霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第四章 ()親切(しんせつ)〔一〇四一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第1篇 千万無量 よみ(新仮名遣い):せんまんむりょう
章:第4章 誤親切 よみ(新仮名遣い):ごしんせつ 通し章番号:1041
口述日:1922(大正11)年10月14日(旧08月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
喜楽は、神様の御用でどうしても家を空けなければならないと説明したが、二人が聞く耳を持たずに厳しく責め立てる。母もそれに力を得て、実家に居るようにと頼み込む。
しかしどうしたわけか、耳の遠い祖母にもその談判が聞こえたと見えて、老人の頼みだからと、喜楽を綾部に出してくれるよう、母たちに口を出してくれた。
また、そこへ野良仕事から帰ってきた弟の幸吉も、喜楽のために弁護してくれたので、その場は収めることができた。
翌朝も綾部行きを引き留められ、三日間穴太に逗留することになってしまった。ようやく、弟の幸吉を目付に連れて行くことで、綾部行きを許可してもらうことになった。幸吉も元から神様の道には熱心で、幽斎修行もしていたから、喜んで綾部についてくることになった。
出立するときに次郎松とお政さんがやってきて、またもや難癖をつけてきたが、幸吉が二人前働くと請け負ってくれて、ようやくその場を逃れて弟と二人、綾部に出立することができた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-10-30 13:26:12 OBC :rm3804
愛善世界社版:37頁 八幡書店版:第7輯 170頁 修補版: 校定版:37頁 普及版:18頁 初版: ページ備考:
001 次郎松(じろまつ)サンやお(まさ)後家(ごけ)サンに忠告(ちうこく)()()かけられ、002(しばら)閉口(へいこう)してゐたが……エヽこんな()のよわい(こと)で、003神界(しんかい)御用(ごよう)(つと)まるものか……と、004(たちま)勇猛心(ゆうまうしん)発揮(はつき)し、005(おも)()つて、
006喜楽(きらく)(みな)さまの上田家(うへだけ)(おも)うて(くだ)さる()親切(しんせつ)(わたくし)骨身(ほねみ)にこたへて有難(ありがた)(ござ)ります。007(しか)(なが)(いま)(わたくし)(かみ)さまの()使(つかひ)となつて、008(くに)(ため)(つく)さねばならぬ()(うへ)でありますから、009(なん)()つて意見(いけん)をして(くだ)さつても、010ここ(じふ)(ねん)ばかりは(わが)()(かへ)つて()ることは出来(でき)ませぬ。011(また)(うち)(かね)(おく)るといふ(やう)なことは、012到底(たうてい)(わたくし)には出来(でき)ませぬ。013それも(わたくし)一人(ひとり)より上田家(うへだけ)()がないのならば、014(なん)とかしてでも(うち)()つて(いへ)(ため)(はたら)かねばなりますまいが、015()(にん)弟妹(けうだい)のあることですから、016(いへ)のことは(わたくし)()らなくても、017如何(どう)なりと都合(つがふ)をつけて、018(かみ)さまが(まも)つて(くだ)さるでせうから……』
019といふや(いな)や、020別家(べつけ)次郎松(じろまつ)サンは、021(たちま)()をむき(くち)(とが)らし、
