霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 不臣(ふしん)〔一四四六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第56巻 真善美愛 未の巻 篇:第4篇 三五開道 よみ(新仮名遣い):あなないかいどう
章:第16章 不臣 よみ(新仮名遣い):ふしん 通し章番号:1446
口述日:1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所:竜宮館 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年5月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
朝食が済むと小国姫は三千彦のところにやってきて、テルモン山神館の問題について相談を始めた。この館のバラモン教の神宝である如意宝珠の玉が紛失し、百日以内に取り戻せなければ小国別・小国姫夫婦は死をもってお詫びをしなくてはならないという。
それを苦にして小国別は病に倒れてしまった。また次女のケリナが三年前に駆け落ちしたまま行方不明になり、このことも夫婦の気にかかっているという。小国姫は、これらの問題について神様に祈願し、託宣していただくように依頼した。
三千彦は一週間の時間を約束し、神殿に籠って祈願をこめはじめた。するとスマートの精霊が三千彦にお告げを聞かせはじめた。スマートは、玉国別一行には近いうちにこの館で会えるようになると三千彦を安堵した。そして、如意宝珠の玉は、この神館の家令のせがれのワックスという者が、ある目的のために隠していると託宣した。
スマートは、ワックスが玉を隠していることは小国姫には決して言わず、ただ近いうちに現れると答えるように教えた。また、小国別はもう寿命であること、妹娘のケリナは三五教の修験者に助けられて近いうちに帰ってくることを知らせた。
三千彦は天耳通が開けた者と思って、喜んで大神に感謝し、小国姫の居間に引き返して告げられたように、それぞれの問題の見通しを小国姫に答えた。小国姫は、小国別は残念ながら寿命だが、如意宝珠も妹娘も現れたのを見て国替えすることができる、と聞いて安心した。
そこへ小国別の容態が悪くなったということで、小国姫、三千彦、家令のオールスチンは枕頭に集まった。小国別はしきりに、ワックス、ワックス、と家令の息子の名前を呼んでいる。
小国姫は、何事が小国別とワックスの間にあったか調べるようにオールスチンに命じた。オールスチンは思い当ることがあるように首を傾けながら我が家に戻った。オールスチンが帰ってくると、二三人の人声が聞こえて来る。オールスチンは門の戸にもたれて話の様子を聞いている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考:テルモン山の神館の小国別は、初版では「鬼国別」で、御校正本で「小国別」に直された。なぜか第56巻第16章「不臣」だけは「小国彦」(初版では「鬼国彦」)になっている。この章に4回出る。 タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-10-04 00:19:35 OBC :rm5616
愛善世界社版:231頁 八幡書店版:第10輯 231頁 修補版: 校定版:244頁 普及版:109頁 初版: ページ備考:
001 神殿(しんでん)拝礼(はいれい)(をは)ると(とも)三千彦(みちひこ)小国姫(をくにひめ)居間(ゐま)(せう)ぜられ、002茶菓(さくわ)饗応(きやうおう)()朝飯(あさめし)(いただ)(など)して(くつろ)いでゐる。003朝飯(てうはん)()むと二人(ふたり)侍女(じぢよ)(この)()()()小国姫(をくにひめ)(うれ)(がほ)をし(なが)(あら)はれ(きた)り、
004(ひめ)『アン・ブラツク(さま)005よくまアお()(くだ)さいました。006折入(をりい)つてお(ねがひ)(いた)()(こと)(ござ)いますが、007()いては(くだ)さいますまいかな』
008三千(みち)『ハイ、009(わたし)(ちから)(およ)(こと)ならば如何(いか)なる御用(ごよう)(うけたま)はりませう。010()遠慮(ゑんりよ)なく(おほ)(くだ)さいませ』
