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特別編 入蒙記
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第39巻(寅の巻)
序歌
総説
第1篇 伊祖の神風
01 大黒主
〔1066〕
02 評定
〔1067〕
03 出師
〔1068〕
第2篇 黄金清照
04 河鹿越
〔1069〕
05 人の心
〔1070〕
06 妖霧
〔1071〕
07 都率天
〔1072〕
08 母と娘
〔1073〕
第3篇 宿世の山道
09 九死一生
〔1074〕
10 八の字
〔1075〕
11 鼻摘
〔1076〕
12 種明志
〔1077〕
第4篇 浮木の岩窟
13 浮木の森
〔1078〕
14 清春山
〔1079〕
15 焼糞
〔1080〕
16 親子対面
〔1081〕
第5篇 馬蹄の反影
17 テームス峠
〔1082〕
18 関所守
〔1083〕
19 玉山嵐
〔1084〕
附録 大祓祝詞解
余白歌
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第一三章
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
〔一〇七八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
篇:
第4篇 浮木の岩窟
よみ(新仮名遣い):
うききのがんくつ
章:
第13章 浮木の森
よみ(新仮名遣い):
うききのもり
通し章番号:
1078
口述日:
1922(大正11)年10月28日(旧09月9日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
印度と波斯の国境にある大原野・浮木ケ原の森蔭で、黄金姫と清照姫は四方の風景を眺めながら休息していた。二人は鬼熊別の館に一刻も早く到着し、天地の真理を説いて三五教に改心させようと話していた。
そこへバラモン教の大足別が部下を率いてやってきて、母娘を取り囲む。母娘は金剛杖をもって立ち向かうが、衆寡的せず覚悟を固めた。すると、数十頭の狼の集団がやってきてバラモン軍に襲い掛かった。
その勢いにバラモン軍は逃げ散って行った。狼たちは敵を追い払うと、母娘に謹慎の態度をとり、ひと声うなると煙のように消え失せてしまった。森のかなたからは涼しい宣伝歌が聞こえてくる。
宣伝歌の主は国公だった。国公は母娘に気が付き、声をかけた。そして、自分が連れているバラモン教徒たちは、すでに三五教に帰順したから心配ないと言い、彼らの先日の無礼を詫びた。
国公は、黄金姫母娘の護衛を申し出るが、黄金姫母娘は、照国別たちが清春山の岩窟で危難にあっているから引き返して加勢に行くようにと命じた。国公は、ハム、イール、ヨセフ、タールを引き連れて、清春山に駒を返した。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-20 09:30:06
OBC :
rm3913
愛善世界社版:
181頁
八幡書店版:
第7輯 345頁
修補版:
校定版:
191頁
普及版:
77頁
初版:
ページ備考:
001
印度
(
つき
)
と
波斯
(
ふさ
)
との
国境
(
くにざかひ
)
002
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
をば
003
アフガニスタンの
大原野
(
だいげんや
)
004
浮木
(
うきき
)
ケ
原
(
はら
)
の
森蔭
(
もりかげ
)
に
005
佇
(
たたず
)
む
母娘
(
おやこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
006
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
をたち
出
(
い
)
でて
007
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ふ
008
その
御姿
(
みすがた
)
ぞ
雄々
(
をを
)
しけれ
009
秋野
(
あきの
)
の
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
色
(
いろ
)
づきて
010
黄金姫
(
わうごんひめ
)
や
清照姫
(
きよてるひめ
)
011
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
の
御
(
おん
)
気色
(
けしき
)
012
実
(
げ
)
に
麗
(
うらら
)
かに
照妙
(
てるたへ
)
の
013
さながら
小春
(
こはる
)
の
如
(
ごと
)
くなり。
014
母娘
(
おやこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
とは
云
(
い
)
はずと
知
(
し
)
れた
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
015
清照姫
(
きよてるひめ
)
である。
016
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
四方
(
よも
)
の
風景
(
ふうけい
)
を
眺
(
なが
)
め
乍
(
なが
)
ら、
017
清照姫
『お
母
(
かあ
)
さま、
018
随分
(
ずゐぶん
)
お
足
(
あし
)
が
疲
(
つか
)
れたでせう。
019
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
で
悪漢
(
わるもの
)
に
出会
(
であ
)
つてから
最早
(
もはや
)
十日
(
とをか
)
ばかり
山坂
(
やまさか
)
を
無難
(
ぶなん
)
に
此処
(
ここ
)
まで
参
(
まゐ
)
りました。
020
これも
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
の
厚
(
あつ
)
き
所以
(
ゆゑん
)
で
御座
(
ござ
)
いませう』
021
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『
私
(
わし
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
年
(
とし
)
をとつた
丈
(
だけ
)
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
辛酸
(
しんさん
)
を
嘗
(
な
)
め
尽
(
つく
)
して
居
(
ゐ
)
るから
別
(
べつ
)
に
何
(
