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第35巻(戌の巻)
序文
総説歌
第1篇 向日山嵐
01 言の架橋
〔965〕
02 出陣
〔966〕
03 進隊詩
〔967〕
04 村の入口
〔968〕
05 案外
〔969〕
06 歌の徳
〔970〕
07 乱舞
〔971〕
08 心の綱
〔972〕
09 分担
〔973〕
第2篇 ナイルの水源
10 夢の誡
〔974〕
11 野宿
〔975〕
12 自称神司
〔976〕
13 山颪
〔977〕
14 空気焔
〔978〕
15 救の玉
〔979〕
16 浮島の花
〔980〕
第3篇 火の国都
17 霧の海
〔981〕
18 山下り
〔982〕
19 狐の出産
〔983〕
20 疑心暗狐
〔984〕
21 暗闘
〔985〕
22 当違
〔986〕
23 清交
〔987〕
24 歓喜の涙
〔988〕
余白歌
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第二三章
清交
(
せいこう
)
〔九八七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
篇:
第3篇 火の国都
よみ(新仮名遣い):
ひのくにみやこ
章:
第23章 清交
よみ(新仮名遣い):
せいこう
通し章番号:
987
口述日:
1922(大正11)年09月17日(旧07月26日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
火の国館の門前に、宣伝歌を歌いながらやってきたのは、玉治別であった。玉治別は、黒姫が探していた筑紫の島の高山彦は、別人であることを知っていたようであった。
火の国館の門番・軽公と受付の玉公は、玉治別宣伝使がやってきたと知り、歓迎してさっそく奥殿の愛子姫に合わせるべく、館の重鎮・津軽命に引き合わせた。津軽命は玉治別を導き、愛子姫も玉治別の訪問と聞いて支度を整えている。
玉治別と愛子姫は打ち解けて語り合った。愛子姫の夫・高国別は禊のために桂の滝に出かけており、留守をしていた。玉治別も、自転倒島に流れ着いた愛子姫の妹たちの活躍を、愛子姫に語って聞かせた。
玉治別は自分が孤児の身の上であったことを明かしつつ、火の国館にやってきた目的は、黒姫が主人の高国別を自分の夫の高山別と勘違いしているので、その騒動を収めて黒姫を高山別のいる聖地へ連れて帰るためだと告げた。
そこへ門番の玉公が、黒姫が共を引き連れて門前にやってきたと注進した。津軽命は黒姫を、愛子姫の居間に通すようにと命じた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-10-02 12:25:02
OBC :
rm3523
愛善世界社版:
270頁
八幡書店版:
第6輯 567頁
修補版:
校定版:
285頁
普及版:
105頁
初版:
ページ備考:
001
火
(
ひ
)
の
国館
(
くにやかた
)
の
門前
(
もんぜん
)
近
(
ちか
)
く、
002
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
る
一人
(
ひとり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
玉治別
(
たまはるわけの
)
命
(
みこと
)
なり。
003
玉治別
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
004
善神
(
ぜんしん
)
邪神
(
じやしん
)
を
立別
(
たてわ
)
ける
005
恋
(
こひ
)
に
迷
(
まよ
)
うた
黒姫
(
くろひめ
)
が
006
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
聖場
(
せいぢやう
)
に
007
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なにまめやかに
008
仕
(
つか
)
へつとむるハズバンド
009
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
010
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
に
渡
(
わた
)
りしと
011
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つに
思
(
おも
)
ひつめ
012
百
(
もも
)
の
悩
(
なや
)
みに
堪
(
た
)
へ
乍
(
なが
)
ら
013
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝
(
せんでん
)
を
014
兼
(
か
)
ねつつ
来
(
きた
)
る
浪
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
015
筑紫
(
つくし
)
ケ
岳
(
だけ
)
をふみ
越
(
こ
)
えて
016
岩
(
いは
)
の
根
(
ね
)
木
(
き
)
の
根
(
ね
)
よけ
乍
(
なが
)
ら
017
人跡
(
じんせき
)
稀
(
まれ
)
なる
谷
(
たに
)
の
路
(
みち
)
018
向日峠
(
むかふたうげ
)
や
屋方村
(
やかたむら
)
019
後
(
あと
)
に
眺
(
なが
)
めて
荒井岳
(
あらゐだけ
)
020
二人
(
ふたり
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