011(ひめ)有難(ありがた)(ござ)ります。012早速(さつそく)ながらお(うかが)(いた)しますが、013当館(たうやかた)貴方(あなた)()承知(しようち)(とほ)りバラモン(けう)大棟梁(だいとうりやう)大黒主(おほくろぬし)(かみ)(さま)が、014まだ鬼雲彦(おにくもひこ)(おほ)せられた時分(じぶん)015ここを第一(だいいち)聖場(せいぢやう)とお(さだ)(あそ)ばしたバラモン発祥(はつしやう)旧跡(きうせき)(ござ)います。016吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)()国彦(くにひこ)017国姫(くにひめ)(まを)しましたが、018鬼雲彦(おにくもひこ)(さま)より()()(いただ)いて(いま)小国別(をくにわけ)底本では「小国彦」。他の章ではすべて「小国別」という名前だが、この章だけは何故か「小国彦」になっている。文脈上「小国別」が正しいので修正した。019小国姫(をくにひめ)(まを)して()ります。020()いては当館(たうやかた)重宝(ぢうはう)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)紛失(ふんしつ)(いた)しまして(いま)行衛(ゆくゑ)()れず、021(ひやく)(にち)(あひだ)(この)(たま)発見(はつけん)せなければ吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)()してお(わび)をせなくてはならない運命(うんめい)(おちい)つて()ります。022(わが)(をつと)はそれを()にして大病(たいびやう)(かか)らせ(たま)ひ、023(めい)旦夕(たんせき)(せま)ると()今日(こんにち)場合(ばあひ)(ござ)います。024(わる)(こと)(かさ)なれば(かさ)なるもので、025(いま)より(さん)(ねん)以前(いぜん)妹娘(いもうとむすめ)のケリナと()ふもの、026(あだ)(をとこ)(とも)家出(いへで)(いた)し、027(いま)行衛(ゆくゑ)(わか)らず、028夫婦(ふうふ)心配(しんぱい)(くち)(まを)すやうの(こと)では(ござ)いませぬ。029何卒(どうぞ)()神徳(しんとく)(もつ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)所在(ありか)をお()らせ(くだ)さる(わけ)には(まゐ)りませぬか』
030 三千彦(みちひこ)天眼通(てんがんつう)(ちつ)とも()かないので、031こんな問題(もんだい)提出(ていしゆつ)されても一言(いちごん)(こた)へる(こと)出来(でき)ない。032(しか)(なが)ら、033(なん)とかして(この)()のゴミを(にご)さねばならないと一生(いつしやう)懸命(けんめい)大神(おほかみ)(ねん)(なが)(こと)もなげに(こた)へて()ふ。
034三千(みち)『お(はなし)(うけたま)はれば(じつ)同情(どうじやう)()えませぬ。035(かなら)()心配(しんぱい)なさいますな。036(わたし)がここへ(まゐ)りました以上(いじやう)(かなら)(かみ)(さま)のお(つな)がかかつて引寄(ひきよ)せられたに相違(さうゐ)(ござ)いませぬ。037ここ(いつ)週間(しうかん)(あひだ)()祈念(きねん)(いた)し、038(たま)所在(ありか)(うかが)つてみませう』
039(その)()(のが)れの覚束(おぼつか)なげの挨拶(あいさつ)をして()る。040(おぼ)るる(もの)藁条(わらすべ)一本(いつぽん)にも(たよ)らむとする(たとへ)(ごと)く、041小国姫(をくにひめ)三千彦(みちひこ)言葉(ことば)唯一(ゆゐいつ)(ちから)とし(おほい)(よろこ)んで(ゑみ)(たた)(なが)ら、
042(ひめ)()親切(しんせつ)有難(ありがた)(ござ)います。043何分(なにぶん)(よろ)しうお(ねが)(いた)します。044そして(あつ)かましいお(ねが)ひで(ござ)いますが、045(をつと)病気(びやうき)如何(いかが)(ござ)いませうかな』
046三千(みち)()(いつ)週間(しうかん)心魂(しんこん)()めて(いの)(こと)(いた)しませう。047(かみ)(さま)如何(どう)しても必要(ひつえう)があると思召(おぼしめ)したら(いのち)(たす)けられるでせうし、048(また)霊界(れいかい)にどうしても御用(ごよう)があると思召(おぼしめ)したら(いのち)をお()()りになるでせう。049生死(せいし)問題(もんだい)のみは如何(いかん)ともする(こと)出来(でき)ませぬ。050(これ)(かみ)(さま)にお(まか)せなさるより(ほか)(みち)はありますまい』