なん
)
とも……これ
位
(
くらゐ
)
の
旅行
(
りよかう
)
は
苦
(
く
)
にもならぬが、
022
年若
(
としわか
)
きそなたは
随分
(
ずゐぶん
)
苦痛
(
くつう
)
を
感
(
かん
)
じたであらう。
023
早
(
はや
)
くお
父
(
とう
)
さまに
会
(
あ
)
はして
上
(
あ
)
げ
度
(
た
)
いは
胸一杯
(
むねいつぱい
)
だが、
024
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
信仰
(
しんかう
)
を
異
(
こと
)
にして
居
(
ゐ
)
るのだから
思想
(
しさう
)
上
(
じやう
)
から
云
(
い
)
へば
矢張
(
やつぱり
)
敵味方
(
てきみかた
)
の
仲
(
なか
)
、
025
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
には
天ケ下
(
あめがした
)
には
他人
(
たにん
)
もなければ
鬼
(
おに
)
もない、
026
何
(
いづ
)
れも
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
ぢやと
教
(
をし
)
へられてある、
027
けれどもバラモンの
教
(
をしへ
)
はさう
広
(
ひろ
)
く
道理
(
だうり
)
が
判
(
わか
)
つてゐないのだから
折角
(
せつかく
)
親子
(
おやこ
)
の
対面
(
たいめん
)
をした
所
(
ところ
)
で
其
(
その
)
結果
(
けつくわ
)
は
如何
(
どう
)
なるやら
判
(
わか
)
つたものぢやない。
028
これを
思
(
おも
)
へば
嬉
(
うれ
)
しいやら
悲
(
かな
)
しいやらテンと
心
(
こころ
)
が
落
(
お
)
ち
着
(
つ
)
きませぬ』
029
清照姫
(
きよてるひめ
)
『お
母
(
かあ
)
さま、
030
決
(
けつ
)
してそんな
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬ。
031
三五教
(
あななひけう
)
の
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て
如何
(
いか
)
なる
鬼
(
おに
)
大蛇
(
をろち
)
曲神
(
まがかみ
)
も
言向和
(
ことむけやは
)
さねばならぬ
吾々
(
われわれ
)
の
天職
(
てんしよく
)
、
032
況
(
ま
)
して
血
(
ち
)
を
分
(
わ
)
けた
親子
(
おやこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
、
033
如何
(
いか
)
に
頑強
(
ぐわんきやう
)
な
父上
(
ちちうへ
)
ぢやとて、
034
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
母娘
(
おやこ
)
が
熱心
(
ねつしん
)
に
誠
(
まこと
)
を
以
(
もつ
)
て
説
(
と
)
きつければ、
035
屹度
(
きつと
)
改心
(
かいしん
)
して
下
(
くだ
)
さるでせう』
036
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『お
前
(
まへ
)
も
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
のクヰーンと
迄
(
まで
)
なつた
丈
(
だけ
)
の
腕前
(
うでまへ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
とは
思
(
おも
)
へども、
037
此
(
この
)
思想
(
しさう
)
上
(
じやう
)
の
問題
(
もんだい
)
ばかりはさう
易々
(
やすやす
)
と
動
(
うご
)
かせるものではない。
038
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
して
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
夫
(
をつと
)
の
館
(
やかた
)
に
到着
(
たうちやく
)
し、
039
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
を
以
(
もつ
)
て
天地
(
てんち
)
の
真理
(
しんり
)
をお
話
(
はな
)
し
申上
(
まをしあ
)
げ、
040
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
のバラモン
教
(
けう
)
を
脱退
(
だつたい
)
……
否々
(
いないな
)
改良
(
かいりやう
)
せなくてはなりませぬが、
041
これこそ
私
(
わたし
)
にとつては
非常
(
ひじやう
)
に
重大
(
ぢうだい
)
な
任務
(
にんむ
)
だ。
042
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
は
実
(
じつ
)
に
寛仁
(
くわんじん
)
大度
(
たいど
)
、
043
いやもう
有難
(
ありがた
)
うて、
044
涙
(
なみだ
)
がこぼれます。
045
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
妻
(
つま
)
たり、
046
娘
(
むすめ
)
たる
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
見込
(
みこ
)
んで
此
(
この
)
大任
(
たいにん
)
を
仰
(
あふ
)
せつけられた
其
(
その
)
襟度
(
きんど
)
の
広
(
ひろ
)
い
事
(
こと
)
、
047
到底
(
たうてい
)
凡神
(
ぼんしん
)
の
企
(
くはだ
)
て
及
(
およ
)
ぶ
所
(
ところ
)
でない。
048
ここ
迄
(
まで
)
良
(
よ
)
く
人
(
ひと
)
を
信
(
しん
)
じ
玉
(
たま
)
ふ
其
(
その
)
御心
(
みこころ
)
に
対
(
たい
)
しても、
049
仮令
(
たとへ
)
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
母娘
(
おやこ
)
が
如何
(
いか
)
なる
運命
(
うんめい
)
に
陥
(
おちい
)
るとも
此
(
この
)
大神
(
おほかみ
)
の
御心
(
みこころ
)
は
背
(
そむ
)
く
