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特別編 入蒙記
天祥地瑞
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第79巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 竜の島根
01 湖中の怪
〔1982〕
02 愛の追跡
〔1983〕
03 離れ島
〔1984〕
04 救ひの船
〔1985〕
05 湖畔の遊び
〔1986〕
06 再会
〔1987〕
第2篇 竜宮風景
07 相聞(一)
〔1988〕
08 相聞(二)
〔1989〕
09 祝賀の宴(一)
〔1990〕
10 祝賀の宴(二)
〔1991〕
11 瀑下の乙女
〔1992〕
12 樹下の夢
〔1993〕
13 鰐の背
〔1994〕
14 再生の歓び
〔1995〕
15 宴遊会
〔1996〕
第3篇 伊吹の山颪
16 共鳴の庭
〔1997〕
17 還元竜神
〔1998〕
18 言霊の幸
〔1999〕
19 大井の淵
〔2000〕
20 産の悩み
〔2001〕
21 汀の歎き
〔2002〕
22 天変地妖
〔2003〕
23 二名の島
〔2004〕
余白歌
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第二一章
汀
(
みぎは
)
の
歎
(
なげ
)
き〔二〇〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午の巻
篇:
第3篇 伊吹の山颪
よみ(新仮名遣い):
いぶきのやまおろし
章:
第21章 汀の歎き
よみ(新仮名遣い):
みぎわのなげき
通し章番号:
2002
口述日:
1934(昭和9)年07月20日(旧06月9日)
口述場所:
関東別院南風閣
筆録者:
谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1934(昭和9)年10月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
燕子花は最愛の夫に醜い竜の体を見られたことを恥じらい、大井ケ淵に見を投じて、これから先は淵の底から艶男の声を聞いて楽しみとするのみの生活を覚悟した。燕子花は竜体に還元してしまったので、人語を発することができなくなってしまった。そして、心の内で歎きの述懐歌を歌った。
山神彦、川神姫の二人は、夜中の出来事を聞き、驚きと歎きのあまり、表戸を固く閉じて七日七夜、閉じこもってしまった。艶男は突然の出来事に、驚き歎きつつ、朝夕に大井川のみぎわ辺に立って、追懐の歌を歌っていた。
水上山の政をつかさどる四天王は、あまりの異変に驚き、今後の処置を艶男に計ろうと居間を訪ねたが、もぬけの殻であった。驚いて、もしや艶男は燕子花の後を追って淵に身を投げようとしているのではないかと、急いで大井川の淵瀬に来て見れば、はたして艶男は両岸をはらし、涙の袖を絞って歎いていた。
四天王のひとり、岩ケ根は背後から艶男を抱え、残された御子や父母のことを思い、おかしな心を起こさないように諭した。艶男は、もはや自分には死しかないと思い定めたのだ、と答えた。
続いて、四天王のひとり真砂もまた、艶男をいさめたが、艶男は、もはや死に思いを定めたので、あとは自分に代わって竜彦を育ててくれ、と答えた。
さらに、真砂、水音は艶男を諭す歌を歌い、ようやく艶男は、自分も人の情けを知る身であると答え、一行は館に帰り行くこととなった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm7921
愛善世界社版:
八幡書店版:
第14輯 269頁
修補版:
校定版:
393頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001
燕子花
(
かきつばた
)
は
初産
(
うひざん
)
の
苦
(
くる
)
しさに
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
て、
002
御子
(
みこ
)
を
抱
(
いだ
)
きしまま、
003
ぐつたりと
前後
(
ぜんご
)
を
忘
(
わす
)
れて
眠
(
ねむ
)
り
居
(
ゐ
)
たりしが、
004
最愛
(
さいあい
)
の
夫
(
つま
)
艶男
(
あでやか
)
に
吾
(
わが
)
醜
(
みにく
)
き
