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第八章 三人娘(さんにんむすめ)〔八九九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第32巻 海洋万里 未の巻 篇:第2篇 北の森林 よみ(新仮名遣い):きたのしんりん
章:第8章 三人娘 よみ(新仮名遣い):さんにんむすめ 通し章番号:899
口述日:1922(大正11)年08月22日(旧06月30日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年10月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫は、自分に玉を献上しようという美女が侍女を伴ってやってくるのを見て、心待ちにしている。春彦は高姫の物欲しそうな様子に笑いをこらえながら、魔性の女に気を付けるよう高姫に忠告をする。高姫は怪しむ春彦を叱りつけた。
やってきた女は高子姫と名乗った。高姫は高子姫にお世辞を述べるが、春彦がまたしても茶々を入れる。高姫はまた叱りつけるが、春彦は大昔の常世会議を例に引いて、滑稽な調子で高姫に忠告する。
高姫は、実地に玉を見てみればわかると言い張り、女たちに付いていくことになった。途中に大きな川があり、女たちは石を軽々と伝って向こう岸に着いたが、高姫はすべって川に落ちてしまった。
春彦はあわてて川に飛び込んで高姫を救い上げた。高姫は助けに来なかった常彦とヨブを責め、春彦には手柄を立てるというお蔭をいただいたのだ、と強弁する。春彦、常彦、ヨブの三人はあきれて顔を見合わせてしまった。
高姫は、高子姫らの招きに応じて川を慎重に渡って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-05-03 17:27:22 OBC :rm3208
愛善世界社版:91頁 八幡書店版:第6輯 181頁 修補版: 校定版:96頁 普及版:36頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)は、002以前(いぜん)美人(びじん)二人(ふたり)侍女(じじよ)(ともな)悠々(いういう)として此方(こなた)(むか)つて(すす)(きた)るを、003百間(ひやくけん)(ばか)りこちらから(うれ)しげに打眺(うちなが)め、004(ゆめ)牡丹餅(ぼたもち)でも()つた(やう)(うれ)しさうな(かほ)をつき(いだ)してゐる。005(その)スタイルのどことなく()()けた可笑(をか)しさに、006吹出(ふきだ)(ばか)(おも)はるるを、007ジツと(こら)へて春彦(はるひこ)(をんな)()し、
008春彦『アレ御覧(ごらん)なさい……一人(ひとり)かと(おも)へば(さん)(にん)魔性(ましやう)(をんな)(みみ)をピラピラさせ(なが)らやつて()るぢやありませぬか……高姫(たかひめ)さま、009あれでも()信用(しんよう)になりますかなア』
010 高姫(たかひめ)最早(もはや)(たま)()いて、011(ふたた)(こころ)(くも)らしてゐる。
012高姫『コレ(はる)さま、013失礼(しつれい)なことを()ふものぢやありませぬよ。014あれ(ほど)()()につく(みみ)(うご)いてるか(うご)いとらぬか、015()御覧(ごらん)なさい。016(うご)(やう)()えるのはお(まへ)()(たま)(うご)くから、017向方(むかふ)(みみ)(うご)くやうに()えるのだよ』
