第一四章 再生の歓び〔一九九五〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
篇:第2篇 竜宮風景
よみ(新仮名遣い):りゅうぐうふうけい
章:第14章 再生の歓び
よみ(新仮名遣い):さいせいのよろこび
通し章番号:1995
口述日:1934(昭和9)年07月18日(旧06月7日)
口述場所:関東別院南風閣
筆録者:林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年10月25日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:水上山を中心として約二十里四方の土地を治める国津神の御祖の神、山神彦・川神姫は、二人の兄妹が姿を消してしまったので、夜昼となく慟哭し、見る影もなくやつれた姿になってしまっていた。国津神たちは二人を捜し求めたが、一ケ月を経ても何の便りもないままであった。
二柱は玉耶湖の汀辺をさまよいながら、兄妹を捜し求める歌を歌っていた。そこへ館に仕える従者神の真砂がやってきて、昨日の夢に、艶男はまもなく帰り着て、麗子は竜宮島の王になっていることを見た、と伝えた。
川神姫は夢の話に希望を託して、ひとまず今日は帰り、また次の機会をまとうと答えた。次の朝、山神彦・川神姫は、真砂に導かれて、栄居の浜辺に出て行った。すると、はるか前方から一艘の舟が漕ぎ来るのが見えた。
次第に舟が岸に近づくにつれて、水火土の神が先導をし、艶男と見慣れない女神が乗っているのが見えた。やがて舟が岸に着くと、両親は天に向かって感謝の言葉を奏上し、喜び勇んで水上山の館へと帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm7914
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 237頁
修補版:
校定版:278頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 葭原の国の一部、002水上山を中心として約二十里四方の土地を領有ぎ、003国津神の頭人となりて父祖の代よりここに君臨したる御祖の神、004山神彦、005川神姫の翁と姥は、006天にも地にもかけがへなき二人の兄妹が、007ゆくりなくも其姿を隠せしより、008夜昼の区別なく慟哭して身体は日に日に衰へ、009見るかげもなき憐れな姿となりゐたりける。
010 水上山に仕ふる数多の国津神等は、011四方八方に馳け廻り、012兄妹の所在をさがし求むれども、013約一ケ月を経たる今日、014何の便りも荒波の磯に打寄すばかりなりける。
015 山神彦、016川神姫の二柱は、017玉耶湖の汀辺をさまよひながら、018声を細々と歌ふ。
025三十日三十夜を探ぬれど
026何の便りも波の音
031わが身体は日に夜に
037思へど詮なき今日のわれは
041一言われに知らさせ給へ
042月日は空に照れれども
044大地に草は茂れども
045湖水の波は騒げども
048飛び交ふ千鳥の声ばかり
050生きて甲斐なきわが生命
052生命保ちて地の上に
056瑞の御霊の御前に
059わが子は何処聞かまほし
060娘は何処と朝夕に
061探ぬる甲斐も荒風の
062野路吹く音の聞ゆのみ。
063空見れば心悲しも湖見れば
065天地の恵みに満つる国ながら
066死なまく思ふわが子なければ
067いとし子の行方探ねてわが魂は
068衰へにけり糸の如くに
069身体は骨ばかりなるみじめさに
070力弱りて淋しきわれなり』
072『人の世に生れてわれは年老いぬ
075如何なる曲の荒びにや
076行方しら波立ち騒ぐ
077水泡と消えしか浅ましや
078玉耶の湖に浮びたる
079竜神棲める魔の島に
082磯打つ音の淋しさよ
083われらは朝夕子を慕ひ
085早や涸れ果てて斯くの如
089百神たちは二人の子の
090行方探ぬと山川を
092風の便りも泣く涙