元
(
もと
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
つけられしをいたく
恥
(
はぢ
)
らひ、
005
斯
(
か
)
くなる
上
(
うへ
)
は
何時
(
いつ
)
までも
夫
(
つま
)
の
愛
(
あい
)
を
保
(
たも
)
つ
由
(
よし
)
なく、
006
又
(
また
)
吾
(
わが
)
身
(
み
)
のうら
恥
(
はづ
)
かしさを
案
(
あん
)
じ
煩
(
わづら
)
ひの
余
(
あま
)
り、
007
大井
(
おほゐ
)
ケ
淵
(
ふち
)
に
身
(
み
)
を
投
(
とう
)
じて、
008
全
(
まつた
)
く
元
(
もと
)
の
竜体
(
りうたい
)
と
変
(
へん
)
じ、
009
とこしへに
此
(
この
)
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
みて、
010
艶男
(
あでやか
)
の
声
(
こゑ
)
を
忍
(
しの
)
び
忍
(
しの
)
びに
聞
(
き
)
きつつ
楽
(
たの
)
しまむものと
覚悟
(
かくご
)
を
極
(
きは
)
めたりけるが、
011
燕子花
(
かきつばた
)
は
最早
(
もはや
)
竜体
(
りうたい
)
と
還元
(
くわんげん
)
したる
以上
(
いじやう
)
、
012
人語
(
じんご
)
を
発
(
はつ
)
する
由
(
よし
)
なく、
013
心
(
こころ
)
の
中
(
うち
)
にて
思
(
おも
)
ひのたけを
歌
(
うた
)
ふ。
014
『
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
情
(
なさけ
)
の
露
(
つゆ
)
のかがやきて
015
いとしき
御子
(
みこ
)
は
今
(
いま
)
生
(
うま
)
れたり
016
さりながら
産
(
う
)
みのなやみの
苦
(
くる
)
しさに
017
後前
(
あとさき
)
忘
(
わす
)
れて
吾
(
われ
)
は
眠
(
ねむ
)
りし
018
眠
(
ねむ
)
る
間
(
ま
)
を
元
(
もと
)
つ
姿
(
すがた
)
を
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
に
019
見
(
み
)
られし
後
(
のち
)
はせむすべもなし
020
歎
(
なげ
)
くとも
及
(
およ
)
ばざるらむ
吾
(
わが
)
姿
(
すがた
)
021
君
(
きみ
)
の
眼
(
まなこ
)
にふれたる
上
(
うへ
)
は
022
よしやよし
元
(
もと
)
つ
身体
(
からだ
)
に
還
(
かへ
)
るとも
023
君
(
きみ
)
の
情
(
なさけ
)
は
永久
(
とは
)
に
忘
(
わす
)
れじ
024
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
なの
親
(
した
)
しき
枕
(
まくら
)
も
夢
(
ゆめ
)
なりし
025
今
(
いま
)
は
現幽
(
げんいう
)
所
(
ところ
)
をへだてて
026
大井川
(
おほゐがは
)
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
ければとこしへに
027
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
棲処
(
すみか
)
にふさはしく
思
(
おも
)
ふ
028
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
は
言
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
なり
生
(
あ
)
れし
子
(
こ
)
は
029
肥立
(
ひだ
)
つにつけて
吾
(
われ
)
を
恨
(
うら
)
まむ
030
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
の
妻
(
つま
)
とはなれど
元
(
もと
)
つ
身
(
み
)
は
031
いやしき
獣
(
けもの
)
の
吾
(
わが
)
身
(
み
)
なりけり
032
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