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
050
清照姫
(
きよてるひめ
)
『
左様
(
さやう
)
で
御座
(
ござ
)
います。
051
たとへ
父上
(
ちちうへ
)
様
(
さま
)
がお
怒
(
いか
)
り
遊
(
あそ
)
ばしてお
母
(
かあ
)
さまと
私
(
わたし
)
をお
殺
(
ころ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしても、
052
決
(
けつ
)
してバラモン
教
(
けう
)
へ
帰順
(
きじゆん
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
053
お
母
(
かあ
)
さまも
其
(
その
)
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
で
御座
(
ござ
)
いませうなあ』
054
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『それは
勿論
(
もちろん
)
のことだ。
055
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
仰
(
あふ
)
せには
背
(
そむ
)
かれぬ。
056
どこ
迄
(
まで
)
も
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つを
立
(
た
)
てぬかねばなりませぬ』
057
斯
(
か
)
く
話
(
はな
)
す
折
(
をり
)
しも、
058
馬
(
うま
)
に
跨
(
また
)
がり
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
を
率
(
ひき
)
ゐて、
059
浮木
(
うきき
)
ケ
原
(
はら
)
の
宝
(
たから
)
の
森
(
もり
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
るバラモン
教
(
けう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
があつた。
060
矢庭
(
やには
)
に
馬
(
うま
)
を
飛
(
と
)
び
下
(
お
)
り
同勢
(
どうぜい
)
を
引
(
ひき
)
つれ、
061
二人
(
ふたり
)
が
休息
(
きうそく
)
せる
前
(
まへ
)
に
堂々
(
だうだう
)
と
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り
眼
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らして、
062
(大足別)
『
此
(
この
)
方
(
はう
)
はバラモン
教
(
けう
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
大足別
(
おほだるわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
063
レーブの
注進
(
ちゆうしん
)
に
依
(
よつ
)
て
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
母娘
(
おやこ
)
を
召捕
(
めしと
)
らむ
為
(
た
)
め
部下
(
ぶか
)
を
引率
(
ひきつ
)
れここに
立向
(
たちむか
)
うたり。
064
サア
尋常
(
じんじやう
)
に
手
(
て
)
を
廻
(
まは
)
せよ』
065
と
大音声
(
だいおんじやう
)
に
突立
(
つつた
)
ち
乍
(
なが
)
ら
呶鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
066
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
は
母娘
(
おやこ
)
の
周囲
(
しうゐ
)
を
満月
(
まんげつ
)
の
形
(
かたち
)
に
取
(
と
)
り
囲
(
かこ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
067
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
笠
(
かさ
)
を
脱
(
ぬ
)
ぎ
棄
(
す
)
て
花
(
はな
)
の
如
(
ごと
)
き
顔
(
かんばせ
)
をさらし
乍
(
なが
)
ら、
068
清照姫
『
妾
(
わらは
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
069
心
(
こころ
)
も
清
(
きよ
)
く
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る
清照姫
(
きよてるひめ
)
であるぞよ。
070
これなるは
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
母
(
はは
)
、
071
黄金
(
わうごん
)
世界
(
せかい
)
を
建設
(
けんせつ
)
する
大任
(
たいにん
)
を
帯
(
お
)
び
給
(
たま
)
ふ
黄金姫
(
わうごんひめ
)
だ。
072
汝
(
なんぢ
)
大足別
(
おほだるわけ
)
とやら
其
(
その
)
気張
(
きば
)
り
様
(
やう
)
は
何事
(
なにごと
)
だ。
073
も
少
(
すこ
)
し
肩
(
かた
)
を
削
(
けづ
)
り
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
めおだやかに
掛合
(
かけあ
)
つては
如何
(
どう
)
だ。
074
頭抑
(
あたまおさ
)
へに
女
(
をんな
)
と
侮
(
あなど
)
つて
抑
(
おさ
)
へつけようと
致
(
いた
)
すのはバラモン
教
(
けう
)
の
教理
(
けうり
)
ではあるまい。
075
少
(
すこ
)
しは
心得
(
こころえ
)
たがよからうぞ』
076
大足別
(
おほだるわけ
)
『
此
(
この
)
者
(
もの
)
こそは
繊弱
(
かよわ
)
き
女
(
をんな
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
強力
(
がうりき
)
無双
(
むさう
)
の
曲者
(
くせもの
)
、
077
レーブの
注進
(
ちゆうしん
)
によつて
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