022()『ナニお(まへ)はそんなバカな(こと)()ふのだ。023二言目(ふたことめ)には口癖(くちぐせ)のやうに、024(みち)(ため)ぢやの、025(くに)(ため)ぢやのと、026小癪(こしやく)にさわることを()ふが、027(くに)(ため)(うち)()るのなら、028なぜにお(かみ)サンから日給(につきふ)(もら)はぬのぢや。029(また)(くに)(ため)になるやうな、030ヘン、031いふとすまぬが、032エライ人間(にんげん)なら、033仇恥(あたはづか)しい乞食(こじき)真似(まね)をして(おや)(いへ)飛出(とびだ)し、034そこらあたりをウロウロと(ある)かいでもよいぢやないか。035(くち)番所(ばんしよ)がないかと(おも)うて、036法螺(ほら)()くにも(ほど)がある。037極道(ごくだう)息子(むすこ)といふ(もの)は、038丁度(ちやうど)三文(さんもん)獅子舞(ししまひ)のやうに(くち)ばかり(おほ)きなもんだ。039アハヽヽヽ』
040とあく(まで)嘲笑(てうせう)する。041そこで喜楽(きらく)は、
042()二人(ふたり)(なん)仰有(おつしや)つて(くだ)さつても、043(わたくし)(かみ)さまのお(みち)をすてるやうなことは到底(たうてい)出来(でき)ませぬ。044真理(しんり)(ため)には一歩(いつぽ)もあとへは()きませぬ。045(すべ)(かみ)さまのお(みち)(はい)ると、046いろいろさまざまの妨害(ばうがい)圧迫(あつぱく)()るといふことは覚悟(かくご)してゐますから、047どうぞ(じふ)(ねん)がいかねば、048せめて二三(にさん)(ねん)(あひだ)(ひま)(くだ)さい。049(わたくし)(いま)綾部(あやべ)幽斎(いうさい)修行場(しうぎやうば)(ひら)いてる(ため)に、050(いち)(にち)でも()ぬきが出来(でき)ませぬ。051けれ(ども)大切(たいせつ)祖母(そぼ)病気(びやうき)()いて、052(かへ)らぬ(わけ)には()かぬので、053(いそが)しい(なか)繰合(くりあは)せて(かへ)つて()たのですから、054どうぞそんなことを()はずに、055今度(こんど)()のがして(くだ)さい。056(いち)()(はや)綾部(あやべ)()()かねばなりませぬから……』
057とおとなしう(たの)んでみた。058さうすると(また)次郎松(じろまつ)サンが(めう)(かほ)をして、059蒼天(そら)(あふ)ぎ、060(はな)(さき)で『フフン』と(わら)(なが)ら、
061()(なん)とマア(うま)いことを仰有(おつしや)るワイ。062かう(まを)すと()みませぬが、063(まへ)()修行(しうぎやう)をさして(もら)ふの、064(をし)へて(もら)ふのといふ(もの)が、065(この)(ひろ)世界(せかい)にあるものか。066(とほ)(ところ)のこつちやから(わか)らぬと(おも)うて、067そんなウソツパチを()れても、068(この)(くろ)(ひか)()でチヤンと(にら)んだら間違(まちがひ)はないぞ。069深極道(しんごくだう)めが、070おのれの()(だけ)なら(ねこ)でも(いぬ)でもするぢやないか。071(また)(いぬ)(ねこ)()うて(もら)うた(いへ)()(おぼ)えてゐる。072(まへ)(なん)ぢや、073廿八(にじふはち)(ねん)()うて(もら)うた大切(たいせつ)(おや)(いへ)(わす)れてるぢやないか。074畜生(ちくしやう)にも(おと)つた(やつ)ぢや。075よう(かんが)へて()い、076とぼけ野郎(やろう)()077(この)穴太(あなを)在所(ざいしよ)には、078戸数(こすう)百三十(ひやくさんじふ)もあるが、079(みな)先祖(せんぞ)から仏法(ぶつぽふ)信心(しんじん)して()るではないか。080それにお(まへ)悪魔(あくま)魅入(みい)れられて、081たつた一人(ひとり)偉相(えらさう)に、082(かみ)さまぢやの神道(しんだう)ぢやのと、083(なん)といふ不心得(ふこころえ)なことをさらすのだ。084先祖(せんぞ)さまに(たい)して(なん)言訳(いひわけ)をするのか。085よう(かんが)へて()い。086貴様(きさま)がせうもないことをさらすものだから、087(むら)交際(かうさい)もロクにして(もら)へぬやうになつたぢやないか。