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第58巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 玉石混淆
01 神風
〔1476〕
02 多数尻
〔1477〕
03 怪散
〔1478〕
04 銅盥
〔1479〕
05 潔別
〔1480〕
第2篇 湖上神通
06 茶袋
〔1481〕
07 神船
〔1482〕
08 孤島
〔1483〕
09 湖月
〔1484〕
第3篇 千波万波
10 報恩
〔1485〕
11 欵乃
〔1486〕
12 素破抜
〔1487〕
13 兎耳
〔1488〕
14 猩々島
〔1489〕
15 哀別
〔1490〕
16 聖歌
〔1491〕
17 怪物
〔1492〕
18 船待
〔1493〕
第4篇 猩々潔白
19 舞踏
〔1494〕
20 酒談
〔1495〕
21 館帰
〔1496〕
22 獣婚
〔1497〕
23 昼餐
〔1498〕
24 礼祭
〔1499〕
25 万歳楽
〔1500〕
余白歌
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第二〇章
酒談
(
しゆだん
)
〔一四九五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
篇:
第4篇 猩々潔白
よみ(新仮名遣い):
しょうじょうけっぱく
章:
第20章 酒談
よみ(新仮名遣い):
しゅだん
通し章番号:
1495
口述日:
1923(大正12)年03月30日(旧02月14日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
初稚丸は白帆を畳んでようやく磯辺に着いた。アキスとカールの両人は小躍りして遠浅の海を走って行き、船に近づいて中をのぞいた。多くの宣伝使たちに交じって、髯茫々にになったバーチルとアンチーが乗っているのに二人は驚いて喜びの声を上げ、早くもうれし涙にくれた。
玉国別は下船にあたって船頭のイールに心付けを渡した。イールは初稚姫から十分な代金をもらっているからと、玉国別からの心付けを湖の竜神への幣帛料として捧げ、一同に別れを告げると舟歌を歌いながら帰って行った。
バーチルは、アキス・カールと再会を喜んだ。二人はバーチルの奥方も一人息子も壮健で変わりないこと、ただ奥方のサーベルが数日前から神がかりのようになり、その命を受けて自分たちが浜辺に待っていたことを伝えた。
一行がバーチルの家に行こうとするとテクが現れて、三五教の宣伝使は捕縛しなければならないと走ってきて遮った。玉国別は持っていた酒をテクに渡した。テクは酒を飲み干すと途端に態度を変えて揉み手をし、これほどよい酒をもっと飲みたいと要求し始めた。
バーチルは、これから自分の帰還のお祝いをするからそこに来て好きなだけ酒を飲むようにとテクを丸め込んでしまった。三千彦も手持ちの酒をテクに差し出すと、テクはすっかり自分の役目など放り出してしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5820
愛善世界社版:
251頁
八幡書店版:
第10輯 459頁
修補版:
校定版:
266頁
普及版:
101頁
初版:
ページ備考:
001
初稚丸
(
はつわかまる
)
は
白帆
(
しらほ
)
を
畳
(
たた
)
んだまま、
002
漸
(
やうや
)
くにして
磯辺
(
いそべ
)
に
着
(
つ
)
いた。
003
アキス、
004
カールの
両人
(
りやうにん
)
は
雀躍
(
こをど
)
りし
乍
(
なが
)
ら、
005
尻
(
しり
)
を
巻
(
まく
)
つて
遠浅
(
とほあさ
)
の
海
(
うみ
)
をバサバサバサと
待
(
ま
)
ち
兼
(
かね
)
て
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
き、
006
船
(
ふね
)
に
食
(
くら
)
ひつき、
007
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
き
見
(
み
)
れば
髯
(
ひげ
)
蓬々
(
ぼうぼう
)
と
生
(
はえ
)
た
男
(
をとこ
)
が
二人
(
ふたり
)
、
008
外
(
ほか
)
に
眉目
(
びもく
)
清秀
(
せいしう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
美人
(
びじん
)
が
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
るに
打
(
う
)
ち
驚
(
おどろ
)
き、
009
思
(
おも
)
はず
大声
(
おほごゑ
)
を
上
(
あ
)
げて、
010
アキス『ア、
011
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
012
ヤ、
013
番頭
(
ばんとう
)
様
(
さま
)
』
014
と
云
(
い
)
つた
切
(
き
)
り、
015
早
(
はや
)
くも
嬉
(
