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第64巻(卯の巻)下
序文
総説
第1篇 復活転活
01 復活祭
〔1807〕
02 逆襲
〔1808〕
03 草居谷底
〔1809〕
04 誤霊城
〔1810〕
05 横恋慕
〔1811〕
第2篇 鬼薊の花
06 金酒結婚
〔1812〕
07 虎角
〔1813〕
08 擬侠心
〔1814〕
09 狂怪戦
〔1815〕
10 拘淫
〔1816〕
第3篇 開花落花
11 狂擬怪
〔1817〕
12 開狂式
〔1818〕
13 漆別
〔1819〕
14 花曇
〔1820〕
15 騒淫ホテル
〔1821〕
第4篇 清風一過
16 誤辛折
〔1822〕
17 茶粕
〔1823〕
18 誠と偽
〔1824〕
19 笑拙種
〔1825〕
20 猫鞍干
〔1826〕
21 不意の官命
〔1827〕
22 帰国と鬼哭
〔1828〕
余白歌
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第一二章
開狂式
(
かいきやうしき
)
〔一八一八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下
篇:
第3篇 開花落花
よみ(新仮名遣い):
かいからっか
章:
第12章 開狂式
よみ(新仮名遣い):
かいきょうしき
通し章番号:
1818
口述日:
1925(大正14)年08月20日(旧07月1日)
口述場所:
丹後由良 秋田別荘
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1925(大正14)年11月7日
概要:
舞台:
僧院ホテルの座敷
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
主な登場人物
[?]
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2017-11-26 19:02:12
OBC :
rm64b12
愛善世界社版:
162頁
八幡書店版:
第11輯 556頁
修補版:
校定版:
165頁
普及版:
63頁
初版:
ページ備考:
001
守宮別
(
やもりわけ
)
、
002
お
花
(
はな
)
、
003
ヤクの
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
004
僧院
(
そうゐん
)
ホテルの
立派
(
りつぱ
)
なる
座敷
(
ざしき
)
を、
005
三間
(
みま
)
ぶつ
通
(
とほ
)
しに
借
(
か
)
り
切
(
き
)
り、
006
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
には、
007
新
(
しん
)
ウラナイ
教
(
けう
)
の
御
(
ご
)
本尊
(
ほんぞん
)
、
008
シオンの
娘
(
むすめ
)
、
009
木花
(
このはな
)
咲耶姫
(
さくやひめ
)
を
奉斎
(
ほうさい
)
し、
010
その
生宮
(
いきみや
)
として、
011
アヤメのお
花
(
はな
)
は
天晴
(
あつぱれ
)
教主
(
けうしゆ
)
となり
済
(
す
)
ますこととした。
012
発起者
(
ほつきしや
)
は
夫婦
(
ふうふ
)
主従
(
しゆじう
)
〆
(
しめ
)
て
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
013
先
(
ま
)
づ
祭典
(
さいてん
)
も
無事
(
ぶじ
)
に
済
(
す
)
み、
014
直会
(
なほらひ
)
の
酒宴
(
しゆえん
)
に
移
(
うつ
)
つた。
015
守宮別
(
やもりわけ
)
は
新宗教
(
しんしうけう
)
創立
(
さうりつ
)
を
祝
(
しゆく
)
する
為
(
た
)
め、
016
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
つ
払
(
ぱら
)
つた
怪
(
あや
)
しい
口元
(
くちもと
)
から、
017
祝歌
(
しゆくか
)
を
歌
(
うた
)
ふ。
018
守宮別
『
天
(
てん
)
も
清浄
(
しやうじやう
)
地
(
ち
)
も
清浄
(
しやうじやう
)
019
清浄
(
しやうじやう
)
無垢
(
むく
)
の
御
(
ご
)
霊体
(
れいたい
)
020
アヤメの
君
(
きみ
)
は
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に
021
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
022
世界
(
せかい
)
に
名高
(
なだか
)
き
神
(
かみ
)
の
山
(
やま
)
023
シオンの
娘
(
むすめ
)
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
の
024
咲耶
(
さくや
)
の
姫
(
ひめ
)
と