伴
(
ともな
)
ひて
021
火
(
ひ
)
の
国
(
くに
)
一
(
いち
)
の
急坂
(
きふはん
)
を
022
登
(
のぼ
)
りつ
下
(
くだ
)
りつ
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
023
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
024
黒姫司
(
くろひめつかさ
)
が
今
(
いま
)
ここに
025
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
ることあらば
026
さぞや
驚
(
おどろ
)
き
給
(
たま
)
ふべし
027
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
の
君
(
きみ
)
と
只管
(
ひたすら
)
に
028
思
(
おも
)
ひし
高山彦
(
たかやまひこ
)
神
(
がみ
)
は
029
真
(
まこと
)
の
夫
(
をつと
)
に
非
(
あら
)
ずして
030
思
(
おも
)
ひもよらぬ
人
(
ひと
)
の
夫
(
つま
)
031
天照
(
あまてら
)
します
大神
(
おほかみ
)
の
032
御手
(
みて
)
の
手巻
(
たまき
)
にまかせたる
033
五百津
(
いほつ
)
美須麻琉
(
みすまる
)
々々々々
(
みすまる
)
の
034
玉
(
たま
)
の
精気
(
せいき
)
にあれましし
035
活津彦根
(
いくつひこね
)
の
神司
(
かむづかさ
)
036
高国別
(
たかくにわけ
)
と
聞
(
き
)
くならば
037
さすがに
気丈
(
きぢやう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
も
038
さぞや
驚
(
おどろ
)
き
玉
(
たま
)
ふらむ
039
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へばいぢらしい
040
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
片時
(
かたとき
)
も
041
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
迷
(
まよ
)
ひをば
042
晴
(
は
)
らし
助
(
たす
)
けて
自転倒
(
おのころ
)
の
043
神
(
かみ
)
の
集
(
あつ
)
まる
珍
(
うづ
)
の
島
(
しま
)
044
綾
(
あや
)
の
高天
(
たかま
)
につれ
帰
(
かへ
)
り
045
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
諸共
(
もろとも
)
に
046
睦
(
むつ
)
び
親
(
した
)
しみ
皇神
(
すめかみ
)
の
047
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
仕
(
つか
)
へまし
048
麻邇
(
まに
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
神業
(
しんげふ
)
に
049
清
(
きよ
)
くも
仕
(
つか
)
へさせ
玉
(
たま
)
へ
050
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
051
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
052
御言
(
みこと
)
を
畏
(
かしこ
)
みフサの
国
(
くに
)
053
ウブスナ
山
(
やま
)
の
山頂
(
さんちやう
)
に
054
大宮柱
(
おほみやばしら
)
太
(
ふと
)
しりて
055
そそり
立
(
た
)
ちたる
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
056
聖地
(
せいち
)
を
後
(
あと
)
にはるばると
057
エデンの
河
(
かは
)
を
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
り
058
フサの
海原
(
うなばら
)
横断
(
わうだん
)
し
059
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
の
熊襲国
(
くまそくに
)
060
建日
(
たけひ
)
の
港
(
みなと
)
に
上陸
(
じやうりく
)
し
061
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
助
(
たす
)
けむと
062
ここ
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
りけり
063
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
064
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ』
065
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
066
門前
(
もんぜん
)
近
(
ちか
)
く
現
(
あら
)
はれける。
067
門番
(
もんばん
)