018春彦(わたし)()(うご)くのならば、019(たれ)(みみ)(からだ)一緒(いつしよ)(うご)きさうなものぢやありませぬか。020よくお(まへ)さま、021()をつけて()をあけてミヽヽ()なさい。022アフンと(いた)してあいた(くち)がすぼまらぬ(やう)(こと)があつたら、023(あと)何程(なにほど)後悔(こうくわい)したと()つても(くや)んでも(あと)(まつ)り、024折角(せつかく)(たか)(はな)がめしやげて(しま)ひますぞや。025(わたし)(いま)何程(なにほど)()意見(いけん)しても()(ぶし)()ちますまい。026(わたし)()(こと)一々(いちいち)(あし)(おも)うて御座(ござ)るから、027(なん)()つても、028()ごたへはせぬのも道理(だうり)ぢや。029(しか)(なが)(ひと)にあの拇指(おやゆび)小指(こゆび)意見(いけん)()かず、030時雨(しぐれ)(もり)でバカを()たと、031(うしろ)(ゆび)をさされぬやうになされませ。032()(なか)(はら)()へられませぬぞえ。033(あと)(へそ)をかむやうな(こと)のないやうに、034(むね)をさはやかにし、035(はら)()ゑて(ちち)(かんが)へなされ。036(また)(あと)叱言(こごと)をおつしやつても、037(しり)まへんワ、038けつ(くら)観音(くわんのん)ですよ』
039高姫(だま)つて()いて()れば、040(のみ)(しらみ)(やう)体中(からだぢう)()ひまはし、041(なに)()理窟(りくつ)()れなさるのぢや。042(ばば)(あき)れますぞえ』
043春彦『アーア、044(はら)春彦(はるひこ)だ。045小便(せうべん)ぢやないが、046シヽシリもせぬ(くせ)に、047エラさうに仰有(おつしや)つて(いま)にアフンとなさる()(かた)が、048どこやらに一人(ひとり)ありさうだ。049アーア(また)もや(れい)(やまひ)がおこつたのかなア』
050高姫(やかま)しい!』
051(せい)(とど)むる(とき)しもあれ、052(さん)(にん)(をんな)(はや)くも此処(ここ)近寄(ちかよ)(きた)り、053叮嚀(ていねい)会釈(ゑしやく)しながら、
054女(高子姫)高姫(たかひめ)(さま)055(なが)らく()()たせ(いた)しました。056(わたし)はあなたの()()()()高子姫(たかこひめ)(まを)(もの)057(この)侍女(じじよ)一人(ひとり)はお(つき)058一人(ひとり)はお(あさ)(まを)します。059どうぞ()見知(みし)りおかれまして末永(すえなが)()交際(かうさい)をお(ねがひ)(いた)します』
060 春彦(はるひこ)小声(こごゑ)で、
061春彦『それやつて()たぞ! だまされな!』
062拍子(ひやうし)をつけて、063小声(こごゑ)(ささや)いてゐる。064高姫(たかひめ)春彦(はるひこ)をグツと()めつけながら、065(にはか)顔色(かほいろ)(やはら)げ、066高子姫(たかこひめ)(むか)つて、
067高姫『これはこれは、068(はじ)めて()()(うけたま)はりました。069マアマア(じつ)()(やさ)しい()立派(りつぱ)()姿(すがた)ですこと!』
070高子姫『イエイエどうしてどうして、071さう()()(くだ)さつては、072()づかしう御座(ござ)います。073山家育(やまがそだ)ちの山時鳥(やまほととぎす)074ホーホケキヨの片言(かたこと)まじり、075(なに)()らない未通娘(おぼこむすめ)御座(ござ)りますれば、076どうぞ(よろ)しく()指導(しだう)()(ねがひ)(いた)します』
077 春彦(はるひこ)はそばより、
078春彦(なん)()つても、079海千(うみせん)山千(やません)河千(かはせん)経験(けいけん)()高姫(たかひめ)さまですから、080大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ、081アハヽヽヽ。082(その)三千(さんぜん)(ねん)(がふ)()高姫(たかひめ)さまをチヨロまかす(むすめ)さまは、083ドテライ(えら)(かは)つた(へん)見当(けんたう)()れぬ仕方(しかた)のない()(かた)御座(ござ)いませう。084オツトドツコイ眉毛(まゆげ)(つばき)をつけ、085おけつの()()をつけて、086高姫(たかひめ)さまの(あと)から()いて(まゐ)りませうかい』
087 高姫(たかひめ)()(いか)らし、088(くち)(とが)らし、089()のぬけた(くち)から(つばき)()()しながら、
