第一一章 瀑下の乙女〔一九九二〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
篇:第2篇 竜宮風景
よみ(新仮名遣い):りゅうぐうふうけい
章:第11章 瀑下の乙女
よみ(新仮名遣い):ばっかのおとめ
通し章番号:1992
口述日:1934(昭和9)年07月18日(旧06月7日)
口述場所:関東別院南風閣
筆録者:白石恵子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:大竜身彦の命は、艶男のために、竜宮島第一の景勝地・鏡湖の下方の琴滝に寝殿を作って住まわせた。
艶男はこの寝殿で朝夕、天津祝詞や生言霊を奏上して、竜の島根の開発を祈っていた。竜神族の女神たちは、この寝殿の広庭に集まって艶男の言霊を聞きに集まっていた。
その言霊の力で、あたりに散在する巨岩は瑪瑙に変わり、滝のしぶきにぬれた面を日光に映して、得もいわれぬ光沢を放っていた。
ある朝、艶男が滝の光景を称える言霊歌を歌い終わると、夜の明けた庭に、竜宮城に仕える見目形優れた七乙女が、何事かをしきりに祈っているのが見えた。
艶男が七人に何を祈っているかを問い掛けると、七人の乙女、白萩・白菊・女郎花・燕子花・菖蒲・撫子・藤袴はそれぞれ、艶男への思いを打ち明け、せめて声を聞くためにここに来ているのだ、と歌った。
艶男は、七人の乙女に言い寄られて、ただどうしようもない自分を嘆く歌を歌うのみであった。
滝の落ちる剣の池の砂は、艶男の言霊によって金銀となり、水底の白珊瑚は乙女たちの赤き心によって赤珊瑚に染まり、滝のしぶきは珊瑚の枝に真珠・瑪瑙・黄金・白金に変じた。天地瑞祥の気はあたりに充満し、孔雀、鳳凰、迦陵頻伽が太平を歌う声が四辺から響いてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7911
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 220頁
修補版:
校定版:213頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 大竜身彦の命は、002水上山の聖場より、003はろばろ波の秀を踏み渡り来りし御祖の神の御子艶男を優遇せむと、004種々焦慮の結果、005竜宮島第一の景勝地たる鏡湖の下方、006琴滝を庭園に取り入れ、007大峡小峡の木材を伐り集め、008碧瓦赤壁の寝殿を造り、009此処に住まはす事となりぬ。010琴滝は鏡湖の水を集めて、011ここに千丈の広布を掛けし如く、012昼夜間断なく琴の音を響かせ、013その荘厳雄大なること言語に絶するばかりなりける。
014 艶男は朝な夕な此寝殿に、015天津祝詞や生言霊を奏上して、016竜の島根の開発を祈りつつありけるが、017数多の女神たちは、018その円満清朗なる声にあこがれ、019その端麗なる容姿に恋慕して、020この寝殿の広庭に集り来り、021言霊の練習をかたはら励みつつ、022天国の楽しみに浸りける。023この滝の落つる清泉を剣の池と称ふ。
024 朝な夕なに宣り上ぐる言霊の力によりて、025地の面に散在する巨巌は、026忽ち瑪瑙と変じ、027滝のしぶきに漏れし面を日光映じて、028得も言はれぬ光沢を放ちたり。
029 艶男は欄干に立ちて歌ふ。
030『鏡の湖の真清水を
033天の河原の落つるかと
036珍の水音聞きながら
038神の賜ひし言霊の
039水火を清めて鳴り渡る
043他にはあらじと夜な夜なを
044眠らず起き居て見つ聞きつ
045常世の春を歓ぐなり
047大魚や小魚は群がりて
049天地の恵を仰ぐなり
051竜宮の島根かしら滝の
052漲り落つる水音は
053天地の神の御声かも
057生きの生命を楽しまむ
058一二三四五六七八九十百千万
059千万神たち守らせ給へ』
060 斯かる折しも鶏鳴暁を告げて、061翼の白き鵲は、062剣の池のほとりに群れ来り、063清殿の屋上にカーカーと啼き狂ふ。
