第一二章 自称神司〔九七六〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第35巻 海洋万里 戌の巻
篇:第2篇 ナイルの水源
よみ(新仮名遣い):ないるのすいげん
章:第12章 自称神司
よみ(新仮名遣い):じしょうかむづかさ
通し章番号:976
口述日:1922(大正11)年09月16日(旧07月25日)
口述場所:
筆録者:松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:1923(大正12)年12月25日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:四人は白山峠の山頂に到着した。そこからはスッポンの湖の一部が小さく見えた。三公はそれを見て両親への思いを述懐する。
孫公はふと、一行の中に宣伝使がいないことを不安に言い始めた。孫公と虎公は、宣伝使を選挙で決めようと掛け合いを始める。滑稽なやり取りをした後、虎公は孫公が臨時宣伝使となるべきだと告げる。
孫公は意気が上がり、仮にも宣伝使と認められたからには、神力を発現して大蛇退治の言霊戦に功を現さねばならないと、得意になって勇ましい宣伝歌を歌う。
しかしどこからともなく、中空より玉治別の宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌は、一行が神聖な宣伝使を冗談でも選挙で任命したことを厳しく戒めた。そして、孫公を宣伝使として前に立てようなどという心持を起こした虎公、お愛、三公にも厳しい注意を与えた。
四人は声の出所を求めてあたりの谷底を覗き込んでみたが、人の影も見当たらなかった。一行は白山峠の急坂を降って行く。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:2022-09-27 11:23:07
OBC :rm3512
愛善世界社版:133頁
八幡書店版:第6輯 520頁
修補版:
校定版:141頁
普及版:53頁
初版:
ページ備考:
001 白山峠の山頂に漸くにして辿りついた四人の男女は、002峰の嵐に吹かれつつ汗を拭ひ四方の山野を心地よげに観望しながら小憩を試みてゐる。
003 遥かの東北に当つて、004白く光つたものが見えてゐる。005それは春公、006お常が大蛇に呑まれた思ひ出深きスツポンの湖の一部である。007三公はその湖がフツと目につき慨歎措かざるものの如く、
008三公『皆さま、009ズツと向ふの方に幽かに白く光つてる所がありませう。010あれが私に取つては、011寝ても起きても忘れ難き、012両親の古戦場で御座います……』
013と言つた限り、014差俯むいて落涙する。
015孫公『なアんだ、016あんな小つぽけな湖か。017仮令一杯になつてゐた所で知れたものだ。018今度は神様と一緒だから大丈夫だ。019メツタに呑まれるやうなこたアありますまい』
020三公『イエイエ、021今見る様な小さい湖水ぢやありませぬ。022山に包まれて僅に其一部が見えてゐる計りです。023目も届かぬ許の大湖水ですよ。024何と云つても、025ナイル河の水源地ですから、026大変なものです。027皆さま、028是からシツカリ腹帯をしめて行きませう』
029孫公『かう云ふ時に本当の宣伝使が一人あると、030大変都合が好いのだけれどなア』
031虎公『孫公さま、032宣伝使ぢやなかつたのか』
033孫公『宣伝使のお供ですから根つから気が利きませぬワイ。034併しながら其様な名前がなくても心に誠さへあれば、035大蛇は十分言向和す事が出来ませう。036名は実の賓だから、037宣伝使の雅号のみでは、038決して仕事は出来ませぬよ。039先づ心細ければ、040あなた方三人が此孫公を何とかして宣伝使に選挙して下さい。041さうすれば名実相叶ふ所の大活動をやりますから……』
042虎公『名は実の主だから、043如何しても名がなくては行くまい。044無名の戦になつて了つちやつまらないからなア』
045孫公『有難い、046サア普通選挙だ。047誰も彼も選挙権があるのだから、048早く投票をして下さい。049併しながら無記名投票ですから、050其御考へで願ひます』
051虎公『生憎用紙もなければ、052投票函もありませぬが、053如何したら宜しからう』
054孫公『先づ選挙区を第一区、055第二区、056第三区と分け、057私が候補者に立ちますから、058どうぞ口頭でも宜しい、059早く選挙の開始を願ひます』
060虎公『一票に幾ら出しますか。061百円位は安いものでせう。062今一寸衆議院に出ようと思へば、063少くて五万円、064多くて十万円は要りますからなア』
065孫公『代物は見ての御帰り、066選挙して見て値打がないと見たら、067御取消になつても差支ありませぬ。068そんなら一層の事投票なしに口で言つて下さいな。069簡単で物事が埒よう運びますから……』