現
(
あ
)
れまして
025
浮瀬
(
うきせ
)
に
沈
(
しづ
)
む
民草
(
たみぐさ
)
を
026
愛
(
あい
)
と
善
(
ぜん
)
との
神徳
(
しんとく
)
に
027
御霊
(
みたま
)
を
包
(
つつ
)
み
信真
(
しんしん
)
の
028
光
(
ひかり
)
を
世界
(
せかい
)
に
輝
(
かがや
)
かし
029
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
を
開
(
ひら
)
かむと
030
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
ひし
尊
(
たふと
)
さよ
031
扨
(
さ
)
ても
世界
(
せかい
)
の
初
(
はじ
)
まりは
032
神
(
かむ
)
伊邪那岐
(
いざなぎ
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
033
神
(
かむ
)
伊邪那美
(
いざなみ
)
の
大御神
(
おほみかみ
)
034
夫婦
(
ふうふ
)
の
神
(
かみ
)
が
現
(
あ
)
れまして
035
天
(
あめ
)
の
御柱
(
みはしら
)
国柱
(
くにばしら
)
036
見立
(
みた
)
て
玉
(
たま
)
ひて
汝
(
な
)
は
右
(
みぎ
)
へ
037
廻
(
めぐ
)
らせ
給
(
たま
)
へ
吾
(
あ
)
は
左
(
ひだり
)
038
廻
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
はむと
宣
(
の
)
り
給
(
たま
)
ひ
039
婚
(
とつぎ
)
の
業
(
わざ
)
を
初
(
はじ
)
めまし
040
諸多
(
あまた
)
の
御子
(
みこ
)
を
生
(
う
)
み
生
(
う
)
みて
041
生
(
う
)
みの
果
(
は
)
てには
山川
(
やまかは
)
や
042
草木
(
くさき
)
の
神
(
かみ
)
迄
(
まで
)
造
(
つく
)
りまし
043
遂
(
つひ
)
には
光明
(
くわうみやう
)
赫々
(
かくかく
)
と
044
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
る
大
(
おほ
)
日婁女
(
ひるめ
)
045
天照
(
あまて
)
る
神
(
かみ
)
を
生
(
う
)
み
給
(
たま
)
ひ
046
広
(
ひろ
)
き
世界
(
せかい
)
に
神国
(
しんこく
)
を
047
立
(
た
)
てさせ
給
(
たま
)
ひし
古事
(
ふるごと
)
に
048
習
(
なら
)
ひまつりて
吾々
(
われわれ
)
は
049
那岐
(
なぎ
)
那美
(
なみ
)
二尊
(
にそん
)
にかたどつて
050
アヤメの
君
(
きみ
)
と
盃
(
さかづき
)
を
051
いとり
交
(
かは
)
しつ
神
(
かみ
)
の
為
(
た
)
め
052
世人
(
よびと
)
の
為
(
た
)
めに
聖場
(
せいじやう
)
を
053
これの
聖地
(
せいち
)
につき
堅
(
かた
)
め
054
百
(
もも
)
の
人草
(
ひとぐさ
)
草木
(
くさき
)
迄
(
まで
)
055
救
(
すく
)
はむ
為
(
た
)
めのこの
祭
(
まつり
)
056
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
057
アヤメの
君
(
きみ
)
があればこそ
058
ヤクの
奴
(
やつこ
)
が
居
(
を
)
ればこそ
059
守宮別
(
やもりわけ
)
の
太柱
(
ふとばしら
)
060
添
(
そ
)
ふて
居
(
を
)
りやこそ
今日
(
けふ
)
のよな
061
誠
(
まこと
)
に
誠
(
まこと
)
に
結構
(
けつこう
)
な
062
新宗教
(
しんしうけう
)
の
創立
(
さうりつ
)
が
063
完全
(
くわんぜん
)
無欠
(
むけつ
)
に
出来
(
でき
)
たのだ
064
もしもお
寅
(
とら
)
が
居
(
を
)
つたなら
065
一
(
いち
)
から
百
(
ひやく
)
迄
(
まで
)
蕪
(
かぶら
)
から
066
菜種
(
なたね
)
の
屑
(
くづ
)
に
至
(
いた
)
るまで
067
ごてごてごてとさし
出口
(
でぐち
)
068
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
を
069
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
されて
吾々
(
われわれ
)
は
070
一生
(
いつしやう
)
頭
(
あたま
)
が
上
(
あが
)
らない
071
これを
思
(
おも
)
へば
此間
(
こなひだ
)
の
072
喧嘩
(
けんくわ
)
は
却
(
かへつ
)
て
吾々
(
われわれ
)
の
073
大幸福
(
だいかうふく
)
となつたやうだ
074
昔
(