幸
(
さち
)
を
思
(
おも
)
ひて
吾
(
われ
)
は
今
(
いま
)
033
惜
(
を
)
しき
生命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てむとぞする
034
吾
(
わが
)
魂
(
たま
)
のいのちは
永久
(
とは
)
にこの
淵
(
ふち
)
に
035
深
(
ふか
)
く
沈
(
しづ
)
みて
君
(
きみ
)
を
守
(
まも
)
らむ
036
よしやよし
浮名
(
うきな
)
はいかに
竜
(
たつ
)
の
身
(
み
)
の
037
恥
(
はぢ
)
を
忍
(
しの
)
びて
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
まむ
038
御
(
おん
)
父
(
ちち
)
もおどろき
給
(
たま
)
はむ
御
(
おん
)
母
(
はは
)
も
039
歎
(
なげ
)
かせ
給
(
たま
)
はむ
今日
(
けふ
)
の
吾
(
わが
)
身
(
み
)
を
040
恐
(
おそ
)
ろしき
妻
(
つま
)
を
持
(
も
)
ちしと
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
は
041
夜
(
よ
)
な
夜
(
よ
)
な
憂
(
うれ
)
ひに
沈
(
しづ
)
み
給
(
たま
)
はむ
042
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
の
心
(
こころ
)
思
(
おも
)
へばかなしけれ
043
獣
(
けもの
)
を
抱
(
だ
)
きしと
謗
(
そし
)
られ
給
(
たま
)
へば』
044
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
くに
忍
(
しの
)
び
忍
(
しの
)
びに
述懐
(
じゆつくわい
)
を
終
(
を
)
へて、
045
大井
(
おほゐ
)
の
川底
(
かはそこ
)
深
(
ふか
)
くその
霊身
(
れいしん
)
は
以前
(
いぜん
)
の
竜体
(
りうたい
)
を
保
(
たも
)
ちける。
046
ここに
山神彦
(
やまがみひこ
)
、
047
川神姫
(
かはかみひめ
)
の
神
(
かみ
)
は、
048
夜半
(
よは
)
の
出来事
(
できごと
)
を
聞
(
き
)
き、
049
驚
(
おどろ
)
きと
歎
(
なげ
)
きに
包
(
つつ
)
まれ、
050
人
(
ひと
)
に
顔
(
かほ
)
見
(
み
)
らるるも
恥
(
はづ
)
かしと、
051
表戸
(
おもてど
)
を
堅
(
かた
)
く
閉
(
とざ
)
して
七日
(
なぬか
)
七夜
(
ななよ
)
をさし
籠
(
こも
)
りけり。
052
艶男
(
あでやか
)
は
突然
(
とつぜん
)
の
出来事
(
できごと
)
に、
053
且
(
かつ
)
驚
(
おどろ
)
き
且
(
かつ
)
あきれ
且
(
かつ
)
歎
(
なげ
)
かひつつも、
054
さすがは
夫
(
をつと
)
、
055
妻
(
つま
)
のかなしき
心
(
こころ
)
を
憐
(
あは
)
れみ、
056
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
な
大井
(
おほゐ
)
の
川
(
かは
)
の
汀辺
(
みぎはべ
)
に
立
(
た
)
ちて、
057
追懐
(
ついくわい
)
の
歌
(
うた
)
をうたふ。
058
『あはれあはれ
吾
(
わが
)
恋
(
こ
)
ふる
妻
(
つま
)
は
今
(
いま
)
いづこ
059
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なを
汀辺
(
みぎはべ
)
に
060
立
(
た
)
ちてし
見
(
み
)
れど
影
(
かげ
)
もなく
061
涙
(
なみだ
)
は
雨
(
あめ
)
と
降
(
ふ
)
りしきり
062
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
風
(
かぜ
)
もさみしげに
063
涙
(
なみだ
)
の
頬
(
ほほ
)
をなでてゆく
064
いかなる
宿世
(
すぐせ
)
の
因縁
(
いんねん
)
か
065
獣
(
けもの
)