070虎公『投票を省くなんて、071トヘウもない事を仰有いますなア。072そんなら虎公が宣伝使の立候補の宣言致しますから、073どうぞ皆さま、074貴重の一票をお恵み下さいませ。075候補者一人では競争者がなくて、076選挙もサツパリ張合がない。077皆さま何卒私に選挙を願ひます。078一票は私の縁故たるお愛さまに願ひませう。079さうすればあと一票、080三対一によつて、081大勝利ですから……』
082孫公『困つたなア、083三公が投票して呉れた所で、084どちらも同点数だ。085若しさうなつた時にはどうするのですか』
086虎公『年長者を当選者ときめませうかい』
087孫公『さうすると、088虎公さまは幾つですか』
089虎公『あなたよりも二三年古いやうです』
090孫公『困つたなア、091さうすると戦はずして敗北かなア。092エヽ残念な、093又次期の総選挙か解散があつた時に華々しく名乗つて出る事にしよう。094今度は断念致しませう。095さうすると虎公さまの一人舞台だ、096仮令三公さまが棄権しようが、097私が棄権しようが、098当選疑なしといふものだ』
099三公『コレ孫公さま、100飽くまでも選挙場裡に立つて戦ひなさい。101三五教には退却の二字はないぢやありませぬか。102及ばずながら私があなたを選挙します。103さうすれば大多数を以て当選疑なしです。104一人でも三公だから三票は大丈夫ですよ、105アハヽヽヽ』
106虎公『全部取消だ。107孫公さま、108臨時宣伝使となつて吾々を導いて下さい。109私は辞退しておきますから……』
110孫公『ヤア有難い、111そんなら只今より三五教の宣伝使孫公別命だからそのお心組で願ひます。112宣伝使になつた祝ひに、113一つ此山上で言霊戦をやりませう。114政見発表の代りに戦見発表宣伝歌をやりますから謹聴を願ひます………。
116賢者と愚者を立別ける
120馬鹿な男と言はれたる
121孫公司も何時迄も
127袋の中に鋭利なる 128錐ある時は鋭脱し
129其鋒鋩は現はれる
131思うて来たのにこれは又
134大蛇の奴が現はれて
135三公の親を食たおかげ 136自転倒島から従いて来た
141お前は神か竜神か 142木の花姫か知らねども
143余程身魂の光る奴
145看破し得ざりし孫公の 146此神力を認識し
147全会一致の勢ひで 148選挙したのは偉い奴
149お前の様な選挙人
151体主霊従の悪政は
153聖人賢人哲人は 154野に埋もれて何時迄も
156こりや又如何した幸ひか
157孫公別の宣伝使
160神は吾等と倶にあり
161吾等は神の子神の宮
164湖にひそめる大蛇奴を
165広大無辺の神力の
168三公虎公お愛をば
169御供の神と定めつつ
171朝日は照るとも曇るとも
173仮令大地は沈むとも 174辞職の出来ない宣伝使
178如何しても斯うしても放しやせぬ
179三千世界の梅の花 180一度に開く常磐木の
181松の神代がめぐり来て
183雲井にぬき出た白山の 184此絶頂で勇ましく
185神の使の宣伝使
187仮令野の末山の奥 188虎狼や獅子熊の
189狂へる野辺も厭ひなく 190心を尽し身を尽し
191筑紫の島は云ふも更 192常世の国や高砂の
193島の奥まで乗込むで 194尊き神の御光を
195輝き渡すは目のあたり
198 何処ともなく中空より宣伝歌の声が聞え来る。199四人は不審の眉をひそめながら、200耳をすまして聞いてゐる。
201(玉治別)『神が表に現はれて 202善と悪とを立別ける
203善に見えても悪霊 204悪に見えても善の魂
205心は捩ぢけ智慧曇り
207凡夫の身魂が寄り合うて 208神の尊き宣伝使
210神の心と空蝉の
211人の心は裏表 212如何に選挙に当選し
214神が許さにや真実の
215誠の力は出よまいぞ
217神の心も白山の
219心を砕き胸痛め
221其猛勢に戦いて 222無道の選挙をしたとても
223微塵も効力ない程に 224何れも心を取直し
226屋方の村の親分と
227羽振り利かした三公も 228武野の村の虎公も
229貴族生れのお愛まで
231今は全く山上に 232身魂は堕落して了うた
235湖に向つて言霊の
237命知らずの侠客も 238今は命が惜しうなつて
240弱音ばかりか臆病風
241此山頂に吹いてゐる 242朝から晩まで偉さうに
244法螺吹き廻つた男達
245何を血迷ひ黒姫の 246愛想を尽かした孫公に
247卑怯未練に頼むぞや 248少しは胸に手を当てて
250吾は玉治別司
251神に代つて一同に 252誠心で気を付ける
255と言つたきり、256其声はピタリと止まる。
257 四人は声の出所を求めて、258彼方此方と谷底を覗き込んで見たが、259そこらに人らしき者の影も見えなかつた。260ここに一行四人は白山峠の急坂を東北指して下り行く。
261(大正一一・九・一六 旧七・二五 松村真澄録)