064 湖の白鳥は、065何時の間にか剣の池に集り来り、066艶男が言霊を聞かむとするものの如く見えにける。
067 ほのぼのと明けはなれたる庭の面をよく見れば、068竜宮城に仕へたる数多の乙女の中に、069眉目形優れたる七乙女が、070池の面に向ひて合掌し、071何事かしきりに祈り居る。
072 艶男は欄干に立ちて此の光景を眺めながら、
073『烏羽玉の夜は明けにけりわが庭の
074池の面清く乙女立たせり
075よく見れば七人乙女の優姿
076何を祈るか聞かまほしけれ』
077 此の七乙女は、078白萩、079白菊、080女郎花、081燕子花、082菖蒲、083撫子、084藤袴と言へる侍女神なりける。
086『うるはしき君の御声にひかれつつ
087思はず知らず此処に来つるも
088御姿を見るにつけても魂勇み
089生きの生命の栄えこそすれ
090滝津瀬の音にまぎれぬ言霊の
091君の力の大いなるかな
092夜な夜なを夢に現に汝が面
093わが目に浮きて眠らえぬかな
094せめてもの思ひ晴らすとわれは今
095剣の池の清水掬ぶも
096此水は生命の清水真清水よ
097汝が目にふれし生命の水よ
098此処に来て恋てふものを悟りけり
100朝夕に宣らす言霊響かひて
101わが胸先は高鳴りにけり』
103『いたづきに悩むわれなり真心の
104君に報ゆる術なきを恥づ』
106『いたづきの身におはすとも何かあらむ
107君の言霊にわが心満てり』
110恋しきままに朝を来にけり
111わが心剣の池の真清水と
113恋しさの綱にひかれて朝まだき
114君の住まへる側近く来つ
115御声を聞くにつけても勇ましく
117白妙の衣まとひし汝が君の
119時じくに言霊放つ琴滝の
120それにも増して清き君はも
121わが願よし叶はずも君許に
122ありて御声を聞かば嬉しき
123白菊は山野に匂へば艶人の
124御手に手折らるよすがさへなし
125野に匂ふ白菊の花も御恵の
127一度の露の情を浴びむとて
128滝の麓にわれは来つるも
129白菊の花は優しと思召せ
132『いとこやの乙女の姿たしたしに
134優しかる七乙女らの御姿
136此島に渡り来てよりめづらしき
137ものを見る哉まなかひ清く
138珍しきものの中にもとりわけて
139愛らしきかな七乙女たち
140水中の月に等しきわれなれば
141汝が優しきかげを見るのみ』
143『剣池底の真砂もたしたしに
144見ゆる清しき君にもあるかな
145あこがれの心おさへて夜な夜なを
146われは涙に袖を濡らせり
147滝津瀬のしぶきを浴びてわが袖は
148涙と共に濡れにけらしな
149一夜さのつゆの情をたまへかし
150伊吹の裾野に咲く女郎花よ
151巌を噛む滝津瀬の音高ければ
152わが言の葉も消えむとぞする
153悲しさをうたふ心を打消して
154落ちたぎつかも琴滝の音
155如何にしておもひの丈を語らむと
156思ふも詮なし高き滝の音に
157剣池の泉を隔てて欄干に
158立たす君なりわれ如何にせむ
159池水の深き心を悟れかし
161君おもふ心の糸のもつれあひて
162とく術もなき小田巻の吾』
164『乙女らの悲しき心悟れども
165われ国津神許させ給へ
166千早振る神に誓ひてわれは今
167汝をめぐしと言挙げおくなり
168さりながら夜の契は許せかし
169神に仕ふるわれは艶男』
171『千万の生言霊を宣らすとも
173玉の緒のよしや生命は亡するとも
174一夜の枕かはさで止むべき
175七乙女悲しき心をよそにして
176君は捨つるかわれらが真心を
177世の中に情を知らぬ男の子なれば
178鬼よ魍魎よ魂なし男の子よ
179どこまでも此真心の届かねば
180鬼となりても君悩まさむ
181悩ましの心与へし君なれば
182まことの鬼の姿とぞ思ふ
183君よ君如何に怒らせ給ふとも
184われは恐れじ飽くまで恨みむ
185恨みわび玉の生命は捨つるとも
186わが魂は暫しも離れじ
187君なくばわれは悩まし朝宵を
188玉の生命は亡せむとぞする
189悩ましさ苦しさ故に朝まだき
190御声聞かむと迷ひ来つるも
