霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一三章 浮木(うきき)(もり)〔一〇七八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第4篇 浮木の岩窟 よみ(新仮名遣い):うききのがんくつ
章:第13章 浮木の森 よみ(新仮名遣い):うききのもり 通し章番号:1078
口述日:1922(大正11)年10月28日(旧09月9日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
印度と波斯の国境にある大原野・浮木ケ原の森蔭で、黄金姫と清照姫は四方の風景を眺めながら休息していた。二人は鬼熊別の館に一刻も早く到着し、天地の真理を説いて三五教に改心させようと話していた。
そこへバラモン教の大足別が部下を率いてやってきて、母娘を取り囲む。母娘は金剛杖をもって立ち向かうが、衆寡的せず覚悟を固めた。すると、数十頭の狼の集団がやってきてバラモン軍に襲い掛かった。
その勢いにバラモン軍は逃げ散って行った。狼たちは敵を追い払うと、母娘に謹慎の態度をとり、ひと声うなると煙のように消え失せてしまった。森のかなたからは涼しい宣伝歌が聞こえてくる。
宣伝歌の主は国公だった。国公は母娘に気が付き、声をかけた。そして、自分が連れているバラモン教徒たちは、すでに三五教に帰順したから心配ないと言い、彼らの先日の無礼を詫びた。
国公は、黄金姫母娘の護衛を申し出るが、黄金姫母娘は、照国別たちが清春山の岩窟で危難にあっているから引き返して加勢に行くようにと命じた。国公は、ハム、イール、ヨセフ、タールを引き連れて、清春山に駒を返した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-20 09:30:06 OBC :rm3913
愛善世界社版:181頁 八幡書店版:第7輯 345頁 修補版: 校定版:191頁 普及版:77頁 初版: ページ備考:
001印度(つき)波斯(ふさ)との国境(くにざかひ)
002天地(てんち)(かみ)御稜威(みいづ)をば
003アフガニスタンの大原野(だいげんや)
004浮木(うきき)(はら)森蔭(もりかげ)
005(たたず)母娘(おやこ)宣伝使(せんでんし)
006斎苑(いそ)(やかた)をたち()でて
007ハルナの(みやこ)()(むか)
008その御姿(みすがた)雄々(をを)しけれ
009秋野(あきの)()()(いろ)づきて
010黄金姫(わうごんひめ)清照姫(きよてるひめ)
011(かみ)(みこと)(おん)気色(けしき)
012()(うらら)かに照妙(てるたへ)
013さながら小春(こはる)(ごと)くなり。
014 母娘(おやこ)宣伝使(せんでんし)とは()はずと()れた黄金姫(わうごんひめ)015清照姫(きよてるひめ)である。016清照姫(きよてるひめ)四方(よも)風景(ふうけい)(なが)(なが)ら、
017清照姫『お(かあ)さま、018随分(ずゐぶん)(あし)(つか)れたでせう。019河鹿(かじか)(たうげ)悪漢(わるもの)出会(であ)つてから最早(もはや)十日(とをか)ばかり山坂(やまさか)無難(ぶなん)此処(ここ)まで(まゐ)りました。020これも(まつた)(かみ)(さま)()守護(しゆご)(あつ)所以(ゆゑん)御座(ござ)いませう』
021黄金姫(わうごんひめ)(わし)(なん)()つても(とし)をとつた(だけ)()(なか)辛酸(しんさん)()(つく)して()るから(べつ)(なん)とも……これ(くらゐ)旅行(りよかう)()にもならぬが、022年若(としわか)きそなたは随分(ずゐぶん)苦痛(くつう)(かん)じたであらう。023(はや)くお(とう)さまに()はして()()いは胸一杯(むねいつぱい)だが、024肝腎要(かんじんかなめ)信仰(しんかう)(こと)にして()るのだから思想(しさう)(じやう)から()へば矢張(やつぱり)敵味方(てきみかた)(なか)025三五教(あななひけう)(をしへ)には天ケ下(あめがした)には他人(たにん)もなければ(おに)もない、026(いづ)れも(たふと)(かみ)御子(みこ)ぢやと(をし)へられてある、027けれどもバラモンの(をしへ)はさう(ひろ)道理(だうり)(わか)つてゐないのだから折角(せつかく)親子(おやこ)対面(たいめん)をした(ところ)(その)結果(けつくわ)如何(どう)なるやら(わか)つたものぢやない。028これを(おも)へば(うれ)しいやら(かな)しいやらテンと(こころ)()()きませぬ』
