霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】10月30~31日に旧サイトから新サイトへの移行作業を行う予定です。実験用サイトサブスク
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一六章 禁猟区(きんりようく)〔一〇五三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第38巻 舎身活躍 丑の巻 篇:第3篇 冒険神験 よみ(新仮名遣い):ぼうけんしんけん
章:第16章 禁猟区 よみ(新仮名遣い):きんりょうく 通し章番号:1053
口述日:1922(大正11)年10月17日(旧08月27日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年4月3日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
農作業の忙しい盛りの明治四十二年六月二十一日、喜楽、梅田柳月、大槻伝吉の三人は冠島・沓島参拝に出立した。しかし海は荒れており、頼んだ水夫も今は冠島の明神が御渡海される日だからと舟を出そうとしない。
喜楽の説得に、水夫はしぶしぶ、明朝一時まで天気を待つことになった。時間になると水夫たちがやってきたが、案の定天気は治まっている。二時に出港して、いつもは十二時間はかかる航海が、四時間足らずの六時前に着いた。
喜楽は冠装束いかめしく神前に進み、供物を献じて祝詞を奏上し、拝礼した。綾部から持ってきた石と、神前の丸石を一個交換して頂戴した。
祭礼で泊まり込んでいた氏子たちの誘いを厚く感謝しつつ断って、すぐに船着き場に戻っていった。昨年来、名木の冠島桑が何者かに盗伐されたり、鯖鳥が密猟されて激減したりといった事件を、水夫が悲しそうに物語る。
続いて舟は沓島の釣鐘岩の下に漕ぎつけた。明治三十四年、出口教祖は三十五名教え子を引き連れて参拝し、天岩戸の産水と竜宮館の真清水を海原に散布し給い、祈願をされた。
教祖は世界平和のため、日東帝国の国威宣揚のために祈願をさせ給うたのである。水夫に頼んで舟をつけてもらい、岩をかき登った。
到着早々癪に障ったのは、かかる神聖なる神島にまで密猟者が入り込み、平地にわら小屋を結んで鳥網を張回している。しきりにアホウドリを捕獲していたが、教服姿の自分たちを見てあわてて逃げだした。
残っていた一人を招いて、このような神域での危険な殺生商売をやめるようにと懇切に説いたが、耳に入りそうな気配はない。裁判官でなくて安心した、と口走るのが関の山であった。
昨年来、出口教祖は冠島・沓島の密猟を嘆き、鳥族がいたづらに生命を奪われることを憐み、祈願を御執行されていた。本日は満願の日のため、自分たちを特に御派遣になったのである。
不思議にも、明治四十二年六月二十二日、京都府の告示にてこの両島を含む地域が禁猟区域となったのである。
十年以前に出口教祖が建設せられた神祠は半ば朽廃し、来春までに造営せんことを神前に祈願宣誓した。それから自分たちはお籠りの岩に歩を進めた。
見れば上は絶壁に隔てられ、眼下は深き谷底に海水が青くただよっていてものすごい。ここに教祖の真筆をもって歴然と神の御名を記されている。改めて教祖の豪胆と熱誠に感じて拍手九拝、感嘆の声が口をついて出てきた。
大槻伝吉は、教祖と五野市太郎氏と三人で、十三日間静座して日露戦争全勝祈願をこらしたときの思い出を語った。舟人たちも、教祖がこんな無人島で荒行をされた思い出を話している。
正午に帰路につき、二十二日の午後四時、舞鶴の大丹生屋に安着した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-06 11:12:51 OBC :rm3816
愛善世界社版:165頁 八幡書店版:第7輯 220頁 修補版: 校定版:169頁 普及版:87頁 初版: ページ備考:
001 梅雨(ばいう)朦朧(もうろう)として(ひる)(なほ)(くら)く、002湿潤(しつじゆん)(いへ)()ちて万物(ばんぶつ)黴花(かび)(しやう)じ、003山色(さんしよく)空朦(くうもう)烟光(えんくわう)霏々(ひひ)たる(ろく)(ぐわつ)二十一(にじふいち)(にち)004狭田(さだ)長田(ながた)手肱(たなひぢ)水泡(みなわ)かき()り、005向股(むかもも)(ひじ)かきよせて早乙女(さおとめ)三々(さんさん)伍々(ごご)(たい)()し、006蓑笠(みのかさ)甲冑(かつちう)(とり)よろひ、007手覆(ておひ)脚絆(きやはん)小手(こて)脛当(すねあて)008(こゑ)(いさ)ましく田歌(たうた)(うた)ひつつ、009(くに)富貴(ふうき)()ゑて()く、010(いぬ)()(ひと)()てふ農家(のうか)激戦(げきせん)場裡(ぢやうり)011安閑坊(あんかんばう)喜楽(きらく)012梅田(うめだ)柳月(りうげつ)013大槻(おほつき)伝吉(でんきち)(さん)(にん)土倒(どたふ)(もの)は、014(いま)しも本院(ほんゐん)立出(たちい)でて、015本町(ほんまち)西町(にしまち)とふみ()(みち)(せま)くも広小路(ひろこうぢ)016()()馬場(ばば)()つの(あし)017綾部(あやべ)停車場(ていしやば)にと()()けた。