090高姫『コレ春彦(はるひこ)さま、091さうズケズケと淑女(しゆくぢよ)(むか)つて、092失礼(しつれい)(こと)()ふことがありますかい。093モウシ高子姫(たかこひめ)さま、094斯様(かやう)動物(どうぶつ)がついて()りますので、095(まこと)(わたし)(あたま)(なや)めます。096どうぞお()(わる)くせぬやうにして(くだ)さいませ』
097春彦(はるひこ)『ハイハイ、098(まこと)(もつ)失礼(しつれい)千万(せんばん)099どうぞ寒狐(かんぎつね)見直(みなほ)し、100大狐(おほぎつね)宣直(のりなほ)し、101大空(おほぞら)高倉(たかくら)でも、102月日(つきひ)をかくす、103(くも)さへ(はら)へば吾々(われわれ)(たま)朝日(あさひ)豊栄昇(とよさかのぼ)(やう)(いきほひ)になつて()ます……コレ(たか)さま、104オツトドツコイ高姫(たかひめ)さま、105だまされなさるな。106常世(とこよ)(しろ)八百(はつぴやく)八十八(はちじふや)(はしら)八王(やつわう)(かみ)八頭(やつがしら)107立派(りつぱ)()(かた)()()うて、108泥田圃(どろたんぼ)大失敗(だいしつぱい)(かがみ)()()りますぞや。109コレコレ高倉(たかくら)稲荷(いなり)さま、110月日(つきひ)111(あさひ)明神(みやうじん)さま、112()けた(ところ)(この)(はる)さまが承知(しようち)をしませぬぞえ。113(なん)(おそ)()りましたかなア……(かく)されぬ証拠(しようこ)()ふのは、114(まへ)(ふた)つの(みみ)だ。115(けつ)(しろ)尻尾(しつぽ)(さが)つて()りますぞえ。116こんな(ふか)森林(しんりん)までだましに()るとは……(浄瑠璃(じやうるり)文句(もんく))そりや(きこ)えませぬ胴欲(どうよく)ぢや、117(よく)(はう)けた高姫(たかひめ)さまを、118高子(たかこ)(ひめ)(あら)はれて、119(こころ)()かうとなさるのか、120金剛(こんがう)不壊(ふゑ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)121(たま)()うたら()(たま)を、122グルグルまはす(くせ)のある、123高姫(たかひめ)さまにありもせぬ、124如意(によい)宝珠(ほつしゆ)をやらうとは、125馬鹿(ばか)になさるも(ほど)がある。126(この)春彦(はるひこ)天眼通(てんがんつう)127一目(ひとめ)(にら)んで(しら)べたら、128メツタに間違(まちが)ひありませぬ、129高倉(たかくら)稲荷(いなり)白狐(びやくこ)さま、130月日(つきひ)(あさひ)明神(みやうじん)さま、131(はや)尻尾(しつぽ)()しなされ』
132高姫(たかひめ)『コレコレ(また)しても失礼(しつれい)なことを仰有(おつしや)るのかいなア。133高倉(たかくら)稲荷(いなり)さまや月日(つきひ)(あさひ)明神(みやうじん)さまは、134(この)高砂島(たかさごじま)へは御座(ござ)らつしやる(はず)はありませぬぞや。135常世(とこよ)(くに)大江山(たいかうざん)()(すま)(あそ)ばされ、136(はざま)(くに)(さかひ)として、137自転倒(おのころ)(じま)()(わた)(あそ)ばす(かた)ぢや(ほど)に、138見違(みちがひ)をするも(ほど)がある。139(だま)つてゐなさい!』
140春彦(はるひこ)『そんなら、141(だま)つて()手前(てまへ)拝見(はいけん)と、142()かけませうかなア……ヨブさま、143(つね)さま、144(まへ)如何(どう)(かんが)へるか、145一寸(ちよつと)否定(ひてい)肯定(こうてい)如何(いかん)()かして(くだ)さいな』
146常彦(つねひこ)否定(ひてい)肯定(こうてい)もありませぬワイ。147ゴテゴテ()ひなさるな』
148ヨブ『(なん)()つても合点(がてん)()かぬ(こと)ですワイ』
149高子(たかこ)(なん)なと()(うたが)(あそ)ばしませ。150(なに)よりも事実(じじつ)証明(しようめい)(いた)しますよ』
151高姫(たかひめ)左様(さやう)ならば()(とも)(いた)します……コレコレ春彦(はるひこ)152常彦(つねひこ)153ヨブさま、154おとなしうして()いて()るのだよ。155(なに)()つちやなりませぬぜ。156人民(じんみん)がゴテゴテ()つたつて、157(かみ)仕組(しぐみ)(わか)るものぢやありませぬ。158(だま)つて()(はう)が、159どれ(ほど)(かしこ)()えるか(わか)らぬぞえ』
