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第58巻(酉の巻)
序文
総説
第1篇 玉石混淆
01 神風
〔1476〕
02 多数尻
〔1477〕
03 怪散
〔1478〕
04 銅盥
〔1479〕
05 潔別
〔1480〕
第2篇 湖上神通
06 茶袋
〔1481〕
07 神船
〔1482〕
08 孤島
〔1483〕
09 湖月
〔1484〕
第3篇 千波万波
10 報恩
〔1485〕
11 欵乃
〔1486〕
12 素破抜
〔1487〕
13 兎耳
〔1488〕
14 猩々島
〔1489〕
15 哀別
〔1490〕
16 聖歌
〔1491〕
17 怪物
〔1492〕
18 船待
〔1493〕
第4篇 猩々潔白
19 舞踏
〔1494〕
20 酒談
〔1495〕
21 館帰
〔1496〕
22 獣婚
〔1497〕
23 昼餐
〔1498〕
24 礼祭
〔1499〕
25 万歳楽
〔1500〕
余白歌
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第八章
孤島
(
こたう
)
〔一四八三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
篇:
第2篇 湖上神通
よみ(新仮名遣い):
こじょうじんつう
章:
第8章 孤島
よみ(新仮名遣い):
ことう
通し章番号:
1483
口述日:
1923(大正12)年03月28日(旧02月12日)
口述場所:
皆生温泉 浜屋
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
テルモン湖には、バラモン教で罪を犯した者を流罪にするツミの島があった。ここは波が逆巻く孤島であり、罪人は食物も与えられずにここに捨てられるのであった。
バラモンの荒くれ男、ハール、ヤッコス、サボールの三人は船が難破して、ツミの島に打ち上げられた。そこには殺人罪で島に捨てられ、露命をつないでいたダルとメートがいた。ハールたち三人は食糧難の飢えに堪えかねて、ダルとメートを殺して食べようと付け狙った。
ダルとメートは激しく抵抗し、その勢いに辟易した三人の隙を狙って逃げ出した。ちょうど玉国別たちの船がツミの島に近づいたとき、五人は食うか食われるかの死闘を磯端に繰り広げていた。
玉国別たちが近づいてみると、五人は死闘の末に息も絶え絶えになってそれぞれ倒れていた。船頭は人食いの罪人たちを助けて罪になることに反対したが、玉国別は自分が責任を負うと請け負って船をつけさせた。
玉国別たちは島に上陸し、五人が倒れている磯端にやってきた。ヤッコスとメートはこれまでの経緯を語り、助けてほしいと玉国別たちに懇願した。一行は五人に食料を与えて船に乗せ、介抱しつつ船を出した。
真純彦、伊太彦は舟歌に述懐を乗せながら歌い、船は進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm5808
愛善世界社版:
99頁
八幡書店版:
第10輯 407頁
修補版:
校定版:
107頁
普及版:
39頁
初版:
ページ備考:
001
テルモン
湖水
(
こすい
)
の
真中
(
まんなか
)
に
002
波
(
なみ
)
に
漂
(
ただよ
)
ふ
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
003
全島
(
ぜんたう
)
巌
(
いはほ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
004
少
(
すこ
)
しばかりの
笹草
(
ささぐさ
)
が
005
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
に
点々
(
てんてん
)
と
006
僅
(
わづ
)
かに
生
(
は
)
えしツミの
島
(
しま
)
007
周回
(
しうくわい
)
一
(
いち
)
里
(
り
)
磯辺
(
いそばた
)
に
008
いつも
荒波
(
あらなみ
)
噛
(
か
)
みつきて
009
さも
凄惨
(
せいさん
)
の
気
(
き
)
に
充
(
み
)
ちぬ
010
そも
此
(
この
)
島
(
しま
)
は
罪人
(
つみびと
)
を
011
自
(
みづか
)
ら
命
(
いのち
)
終
(
をは
)
るまで
012
食物
(
しよくもつ
)
さへも
与
(
あた
)
へずに
013
流
(
なが
)
し
捨
(
す
)
つべき
地獄
(
ぢごく
)
なり
014
此
(
この
)
鬼島
(
おにじま
)
に
現
(
あら
)
はれし
015
憐
(
あは
)
れな
人
(
ひと
)
は
磯辺
(
いそばた
)
の
016
逆捲
(
さかま
)
く
波
(
なみ
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
みて
017
貝
(
かひ
)
をば
拾
(
ひろ
)
ひ
蟹
(
かに
)
を
採
(
と
)
り
018
僅
(
わづ
)
かに
露命
(
ろめい
)
をつなぎつつ
019
骨
(
ほね
)
と
皮
(
かは
)
とになり
果
(
は
)
てて
020
恰
(
あたか
)
も
餓鬼
(
がき
)
の
如
(
ごと
)
くなり
021
折
(
をり
)
から
来
(
きた
)
るバラモンの
022
四五
(
しご
)
の
勇士
(
ゆうし
)
は
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
023
傍
(
かたへ
)
の
沖
(
おき
)
を
通
(
とほ
)
る
折
(
をり
)
024
忽
(
たちま
)
ち
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
荒風
(
あらかぜ
)
に
025
無慙
(
むざん
)
や
船
(
ふね
)
を
暗礁
(
あんせう
)
に
026
突
(
つ
)
き
当
(
あ
)
て
忽
(
たちま
)
ちパリパリと
027
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
に
船体
(
せんたい
)
を
028
打挫
(
うちくだ
)
きたる
悲
(
かな
)
しさに
029
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
はツミの
島
(
しま
)
030
目当
(
めあて
)
に
漸
(
やうや
)
く
泳
(
およ
)
ぎ
着
(
つ
)
き
031
二人
(
ふたり
)
は
水
(
みづ
)
に