の
軽公
(
かるこう
)
は
此
(
この
)
宣伝歌
(
せんでんか
)
に
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち、
068
威儀
(
ゐぎ
)
を
正
(
ただ
)
して
門
(
もん
)
を
開
(
ひら
)
き、
069
軽公
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
出
(
い
)
でましと
070
知
(
し
)
るより
心
(
こころ
)
勇
(
いさ
)
みけるかも。
071
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
後
(
あと
)
追
(
お
)
うて
072
黒姫司
(
くろひめつかさ
)
出
(
い
)
でますと
聞
(
き
)
く。
073
黒姫
(
くろひめ
)
の
御供
(
みとも
)
の
人
(
ひと
)
が
今
(
いま
)
二人
(
ふたり
)
074
力
(
ちから
)
なくなく
帰
(
かへ
)
りましけり。
075
高国別
(
たかくにわけ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
神司
(
かむづかさ
)
076
桂
(
かつら
)
の
滝
(
たき
)
に
出
(
い
)
でましにけり。
077
玉治別
(
たまはるわけ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
よ
速
(
すみや
)
かに
078
鉄門
(
かなど
)
をくぐり
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
りませ。
079
惟神
(
かむながら
)
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深
(
ふか
)
くして
080
今日
(
けふ
)
は
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
に
会
(
あ
)
ふ
哉
(
かな
)
。
081
有難
(
ありがた
)
や
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
出
(
い
)
でましに
082
御空
(
みそら
)
も
清
(
きよ
)
く
晴
(
は
)
れ
渡
(
わた
)
りけり。
083
大空
(
おほぞら
)
の
星
(
ほし
)
にも
擬
(
まが
)
ふ
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
084
神
(
かみ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
美
(
うるは
)
しき
哉
(
かな
)
』
085
と
口
(
くち
)
を
極
(
きは
)
めて
讃美
(
さんび
)
し、
086
歓迎
(
くわんげい
)
してゐる。
087
玉治別
『
美
(
うるは
)
しき
火
(
ひ
)
の
国都
(
くにみやこ
)
の
鉄門
(
かなど
)
守
(
も
)
る
088
軽
(
かる
)
の
君
(
きみ
)
こそ
雄々
(
をを
)
しき
男
(
を
)
の
子
(
こ
)
よ。
089
われこそは
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
090
館
(
やかた
)
の
君
(
きみ
)
に
会
(
あ
)
はまくぞ
思
(
おも
)
ふ。
091
高国別
(
たかくにわけ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
は
雄々
(
をを
)
しくも
092
桂
(
かつら
)
の
滝
(
たき
)
に
出
(
い
)
でますと
聞
(
き
)
く。
093
さり
乍
(
なが
)
ら
愛子
(
あいこ
)
の
姫
(
ひめ
)
はおはすらむ
094
われは
代
(
かは
)
りて
言問
(
ことと
)
ひたくぞ
思
(
おも
)
ふ』
095
門番
(
もんばん
)
の
軽公
(
かるこう
)
は、
096
軽公
『
神館
(
かむやかた
)
主
(
あるじ
)
の
君
(
きみ
)
はいまさねど
097
愛子
(
あいこ
)
の
姫
(
ひめ
)
に
会
(
あ
)
はせまつらむ。
098
玉治別
(
たまはるわけ
)
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
よわれは
今
(
いま
)
099
君
(
きみ
)
の
御為
(
みため
)
に
導
(
みちび
)
きまつらむ』
100
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
101
玉治別
『
今
(
いま
)
こそは
人
(
ひと
)
の
情
(
なさけ
)
の
知
(
し
)
られけり
102
鉄門
(
かなど
)
を
守
(
まも
)
る
人
(
ひと
)
の
言葉
(
ことば
)
に。
103
黒姫
(
くろひめ
)
はやがては
此処
(
ここ
)
に
来
(
き
)
ますらむ
104
易
(
やす
)
く
通
(
とほ
)
せよ
鉄門
(
かなど
)
守
(
も
)
る
人
(
ひと
)
』
105
軽公
『
黒姫
(
くろひめ
)
を
易
(
やす
)
く
通
(
とほ
)
さむ
術
(
すべ
)
なけど
106
君
(
きみ
)
のことばに
詮術
(
せんすべ
)
もなし。
107
君
(
きみ
)
ならで
誰
