黒姫たちの一行は大蛇の三公の館の表門に現れた。門番をしていた者たちは、生き埋めにしたはずの三人の男女が、敵対する虎公と一緒に子分たちや宣伝使も引き連れてやってきたのに肝をつぶし、真っ青な顔をしてぽかんとしている。
兼公は幽霊の真似をして親分の三公や幹部連に知らせるようにとおどかした。門番をしていた子分たちは驚いて、座敷に慌ただしく注進しに行った。兼公は遠慮もなく一同を導いて酒宴の場に乗り込んできた。
与三公、徳公は弱腰を抜かしてうろたえている。兼公は噴き出しそうになるのをこらえて作り声をし、幽霊気取りで恨みを述べて与三公をおどした。与三公は腰が抜けて真っ青な顔で両手を合わせて命乞いをしている。
虎公は吹きだして、幽霊ではないことを明かし、談判に来たことを告げた。徳公のふるえるさまやおかしな応対に、一同は笑い出してしまった。与三公と徳公は、虎公の気合を入れてもらってようやく腰が立つようになった。
そこへ大蛇の三公が、子分たちに酒肴を運ばせてやってきて、一同の前にきちんと座ると歓迎の口上を述べた。三公は、一行の姿が表門に見えただけで自分の身体から蛇が二三匹這い出し、逃げて行ったことを明かした。
三公が蛇を追って行くと、蛇はたちまち三匹の大蛇と変じ、向日峠の方面を指して逃げて行ったという。三公は、自分に憑依していた大蛇がお愛とお梅に悪を致したのだと言い、心から一同に許しを乞うた。
虎公をはじめ黒姫一行は、三五教の教えを普段から奉じているため、三公の詫びを入れて今までの恨みを流し、和気あいあいとして三公の客となった。三公の子分たちも酒宴のやり直しとなり、館はお祭り騒ぎとなってしまった。
三公は賓客のもてなしに全力を尽くしつつ宣伝歌を歌った。これまでに魔神に憑依されて体主霊従の限りを尽くしてきたことを恥じ、お愛に懸想して捕え、生き埋めにしようとしたことを懺悔した。
帰ってきてからは実は心の鬼に責められており、神前に罪を詫びていたところ、木花姫神の化身が現れ、生き埋めにした者たちは神の使いに救い出されてこの館にやってくることを告げられたという。
そして、三五の道に立ち返り今までの行いを改め、彼らを恭しく迎え出て共に手を取り合い、世人のために尽くすように、という託宣を受けたことを明かした。