160とイラツクやうな(こゑ)でたしなめながら、161(さん)(にん)(あと)(したが)ひ、162(みづ)のたまつたシクシク(ばら)(あし)(うら)をひやし、
163高姫『アヽ気分(きぶん)がよい、164(ひさ)しぶりでお(みづ)にありついた。165これと()ふのも(かみ)(さま)(みづ)()らさぬ()仕組(しぐみ)166(みづ)御霊(みたま)()神徳(しんとく)だよ。167(あし)()むのも勿体(もつたい)ないけれど、168ここを(とほ)らねば()くことが出来(でき)ませぬから、169どうぞ(かみ)(さま)(ゆる)して(くだ)さいませや』
170(かた)四角(しかく)(そばだ)て、171(しり)をプリンプリンとふりながら、172(さん)(にん)(あと)(したが)ひ、173(いさ)(すす)んでついて()く。
174 此処(ここ)には大変(たいへん)(ひろ)(かは)飛沫(ひまつ)()ばしてゴーゴーと(おと)()てて(なが)れてゐる。175(さん)(にん)(むすめ)は、176(しり)をまくり、177(うさぎ)()(やう)(たか)(いし)(あたま)(ねら)つて、178向方(むかふ)(またた)(うち)(わた)つて(しま)つた。179高姫(たかひめ)もわれ(おく)れじと(しり)ひきめくり、
180高姫『コレコレ(みな)さま、181()をつけなされ。182(この)(いし)はよく(すべ)りますよ』
183後向(うしろむ)途端(とたん)背中(せなか)(おぶ)つた石地蔵(いしぢざう)(おも)みで自分(じぶん)から(すべ)つて激流(げきりう)におち()み、184()きつ(しづ)みつ、185(あし)(うへ)にして(くるし)(もだ)え、186()()(ごと)くに(なが)()く。
187春彦『コリヤ大変(たいへん)
188春彦(はるひこ)(たちま)赤裸(まつぱだか)となり、
189春彦『オイ常彦(つねひこ)190ヨブ、191(おれ)着物(きもの)(あづか)つてくれ!』
192()ひながら、193(うづ)まく(なみ)にザンブと飛込(とびこ)み、194急流(きふりう)(およ)いで、195()きつ(しづ)みつ高姫(たかひめ)()つつき、196(やうや)くにして岩上(がんじやう)(すく)()げた。197高姫(たかひめ)(さいは)ひに(あま)(みづ)()まず、198()()(うしな)つては()ない。
199春彦(はるひこ)高姫(たかひめ)さま、200(あぶ)ない(こと)御座(ござ)いましたなア。201それだから(わたし)(あや)しいと()つて()めたぢやありませぬか。202(これ)からチツト吾々(われわれ)()(こと)()いて(もら)はなくちやなりませぬぞや』
203高姫『お(まへ)がありや、204こりや、205なけりや、206こりや、207()(こと)もあれば(わる)(こと)もある。208サア(はや)()きませう』
209春彦『どこへ(いそ)いで()くのですか』
210高姫『きまつた(こと)だ。211(はや)高子姫(たかこひめ)さまの()(たく)()かねば、212さぞ()待兼(まちか)ねだらうから…』
213春彦『ハテさて(こま)つた(こと)だなア。214こんな()()つてもまだ()()めないのですか』
215高姫神界(しんかい)()仕組(しぐみ)(わか)りますかい』
216()ひながら、217(かは)ぶちの森林(しんりん)を、218(かみ)(かみ)へと(つた)ひのぼり、219最前(さいぜん)はまつた飛石(とびいし)(まへ)(まで)(はし)(きた)り、
220高姫(たかひめ)『ヤア常彦(つねひこ)221ヨブさま、222()たせました。223サア()きませう』
224常彦(つねひこ)()(かく)225()無事(ぶじ)()目出度(めでた)御座(ござ)います』
226ヨブ『マア(これ)(わたし)安心(あんしん)しました』