088(めう)(かみ)にトボけて、089(いへ)()(まで)(わる)うして、090それで先祖(せんぞ)さまに孝行(かうかう)(おも)ふか。091それでもお(くに)(ため)になるのか。092勿体(もつたい)なくも花山(くわざん)天皇(てんのう)さまが()信心(しんじん)(あそ)ばした、093西国(さいこく)廿一番(にじふいちばん)札所(ふだしよ)094穴太寺(あなをじ)(せい)観世音(くわんぜおん)菩薩(ぼさつ)膝元(ひざもと)(うま)れて、095有難(ありがた)結構(けつこう)観音(くわんのん)さまも(をが)まずに、096流行神(はやりがみ)にトチ(はう)けてそれが(なん)になる。097(まへ)(かみ)信心(しんじん)するので、098村中(むらぢう)からは上田(うへだ)(いへ)をのけ(もの)にして()ることを()らぬか。099別家(べつけ)(わたし)までが(むら)肩身(かたみ)(せま)いぢやないか。100チツとしつかりして()をさましたら如何(どう)だ。101(おや)雪隠(せんち)でクソをせぬやうな(やつ)(ろく)(もの)があるか』
102旧思想(きうしさう)をふりまはし、103口角泡(こうかくあわ)をとばしてきびしく()()てる。104(また)新別家(しんべつけ)のお(まさ)後家(ごけ)サンがいふには、
105(まさ)『コレ喜三(きさ)ヤン、106それ(だけ)(うち)()るのがいやならば仕方(しかた)がない。107たつて綾部(あやべ)()くなとは()はぬから、108(まへ)惣領(そうりやう)で、109(この)(いへ)(まも)らねばならぬ義務(ぎむ)があるよつて、110(よね)サンにお(かね)(わた)して()きなされ。111なんぼ(かみ)さまの(みち)で、112金儲(かねまう)けにいて()るのぢやないと()うても、113(じふ)(ゑん)二十(にじふ)(ゑん)(ぐらゐ)(ふところ)()つておいでるだろ。114それを悉皆(すつくり)(わた)して()きなさい。115おばアサンも何時(いつ)()なはるやら(わか)らぬから、116(その)(とき)用意(ようい)もしておかねばならぬ』
117二人(ふたり)(みぎ)(ひだり)からつめかける。118(また)(はは)(はは)で、
119(はは)(たの)むから、120どうぞ(うち)()つておくれ。121大勢(おほぜい)()にも()へられぬ(あに)のお(まへ)が、122(うち)()らぬのは、123(なん)ともなしに心淋(こころさび)しい。124去年(きよねん)(かみ)さまのことで(いへ)()てからと()ふものは、125毎日(まいにち)毎日(まいにち)(まへ)のことが心配(しんぱい)になつて、126(よる)もロクに()たこともない。127()らぬとこへ()つて、128いろいろと苦労(くらう)難儀(なんぎ)をするよりも、129(いち)(にち)でも親子(おやこ)(そば)()つて、130苦労(くらう)をしておくれ。131(まへ)一所(いつしよ)苦労(くらう)をするなら、132どんな(つら)いことがあつても(つら)いと(おも)はぬから……』
133()いて(たの)まれる。134喜楽(きらく)進退(しんたい)(きは)まつて、135如何(どう)ともすることが出来(でき)なくなつた。136別家(べつけ)二人(ふたり)(あたま)から()のつくやうに(やかま)しくいふ。137ゴテゴテと病人(びやうにん)枕許(まくらもと)談判(だんぱん)して()るのを、138(すこ)(みみ)(とほ)祖母(そぼ)(きこ)えたとみえて、139(すこ)しく(あたま)をあげて、
140祖母(そぼ)『アヽ(わたし)病気(びやうき)神仏(しんぶつ)のおかげで、141八九分(はちくぶ)(どほ)()うなりました。142(まつ)サンやお(まさ)ハンや、143(よね)のいふのも無理(むり)はないが(うち)には(おとうと)幸吉(かうきち)()るなり、144元吉(もときち)(ちか)(うち)にお(ゆき)一所(いつしよ)手伝(てつだ)ひに()(はず)であるから(べつ)百姓(ひやくしやう)差支(さしつか)へもあるまい。145喜三郎(きさぶろう)(いち)()(はや)(うち)()て、146綾部(あやべ)(かみ)さまの(ため)(つく)しておくれ。147老人(らうじん)差出口(さしでぐち)と、148(みな)サンに(おこ)られるか()らぬが今度(こんど)(だけ)老人(らうじん)(たの)みぢや、149喜三郎(きさぶろう)のいふことを()いてやつておくれ』