(
たれ
)
に
開
(
ひら
)
かむ
此
(
この
)
鉄門
(
かなど
)
108
主
(
あるじ
)
の
君
(
きみ
)
の
許
(
ゆる
)
しなくして』
109
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
110
玉治別
『いざさらば
珍
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
へ
進
(
すす
)
み
申
(
まを
)
さむ
111
心
(
こころ
)
も
足
(
あし
)
も
軽公
(
かるこう
)
の
恵
(
めぐみ
)
に』
112
かく
応答
(
おうたふ
)
し
乍
(
なが
)
ら、
113
いつの
間
(
ま
)
にか
玄関口
(
げんくわんぐち
)
につけり。
114
軽公
(
かるこう
)
は
受付
(
うけつけ
)
の
玉公
(
たまこう
)
に
向
(
むか
)
ひ
歌
(
うた
)
を
詠
(
よ
)
む。
115
軽公
『
玉公
(
たまこう
)
よ
今
(
いま
)
より
表
(
おもて
)
の
鉄門
(
かなど
)
守
(
も
)
れ
116
わはこれより
受付
(
うけつけ
)
とならむ』
117
玉公
『いざさらば
表
(
おもて
)
に
立
(
た
)
ちていかめしく
118
みことのままに
鉄門
(
かなど
)
守
(
まも
)
らむ』
119
と、
120
つツと
立
(
た
)
つて
元
(
もと
)
の
門番
(
もんばん
)
をなすべく
表
(
おもて
)
に
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
く。
121
この
軽公
(
かるこう
)
は、
122
津軽
(
つがるの
)
命
(
みこと
)
といふ
館
(
やかた
)
の
主
(
あるじ
)
の
股肱
(
ここう
)
と
頼
(
たの
)
む
宣伝使
(
せんでんし
)
である。
123
津軽
(
つがるの
)
命
(
みこと
)
は
玉治別
(
たまはるわけの
)
命
(
みこと
)
に
向
(
むか
)
ひ
又
(
また
)
詠
(
うた
)
ふ。
124
津軽命
『いざ
早
(
はや
)
く
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
に
通
(
とほ
)
りませ
125
愛子
(
あいこ
)
の
姫
(
ひめ
)
は
汝
(
なれ
)
を
待
(
ま
)
ちます』
126
玉治別
『
神館
(
かむやかた
)
主
(
あるじ
)
の
神
(
かみ
)
はまさねども
127
いろとの
君
(
きみ
)
にものや
申
(
まを
)
さむ』
128
と、
129
津軽
(
つがるの
)
命
(
みこと
)
に
導
(
みちび
)
かれ、
130
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
さして
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
131
愛子姫
(
あいこひめ
)
は
玉治別
(
たまはるわけの
)
命
(
みこと
)
の
入来
(
にふらい
)
と
聞
(
き
)
き、
132
あわただしく
衣紋
(
えもん
)
をつくろひ
髪
(
かみ
)
をなで
上
(
あ
)
げ、
133
しづしづとして
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
歩
(
あゆ
)
み
来
(
きた
)
る。
134
長
(
なが
)
き
廊下
(
らうか
)
に
差
(
さし
)
かかる
折
(
をり
)
、
135
玉治別
(
たまはるわけ
)
にパツタリ
出会
(
であ
)
ひ、
136
愛子姫
『
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
を
導
(
みちび
)
き
救
(
すく
)
ふ
愛子姫
(
あいこひめ
)
137
汝
(
なれ
)
迎
(
むか
)
へむと
此処
(
ここ
)
に
来
(
きた
)
れり。
138
汝
(
な
)
が
命
(
みこと
)
これの
館
(
やかた
)
に
来
(
き
)
ますぞと
139
きくより
日々
(
にちにち
)
に
待
(
ま
)
ちあぐみたるよ。
140
うるはしき
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
141
高
(
たか
)
き
御名
(
みな
)
こそ
世
(
よ
)
に
響
(
ひび
)
きけり。
142
あゝ
清
(
きよ
)
き
神
(
かみ
)
の
姿
(
すがた
)
を
目
(
ま
)
のあたり
143
拝
(
をろが
)
み
仰
(
あふ
)
ぐ
今日
(
けふ
)
ぞ
嬉
(
うれ
)
しき』
144
玉治別
(
たまはるわけ
)
はこれに
答
(
こた
)
へて、
145
玉治別
『
名
(
な
)
は
高
(
たか
)
き
火
(
ひ
)
の
国都
(
くにみやこ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
146
汝
(
なれ
)
はいろとにおはすか
天晴
(
あは
)
れ。
147
素盞嗚
(
すさのを
)
の
神
(
かみ
)
の
尊
(
みこと
)
の
愛娘
(
まなむすめ
)
148
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
を
慕
(
した
)
ひ
来
(
き
)
にけり。
149
うるはしき
其
(
その
)
御心
(