の
身
(
み
)
を
持
(
も
)
つ
燕子花
(
かきつばた
)
の
066
やさしき
姿
(
すがた
)
にほだされて
067
妹背
(
いもせ
)
の
契
(
ちぎ
)
り
八千代
(
やちよ
)
までと
068
誓
(
ちか
)
ひしことの
今
(
いま
)
は
早
(
はや
)
069
淵
(
ふち
)
の
水泡
(
みなわ
)
と
消
(
き
)
えにけり
070
ああ
恋
(
こひ
)
しもよかなしもよ
071
汝
(
な
)
が
魂
(
みたま
)
この
世
(
よ
)
に
生
(
い
)
きて
072
只一言
(
ただひとこと
)
のいらへごと
073
つばらに
述
(
の
)
べよ
燕子花
(
かきつばた
)
074
よしやよし
竜
(
たつ
)
の
姿
(
すがた
)
になれるとも
075
吾
(
われ
)
はいとはじ
076
汝
(
なれ
)
と
吾
(
われ
)
と
077
露
(
つゆ
)
の
情
(
なさけ
)
に
凝
(
かた
)
まりし
078
貴
(
うづ
)
の
御子
(
みこ
)
なる
竜彦
(
たつひこ
)
の
079
日々
(
ひび
)
の
生
(
お
)
ひたち
玉
(
たま
)
の
肌
(
はだ
)
080
汝
(
なれ
)
に
見
(
み
)
せたく
思
(
おも
)
へども
081
今
(
いま
)
はせむなし
幽界
(
かくりよ
)
の
082
神
(
かみ
)
となりつる
汝
(
なれ
)
なれば
083
さはさりながら
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
084
汝
(
なれ
)
が
情
(
なさけ
)
を
忘
(
わす
)
れかね
085
朝夕
(
あさゆふ
)
川辺
(
かはべ
)
に
迷
(
まよ
)
ひ
来
(
き
)
つ
086
くだらぬくり
言
(
ごと
)
くり
返
(
かへ
)
し
087
せめては
心
(
こころ
)
のなぐさめと
088
憂
(
う
)
き
年月
(
としつき
)
を
送
(
おく
)
るなり
089
ああ
燕子花
(
かきつばた
)
よ
燕子花
(
かきつばた
)
よ
090
汀
(
みぎは
)
に
清
(
きよ
)
く
紫
(
むらさき
)
に
091
匂
(
にほ
)
へる
花
(
はな
)
のそれならで
092
同
(
おな
)
じ
名
(
な
)
を
負
(
お
)
ふ
汝
(
なれ
)
が
身
(
み
)
は
093
今
(
いま
)
は
敢
(
あへ
)
なくなりしかと
094
思
(
おも
)
へばかなしさ
堪
(
た
)
へがたく
095
吾
(
われ
)
も
汝
(
なんぢ
)
が
後
(
あと
)
追
(
お
)
ひて
096
これの
淵瀬
(
ふちせ
)
に
入
(
い
)
らむかと
097
夕
(
ゆふ
)
べ
夕
(
ゆふ
)
べをとつおひつ
098
思案
(
しあん
)
にくるる
悩
(
なや
)
ましさ
099
汝
(
なれ
)
は
知
(
し
)
らずや
聞
(
き
)
かざるや
100
ああ
悩
(
なや
)
ましもかなしもよ
101
生命
(
いのち
)
死
(
し
)
せむと
思
(
おも
)
へども
102
老
(
お
)
いたる
父母
(
ふぼ
)
のおはすあり
103
歩
(
あゆ
)
みもならぬ
吾子
(
わがこ
)
あり
104
せめて
吾子
(
わがこ
)
の
生
(
お
)
ひ
立
(
た
)
ちを
105
見とどけし
上
(
うへ
)
汝
(
な
)
が
後
(
あと
)
を
106
慕
(
した
)
ひて
淵
(
ふち
)
に
沈
(
しづ
)
むべし
107
待
(
ま
)
たせ
給
(
たま
)
へよ
吾
(
わが
)
妻
(
つま
)
よ』
108
あたりに
人
(
ひと
)
なければ、
109
千万
(
せんまん
)
無量
(
むりやう
)
の
思
(
おも
)
ひを
並
(
なら
)
べて
歎
(
なげ
)
き
居
(
ゐ
)
る。
110
四天王
(
してんわう
)
の
司
(
つかさ
)
等
(
ら
)
は、
111
余
(
あま
)
りの
異変
(
いへん
)
に
驚
(
おどろ
)
きの
余
(
あま
)
り
物
(
もの
)
も
言
(
い
)
はず、
112
仮殿
(
かりでん
)
に
集
(
あつま
)
り
青息
(
あをいき
)
吐息
(
といき
)
の
態
(
てい
)
にて、
113
この
後
(
のち
)
は
如何
(
いかが
)
なり
行
(
ゆ
)
くならむと
歎