018()くは何処(いづこ)和知(わち)(かは)019音無瀬(おとなせ)鉄橋(てつけう)(おと)(たか)く、020梅雨(ばいう)(おか)して梅迫駅(うめざこえき)021停車(ていしや)()もなく、022真倉(まくら)洞穴(トンネル)023小暗(こぐら)(なか)吾物顔(わがものがほ)轟々(ぐわうぐわう)()()づれば、024山媛(やまひめ)(あを)御袖(みそで)(ふり)はえて、025炭団(たどん)(ごと)(さん)(にん)(かほ)(しば)(おほ)はせ(たま)ふも、026(とき)()つての風情(ふぜい)である。027車中(しやちう)(なが)(こころ)(いさ)(きも)(をど)り、028欣喜(きんき)(あま)()(あし)舞鶴駅(まひづるえき)舞下(まひくだ)り、029新橋詰(しんばしづめ)船問屋(ふなどんや)西川(にしかは)(かた)へと(なが)()んだ。
030 折柄(をりから)(しき)りに()(そそ)大粒(おほつぶ)(あめ)(きも)()たれたか、031予約(よやく)水夫(すいふ)刻限(こくげん)(きた)るも(おもかげ)だに()せぬ。032天道殿(てんだうどの)(つみ)(おも)(さん)(にん)参島(さんたう)(くはだ)てをおぢやんにせむず御心(みこころ)にや、033意地(いぢ)(わる)間断(かんだん)なく、034無遠慮(ぶゑんりよ)天水分(あめのみくまりの)(かみ)(つか)はせ(たま)ふ。035何時迄(いつまで)()つても(そら)()れさうにも()いが、036(あめ)(もと)より覚悟(かくご)(まへ)だ。037(しか)肝腎(かんじん)(ふね)(かみ)()(いで)にならぬのには大閉口(だいへいこう)038さりとて中途(ちうと)(かへ)るのは()んでも(いや)(さん)(にん)039(たたみ)(うへ)()ても()(とき)には()ぬる、040生死(せいし)(てん)なり、041惟神(かむながら)なり、042是非(ぜひ)水夫(すいふ)()びにやつて(くだ)さいと(うなが)す。043西川(にしかは)後家(ごけ)サンも()むを()ず、044田中(たなか)045橋本(はしもと)二人(ふたり)を、046(ひと)(もつ)呼寄(よびよ)せた。047出口(でぐち)教祖(けうそ)(はじ)めて沓島開(めしまびら)きをなされた(とき)()(とも)をした水夫(すいふ)である。048数千(すうせん)漁夫(ぎよふ)(なか)にて(もつと)剛胆(がうたん)な、049熟練(じゆくれん)(きこ)えある選抜(よりぬ)きの漁夫(ぎよふ)050これなら大丈夫(だいぢやうぶ)051何時(いつ)でも(ふた)返辞(へんじ)()つて()れるだらうと(よろこ)(いさ)んだ甲斐(かひ)もなく、052(あん)相違(さうゐ)した弱音(よわね)()くのである。
053(なん)信神(しんじん)参拝(まゐ)るにしても、054(かみ)(さま)()守護(しゆご)があるにしても、055(この)気色(けしき)では(おに)()くて()けんでの、056マア二三(にさん)(にち)ゆるりと(あそ)んで()つてお()れ。057天候(けしき)()まつたら、058(とも)をさして(もら)はうかいの、059明日(あす)(また)冠島(をしま)(さま)(いち)(ねん)一度(いちど)()祭典(さいてん)で、060今晩(こんばん)冠島(をしま)明神(みやうじん)神船(かみふね)()つて、061対岸(たいがん)新井崎(にゐさき)神社(さん)()渡海(とかい)になるので(おそ)ろしい()さだ。062中々(なかなか)(ふね)()せぬでの、063()(かみ)御心(みこころ)にでも(さわ)つたら大変(たいへん)だ。064桑名(くはな)亀造(かめざう)()けら、065今晩(こんばん)(ふね)()(もの)()いわいの』
066臆病風(おくびやうかぜ)(みい)せられたか、067一向(いつかう)(いろ)よい返事(へんじ)をしてくれぬ。068(さん)(にん)()して今夜(こんや)(やう)()けぬと()()()つて()たいのが希望(きばう)だ。069是非(ぜひ)々々(ぜひ)賃金(ちんぎん)(いと)はぬ、070やつてくれい……と()(やう)(たの)む。071水夫(すいふ)益々(ますます)恐怖心(きようふしん)()られ、072ソロソロ卑怯(ひけふ)にも()(かへ)らむとする。073()げられては(たま)らぬので、074口々(くちぐち)(なだ)めつ(すか)しつ、075直往(ちよくわう)勇進(ゆうしん)断々乎(だんだんこ)として(おこな)へば鬼神(きじん)(これ)()くとの教祖(けうそ)神諭(をしへ)(たて)()りて(うご)かぬ。