150雄々(をを)しくも()つてくれられた。151老人(らうじん)言葉(ことば)には(さん)(にん)(そむ)くことは出来(でき)ぬと、152(すこ)鉾先(ほこさき)がにぶり()した。153喜楽(きらく)(その)(とき)にまるで百万(ひやくまん)援軍(ゑんぐん)()たやうな()がして、154(おも)はず()らず、155()()はして祖母(おば)アさまを(をが)んだ。
156 さうかうして()(ところ)へ、157(おとうと)幸吉(かうきち)田圃(たんぼ)から(くわ)(かた)にして(かへ)つて()(さん)(にん)(はなし)()き、158いろいろと喜楽(きらく)(ため)弁護(べんご)(らう)()つてくれ、159(その)()(みな)(ひと)(たもと)(わか)つた。160喜楽(きらく)真夜(しんや)十二(じふに)()(ごろ)161幸吉(かうきち)(とも)産土(うぶすな)小幡(をばた)神社(じんしや)参詣(さんけい)し、
162喜楽(きらく)『どうぞ(この)(たび)無事(ぶじ)(をさ)まつて綾部(あやべ)(かへ)れますやうに……』
163祈願(きぐわん)をこらし、164(かへ)つて(しん)についた。
165 翌朝(よくてう)になると、166早々(さうさう)から(また)株内(かぶうち)人々(ひとびと)()(きた)り、167千言(せんげん)万語(ばんご)(つひ)やして喜楽(きらく)綾部行(あやべゆき)引止(ひきと)めようとする。168(かれ)()れしてとうとう三日間(みつかかん)穴太(あなを)(ひき)とめられて(しま)つたが、169(やうや)くにして、170(おとうと)幸吉(かうきち)()れて、171一応(いちおう)綾部(あやべ)まで(かへ)つて()くことになり、172ホツと一息(ひといき)つくことが出来(でき)た。173(しか)次郎松(じろまつ)サンやお(まさ)ハンや相談(さうだん)(うへ)で、174(おとうと)()れて()くことにしたのである。175それは……喜楽(きらく)がウソをついてをるのに相違(さうゐ)ない、176大方(おほかた)綾部(あやべ)(はう)乞食(こじき)でもして()るのだらう、177去年(きよねん)()()たなりの着物(きもの)()(かへ)つて()以上(いじやう)は、178仮令(たとへ)乞食(こじき)をせず(とも)179ヒドイ難儀(なんぎ)をして()るのであらうから、180(まへ)(あに)()いて十分(じふぶん)(しら)べて()い……と()ひふくめて同道(どうだう)させることになつたのである。181幸吉(かうきち)(かみ)さまのお(みち)には(もと)から熱心(ねつしん)で、182幽斎(いうさい)修行(しうぎやう)(まで)した(くらゐ)だから、183(よろこ)(いさ)んで喜楽(きらく)について()ることになつた。
184 喜楽(きらく)はヤツと安心(あんしん)して(はは)(わか)れをつげ、185(いそ)綾部(あやべ)(かへ)らうとする(をり)しも、186(れい)次郎松(じろまつ)サンが(また)もややつて()て、
