第一八章 言霊の幸〔一九九九〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
篇:第3篇 伊吹の山颪
よみ(新仮名遣い):いぶきのやまおろし
章:第18章 言霊の幸
よみ(新仮名遣い):ことたまのさち
通し章番号:1999
口述日:1934(昭和9)年07月19日(旧06月8日)
口述場所:関東別院南風閣
筆録者:林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:竜の島根は、艶男が姿を消してより、大竜身彦の命と弟姫の神は奥殿深く姿を隠し、また七乙女の半分以上も姿を消してしまったため、火の消えたようなさびしい有様となってしまった。
七乙女のうち、取り残された撫子、桜木、藤袴をはじめ、島の姫神たちは、嘆きのあまり伊吹山の鏡湖の汀に集まり、天を仰いで日夜慟哭しながらおのおの述懐の歌を述べていた。
すると、鏡湖の水を左右に分けて昇ってきた女神は、海津見姫の神であった。竜神族の女神たちははっとひれ伏して敬意を表した。
海津見姫の神は、天の数歌を授け、人の姿になるために、人身となるまで言霊を宣り上げるようにと諭した。
これより、島根の竜神たちは、昼夜絶えることなく天の数歌を宣りあげると、一年後には完全な人身と生まれ変わった。竜の島は、宝の島、美人の島、生命の島と称えられるにいたった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7918
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 254頁
修補版:
校定版:341頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 ゆくりなくも竜の島の花と称へし艶男の君の、002一夜のうちに姿消え失せしより、003大竜身彦の命を始め、004弟姫の神は歎かひの余り、005奥殿深く御戸を閉して入り給ひ、006七日七夜を経るも表に出でさせ給はず、007流石華やかなりし黄金花咲く竜の島も、008火の消えし如き寂寥の神苑となりける。009それに加へて白菊、010白萩、011女郎花、012燕子花の七乙女は、013半ば以上この島より影をかくしたれば、014寂寥ますます加はり、015烏羽玉の闇の幕は深く閉しける。
016 七乙女の中に取り残されし撫子、017桜木、018藤袴を始め、019数限りなき島ケ根の姫神たちは、020歎きの余り伊吹山の南面中腹に展開せる鏡湖の汀に集り来り、021天を仰ぎ、022地に俯して、023日夜慟哭しながら、024各自に述懐を述べ居たりける。
026『物思ふ心は一入深みたり
027恋ふしき君の姿なければ
028橘のあかぬ匂ひに染りたる
029嬉しき夢も覚め果てにけり
030撫子と覚でさせ給ひしその君は
032移りゆく花の香りと思へども
033果敢なきものは吾身なりけり
035惜しくも風に散りゆきしはや
036別れ路を惜しむ心は湖の
037鏡に見えて小波のうつも
038春雨は夜の間に降りてあはれあはれ
039桜の君は散り果てにけり
040一度は散るべき花と思ひつつ
041なほ惜しまるる春の宵かな
042幾日幾夜竜の乙女の憧れし
044山風に誘はれて散りし初花の
045行方も波の空に消えしか』
047『散らさじと思ひ初めにし桜木の
048花恥かしき色はうつれり
049心なき花の姿に憧れて
051やがて散る花にも蝶のとまり来て
052惜しむを知らぬ山桜かな
053わが身には仇花なりと知りながら
055朝夕に心を尽して珍しみし
056島山桜あはれ影なし
057常春の島に匂ひし初花の
058露の香りは失せにけらしな
059山に野に花は匂へど艶男の
060君に勝れる顔はなし
061かくの如歎きの花と知らざりき
062嵐も吹かで散りゆく君を
063汀辺に伊寄り集ひて歎けども
065桜咲くこの島ケ根に残されて
066空に知られぬ雨にくるるも
067さまざまの望み抱きて今日までも
069橘の花にも似たる吾故に
070恋ふしさ一入深かりにけり
071千早振る遠き神代の昔より
073竜宮の宝の花と仰ぎてし
074花橘の香は失せにけり
075雲霧となりてかくれし艶男の
076花の姿の惜しまるるかな』
078『現身の世は悲しけれこの島に
080玉の緒の生命の綱と頼みてし
081力の君は今やいまさず
082藤袴の花はもろくも夜の雨に
084夜もすがら地に伏しつつ歎けども
085生くべき生命と思はざりけり
086池の辺に紫匂ふ燕子花の
087花の姿も見えずなりけり
088白萩の花は夜の間に散り失せて
090いづ方に散り果てたるか白菊の
091花の香りは早や島になし
092伊吹山処狭きまで匂ひたる
093女郎花今かげだにもなし
094百花の匂ふも知らで逃げさりし
095人の心をうらめしみおもふ』
097『雛罌粟の花は萎れてかげ寂し
099朝夕をかこち歎けど口なしの
100花恥かしも君は見えなく
101この島は歎きの島か雛罌粟の
102露は恵みに捨てられにける
103かくの如歎かひの日にあはむとは
104思はざりしよ朝な夕なを
105百年も千年も君にまみえむと
106願ひし事は夢なりしかな
107夜な夜なを夢にまみえて楽しみし
108花の姿は見る由もなき
109風吹かばその君思ひ雨降らば
111汀辺に打ち寄す波も淋しげに
112聞え来るなり花なき島根は
113百千花咲き匂へども橘の
114君のよそほひ仰ぐ術なし
115月も日も輝き給ふこの島に
116住みて小暗きわが思ひかな』
117 島の女神たちは、118各自別れを惜しみ、119歎きの歌をうたひつつ、120悄然たる折もあれ、121鏡湖の水を左右に別ちて、122悠々と昇り来る女神は、123海津見姫の神に坐しまし、124以前の如く二柱の侍女神を伴ひ給へり。125数多の姫神たちは、126はつと一度に汀にひれ伏し敬意を表しつつありけるが、127海津見の神は汀辺にスツクと立たせ給ひ、128儼然として宣り給ふやう、
129『竜神の歎きおもひてわれは今
130宮の大門を開き来つるよ
131艶男の逃げ去りたるも竜神の
132姿に怖ぢさせ給へばなりけむ
133今日よりは各自に言霊を
134宣れよ歌へよ人となるまで
135竜神の木草も土も悉く
136生きて栄えて言霊を宣れ
137言霊の光しあれば竜神の
138あやしき姿も世に輝かむ
139太刀膚の見苦しき姿改めて
140玉の肌持つ人の子となれ
141言霊の助くる国に生れながら
143わが宣らむ生言霊に神ならひ
144時じく宣らへ貴の言霊
145一二三四五六七八九十百千万』
146と宣り終へ、147再び波を左右に引き分け、148海津見の宮を指して帰らせ給ひける。
149 これより島根の竜神は、150昼夜間断なく、151覚束なき声を放ちて、152天の数歌を宣りければ、153約一ケ年の後には、154全き人身と生れ替り、155世にも目出度き宝の島、156美人の島、157生命の島と称へらるるに至りけり。
158 ああ尊きかも言霊の妙用。
159(昭和九・七・一九 旧六・八 於関東別院南風閣 林弥生謹録)