076(たがひ)押問答(おしもんだう)(はて)しもなく、077(つひ)には水夫(すいふ)(くち)をとぢて呆然(ばうぜん)として、078只々(ただただ)謝絶(しやぜつ)一点(いつてん)()り、079(なみ)()られた(おき)(ふね)で、080取付(とりつ)(しま)がない、081(われ)()平時(へいじ)(おい)てこそ温柔(おんじう)なること綿羊(めんやう)(ごと)くなれ、082目的(もくてき)遂行(すゐかう)(たい)しては猛虎(まうこ)(ごと)く、083一向(いつかう)直進(ちよくしん)眼中(がんちう)風雨(ふうう)なく海洋(かいやう)なし、084満腔(まんこう)勇気(ゆうき)烈火(れつくわ)(ごと)挺身(ていしん)突撃(とつげき)()()()するが(ごと)覚悟(かくご)ありと(いへど)も、085如何(いかん)せむ(ふね)(あやつ)ることを()らない(さん)(にん)は、086肝腎(かんじん)機関士(きくわんし)見放(みはな)されたが最後(さいご)087(かみ)ならぬ石仏(いしぼとけ)同様(どうやう)()088海上(かいじやう)一寸(ちよつと)進航(しんかう)することが出来(でき)ぬのである。089(ほか)水夫(すいふ)雇入(やとひい)れむにも、090生憎(あひにく)(いち)(にん)(おう)ずる(もの)がない。091とうとう根負(こんまけ)して、
092『そんなら明朝(みやうてう)(いち)()まで自分(じぶん)()()(こと)にせう、093キツと(あめ)()み、094快晴(くわいせい)になるは請合(うけあひ)西瓜(すゐくわ)だ、095吾々(われわれ)出修(しゆつしう)には(かなら)天祐(てんいう)があるから安心(あんしん)して()つてお()れ』
096(くち)から出任(でまか)せ、097覚束(おぼつか)なき予言(よげん)二人(ふたり)嘲笑(からか)ひ、098自分(じぶん)()馬鹿(ばか)にした(やう)面付(つらつき)でシブシブ(かへ)つて()く。
099 (さん)(にん)問屋(とんや)部屋(へや)でガツト(むし)(やう)(ちひ)さく(ちぢ)かんで(しん)()いた。100大方(おほかた)白川(しらかは)夜船(よぶね)でも()いで()たであらう。101一眠(ひとねむり)したと(おも)時分(じぶん)に、102大丹生(おほにふ)()門口(かどぐち)打叩(うちたた)き、
103『お(きやく)さん(ひる)船頭(せんどう)()た』
104(さけ)んでゐる。105……サア(しめ)た……と一度(いちど)にはね()き、106(また)御意(ぎよい)(かは)らぬ(うち)と、107(ただち)支度(したく)(とり)かかつた。
108船頭(せんどう)さん、109天気(てんき)はゼロだらう』
110とからかへば、
111『イヤ気色(けしき)大変(たいへん)よい(やう)だが、112()ける(だけ)()つて()(わか)らぬ』
113とまだ()()らぬ返事(へんじ)である。
114 時節(じせつ)到来(たうらい)港口(かうこう)()たのは廿二(にじふに)(にち)(まさ)午前(ごぜん)()()であつた。115ヤハリ(そら)(くも)()つて(ほし)(ひと)青雲(あをくも)一片(いつぺん)見当(みあた)らぬが、116米価(べいか)のあがる糠雨(ぬかあめ)が、117ピリピリと(こわ)(さう)一行(いつかう)(かほ)()める(くらゐ)118(れい)南泊辺(みなみとまりへん)まで()()すと、119火光(くわくわう)海面(かいめん)()らして疾走(しつそう)せる一隻(いつせき)大汽船(だいきせん)行違(ゆきちが)うた。120(その)動波(どうは)(ため)(わが)小舟(をぶね)自由(じいう)自在(じざい)翻弄(ほんろう)されたのは、121(じつ)(しやく)にさわつて(たま)らぬ。122(しばら)くすると(てん)所々(ところどころ)雨雲(あまぐも)(ころも)()いで、123(あを)(くも)(はだへ)(あら)はし、124点々(てんてん)明滅(めいめつ)125天書(てんしよ)(あら)はるるも、126連日(れんじつ)降雨(あめ)内海(うちうみ)部分(ぶぶん)(みづ)(にご)つて()るせいか、127今夜(こんや)(きよ)(ほし)(なみ)宿(やど)()りて()らぬ。128博奕(ばくち)(さき)(あと)()()()(ほど)に、129東天(とうてん)(くれない)(てう)して(はるか)山頂(さんちやう)より隆々(りうりう)朝瞰(てうとん)吐出(はきだ)し、130冠島(をしま)沓島(めしま)眼前(がんぜん)(よこた)はり、131胸中(きようちう)濶然(くわつぜん)欣扑(きんべん)歓呼(くわんこ)(おぼ)えず拍手(はくしゆ)神島(しま)遥拝(えうはい)し、132各自(かくじ)感謝(かんしや)祈願(きぐわん)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(たてまつ)る。133海上(かいじやう)至極(しごく)平穏(へいおん)で、134縮緬(ちりめん)(やう)(なみ)奇麗(きれい)(なが)れて()る。135水夫(すいふ)汗水(あせみどろ)になつて力限(ちからかぎ)(とも)(へさき)とから()()ける。136小舟(こぶね)()()(ごと)く、137(とり)()(ごと)冠島(をしま)()いたのは恰度(ちやうど)(ろく)()五分前(ごふんまへ)であつた。