呑
(
の
)
まれつつ
032
どこともなしに
隠
(
かく
)
れける
033
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りし
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
034
ハール、ヤッコス、サボールの
035
バラモン
教
(
けう
)
で
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
036
荒
(
あら
)
くれ
男
(
をとこ
)
のヤンチヤ
者
(
もの
)
037
漸
(
やうや
)
くここに
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
038
殺人罪
(
さつじんざい
)
の
廉
(
かど
)
により
039
此
(
この
)
ツミ
島
(
じま
)
に
捨
(
す
)
てられし
040
ダルとメートの
両人
(
りやうにん
)
が
041
巌
(
いはほ
)
の
穴
(
あな
)
に
身
(
み
)
を
潜
(
ひそ
)
め
042
衣
(
ころも
)
も
着
(
つ
)
けず
真裸
(
まつぱだか
)
043
髯
(
ひげ
)
蓬々
(
ばうばう
)
と
猿
(
さる
)
の
如
(
ごと
)
044
髪
(
かみ
)
は
鳶
(
とんび
)
の
巣
(
す
)
の
様
(
やう
)
に
045
縺
(
もつ
)
れからみし
穴棲居
(
あなずまゐ
)
046
かかる
所
(
ところ
)
へ
船
(
ふね
)
を
割
(
わ
)
り
047
漂
(
ただよ
)
ひ
来
(
きた
)
りし
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
048
先
(
ま
)
づ
第一
(
だいいち
)
に
食糧
(
しよくりやう
)
を
049
探
(
さぐ
)
らむものと
磯辺
(
いそばた
)
を
050
彼方
(
かなた
)
此方
(
こなた
)
と
探
(
さが
)
せども
051
寄
(
よ
)
せては
返
(
かへ
)
す
荒波
(
あらなみ
)
の
052
危
(
あや
)
ふき
状
(
さま
)
に
辟易
(
へきえき
)
し
053
空
(
むな
)
しき
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へつつ
054
島
(
しま
)
の
遠近
(
をちこち
)
ウロウロと
055
尋
(
たづ
)
ね
逍遙
(
さまよ
)
ひ
漸
(
やうや
)
くに
056
此
(
この
)
岩窟
(
がんくつ
)
を
見付
(
みつ
)
け
出
(
だ
)
し
057
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
の
姿
(
すがた
)
をば
058
見
(
み
)
るより
早
(
はや
)
く
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
059
此
(
この
)
罪人
(
ざいにん
)
を
打殺
(
うちころ
)
し
060
当座
(
たうざ
)
の
餌
(
ゑじき
)
にせむものと
061
顔
(
かほ
)
見合
(
みあは
)
して
嫌
(
いや
)
らしく
062
笑
(
ゑみ
)
を
漏
(
もら
)
すぞ
恐
(
おそ
)
ろしき。
063
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は
漸
(
やうや
)
く
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
命
(
いのち
)
からがら
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
064
往来
(
ゆきき
)
の
船
(
ふね
)
も
少
(
すくな
)
く、
065
いつ
迄
(
まで
)
待
(
ま
)
つても
大陸
(
たいりく
)
へ
帰
(
かへ
)
る
見込
(
みこみ
)
がない。
066
山
(
やま
)
一面
(
いちめん
)
岩
(
いは
)
だらけで
草
(
くさ
)
の
根
(
ね
)
を
掘
(
ほ
)
つて
喰
(
く
)
ふ
事
(
こと
)
もならず、
067
磯辺
(
いそばた
)
の
貝
(
かひ
)
や
蟹
(
かに
)
を
漁
(
あさ
)
らむとすれども、
068
ここは
殊更
(
ことさら
)
湖中
(
こちう
)
の
波
(
なみ
)
荒
(
あら
)
き
所
(
ところ
)
、
069
到底
(
たうてい
)
一匹
(
いつぴき
)
の
蟹
(
かに
)
も
一芥
(
いつかい
)
の
貝
(
かひ
)
も
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬ。
070
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
餓死
(
がし
)
する
外
(
ほか
)
なき
破目
(
はめ
)
に
陥
(
おちい
)
つた。
071
何
(
なに
)
か
獲物
(
えもの
)
もがなと、
072
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
と
小
(
ちひ
)
さき
島
(
しま
)
を
隈
(
くま
)
なく
探
(
さが
)
し
廻
(
まは
)
り、
073
漸
(
やうや
)
く
此
(
この
)
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
二人
(
ふたり
)
の
罪人
(
ざいにん
)
が
痩
(
やせ
)
こけて
忍
(
しの
)
んで
居
(
を
)
るのに
気
(
き
)
がついた。
074
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
空腹
(
くうふく
)
に
堪
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ね
此
(
この
)
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
を
当座
(
たうざ
)
の
餌
(
ゑじき
)
にせむものと
恐
(
おそ
)
ろしき
心
(
こころ
)
を
起
(
おこ
)
し、
075
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
にツカツカと