手
(
て
)
にとる
如
(
ごと
)
く
判
(
わか
)
つてゐる。
078
到底
(
たうてい
)
一筋縄
(
ひとすぢなは
)
では
行
(
ゆ
)
かぬ
母娘
(
おやこ
)
の
巡礼
(
じゆんれい
)
と
化
(
ば
)
けたる
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
079
搦
(
から
)
め
捕
(
と
)
つてハルナの
都
(
みやこ
)
へ
立帰
(
たちかへ
)
り、
080
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
の
詞
(
ことば
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
せむ。
081
者
(
もの
)
共
(
ども
)
かかれ』
082
と
下知
(
げち
)
すれば『オー』と
応
(
こた
)
へて
四方
(
しはう
)
より
母娘
(
おやこ
)
を
目蒐
(
めが
)
けて
十手
(
じつて
)
を
打振
(
うちふ
)
り
打振
(
うちふ
)
り
攻
(
せ
)
めかくる。
083
母娘
(
おやこ
)
は『
心得
(
こころえ
)
たり』と
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
水車
(
みづぐるま
)
の
如
(
ごと
)
くに
空気
(
くうき
)
を
鳴動
(
めいどう
)
させ
乍
(
なが
)
ら
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
ふ
勢
(
いきほひ
)
に、
084
何
(
いづ
)
れも
辟易
(
へきえき
)
し、
085
遠巻
(
とほまき
)
に
巻
(
ま
)
き
乍
(
なが
)
ら『あれよあれよ』と
口々
(
くちぐち
)
に
叫
(
さけ
)
ぶのみ。
086
大足別
(
おほだるわけ
)
は
劫
(
ごふ
)
を
煮
(
に
)
やし、
087
大足別
『えー、
088
言
(
い
)
ひ
甲斐
(
がひ
)
なき
味方
(
みかた
)
の
小童子
(
こわつぱ
)
共
(
ども
)
、
089
御供
(
ごく
)
にも
足
(
た
)
らぬ
蠅虫
(
はへむし
)
奴
(
め
)
等
(
ら
)
、
090
控
(
ひか
)
へ
居
(
を
)
れ』
091
と
呶鳴
(
どな
)
りつけ
長剣
(
ちやうけん
)
をスラリと
引
(
ひき
)
ぬき、
092
母娘
(
おやこ
)
に
向
(
むか
)
つて
斬
(
き
)
りかくるを、
093
二人
(
ふたり
)
は
笠
(
かさ
)
を
以
(
もつ
)
て
右
(
みぎ
)
に
左
(
ひだり
)
に
受
(
う
)
けとめ、
094
かい
潜
(
くぐ
)
り
隙
(
すき
)
を
狙
(
ねら
)
つて
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
敵
(
てき
)
の
足
(
あし
)
を
杖
(
つゑ
)
の
先
(
さき
)
にて
力限
(
ちからかぎ
)
りに
打
(
うち
)
たたけば
何条
(
なんでう
)
以
(
もつ
)
て
堪
(
たま
)
るべき、
095
大足別
(
おほだるわけ
)
はアツと
叫
(
さけ
)
んで
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
顛倒
(
てんたふ
)
し
目
(
め
)
をぱちつかせ
呻
(
うめ
)
きゐる。
096
数多
(
あまた
)
の
手下
(
てした
)
共
(
ども
)
は
此
(
この
)
態
(
てい
)
を
眺
(
なが
)
めて『
素破
(
すは
)
一大事
(
いちだいじ
)
』と
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
武者
(
むしや
)
振
(
ぶ
)
りつく。
097
此
(
この
)
方
(
はう
)
は
名
(
な
)
うての
勇者
(
ゆうしや
)
、
098
一人
(
ひとり
)
も
残
(
のこ
)
らず
息
(
いき
)
の
根
(
ね
)
を
止
(
と
)
めて
呉
(
く
)
れむは
易
(
やす
)
けれど
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
099
仮令
(
たとへ
)
虫族
(
むしけら
)
一匹
(
いつぴき
)
でも
殺
(
ころ
)
すと
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かないので、
100
何
(
いづ
)
れも
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
の
先
(
さき
)
にて
猫
(
ねこ
)
が
蛇
(
へび
)
にじやれる
様
(
やう
)
な
態度
(
たいど
)
でチヨイチヨイと
扱
(
あしら
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
101
かかる
所
(
ところ
)
へ
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
の
注進
(
ちゆうしん
)
によつて
武装
(
ぶさう
)
を
整
(
ととの
)
へたるバラモン
教
(
けう
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
、
102
鋭利
(
えいり
)
なる
鎗
(
やり
)
を
日光
(
につくわう
)
に
閃
(
ひらめ
)
かし
乍
(
なが
)
ら
幾百千
(
いくひやくせん
)
とも
限
(
かぎ
)
りなく
轡
(
くつわ
)
を
並
(
なら
)
べて
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
り、
103
二人
(
ふたり
)
の
母娘
(
おやこ
)
を
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
取囲
(
とりかこ
)
み、
104
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
より
鎗
(
やり
)
にて
突
(
つ
)
きかけ
来
(
きた
)
る
物凄
(
ものすご
)
さ、
105
流石
(
さすが
)
の
母娘
(
おやこ
)
も
衆寡
(
しうくわ
)
敵
(
てき
)
せず、
106
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
天則
(
てんそく