093乾く暇なき袖袂
094恵ませ給へ憐れみ給へ
095厳の御霊や瑞御霊
096神の御前に願ぎまつる
097草葉にすだく虫の音や
098梢に囀る百鳥の
099声を聞きつつ若しや若し
101子を恋ふる身の浅ましや
103今日は悲しき汀辺に
105佇み居れば夕津陽は
106雲に包まれ遠山の
107尾の上に消えてあともなし。
108いとし子に離れしわれらは天地の
109神を頼むの外なかるらむ
110神よ神吾等を憐れみ給ひまして
111二人の御子を返させ給へ
112眉目形勝れて清きいとし子の
114わが子かと近より見れば叢に
115夕べを鳴ける虫の声々
116陽は照れど月は冴ゆれど村肝の
117心曇りてあやめも分かず
118汀辺に匂ふ菖蒲の清しさも
120果てしなき大湖原を打見やり
121御子と思へば浮寝鳥なる
122鳥うたひ百花匂ひ虫鳴けど
123われには淋しき春なりにけり』
124 山神彦は又歌ふ。
125『草を別け土を潜るもいとはまじ
126わが子の行方突きとむるまで
127夢の世に夢を見ながら夢の如
129わが御子は湖の藻屑となりしかと
131わが御子と名告るものさへあるなれば
133わが御子は鳥となりしか湖原の
135玉の緒の生命ある間只一度
136見まく思ふもいとし子の面』
137 かく夫婦は湖辺をさまよひ、138歎きの歌をうたふ折しも、139館に仕ふる国津神真砂は、140あとを探ねて追ひ来り、
141『わが君はここにいませりわが君は
143あちこちと君の行方を探ねつつ
144真砂の磯辺にあひにけりしな
145ありがたし神の恵みに守られて
146君二柱生きていませり
147艶男の君は何処ぞ麗子の
148姫の行方は未だ知れずや』
149 山神彦はこれに応へて、
150『人草の行くべき所はことごとに
151探ね廻れど影だにもなし
152この上は神に任せて帰るべし
153わが子は此世のものならなくに』
155『わが君よ淋しきことを宣らすまじ
156必ず生きて帰らせ給はむ
157わが見たる昨夜の夢をうかがへば
158艶男の君は帰りますべし
159麗子の君の行方は竜宮の
160島に渡りて王とならせり
161さりながら確にそれと宣りがたし
162ただ朧気の夢にありせば』
163 川神姫は稍力得顔に微笑を浮べて、
164『汝が言葉まことならずも生くるてふ
165夢の話に心ときめくも
166ともかくも館に帰り時待たむ
167日は黄昏れて黒白もわかねば』
168 山神彦、169川神姫は、170従神の真砂に夜の道を護られ、171一先づ館に立帰り、172其夜はとつおひつあらぬ事のみ繰返しつつ、173淋しき眠りに就きにける。
174 暁告ぐる鶏の声、175鵲の声に呼び覚されて、176二人は寝間を起き出で、177再び真砂に導かれて栄居の浜辺に出でてゆく。
178 遥か前方を見渡せば、179一艘の舟、180此方に向つて艫を漕ぎながら進み来る。
181 山神彦はこの光景を眺め、182若しやわが子にあらずやと脇目もふらず湖上を打ちまもり、
183『若しや若しわが子に非ずや浜辺近く
184漕ぎ来る舟のあしの早きも
185若しや若しわが子の舟と知るならば
186百神集へて出で迎へむを』
188『正しくや兄妹の舟とおぼえたり
189水火土の神艫を操れば』
190 かく歌ふ折しも、191次第々々に舟は浜辺に近づき来る。192よくよく見れば舟を操るは水火土の神、193舷頭に立つは確に艶男と見ゆれども、194いぶかしきは一人の女神なりと、195脇目もふらず眺め居たり。
197『水先に立つは確に艶男よ
199見なれざる女を乗せて艶男は
200心いそいそ帰り来るらし
201神々の厚き恵みに護られて
202わが子は正しく生きてありしよ』
203 かく歌ふ折しも、204漸くにして水火土の神のあやつる御舟は、205三人の立てる湖辺に安々着きにける。
206 老いたる両親は、207手の舞ひ足の踏む所を知らず、208忽ち天に向つて感謝言を奏上し、209勇み進んで水上山の館をさして帰りゆく。
210(昭和九・七・一八 旧六・七 於関東別院南風閣 林弥生謹録)