立寄
(
たちよ
)
り、
076
矢庭
(
やには
)
に
一人
(
ひとり
)
を
引掴
(
ひつつか
)
み、
077
双方
(
さうはう
)
より
両
(
りやう
)
の
腕
(
うで
)
を
以
(
もつ
)
てメリメリと
力
(
ちから
)
限
(
かぎ
)
りに
むしり
取
(
と
)
らうとした。
078
一人
(
ひとり
)
の
男
(
をとこ
)
は
岩窟
(
いはや
)
に
隠
(
かく
)
しあつた
鋭利
(
えいり
)
な
石刀
(
いしがたな
)
を
揮
(
ふる
)
つて
一人
(
ひとり
)
の
友
(
とも
)
を
救
(
すく
)
はむと
立向
(
たちむか
)
ふた。
079
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
此
(
この
)
権幕
(
けんまく
)
に
恐
(
おそ
)
れてパツと
手
(
て
)
を
放
(
はな
)
した
途端
(
とたん
)
に、
080
さしもに
険峻
(
けんしゆん
)
な
岩山
(
いはやま
)
を
兎
(
うさぎ
)
の
如
(
ごと
)
く
逃
(
に
)
げ
登
(
のぼ
)
り、
081
頭上
(
づじやう
)
より
岩石
(
がんせき
)
の
片
(
かけ
)
を
拾
(
ひろ
)
つては
三
(
さん
)
人
(
にん
)
目蒐
(
めが
)
けて
投
(
な
)
げつける。
082
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
083
此
(
この
)
危険
(
きけん
)
を
免
(
まぬが
)
れむために
二人
(
ふたり
)
の
潜
(
ひそ
)
んで
居
(
ゐ
)
た
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
へ
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
した。
084
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
は、
085
最早
(
もはや
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
人喰
(
ひとく
)
ひ
人種
(
じんしゆ
)
が
吾
(
わ
)
が
投
(
な
)
げ
下
(
おろ
)
す
数多
(
あまた
)
の
岩石
(
がんせき
)
に
打
(
う
)
たれて
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
倒
(
たふ
)
れたるならむ、
086
久振
(
ひさしぶ
)
りにて
人肉
(
にんにく
)
の
暖
(
あたたか
)
き
奴
(
やつ
)
を
鱈腹
(
たらふく
)
喰
(
く
)
つて
元気
(
げんき
)
をつけむものと
色々
(
いろいろ
)
廻
(
まは
)
り
道
(
みち
)
して、
087
稍
(
やや
)
緩
(
ゆる
)
き
山腹
(
さんぷく
)
を
下
(
くだ
)
り
磯辺
(
いそばた
)
を
伝
(
つた
)
ふて
吾
(
わが
)
住
(
すま
)
ひたる
岩窟
(
いはや
)
の
側
(
そば
)
へ
寄
(
よ
)
つて
来
(
き
)
た。
088
見
(
み
)
れば
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
少
(
すこ
)
しの
怪我
(
けが
)
もなく
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
に
鼎坐
(
かなへざ
)
となつて
胡床
(
あぐら
)
をかき、
089
何事
(
なにごと
)
か
話
(
はなし
)
して
居
(
ゐ
)
る。
090
二人
(
ふたり
)
はこれを
見
(
み
)
るより『やア、
091
まだピチピチして
居
(
ゐ
)
る。
092
こりや
大変
(
たいへん
)
だ』と
磯端
(
いそばた
)
を
伝
(
つた
)
ひ、
093
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
逃
(
に
)
げ
出
(
いだ
)
す。
094
その
足音
(
あしおと
)
にハツと
気
(
き
)
がつき
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は『さア、
095
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
取掴
(
とつつか
)
まへて
口腹
(
こうふく
)
を
充
(
み
)
たさむもの』と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
二人
(
ふたり
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ふた。
096
二人
(
ふたり
)
は
小石
(
こいし
)
を
拾
(
ひろ
)
ひ
投
(
な
)
げつけ
乍
(
なが
)
ら
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
く。
097
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は『
己
(
おの
)
れ
逃
(
に
)
がしてなるものか、
098
山
(
やま
)
へ
上
(
あ
)
げては
大変
(
たいへん
)
』と
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
追
(
お
)
ふて
行
(
ゆ
)
く。
099
メート、
100
ダルの
両人
(
りやうにん
)
は
磯端
(
いそばた
)
の
簫
(
せう
)
を
立
(
た
)
てた
様
(
やう
)
な
岩
(
いは
)
の
前
(
まへ
)
に
追
(
お
)
ひ
捲
(
まく
)
られ、
101
進退
(
しんたい
)
維
(
これ
)
谷
(
きは
)
まり、
102
死物狂
(
しにものぐるひ
)
となつて
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
向
(
むか
)
ひ
組
(
く
)
みついた。
103
ここに
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
空腹者
(
くうふくしや
)
と、
104
痩
(
やせ
)
た
乍
(
なが
)
ら
蟹
(
かに
)
や