191君が手に打ち叩かれて罷るとも
192われは恨みじ嘆かじと思ふ
193いたづきの身なりと宣らす言の葉を
194われは諾ふ弱き女にあらず
195玉の緒の生命をかけて恋したる
197あこがれて只いたづらに亡ぶよりも
198汝が生命をとりて笑まむか
199かくならば最早厭はじ人の目も
200神の怒りもものの数かは
201鬼となり雷となり魔となりて
202君の生命を奪はむと思ふ』
203 艶男は燕子花の猛烈なる恋に稍辟易しながら、204悄然として歌ふ。
205『思ひきや此島ケ根にかくの如
206強き乙女の雄猛び聞くとは
207見も知らぬ島に渡りて思はざる
208人に思はれ苦しとおもふ
209如何程に情の言葉宣らすとも
211わが生命奪はるるとも恨みまじ
212情のこもる刃と思へば』
213 かく歌ひながら、214艶男は早や燕子花の猛烈なる恋愛に、215到底反抗するの勇気なく、216彼が意に従ふべしとの覚悟を極めて居たりけるが、217そしらぬ体をよそほひて、
218『天地の神に願をかけし後
219われは応へむ暫しを待たれよ』
221『御言葉に間違ひなくばわれとても
222心安めて時を待たなむ』
224『乙女等の赤き心のかたまりて
225真砂は赤く染まりけるかな
226赤玉の光さやけき君故に
227御池の鯉も赤く染まれり
228次々に赤くなりゆく魚族の
229色に見えたりわれらが真心
230池の辺に匂ふ菖蒲の紫を
231君に捧げむ受けさせ給へ
232水底に一本生ひし白珊瑚も
234珍しき赤き珊瑚の梢には
235黄金白銀真珠の花咲く
236水の面に枝をさし出し珊瑚樹は
237見る見るうちに空に伸び行く
238艶男の君の心のあらはれか
239乙女の心か皆赤くなりぬ
240汀辺の瑪瑙の巌もつぎつぎに
241色は変りてわが面うつせり
242昔よりかかる例もあら滝の
243落ちこむ庭のめづらしき哉
244及ばざる恋と思へどわが心
246只一人君に語らふ力なく
247七人乙女さそひて来れり
248恥かしさ恋しさ故にわれはただ
249言挙げもせず黙し居たりき
250かくなればわれは恐れじ只君の
251めぐしと宣らす御声聞きたし
252御姿見るにつけてもわが胸の
253高鳴り止まず苦しき朝なり』
255『伊吹山尾根に麓に咲き匂ふ
256撫子今日は汀辺に匂ふ
257八尋殿の欄干に立たす御姿
258見れば清しも白萩に似て
259生命までかけて恋せし乙女子の
260優しき心を君は捨つるや
261よしやよし君に焦れて罷るとも
262われは悔まじ恨まじと思ふ
263力なく淋しくふるふ撫子の
264君が御目にとまらぬ悲しさ
265七乙女ここに揃ひて恋語る
266悲しき心を君は知らずや
267世の中に情を知らぬ益良男は
268鬼の化身か悪魔の化身か
269乙女らのいやなき心聞し召して
270怒らせ給ふな真心の声よ』
272『七乙女いやつぎつぎに真心を
273述ぶれど君は木耳の耳か
274見るかげもなき草花の藤袴
276花の香はあまり見えねど藤袴
277底の心を汲ませ給はれ
278朝夕を峯の狭霧に包まれて
280かくまでも真心の丈を繰り返し
281繰り返せども音なしの君
282うちつけに恋の征矢をば放ちつつ
283血に泣く乙女はほととぎすかも』
285『七乙女朝な夕なに集ひ来て
287天の下に男の子と生れしわれなれば
288ひとりは許せ天地の神
289乙女らの真心聞きてわれは唯
290泣くより他に術なかりけり』
291 剣の池の金砂銀砂は、292艶男の言霊によりて真誠の金銀と変化し、293水底に一本生ひし白珊瑚は乙女の赤き心に染まりしか、294次第々々に色を増して赤珊瑚と変じ、295滝のしぶきは珊瑚の梢にとどまりて、296真珠、297瑪瑙、298黄金、299白銀と咲き匂ひ、300天地瑞祥の気は四辺に充満し、301孔雀、302鳳凰、303迦陵頻伽の泰平をうたふ声四辺より響き来れる。
304 ああ惟神霊幸倍坐世。
305(昭和九・七・一八 旧六・七 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)