138 何時(いつ)でも片道(かたみち)(じふ)時間(じかん)以上(いじやう)十二(じふに)時間(じかん)はかかるものを、139今回(こんくわい)(かぎ)つて(わづか)()時間(じかん)()らずとは(じつ)意外(いぐわい)であつた。140喜楽(きらく)得意(とくい)満面(まんめん)(あふ)れて、
141喜楽(きらく)(つみ)(かる)安閑坊(あんかんばう)参拝(さんぱい)すると(この)(とほ)りだ、142(かみ)(さま)公平(こうへい)無私(むし)()らせられる』
143一人(ひとり)調子(てうし)()つて()る。144冠装束(かむりしやうぞく)いかめしく徐々(じよじよ)神前(しんぜん)(すす)み、145供物(くぶつ)(けん)じ、146祝詞(のりと)(そう)し、147拝礼(はいれい)(をは)つて、148(うやうや)しく社殿(しやでん)(まか)りさがつた。149記念(きねん)(ため)自分(じぶん)神前(しんぜん)丸石(まるいし)一個(いつこ)頂戴(ちやうだい)した。150勿論(もちろん)交換(かうくわん)(いし)持参(ぢさん)して()るのであるから、151(ただ)頂戴(ちやうだい)したのではない、152今日(けふ)明神(みやうじん)祭日(さいじつ)とて、153前日(ぜんじつ)から数名(すうめい)氏子(うぢこ)社務所(しやむしよ)出入(でい)りして、154境内(けいだい)掃除(さうぢ)()つて()る。
155(はや)うから参詣(さんけい)でしたなア、156マア一服(いつぷく)なさい』
157()(ゆづ)親切(しんせつ)(あつ)感謝(かんしや)しつつ、158(また)海浜(かいひん)船繋場(ふなつなぎば)引返(ひきかへ)した。159名木(めいぼく)冠島桑(をしまくは)去年(きよねん)(なつ)160或者(あるもの)(ため)盗伐(たうばつ)されて(しま)つて(かげ)(とど)めず、161(わづか)三尺(さんじやく)(ばか)(まわ)つた桑樹(さうじゆ)波打際(なみうちぎは)()こじに古自(こじ)(よこ)たへられてある。162(じつ)憤慨(ふんがい)()へぬ次第(しだい)である。
163一昨年(いつさくねん)あたりから、164横浜(よこはま)神戸(かうべ)あたりから六七十(ろくしちじふ)(にん)団体(だんたい)がやつて()て、165五六十万(ごろくじふまん)()鯖鳥(さばとり)密猟(みつれふ)したので、166近頃(ちかごろ)大変(たいへん)(とり)()つて、167漁猟(ぎよれふ)差支(さしつかへ)(みな)(もの)(こま)つとるわいの』
168水夫(すいふ)二人(ふたり)(かな)しさうに物語(ものがた)りつつ、169(はや)くも沓島(めしま)(むか)つて漕出(こぎだ)した。
170 冠島(をしま)沓島(めしま)中津(なかつ)神岩(かみいは)には数十羽(すうじつぱ)(おき)(とり)171(むな)()姿(すがた)()たたきも()()しと(なが)()に、172一行(いつかう)(ふね)見送(みおく)つて()る。173浅久里(あさぐり)174(たな)(した)巌壁(がんぺき)面白(おもしろ)左手(ゆんで)(なが)めて、175諸鳥(もろどり)(さへづ)(こゑ)(つりがね)(いは)真下(ました)()ぎつけた。176奇絶(きぜつ)壮絶(さうぜつ)胸為(むねため)清涼(せいりやう)(おぼ)ゆ。
177 ()明治(めいぢ)三十四(さんじふよ)(ねん)178見渡(みわた)せば山野(さんや)靉靆(あいたい)として(はな)()(にほ)ひ、179淡糊(うすのり)()いて(なが)したやうな春霞(はるがすみ)はパノラマの(ごと)景色(けしき)配合(はいがふ)調和(てうわ)して、180(とり)新緑(しんりよく)(こずゑ)(うた)ひ、181(てふ)黄金(わうごん)()(はな)()うてゐる好時節(かうじせつ)182舞鶴(まひづる)(うみ)白波(はくは)のゆるやかに(ころ)(きた)つて、183(とほ)きは()(ちか)きは(しろ)く、184それが日光(につくわう)反射(はんしや)して、185水蒸気(すゐじようき)(おほ)(はる)(うみ)縁取(ふちど)つて、186()()はれぬ絶景(ぜつけい)天下(てんか)泰平(たいへい)真最中(まつさいちう)187出口(でぐち)教祖(けうそ)三十五(さんじふご)(めい)教弟(をしへご)引連(ひきつ)れられて、188(この)鐘岩(つりがねいは)絶頂(ぜつちやう)(のぼ)()ち、189丹後国(たんごのくに)宮川(みやがは)上流(じやうりう)190天岩戸(あまのいはと)産水(うぶみづ)竜宮館(りうぐうやかた)真清水(ましみづ)()()られ、191眼下(がんか)海原(うなばら)()かけて、192(うやうや)しく撒布(さんぷ)(たま)ひ、193(しゆく)して(あふ)せらるるやう、