みこころ
)
の
現
(
あら
)
はれて
150
御姿
(
みすがた
)
さへも
輝
(
かがや
)
き
玉
(
たま
)
へる。
151
照
(
て
)
りわたる
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
の
月
(
つき
)
の
如
(
ごと
)
152
清
(
きよ
)
き
御姿
(
みすがた
)
今
(
いま
)
拝
(
をが
)
むかな』
153
と
詠
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
154
愛子姫
(
あいこひめ
)
、
155
津軽
(
つがるの
)
命
(
みこと
)
に
前後
(
ぜんご
)
を
守
(
まも
)
られ、
156
一間
(
ひとま
)
の
内
(
うち
)
に
悠々
(
いういう
)
として
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
157
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
鼎座
(
ていざ
)
して、
158
互
(
たがひ
)
に
打
(
うち
)
とけ
嬉
(
うれ
)
しげに
語
(
かた
)
り
合
(
あ
)
ふ。
159
愛子姫
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
160
ようマアはるばると
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
161
夫
(
をつと
)
高国別
(
たかくにわけ
)
は
折悪
(
をりあ
)
しく、
162
今朝
(
こんてう
)
桂
(
かつら
)
の
滝
(
たき
)
へ
御禊
(
みそぎ
)
の
為
(
ため
)
に、
163
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
の
心願
(
しんぐわん
)
をこめて
参
(
まゐ
)
りました
不在中
(
ふざいちゆう
)
で、
164
誠
(
まこと
)
に
不都合
(
ふつがふ
)
なれども、
165
ゆるゆる
御
(
ご
)
休息
(
きうそく
)
の
上
(
うへ
)
、
166
国々
(
くにぐに
)
の
御
(
お
)
珍
(
めづ
)
らしいお
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かせて
下
(
くだ
)
さいませ』
167
玉治別
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
168
と、
169
愛子姫
(
あいこひめ
)
が
妹
(
いもうと
)
の
所在
(
ありか
)
を
一々
(
いちいち
)
物語
(
ものがた
)
り、
170
且
(
かつ
)
又
(
また
)
其
(
その
)
活動振
(
くわつどうぶり
)
を
詳細
(
しやうさい
)
に
伝
(
つた
)
へけるに、
171
愛子姫
(
あいこひめ
)
はえも
云
(
い
)
はれぬ
愉快
(
ゆくわい
)
なる
面色
(
おももち
)
にて、
172
愛子姫
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
173
随分
(
ずゐぶん
)
あなたも
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
なさいましたなア。
174
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
世人
(
よびと
)
の
為
(
ため
)
、
175
どうぞ
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
にて
御
(
ご
)
神務
(
しんむ
)
にお
仕
(
つか
)
へ
下
(
くだ
)
さいますやう
祈
(
いの
)
ります』
176
玉治別
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
177
私
(
わたくし
)
も
不運
(
ふうん
)
な
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
178
父母
(
ふぼ
)
に
捨
(
す
)
てられ、
179
ホンの
独身者
(
どくしんもの
)
で
御座
(
ござ
)
いますが、
180
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
いたしましてより、
181
国依別
(
くによりわけ
)
さまの
妹
(
いもうと
)
を
女房
(
にようばう
)
に
貰
(
もら
)
ひうけ、
182
今
(
いま
)
は
夫婦
(
ふうふ
)
が
力
(
ちから
)
を
協
(
あは
)
せて、
183
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
を
一心
(
いつしん
)
に
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
ります。
184
イヤもう
苦労
(
くらう
)
といつても、
185
神
(
かみ
)
さまと
道伴
(
みちづ
)
れの
苦労
(
くらう
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
186
何処
(
どこ
)
の
国
(
くに
)
へ
参
(
まゐ
)
りましても、