(
なげ
)
き
居
(
ゐ
)
にけり。
114
斯
(
か
)
くて
在
(
あ
)
るべきにあらねば、
115
艶男
(
あでやか
)
の
君
(
きみ
)
に
今後
(
こんご
)
の
処置
(
しよち
)
を
計
(
はか
)
らむと
居間
(
ゐま
)
を
訪
(
たづ
)
ぬれば、
116
蛻
(
もぬけ
)
の
殻
(
から
)
、
117
驚
(
おどろ
)
きて、
118
もしやもし
若君
(
わかぎみ
)
は
姫
(
ひめ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
ひしにはあらずやと、
119
岩ケ根
(
いはがね
)
は
真砂
(
まさご
)
、
120
白砂
(
しらさご
)
、
121
水音
(
みなおと
)
、
122
瀬音
(
せおと
)
の
四天王
(
してんわう
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
123
大井川
(
おほゐがは
)
の
淵瀬
(
ふちせ
)
に
急
(
いそ
)
ぎ
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば、
124
艶男
(
あでやか
)
は
両眼
(
りやうがん
)
をはらし、
125
涙
(
なみだ
)
の
袖
(
そで
)
を
絞
(
しぼ
)
りて
何事
(
なにごと
)
かかこち
居
(
ゐ
)
る。
126
岩ケ根
(
いはがね
)
は
差足
(
さしあし
)
抜足
(
ぬきあし
)
しながら
艶男
(
あでやか
)
の
側
(
そば
)
に
近
(
ちか
)
づき、
127
背後
(
はいご
)
よりむんずと
身
(
み
)
を
抱
(
かか
)
へ、
128
『
若君
(
わかぎみ
)
はここにいますか
必
(
かなら
)
ずや
129
弱
(
よわ
)
き
心
(
こころ
)
を
持
(
も
)
たせ
給
(
たま
)
ふな
130
姫君
(
ひめぎみ
)
は
水
(
みづ
)
の
藻屑
(
もくず
)
となり
給
(
たま
)
ひ
131
君
(
きみ
)
が
心
(
こころ
)
の
苦
(
くる
)
しさを
知
(
し
)
る
132
さりながら
父母
(
ちちはは
)
います
御
(
おん
)
身
(
み
)
なり
133
夢魂
(
ゆめたましひ
)
を
曇
(
くも
)
らせ
給
(
たま
)
ひそ
134
愛
(
あい
)
らしき
稚子
(
ちご
)
の
生
(
お
)
ひ
立
(
た
)
ち
見
(
み
)
る
迄
(
まで
)
は
135
止
(
とど
)
まり
給
(
たま
)
へ
弥猛心
(
やたけごころ
)
を
136
いとこやの
妻
(
つま
)
に
別
(
わか
)
れし
君
(
きみ
)
なれば
137
心
(
こころ
)
を
乱
(
みだ
)
し
給
(
たま
)
ふも
宜
(
うべ
)
よ
138
罷
(
まか
)
りたる
人
(
ひと
)
は
呼
(
よ
)
べども
帰
(
かへ
)
らまじ
139
御国
(
みくに
)
の
為
(
ため
)
に
思
(
おも
)
ひ
直
(
なほ
)
せよ』
140
艶男
(
あでやか
)
は
之
(
これ
)
に
答
(
こた
)
へて、
141
『
岩ケ根
(
いはがね
)
の
厚
(
あつ
)
き
心
(
こころ
)
は
悟
(
さと
)
れども
142
今
(
いま
)
の
吾
(
わが
)
身
(
み
)
は
死
(
し
)
より
外
(
ほか
)
なし
143
姫
(
ひめ
)
の
後
(
あと
)
追
(
お
)
ひて
一道
(
ひとみち
)
に
向
(
むか
)
はむと
144
吾
(
われ
)
は
心
(
こころ
)
を
定
(
さだ
)
めたりける
145
さりながらよくよく
思
(
おも
)
へば
父母
(
ちちはは
)
の
146
歎
(
なげ
)
きは
吾
(
われ
)
より
深
(
ふか
)
かるものを』
147
真砂
(
まさご
)
は、
148
『
竜神
(
たつがみ
)
の
島
(
しま
)
より
来
(
き
)
たす
姫
(
ひめ
)
なれば
149
斯
(
か
)
くなるべしとかねて
思
(
おも
)
ひぬ
150
さりながら
世継
(
よつぎ
)
の
御子
(
みこ
)
の
生
(
あ
)
れませば
151
水上
(
みなかみ
)
の
館
(
たち
)
は
永遠
(
とは
)
に
栄
(
さか
)
えむ
152
この
国
(
くに
)
の
栄