194教祖(けうそ)向後(こうご)(さん)(ねん)(のち)には(かなら)日露(にちろ)開戦(かいせん)がある。195(その)(とき)巨人(きよじん)(ごと)強大国(きやうだいこく)小児(せうに)(ごと)小国(せうこく)とが、196世界(せかい)列国(れつこく)環視(くわんし)(もと)で、197所謂(いはゆる)()れの場所(ばしよ)198檜舞台(ひのきぶたい)(うへ)での腕比(うでくら)べの大戦争(だいせんそう)であるから、199万々一(まんまんいち)不幸(ふかう)にして、200(わが)(くに)不利(ふり)戦争(せんそう)(をは)るやうな(こと)になつたら、201それこそ大変(たいへん)202万劫(まんごふ)末代(まつだい)日本(にほん)帝国(ていこく)(あたま)(あが)らぬ。203そこで国祖(こくそ)神霊(しんれい)(おほい)(これ)憂慮(いうりよ)(たま)ひ、204(いま)(この)老躯(らうく)をここに(つか)はし、205世界(せかい)平和(へいわ)(ため)206日東(につとう)帝国(ていこく)国威(こくゐ)宣揚(せんやう)(ため)祈願(きぐわん)せさせ(たま)ふなり、207あゝ(うしとら)大金神(だいこんじん)国常立(くにとこたちの)(みこと)よ、208(あふ)(ねが)はくは太平洋(たいへいやう)(ごと)(ひろ)く、209日本海(にほんかい)(ごと)(ふか)()庇護(ひご)(わが)神国(しんこく)日本(にほん)(うへ)(くだ)(たま)ひて、210(この)(きよ)けき産水(うぶみづ)(うる)はしき真清水(ましみづ)海洋(かいやう)一周(いつしう)し、211(くも)となり、212(あめ)となり、213(あるひ)(ゆき)となり(あられ)となつて、214(あまね)五大洲(ごだいしう)(うるほ)はし、215天下(てんか)曲霊(まがひ)掃蕩(さうたう)し、216汚穢(をゑ)洗滌(せんぜう)し、217天国(てんごく)地上(ちじやう)建設(けんせつ)し、218豊葦原(とよあしはらの)瑞穂国(みづほのくに)をして、219(まこと)楽境(たかま)となさしめ、220黄金(わうごん)世界(せかい)現出(げんしゆつ)せしめ(たま)へ』
221満腔(まんこう)熱誠(ねつせい)信仰(しんかう)をこめ、222天地(てんち)(くづ)るる(ばか)りの大音声(だいおんじやう)()()げて祈願(きぐわん)されし断岩(だんがん)(すなは)()れであると、223喜楽(きらく)(はなし)()いた一行(いつかう)は、224是非(ぜひ)一度(いちど)登岩(とがん)して()たき一念(いちねん)()せずしてムラムラと湧起(ゆうき)し、225()(たて)(たま)らぬやうになつた。
226 水夫(すいふ)(たの)んでカツカツにも(ふね)()けて(もら)ひ、227かき(のぼ)つて()ると、228手足(てあし)がワナワナするやうな心地(ここち)がして教祖(けうそ)勇気(ゆうき)()たせられて()られることを、229今更(いまさら)のやうに感歎(かんたん)せずには()られぬやうになつた。230(おと)名高(なだか)弥勒(みろく)菩薩(ぼさつ)自然岩(しぜんがん)厳然(げんぜん)として(その)英姿(えいし)(あら)はし、231(あたか)巨人(きよじん)(まめ)(ごと)人間(にんげん)眼下(がんか)睥睨(へいげい)して()るやうで、232どこともなく神聖(しんせい)不可犯(をかすべからず)(おもむき)(をが)まれる。233(とほ)()東北(とうほく)(はな)てば日本海(にほんかい)波浪(はらう)銀屏(ぎんぺい)(つら)ねたるが(ごと)く、234黄金(こがね)大塊(たいくわい)東天(とうてん)(かがや)き、235足下(そくか)(うみ)翠絹(すゐけん)(しとね)(ごと)く、236美絶(びぜつ)壮絶(さうぜつ)快感(くわいかん)(たと)ふるに(もの)なし。237歎賞(たんしやう)(ひさし)うして(ふたたび)(ふね)(あが)り、238(わに)()突当岩(つきあていは)巡見(じゆんけん)するに、239()(また)()240(くわい)(また)(くわい)241(めう)()()ち、242(ぜつ)(さけ)び、243精神(せいしん)恍惚(くわうこつ)として羽化(うくわ)登仙(とうせん)したるの(おも)ひであつた。
244 (ふね)容赦(ようしや)もなく鬼岩(おにいは)眼下(がんか)()()で、245(から)うじて戸隠岩(とがくしいは)漕付(こぎつ)いた。