)
を
破
(
やぶ
)
り
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
武士
(
つはもの
)
を
片端
(
かたつぱし
)
から
打殺
(
うちころ
)
して
呉
(
く
)
れむと
覚悟
(
かくご
)
を
極
(
きは
)
めし
折柄
(
をりから
)
に
天地
(
てんち
)
も
揺
(
ゆる
)
ぐばかりの
呻
(
うな
)
り
声
(
ごゑ
)
、
107
森
(
もり
)
の
木蔭
(
こかげ
)
より
忽然
(
こつぜん
)
として
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
れる
数十頭
(
すうじつとう
)
の
狼
(
おほかみ
)
は
敵
(
てき
)
の
集団
(
しふだん
)
に
向
(
むか
)
つて
目
(
め
)
を
怒
(
いか
)
らせ
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
ひら
)
いて
驀地
(
まつしぐら
)
に
襲撃
(
しふげき
)
する。
108
其
(
その
)
早業
(
はやわざ
)
にエール
将軍
(
しやうぐん
)
は
部下
(
ぶか
)
を
纏
(
まと
)
めて
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
つたり。
109
此
(
この
)
時
(
とき
)
打倒
(
うちたふ
)
れたる
大足別
(
おほだるわけ
)
の
肉体
(
にくたい
)
も
運
(
はこ
)
び
去
(
さ
)
られて
敵
(
てき
)
の
影
(
かげ
)
だにも
見
(
み
)
えなくなつてゐた。
110
二人
(
ふたり
)
はハツと
息
(
いき
)
をつき、
111
森
(
もり
)
の
木
(
こ
)
の
間
(
ま
)
より
湧
(
わ
)
き
出
(
い
)
づる
清水
(
しみづ
)
を
掬
(
すく
)
ひて
咽
(
のど
)
を
湿
(
うるほ
)
してゐた。
112
数十
(
すうじふ
)
の
狼
(
おほかみ
)
は
敵
(
てき
)
を
四方
(
しはう
)
に
追
(
お
)
ひ
散
(
ち
)
らし、
113
頭
(
かうべ
)
を
下
(
さ
)
げ
尾
(
を
)
を
垂
(
た
)
らし
乍
(
なが
)
ら
謹慎
(
きんしん
)
の
態度
(
たいど
)
を
装
(
よそほ
)
ひつつ
母娘
(
おやこ
)
が
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
114
二列
(
にれつ
)
となつて『ウー』と
一声
(
ひとこゑ
)
呻
(
うな
)
ると
共
(
とも
)
に
煙
(
けむり
)
の
如
(
ごと
)
く
消
(
き
)
え
失
(
う
)
せて
了
(
しま
)
つた。
115
森
(
もり
)
の
彼方
(
あなた
)
より
何人
(
なにびと
)
とも
知
(
し
)
れぬ
涼
(
すず
)
しき
声
(
こゑ
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
116
(国公)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
117
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
118
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
119
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
120
とは
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
人
(
ひと
)
の
身
(
み
)
の
121
いかでか
神
(
かみ
)
を
審
(
さば
)
かむや
122
神
(
かみ
)
は
尚更
(
なほさら
)
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
の
123
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
が
分
(
わか
)
らうか
124
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
性来
(
しやうらい
)
を
125
立別
(
たてわ
)
けむとする
醜司
(
しこつかさ
)
126
彼方
(
かなた
)
此方
(
こなた
)
に
現
(
あら
)
はれて
127
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
し
128
世
(
よ
)
を
常暗
(
とこやみ
)
と
汚
(
けが
)
し
行
(
ゆ
)
く
129
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
130
神
(
かみ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
幸
(
さちは
)
ひて
131
三五教
(
あななひけう
)
は
云
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
132
バラモン
教
(
けう
)
やウラル
教
(
けう
)
133
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
に
仕
(
つか
)
へたる
134
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
を
悉
(
ことごと
)
く
135
魂
(
たま
)
の
御柱
(
みはしら
)
建
(
た
)
て
直
(
なほ
)
し
136
五六七
(
みろく
)
の
御世
(
みよ
)
を
永久
(
とこしへ
)
に
137
たてさせ
玉
(
たま
)
へ
惟神
(
かむながら
)
138
神
(
かみ
)
に
仕
(
つか
)
ふる
国公
(
くにこう
)
が
139
慎
(
つつし
)
み
敬
(
いやま
)
ひ
願
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る。
140
○
141
照国別
(
てるくにわけ
)
に
従
(
したが
)
ひて
142
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
出
(
い
)
でしより
143
夜
(
よ
)
を
日
(
ひ
)
に
次
(
つ
)
いで
河鹿山
(
かじかやま
)
144
西
(
にし
)