むかし
)
の
古
(
ふる
)
い
諺
(
ことわざ
)
に
075
人間
(
にんげん
)
万事
(
ばんじ
)
塞翁
(
さいをう
)
の
076
馬
(
うま
)
の
糞
(
くそ
)
とはよく
云
(
い
)
つた
077
わいが
の
烈
(
はげ
)
しい
女神
(
めがみ
)
さま
078
何程
(
なにほど
)
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
と
云
(
い
)
つたとて
079
鼻持
(
はなもち
)
ならず
好物
(
かうぶつ
)
の
080
酒
(
さけ
)
さへ
味
(
あぢ
)
が
悪
(
わる
)
くなる
081
シオンの
娘
(
むすめ
)
と
現
(
あ
)
れませる
082
アヤメのお
花
(
はな
)
の
教主
(
けうしゆ
)
さま
083
わいが
も
とべら
も
有
(
あ
)
りはせぬ
084
頭
(
あたま
)
に
霜
(
しも
)
は
見
(
み
)
ゆれども
085
却
(
かへつ
)
て
雅趣
(
がしゆ
)
を
添
(
そ
)
へるよだ
086
これも
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
さまの
087
水
(
みづ
)
も
漏
(
もら
)
さぬ
御
(
おん
)
仕組
(
しぐみ
)
088
守宮別
(
やもりわけ
)
も
二三十
(
にさんじふ
)
年
(
ねん
)
089
若返
(
わかがへ
)
りたる
心地
(
ここち
)
する
090
あゝ
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い
091
何
(
なに
)
より
彼
(
か
)
より
第一
(
だいいち
)
に
092
命
(
いのち
)
の
水
(
みづ
)
の
酒
(
さけ
)
呑
(
の
)
みて
093
昔
(
むかし
)
の
綺麗
(
きれい
)
なナイスをば
094
座右
(
ざう
)
に
侍
(
はべ
)
らし
優姿
(
やさすがた
)
095
梅花
(
ばいくわ
)
のやうな
唇
(
くちびる
)
の
096
間
(
あひ
)
からチヨイチヨイ
現
(
あら
)
はれる
097
象牙
(
ざうげ
)
のやうな
歯
(
は
)
の
光
(
ひかり
)
098
瑪瑙
(
めなう
)
のやうな
爪
(
つめ
)
の
色
(
いろ
)
099
梅花
(
ばいくわ
)
のやうな
頬
(
ほほ
)
の
艶
(
つや
)
100
天地
(
てんち
)
の
幸福
(
かうふく
)
一身
(
いつしん
)
に
101
独占
(
どくせん
)
したやうな
気
(
き
)
がしよる
102
エヘヽヽヽヽエヘヽヽヽ
103
コンナ
所
(
ところ
)
をお
寅
(
とら
)
奴
(
め
)
が
104
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いた
事
(
こと
)
ならば
105
嘸
(
さぞ
)
や
泣
(
な
)
くだろ
怒
(
おこ
)
るだろ
106
二人
(
ふたり
)
の
髻
(
たぶさ
)
をひつ
掴
(
つか
)
み
107
金切声
(
かなきりごゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
108
近所
(
きんじよ
)
合壁
(
がつぺき
)
大騒動
(
おほさうだう
)
109
燗徳利
(
かんどつくり
)
は
宙
(
ちう
)
に
舞
(
ま
)
ひ
110
お
膳
(
ぜん
)
や
茶碗
(
ちやわん
)
はがちやがちやと
111
木端
(
こつぱ
)
微塵
(
みじん
)
に
潰滅
(
くわいめつ
)
し
112
嵐
(
あらし
)
の
跡
(
あと
)
の
花
(
はな
)
の
山
(
やま
)
113
見
(
み
)
る
影
(
かげ
)
も
無
(
な
)
き
惨状
(
さんじやう
)
を
114
現出
(
げんしゆつ
)
するに
違
(
ちが
)
ひない
115
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
116
御霊
(
みたま
)
の
恩頼
(
ふゆ
)
を
願
(
ね
)
ぎまつる』
117
お花
『オホヽヽヽ、
118
遉
(
さすが
)
はこちの
人
(
ひと
)
、
119
何
(
なん
)
とまア
当意
(
たうい
)
即妙
(
そくめう
)
の
結構
(
けつこう
)
なお
歌
(
うた
)
だ
事
(
こと
)
。
120
傍
(
そば
)
に
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
ても
胸
(
むね
)
がすき、
121
頭
(
あたま
)
がせいせいとして
来
(
き
)
ますわ。
122
なぜ
又
(
また
)
旦那
(
だんな
)
さまはコンナ
知恵
(
ちゑ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
ながら、
123
今迄
(
いままで
)
隠
(
かく
)
して
居
(
ゐ
)
たのですか。
124
鼠
(