貝
(
かひ
)
に
腹
(
はら
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
105
饑餓
(
きが
)
に
慣
(
な
)
れて
居
(
ゐ
)
る
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
と
組
(
く
)
んず
組
(
く
)
まれつ、
106
磯端
(
いそばた
)
に
餓鬼
(
がき
)
同士
(
どうし
)
の
大活劇
(
だいくわつげき
)
を
演
(
えん
)
じて
居
(
ゐ
)
る。
107
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
乗
(
の
)
れる
船
(
ふね
)
は
四五丁
(
しごちやう
)
許
(
ばか
)
り
沖
(
おき
)
の
方
(
はう
)
を
白帆
(
しらほ
)
に
風
(
かぜ
)
を
孕
(
はら
)
ませ
乍
(
なが
)
ら
走
(
はし
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
108
舳
(
へさき
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
た
伊太彦
(
いたひこ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
な
島
(
しま
)
が
湖中
(
こちう
)
に
浮
(
う
)
かんで
居
(
ゐ
)
ると、
109
よくよく
見
(
み
)
れば
磯端
(
いそばた
)
に
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が
明瞭
(
はつき
)
り
分
(
わか
)
らねど、
110
何
(
なに
)
か
格闘
(
かくとう
)
をやつてる
様
(
やう
)
に
見
(
み
)
える。
111
直
(
ただ
)
ちに
苫葺
(
とまぶき
)
の
中
(
なか
)
に
潜
(
もぐ
)
り
込
(
こ
)
み、
112
伊太
(
いた
)
『もし
先生
(
せんせい
)
、
113
彼処
(
あそこ
)
に
不思議
(
ふしぎ
)
な
島
(
しま
)
が
浮
(
うか
)
んで
居
(
ゐ
)
ます。
114
そして
人間
(
にんげん
)
の
影
(
かげ
)
らしい
者
(
もの
)
が
磯端
(
いそばた
)
で
大喧嘩
(
おほげんくわ
)
をして
居
(
を
)
る
様
(
やう
)
ですが
一寸
(
ちよつと
)
御覧
(
ごらん
)
なさいませ』
115
玉国
(
たまくに
)
『うん、
116
大方
(
おほかた
)
有名
(
いうめい
)
なツミの
島
(
しま
)
の
側
(
そば
)
へ
近寄
(
ちかよ
)
つて
来
(
き
)
たのだらう、
117
彼処
(
あこ
)
には
大罪人
(
だいざいにん
)
が
押込
(
おしこ
)
めてあると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ、
118
可憐
(
かはい
)
さうなものだな』
119
伊太
(
いた
)
『どうでせう、
120
一
(
ひと
)
つ
船
(
ふね
)
を
寄
(
よ
)
せて
罪人
(
ざいにん
)
ならば
尚
(
なほ
)
の
事
(
こと
)
、
121
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し、
122
助
(
たす
)
けてやらうぢやありませぬか。
123
現在
(
げんざい
)
人
(
ひと
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
見
(
み
)
て
通
(
とほ
)
り
越
(
こ
)
すと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
吾々
(
われわれ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
勤
(
つと
)
めでは
厶
(
ござ
)
いますまいがな』
124
玉国
(
たまくに
)
『うん、
125
さうだ。
126
助
(
たす
)
けてやりたいものだ。
127
おい
船頭
(
せんどう
)
、
128
どうか
彼
(
あ
)
の
島
(
しま
)
へ
船
(
ふね
)
を
着
(
つ
)
けて
呉
(
く
)
れまいか』
129
船頭
(
せんどう
)
の
一人
(
ひとり
)
『はい、
130
仰
(
おほ
)
せとあれば
近
(
ちか
)
く
迄
(
まで
)
は
船
(
ふね
)
を
寄
(
よ
)
せて
見
(
み
)
ませうが、
131
彼処
(
あそこ
)
には
大変
(
たいへん
)
な
悪人
(
あくにん
)
ばかりで、
132
うつかり
船
(
ふね
)
でも
寄
(
よ
)
せやうものなら
喰
(
く
)
はれて
了
(
しま
)
ひますよ。
133
先繰
(
せんぐ
)
り
先繰
(
せんぐ
)
り
送
(
おく
)
られて
行
(
ゆ
)
く
奴
(
やつ
)
が
食物
(
しよくもつ
)
がない
為
(
ため
)
、
134
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
から
喰
(
く
)
はれて
了
(
しま
)
ひ、
135
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
は
手
(
て
)
にも
足
(
あし
)
にも
合
(
あ
)
はぬ
人鬼
(
ひとおに
)
ばかりだと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
です。
136
上陸
(
じやうりく
)
さへなさらねば
近
(
ちか
)
く
迄
(
まで
)
船
(
ふね
)
を
寄
(
よ
)
せて
見
(
み
)
ませう』
137
伊太彦
(
いたひこ
)
は
又
(
また
)
もや
舷頭
(
げんとう
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
138
伊太
(
いた
)
『おい、
139
船頭
(
せんどう
)
大変
(
たいへん
)
な
活劇
(
くわつげき
)
が
演
(
えん
)
ぜられて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
だ。
140
一
(
ひと
)
つ
見物
(
けんぶつ
)
して
行
(
ゆ
)
かうぢやないか』