187
真
(
まこと
)
に
愉快
(
ゆくわい
)
でたまりませぬ』
188
愛子姫
『あゝ
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
189
妾
(
わらは
)
も
何
(
なん
)
とかして
妹
(
いもうと
)
の
様
(
やう
)
に
世界
(
せかい
)
各国
(
かくこく
)
を
巡教
(
じゆんけう
)
いたしたく
存
(
ぞん
)
じまするが、
190
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
夫
(
をつと
)
ある
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
191
思
(
おも
)
ふやうには
参
(
まゐ
)
りませぬ。
192
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
相応
(
さうおう
)
の
御用
(
ごよう
)
より
出来
(
でき
)
ないものと
見
(
み
)
えますなア』
193
玉治別
『いかにも
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
194
時
(
とき
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
さまは、
195
高山彦
(
たかやまひこ
)
といふ
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
が
御座
(
ござ
)
いますが、
196
綾
(
あや
)
の
聖地
(
せいち
)
に
於
(
おい
)
て、
197
下
(
くだ
)
らぬことから
喧嘩
(
けんくわ
)
をなされまして、
198
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまは、
199
筑紫
(
つくし
)
の
島
(
しま
)
へ
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
ひ
切
(
き
)
つた
儘
(
まま
)
、
200
何処
(
どこ
)
かへお
隠
(
かく
)
れになりました。
201
そこで
黒姫
(
くろひめ
)
さまが、
202
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまは
屹度
(
きつと
)
筑紫島
(
つくしじま
)
に
御座
(
ござ
)
ることと
思召
(
おぼしめ
)
され、
203
はるばると
海山
(
うみやま
)
越
(
こ
)
えて
此
(
この
)
国
(
くに
)
へ
来
(
き
)
てゐられます。
204
高国別
(
たかくにわけ
)
さまの
又
(
また
)
の
御名
(
みな
)
が
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまと
申
(
まを
)
すので、
205
黒姫
(
くろひめ
)
さまは
吾
(
わが
)
夫
(
をつと
)
とのみ
思
(
おも
)
ひつめ、
206
やがて
此処
(
ここ
)
へお
越
(
こ
)
しになるでせうから、
207
どうぞお
願
(
ねが
)
ひで
御座
(
ござ
)
います。
208
奥
(
おく
)
へ
御
(
お
)
通
(
とほ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
209
一応
(
いちおう
)
話
(
はなし
)
をきいて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいませ。
210
玉治別
(
たまはるわけ
)
が
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひで
御座
(
ござ
)
います』
211
愛子姫
『それは
又
(
また
)
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
いますなア。
212
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
御名
(
みな
)
もヤツパリ
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまで
厶
(
ござ
)
いましたかなア。
213
其
(
その
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
御
(
お
)
所在
(
ありか
)
はお
分
(
わか
)
りになつて
居
(
を
)
りますか』
214
玉治別
『
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまはアフリカへ
御
(
お
)
渡
(
わた
)
りかと
思
(
おも
)
ひきや、
215
依然
(
いぜん
)
として
聖地
(
せいち
)
に
現
(
あら
)
はれ、
216
神
(
かみ
)
さまに
朝夕
(
あさゆふ
)
お
仕
(
つか
)
へをして
居
(
ゐ
)
られます。
217
私
(
わたし
)
はそれを
見
(
み
)
るにつけ、
218
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
御
(
お
)
心根
(
こころね
)
が
可哀相
(
かあいさう
)
になり、
219
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
