第一七章 還元竜神〔一九九八〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
篇:第3篇 伊吹の山颪
よみ(新仮名遣い):いぶきのやまおろし
章:第17章 還元竜神
よみ(新仮名遣い):かんげんりゅうじん
通し章番号:1998
口述日:1934(昭和9)年07月19日(旧06月8日)
口述場所:関東別院南風閣
筆録者:谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:白菊と白萩は、思う存分泣こうと嘆きの述懐歌を歌いあっていた。そこへ、同じ思いを持つ女郎花が悄然と入り来て、ともに同じ思いを打ち明けあっていた。
そうするうちに、桂木の森をそよがせてやってくる神があった。見れば、艶男である。三人の女神ははっと驚いて、呆然として艶男を見つめていた。
艶男は、自分の肉体はすでに水上山の故郷に帰ったが、三人の真心に引かれて、生言霊が消息を告げにやってきたのだ、と語った。そして、自分の突然の帰還を詫び、燕子花は共に水上山にあることを伝え、三人にそれぞれ歌を送ると、さっと潮風に乗って白雲の奥深くに消えてしまった。
三人の女神は艶男・燕子花の消息を知ると、日ごろの思いを達しようと矢も盾もたまらず、元の竜体になると、湖中にとびこんで南を指して泳ぎ進んでいった。
三柱の竜神は、浦水の浜辺についたが、夜中であったので、多い側の河口からひそかに水上山の聖地へと上っていった。一度竜体になると、容易には人面に戻ることができないので、大井川の対岸の藤の丘という、樹木が密生する場所に忍び住むこととした。
これより、艶男は三竜神の魂に夜な夜な引き込まれ、とつぜん大井川の川辺が恋しくなり、暇があるたびに駒を駆って川を渡り、藤が丘の谷間に遊んでいた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7917
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 251頁
修補版:
校定版:330頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 白萩は白菊と共に深き憂に沈みながら、002百津桂樹の森に分け入り、003思ふ存分泣かむものと、004籠樹の蔭に立ちて述懐を歌ふ。
005白菊『匂へども手折る人なき一本の
007伊吹山嵐にふるふ一本の
009いろいろと花は匂へど白菊の
011艶男の花の香りはいづらなる
012風の便りを聞くよしもなし
013艶男の君の手折らす白菊の
015きせ綿を吹きはらはれし白菊の
016花は涙の露にしをれつ
017吾恋ふる君の情の露もなく
019滝津瀬のしぶきの露も白菊の
021八重に咲く竜の宮居の白菊の
022花恥かしも水鏡見れば
023八千年の菊の香りを楽しみし
024甲斐もあらなく秋風吹きぬ
025白菊をかざして御前に奉ると
027白銀の色香を保つ白菊の
028薫りはあせて木枯寒し
029君は淡く吾白菊の色は濃く
031竜神の貴の島根に匂ひてし
032花ははかなく木枯に散るも
033吾思ふ心の丈も白菊の
035なげきても返らぬものと思ひつつ
036なほ歎かるる森の下かげ
037君ゆゑに生きの生命の延びちぢみ
038ある世はかなし泡沫の夢
039会はざればかくも心をいためまじ
040君が色香のあせたるくるしさ』
042『君は早や吾の姿にあき萩の
043うてなに吹ける木枯なりしよ
044白萩の露にかたむくよそほひを
046歎けども如何にせむすべしら萩の
048天かけり地かけるとも恋ふる君の
049後をば追はむとひたに思ふも
050いたづらに死する生命の思はれて
051今一度を会はむとぞ思ふ
052吾心清く正しく花咲けば
053想像妊娠まむ白萩の露
054あざやかに御国に匂ふ白萩の
055花もしをれぬ乾ける露に
056白萩の露の生命は惜しまねど
057想像妊娠みし子をいかにせむ
058この里の女神はことごと艶男の
059御子をまさしく想像妊娠める
060よしやよし貴のうまし子生まるとも
061父なき思へば如何にかなしき』
062 かかる時、063同じ思ひの女郎花は長袖に面を覆ひながら、064只一人悄然として入り来り、065桂樹の蔭に二人の女神のひそめるを見て、066稍驚きながら、
067『伊吹山匂ふ白萩、白菊の
068君にまさずや吾は女郎花よ
069よもすがら君の姿の見えぬより
070吾はい寝ずに明けにけらしな
071姫神はいづれも姿をかくしつつ
072あなたこなたの樹蔭に歎けり
073吾も亦人目をよぎて泣かむかと
075 白菊、076白萩は、077女郎花の来れるに驚きの目を見はりながら、078恥かしげに歌ふ。
079『恋すてふ心はおなじ友垣の
080共泣く今日はかなしき日なるよ
081歎くとも及ばざるらむ天地の
082神に祈りて会ふ日待つべし
083せむすべも泣く泣く吾は森蔭に
084恥をしのびて歎かひ居るなり』
085 斯く歌ふ折しも、086百津桂樹の森をそよがせて入り来る神あり。087よくよく見れば思ひきや、088生命をかけて恋ひ慕ふ艶男の姿なりける。
089 三人の女神は、090はつと驚きながら物をも得言はず、091呆然として清しき男子の姿を眺め居る。092艶男は百津桂樹の茂枝に直立しながら静に歌ふ。
093『真心の綱に引かれて吾は今
094生言霊に渡り来れり
095姫神の歎きは知らぬにあらねども
096今日の吾身を許し給はれ
097身体は水上山に帰りたり
098君にひかるる御魂の吾よ
099水上山遠く帰ると思へども
100汝が誠の力に動けず
101兎も角も吾を許せよいく年の
102後には必ず来りまみえむ
103燕子花姫は水上の山に在りて
104輝きにけむ国人の上に
105伊吹山麓に匂ふ白萩の
106やさしき心吾忘れめや
107白菊の清きよそほひ如何にして
108吾は忘れむ暫しを待ちませ
109女郎花やさしき花の御手振りを
110恋しく楽しく心に止むる
111いざさらば吾は伊吹の山の上に
112身魂鎮めて御園を守らむ』
113と言ひつつ、114さつと吹く湖風に艶男は霊身をのせ、115山の尾の上を取り巻く白雲の奥深くかくれける。
116 ここに白萩、117白菊、118女郎花の三女神は、119艶男、120燕子花の二人は肉体共に水上の山深く住めることを悟り、121矢も楯もたまらず、122如何にしても玉耶湖を打ち渡り、123日頃の思ひを達せむと、124忽ち元の竜体と変じ、125ざんぶと許り湖中に飛び込み、126波の面をおよぎながら、127南をさして進み行く事とはなりぬ。
128 漸くにして三柱の竜神は、129浦水の浜辺に安着せるが、130恰も月照り渡る真夜中頃なりければ、131大井川の川口より窃に水上山の聖地をさして上る事とはなりぬ。132一旦還元したる竜神は容易に人面を保つ事能はず、133大井川の対岸なる藤の丘と言ふ樹木密生せる個所に忍び棲む事とはなりぬ。
134 之より艶男は三竜神の魂に夜な夜な引き込まれ、135俄に大井川の川辺恋しくなりて、136遑ある毎に駒をうたせ川を渡りて、137藤ケ丘の谷間に遊びける。
138波の花栄居の浜も竜神の
139渡り来しより浦水の浜とふ。
140(昭和九・七・一九 旧六・八 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)