246到着(たうちやく)早々(さうさう)(しやく)にさわつたのは、247不届(ふとど)至極(しごく)にも()かる神聖(しんせい)なる神島(しま)にまで、248密猟者(みつれふしや)入込(いりこ)み、249(すこ)(ばか)りの平地(へいち)(ぼく)して藁小屋(わらごや)(むす)び、250雨露(うろ)(しの)ぎつつ、251日夜(にちや)鳥網(とりあみ)()りまはし、252棍棒(こんぼう)携帯(けいたい)し、253垢面(くめん)八字髭(はちじひげ)(たくは)へた()ても(おそ)ろしい様子(やうす)254(はら)でも()いたら人間(にんげん)でも容赦(ようしや)なく餌食(ゑじき)にし兼間(かねま)じき五十(ごじふ)(をとこ)が、255張本人(ちやうほんにん)()えて、256数多(あまた)壮丁(さうてい)使役(しえき)して(しき)りに信天翁(あはうどり)捕獲(ほくわく)して()真最中(まつさいちう)であつたが、257(かれ)()教服姿(けうふくすがた)(われ)()一行(いつかう)遥見(えうけん)して、258何故(なにゆゑ)右往(うわう)左往(さわう)にあわてふためき、259山上(さんじやう)()かけて()(のぼ)るあり、260断岩(だんがん)無暗(むやみ)疾走(しつそう)するあり、261何事(なにごと)(おこ)りたるかと(あや)しまるる(ほど)であつた。262(やや)落付顔(おちつきがほ)一人(ひとり)(ちか)(まね)いて、
263喜楽(きらく)『あなた()(なに)(もつ)てか(にはか)にあわて(まよ)ふぞ。264自分(じぶん)()信仰(しんかう)(じやう)より梅雨(ばいう)(をか)して(いま)(この)神島(しま)参詣(さんけい)した(もの)だが、265()ればあんた()海鳥(かいてう)密猟者(みつれふしや)()えるが、266(しか)商売(しやうばい)とは()(なが)ら、267かかる危険(きけん)殺伐(さつばつ)所業(しよげふ)()めて、268()正業(せいげふ)()(たま)へ』
269(さん)(にん)熱誠(ねつせい)()めて()(さと)(ども)270(もと)より(とら)(おほかみ)(ごと)人物(じんぶつ)271一言(ひとこと)(みみ)()(さう)気配(けはい)だにない。272自由(じいう)(けん)(かま)てなやホツチツチ」と()はぬ(ばか)りの面構(つらがま)へ、273()らぬ(やつ)()やがつて、274(ひと)をビツクリさしやがつたが、275マア裁判官(さいばんくわん)でなくて大安心(だいあんしん)……と口走(くちばし)つたのは滑稽(こつけい)(きは)みであつた。276(そもそ)昨年来(さくねんらい)出口(でぐち)教祖(けうそ)冠島(をしま)沓島(めしま)密猟(みつれふ)非常(ひじやう)(をし)まれ、277()(つみ)もなき鳥族(てうぞく)(いたづら)生命(せいめい)(うば)はるるを(あはれ)(たま)ひ、278鳥族(てうぞく)保護(ほご)祈願(きぐわん)まで、279朝夕(あさゆふ)神前(しんぜん)にて()執行(しつかう)あつたが、280本日(ほんじつ)満願(まんぐわん)()なれば、281神明(しんめい)謝礼(しやれい)(ため)種々(しゆじゆ)供物(くもつ)()たせ、282自分(じぶん)()(とく)()差遣(さけん)になつたのである。283それが(また)偶然(ぐうぜん)(かみ)摂理(せつり)か、284不可思議(ふかしぎ)にも今日(けふ)(すなは)明治(めいじ)四十二(しじふに)(ねん)(ろく)(ぐわつ)廿二(にじふに)(にち)285京都府(きやうとふ)告示(こくじ)(だい)三百(さんびやく)十九(じふく)(がう)(もつ)て、286加佐郡(かさぐん)西大浦(にしおほうら)(むら)大字(おほあざ)三浜(みはま)小橋(こばし)(および)(この)両島(りやうたう)区域(くゐき)禁猟(きんれふ)区域(くゐき)となし、287今後(こんご)(じふ)年間(ねんかん)年内(ねんない)(つう)じて(がい)区域内(くゐきない)棲息(せいそく)する鳥類(てうるゐ)(およ)(ひな)捕獲(ほくわく)(また)採卵(さいらん)禁止(きんし)せられた当日(たうじつ)であつた。
288 (じふ)(ねん)以前(いぜん)出口(でぐち)教祖(けうそ)建設(けんせつ)せられた神祠(しんし)積年(せきねん)風雨(ふうう)(さら)されて、289(なかば)朽廃(きうはい)()し、290()るからに(おそ)(おほ)く、291(いち)(にち)(はや)改築(かいちく)(まつ)りたく、292是非(ぜひ)来春(らいしゆん)までに造営(ざうえい)せむことを神前(しんぜん)祈誓(きせい)した。293(かしこ)(つつし)祠前(しぜん)(すす)み、294各自(かくじ)供物(くもつ)(けん)灯火(とうくわ)奉点(ほうてん)し、295(れい)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(たてまつ)る。296()(のこ)された数万(すうまん)信天翁(あはうどり)不遠慮(ぶゑんりよ)自分(じぶん)()斎員(さいゐん)頭上(づじやう)()びまはり、297神聖(しんせい)なる教服(けうふく)(そで)糞汁(ふんじふ)(あめ)()らせ、298一帳羅(いつちやうら)台無(だいな)しにする。299まだ(その)(うへ)(ごう)のわいた、300気楽(きらく)(さう)(あや)しい(こゑ)(しぼ)()して、301八釜(やかま)しく、302自分(じぶん)()嘲笑(てうせう)して()(やう)に、303(こころ)(せい)か、304(かん)じられるのである。305それから(きも)投出(なげだ)して、306(こも)(いは)(から)うじて()(すす)めた。
