
(
いづく
)
ともなく
消
(
き
)
えて
了
(
しま
)
つた。
514
求道
(
きうだう
)
居士
(
こじ
)
はヘルの
背中
(
せなか
)
にデビス
姫
(
ひめ
)
を
負
(
お
)
はせ、
515
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
乍
(
なが
)
らケリナと
共
(
とも
)
に
後先
(
あとさき
)
になつて、
516
月夜
(
つきよ
)
の
露路
(
つゆみち
)
を
踏
(
ふ
)
み
分
(
わ
)
け、
517
テルモン
山
(
ざん
)
の
神館
(
かむやかた
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
となつた。
518
(
大正一二・三・一七
旧二・一
於竜宮館
松村真澄
録)
Δこのページの一番上に戻るΔ
<<< 不動滝
(B)
(N)
猫背 >>>
霊界物語
>
第56巻
> 第3篇 月照荒野 > 第14章 方岩
Tweet
目で読むのに疲れたら耳で聴こう!霊界物語の朗読ユーチューブ
逆リンク(このページにリンクが張られているページ)
石綿で血を止める?? | 飯塚弘明.com
オニド関連サイト
最新更新情報
10/22
【霊界物語ネット】
『
王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)
』をテキスト化しました。
9/18
【
飯塚弘明.com
】
飯塚弘明著『
PTC2 出口王仁三郎の霊界物語で透見する世界現象 T之巻
』発刊!
5/8
【霊界物語ネット】
霊界物語ネットに出口王仁三郎の
第六歌集『霧の海』
を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【
メールアドレス
】
【14 方岩|第56巻(未の巻)|霊界物語/rm5614】
合言葉「みろく」を入力して下さい→