227高姫(たかひめ)『コレ(つね)さま、228ヨブさま、229(まへ)()二人(ふたり)は、230水臭(みづくさ)い、231なぜ(わたし)危難(きなん)(すく)はなかつたのだ。232()うなると始終(しじう)口答(くちごた)へする春彦(はるひこ)(はう)余程(よほど)(ため)になる。233まさかの(とき)()()(もの)はメツタにないと、234(かみ)(さま)仰有(おつしや)るが、235いかにも(その)(とほ)りだよ』
236常彦(つねひこ)『あなたは(かみ)さまだから、237メツタに(みづ)(おぼ)れて()になさると()ふやうなことはないと(おも)つて安心(あんしん)してゐたのですよ。238人民(じんみん)(かみ)(さま)(たす)けようなんテ、239そんなことが如何(どう)して出来(でき)ますか』
240ヨブ『(あま)勿体(もつたい)なうて、241()りつく(わけ)にも()きませず、242吾々(われわれ)(ため)千座(ちくら)置戸(おきど)()うて(くだ)さるのだと(おも)ひましたから、243ヂツト暗祈(あんき)黙祷(もくたう)してゐました』
244高姫(たかひめ)生神(いきがみ)がこんな谷川(たにがは)(くらゐ)にはまつて(よわ)るやうな(こと)はないが、245(しか)(なが)ら、246人民(じんみん)として(あん)じて(わたし)(たす)けに()春彦(はるひこ)(こころ)は、247(じつ)(うる)はしいものだ。248(かみ)人間(にんげん)真心(まごころ)(よろこ)ぶのだからなア』
249春彦(はるひこ)高姫(たかひめ)さま、250春彦(はるひこ)でも(また)()()(こと)がありませうがな』
251高姫(たかひめ)棒千切(ぼうちぎ)れも、252(さん)(ねん)()(なか)にすてておけば(こや)しになる。253(くさ)(なは)にも()りえといふ比喩(たとへ)(とほ)り、254あんな(もの)()んな手柄(てがら)をすると()(かみ)(さま)のお筆先(ふでさき)実地(じつち)正真(しやうまつ)のおかげをお(まへ)(いただ)いたのだ。255サア(かみ)(さま)()(れい)(まを)しなさい。256こんな結構(けつこう)御用(ごよう)をさして(いただ)いてお(まへ)余程(よほど)果報者(くわはうもの)だよ。257これから高姫(たかひめ)()(こと)(ひと)つも(そむ)かず()きなされや。258さうでないと高姫(たかひめ)(また)(まへ)(かは)りに犠牲(ぎせい)にならねばならぬから、259チツト心得(こころえ)(くだ)されよ。260あんな(わか)(をんな)(かた)が、261(なん)ともなしに(わた)れる(いし)()()えを、262(すべ)ると()(やう)道理(だうり)がない。263これも(まつた)(かみ)(さま)がお(まへ)(つみ)(あがな)ひに、264(わたし)(すべ)りおとし、265(まへ)飛込(とびこ)ませ、266惟神(かむながら)(てき)にお(まへ)(みそぎ)(あそ)ばしたのだから、267(けつ)して、268高姫(たかひめ)(たす)けてやつたなどと(おも)つちやなりませぬぞや』
269 (さん)(にん)一度(いちど)(かほ)見合(みあは)せ、270()(まる)くし、271(くち)(とが)らせ、272高姫(たかひめ)(げん)(あき)れてゐる。
273 高子姫(たかこひめ)274(つき)275(あさ)三女(さんぢよ)は、276(きし)向方(むかふ)停立(ていりつ)し、277(しろ)(ほそ)()差出(さしだ)し『(はや)(きた)れ』と差招(さしまね)いてゐる。278高姫(たかひめ)一歩(ひとあし)々々(ひとあし)(ゆび)(さき)(ちから)()れながら糞垂(ばばた)(ごし)になつて、279怖相(こはさう)(むか)(ぎし)へと(わた)りつき、280(ふと)(いき)をつきながら……惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)……と二三回(にさんくわい)繰返(くりかへ)し、281(わた)(きた)れる一行(いつかう)(とも)に、282(さん)(にん)(をんな)(あと)(したが)ひ、283得意(とくい)(はな)(うごめ)かしつつ(こころ)欣々(いそいそ)()いて()く。
284大正一一・八・二二 旧六・三〇 松村真澄録)
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