307 ()れば(うへ)絶壁(ぜつぺき)(へだ)てられ、308眼下(がんか)(ふか)谷底(たにそこ)海水(かいすい)(あを)(ただよ)うて物凄(ものすご)い。309(あし)(うら)がウヂウヂするやうな難所(なんしよ)に、310教祖(けうそ)真筆(しんぴつ)(もつ)歴然(れきぜん)(かみ)御名(みな)(しる)されてある。311教祖(けうそ)豪胆(がうたん)熱誠(ねつせい)(かん)じて、312(おも)はず拍手(はくしゆ)九拝(きうはい)感歎(かんたん)(こゑ)(くち)をついて()()た。313始終(しじう)沈黙(ちんもく)(まも)つて()大槻(おほつき)(この)(とき)(おも)()した(やう)(かた)る。
314大槻(おほつき)日露(にちろ)戦役(せんえき)真最中(まつさいちう)315教祖(けうそ)のお(とも)をして、316十三(じふさん)日間(にちかん)(この)岩窟(がんくつ)静坐(せいざ)し、317敵艦(てきかん)全滅(ぜんめつ)318(わが)(ぐん)全勝(ぜんしよう)祈願(きぐわん)をこらした(とき)は、319ズイ(ぶん)困窮(こんきう)(きは)めた。320清水(しみづ)一滴(いつてき)()し、321(さん)(にん)(なか)(わづ)三升(さんぜう)煎米(いりごめ)がある(だけ)322これを生命(いのち)(おや)として、323幾十(いくじふ)(にち)()はねばならぬ、324昼夜(ちうや)にドンドンドンと(あや)しい、325(なん)とも(たと)えやうの()(おと)がして(さび)しいやら、326(すさま)じい(やう)で、327(ひと)心地(ここち)はせず、328陸上(りくじやう)との交通(かうつう)無論(むろん)断絶(だんぜつ)なり、329(あめ)毎日(まいにち)毎夜(まいや)勤務(つとめ)(やう)()(つづ)ける、330(のど)はかはく、331(はら)はすく、332手足(てあし)はワナワナする、333()はマクマクする、334(はら)はガクガクして、335()んでるのか()きてるのか、336(われ)(なが)(つひ)には判別(はんべつ)()きかねる。337そこへ雨育(あめそだ)ちの(からだ)(にはか)暑熱(しよねつ)()てられる。338(おも)()してもゾツとする。339教祖(けうそ)平素(へいそ)修行(しうぎやう)結果(けつくわ)にや、340神色(しんしよく)自若(じじやく)として容顔(ようがん)(うるは)しく、341ますます元気(げんき)(ます)(ばか)り、342二十(にじふ)(にち)三十(さんじふ)(にち)辛抱(しんばう)出来(でき)(やう)では、343日本(につぽん)男児(だんじ)本領(ほんりやう)はどこに()るか、344チと勇気(ゆうき)()したが()からうと()(しか)りになる、345自分(じぶん)()はモウ(この)(うへ)一片(いつぺん)勇気(ゆうき)精力(せいりよく)()すことが出来(でき)ぬのである。346(しか)るに(てん)(あた)へか(むか)ふの(きし)(したた)りおつる(みづ)塩気(しほけ)がないと()(こと)を、347フト発見(はつけん)した。348(あたか)地下(ちか)世界(せかい)から脱出(ぬけで)(やう)心持(こころもち)で、349色々(いろいろ)工夫(くふう)をこらし、350(たづさ)()てる竹筒(たけづつ)()けて(みづ)()り、351(やうや)(かつ)()したといふ始末(しまつ)で、352万一(まんいち)(この)(みづ)()かつたなら、353自分(じぶん)()生命(いのち)(まつた)うすることが出来(でき)なかつたかも()れぬのであつた。354(しか)(いち)()(みづ)(いき)をしたが何時迄(いつまで)(みづ)(ばか)りでは(たま)らない。355煎米(いりごめ)はモウ三日前(みつかまへ)(をは)りを()げた。356()んな無人島(むじんたう)()()ぬよりも、357陸上(りくじやう)にあつて(いく)らでも国家(こくか)(ため)(つく)すことが出来(でき)るであらうから、358(いち)(にち)(はや)(かへ)らせて(もら)ひたいと教祖(けうそ)()きついた(ところ)が、359教祖(けうそ)可愛相(かあいさう)思召(おぼしめ)したか、360……そんなら明日(あす)(むか)への(ふね)()(やう)神界(しんかい)祈願(きぐわん)してやらう……と(あふ)せられ、361早速(さつそく)()(ねがひ)になると、362天祐(てんいう)偶然(ぐうぜん)か、363(ただし)島神(たうじん)聴許(ちやうきよ)ましましたか、364翌朝(よくてう)(あさひ)豊栄昇(とよさかのぼ)(ころ)365(はるか)海上(かいじやう)より七隻(しちせき)漁舟(ぎよしう)沓島(めしま)()がけて()()せて()る。366(その)(とき)(うれ)しさは()んでも(わす)れられないと(おも)ひました。367数名(すうめい)漁夫(りようし)自分(じぶん)()(さん)(にん)(かほ)熟視(じゆくし)して、368てつきり露探(ろたん)誤認(ごにん)し、369(にはか)顔色(がんしよく)()へて(ふる)()し、370……露人(ろじん)一人(ひとり)日本人(にほんじん)二人(ふたり)だ。