187()一寸(ちよつと)喜三(きさ)ヤンに(たづ)ねたいことがあるから、188(しばら)()つておくれ。189(まへ)(かみ)さまの(みち)とかで、190(ひと)病気(びやうき)(なほ)すとか、191よう(なほ)さぬとか()ふことだが、192現在(げんざい)親身(しんみ)のお祖母(ばあ)サンの病気(びやうき)はよう(なほ)さぬのかい、193(うかが)ひは出来(でき)ぬかい。194(まへ)のお自慢(じまん)天眼通(てんがんつう)がきくなら、195(およ)何時(いつ)(ごろ)()なはると()ふこと(くらゐ)(わか)るだらう。196葬式(さうしき)用意(ようい)もしておかんならぬし、197もし(かみ)さまに(たの)んで(なを)るものなら、198(いま)(わたし)()(まへ)(なを)して()せなさい。199中々(なかなか)流行神(はやりがみ)サン(くらゐ)ではこんな大病(たいびやう)(なを)るまい。200(なほ)らな(なを)らぬでよいから、201せめて何時(いつ)(ごろ)(いのち)がなくなると()ふことを()らしてくれ。202これ(くらゐ)なことが(わか)らいで、203(ひと)(たす)けるの、204(をし)へるの、205(くに)(ため)だのと大法螺(おほぼら)()いたとて、206世間(せけん)(ひと)承知(しようち)いたさぬぞや。207サア如何(どう)ぢや如何(どう)ぢや。208()(ごと)返答(へんたふ)出来(でき)ますのかな』
209()つぎ(ばや)にせめかけて()る。210そこで喜楽(きらく)(その)()のがれの出放題(ではうだい)に、
211()『お祖母(ばあ)サンの病気(びやうき)三日先(みつかさき)になつたら全快(ぜんくわい)する。212そして(いのち)八十八(はちじふはち)まで大丈夫(だいぢやうぶ)だ』
213()つてみた。214これを()いた次郎松(じろまつ)サンは(した)をニユーツと()し、215(おほ)きな(こゑ)でこけて(わら)ひ、
216()『ヘー、217(まへ)サンの(かみ)さまは、218(なん)とマア、219ドエライ()(かた)ぢやな。220こんな大病(たいびやう)のしかも死病(しにやまひ)三日(みつか)のあとに(なほ)りますかい。221そらチツと(ちが)ひませう。222大方(おほかた)仏壇(ぶつだん)へでも位牌(ゐはい)になつてお(なほ)りなさるのと、223間違(まちが)つてゐやしませぬかな。224おまけに八十八(はちじふはち)まで(いのち)大丈夫(だいぢやうぶ)だと、225フフーン丹波(たんば)筍医者(たけのこいしや)()いて(あき)れますワイ』
226飽迄(あくまで)227(にはか)丁寧(ていねい)言葉(ことば)使(つか)うて(あざけ)(わら)ふ。228(しか)不思議(ふしぎ)にも喜楽(きらく)()つた(とほ)り、229三日(みつか)(のち)祖母(そぼ)床払(とこばらひ)をすることになり、230八十八(はちじふはつ)(さい)まで()きて()られたのである。
231 (おとうと)幸吉(かうきち)()るに()かねて、232次郎松(じろまつ)サンやお(まさ)後家(ごけ)サンに(むか)ひ、
233(かう)『ウチの()イサンは(かみ)さまのお(みち)(はたら)かれる(かは)りに、234(わたし)二人前(ふたりまえ)(はたら)いて百姓(ひやくしやう)勉強(べんきやう)しますから、235()いサンには(うち)のことを心配(しんぱい)かけぬやうにしたいものです』
236()ふや(いな)や、237次郎松(じろまつ)サンは(おほ)きな()をむき、
238()『コレ(かう)ヤン、239(なん)としたバカなことを()うのだ。240(まへ)までお紋狐(もんぎつね)につままれたのだなア。241飯綱狐(いづなぎつね)沢山(たくさん)(ふところ)(かく)して()るから、242グヅグヅしてると険呑(けんのん)だ』
243眉毛(まゆげ)(つばき)をつける真似(まね)して、244(なが)(した)をニユーと()し、245(あご)をクイクイと(ゆす)つて(ひと)馬鹿(ばか)にしてゐる。246結局(けつきよく)幸吉(かうきち)二人前(ににんまえ)仕事(しごと)をするといふ条件付(でうけんつき)で、247(やうや)(その)()をのがれ、248綾部(あやべ)(いち)()(おとうと)(とも)同行(どうかう)することとなつた。
 
249 ()うて()てはねる蚯蚓(みみづ)(くも)(みね)
 
250大正一一・一〇・一四 旧八・二四 松村真澄録)
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