(
さか
)
え
思
(
おも
)
ひて
若君
(
わかぎみ
)
よ
153
暫
(
しば
)
し
生命
(
いのち
)
をながらへ
給
(
たま
)
はれ
154
若君
(
わかぎみ
)
に
過
(
あやま
)
ちあれば
吾
(
われ
)
とても
155
館
(
たち
)
に
仕
(
つか
)
ふる
顔
(
かむばせ
)
はなし
156
大井川
(
おほゐがは
)
底
(
そこ
)
の
心
(
こころ
)
は
知
(
し
)
らねども
157
深
(
ふか
)
きは
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
歎
(
なげ
)
きなりけり
158
若君
(
わかぎみ
)
の
歎
(
なげ
)
き
宜
(
うべ
)
よと
思
(
おも
)
へども
159
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
ため
)
忍
(
しの
)
ばせ
給
(
たま
)
へ』
160
艶男
(
あでやか
)
は
之
(
これ
)
に
答
(
こた
)
へて、
161
『
汝
(
な
)
が
言葉
(
ことば
)
宜
(
うべ
)
よと
聞
(
き
)
けど
吾
(
わが
)
魂
(
たま
)
は
162
震
(
ふる
)
ひをののき
死
(
し
)
なまく
思
(
おも
)
ふ
163
汝
(
なれ
)
等
(
たち
)
が
心
(
こころ
)
なやませ
吾
(
わが
)
魂
(
たま
)
は
164
悪魔
(
あくま
)
の
群
(
むれ
)
に
馳
(
は
)
せ
入
(
い
)
りにけむ
165
竜彦
(
たつひこ
)
は
二人
(
ふたり
)
が
仲
(
なか
)
の
遺児
(
かたみ
)
ぞと
166
思
(
おも
)
へば
安
(
やす
)
し
生命
(
いのち
)
死
(
し
)
すとも
167
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は
吾
(
われ
)
に
代
(
かは
)
りて
竜彦
(
たつひこ
)
を
168
育
(
はぐく
)
みくれよ
御代
(
みよ
)
を
継
(
つ
)
ぐまで』
169
真砂
(
まさご
)
は
答
(
こた
)
へて、
170
『
川底
(
かはそこ
)
の
白砂
(
しらさご
)
までも
透
(
す
)
きとほる
171
大井
(
おほゐ
)
ケ
淵
(
ふち
)
の
今日
(
けふ
)
は
濁
(
にご
)
れる
172
天津空
(
あまつそら
)
に
雲
(
くも
)
かさなりて
小雨
(
こさめ
)
ふる
173
淵
(
ふち
)
の
面
(
おもて
)
に
波紋
(
はもん
)
描
(
ゑが
)
けり
174
天地
(
あめつち
)
の
神
(
かみ
)
も
歎
(
なげ
)
かせ
給
(
たま
)
ふらむ
175
天津
(
あまつ
)
陽光
(
ひかげ
)
も
見
(
み
)
えまさずして
176
歎
(
なげ
)
かひの
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれ
水上山
(
みなかみやま
)
177
貴
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
は
小雨
(
こさめ
)
降
(
ふ
)
るなり
178
春雨
(
はるさめ
)
のしとしと
降
(
ふ
)
れる
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
は
179
君
(
きみ
)
の
涙
(
なみだ
)
か
吾
(
わが
)
身
(
み
)
の
涙
(
なみだ
)
か
180
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
も
冷
(
つめ
)
たくさみしこの
朝
(
あさ
)
を
181
吾
(
われ
)
は
川辺
(
かはべ
)
に
袖
(
そで
)
しぼるなる』
182
水音
(
みなおと
)
は
歌
(
うた
)
ふ。
183
『
大井川
(
おほゐがは
)
上津瀬
(
かみつせ
)
に
立
(
た
)
つ
岩ケ根
(
いはがね
)
を
184
うつ
水音
(
みなおと
)
も
細
(
ほそ
)
く
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
185
大井川
(
おほゐがは
)
水音
(
みなおと
)
静
(
しづ