ねずみ
)
とる
猫
(
ねこ
)
は
爪
(
つめ
)
隠
(
かく
)
すとは
能
(
よ
)
く
云
(
い
)
つたものだなア。
125
アヤメのお
花
(
はな
)
の
一身
(
いつしん
)
に
対
(
たい
)
しては、
126
本当
(
ほんたう
)
に
旦那
(
だんな
)
さまは
好
(
い
)
い
掘
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
しものだよ』
127
守宮別
『これこれ
肉宮
(
にくみや
)
さま、
128
縁起
(
えんぎ
)
の
悪
(
わる
)
い、
129
放出
(
ほりだ
)
し
者
(
もの
)
だなどと
云
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひますまいぞや。
130
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らぬと
云
(
い
)
ふて
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
されては
耐
(
たま
)
らないからな』
131
お花
『ホヽヽヽヽ。
132
妾
(
わたし
)
は
決
(
けつ
)
して
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
しませぬよ。
133
旦那
(
だんな
)
さまの
方
(
はう
)
から
放
(
ほ
)
り
出
(
で
)
ないやうに
頼
(
たの
)
みますわ』
134
守宮別
『よし、
135
そのだんは
安心
(
あんしん
)
して
呉
(
く
)
れ。
136
棚池
(
たないけ
)
の
生洲
(
いけす
)
の
鼬
(
いたち
)
がついたやうなものだ。
137
命
(
いのち
)
のない
所
(
とこ
)
迄
(
まで
)
離
(
はな
)
れつこは
無
(
な
)
いからな』
138
お花
『あれ
程
(
ほど
)
大切
(
たいせつ
)
にして
居
(
を
)
られたお
寅
(
とら
)
さまでさへも、
139
弊履
(
へいり
)
を
捨
(
す
)
つるが
如
(
ごと
)
くに
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
をして
厶
(
ござ
)
るのだもの。
140
第二
(
だいに
)
のお
寅
(
とら
)
さまにしられちや
耐
(
たま
)
りませぬからね』
141
守宮別
『そこ
迄
(
まで
)
心配
(
しんぱい
)
しては
際限
(
さいげん
)
がない。
142
俺
(
おれ
)
がお
前
(
まへ
)
を
愛
(
あい
)
する
程度
(
ていど
)
といふものは、
143
丸切
(
まるき
)
り
砂糖
(
さたう
)
の
固
(
かたま
)
りに
蟻
(
あり
)
がついたやうなものだよ。
144
も
一
(
ひと
)
つ
違
(
ちが
)
つたら、
145
蛙
(
かへる
)
を
狙
(
ねら
)
ふ
蛇
(
へび
)
のやうなものだ、
146
どこ
迄
(
まで
)
も
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
にくつついて
行
(
ゆ
)
くのだからなア』
147
お花
『ホヽヽヽ、
148
砂糖
(
さたう
)
に
蟻
(
あり
)
がついたなぞと、
149
余
(
あま
)
り
有難
(
ありがた
)
くもありませぬわ』
150
守宮別
『それでもお
花
(
はな
)
、
151
いや
女房
(
にようばう
)
、
152
生宮
(
いきみや
)
さま、
153
有難
(
ありがた
)
いよ。
154
甘
(
あま
)
いものは
ありがたがる
、
155
えぐい
ものや
苦
(
にが
)
いものは
ありがたがらぬ
、
156
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があらうがな』
157
お花
『
旦那
(
だんな
)
さまは、
158
妾
(
わたし
)
を
余程
(
よほど
)
甘
(
あま
)
いと
見縊
(
みく
)
びつて
厶
(
ござ
)
るのですな。
159
砂糖
(
さたう
)
に
譬
(
たとへ
)
るとは
余
(
あんま
)
りですわ』
160
守宮別
『それやお
花
(
はな
)
は
甘
(
あま
)
いよ、
161
花
(
はな
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
みな
甘
(
あま
)
い
蜜
(
みつ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るので、
162
蜜蜂
(
みつばち
)
やドカ
蜂
(
ばち
)
がブンブンと
喰
(
くら
)
ひつくぢやないか。
163
俺
(
おれ
)
だつてお
花
(
はな
)
の
蜜
(
みつ
)
を
吸
(
す
)
ひたくなるのは
当然
(
たうぜん
)
だよ。
164
お
花
(
はな
)
は
砂糖
(
さたう
)
でもあり、
165
砂糖
(
さたう
)