029清照姫(きよてるひめ)『お(かあ)さま、030(けつ)してそんな心配(しんぱい)()りませぬ。031三五教(あななひけう)仁慈(じんじ)無限(むげん)言霊(ことたま)(もつ)如何(いか)なる(おに)大蛇(をろち)曲神(まがかみ)言向和(ことむけやは)さねばならぬ吾々(われわれ)天職(てんしよく)032()して()()けた親子(おやこ)夫婦(ふうふ)033如何(いか)頑強(ぐわんきやう)父上(ちちうへ)ぢやとて、034(われ)()母娘(おやこ)熱心(ねつしん)(まこと)(もつ)()きつければ、035屹度(きつと)改心(かいしん)して(くだ)さるでせう』
036黄金姫(わうごんひめ)『お(まへ)(ひと)(じま)のクヰーンと(まで)なつた(だけ)腕前(うでまへ)()つて()るのだから大丈夫(だいぢやうぶ)とは(おも)へども、037(この)思想(しさう)(じやう)問題(もんだい)ばかりはさう易々(やすやす)(うご)かせるものではない。038(なに)()もあれ(かみ)(さま)にお(ねが)(まを)して(いち)()(はや)(をつと)(やかた)到着(たうちやく)し、039()神力(しんりき)(もつ)天地(てんち)真理(しんり)をお(はな)申上(まをしあ)げ、040悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)のバラモン(けう)脱退(だつたい)……否々(いないな)改良(かいりやう)せなくてはなりませぬが、041これこそ(わたし)にとつては非常(ひじやう)重大(ぢうだい)任務(にんむ)だ。042(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)御心(みこころ)(じつ)寛仁(くわんじん)大度(たいど)043いやもう有難(ありがた)うて、044(なみだ)がこぼれます。045鬼熊別(おにくまわけ)(つま)たり、046(むすめ)たる(われ)()見込(みこ)んで(この)大任(たいにん)(あふ)せつけられた(その)襟度(きんど)(ひろ)(こと)047到底(たうてい)凡神(ぼんしん)(くはだ)(およ)(ところ)でない。048ここ(まで)()(ひと)(しん)(たま)(その)御心(みこころ)(たい)しても、049仮令(たとへ)(われ)()母娘(おやこ)如何(いか)なる運命(うんめい)(おちい)るとも(この)大神(おほかみ)御心(みこころ)(そむ)(こと)出来(でき)ませぬ』
050清照姫(きよてるひめ)左様(さやう)御座(ござ)います。051たとへ父上(ちちうへ)(さま)がお(いか)(あそ)ばしてお(かあ)さまと(わたし)をお(ころ)(あそ)ばしても、052(けつ)してバラモン(けう)帰順(きじゆん)する(こと)出来(でき)ませぬ。053(かあ)さまも(その)()決心(けつしん)御座(ござ)いませうなあ』
054黄金姫(わうごんひめ)『それは勿論(もちろん)のことだ。055仁慈(じんじ)無限(むげん)大神(おほかみ)(さま)(あふ)せには(そむ)かれぬ。056どこ(まで)(まこと)(ひと)つを()てぬかねばなりませぬ』
057 ()(はな)(をり)しも、058(うま)(また)がり数十(すうじふ)(にん)部下(ぶか)(ひき)ゐて、059浮木(うきき)(はら)(たから)(もり)目蒐(めが)けて(すす)()るバラモン(けう)宣伝使(せんでんし)があつた。060矢庭(やには)(うま)()()同勢(どうぜい)(ひき)つれ、061二人(ふたり)休息(きうそく)せる(まへ)堂々(だうだう)(すす)(きた)()(いか)らして、
062(大足別)(この)(はう)はバラモン(けう)大黒主(おほくろぬし)(さま)()家来(けらい)大足別(おほだるわけ)()宣伝使(せんでんし)だ。063レーブの注進(ちゆうしん)(よつ)(なんぢ)()母娘(おやこ)召捕(めしと)らむ()部下(ぶか)引率(ひきつ)れここに立向(たちむか)うたり。064サア尋常(じんじやう)()(まは)せよ』