141
船頭
(
せんどう
)
『そんなら
近
(
ちか
)
くまで
寄
(
よ
)
せて
見
(
み
)
ませう。
142
随分
(
ずいぶん
)
恐
(
おそ
)
ろしい
処
(
ところ
)
ですよ』
143
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
八挺櫓
(
はつちやうろ
)
を
漕
(
こ
)
いで
矢
(
や
)
を
射
(
い
)
る
如
(
ごと
)
く
島
(
しま
)
の
近辺
(
きんぺん
)
まで
船
(
ふね
)
を
寄
(
よ
)
せた。
144
島
(
しま
)
の
近
(
ちか
)
く
四五十
(
しごじつ
)
間
(
けん
)
の
間
(
あひだ
)
は、
145
どうしたものか
非常
(
ひじやう
)
に
波
(
なみ
)
高
(
たか
)
く
且
(
か
)
つ
暗礁
(
あんせう
)
点綴
(
てんてつ
)
して
実
(
じつ
)
に
危険
(
きけん
)
極
(
きは
)
まる
場所
(
ばしよ
)
である。
146
船頭
(
せんどう
)
は
巧
(
たくみ
)
に
暗礁
(
あんせう
)
をくぐり、
147
漸
(
やうや
)
くにして
十間
(
じつけん
)
ばかり
磯端
(
いそばた
)
の
手前
(
てまへ
)
に
近
(
ちか
)
づいた。
148
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
は
何
(
いづ
)
れもヘタヘタになつて
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えに
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
149
玉国
(
たまくに
)
『やア、
150
船頭
(
せんどう
)
、
151
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だがソツと
船
(
ふね
)
を
着
(
つ
)
けて
呉
(
く
)
れ。
152
どうやら
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が
互
(
たがひ
)
に
争
(
あらそ
)
ふた
結果
(
けつくわ
)
、
153
息
(
いき
)
も
絶
(
た
)
え
絶
(
だ
)
えになつてる
様
(
やう
)
だ。
154
何
(
なん
)
とかして
助
(
たす
)
けてやらねばならぬ』
155
船頭
(
せんどう
)
『もし、
156
お
客様
(
きやくさま
)
、
157
あの
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
を
助
(
たす
)
けやうものなら
大変
(
たいへん
)
、
158
此方
(
こちら
)
が
罪人
(
ざいにん
)
になり、
159
此
(
この
)
島
(
しま
)
へ
数多
(
あまた
)
の
兵士
(
へいし
)
に
送
(
おく
)
られて
永遠
(
えいゑん
)
に
捨
(
す
)
てられねばなりませぬ。
160
それはお
止
(
よ
)
しになつたが
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
いませう』
161
玉国
(
たまくに
)
『
何
(
なに
)
、
162
構
(
かま
)
ふものか。
163
人
(
ひと
)
の
難儀
(
なんぎ
)
を
見
(
み
)
て
吾々
(
われわれ
)
は
見逃
(
みのが
)
す
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬ。
164
さア
早
(
はや
)
く
船
(
ふね
)
を
着
(
つ
)
けて
呉
(
く
)
れ。
165
万一
(
まんいち
)
お
前
(
まへ
)
が
船
(
ふね
)
を
着
(
つ
)
けた
為
(
ため
)
、
166
罪人
(
ざいにん
)
になる
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
があつたら、
167
私
(
わし
)
が
弁解
(
べんかい
)
してやらう。
168
そして
屹度
(
きつと
)
助
(
たす
)
けるから
安心
(
あんしん
)
して
磯端
(
いそばた
)
に
寄
(
よ
)
せて
呉
(
く
)
れ』
169
船頭
(
せんどう
)
の
一人
(
ひとり
)
『そんなら
仰
(
おほ
)
せに
従
(
したが
)
ひ、
170
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
船
(
ふね
)
を
着
(
つ
)
けて
見
(
み
)
ませう』
171
と
稍
(
やや
)
湾形
(
わんけい
)
になつた
波
(
なみ
)
の
低
(
ひく
)
き
岩蔭
(
いはかげ
)
に
船
(
ふね
)
を
寄
(
よ
)
せた。
172
ここに
船頭
(
せんどう
)
は
船
(
ふね
)
を
固
(
かた
)
く
磯端
(
いそばた
)
の
岩
(
いは
)
に
縛
(
しば
)
りつけ、
173
波
(
なみ
)
に
攫
(
さら
)
はれて
漂流
(
へうりう
)
する
憂
(
うれ
)
ひなき
様
(
やう
)
、
174
幾筋
(
いくすぢ
)
も
綱
(
つな
)
を
曳
(
ひ
)
いて
繋
(
つな
)
ぎつけた。
175
玉国別
(
たまくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
は
磯端
(
いそばた
)
を
伝
(
つた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
176
五
(
ご
)
人
(
にん
)
が
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
る
側
(
そば
)
に
荒石
(
あらいし
)
を
跳
(
と
)
び
越
(
こ
)
え
跳
(
と
)
び
越
(
こ
)
え
進
(
すす
)
み
寄
(
よ
)
つた。
177
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
の
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めて
怪訝
(
けげん
)
な
顔
(
かほ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
178