の
峠
(
たうげ
)
に
差
(
さ
)
しかかり
145
不思議
(
ふしぎ
)
な
事
(
こと
)
よりバラモンの
146
道
(
みち
)
に
仕
(
つか
)
ふる
神司
(
かむつかさ
)
147
イール、ヨセフの
両人
(
りやうにん
)
が
148
命
(
いのち
)
を
救
(
すく
)
ひ
助
(
たす
)
けつつ
149
照国別
(
てるくにわけ
)
や
梅
(
うめ
)
照
(
てる
)
の
150
後
(
あと
)
に
従
(
したが
)
ひ
来
(
きた
)
る
折
(
をり
)
151
坂
(
さか
)
の
此方
(
こなた
)
に
倒
(
たふ
)
れたる
152
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
を
救
(
すく
)
へよと
153
命令
(
めいれい
)
しながら
出
(
い
)
でて
行
(
ゆ
)
く
154
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
りし
国公
(
くにこう
)
は
155
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
を
救
(
すく
)
はむと
156
立寄
(
たちよ
)
り
見
(
み
)
れば
此
(
こ
)
は
如何
(
いか
)
に
157
ガランダ
国
(
こく
)
のハム
初
(
はじ
)
め
158
香具耶
(
かぐや
)
の
彦
(
ひこ
)
の
子
(
こ
)
と
生
(
あ
)
れし
159
タールの
二人
(
ふたり
)
の
物語
(
ものがたり
)
160
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
と
喜
(
よろこ
)
びて
161
互
(
たがひ
)
に
心
(
こころ
)
を
打明
(
うちあ
)
かし
162
三五教
(
あななひけう
)
に
帰順
(
きじゆん
)
させ
163
ここまで
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
りけり
164
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
165
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
が
現
(
あら
)
はれて
166
善神
(
ぜんしん
)
邪神
(
じやしん
)
を
立別
(
たてわ
)
ける
167
互
(
たがひ
)
の
身魂
(
みたま
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
168
神
(
かみ
)
のまにまに
説
(
と
)
き
諭
(
さと
)
し
169
救
(
すく
)
はせ
玉
(
たま
)
ひし
有難
(
ありがた
)
さ
170
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
御
(
ご
)
威光
(
ゐくわう
)
を
171
アフガニスタンの
高原地
(
かうげんち
)
172
浮木
(
うきき
)
ケ
原
(
はら
)
の
此
(
この
)
森
(
もり
)
に
173
俄
(
にはか
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
174
唯事
(
ただごと
)
ならじと
一行
(
いつかう
)
が
175
駒
(
こま
)
を
早
(
はや
)
めてシトシトと
176
ここ
迄
(
まで
)
進
(
すす
)
み
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
177
さも
騒
(
さわ
)
がしき
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
178
今
(
いま
)
は
松
(
まつ
)
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
となり
179
四辺
(
あたり
)
に
人
(
ひと
)
の
影
(
かげ
)
もなし
180
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
181
神
(
かみ
)
の
息吹
(
いぶき
)
に
退
(
やら
)
はれて
182
荒振
(
あらぶ
)
る
神
(
かみ
)
は
逸早
(
いちはや
)
く
183
逃
(
に
)
げ
失
(
う
)
せたるかいぶかしや
184
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
185
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
186
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
187
悪魔
(
あくま
)
の
猛
(
たけ
)
びは
強
(
つよ
)
くとも
188
三五教
(
あななひけう
)
に
仕
(
つか
)
へたる
189
誠
(
まこと
)
を
守
(
まも
)
るわれわれに
190
刃向
(
はむか
)
ふ
敵
(
てき
)
はあるべきぞ
191
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
正
(
ただ
)
しき
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
192
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
生
(
あ
)
れませる
193
珍
(
うづ
)
の
宮居
(
みやゐ
)
ぞ
何者
(
なにもの
)
か
194
恐
(
おそ
)
るる
事
(
こと
)
のあるべきや
195
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
め、いざ
進
(
すす
)
め
196
浮木
(
うきき
)
の
森
(
もり
)
の
麓
(
ふもと
)
まで
197
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
198
御霊
(
みたま
)
幸
(
さちは
)
ひましませよ』
199
と
歌
(
うた
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
母娘
(
おやこ
)
の
憩
(
いこ
)
ふとは
夢
(
ゆめ
)
にも
知
(
し
)
らず
駒
(
こま
)
を
早
(
はや
)
めて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る。
200
国公
(
くにこう
)
は
駒
(
こま
)
をとどめてツカツカと
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
現
(
あら
)
はれ、
201
国公
『ヤア、
202
貴方
(
あなた
)
は』
203
黄金
(
わうごん
)
『シー』
204
国公
(
くにこう
)
『
黄金姫
(
わうごんひめ
)
様
(
さま
)
、
205
もはやお
隠
(
かく
)
しには
及
(
およ
)
びませぬ。
206
此処
(
ここ
)
へ
参
(
まゐ
)
りましたタール、
207
ハム、
208
イール、
209
ヨセフの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
全
(
まつた
)
く
三五教
(
あななひけう
)
に
心
(
こころ
)
の
底
(
そこ
)
より
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
しました
善人
(
ぜんにん
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
210
何卒
(
なにとぞ
)
可愛
(
かあい
)
がつてやつて
下
(
くだ
)
さいませ。
211
重々
(
ぢうぢう
)
の
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
は
私
(
わたし
)
が
代
(
かは
)
つてお
詫
(
わ
)
び
致
(
いた
)
しますから
何卒
(
どうぞ
)
御
(
お
)
許
(
ゆる
)
しを
願
(
ねが
)
ひます』
212
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『そなたは
照国別
(
てるくにわけ
)
のお
供
(
とも
)
に
仕
(
つか
)
へた
国公
(
くにこう
)
さまぢやないか。
213
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
は
如何
(
どう
)
なつたのだ。
214
心
(
こころ
)
もとなし、
215
早
(
はや
)
く
其
(
その
)
お
所在
(
ありか
)
を
知
(
し
)
らしてお
呉
(
く
)
れ』
216
国公
(
くにこう
)
『
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
はタール、
217
ハムの
両人
(
りやうにん
)
、
218
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
の
山道
(
やまみち
)
に
負傷
(
ふしやう
)
を
致
(
いた
)
し
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
たので、
219
照国別
(
てるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
此
(
この
)
国公
(
くにこう
)
に
介抱
(
かいほう
)
を
命
(
めい
)
じおき、
220
サツサと
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
かれました。
221
それより
群
(
むら
)
がる
野馬
(
やば
)
を
引捉
(
ひつとら
)
へ
吾々
(
われわれ
)
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
後
(
あと
)
を
追
(
おひ
)
かけて
此処
(
ここ
)
まで
参
(
まゐ
)
りましたが、
222
まだお
行衛
(
ゆくへ
)
が
判
(
わか
)
らず、
223
ヒヨツとしたら
私
(
わたくし
)
達
(
たち
)
が
先
(
さき
)
になつたかも
知
(
し
)
れませぬ』
224
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『
一足先
(
ひとあしさき
)
へ
出
(
で
)
た
妾
(
わし
)
でさへも、
225
まだここ
迄
(
まで
)
到着
(
たうちやく
)
した
所
(
ところ
)
だから、
226
屹度
(
きつと
)
後
(
あと
)
からおいでになるのだらう。
227
清春山
(
きよはるやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
にバラモン
教
(
けう
)
の
悪神
(
あくがみ
)
共
(
ども
)
が
立籠
(
たてこも
)
り
国人
(
くにびと
)
を
悩
(
なや
)
ますとの
噂
(
うはさ
)
があるから、
228
大方
(
おほかた
)
照国別
(
てるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
はそこへ
御
(
お
)
出
(
いで
)
になつたのだらうよ』
229
国公
(
くにこう
)
『これから
私
(
わたし
)
は
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
母娘
(
おやこ
)
のお
供
(
とも
)
をしてハルナの
都
(
みやこ
)
まで
参
(
まゐ
)
りませう、
230
何卒
(
なにとぞ
)
お
許
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さるまいか』
231
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『ウン』
232
清照姫
(
きよてるひめ
)
『
国公
(
くにこう
)
さま、
233
そんな
勝手
(
かつて
)
な
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
234
吾々
(
われわれ
)
母娘
(
おやこ
)
は
供
(
とも
)
をも
許
(
ゆる
)
されず、
235
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
深
(
ふか
)
き
思召
(
おぼしめし
)
あつてお
使
(
つかひ
)
に
参
(
まゐ
)
る
者
(
もの
)
、
236
其方
(
そなた
)
は
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
のお
供
(
とも
)
に
仕
(
つか
)
ふるものだ。
237
他人
(
ひと
)
の
供人
(
ともびと
)
を
横取
(
よこど
)
りにしたと
云
(
い
)
はれては
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
たたず、
238
又
(
また
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
吾々
(
われわれ
)
として
義務
(
ぎむ
)
が
立
(
た
)
たない。
239
サア
早
(
はや
)
く
国公
(
くにこう
)
さま、
240
清春山
(
きよはるやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
引返
(
ひきかへ
)
し
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
の
危難
(
きなん
)
をお
救
(
すく
)
ひなされ、
241
決
(
けつ
)
して
吾々
(
われわれ
)
母娘
(
おやこ
)
の
後
(
あと
)
へついて
来
(
く
)
る
事
(
こと
)
はなりませぬぞえ』
242
国公
(
くにこう
)
『
照国別
(
てるくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
二人
(
ふたり
)
の
男
(
をとこ
)
をお
伴
(
つ
)
れ
遊
(
あそ
)
ばします
以上
(
いじやう
)
は、
243
国公
(
くにこう
)
一人
(
ひとり
)
居
(
ゐ
)
なくても
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
でせう。
244
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
貴方
(
あなた
)
は
女
(
をんな
)
の
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ、
245
魔神
(
まがみ
)
の
猛
(
たけ
)
び
狂
(
くる
)
ふ
此
(
こ
)
の
荒野
(
あらの
)
ケ
原
(
はら
)
をお
渡
(
わた
)
りなさるのは、
246
何
(
なん
)
とはなしに
案
(
あん
)
じられてなりませぬ。
247
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
が
私
(
わたし
)
を
後
(
あと
)
に
残
(
のこ
)
して
行
(
ゆ
)
かれたのは
貴方
(
あなた
)
のお
供
(
とも
)
をせよとの
謎
(
なぞ
)
であつたかとも
考
(
かんが
)
へられます。
248
何卒
(
どうぞ
)
タルの
港
(
みなと
)
までなりとお
供
(
とも
)
をさせて
下
(
くだ
)
さいませ』
249
清照姫
(
きよてるひめ
)
『
折角
(
せつかく
)
の
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
なれどもこればかりは
平
(
ひら
)
にお
断
(
ことわ
)
り
致
(
いた
)
します』
250
黄金姫
(
わうごんひめ
)
『
国公
(
くにこう
)
さまの
誠心
(
まごころ
)
は
有難
(
ありがた
)
く
受
(
う
)
けまする。
251
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
前
(
まへ
)
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
り
私
(
わたし
)
のお
供
(
とも
)
は
許
(
ゆる
)
しませぬ。
252
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
清春山
(
きよはるやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
へお
越
(
こ
)
しなされ、
253
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
は
敵
(
てき
)
の
計略
(
けいりやく
)
にかかつて
大変
(
たいへん
)
危
(
あやふ
)
い
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
いますぞ。
254
今
(
いま
)
私
(
わたし
)
の
霊眼
(
れいがん
)
に
映
(
えい
)
じました。
255
時
(
とき
)
おくれては
一大事
(
いちだいじ
)
、
256
僅
(
わづ
)
かに
十
(
じふ
)
里
(
り
)
ばかりの
道程
(
みちのり
)
、
257
早
(
はや
)
く
引返
(
ひつかへ
)
しなされよ』
258
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
母娘
(
おやこ
)
二人
(
ふたり
)
は
国公
(
くにこう
)
一行
(
いつかう
)
を
振棄
(
ふりす
)
てて
荒野
(
あれの
)
ケ
原
(
はら
)
をイソイソと
足早
(
あしばや
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
259
国公
(
くにこう
)
はハム、
260
イール、
261
ヨセフ、
262
タールの
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
従
(
したが
)
へ
駒
(
こま
)
の
頭
(
かしら
)
を
並
(
なら
)
べて
元来
(
もとき
)
し
道
(
みち
)
を
一目散
(
いちもくさん
)
に
清春山
(
きよはるやま
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
さして
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
263
野路
(
のぢ
)
を
渉
(
わた
)
る
秋風
(
あきかぜ
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
笛
(
ふえ
)
を
吹
(
ふ
)
き
乍
(
なが
)
ら
遠慮
(
ゑんりよ
)
会釈
(
ゑしやく
)
もなく
森
(
もり
)
の
梢
(
こずゑ
)
を
渡
(
わた
)
り
行
(
ゆ
)
く。
264
(
大正一一・一〇・二八
旧九・九
北村隆光
録)
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【13 浮木の森|第39巻(寅の巻)|霊界物語/rm3913】
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