よりまだ
甘
(
あま
)
い
佐渡
(
さど
)
の
土
(
つち
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るから、
166
尚
(
な
)
ほ
俺
(
おれ
)
が
好
(
す
)
きなのだよ。
167
エヘヽヽヽ』
168
お花
『
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても
佐渡
(
さど
)
の
土
(
つち
)
だナンテ、
169
旧
(
ふる
)
めかしい
文句
(
もんく
)
を
云
(
い
)
ふて
下
(
くだ
)
さいますな。
170
ホヽヽヽヽ』
171
守宮別
『これ
肉宮
(
にくみや
)
さま。
172
今日
(
けふ
)
は
創立
(
さうりつ
)
の
祝
(
いは
)
ひだから、
173
肝腎
(
かんじん
)
の
生宮
(
いきみや
)
さまから
宣言歌
(
せんげんか
)
を
歌
(
うた
)
つて
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものですな』
174
お花
『なんだか
衒
(
て
)
れくさくて
歌
(
うた
)
へませぬわ』
175
守宮別
『ヘン、
176
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
177
矢張
(
やつぱ
)
り
結婚
(
けつこん
)
すると、
178
娘
(
むすめ
)
のやうに
恥
(
はづ
)
かしさが
分
(
わか
)
るのかいな。
179
非
(
ひ
)
が
蛇
(
じや
)
でも、
180
蟻
(
あり
)
が
鯛
(
たひ
)
でも、
181
芋虫
(
いもむし
)
が
鯨
(
くぢら
)
でも、
182
山
(
やま
)
の
芋
(
いも
)
が
鰻
(
うなぎ
)
になつても、
183
笹
(
ささ
)
の
葉
(
は
)
が
鰌
(
どぢやう
)
になつても、
184
今日
(
けふ
)
許
(
ばか
)
りは
宣言歌
(
せんげんか
)
をお
謡
(
うた
)
ひなさらにや
駄目
(
だめ
)
ですよ。
185
その
歌
(
うた
)
をつけとめて
置
(
お
)
いて
印刷屋
(
いんさつや
)
へ
廻
(
まは
)
し、
186
ビラを
作
(
つく
)
つて
自動車
(
じどうしや
)
に
乗
(
の
)
り、
187
市中
(
しちう
)
へバラ
撒
(
ま
)
かねばならぬからな』
188
お花
『ナントまア。
189
救世主
(
きうせいしゆ
)
にならうと
思
(
おも
)
へば
気
(
き
)
の
張
(
は
)
る
事
(
こと
)
だわい。
190
ソンナラ シオンの
娘
(
むすめ
)
、
191
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
宣言歌
(
せんげんか
)
を
謡
(
うた
)
ひませう。
192
一言
(
ひとこと
)
も
漏
(
も
)
れなくつけとめて
下
(
くだ
)
されや』
193
守宮別
『エ、
194
宜
(
よろ
)
しい。
195
承
(
うけたま
)
はりました。
196
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
197
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
198
ヤクさまの
方
(
はう
)
が
余程
(
よほど
)
筆
(
ふで
)
が
達者
(
たつしや
)
だからなア。
199
ヤク、
200
お
前
(
まへ
)
が
一
(
ひと
)
つ
筆記役
(
ひつきやく
)
になつて
呉
(
く
)
れないか』
201
ヤク
『ハイ
謹
(
つつし
)
みて
御用
(
ごよう
)
承
(
うけたま
)
はりませう』
202
守宮別
『ウンよしよし、
203
アこれで
謡
(
うた
)
ひ
役
(
やく
)
に、
204
聞
(
き
)
き
役
(
やく
)
、
205
書
(
か
)
き
役
(
やく
)
と、
206
三拍子
(
さんびやうし
)
揃
(
そろ
)
ふた。
207
目出度
(
めでた
)
い
目出度
(
めでた
)
い、
208
サア
生宮
(
いきみや
)
様
(
さま
)
、
209
歌
(
うた
)
ひなされやお
歌
(
うた
)
ひなされ
210
歌
(
うた
)
ふて
御
(
ご
)
器量
(
きりやう
)
は
下
(
さが
)
りやせぬ
211
あーコリヤコリヤ』
212
と
謡
(
うた
)
ふて
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り
踊
(
をど
)
り
始
(
はじ
)
める。
213
アヤメのお
花
(
はな
)
は
日
(
ひ
)
の
丸
(
まる
)
の
扇
(
あふぎ
)
を
両手
(
りやうて
)
に
持
(
も
)
ち、
214
長
(
なが
)
い
裾
(
すそ
)
を
引
(
ひ
)
きずつて、
215
すらすらとお
手
(
て
)
のものの
踊
(
をどり