)
めて
今日
(
けふ
)
の
日
(
ひ
)
を
186
歎
(
なげ
)
くか
御空
(
みそら
)
ゆ
細雨
(
ほそあめ
)
の
降
(
ふ
)
る
187
かかる
世
(
よ
)
にかかる
歎
(
なげ
)
きを
見
(
み
)
ることは
188
水音
(
みなおと
)
吾
(
われ
)
も
思
(
おも
)
はざりしを
189
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
若君
(
わかぎみ
)
の
心
(
こころ
)
和
(
なご
)
めむと
190
探
(
たづ
)
ねてここに
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
来
(
き
)
にけり
191
神々
(
かみがみ
)
のかなしき
心
(
こころ
)
を
憐
(
あは
)
れみて
192
一先
(
ひとま
)
づ
館
(
たち
)
に
帰
(
かへ
)
らせ
給
(
たま
)
へ
193
貴
(
うづ
)
の
子
(
こ
)
の
御顔
(
みかほ
)
つらつら
御覧
(
みそなは
)
し
194
今日
(
けふ
)
の
歎
(
なげ
)
きをなぐさめ
給
(
たま
)
へ』
195
艶男
(
あでやか
)
は
之
(
これ
)
に
答
(
こた
)
へて、
196
『
川水
(
かはみづ
)
の
流
(
なが
)
るる
見
(
み
)
れば
吾
(
わが
)
心
(
こころ
)
197
死
(
し
)
にたくなりぬかなしさ
余
(
あま
)
りて
198
さりながら
吾
(
われ
)
も
人
(
ひと
)
の
子
(
こ
)
情
(
なさけ
)
をば
199
知
(
し
)
らぬ
岩木
(
いはき
)
にあらずと
知
(
し
)
れよ』
200
瀬音
(
せおと
)
はかなしき
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて、
201
『
滝津瀬
(
たきつせ
)
の
音
(
おと
)
も
淋
(
さび
)
しく
聞
(
きこ
)
ゆなり
202
燕子花
(
かきつばた
)
姫
(
ひめ
)
の
身罷
(
みまか
)
りし
日
(
ひ
)
ゆ
203
汀辺
(
みぎはべ
)
に
咲
(
さ
)
ける
菖蒲
(
あやめ
)
の
紫
(
むらさき
)
も
204
今日
(
けふ
)
の
歎
(
なげ
)
きにしをれ
顔
(
がほ
)
なる
205
兎
(
と
)
にもあれ
角
(
かく
)
にもあれや
死
(
し
)
は
易
(
やす
)
し
206
重
(
おも
)
き
生命
(
いのち
)
を
捨
(
す
)
てさせ
給
(
たま
)
ふな
207
天地
(
あめつち
)
の
今
(
いま
)
や
開
(
ひら
)
けし
心地
(
ここち
)
かな
208
君
(
きみ
)
の
心
(
こころ
)
の
岩戸
(
いはと
)
開
(
あ
)
くれば
209
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
又
(
また
)
心
(
こころ
)
安
(
やす
)
んじ
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
210
館
(
やかた
)
に
長
(
なが
)
く
仕
(
つか
)
へ
奉
(
まつ
)
らむ
211
歎
(
なげ
)
かひの
雲
(
くも
)
を
払
(
はら
)
ひて
永久
(
とこしへ
)
に
212
これの
館
(
やかた
)
を
照
(
てら
)
させ
給
(
たま
)
へ』
213
ここに
岩ケ根
(
いはがね
)
他
(
ほか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は、
214
艶男
(
あでやか
)
の
前後
(
ぜんご
)
に
附
(
つ
)
き
添
(
そ
)
ひ、
215
いそいそとして
貴
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
216
(
昭和九・七・二〇
旧六・九
於関東別院南風閣
谷前清子
謹録)
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【21 汀の歎き|第79巻(午の巻)|霊界物語/rm7921】
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