伊太彦
(
いたひこ
)
は
先
(
ま
)
づ
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
側
(
そば
)
に
寄
(
よ
)
り、
179
伊太
(
いた
)
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は
斯
(
こ
)
んな
離
(
はな
)
れ
島
(
じま
)
に
何
(
なに
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
180
見
(
み
)
れば
各自
(
めいめい
)
に
顔
(
かほ
)
から
血
(
ち
)
を
出
(
だ
)
して
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
181
斯様
(
かやう
)
な
島
(
しま
)
へ
罪
(
つみ
)
あつて
流
(
なが
)
された
上
(
うへ
)
は、
182
互
(
たがひ
)
に
仲良
(
なかよ
)
く
暮
(
くら
)
したら
如何
(
どう
)
だ』
183
バラモン
軍
(
ぐん
)
のヤッコスはムクムクと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
184
顔
(
かほ
)
の
血糊
(
ちのり
)
を
手
(
て
)
にて
拭
(
ぬぐ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
185
ヤッコス『
私
(
わたくし
)
はハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
から
或
(
ある
)
使命
(
しめい
)
を
帯
(
お
)
びて
此
(
この
)
湖水
(
こすい
)
を
渡
(
わた
)
り、
186
北
(
きた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
む
折
(
をり
)
しも
暴風
(
ばうふう
)
に
遭
(
あ
)
ひ
暗礁
(
あんせう
)
に
衝突
(
しようとつ
)
し
船体
(
せんたい
)
は
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みぢん
)
となり、
187
二人
(
ふたり
)
の
同僚
(
どうれう
)
は
逆巻
(
さかま
)
く
波
(
なみ
)
に
呑
(
の
)
まれ
行衛
(
ゆくゑ
)
不明
(
ふめい
)
となり、
188
吾々
(
われわれ
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
漸
(
やうや
)
く
漂着
(
へうちやく
)
致
(
いた
)
しました。
189
別
(
べつ
)
に
怪
(
あや
)
しいものでは
厶
(
ござ
)
いませぬから、
190
何卒
(
どうぞ
)
お
助
(
たす
)
けを
願
(
ねが
)
ひます』
191
メート『
貴方
(
あなた
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
使
(
つかひ
)
と
見
(
み
)
えますが、
192
何卒
(
どうぞ
)
私
(
わたし
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
をお
助
(
たす
)
け
下
(
くだ
)
さいませ。
193
此
(
この
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
二時
(
ふたとき
)
ばかり
以前
(
いぜん
)
に
此処
(
ここ
)
へ
漂着
(
へうちやく
)
し、
194
吾々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
の
命
(
いのち
)
をとり、
195
餌食
(
ゑじき
)
にせむと
追
(
お
)
ひ
駆
(
か
)
けますので、
196
逃
(
に
)
げ
場
(
ば
)
を
失
(
うしな
)
ひ
死物狂
(
しにものぐるひ
)
となつて
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
ふて
居
(
ゐ
)
ましたが、
197
最早
(
もはや
)
力
(
ちから
)
尽
(
つ
)
き
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
も
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かなくなりました。
198
何卒
(
なにとぞ
)
憐
(
あは
)
れに
思
(
おも
)
ひ
命
(
いのち
)
をお
助
(
たす
)
け
願
(
ねが
)
ひます。
199
そして
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
何処
(
どこ
)
かへ
連
(
つ
)
れてお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
200
斯様
(
かやう
)
な
人喰
(
ひとくひ
)
人種
(
じんしゆ
)
が
此
(
この
)
島
(
しま
)
へ
居
(
を
)
りましては
吾々
(
われわれ
)
は
堪
(
たま
)
りませぬから』
201
と
嫌
(
いや
)
らしい
飛
(
と
)
び
出
(
だ
)
した
目
(
め
)
から
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
し
水鼻汁
(
みづばな
)
を
垂
(
た
)
らして
悲
(
かな
)
しげに
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
る。
202
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
船中
(
せんちう
)
に
貯
(
たくは
)
へあるパンを
取
(
と
)
り
出
(
いだ
)
し、
203
言葉
(
ことば
)
優
(
やさ
)
しく
五
(
ご
)
人
(
にん
)
に
取
(
と
)
らせ、
204
且
(
か
)
つ
種々
(
いろいろ
)
と
一同
(
いちどう
)
が
心
(
こころ
)
を
籠
(
こ
)
めて
介抱
(
かいはう
)
した。
205
五
(
ご
)
人
(
にん
)
はパンを
与
(
あた
)
へられ、
206
又
(
また