さまのまします
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
一旦
(
いつたん
)
参
(
まゐ
)
りまして、
220
更
(
あらた
)
めてここへ
渡
(
わた
)
り、
221
黒姫
(
くろひめ
)
さまに
巡
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
つて、
222
知
(
し
)
らして
上
(
あ
)
げたいと
思
(
おも
)
ひ、
223
宣伝
(
せんでん
)
を
兼
(
か
)
ねお
迎
(
むか
)
へ
旁
(
かたがた
)
参
(
まゐ
)
りましたので
御座
(
ござ
)
います』
224
愛子姫
『それはマア
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
な
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
います。
225
黒姫
(
くろひめ
)
さまがあなたの
御
(
ご
)
心底
(
しんてい
)
をお
聞
(
き
)
きになられたら、
226
さぞお
喜
(
よろこ
)
びになることでせう』
227
玉治別
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
228
私
(
わたくし
)
の
伺
(
うかが
)
ひでは、
229
このお
館
(
やかた
)
にて
余
(
あま
)
り
遠
(
とほ
)
からぬ
内
(
うち
)
、
230
黒姫
(
くろひめ
)
さまに
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
が
出来
(
でき
)
るやうに
存
(
ぞん
)
じます』
231
愛子姫
『
妾
(
わらは
)
も
左様
(
さやう
)
に
心得
(
こころえ
)
ます。
232
どうぞ
早
(
はや
)
くお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さると
宜
(
よろ
)
しいがなア』
233
かく
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
234
門番
(
もんばん
)
の
玉公
(
たまこう
)
はあわただしく
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り、
235
玉公
『
三五教
(
あななひけう
)
の
黒姫
(
くろひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
婆
(
ば
)
アさまが、
236
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
荒男
(
あらをとこ
)
を
連
(
つ
)
れて、
237
表門
(
おもてもん
)
へ
現
(
あら
)
はれ、
238
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
開
(
あ
)
け……と
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
りまする。
239
如何
(
いかが
)
致
(
いた
)
しませうかなア』
240
津軽
(
つがるの
)
命
(
みこと
)
は
言下
(
げんか
)
に、
241
津軽命
『
玉公
(
たまこう
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが、
242
早
(
はや
)
く
表門
(
おもてもん
)
をひらき、
243
黒姫
(
くろひめ
)
さま
一行
(
いつかう
)
を
此処
(
ここ
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
申
(
まを
)
せ』
244
玉公
(
たまこう
)
は
不審
(
ふしん
)
な
面持
(
おもも
)
ちにて、
245
玉公
『へー、
246
あんな
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
を
沢山
(
たくさん
)
伴
(
つ
)
れた
婆
(
ばば
)
アでも、
247
通
(
とほ
)
して
宜
(
よろ
)
しいか。
248
高山彦
(
たかやまひこ
)
さまの
女房
(
にようばう
)
だなんぞと
言
(
い
)
つてゐましたよ。
249
モシもあんな
婆
(
ば
)
アさまを
引
(
ひ
)
つぱり
込
(
こ
)
まうものなら
大変
(
たいへん
)
ですよ。
250
第一
(
だいいち
)
愛子姫
(
あいこひめ
)
さまが
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
を
遊
(
あそ
)
ばすでせう』
251
津軽命
『
構
(
かま
)
はないから、
252
早
(
はや
)
くお
迎
(
むか
)
へ
申
(
まを
)
して
来
(
こ
)
い』
253
玉公
『ハイ』
254
と
答
(
こた
)
へて
門番
(
もんばん
)
は
表
(
おもて
)
をさして
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
く。
255
(
大正一一・九・一七
旧七・二六
松村真澄
録)
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