065大音声(だいおんじやう)突立(つつた)(なが)呶鳴(どな)つて()る。066(またた)(うち)数十(すうじふ)(にん)部下(ぶか)母娘(おやこ)周囲(しうゐ)満月(まんげつ)(かたち)()(かこ)んで(しま)つた。067清照姫(きよてるひめ)(かさ)()()(はな)(ごと)(かんばせ)をさらし(なが)ら、
068清照姫(わらは)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)069(こころ)(きよ)()(わた)清照姫(きよてるひめ)であるぞよ。070これなるは清照姫(きよてるひめ)(はは)071黄金(わうごん)世界(せかい)建設(けんせつ)する大任(たいにん)()(たま)黄金姫(わうごんひめ)だ。072(なんぢ)大足別(おほだるわけ)とやら(その)気張(きば)(やう)何事(なにごと)だ。073(すこ)(かた)(けづ)(こし)(かが)めおだやかに掛合(かけあ)つては如何(どう)だ。074頭抑(あたまおさ)へに(をんな)(あなど)つて(おさ)へつけようと(いた)すのはバラモン(けう)教理(けうり)ではあるまい。075(すこ)しは心得(こころえ)たがよからうぞ』
076大足別(おほだるわけ)(この)(もの)こそは繊弱(かよわ)(をんな)分際(ぶんざい)として強力(がうりき)無双(むさう)曲者(くせもの)077レーブの注進(ちゆうしん)によつて(なに)()()にとる(ごと)(わか)つてゐる。078到底(たうてい)一筋縄(ひとすぢなは)では()かぬ母娘(おやこ)巡礼(じゆんれい)()けたる三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)079(から)()つてハルナの(みやこ)立帰(たちかへ)り、080大黒主(おほくろぬし)(かみ)(さま)()褒美(ほうび)(ことば)頂戴(ちやうだい)せむ。081(もの)(ども)かかれ』
082下知(げち)すれば『オー』と(こた)へて四方(しはう)より母娘(おやこ)目蒐(めが)けて十手(じつて)打振(うちふ)打振(うちふ)()めかくる。083母娘(おやこ)は『心得(こころえ)たり』と金剛杖(こんがうづゑ)水車(みづぐるま)(ごと)くに空気(くうき)鳴動(めいどう)させ(なが)(ふせ)(たたか)(いきほひ)に、084(いづ)れも辟易(へきえき)し、085遠巻(とほまき)()(なが)ら『あれよあれよ』と口々(くちぐち)(さけ)ぶのみ。086大足別(おほだるわけ)(ごふ)()やし、
087大足別『えー、088()甲斐(がひ)なき味方(みかた)小童子(こわつぱ)(ども)089御供(ごく)にも()らぬ蠅虫(はへむし)()()090(ひか)()れ』
091呶鳴(どな)りつけ長剣(ちやうけん)をスラリと(ひき)ぬき、092母娘(おやこ)(むか)つて()りかくるを、093二人(ふたり)(かさ)(もつ)(みぎ)(ひだり)()けとめ、094かい(くぐ)(すき)(ねら)つて清照姫(きよてるひめ)(てき)(あし)(つゑ)(さき)にて力限(ちからかぎ)りに(うち)たたけば何条(なんでう)(もつ)(たま)るべき、095大足別(おほだるわけ)はアツと(さけ)んで(その)()顛倒(てんたふ)()をぱちつかせ(うめ)きゐる。096数多(あまた)手下(てした)(ども)(この)(てい)(なが)めて『素破(すは)一大事(いちだいじ)』と(いのち)(まと)武者(むしや)()りつく。097(この)(はう)()うての勇者(ゆうしや)098一人(ひとり)(のこ)らず(いき)()()めて()れむは(やす)けれど(かみ)(つか)ふる()(うへ)099仮令(たとへ)虫族(むしけら)一匹(いつぴき)でも(ころ)すと()(わけ)には()かないので、100(いづ)れも金剛杖(こんがうづゑ)(さき)にて(ねこ)(へび)にじやれる(やう)態度(たいど)でチヨイチヨイと(あしら)つて()る。101かかる(ところ)四五(しご)(にん)部下(ぶか)注進(ちゆうしん)によつて武装(ぶさう)(ととの)へたるバラモン(けう)軍勢(ぐんぜい)102鋭利(えいり)なる(やり)日光(につくわう)(ひらめ)かし(なが)幾百千(いくひやくせん)とも(かぎ)りなく(くつわ)(なら)べて()(きた)り、103二人(ふたり)母娘(おやこ)十重(とへ)二十重(はたへ)取囲(とりかこ)み、104四方(しはう)八方(はつぱう)より(やり)にて()きかけ(きた)物凄(ものすご)さ、105流石(さすが)母娘(おやこ)衆寡(しうくわ)(てき)せず、106もう(この)(うへ)天則(てんそく)(やぶ)()()武士(つはもの)片端(かたつぱし)から打殺(うちころ)して()れむと覚悟(かくご)(きは)めし折柄(をりから)天地(てんち)(ゆる)ぐばかりの(うな)(ごゑ)107(もり)木蔭(こかげ)より忽然(こつぜん)として(あら)はれ(きた)れる数十頭(すうじつとう)(おほかみ)(てき)集団(しふだん)(むか)つて()(いか)らせ大口(おほぐち)(ひら)いて驀地(まつしぐら)襲撃(しふげき)する。108(その)早業(はやわざ)にエール将軍(しやうぐん)部下(ぶか)(まと)めて(くも)(かすみ)()()つたり。109(この)(とき)打倒(うちたふ)れたる大足別(おほだるわけ)肉体(にくたい)(はこ)()られて(てき)(かげ)だにも()えなくなつてゐた。
110 二人(ふたり)はハツと(いき)をつき、111(もり)()()より()()づる清水(しみづ)(すく)ひて(のど)湿(うるほ)してゐた。
112 数十(すうじふ)(おほかみ)(てき)四方(しはう)()()らし、113(かうべ)()()()らし(なが)謹慎(きんしん)態度(たいど)(よそほ)ひつつ母娘(おやこ)(まへ)(あら)はれ、114二列(にれつ)となつて『ウー』と一声(ひとこゑ)(うな)ると(とも)(けむり)(ごと)()()せて(しま)つた。
115 (もり)彼方(あなた)より何人(なにびと)とも()れぬ(すず)しき(こゑ)宣伝歌(せんでんか)(きこ)えて()た。
116(国公)(かみ)(おもて)(あら)はれて
117(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)ける
118三五教(あななひけう)(かみ)(みち)
119(われ)()(かみ)()(かみ)(みや)
120とは()(なが)(ひと)()
121いかでか(かみ)(さば)かむや
122(かみ)尚更(なほさら)()(ひと)
123善悪(ぜんあく)正邪(せいじや)(わか)らうか
124身魂(みたま)因縁(いんねん)性来(しやうらい)
125立別(たてわ)けむとする醜司(しこつかさ)
126彼方(かなた)此方(こなた)(あら)はれて
127(まこと)(みち)蹂躙(じうりん)
128()常暗(とこやみ)(けが)()
129あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
130(かみ)御霊(みたま)(さちは)ひて
131三五教(あななひけう)()ふも(さら)
132バラモン(けう)やウラル(けう)
133(をしへ)(みち)(つか)へたる
134(かみ)(つかさ)(ことごと)
135(たま)御柱(みはしら)()(なほ)
136五六七(みろく)御世(みよ)永久(とこしへ)
137たてさせ(たま)惟神(かむながら)
138(かみ)(つか)ふる国公(くにこう)
139(つつし)(いやま)()(まつ)る。
140
141照国別(てるくにわけ)(したが)ひて
142斎苑(いそ)(やかた)()でしより
143()()()いで河鹿山(かじかやま)
144西(にし)(たうげ)()しかかり
145不思議(ふしぎ)(こと)よりバラモンの
146(みち)(つか)ふる神司(かむつかさ)
147イール、ヨセフの両人(りやうにん)
148(いのち)(すく)(たす)けつつ
149照国別(てるくにわけ)(うめ)(てる)
150(あと)(したが)(きた)(をり)
151(さか)此方(こなた)(たふ)れたる
152二人(ふたり)(をとこ)(すく)へよと
153命令(めいれい)しながら()でて()
154(あと)(のこ)りし国公(くにこう)
155二人(ふたり)(をとこ)(すく)はむと
156立寄(たちよ)()れば()如何(いか)
157ガランダ(こく)のハム(はじ)
158香具耶(かぐや)(ひこ)()()れし
159タールの二人(ふたり)物語(ものがたり)
160(かみ)仕組(しぐみ)(よろこ)びて
161(たがひ)(こころ)打明(うちあ)かし
162三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)させ
163ここまで(すす)(きた)りけり
164あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
165(たふと)(かみ)(あら)はれて
166善神(ぜんしん)邪神(じやしん)立別(たてわ)ける
167(たがひ)身魂(みたま)因縁(いんねん)
168(かみ)のまにまに()(さと)
169(すく)はせ(たま)ひし有難(ありがた)
170(たふと)(かみ)()威光(ゐくわう)
171アフガニスタンの高原地(かうげんち)
172浮木(うきき)(はら)(この)(もり)
173(にはか)(きこ)ゆる(とき)(こゑ)
174唯事(ただごと)ならじと一行(いつかう)
175(こま)(はや)めてシトシトと
176ここ(まで)(すす)()()れば
177さも(さわ)がしき(とき)(こゑ)
178(いま)(まつ)()(かぜ)となり
179四辺(あたり)(ひと)(かげ)もなし
180あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
181(かみ)息吹(いぶき)退(やら)はれて
182荒振(あらぶ)(かみ)逸早(いちはや)
183()()せたるかいぶかしや
184朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
185(つき)()つとも()くるとも
186仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
187悪魔(あくま)(たけ)びは(つよ)くとも
188三五教(あななひけう)(つか)へたる
189(まこと)(まも)るわれわれに
190刃向(はむか)(てき)はあるべきぞ
191(われ)()(ただ)しき(かみ)御子(みこ)
192(たふと)(かみ)()れませる
193(うづ)宮居(みやゐ)何者(なにもの)
194(おそ)るる(こと)のあるべきや
195(すす)めよ(すす)め、いざ(すす)
196浮木(うきき)(もり)(ふもと)まで
197あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
198御霊(みたま)(さちは)ひましませよ』
199(うた)(なが)母娘(おやこ)(いこ)ふとは(ゆめ)にも()らず(こま)(はや)めて(すす)()る。
200 国公(くにこう)(こま)をとどめてツカツカと二人(ふたり)(まへ)(あら)はれ、
201国公『ヤア、202貴方(あなた)は』
203黄金(わうごん)『シー』
204国公(くにこう)黄金姫(わうごんひめ)(さま)205もはやお(かく)しには(およ)びませぬ。206此処(ここ)(まゐ)りましたタール、207ハム、208イール、209ヨセフの()(にん)(まつた)三五教(あななひけう)(こころ)(そこ)より帰順(きじゆん)(いた)しました善人(ぜんにん)御座(ござ)いますから、210何卒(なにとぞ)可愛(かあい)がつてやつて(くだ)さいませ。211重々(ぢうぢう)()無礼(ぶれい)(わたし)(かは)つてお()(いた)しますから何卒(どうぞ)()(ゆる)しを(ねが)ひます』
212黄金姫(わうごんひめ)『そなたは照国別(てるくにわけ)のお(とも)(つか)へた国公(くにこう)さまぢやないか。213照国別(てるくにわけ)(さま)如何(どう)なつたのだ。214(こころ)もとなし、215(はや)(その)所在(ありか)()らしてお()れ』
216国公(くにこう)(じつ)(ところ)はタール、217ハムの両人(りやうにん)218河鹿(かじか)(たうげ)山道(やまみち)負傷(ふしやう)(いた)(たふ)れて()たので、219照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)(この)国公(くにこう)介抱(かいほう)(めい)じおき、220サツサと(さき)()つて()かれました。221それより(むら)がる野馬(やば)引捉(ひつとら)吾々(われわれ)一行(いつかう)()(にん)照国別(てるくにわけ)(さま)のお(あと)(おひ)かけて此処(ここ)まで(まゐ)りましたが、222まだお行衛(ゆくへ)(わか)らず、223ヒヨツとしたら(わたくし)(たち)(さき)になつたかも()れませぬ』
224黄金姫(わうごんひめ)一足先(ひとあしさき)()(わし)でさへも、225まだここ(まで)到着(たうちやく)した(ところ)だから、226屹度(きつと)(あと)からおいでになるのだらう。227清春山(きよはるやま)岩窟(がんくつ)にバラモン(けう)悪神(あくがみ)(ども)立籠(たてこも)国人(くにびと)(なや)ますとの(うはさ)があるから、228大方(おほかた)照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)はそこへ()(いで)になつたのだらうよ』
229国公(くにこう)『これから(わたし)貴方(あなた)(さま)母娘(おやこ)のお(とも)をしてハルナの(みやこ)まで(まゐ)りませう、230何卒(なにとぞ)(ゆる)(くだ)さるまいか』
231黄金姫(わうごんひめ)『ウン』
232清照姫(きよてるひめ)国公(くにこう)さま、233そんな勝手(かつて)(こと)出来(でき)ませぬ。234吾々(われわれ)母娘(おやこ)(とも)をも(ゆる)されず、235(かみ)(さま)(ふか)思召(おぼしめし)あつてお使(つかひ)(まゐ)(もの)236其方(そなた)照国別(てるくにわけ)(さま)のお(とも)(つか)ふるものだ。237他人(ひと)供人(ともびと)横取(よこど)りにしたと()はれては(かみ)(さま)申訳(まをしわけ)たたず、238(また)宣伝使(せんでんし)吾々(われわれ)として義務(ぎむ)()たない。239サア(はや)国公(くにこう)さま、240清春山(きよはるやま)岩窟(がんくつ)引返(ひきかへ)照国別(てるくにわけ)(さま)危難(きなん)をお(すく)ひなされ、241(けつ)して吾々(われわれ)母娘(おやこ)(あと)へついて()(こと)はなりませぬぞえ』
242国公(くにこう)照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)二人(ふたり)(をとこ)をお()(あそ)ばします以上(いじやう)は、243国公(くにこう)一人(ひとり)()なくても大丈夫(だいぢやうぶ)でせう。244(なに)()つても貴方(あなた)(をんな)二人(ふたり)()れ、245魔神(まがみ)(たけ)(くる)()荒野(あらの)(はら)をお(わた)りなさるのは、246(なん)とはなしに(あん)じられてなりませぬ。247照国別(てるくにわけ)(さま)(わたし)(あと)(のこ)して()かれたのは貴方(あなた)のお(とも)をせよとの(なぞ)であつたかとも(かんが)へられます。248何卒(どうぞ)タルの(みなと)までなりとお(とも)をさせて(くだ)さいませ』
249清照姫(きよてるひめ)折角(せつかく)()親切(しんせつ)なれどもこればかりは(ひら)にお(ことわ)(いた)します』
250黄金姫(わうごんひめ)国公(くにこう)さまの誠心(まごころ)有難(ありがた)()けまする。251(しか)(なが)(まへ)(まを)した(とほ)(わたし)のお(とも)(ゆる)しませぬ。252(いち)()(はや)清春山(きよはるやま)岩窟(がんくつ)へお()しなされ、253照国別(てるくにわけ)(さま)(てき)計略(けいりやく)にかかつて大変(たいへん)(あやふ)(ところ)(ござ)いますぞ。254(いま)(わたし)霊眼(れいがん)(えい)じました。255(とき)おくれては一大事(いちだいじ)256(わづ)かに(じふ)()ばかりの道程(みちのり)257(はや)引返(ひつかへ)しなされよ』
258()(なが)母娘(おやこ)二人(ふたり)国公(くにこう)一行(いつかう)振棄(ふりす)てて荒野(あれの)(はら)をイソイソと足早(あしばや)(すす)()く。259国公(くにこう)はハム、260イール、261ヨセフ、262タールの()(にん)(したが)(こま)(かしら)(なら)べて元来(もとき)(みち)一目散(いちもくさん)清春山(きよはるやま)岩窟(がんくつ)さして(すす)()く。263野路(のぢ)(わた)秋風(あきかぜ)中空(ちうくう)(ふえ)()(なが)遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく(もり)(こずゑ)(わた)()く。
264大正一一・一〇・二八 旧九・九 北村隆光録)
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