051(ひめ)(おほ)せの(ごと)何時(いつ)(わたし)信者(しんじや)生死(せいし)問題(もんだい)()いては、052人間(にんげん)如何(いかん)ともする(ところ)でないと()いて()ますが、053さて自分(じぶん)()(うへ)(くわん)するとなるとツイ愚痴(ぐち)()たり、054(まよ)ふたりしてお(はづか)しき(こと)(ござ)います。055それから、056(ひと)申兼(まをしか)ねますが(むすめ)行衛(ゆくゑ)(ござ)います。057彼娘(あれ)はまだ無事(ぶじ)(この)()(のこ)つて()るでせうか。058(あるひ)悪者(わるもの)()めに(ころ)されたやうな(こと)(ござ)いますまいか。059それ(ばか)りが心配(しんぱい)(たま)りませぬ』
060 三千彦(みちひこ)()れも()れも()加減(かげん)返事(へんじ)はして()れない。061エー、062ままよ、063(いち)(ばち)かと決心(けつしん)して、
064三千(みち)(むすめ)さまの(こと)()心配(しんぱい)なさいますな。065屹度(きつと)(かみ)(さま)のお(めぐみ)(ちか)(うち)無事(ぶじ)にお(かへ)りになります』
066(ひめ)『ハイ、067有難(ありがた)(ござ)ります。068そして(むすめ)今頃(いまごろ)何処(どこ)(くに)()りますか。069一寸(ちよつと)それを()かして(いただ)()いもので(ござ)います』
070 三千彦(みちひこ)はハツと()まり(なが)(きも)()()して、
071三千(みち)『つい(ちか)(ところ)(かく)れて()られます。072まア()心配(しんぱい)なさいますな。073(やが)(かへ)られますから、074(しか)(くは)しい(こと)()神殿(しんでん)(うかが)つて()なくては申上(まをしあげ)()ねますから』
075(ひめ)成程(なるほど)076さうで(ござ)いませう。077何卒(どうぞ)御緩(ごゆつく)りなさいましたら、078一度(いちど)()神勅(しんちよく)(うかが)つて(くだ)さいませ』
079三千(みち)『ハイ、080承知(しようち)(いた)しました。081これから早速(さつそく)(うかが)つて(まゐ)ります。082(しか)(なが)誰方(どなた)もお()でにならぬやうに(ねが)ひます』
083()(のこ)神殿(しんでん)さして(すす)()く。
084 三千彦(みちひこ)神殿(しんでん)(すす)小声(こごゑ)になつて天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)し、085(をは)つて、
086三千(みち)(わたくし)大変(たいへん)難問題(なんもんだい)にぶつつかりました。087(しか)(なが)(いやし)くも三五(あななひ)宣伝使(せんでんし)088()加減(かげん)(こと)(まを)されませぬ。089もし()加減(かげん)(こと)(まを)し、090()けが(あら)はれたなら、091それこそ(かみ)(さま)のお()(けが)し、092()(きみ)(たい)しても相済(あひす)みませぬからハツキリした(こと)を、093ここ(いつ)週間(しうかん)(うち)(わたくし)耳許(みみもと)にお()かせ(くだ)さいますか、094(ただし)(ゆめ)になりと()らして(くだ)さいませ。095そしてなる(こと)なら(わが)()(きみ)所在(ありか)のほどもお(しめ)(ねが)ひます』
096 ()(ねん)じて(しば)らく瞑目(めいもく)して()ると(たちま)背中(せなか)がムクムクと(ふく)()し、097(いぬ)(やう)なものが()ぶさつた(やう)重味(おもみ)(かん)じて姿(すがた)()えねど、098(すこ)(かす)つた(こゑ)耳許(みみもと)(ささや)いた(もの)がある。099(これ)はスマートの精霊(せいれい)三千彦(みちひこ)()(まも)るべく(さと)して()れたのである。100さうして(その)示言(じげん)()(とほ)りであつた。
101精霊(せいれい)三千彦(みちひこ)殿(どの)102其方(そなた)大変(たいへん)心配(しんぱい)(いた)して()るが、103玉国別(たまくにわけ)(さま)一行(いつかう)(やが)(ちか)(うち)(この)(やかた)でお()にかかれるであらう。104そして当館(たうやかた)重宝(ぢうはう)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)家令(かれい)(せがれ)ワツクスと()(もの)(ある)目的(もくてき)のために(かく)して()るのだから、105(これ)(たつた)(いま)(あら)はれるであらう。106(わし)初稚姫(はつわかひめ)身辺(しんぺん)(まも)るスマートと()ふものだが、107小国姫(をくにひめ)(たい)しては(けつ)してワツクスが(かく)して()(など)()つてはなりませぬぞ。108(しか)直様(すぐさま)109(あら)はれる(やう)(いた)すから心配(しんぱい)(いた)すなと()つて()きなさい。110(また)(この)()主人(しゆじん)小国別(をくにわけ)底本では「小国彦」はここ(しば)らくの寿命(じゆみやう)だから、111それは(あきら)める(やう)()ふて()くが()い。112(また)(むすめ)のケリナ(ひめ)三五教(あななひけう)修験者(しゆげんじや)(たす)けられ、113(ちか)(うち)(かへ)つて()る。114(これ)安心(あんしん)するやうに()らしてやりなさい。115(たづ)ねる(こと)は、116もう(これ)でないかな』
117(ちひ)さい(こゑ)(きこ)えて()る。118三千彦(みちひこ)(はじ)めて天耳通(てんじつう)(ひら)けたものと(かんが)へ、119非常(ひじやう)(よろこ)んで大神(おほかみ)感謝(かんしや)し、120莞爾(にこにこ)として小国姫(をくにひめ)居間(ゐま)引返(ひきかへ)した。121小国姫(をくにひめ)三千彦(みちひこ)何処(どこ)ともなく元気(げんき)()ちた顔色(がんしよく)()て、
122(ひめ)『こりや、123(ちつ)有望(いうばう)(ちが)ひない』
124(はや)くも合点(がつてん)し、125さも(うれ)しげに、
126(ひめ)『これはこれはアンブラツク(さま)127()苦労(くらう)(さま)(ござ)いました。128()神徳(しんとく)(たか)貴方(あなた)129(さだ)めし(かみ)(さま)のお()げを直接(ちよくせつ)()きなさいましたでせう。130何卒(どうぞ)(しめ)(くだ)さいませ』
131三千(みち)『イヤ、132さう()められては(おそ)()ります。133(なに)()つてもバラモン(けう)這入(はい)つてから、134(にはか)抜擢(ばつてき)されて宣伝使(せんでんし)になつたものの、135経文(きやうもん)(ろく)にあがりませぬ。136(ただ)信念(しんねん)堅実(けんじつ)()(かど)(もつ)宣伝使(せんでんし)にして(もら)つたのですから、137バラモン(けう)教理(けうり)(すこ)しも(ぞん)じませぬが、138信仰(しんかう)(ちから)によりまして天眼通(てんがんつう)139天耳通(てんじつう)(さづ)けて(いただ)いて()ります。140それで()んな(こと)でも(かがみ)にかけた(ごと)()らして(いただ)けます』
141(ひめ)『イヤ、142結構(けつこう)(ござ)います。143(いま)宣伝使(せんでんし)(むつかし)小理窟(こりくつ)ばかり()つて、144(あさ)から(ばん)まで経文(きやうもん)研究(けんきう)()(くら)し、145肝腎(かんじん)信仰(しんかう)()けて()ますから、146(かみ)(さま)のお取次(とりつぎ)であり(なが)ら、147(ちつ)とも大神(おほかみ)意思(いし)(わか)らないので(ござ)いますよ。148(なに)()つても不言(ふげん)実行(じつかう)結構(けつこう)(ござ)います。149さうして(かみ)(さま)(なん)(おほ)せられましたかな』
150三千(みち)『はい、151明白(はつきり)した(こと)(わか)りませぬが(わたし)のインプレッションに()りますれば、152(この)(やかた)重宝(ぢうはう)(ちか)(うち)にお()這入(はい)ります。153屹度(きつと)(わたし)貴女(あなた)にお手渡(てわた)しをしますから()安心(あんしん)(くだ)さいませ。154さうしてお(ぢやう)さまは()ならずお(かへ)りになります。155(しか)(なが)旦那(だんな)(さま)はお()(どく)ながら天国(てんごく)御用(ごよう)がおありなさるさうだから()づお(あきら)めなさるが(よろ)しからう』
156(ひめ)『どうも有難(ありがた)(ござ)りました。157(かみ)(さま)御用(ごよう)昇天(しようてん)するとあれば()むを()ませぬが、158()(こと)ならば(をつと)生存中(せいぞんちゆう)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)在所(ありか)(わか)り、159(また)(むすめ)(かほ)一目(ひとめ)()()いもので(ござ)いますが、160如何(いかが)(ござ)りませう、161これは(かな)ひますまいかな』
162三千(みち)『イヤ、163()心配(しんぱい)なさいますな。164(これ)屹度(きつと)(あら)はれて(まゐ)ります。165そして()主人(しゆじん)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)()き、166片手(かたて)(ひめ)さまを()いて(よろこ)(いさ)んで国替(くにがへ)をなさいますから、167まア(いち)()(はや)(かみ)(さま)のお繰合(くりあは)せをして(いただ)くやう()祈願(きぐわん)()さいませ。168(わたし)一生(いつしやう)懸命(けんめい)()祈願(きぐわん)(いた)します』
169(ひめ)『ハイ、170有難(ありがた)(ござ)います』
171(うれ)(なみだ)にかき()れる。172()かる(ところ)家令(かれい)のオールスチンは衣紋(えもん)(つくろ)(あら)はれ(きた)り、
173オールス『もし、174奥様(おくさま)175旦那(だんな)(さま)大変(たいへん)(くるし)みで(ござ)います。176そして(おく)()んで()()れと仰有(おつしや)いますから何卒(どうぞ)(はや)(そば)()つて(くだ)さいませ。177(わたくし)宣伝使(せんでんし)のお(そば)にお相手(あひて)(つかまつ)りますから』
178(ひめ)『アン・ブラツク(さま)179(いま)家令(かれい)(まを)した(とほ)り、180主人(しゆじん)()つて()りますから一寸(ちよつと)()つて(まゐ)りますから何卒(どうぞ)御緩(ごゆつく)りとお(やす)(くだ)さいませ』
181()()てて(いそが)しげに(この)()()つて()く。
182 オールスチンは三千彦(みちひこ)(むか)ひ、
183オールス『宣伝使(せんでんし)(さま)184どうも()苦労(くらう)(さま)(ござ)います。185(きき)(およ)びの(とほ)(この)(やかた)には大事(だいじ)突発(とつぱつ)(いた)しまして(うへ)(した)へと(さわ)(まは)つて()ります。186どうか貴方(あなた)()神徳(しんとく)によりまして、187(この)急場(きふば)(のが)れますやうにお(ねが)(いた)()(ござ)います。188そして(かみ)(さま)()神勅(しんちよく)如何(いかが)(ござ)いましたか』
189三千(みち)()心配(しんぱい)なさいますな。190如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)(けつ)して(そと)紛失(ふんしつ)はして()りませぬ。191(この)(やかた)出入(でいり)する相当(さうたう)役員(やくゐん)息子(むすこ)が、192(ある)目的(もくてき)(いだ)いて(たま)(かく)して()ると()(こと)が、193(かみ)(さま)のお()げで(わか)りました。194(やが)()()るで(ござ)いませう』
195オールス『エ、196(なん)仰有(おつしや)ります、197あの如意(によい)宝珠(ほつしゆ)宝玉(はうぎよく)(この)身内(みうち)(もの)(かく)して()ると仰有(おつしや)るのですか。198そして(この)(やかた)出入(でいり)する(おも)なる役員(やくゐん)息子(むすこ)とは(たれ)(ござ)いませう。199参考(さんかう)のためにお()()かして(いただ)()(ござ)いますが……』
200三千(みち)『まだ(わたくし)修行(しゆぎやう)()りませぬので、201(かく)した(ひと)姓名(せいめい)まで明白(はつき)()(こと)出来(でき)ませぬ。202丸顔(まるがほ)色白(いろじろ)(をとこ)だと()(こと)だけは(たしか)(わか)つて()ります』
203オールス『はてなア、204(めう)(こと)()きまする。205(しか)(なが)(たれ)(かく)してあるにせよ、206(これ)(さが)()さねば小国別(をくにわけ)底本では「小国彦」(さま)()(わけ)()たず、207(また)(この)(やかた)役員(やくゐん)(まで)大黒主(おほくろぬし)から(きび)しい(ばつ)()けねばなりませぬ。208そしてその(たま)(ちか)いうちに(あら)はれるで(ござ)いませうか』
209三千(みち)屹度(きつと)(あら)はれます。210()るべく(こと)(おだや)かに()ませ()いと(おも)ひますから、211何卒(どうぞ)秘密(ひみつ)にして()いて(くだ)さいませ。212(たがひ)(きず)がついてはなりませぬからな』
213オールス『成程(なるほど)214仰有(おつしや)(とほ)りで(ござ)います。215こんな(こと)(ほか)()れては一大事(いちだいじ)216(いち)()(はや)(あら)はれますやう、217そして旦那(だんな)(さま)(いち)()(はや)安心(あんしん)()くやう、218(ねが)つて(くだ)さいませ』
219三千(みち)『ハイ、220承知(しようち)(いた)しました』
221 ()かる(ところ)小国姫(をくにひめ)(ふたた)(あら)はれ(きた)り、
222(ひめ)『もし、223宣伝使(せんでんし)(さま)224主人(しゆじん)大変(たいへん)様子(やうす)(わる)うなりましたから、225何卒(どうぞ)(ひと)()祈祷(きとう)をしてやつて(くだ)さいますまいかな』
226三千(みち)『それはお(こま)りです。227(しか)らば(まゐ)りませう』
228()(なが)家令(かれい)(とも)主人(しゆじん)居間(ゐま)(とほ)つた。
229 小国別(をくにわけ)底本では「小国彦」(ねつ)()かされて囈言(うさごと)()つて()る。230そして時々(ときどき)231ワツクス ワツクスと(うめ)いて()る。232ワツクスとは家令(かれい)のオールスチンが息子(むすこ)である。233オールスチンは(これ)()くよりハツと(むね)()で、234俯向(うつむ)いて思案(しあん)()れて()る。235小国姫(をくにひめ)(すこ)しく(こゑ)(とが)らし(なが)ら、
236(ひめ)『これ、237オールスチン、238(いま)旦那(だんな)(さま)夢中(むちう)になつて「ワツクス ワツクス」と仰有(おつしや)るのはお(まへ)(せがれ)()(ちが)ひない。239(なに)旦那(だんな)(さま)(たい)し、240()無礼(ぶれい)(こと)をして()るのではあるまいか。241よく調(しら)べて(くだ)さい。242(この)宣伝使(せんでんし)(さま)にお(たづ)ねすれば(すぐ)(わか)るだらうけれど、243()んな(こと)まで()苦労(くらう)になるのは(おそ)(おほ)(こと)だから、244(まへ)245(こころ)(あた)(こと)があるなら(つつ)まず(かく)さず、246ワツクスの(こと)()いて()べて(くだ)さい』
247オールス『ハイ、248心当(こころあた)りと(まを)しては(なに)(ござ)いませぬが、249()(かく)(うち)(かへ)りまして(せがれ)調(しら)べて()ませう。250(しばら)くお()(くだ)さいませ。251(しか)らば奥様(おくさま)252旦那(だんな)(さま)をお大切(たいせつ)にして(くだ)さいませ。253アンブラツク(さま)254左様(さやう)ならば一寸(ちよつと)(たく)まで(かへ)つて(まゐ)ります。255何卒(どうぞ)(よろ)しうお(ねが)(まを)します』
256言葉(ことば)(のこ)(いそ)(わが)()()して(かへ)()く。
257 オールスチンは(やかた)()でて(わが)()(かへ)(みち)すがら幾度(いくたび)となく吐息(といき)をつき、258何事(なにごと)(こころ)(あた)るものの(ごと)(くび)(かたむ)(なが)ら、259(つゑ)()きトボトボとして(わが)()(かへ)()く。260田圃(たんぼ)稲葉(いなば)(かぜ)(あふ)られてサラサラと(いさ)ましく()つて()る。261(つばめ)前後(ぜんご)左右(さいう)(おさ)をうつ(やう)(くろ)羽根(はね)(あひ)から(しろ)羽毛(うまう)(あら)はし、262(あるひ)(たか)(あるひ)(ひく)大車輪(だいしやりん)活動(くわつどう)稲田(いなだ)(うへ)にやつて()る。263()むたさうに(ふくろ)(こゑ)はホウホウと(いへ)(うしろ)森林(しんりん)から(きこ)えて()る。264オールスチンは(ひそ)かに(わが)()門口(かどぐち)(かへ)つて()ると二三(にさん)(にん)人声(ひとごゑ)(さかん)(きこ)えて()る。265(こころ)にかかるオールスチンは(みみ)をすませて(かど)()(もた)(はなし)様子(やうす)立聞(たちぎ)きし()たりけり。
266大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 北村隆光録)
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