371(おそ)ろしい迂濶(うくわつ)相手(あひて)()れないぞ……と(たがひ)()()き、372(そで)()き、373逸足早(いちあしはや)()(かへ)らむとする。374()(かへ)られては(たま)らないから、375自分(じぶん)()(あは)さぬ(ばか)りにして、376事情(じじやう)逐一(ちくいち)説明(せつめい)して(たの)()んだ。377(かれ)()(やうや)くの(こと)納得(なつとく)し、378()(かく)舞鶴(まひづる)まで(おく)つてくれることになつた。379(ところ)(その)甲斐(かひ)もなく、380漁夫(れふし)(てい)よく口実(こうじつ)(まう)けて、381自分(じぶん)()安心(あんしん)させ、382油断(ゆだん)させて()いて、383一人(ひとり)(のこ)らず()(かへ)つて(しま)つたのである。384大方(おほかた)村役場(むらやくば)へでも報告(はうこく)する(ため)であつたのでせう。385そこで()むを()後野(ごの)()断岩(だんがん)(すべ)りおりて、386(わに)()まで危難(きなん)(をか)し、387海水(かいすゐ)(およ)ぎなどして、388鐘岩(つりがねいは)真下(ました)(まで)()つて()ると、389一人(ひとり)漁夫(ぎよふ)がそこに波浪(はらう)()けて(いと)()(たひ)()つて()最中(さいちう)で、390裸体(らたい)(まま)()つて()後野(ごの)()姿(すがた)()てビツクリし……生命(いのち)()らずの馬鹿者(ばかもの)()391(まへ)(わに)巣窟(さうくつ)(とほ)つて()たなアと(さけ)びつつ、392(ただち)(ふね)()せて戸隠岩(とがくしいは)真下(ました)()()せた。393教祖(けうそ)漁夫(ぎよふ)(むか)ひ、394(あつ)感謝(かんしや)せられ……さてバルチツク艦隊(かんたい)近日(きんじつ)(うち)対馬沖(つしまおき)にて全滅(ぜんめつ)するから安心(あんしん)ぢや、395(まへ)さまも(むら)(かへ)つて(むら)(ひと)()らしてやつて安心(あんしん)させるがよいと……(あふ)せられたが、396(はた)して(その)言葉(ことば)(どほ)り、397七日(なぬか)(ほど)()つた(ところ)で、398日本海(にほんかい)大海戦(だいかいせん)で、399あの(とほ)りの大勝利(だいしようり)400自分(じぶん)(その)(とき)(あま)りの(こと)(あき)れました』
401懐旧談(くわいきうだん)(しき)りにやつて()る。402二人(ふたり)水夫(すいふ)(はなし)()()いて、
403(わたし)()二人(ふたり)此島(ここ)()(とも)して(まゐ)りましたが、404教祖(かみ)さまが……モウお(まへ)サン()(かへ)つてくれ、405そして四十(しじふ)日目(にちめ)(ふね)()つて(むか)ひに()てくれ、406万一(まんいち)()なかつたら、407(また)四十(しじふ)(にち)()つた(ところ)()てくれ……と(あふ)せられたが、408こんな無人島(むじんたう)荒行(あらぎやう)なさるかと(おも)へば、409(にはか)(かな)しくなつて、410二人(ふたり)(とも)()きました』
411朴訥(ぼくとつ)(くち)から(はな)して()る。412帰路(きろ)冠島(おしま)覗岩(のぞきいは)(ふね)(うか)べて和布(わかめ)()り、413(かひ)(かに)捕獲(ほくわく)しつつ、414五丈岩(ごぢやういは)三丈岩(さんぢやういは)(とう)勝景(しようけい)感賞(かんしやう)しつつ、415順風(じゆんぷう)真帆(まほ)をあげ、416帰路(かへりぢ)()く。417(まさ)午時(ひる)であつた。
418 船中(せんちう)にて昼飯(ちうはん)(きつ)し、419舞鶴(まひづる)湾口(わんこう)(かぶら)420久里(くり)421博奕(ばくち)(さき)422白黒岩(しろくろいは)何時(いつ)しか(あと)()て、423横波(よこなみ)424南泊(みなみどまり)(すす)(ほど)に、425(はや)松原(まつばら)にと(さし)かかれば、426水夫(すいふ)(いさぎよ)く、
427田辺(たなべ)()たさに松原(まつばら)()せば、428田辺(たなべ)がくしの(きり)()む』
429(うた)(なが)ら、430廿二(にじふに)(にち)午後(ごご)()()431大丹生(おほにふ)()安着(あんちやく)した。
432大正一一・一〇・一七 旧八・二七 松村真澄録)
文芸社文庫『あらすじで読む霊界物語』絶賛発売中!
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / 本サイトに掲載されている霊界物語等の著作物の電子データは飯塚弘明ほか、多数の方々の協力によって作られました。(スペシャルサンクス) / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki