第九章 九死一生〔一〇七四〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
篇:第3篇 宿世の山道
よみ(新仮名遣い):すぐせのやまみち
章:第9章 九死一生
よみ(新仮名遣い):きゅうしいっしょう
通し章番号:1074
口述日:1922(大正11)年10月27日(旧09月8日)
口述場所:
筆録者:北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:ハムは、実はガランダ国の刹帝利の家柄で、大黒主の部下にその地位を追われて鬼熊別の部下となっていたのであった。ハムは、三五教の宣伝使を捕縛して手柄を立てれば、また元の王位に戻れるという契約を結んでいた。
ハムはレーブ、タールと口論し、古い祠で二人にだまされて怒り、逃げるレーブとタールを追っていた。ハムは身体の痛みも忘れて、自分の来歴を歌に歌いながら二人を追っていく。
しかしハムの腰はまた痛みだし、一歩も進むことができなくなってきた。ハムは山道で倒れ、もはやここで野垂れ死にをするしかないと観念した。
このとき微妙の音楽が聞こえ、天から白蓮華の花びらが降ってきた。ハムの体はたちまち元の健全体となった。ハムは喜び、天地に感謝してこれまでの言心行が一致しない罪を謝して坂道を下っていった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:2022-11-18 09:47:19
OBC :rm3909
愛善世界社版:119頁
八幡書店版:第7輯 323頁
修補版:
校定版:125頁
普及版:51頁
初版:
ページ備考:
001 鬼熊別の部下に仕へたるガランダ国の刹帝利、002親重代のハムの位を大黒主の部下にとり剥がれ、003僅かに鬼熊別の部下となり、004卑しき目付役に成り下り居たれども、005彼の部下は数十人密かに彼の頤使に甘んじて忠実に仕へ、006昔のハムの果てとして、007相当に尊敬を国民より払はれて居た。
008 今しも鬼熊別が命によつて蜈蚣姫、009小糸姫の所在を索ねる一方、010三五教の宣伝使を一人にても多く捕縛し帰らば、011もとのガランダ国の王に復しやらむとの契約の下に四人の小頭株を引き率れ、012此河鹿峠に待ちつつあつたのである。013然し乍ら四人の男は此ハムの素姓を知らず、014何となく横柄な奴、015虫の好かない奴と猜疑の眼を怒らし、016何か失敗ある時は、017これを嗅出し一々鬼熊別に内報し、018目の上の瘤なるハムを失墜せしめむと心密かに諜し合せつつあつた。
019 かかる処へ母娘の巡礼、020進み来るに出会し、021何の容赦も荒縄に、022縛つてハルナの都まで、023立ち帰らむと四人に下知を下した。024四人は吾劣らじと母娘に向つて武者振りつき、025苦もなく谷間に投げ捨てられ、026ハムも亦脆くも谷底に捨てられて了つた。027流石刹帝利の直系とて何処となく身魂堅固なりしかば、028イール、029ヨセフの如く容易に失神せず谷底の真砂に埋められて痛さを堪へて自然の恢復を待つ折しも、030レーブ、031タールの両人は谷を渡つて近寄り来り、032散々にハムの悪口を並べ立て、033此際二人を助けハムを谷川へ投げ捨てやらむとの密談を聞くより憤怒のあまり病の苦痛を忘れて、
034ハム『おのれ憎くき両人』
035と立ち上ればレーブ、036タールはイール、037ヨセフを捨て、038谷川伝ひに生命辛々逃げて行く。039ハムは無念の歯を喰ひしばり、040イール、041ヨセフを介抱し居る折しも、042頭上に聞ゆる宣伝歌『こりや堪らぬ』と韋駄天走りに岩を飛び越え浅瀬を渉り、043漸く山道に攀上り片方の森を眺むれば、044此処に一つの古き祠がある。045一先づ此処に息休め、046レーブ、047タール両人が所在を探ね、048懲らしめ呉れむと息まきつつ、049社前の石に腰うち掛け息を休めむとする時しも、050張り詰めたる勇気は茲にガタリと弛み、051再び腰痛み足うづき、052身動きならぬ苦しさに、053レーブ、054タールの両人が仕打ちを憤慨し怨み涙に暮れてゐる。055忽ち祠の後より二人の巡礼の声、056ハムは又もや二度吃驚、
057ハム『アヽ彼は普通の巡礼ではなく、058人を取り喰ふ鬼婆鬼娘であつたか』