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
したり。
216
お花
『
此処
(
ここ
)
は
世界
(
せかい
)
の
中心
(
ちうしん
)
地点
(
ちてん
)
217
暗
(
やみ
)
の
世界
(
せかい
)
もパレスチナの
218
珍
(
うづ
)
の
都
(
みやこ
)
のエルサレム
219
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
220
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
時
(
とき
)
は
来
(
き
)
て
221
前代
(
ぜんだい
)
未聞
(
みもん
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
222
シオンの
娘
(
むすめ
)
木花
(
このはな
)
の
223
咲耶
(
さくや
)
の
姫
(
ひめ
)
が
再臨
(
さいりん
)
し
224
アヤメのお
花
(
はな
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
225
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
使用
(
しよう
)
して
226
お
寅
(
とら
)
婆
(
ば
)
さまやブラバーサ
227
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
宣伝使
(
せんでんし
)
228
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
打
(
たた
)
きつけ
229
至粋
(
しすゐ
)
至純
(
しじゆん
)
の
聖道
(
せいだう
)
を
230
開
(
ひら
)
くも
尊
(
たふと
)
き
今日
(
けふ
)
の
宵
(
よひ
)
231
花
(
はな
)
も
匂
(
にほ
)
へよ
蝶
(
てふ
)
も
舞
(
ま
)
へ
232
千歳
(
ちとせ
)
の
鶴
(
つる
)
も
舞
(
ま
)
ひ
込
(
こ
)
めよ
233
亀
(
かめ
)
も
這
(
は
)
ひ
込
(
こ
)
んで
万歳
(
ばんざい
)
を
234
祝
(
ことほ
)
ぎまつれ
神
(
かみ
)
の
家
(
いへ
)
235
やがて
独立
(
どくりつ
)
宗教
(
しうけう
)
の
236
大看板
(
だいかんばん
)
を
掲
(
かか
)
げつつ
237
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
民衆
(
みんしう
)
に
238
歓喜
(
くわんき
)
の
雨
(
あめ
)
を
濺
(
そそ
)
ぎかけ
239
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
240
生神
(
いきがみ
)
さまと
謡
(
うた
)
はるる
241
其
(
その
)
暁
(
あかつき
)
も
近
(
ちか
)
づいた
242
竜宮海
(
りうぐうかい
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
も
243
今日
(
こんにち
)
限
(
かぎ
)
り
暇
(
ひま
)
呉
(
く
)
れて
244
三十二
(
さんじふに
)
相
(
さう
)
又
(
また
)
三相
(
さんさう
)
245
具備
(
ぐび
)
し
給
(
たま
)
へる
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
の
246
姫
(
ひめ
)
の
尊
(
みこと
)
の
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
247
アヤメのお
花
(
はな
)
が
今
(
いま
)
茲
(
ここ
)
に
248
シオンの
娘
(
むすめ
)
と
現
(
あら
)
はれて
249
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
隅々
(
すみずみ
)
も
250
漏
(
もら
)
さず
落
(
おと
)
さず
救
(
すく
)
ひ
行
(
ゆ
)
く
251
実
(
げ
)
にも
目出度
(
めでた
)
き
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
は
252
天
(
てん
)
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
り
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
は
253
春
(
はる
)
の
青草
(
あをぐさ
)
萠
(
も
)
え
出
(
い
)
でて
254
開闢
(
かいびやく
)
以来
(
いらい
)
の
救
(
すく
)
ひ
主
(
ぬし
)
255
大降臨
(
だいかうりん
)
を
待
(
ま
)
つ
如
(
ごと
)
し
256