)
久振
(
ひさしぶ
)
りでダル、
207
メートは
真水
(
まみづ
)
を
与
(
あた
)
へられ、
208
嬉
(
うれ
)
し
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
き
乍
(
なが
)
ら、
209
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
掌
(
て
)
を
合
(
あは
)
せて
拝
(
をが
)
み
倒
(
たふ
)
して
居
(
ゐ
)
る。
210
三千彦
(
みちひこ
)
、
211
デビス
姫
(
ひめ
)
は
言葉
(
ことば
)
優
(
やさし
)
く
五
(
ご
)
人
(
にん
)
を
労
(
いたは
)
り、
212
足
(
あし
)
の
弱
(
よわ
)
つたものは
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
き、
213
或
(
あるひ
)
は
肩
(
かた
)
にかけ
等
(
など
)
して
乗
(
の
)
り
来
(
きた
)
りし
船
(
ふね
)
の
側
(
そば
)
近
(
ちか
)
く
誘
(
いざな
)
ひ
来
(
きた
)
り、
214
各自
(
めいめい
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
体
(
からだ
)
を
舁
(
か
)
く
様
(
やう
)
にして
船
(
ふね
)
の
中
(
なか
)
へ
救
(
すく
)
ひ
入
(
い
)
れ、
215
横
(
よこ
)
に
寝
(
ね
)
させ
又
(
また
)
もや
帆
(
ほ
)
を
上
(
あげ
)
て
南
(
みなみ
)
へ
南
(
みなみ
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
216
真純彦
(
ますみひこ
)
は
舷頭
(
げんとう
)
に
立
(
た
)
ち
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ふ。
217
三千彦
(
みちひこ
)
、
218
伊太彦
(
いたひこ
)
は
舷
(
ふなばた
)
を
叩
(
たた
)
いて
潔
(
いさぎよ
)
く
拍子
(
ひやうし
)
を
取
(
と
)
る。
219
真純彦
(
ますみひこ
)
『テルモン
湖水
(
こすい
)
の
真中
(
まんなか
)
に
220
波
(
なみ
)
を
浴
(
あ
)
びつつ
衝
(
つ
)
つ
立
(
た
)
てる
221
名
(
な
)
も
恐
(
おそ
)
ろしきツミの
島
(
しま
)
222
人喰
(
ひとくひ
)
人種
(
じんしゆ
)
か
知
(
し
)
らねども
223
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るよりも
224
いとど
憐
(
あは
)
れを
催
(
もよほ
)
して
225
見捨
(
みす
)
て
兼
(
か
)
ねたる
吾
(
わが
)
一行
(
いつかう
)
226
危
(
あやふ
)
き
暗礁
(
あんせう
)
潜
(
くぐ
)
りぬけ
227
漸
(
やうや
)
く
船
(
ふね
)
を
磯端
(
いそばた
)
に
228
繋
(
つな
)
ぎてここに
上陸
(
じやうりく
)
し
229
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
を
相救
(
あひすく
)
ひ
230
目無
(
めなし
)
堅間
(
かたま
)
の
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せ
231
折
(
をり
)
から
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
順風
(
じゆんぷう
)
に
232
帆
(
ほ
)
を
孕
(
はら
)
ませて
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
233
船
(
ふね
)
辷
(
すべ
)
らして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
234
如何
(
いか
)
なる
罪
(
つみ
)
を
犯
(
をか
)
せしか
235
事
(
こと
)
の
次第
(
しだい
)
は
知
(
し
)
らねども
236
人
(
ひと
)
は
天地
(
てんち
)
の
分霊
(
わけみたま
)
237
ムザムザ
殺
(
ころ
)
すものならず
238
バラモン
国
(
ごく
)
の
掟
(
おきて
)
とし
239
罪人
(
ざいにん
)
なりと
憎
(
にく
)
しみて
240
鳥
(
とり
)
も
通
(
かよ
)
はぬ
此
(
この
)
島
(
しま
)
に
241
情
(
つれ
)
なく
捨
(
す
)
てて
自滅
(
じめつ
)
をば
242
待
(
ま
)
たすと
云
(
い
)
ふは
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
243
呆
(
あき
)
れ
果
(
は
)
てたる
制度
(
せいど
)
なり
244
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
245
如何
(
いか
)
なる
罪
(
つみ
)
も
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
し
246
悪
(
あし
)
き
心
(
こころ
)
や
行
(
おこな
)
ひを
247
改
(
あらた
)
めしめて
天国
(
てんごく
)
の
248
神苑
(
みその
)
に
救
(
すく
)
ふ
三五
(
あななひ
)
の
249
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
250
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
かれメート、ダル
251
二人
(
ふたり
)
の
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
は
三五
(
あななひ
)
の
252
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
が
預
(
あづか
)
りて
253
身
(
み
)
を
安全
(
あんぜん
)
に
何処
(
どこ
)
迄
(
まで
)
も
254
心
(
こころ
)
を
籠
(
こ
)
めて
守
(
まも
)
るべし
255
さはさり
乍
(
なが
)
ら
両人
(
りやうにん
)
よ
256
今日
(
けふ
)
を
境
(
さかひ
)
に
村肝
(
むらきも
)
の
257
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
改
(
あらた
)
めて
258
悪
(
あく
)
と
虚偽
(
きよぎ
)
との
行
(
おこな
)
ひを
259
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
悔悟
(
くわいご
)
して
260
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
適
(
かな
)
へかし
261
神
(
かみ
)
は
汝
(
なんぢ
)
と
倶
(
とも
)
にあり
262
神
(
かみ
)
に
任
(
まか
)
せし
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
は
263
世
(
よ
)
に
恐
(
おそ
)
るべきものはなし
264
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
265
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐ
)
みを
朝夕
(
あさゆふ
)
に
266
心
(
こころ
)
に
深
(
ふか
)
く
刻
(
きざ
)
み
込
(
こ
)
み
267
束
(
つか
)
の
間
(
あひだ
)
も
忘
(
わす
)
れなよ
268
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
269
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
270
荒波
(
あらなみ
)
猛
(
たけ
)
り
狂
(
くる
)
ふとも
271
仮令
(
たとへ
)
神船
(
みふね
)
は
覆
(
かへ
)
るとも
272
仁慈
(
じんじ
)
の
神
(
かみ
)
の
在
(
ま
)
す
限
(
かぎ
)
り
273
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
はあらざらめ
274
勇
(
いさ
)
めよ
勇
(
いさ
)
め
皆
(
みな
)
勇
(
いさ
)
め
275
バラモン
軍
(
ぐん
)
に
仕
(
つか
)
へたる
276
ヤッコス、ハール、サボールよ
277
汝
(
なんぢ
)
も
今
(
いま
)
より
心
(
こころ
)
をば
278
よく
改
(
あらた
)
めて
三五
(
あななひ
)
の
279
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
くがよい
280
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
281
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
命
(
めい
)
を
受
(
う
)
け
282
これの
湖水
(
こすい
)
を
渡
(
わた
)
りしは
283
三五教
(
あななひけう
)
の
神軍
(
しんぐん
)
を
284
途中
(
とちう
)
に
喰
(
く
)
ひとめ
進路
(
しんろ
)
をば
285
妨
(
さまた
)
げせむとの
企
(
たく
)
みぞと
286
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
早
(
はや
)
くも
覚
(
さと
)
りけり
287
さはさりながら
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
288
敵
(
てき
)
もなければ
仇
(
あだ
)
もない
289
天地
(
てんち
)
の
間
(
あひだ
)
に
人
(
ひと
)
となり
290
同
(
おな
)
じ
月日
(
つきひ
)
の
光
(
ひかり
)
をば
291
浴
(
あ
)
びて
此
(
この
)
世
(
よ
)
にある
限
(
かぎ
)
り
292
互
(
たがひ
)
に
助
(
たす
)
け
睦
(
むつ
)
び
合
(
あ
)
ひ
293
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つを
楯
(
たて
)
として
294
互
(
たがひ
)
に
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
き
現世
(
うつしよ
)
を
295
楽
(
たの
)
しく
嬉
(
うれ
)
しく
面白
(
おもしろ
)
く
296
渡
(
わた
)
るが
人
(
ひと
)
の
務
(
つと
)
めぞや
297
必
(
かなら
)
ず
悪
(
あく
)
に
迷
(
まよ
)
ふなよ
298
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
299
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
真純彦
(
ますみひこ
)
が
300
荒波
(
あらなみ
)
猛
(
たけ
)
る
湖
(
うみ
)
の
上
(
うへ
)
301
神
(
かみ
)
に
代
(
かは
)
りて
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
す
302
ああ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
303
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
304
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
船底
(
せんてい
)
にコトコトと
鼓
(
つづみ
)
を
拍
(
う
)
たせ
乍
(
なが
)
ら
際限
(
さいげん
)
なき
湖上
(
こじやう
)
を
辷
(
すべ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
305
(
大正一二・三・二八
旧二・一二
於皆生温泉浜屋
北村隆光
録)
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