うれ
)
し
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れ、
016
後
(
あと
)
は
一言
(
いちごん
)
も
発
(
はつ
)
し
得
(
え
)
ず、
017
船
(
ふね
)
の
後
(
うしろ
)
へ
廻
(
まは
)
り
遠浅
(
とほあさ
)
を
幸
(
さいはひ
)
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
押
(
お
)
して
行
(
ゆ
)
く。
018
漸
(
やうや
)
く
一同
(
いちどう
)
は
玉国別
(
たまくにわけ
)
を
先頭
(
まつさき
)
に、
019
順々
(
じゆんじゆん
)
に
上陸
(
じやうりく
)
した。
020
玉国
(
たまくに
)
『ヤ、
021
イールさま、
022
其
(
その
)
外
(
ほか
)
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
、
023
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
いました。
024
サア
是
(
これ
)
は
私
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
だけだ。
025
お
酒
(
さけ
)
なと
食
(
あが
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
026
と
懐
(
ふところ
)
より
若干
(
じやくかん
)
の
金
(
かね
)
を
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し
渡
(
わた
)
さうとする。
027
イール『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
028
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
029
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
から
沢山
(
たくさん
)
の
賃
(
ちん
)
を
頂
(
いただ
)
いて
居
(
を
)
りますから、
030
此
(
この
)
上
(
うへ
)
頂
(
いただ
)
いては
冥加
(
みやうが
)
につきます、
031
お
志
(
こころざし
)
は
有難
(
ありがた
)
く
頂
(
いただ
)
きます。
032
何卒
(
どうぞ
)
お
納
(
をさ
)
め
下
(
くだ
)
さいませ』
033
玉国
(
たまくに
)
『
宣伝使
(
せんでんし
)
が
一
(
いつ
)
たん
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
したもの、
034
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
元
(
もと
)
に
戻
(
もど
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ぬ。
035
何卒
(
どうぞ
)
受取
(
うけと
)
つて
貰
(
もら
)
ひたい』
036
イール『
左様
(
さやう
)
なれば
御
(
ご
)
辞退
(
じたい
)
申
(
まを
)
すも
却
(
かへつ
)
て
失礼
(
しつれい
)
、
037
有難
(
ありがた
)
く
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します』
038
と
押
(
お
)
し
頂
(
いただ
)
き、
039
直
(
ただ
)
ちに
海面
(
かいめん
)
に
向
(
むか
)
ひ、
040
イール『
竜神
(
りうじん
)
様
(
さま
)
、
041
お
蔭
(
かげ
)
で
無事
(
ぶじ
)
に
送
(
おく
)
らして
頂
(
いただ
)
きました。
042
何卒
(
どうぞ
)
これから
帰
(
かへ
)
り
道
(
みち
)
も
長
(
なが
)
う
厶
(
ござ
)
いますれば、
043
キタの
港
(
みなと
)
に
帰
(
かへ
)
れますやう
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
を
願
(
ねが
)
ひます。
044
これは
幣帛料
(
へいはくれう
)
として
差上
(
さしあ
)
げます』
045
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く、
046
湖中
(
こちう
)
に
向
(
むか
)
つてバラバラと
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ひ、
047
一同
(
いちどう
)
に
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げ
潔
(
いさぎよ
)
く
櫓櫂
(
ろかい
)
を
操
(
あやつ
)
り、
048
欵乃
(
ふなうた
)
を
唄
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
049
玉国
(
たまくに
)
『アア
船頭
(
せんどう
)
と
云
(
い
)
ふものは
信心
(
しんじん
)
の
強
(
つよ
)
いものだなア。
050
本当
(
ほんたう
)
に
正直
(
しやうぢき
)
なものだ。
051
寡欲
(
くわよく
)
恬淡
(
てんたん
)
にして
少
(
すこ
)
しも
貪
(
むさぼ
)
る
心
(
こころ
)
のないのは
感
(
かん
)
じ
入
(
い
)
つたものだ。
052
あの
船頭
(
せんどう
)
の
純潔
(
じゆんけつ
)
な
心
(
こころ
)
を
見
(
み
)
るにつけ、
053
自分
(
じぶん
)
達
(
たち
)
の
心
(
こころ
)
が
恥
(
はづ
)
かしくなつて
来
(
き
)
た。
054
いや
吾々
(
われわれ
)
はまだまだ
修養
(
しうやう
)
が
足
(
た
)
りない。
055
ああ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
056
有難
(
ありがた
)
き
教訓
(
けうくん
)
を
頂
(
いただ
)
きました。
057
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
058
と
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れながら
無事
(
ぶじ
)
の
着港
(
ちやくかう
)
を
祝
(
しゆく
)
した。
059
バーチルは、
060
アキス、
061
カールの
二人
(
ふたり
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り、
062
バーチル『お
前
(
まへ
)
は
下僕
(
かぼく
)
であつたか、
063
よう
迎
(
むか
)
ひに
来
(
き
)
て
呉
(
く
)
れた。
064
奥
(
おく
)
はどうして
居
(
ゐ
)
るか』
065
アキス『ハイ
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
でゐらつしやいます。
066
坊
(
ばう
)
様
(
さま
)
も
極
(
きは
)
めてお
元気
(
げんき
)
で
厶
(
ござ
)
います』
067
カール『
何
(
なん
)
だか
二三
(
にさん
)
日前
(
にちまへ
)
から
神懸
(
かむがかり
)
のやうになられまして、
068
時々
(
ときどき
)
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますが、
069
実
(
じつ
)
に
感心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました。
070
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
がお
帰
(
かへ
)
りになるからスマの
浜
(
はま
)
まで
行
(
い
)
つて
来
(
こ
)
いと、
071
それはそれは
喧
(
やかま
)
しう
仰有
(
おつしや
)
いますので、
072
私
(
わたくし
)
が
此処
(
ここ
)
に
三日
(
みつか
)
立
(
た
)
ち
待
(
ま
)
ちをして
居
(
ゐ
)
ました。
073
ようまア
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さいました。
074
嬉
(
うれ
)
しう
厶
(
ござ
)
います』
075
バーチル『ああさうであつたか、
076
それは
不思議
(
ふしぎ
)
の
事
(
こと
)
だ。
077
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
もこの
先生
(
せんせい
)
のお
伴
(
とも
)
して
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
吾
(
わが
)
家
(
や
)
に
帰
(
かへ
)
り、
078
悠
(
ゆつ
)
くりと
休息
(
きうそく
)
をして
戴
(
いただ
)
かう。
079
サア
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
を
申
(
まを
)
せ』
080
両人
(
りやうにん
)
は
一
(
いち
)
時
(
じ
)
に、
081
『ハイ、
082
然
(
しか
)
らば
皆様
(
みなさま
)
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう』
083
と
早
(
はや
)
くも
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
歩
(
あゆ
)
みかけた。
084
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
