玉国別一行は初稚丸を猩々島の磯辺に付けた。見れば、大なる猩々が人間とも猿ともわからぬ子を抱いている。その傍には髯をむしゃむしゃと生やした人間が立っている。
伊太彦の呼びかけに、バーチルは答えて身の上を話しだした。猩々たちは人間たちがたくさんやってきたので遠巻きにして様子をうかがっている。
玉国別はバーチルとの間に子をなした猩々を憐れに思い、一緒に船に乗せて帰ることはできないかと聞いた。バーチルは、この猩々の女王は自分の群れを島のさまざまな危険から守っているため、仲間を捨てて人間と共に島を出ることはないだろうと答えた。
ともあれ、バーチルを故郷に帰すことになった。バラモン組のヤッコス、サボール、ハールの三人が猩々の子供らを追いかけて遊んでいる間に、初稚丸はバーチルを乗せて島を離れた。
猩々の女王はバーチルが去っていくのを見て悲鳴を上げ、子供を示してバーチルの帰還を促したが、バーチルが帰ってこないのを悟ると、子供を絞め殺して自分も藤蔓に重い石をくくりつけて入水してしまった。この惨状を船上から見て、玉国別の一行は悲嘆にくれた。
ヤッコス、サボール、ハールの三人は自分たちが置いて行かれたことに気が付いて磯端で地団太を踏んで叫んでいる。メートとダルの二人は、悪事を企んだ報いだと三人を嘲笑した。初稚丸は西南指して進んで行く。
船上の一行は、猩々島での一件を述懐の歌にそれぞれ歌いこんだ。船は潮流に乗って進んでいたが、イールは船が魔の海の潮流に流れ込み、方向転換ができないことを告げた。バーチルの故郷・スマの港には遠回りになるが、それほど危険はないことを宣伝使たちに報告した。