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
有難
(
ありがた
)
や
257
喜
(
よろこ
)
び
祝
(
いは
)
へ
百
(
もも
)
の
人
(
ひと
)
258
慕
(
した
)
ひまつれよ
救世主
(
きうせいしゆ
)
259
アヤメのお
花
(
はな
)
の
肉宮
(
にくみや
)
を。
260
ホヽヽヽヽ、
261
どうかこれ
位
(
くらゐ
)
で
耐
(
こ
)
らへて
頂戴
(
ちやうだい
)
な。
262
何
(
なん
)
だか
恥
(
はづ
)
かしくて
後
(
あと
)
が
続
(
つづ
)
きませぬもの』
263
守宮別
『
妙々
(
めうめう
)
。
264
天晴
(
あつぱれ
)
々々
(
あつぱれ
)
。
265
天下
(
てんか
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
だなア。
266
ヤク、
267
お
前
(
まへ
)
も
感心
(
かんしん
)
しただらう。
268
お
寅
(
とら
)
さまに
比
(
くら
)
べて、
269
どちらが
立派
(
りつぱ
)
だと
思
(
おも
)
ふか』
270
ヤク
『それやさうですな、
271
本当
(
ほんたう
)
にさうですよ』
272
守宮別
『そりやさうですな、
273
では
分
(
わか
)
らぬぢやないか、
274
どちらが
優
(
すぐ
)
れて
居
(
ゐ
)
るかと
問
(
と
)
ふて
居
(
ゐ
)
るのだ』
275
ヤク
『ヘエヘエ、
276
それやもう、
277
テンで
段
(
だん
)
が
違
(
ちが
)
ひますわい、
278
比
(
くら
)
べものになりませぬがな』
279
お花
『これこれヤクさま、
280
どちらが
優
(
すぐ
)
れて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふのだい』
281
ヤク
『ハイ、
282
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても、
283
かんと
云
(
い
)
つても
何
(
なん
)
ですな。
284
それや
矢張
(
やつぱ
)
り、
285
優
(
すぐ
)
れて
居
(
ゐ
)
る
方
(
はう
)
が
優
(
すぐ
)
れて
居
(
ゐ
)
ますなア』
286
お花
『
怪体
(
けつたい
)
な
事
(
こと
)
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
だな。
287
ハツキリ
云
(
い
)
ひなさらぬかいな』
288
ヤク
『
御
(
ご
)
本人
(
ほんにん
)
の
前
(
まへ
)
ですもの、
289
大抵
(
たいてい
)
にして
御
(
ご
)
推量
(
すいりやう
)
下
(
くだ
)
さいな』
290
お
花
(
はな
)
は
自分
(
じぶん
)
が
褒
(
ほ
)
められて
居
(
ゐ
)
るのだと
思
(
おも
)
ひ、
291
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
292
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
め、
293
横目
(
よこめ
)
でヤクの
顔
(
かほ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
ながら、
294
お花
『ホヽヽヽ、
295
遉
(
さすが
)
はヤクさまは
目
(
め
)
が
高
(
たか
)
いわい。
296
それでこそ
守宮別
(
やもりわけ
)
さまの
添
(
そ
)
へ
柱
(
ばしら
)
、
297
確
(
しつか
)
り
頼
(
たの
)
みますぞや』
298
直会
(
なほらひ
)
の
式
(
しき
)
も
漸
(
やうや
)
く
終了
(
しうれう
)
し、
299
お
花
(
はな
)
が
郵便局
(
ゆうびんきよく
)
から
出
(
だ
)
して
来
(
き
)
た
三千
(
さんぜん
)
円
(
ゑん
)
の
現金
(
げんなま
)
を
懐中
(
くわいちう
)
しながら、
300
新宗教
(
しんしうけう
)
独立
(
どくりつ
)
の
運動
(
うんどう
)
をして
来
(
く
)
ると
云
(
い
)
ひ
残
(
のこ
)
し、
301
守宮別
(
やもりわけ
)
は
漂然
(
へうぜん
)
としてホテルを
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
302
タゴールの
館
(
やかた
)
へは
行
(
ゆ
)
かず、
303
駅前
(
えきまへ
)
の
青楼
(
せいろう
)
さして
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
304
(
大正一四・八・二〇
旧七・一
於由良秋田別荘
加藤明子
録)
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