より
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
、
085
大手
(
おほで
)
を
拡
(
ひろ
)
げて
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
り、
086
男
(
をとこ
)
『オイ
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
087
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
088
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
だ。
089
貴様
(
きさま
)
の
主人
(
しゆじん
)
はバラモン
教
(
けう
)
でありながら、
090
三五教
(
あななひけう
)
の
魔法使
(
まはふづかひ
)
を
連
(
つ
)
れて
帰
(
かへ
)
ると
云
(
い
)
ふ
叛教者
(
はんけうしや
)
だ。
091
バラモン
教
(
けう
)
に
対
(
たい
)
しての、
092
プロテスタントだ。
093
イヤ、
094
バーチルスだ。
095
オイ、
096
バーチル
一寸
(
ちよつと
)
調
(
しら
)
べる
事
(
こと
)
がある。
097
キヨの
港
(
みなと
)
の
関所
(
せきしよ
)
迄
(
まで
)
一寸
(
ちよつと
)
来
(
こ
)
い』
098
アキス『
貴様
(
きさま
)
は
泥酔漢
(
よひどれ
)
のテクぢやないか。
099
グヅグヅ
吐
(
ぬか
)
すと
此
(
この
)
鉄拳
(
てつけん
)
がお
見舞
(
みまひ
)
申
(
まを
)
すぞ』
100
テク『ヘン
此
(
この
)
方
(
はう
)
の
体
(
からだ
)
は
三葉葵
(
みつばあふひ
)
の
紋
(
もん
)
が
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
について
居
(
ゐ
)
るのだ。
101
指一本
(
ゆびいつぽん
)
でもさへるならさへて
見
(
み
)
よ』
102
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
携
(
たづさ
)
へもつた
瓢箪
(
へうたん
)
の
口
(
くち
)
をあけて、
103
テクの
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
につきつけ、
104
微笑
(
びせう
)
しながら、
105
玉国
(
たまくに
)
『お
役目
(
やくめ
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
いますな。
106
暑気払
(
しよきばら
)
ひに
一寸
(
ちよつと
)
召
(
め
)
し
上
(
あが
)
つたらどうですか』
107
テク『エヘヘヘヘ。
108
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
でも
一寸
(
ちよつと
)
話
(
はな
)
せるわい、
109
ヤ
大
(
おほい
)
に
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた。
110
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
斯
(
か
)
うなくては、
111
人間
(
にんげん
)
は
渡
(
わた
)
れないものだ、
112
「
酒
(
さけ
)
なくて、
113
何
(
なん
)
の
己
(
おのれ
)
が
宣伝使
(
せんでんし
)
かな」だ。
114
まづまづ
一杯
(
いつぱい
)
頂戴
(
ちやうだい
)
仕
(
つかまつ
)
らう』
115
とホクホクしながら
瓢
(
ひさご
)
の
口
(
くち
)
から
息
(
いき
)
もつかず、
116
喉
(
のど
)
をゴロゴロ
鳴
(
な
)
らせながら
胃
(
ゐ
)
の
腑
(
ふ
)
のタンクに
臨時
(
りんじ
)
灌漑
(
くわんがい
)
し、
117
瓢
(
ひさご
)
を
逆
(
さか
)
さにして
掌
(
てのひら
)
の
上
(
うへ
)
に
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つ
舞踏
(
ぶたふ
)
させながら、
118
滴
(
したた
)
る
二滴
(
にてき
)
ばかりの
酒
(
さけ
)
を
御
(
ご
)
叮嚀
(
ていねい
)
にゲソゲソと
舐
(
なめ
)
て
俄
(
にはか
)
に
態度
(
たいど
)
をかへ、
119
テク『ヤどうも、
120
飛
(
と
)
び
切
(
き
)
り
上等
(
じやうとう
)
の
醍醐味
(
だいごみ
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しまして、
121
テク
実
(
じつ
)
に
乾盃
(
かんぱい
)
の
至
(
いた