059と濃霧に包まれて怨みの的なるレーブ、060タールの両人が作り声とは知らなかつた。061レーブ、062タールはハムの独言を聞き足腰立たぬにつけ込んで侮りきつて揶揄つて居たが、063忽ち吹き来る山風に濃霧は晴れ其真相が暴露すると共に、064怒り心頭に徹し、065怒髪天を衝いて立ち上り苦しき病の身を忘れ、066逃げゆく二人の後追うて、
067ハム『逃しはせじ、068思ひ知れや』
069と言ひ乍ら握り拳を固めつつ、070さしも嶮しき坂道をトントントンと地響きさせ阿修羅王の荒れし如く進み行くこそすさまじき。
071 ハムは痛さを忘れ、072一足々々拍子をとり乍ら歌ひ出した。
073ハム『時世時節と云ひ乍ら
075親代々のハムの俺
077時待つ尊き身と知らず
079侮りきつたる其態度 080小癪に触る俺の胸
083吾目的を遂ぐるまで 084怒つちや損だと辛抱して
085知らぬ顔にて過ぎて来た 086河鹿峠の山道で
087テツキリ会うた母娘連 088此奴あテツキリ蜈蚣姫
089小糸の姫と知つたれど 090さう言つたなら彼奴め等は
091腐つた肉を犬の子が 092争ふ如くに啀み合ひ
093互に手柄の取りやりを
095一つも取らず二も取らず
097思案を定めて空惚け
099ハルナの都へ連れ帰り 100鬼熊別の御前に
102彼等四人を誑かし
103首尾よう目的達しなば 104途中に彼を追ひ散らし
105愈此処で名乗り合ひ
107一人甘い事してやらうと 108思うた事も水の泡
111あんまり吾身の欲ばかり
113蜈蚣の姫や小糸姫 114二人の司に谷底へ
115不敵の力で投げ込まれ
117後悔胸に迫り来て
119悪運強い両人が 120虎口を逃れて谷底へ
122死んだ真似して聞き居れば
126人事不省を幸ひに
127此谷川に水葬と 128無礼な事を吐かす故
130痛さを忘れて立ち上り
131拳を固めて睨まへば 132卑怯未練な両人は
133親しき友の危難をば 134後に見捨てて逃げて行く
136二人の生命を助けむと
137人工呼吸の真最中 138三五教の宣伝歌
139雷の如くに聞え来る 140頭は痛み胸塞ぎ
142二人の奴を見殺しに
144祠の前に来て見れば
146再び腰は痛み出し
148二人の奴が床下に
150愚痴の繰言並べたて
151悔む折しも婆の声 152続いて娘の声聞ゆ
153俺は鬼婆鬼娘 154喰つてやらうとの御挨拶
155蜈蚣の姫や小糸姫 156二人と見たのは目のひがみ
157人をとり喰ふ鬼母娘
160神変不思議の魔力ある
161鬼に向つちや堪らない 162何とか云つて此場合
164言葉を構へて宣りつれば
165鬼婆益々図に乗つて 166無体の事を喋り出す
167俺も今こそ身を落し
172尊敬せられた身の上ぢや
173心弱くちや堪らない 174仮令脛腰立たずとも
175卑怯な最後を遂げむより
177覚悟を極むる時も時 178俄に吹き来る山嵐
179四辺を包みし雲霧も 180茲に漸く晴れ渡り
181よくよく見れば此は如何に
183身体の不自由をつけ込んで
186居やがる態度の面憎さ
187忽ち怒髪天を衝き 188腰の痛みも打忘れ
189此処まで追つかけ来りしが 190又もや腰が痛み出し
196治し給はれ惟神
201百の神々一柱
205助けて欲しさに朝夕に
207尽して居るのぢや厶らぬか 208思へば思へば残念や
210大方俺は野たれ死
211不運な者は何処までも 212不運で終はらにやならないか
213虎狼や獅子熊の
216斯うなり行くとは白雲の
217遠き異国の山の道 218空行く雲も心あらば
222悲惨至極の今日の身は
223悪の鑑と天地の
225遠津御祖の尽してし 226百の罪科身にうけて
228思へば思へば残念ぢや
231最早決心した上は 232死をも恐れぬ吾体
233神の御手に任します 234屍は野辺に曝すとも
235不老不死なる霊魂は 236高天原の都率天
237尊き神の御前に 238救はせ給へ惟神
240御前に祈り奉る』
241と涙の声を絞り山道にドツと倒れ、242観念の目を瞬いて知死期を待つ事となつた。
243 此時何処ともなく微妙の音楽聞え来り、244翩翻として白蓮華の花片、245天より降り来ると見る間に、246ハムの体は俄に清涼水を嚥下したるが如き気分に漂ひ瞬く間にもとの健全体となり変つた。247ハムは喜びのあまり、248天地に感謝し、249今までの言心行の一致せざりし罪を謝し、250悠々として坂道を下り行く。251あゝ惟神霊幸倍坐世。
252(大正一一・一〇・二七 旧九・八 北村隆光録)