霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 神船(しんせん)〔一四八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻 篇:第2篇 湖上神通 よみ(新仮名遣い):こじょうじんつう
章:第7章 神船 よみ(新仮名遣い):しんせん 通し章番号:1482
口述日:1923(大正12)年03月28日(旧02月12日) 口述場所:皆生温泉 浜屋 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1925(大正14)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玉国別一行は洋々たる湖面を眺めて互いに述懐の歌を歌った。そして五人は湖畔に立ち、いかにしてこの湖水を渡ろうかと当惑していた。
すると一艘の漁船がやってきた。船頭は、三五教徒は乗せてはならいと大黒主のお達しだが、二百両の金をくれるなら渡してやろう、と一向に持ちかけた。一行は仕方なく承諾し、乗船した。
船が岸を離れると、船の底から武装したワックス、エキス、ヘルマン、エルが現れた。彼らは三千彦たちに怨みをはらそうと船頭を買収して計略を企んだのであった。
ワックスは居丈高に、湖上では魔法もきくまいと啖呵をきった。玉国別は平然として天の数歌を奏上し始めた。するとにわかに暴風が起こり、山岳のような波が猛って、敵も味方も船内をごろつきはじめてしまった。
船頭はもんどり打って荒波に投げつけられ、そのまま湖底に沈んで行ってしまった。そこへ一艘の船が近づいてきた。それは三五教の初稚姫が玉国別一行を救うべく用意して駆けつけた船であった。
玉国別一行は、初稚姫の船に手早く乗り移った。初稚姫は船を渡すと、自分はスマートに乗って湖水に飛び込んだ。たちまち湖水は静けさを取り戻し、初稚姫はどこかへ去って行った。ワックスたちの船は船頭を失い、水面にキリキリ舞いをしている。
三千彦、伊太彦は船端を叩きながら愉快気に歌い、意気揚々としてへさきを南に向けて船を走らせる。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm5807
愛善世界社版:85頁 八幡書店版:第10輯 402頁 修補版: 校定版:92頁 普及版:33頁 初版: ページ備考:
001 玉国別(たまくにわけ)一行(いつかう)はテルモン()(ほとり)()いた。002万波(まんぱ)洋々(やうやう)たる(むらさき)水面(すいめん)(あるひ)(たか)(あるひ)(ひく)く、003アンボイナが(つばさ)逆八(さかはち)()(ひろ)げて「大鳥(おほとり)(はね)(いそ)がぬ」と()ふやうな、004鷹揚(おうやう)ぶりを()滑走(くわつそう)して()る。005信天翁(あはうどり)006()(むれ)東西(とうざい)南北(なんぼく)(あるひ)百羽(ひやつぱ)007(あるひ)二百羽(にひやつぱ)密集(みつしふ)して(はね)(いそが)しさうに一直線(いつちよくせん)()んで()る。008水面(すいめん)(ない)だとは()へ、009()()大湖水(だいこすい)010(かす)かに()北風(きたかぜ)(あふ)られて七五三(しちごさん)(なみ)磯辺(いそべ)(つづみ)をうつて()る。011(とほ)()(はな)てば、012白砂(はくしや)青松(せいしよう)(はま)013(ひだり)(はう)(みぎ)(はう)輪廓(りんくわく)(ただ)しく(せん)(そろ)へて()りたてたやうに(なら)んで()壮絶(さうぜつ)快絶(くわいぜつ)014心胆(しんたん)(あら)ふが(ごと)く、015(ひと)(じま)諏訪(すは)(みづうみ)もかくやと(おも)(ばか)りであつた。016玉国別(たまくにわけ)万波(まんぱ)洋々(やうやう)たる湖面(こめん)(なが)めて、
017玉国別(たまくにわけ)()ちよする(なみ)(つづみ)()(きよ)
018(ひび)(わた)れり玉国別(たまくにわけ)(みみ)に。
019湖面(うなばら)(みぎ)(ひだり)()びかひつ
020(うを)(あさ)るか()(とり)幾群(いくむれ)
021三千彦(みちひこ)(みづうみ)岸辺(きしべ)(にほ)燕子花(かきつばた)
022()白浪(しらなみ)(まが)ふべらなり』
023真純彦(ますみひこ)大空(おほぞら)(うみ)(おもて)()みわたる
024(しほ)三千彦(みちひこ)(あは)(かがみ)か』
025伊太彦(いたひこ)見渡(みわた)せば(くも)(かすみ)白浪(しらなみ)
026彼方(あなた)()ゆる(うづ)松原(まつばら)
027デビス(ひめ)(みづ)(おも)(うか)びて(あそ)鴛鴦(をしどり)
028姿(すがた)(なが)めて(こころ)(とどろ)く』
029真純彦(ますみひこ)千代(ちよ)(まで)(ちぎ)言葉(ことば)口籠(くちごも)
030鴛鴦(をし)(つがひ)若夫婦(わかふうふ)かな』
031玉国別(たまくにわけ)斎苑(いそ)(やかた)()()でしより山野原(やまのはら)
032のみ(わた)りたる()には(めづら)し。
033この(うみ)(ひろ)(ふか)くて(きよ)らけき
034姿(すがた)(みづ)御霊(みたま)なるらむ。
035素盞嗚(すさのを)(かみ)(みこと)(いま)一度(いちど)
036これの景色(けしき)をお()にかけたし。
037村肝(むらきも)(こころ)のままになるならば
038この(みづうみ)家苞(いへづと)にせむ。
039皇神(すめかみ)(めぐみ)(ふか)八千尋(やちひろ)
040(そこ)ひも()れぬこれの(みづうみ)
041デビス(ひめ)如何(いか)にして(この)湖水(みづうみ)(わた)らむか
042(たよ)(ふね)なき今日(けふ)旅立(たびだち)
043真純彦(ますみひこ)(ただ)一人(ひとり)(たま)御船(みふね)(かか)へつつ
044()れます女神(めがみ)のデビス(ひめ)あはれ』
045デビス(ひめ)(この)(ふね)世人(よびと)()する(ふね)ならず
046(わが)()(きみ)専有物(せんいうぶつ)ぞや。
047(みづうみ)(ほとり)(あさ)烏貝(からすがひ)
048(ひろ)ひて(ふね)にかへむとぞ(おも)ふ』
049三千彦(みちひこ)『アンボイナ(つばさ)()りて易々(やすやす)
050(かみ)のまにまに(よぎ)()かまし』
051伊太彦(いたひこ)『いつ(まで)(こころ)(くる)しめ(なや)むとも
052(わた)(すべ)なし(とほ)浪路(なみぢ)を』
053 かく一行(いつかう)()(にん)湖畔(こはん)()つて(くだ)らぬ(うた)()(なが)ら、054如何(いか)にしてこの湖水(こすい)(わた)らむかと(やや)当惑(たうわく)(てい)であつた。055かかる(ところ)一艘(いつさう)漁船(ぎよせん)056()()(ごと)(はし)(きた)る。057一行(いつかう)(すく)ひの(ふね)到来(たうらい)と、058(のぞ)みを(いだ)いて(ふね)此方(こなた)到着(たうちやく)するを()つて()た。059船頭(せんどう)は、060拍子(ひやうし)()けた(こゑ)で、
061船頭(せんどう)『オイ、062(まへ)(たち)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()えるが、063(この)(みづうみ)(わた)(つも)りか。064ハルナの(みやこ)大黒主(おほくろぬし)(かみ)(さま)から、065吾々(われわれ)沢山(たくさん)のお手当(てあて)(いただ)いて……三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)此処(ここ)()たならば(けつ)して(わた)してはならない……と(きび)しき命令(めいれい)()けて()るのだ。066(わた)()うても(わた)してやる(こと)出来(でき)ない。067ぢやと()ふて(いち)(まい)(かみ)にも裏表(うらおもて)があるものだ。068(うみ)には(ふね)069(みづ)には空気(くうき)070(をとこ)には(をんな)だ、071(のみ)には(つち)072(すずり)には(すみ)(むかし)からちやんと(きま)つて()る。073(まへ)()やうによつては(わた)してやらぬ(こと)もない(こと)もない。074どうする()もりだ。075いつ(まで)溺死(できし)よけの石地蔵(いしぢざう)のやうに湖水(こすい)(なが)めて永久(えいきう)()つて()(つもり)か。076返答(へんたふ)()ければこの(ふね)(また)彼方(あつち)()つて()くから、077(なん)とか(かんが)へたがよからうぞ』
078伊太彦(いたひこ)『オイ船頭(せんどう)079そんな(こと)()つても要領(えうりやう)(わか)らぬぢやないか。080表向(おもてむき)(わた)(こと)出来(でき)ないが、081沢山(たくさん)(かね)()れたら、082(わた)さうと()ふのだらう、083そんなら(わか)つて()る。084幾何(いくら)でもやるから向岸(むかふぎし)(まで)(はや)(わた)して()れ』
085船頭(せんどう)(なん)()つてもこの湖水(こすい)南北(なんぽく)二百(にひやく)()もあるのだから、086ちよつくら一寸(ちよつと)(わた)(わけ)には()かぬ。087(まへ)(たち)()せた以上(いじやう)は、088(めし)()はしてやらねばならず、089何程(なにほど)(いそ)いでも十日(とをか)はかかるのだから、090余程(よつぽど)沢山(たくさん)(もら)はなければ()()はないのだ。091(あと)喧嘩(けんくわ)(さき)にして()かなくつては、092(むか)ふへ()いてから、093(たか)いの(やす)いのと()はれては(つま)らぬからのう「詮」は底本通り。「詰」の誤字か?
094玉国別(たまくにわけ)幾何(いくら)でもやるから、095(はや)(ふね)()して()れ』
096船頭(せんどう)『そんなら(ひやく)(りやう)()れますか、097()(にん)さまと(いぬ)一匹(いつぴき)だから平均(へいきん)二十(にじふ)(りやう)にもなりませぬ。098(やす)いものでせう』
099玉国(たまくに)(いち)(りやう)()せばお(こめ)一石(いつこく)あるぢやないか、100(ひやく)(りやう)とはちと(たか)いぢやないか』
101船頭(せんどう)(たか)けりや()めとこかい、102左様(さやう)なら』
103(はや)くも()()いで()()(いきほひ)()せる。104デビス(ひめ)()げられては大変(たいへん)()(いら)ち、
105デビス『船頭(せんどう)さま、106(のぞ)(どほ)(ひやく)(りやう)()げます。107何卒(どうぞ)(はや)(むかふ)(わた)して(くだ)さい』
108船頭(せんどう)『ヤ有難(ありがた)い、109(まへ)神館(かむやかた)のお(ひめ)さまだな。110こんな()(をとこ)と、111どこかへ駆落(かけおち)をするのだらう。112(ひやく)(りやう)(やす)いものだ。113もう(ひやく)(りやう)()しなさい。114さうすれば、115(まへ)さまがこの(みづうみ)(わた)つて駆落(かけおち)をしたと()(こと)(かく)して()げる。116口止料(くちどめれう)として(ひやく)(りやう)(やす)いものだらう』
117デビス『エエ仕方(しかた)(ござ)いませぬ、118(のぞ)(どほ)()げるから(はや)()せて(くだ)さい』
119 船頭(せんどう)はニコニコし(なが)(ふね)横付(よこづけ)にした。120()(にん)はスマートと(とも)(はや)くも()びのつた。
121 (をり)しもそよそよと()北風(きたかぜ)白帆(しらほ)をあげ、122少時(しばし)湖面(こめん)をスルスルと(すべ)つて()く。123船頭(せんどう)(とも)()()()(にぎ)りながら、124(かぜ)(やぶ)つた(ふと)(のど)から、125透通(すきとほ)るやうな(こゑ)()して欵乃(ふなうた)(うた)()した。
126此処(ここ)はアーエー
127天竺(あまぎ)のーテルモン湖水(こすい)
128(わた)るもー(うれ)しいーやあ、夫婦(めをと)()れエー
129(つき)のオーエー
130(くに)にはア、名所(めいしよ)がアー(ござ)るウー
131ハルナーアのーエー
132(みやこ)のオーー、(はす)(いけ)
133(なみ)はアー、うつうつー、(つづみ)のオー()
134(ただ)竜宮(りうぐう)のオー、乙姫(おとひめ)かアー』
135(うた)(なが)ら、136追々(おひおひ)(きし)(はな)れて、137(みなみ)(みなみ)へと一直線(いつちよくせん)(すす)んで()く。138次第(しだい)々々(しだい)()()老松(おいまつ)姿(すがた)(ちひ)さくなり、139テルモン(ざん)(いただ)きは(かへつ)(たか)()えて()た。140(この)(とき)(ふね)(そこ)より(あら)はれ()でた()(にん)荒男(あらをとこ)141(からだ)一面(いちめん)網襦袢(あみじゆばん)(あみ)ズボンを(ちやく)し、142大刀(だいたう)(ひつさ)げて()(にん)(まへ)(すす)(きた)り、143(いや)らしき(ゑみ)(うか)()めつけて()る。144これはワックス、145エキス、146ヘルマン、147エルの()(にん)がこの湖上(こじやう)にて(うらみ)()らさむと、148故意(わざ)とに船頭(せんどう)沢山(たくさん)(かね)(あた)湖水(こすい)中央(まんなか)にて()(にん)男女(なんによ)()(ころ)さむと(たく)んだ仕事(しごと)である。
149ワックス『ヤア(めづ)らしや三千彦(みちひこ)150(その)(ほか)三五教(あななひけう)魔法使(まはふづかひ)151(ならび)吾々(われわれ)(はぢ)()かしたデビス(ひめ)阿魔(あま)(ちよ)152よくまア吾々(われわれ)計略(けいりやく)()られよつたな。153最早(もはや)此処(ここ)(まで)()()した以上(いじやう)は、154如何(いか)神変(しんぺん)不思議(ふしぎ)魔法(まはふ)使(つか)ふとも(のが)るる(こと)出来(でき)まい。155サア(これ)から吾々(われわれ)()(にん)(きさま)(たち)青竜刀(せいりようとう)(さび)となし()れむ。156(また)この犬畜生(いぬちくしやう)(みづうみ)(うへ)では如何(いかん)ともする(こと)出来(でき)まい。157(いづ)れも観念(くわんねん)(いた)したがよからう。158(この)船底(ふなぞこ)には数十(すうじふ)(にん)荒男(あらをとこ)(かく)してあれば、159ヂタバタ(いた)してももう駄目(だめ)だ。160デビス(ひめ)(いさぎよ)(この)(はう)(わた)して、161(その)(はう)はこの湖水(こすい)()()げて往生(わうじやう)いたすか。162()もなければ()(どく)ながら吾々(われわれ)(かたな)(さび)にして()れる。163ても、164さても鈍馬(とんま)野郎(やらう)だなア』
165 玉国別(たまくにわけ)平然(へいぜん)として(すこし)(さわ)がず、166(あま)数歌(かずうた)奏上(そうじやう)(はじ)めた。167如何(いかが)はしけむ、168(にはか)暴風(ばうふう)()(きた)り、169山岳(さんがく)のやうな(なみ)(たけ)(くる)ひ、170(ふね)()()()らすが(ごと)く、171前後(ぜんご)左右(さいう)動揺(どうえう)(はじ)めた。172(さすが)のワックス以下(いか)悪人(あくにん)()置所(おきどころ)なき(ふね)動揺(どうえう)につれて(みぎ)にコロコロ、173(ひだり)にコロコロ、174きねぐそを(ぬか)にまぶしたやうにごろつき(はじ)めた。175(さすが)玉国別(たまくにわけ)(あま)(はげ)しき(ふね)動揺(どうえう)(まなこ)(くら)みむかづきさうになつて()た。176敵味方(てきみかた)区別(くべつ)なく一生(いつしやう)懸命(けんめい)(かな)はぬ(とき)神頼(かみだの)み、177(くち)(おく)にて(いの)つて()る。178船頭(せんどう)(ふね)動揺(どうえう)した(はづみ)()つか(はね)られ、179もんどり()つて荒狂(あれくる)荒浪(あらなみ)(なか)にドンブと(ばか)()げつけられ、180(いし)地蔵(ぢざう)()()んだやうに、181ブルブルとも(なん)とも()はずに湖底(こてい)(ふか)(しづ)んで仕舞(しま)つた。182(かか)(ところ)一艘(いつさう)(ふね)183七八(しちはち)(にん)若者(わかもの)一生(いつしやう)懸命(けんめい)(かい)()ぎながら、184此方(こなた)目蒐(めが)けて馳来(はせきた)る。185()れば三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)初稚姫(はつわかひめ)が、186()くあらむ(こと)予期(よき)し、187島陰(しまかげ)(かく)れて()つて()たのである。188初稚姫(はつわかひめ)舷頭(げんとう)()(あら)はれ、
189初稚(はつわか)玉国別(たまくにわけ)さま、190()一同(いちどう)さま、191サア(はや)(この)(ふね)にお()(くだ)さい、192(この)(ふね)なれば如何(いか)なる荒浪(あらなみ)大丈夫(だいぢやうぶ)です』
193 一同(いちどう)は、194(すく)ひの(ふね)拍手(はくしゆ)感謝(かんしや)(なが)手早(てばや)()(うつ)つた。195(はち)(にん)水夫(かこ)荒浪(あらなみ)()()り、196驀地(まつしぐら)にすうすうと(すす)()く。197スマートはザンブと(ばか)()()んだ。198初稚姫(はつわかひめ)(また)ザンブと(ばか)()()み、199スマートに(またが)湖面(こめん)(およ)()した。200(たちま)荒波(あらなみ)(おさ)まり、201(あぶら)(なが)したる(ごと)(かがみ)(みづうみ)(くわ)して仕舞(しま)つた。202初稚姫(はつわかひめ)()()(ごと)くスマートに(またが)り、203()()(その)姿(すがた)一行(いつかう)視線(しせん)(はな)れて仕舞(しま)つた。204ワックスの()つて()大船(おほふね)肝腎(かんじん)船頭(せんどう)(うしな)ひ、205()(あやつ)(こと)()らず、206()がみをしながら水面(すいめん)にキリキリ(まひ)をひをやつて()る。207三千彦(みちひこ)208伊太彦(いたひこ)(ふなばた)(たた)愉快(ゆくわい)げに(うた)(なが)(へさき)(みなみ)()微風(びふう)()(はら)ませ(はし)()く。
209三千彦(みちひこ)此処(ここ)()()ふテルモン()
210東西(とうざい)(ひやく)()南北(なんぽく)
211二百(にひやく)()ありと()(およ)
212(かみ)使(つかひ)宣伝使(せんでんし)
213テルモン(やかた)(あと)にして
214足許(あしもと)(すべ)坂道(さかみち)
215(やうや)(くだ)()()れば
216金波(きんぱ)銀波(ぎんぱ)(ただよ)へる
217大海原(おほうなばら)右左(みぎひだり)
218パインの(はやし)()(なら)
219金砂(きんしや)銀砂(ぎんしや)日光(につくわう)
220(かがや)きわたる(うるは)しさ
221(しづ)かな(なみ)(ふなばた)
222()()(きた)(つづみ)()
223ああ天国(てんごく)楽園(らくゑん)
224(たとへ)がたなき風景(ふうけい)
225()()(ほど)なく一艘(いつさう)
226老朽船(らうきうせん)(あら)はれて
227(われ)()一行(いつかう)()せながら
228(みなみ)(みなみ)へと(すす)(をり)
229(たちま)ちワックス船底(せんてい)より
230(あら)はれ(きた)大刀(だいたう)
231()()(われ)()一行(いつかう)
232(ちから)(かぎ)りに脅迫(けふはく)
233暴逆(ばうぎやく)無道(ぶだう)()(くだ)
234(こひ)(うらみ)()らさむと
235(みづうみ)(ごと)巻舌(まきじた)
236(なら)べてゴロつく(をり)もあれ
237(にはか)()()湖嵐(うなあらし)
238前後(ぜんご)左右(さいう)()きまくり
239小山(こやま)のやうな(なみ)()
240(またた)(うち)船体(せんたい)
241(かぜ)()()()(ごと)
242(あやふ)刻々(こくこく)(まし)(きた)
243()(あやつ)りし船頭(せんどう)
244()()ばされて無慙(むざん)にも
245(うみ)藻屑(もくづ)となり()てぬ
246(さすが)無道(ぶだう)のワックスや
247(その)()三人(みたり)悪漢(わるもの)
248(はげ)しき颶風(ぐふう)(てき)しかね
249(みぎ)(ひだり)にヨロヨロと
250(ころ)(まは)りしおかしさよ
251(わが)()(きみ)(はじめ)とし
252(われ)()一行(いつかう)船体(せんたい)
253()られて(くる)しむ(とき)もあれ
254左手(ゆんで)(うか)(しま)(かげ)
255(あら)はれ(きた)一艘(いつさう)
256(ふね)此方(こなた)(りう)(ごと)
257(すす)(きた)るぞ不思議(ふしぎ)なれ
258(われ)()愁眉(しうび)(ひら)きつつ
259こは何人(なにびと)(ふね)なると
260(ひとみ)()ゑてよく()れば
261(あに)(はか)らむや三五(あななひ)
262(をしへ)(みち)()(たか)
263初稚姫(はつわかひめ)(おん)姿(すがた)
264(われ)()危難(きなん)(すく)はむと
265目無(めなし)堅間(かたま)御船(みふね)をば
266用意(ようい)(あそ)ばし(たま)ひしと
267()くより(うれ)しさ(かぎ)りなく
268感謝(かんしや)(なみだ)()めあへず
269ヒラリと(ふね)()()れば
270(いま)(まで)(われ)()(たす)けたる
271(かみ)(つかさ)のスマートは
272ザンブと(ばか)(なみ)(うへ)
273()(をど)らして()()みぬ
274あはやと(おも)(ひま)もなく
275初稚姫(はつわかひめ)(たちま)ちに
276(その)()湖面(こめん)()げながら
277スマートの(せな)(またが)りて
278()()(ごと)()でたまふ
279ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
280(かみ)変化(へんげ)神人(しんじん)
281(ただ)しは(まこと)三五(あななひ)
282初稚姫(はつわかひめ)のお姿(すがた)
283合点(がてん)()かぬ(おん)(すく)
284(うれ)しく感謝(かんしや)(たてまつ)
285(あと)()(かへ)(なが)むれば
286(いま)(まで)()()しぼろ(ふね)
287肝腎要(かんじんかなめ)船頭(せんどう)
288(なみ)()まれて操縦(さうじう)
289機関(きくわん)(うしな)(なみ)(うへ)
290クルクルクルと回転(くわいてん)
291(すす)みなやむぞ可笑(をか)しけれ
292(あさひ)()るとも(くも)るとも
293(つき)()つとも()くるとも
294仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
295如何(いか)なる(あらし)()くとても
296(まこと)(ひと)つの三五(あななひ)
297(かみ)(まか)せし吾々(われわれ)
298まさかの(とき)(たす)(ぶね)
299(てん)より(くだ)(たま)ふなり
300ああ(たふと)しや有難(ありがた)
301(かみ)(なんぢ)(とも)にあり
302(ひと)(かみ)()(かみ)(みや)
303(おそ)るるためしは()らないと
304(さと)(たま)ひし三五(あななひ)
305(をしへ)今更(いまさら)()(あた)
306()るぞ(うれ)しき(うみ)(うへ)
307千尋(ちひろ)(ふか)(おん)(めぐみ)
308(かなら)(わす)れまつらむや
309弘誓(ぐぜい)(ふね)()()げて
310(すず)しき(かぜ)()かれつつ
311(なつ)(なかば)()(なが)
312ハルナの(みやこ)(すす)()
313ああ惟神(かむながら)々々(かむながら)
314御霊(みたま)幸倍(さちはへ)ましませよ』
315(うた)(なが)意気(いき)揚々(やうやう)として際限(さいげん)もなき湖水(こすい)(すす)()く。316ああ惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
317大正一二・三・二八 旧二・一二 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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