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
122
瓢
(
ひさご
)
ぶりに、
123
どうした
拍子
(
ひやうし
)
の
瓢箪
(
へうたん
)
やら、
124
スコタンやら、
125
コンタンやら、
126
邯鄲
(
かんたん
)
夢
(
ゆめ
)
の
枕
(
まくら
)
のやうな、
127
嬉
(
うれ
)
しい
心持
(
こころもち
)
が
致
(
いた
)
しますわい。
128
私
(
わたくし
)
是
(
これ
)
からずつと
改心
(
かいしん
)
をして
貴方
(
あなた
)
のお
弟子
(
でし
)
にして
頂
(
いただ
)
き、
129
ドツサリドツサリ
瓢箪酒
(
へうたんざけ
)
を、
130
この
甘
(
うま
)
い
甘
(
うま
)
い、
131
瓢箪酒
(
へうたんざけ
)
を、
132
チヨコチヨコ、
133
サイサイ
呑
(
の
)
まして
頂
(
いただ
)
く
儀
(
ぎ
)
にはゆきますまいかな、
134
訳
(
わけ
)
にはゆきますまいか。
135
本当
(
ほんたう
)
に
気
(
き
)
の
利
(
き
)
いた
先生
(
せんせい
)
だ、
136
イヤ
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つた
先生
(
せんせい
)
だ。
137
専制
(
せんせい
)
主義
(
しゆぎ
)
のバラモンよりも
四民
(
しみん
)
平等
(
べうどう
)
主義
(
しゆぎ
)
の、
138
四民
(
しみん
)
平等
(
べうどう
)
人類愛
(
じんるゐあい
)
の
三五教
(
あななひけう
)
が
余程
(
よつぽど
)
、
139
余程
(
よつぽど
)
、
140
余程
(
よつぽど
)
甘味
(
うまみ
)
が
厶
(
ござ
)
いますわい。
141
ウマ
味
(
み
)
がたつぷり
厶
(
ござ
)
います。
142
甘味
(
うまみ
)
と
云
(
い
)
つたら
今
(
いま
)
飲
(
の
)
んだ
酒
(
さけ
)
も
些
(
ちつ
)
と
許
(
ばか
)
り、
143
チヨツクラチヨツト、
144
些
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り、
145
少
(
すこ
)
しでも
沢山
(
たくさん
)
、
146
ドツサリと
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
います。
147
酒
(
さけ
)
さへ
呑
(
の
)
ましておけば、
148
酒
(
さけ
)
の
気
(
け
)
さへあれば、
149
このテクも、
150
猫
(
ねこ
)
のやうな
柔
(
やさ
)
しい、
151
温順
(
をんじゆん
)
な、
152
柔和
(
にうわ
)
な、
153
柔順
(
じうじゆん
)
な、
154
結構
(
けつこう
)
な、
155
お
目出度
(
めでた
)
い
人間
(
にんげん
)
ですよ。
156
それはそれはお
目出度
(
めでた
)
い
人間
(
にんげん
)
です。
157
エヘヘヘヘ』
158
玉国
(
たまくに
)
『アハハハハ』
159
バーチル『これ、
160
テクさま
私
(
わたし
)
が
三年振
(
さんねんぶり
)
で
目出度
(
めでたく
)
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へ
帰
(
かへ
)
つたのだから、
161
茲
(
ここ
)
一
(
いつ
)
週間
(
しうかん
)
許
(
ばか
)
り、
162
家
(
いへ
)
の
財産
(
ざいさん
)
が
無
(
な
)
くなつても
構
(
かま
)
はぬ、
163
大祝宴
(
だいしゆくえん
)
を
開
(
ひら
)
くのだから、
164
お
前
(
まへ
)
さま
一
(
ひと
)
つ
酒
(
さけ
)
の
方
(
はう
)
の
世話
(
せわ
)
をして
貰
(
もら
)
へまいかな。
165
そして
飛
(
と
)
び
切
(
き
)
り
上等
(
じやうとう
)
の
酒
(
さけ
)
を
何十石
(
なんじつこく
)
でもよい
取寄
(
とりよ
)
せて、
166
献立
(
こんだて
)
をして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだ』
167
テク『もつとももつとも、
168
御尤
(
ごもつと
)
も
千万
(
せんばん
)
、
169
渡
(
わた
)
りに
船
(
ふね
)
、
170
追手
(
えて
)
に
帆
(
ほ
)
、
171
女
(
をんな
)
に
男
(
をとこ
)
、
172
テクに
甘酒
(
うまざけ
)
、
173
お
酒
(
さけ
)
にテク、
174
テクにお
酒
(
さけ
)
、
175
酒
(
さけ
)
がテクか、
176
テクが
酒
(
さけ
)
か、
177
酒
(
さけ
)
の
中
(
なか
)
から
生
(
うま
)
れたテクぢや、
178
いやはや
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
179
確
(
たしか
)
に
承諾
(
しようだく
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
180
ああああ
何
(
なん
)
だか
甘酒
(
うまざけ
)
と
聞
(
き
)
くと
喉
(
のど
)
の
奴
(
やつ
)
、
181
喉
(
のど
)
の
猫
(
ねこ
)
奴
(
め
)
がゴロゴロと
唸
(
うな
)
り
出
(
だ
)
しやがつた。
182
唾
(
つば
)
の
奴
(
やつ
)
酒
(
さけ
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
ぬ
先
(
さき
)
から
門口
(
かどぐち
)
迄
(
まで
)
お
出迎
(
でむか
)
へに
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る。
183
イヤ
唾
(
つば
)
、
184
酒
(
さけ
)
のつばものも
少
(
すこ
)
し
辛抱
(
しんばう
)
せ。
185
今
(
いま
)
直
(
ただ
)
ちに
供給
(
きようきふ
)
してやる。
186
否
(
いな
)
灌漑
(
くわんがい
)
してやる。
187
蒸気
(
じやうき
)
ポンプ
装置
(
さうち
)
が、
188
いや
据付
(
すゑつ
)
けが
出来
(
でき
)
る
間
(
ま
)
だけ
辛抱
(
しんばう
)
したらよからう。
189
いや、
190
とは
云
(
い
)
ふものの
俺
(
おれ
)
も
辛抱
(
しんばう
)
仕悪
(
しに
)
くなつた。
191
オイ
先生
(
せんせい
)
、
192
この
外
(
ほか
)
に
臨時
(
りんじ
)
御
(
ご
)
携帯
(
けいたい
)
のお
持
(
も
)
ち
合
(
あ
)
はせの
瓢箪
(
へうたん
)
、
193
瓢
(
ふくべ
)
、
194
ひよう ひようは
厶
(
ござ
)
いませぬかな』
195
三千
(
みち
)
『アハハハハ。
196
随分
(
ずゐぶん
)
タンクと
見
(
み
)
えますな、
197
そんなら
拙者
(
せつしや
)
の
分
(
ぶん
)
も
進上
(
しんじやう
)
致
(
いた
)
さう。
198
又
(
また
)
何
(
いづ
)
れバーチルさまのお
宅
(
たく
)
へ
行
(
い
)
つて
新
(
あたら
)
しいのと
詰替
(
つめかへ
)
ますから………
大分
(
だいぶ
)
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
を
渡
(
わた
)
つて
来
(
き
)
たから
此
(
この
)
酒
(
さけ
)
は
くたびれ
て
居
(
を
)
りますれど
御
(
ご
)
辛抱
(
しんばう
)
下
(
くだ
)
さい』
199
テク『ヤ、
200
そいつは
有難
(
ありがた
)
い、
201
瓢箪酒
(
へうたんざけ
)
は
古
(
ふる
)
くなる
程
(
ほど
)
味
(
あぢ
)
がよいのだ。
202
風味
(
ふうみ
)
があるのだ。
203
三日
(
みつか
)
も
四日
(
よつか
)
も
揺
(
ゆす
)
つた
酒
(
さけ
)
はねんばりとして、
204
むつくりとして
口当
(
くちあた
)
りがよいものだ。
205
ヤ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い』
206
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
らグイと
三千彦
(
みちひこ
)
の
手
(
て
)
より
引手繰
(
ひつたく
)
るやうにして
受取
(
うけと
)
り、
207
瓢
(
ひさご
)
を
額
(
ひたひ
)
の
辺
(
あた
)
りまで
突
(
つ
)
き
上
(
あ
)
げ
尻
(
しり
)
を
見
(
み
)
て、
208
テク『エヘヘヘヘこの
瓢助
(
へうすけ
)
の
奴
(
やつ
)
、
209
随分
(
ずいぶん
)
酒
(
さけ
)
を
喰
(
くら
)
ひよつたと
見
(
み
)
えて、
210
イヤ
吸
(
す
)
ふたと
見
(
み
)
えて
赤
(
あか
)
い
顔
(
かほ
)
をして
居
(
ゐ
)
やがる。
211
いや
赤
(
あか
)
い
尻
(
けつ
)
をして
居
(
ゐ
)
やがる。
212
恰
(
まる
)
でお
猿
(
さる
)
を
見
(
み
)
たやうだ。
213
お
猿
(
さる
)
の
尻
(
けつ
)
は
赤
(
あか
)
い。
214
やア
面白
(
おもしろ
)
うなつて
来
(
き
)
おつた。
215
いや
尻
(
けつ
)
赤
(
あか
)
い、
216
尾
(
を
)
も
白狸
(
しろだぬき
)
の
腹鼓
(
はらづつみ
)
、
217
切
(
き
)
れる
程
(
ほど
)
頂
(
いただ
)
きませう。
218
ヤ、
219
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませう』
220
と
口
(
くち
)
をポンと
取
(
と
)
り
餓鬼
(
がき
)
のやうに
喇叭呑
(
らつぱの
)
みを
初
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
した。
221
瓢酒
(
ふくべざけ
)
の
音
(
おと
)
トブ トブ トブ トブ、
222
喉
(
のど
)
の
音
(
おと
)
ゴロゴロ、
223
キユウ キユウ キユウ、
224
チユウー。
225
テク『アア、
226
よう
利
(
き
)
く
般若湯
(
はんにやたう
)
だ。
227
醍醐味
(
だいごみ
)
だ。
228
命
(
いのち
)
の
水
(
みづ
)
だ。
229
百薬
(
ひやくやく
)
の
長
(
ちやう
)
だ。
230
何
(
なん
)
とまア、
231
調法
(
てうはふ
)
なものだなア。
232
結構
(
けつこう
)
毛
(
け
)
だらけ
猫灰
(
ねこはひ
)
だらけ。
233
余
(
あま
)
り
甘
(
うま
)
くて
美味
(
おい
)
しうて、
234
味
(
あぢ
)
がようて、
235
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
がすぼまりませぬよ。
236
開
(
あ
)
いた
口
(
くち
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
。
237
兎口
(
みつくち
)
にしんこ、
238
四角口
(
よつぐち
)
に
羊羹
(
やうかん
)
、
239
○○に
踵
(
きびす
)
、
240
テクの
口
(
くち
)
に
般若湯
(
はんにやたう
)
、
241
渡
(
わた
)
りに
船
(
ふね
)
、
242
順風
(
じゆんぷう
)
に
帆
(
ほ
)
、
243
鑿
(
のみ
)
に
槌
(
つち
)
、
244
女房
(
にようばう
)
に
夫
(
おやぢ
)
、
245
老爺
(
ぢいさん
)
に
初孫
(
うひまご
)
、
246
どうした
拍子
(
ひやうし
)
の
瓢箪
(
へうたん
)
やら、
247
甘
(
うま
)
い
甘
(
おい
)
しい、
248
呑
(
のめ
)
や
甘
(
うま
)
い、
249
甘
(
うま
)
い
事
(
こと
)
づくめが
重
(
かさ
)
なつたものだ。
250
目出度
(
めでた
)
い
目出度
(
めでた
)
い、
251
お
目出度
(
めでた
)
い。
252
目出度
(
めでた
)
、
253
目出度
(
めでた
)
が
三
(
み
)
つ
重
(
かさ
)
なりて
鶴
(
つる
)
が
御門
(
ごもん
)
に
巣
(
す
)
をかける、
254
奥
(
おく
)
さま
館
(
やかた
)
にお
待
(
ま
)
ちかね。
255
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
もスパイをすつかりやめて、
256
人
(
ひと
)
の
嫌
(
いや
)
がる
探偵
(
たんてい
)
やめて、
257
バーチルさまの
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
になり、
258
お
世話
(
せわ
)
によつてお
酒
(
さけ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
確
(
しつか
)
り
勤
(
つと
)
めませう。
259
エヘヘヘ』
260
アキス『アハハハハ、
261
此奴
(
こいつ
)
は
面白
(
おもしろ
)
い。
262
酒
(
さけ
)
の
味
(
あぢ
)
のよい
御
(
ご
)
愛嬌
(
あいけう
)
だ、
263
さア
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
264
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
りませう』
265
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
266
道々
(
みちみち
)
元気
(
げんき
)
よく
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
267
ヤッコス
踊
(
をどり
)
を
踊
(
をど
)
りながら、
268
夏
(
なつ
)
の
草野
(
くさの
)
の
炎天
(
えんてん
)
を
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
269
アヅモス
山
(
さん
)
の
南麓
(
なんろく
)
に
老樹
(
らうじゆ
)
生
(
は
)
え
茂
(
しげ
)
つた
一
(
ひと
)
つの
森
(
もり
)
が
見
(
み
)
える。
270
それがバーチルの
広大
(
くわうだい
)
な
邸宅
(
ていたく
)
であつた。
271
(
大正一二・三・三〇
旧二・一四
於皆生温泉浜屋
加藤明子
録)
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