霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 親子(おやこ)対面(たいめん)〔一〇八一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻 篇:第4篇 浮木の岩窟 よみ(新仮名遣い):うききのがんくつ
章:第16章 親子対面 よみ(新仮名遣い):おやこたいめん 通し章番号:1081
口述日:1922(大正11)年10月28日(旧09月9日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年5月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
バラモン教のポーロは、セームとシャムに命じて宣伝使の応対をさせた。セームとシャムは慇懃に宣伝使たちを出迎え、丁重に帰ってもらおうとするが、照国別は聞かずに岩窟に入ろうとする。
シャムの注進にポーロ自らが出て宣伝使の応対をし、確かに照国別の両親・樫谷彦と樫谷姫がこの岩窟にいることを明かした。
ポーロは下手に出て照国別一行を案内し、岩窟の中の落とし穴にまんまと落とし込んでしまった。バラモン教徒たちは宣伝使たちをやっつけて気が緩み、酒を持ち出しての眼や歌えの大宴会を始めた。
一同がへべれけになって足腰が立たなくなったとき、留守役の一人・ヤッコスは突如、自分は三五教の宣伝使・岩彦であると明かし、照国別たちを助けようとした。
レールは岩彦の足にしがみついて、命乞いをする。そこへキルクがやってきて、三五教の宣伝使がやってきたと注進した。これは国彦がハム、タール、イール、ヨセフを従えてやってきたのであった。
岩彦は自ら国彦一行を迎え入れ、協力して落とし穴にはまっていた照国別たちを助け出した。捕えられていた照国別の両親は、岩彦がひそかに世話をしていたおかげで健全だった。
照国別と菖蒲は、両親と再会を果たした。宣伝使たちは岩窟のバラモン教徒たちの罪をゆるし、照国別は国彦に命じて、ハム、タール、イール、ヨセフとともに、両親と菖蒲をアーメニヤに送らせた。
自らは岩彦とともに、梅公、照公を連れて出立し、フサの国を目指した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-11-22 11:50:14 OBC :rm3916
愛善世界社版:221頁 八幡書店版:第7輯 359頁 修補版: 校定版:232頁 普及版:96頁 初版: ページ備考:
001 セーム、002シヤムの二人(ふたり)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(たづ)(きた)りしと()くより、003ポーロの(めい)()つて岩窟(がんくつ)入口(いりぐち)揉手(もみて)(なが)(こめ)つきバツタのやうに(あたま)(こし)をピヨコピヨコ(かが)め、
004セーム『エーこれはこれは宣伝使(せんでんし)(さま)005よくこそ()入来(じゆらい)(くだ)さいました。006折角(せつかく)遠路(ゑんろ)(ところ)007()(くだ)さつて、008(なん)とも(はや)(おん)(れい)申上(まをしあ)げやうも(ござ)いませぬ。009生憎(あいにく)主人(しゆじん)()不在(るす)で、010大教主(だいけうしゆ)(さま)()命令(めいれい)(ほう)じ、011デカタン高原(かうげん)まで出陣(しゆつぢん)なさいました。012(その)不在中(るすちう)何人(なにびと)たり(とも)013ここへ()れてはならぬとの(きび)しき命令(めいれい)014折角(せつかく)(なが)ら、015どうぞお(かへ)(くだ)さいませ。016なあシヤム、017(おれ)()(こと)(けつ)して(うそ)ぢやあろまい。018セームが佝僂(せむし)になる(ところ)まで(あたま)をピヨコピヨコ、019(こし)をペコペコさせて()(ねがひ)してゐるのだから、020そこはどうぞ宣伝使(せんでんし)雅量(がりやう)(もつ)てお(かへ)(くだ)さらば(まこと)有難(ありがた)(ござ)います。021ヘヽヽヽ(けつ)して(けつ)して悪意(あくい)(まを)すのでは(ござ)いませぬ、022(また)三五教(あななひけう)老夫婦(らうふうふ)(けつ)して(この)岩窟(いはや)(なか)()()めては(ござ)いませぬから、023折角(せつかく)(しら)(くだ)さいましても徒労(とらう)(ござ)います。024トツトと()退却(たいきやく)を、025(ひとへ)(ねが)(たてまつ)ります』
026照国別(てるくにわけ)『イヤ今日(けふ)はどうしても(この)(まま)では(かへ)(こと)出来(でき)ないのだ。027アーメニヤから樫谷彦(かしやひこ)樫谷姫(かしやひめ)といふ二人(ふたり)夫婦(ふうふ)(とら)へられて()てゐる(はず)だ』
028セーム『滅相(めつさう)もないことを仰有(おつしや)いませ。029こんな山奥(やまおく)にアーメニヤなんぞからお()でる物好(ものずき)がどこに(ござ)いませう、030ソリヤ(なに)かのお間違(まちがひ)でせう』
031菖蒲(あやめ)(なん)()はれても、032(わたし)両親(りやうしん)()はねばならぬ。033邪魔(じやま)なさると(かへつ)てお(ため)になりませぬぞえ』
034セーム『ヤア此奴(こいつ)()ごはい談判(だんぱん)だ、035到底(たうてい)(おれ)一力(いちりき)では()きかねる。036オイ、037シヤム、038(おく)()つて(この)(よし)をポーロさまに(はや)注進(ちゆうしん)せぬかい。039そして(いま)何々(なになに)何々(なになに)しておくのだぞ』
040照国別(てるくにわけ)一刻(いつこく)()猶予(いうよ)はならぬ、041(まか)(とほ)るから案内(あんない)(いた)せ』
042セーム『一寸(ちよつと)()つて(くだ)さいませ。043不在(るす)師団長(しだんちやう)のポーロの()意見(いけん)(うかが)つた(うへ)にして(もら)はねば岩窟(がんくつ)侵入罪(しんにふざい)になりますから』
044照国別(てるくにわけ)『ハヽヽヽヽ大変(たいへん)なうろたへ(かた)だな。045(この)様子(やうす)ではキツと(ろく)(こと)ではあるまい。046両親(りやうしん)()(うへ)(あん)じられる。047サア(はや)菖蒲殿(あやめどの)048(おく)(すす)みませう』
049セーム『あゝモシモシ一寸(ちよつと)()つて(くだ)さい、050()夫婦(ふうふ)至極(しごく)()健全(けんぜん)()安泰(あんたい)御座(ござ)(あそ)ばします。051(けつ)して虐待(ぎやくたい)なんかしてはをりませぬ』
052照国別(てるくにわけ)『アハヽヽヽ、053さうだらう。054(ぶと)一疋(いつぴき)(かよ)はないやうな要心(えうじん)堅固(けんご)岩窟内(がんくつない)()保護(ほご)申上(まをしあ)げてゐると()えるワイ。055イヤ()好意(かうい)(あと)から()(れい)(まを)す』
056 (はなし)(かは)つて(おく)一間(ひとま)では今迄(いままで)()ひつぶれてゐた(さけ)(にはか)にさめ、057蒼白(まつさを)(かほ)をして岩窟(がんくつ)()をあけ、058夫婦(ふうふ)引張(ひつぱ)()すやら丼鉢(どんぶりばち)(かか)へて()(まは)るやら、059(だい)乱痴気(らんちき)(さわ)ぎの真最中(まつさいちう)である。060そこへシヤムが()んで()て、061(いき)(はづ)ませながら、
062シャム『タヽヽヽ大変(たいへん)々々(たいへん)063これこれポーロの大将(たいしやう)064レールさま、065どうしたら()からうか、066思案(しあん)()して(くだ)さい』
067(しき)りに()両手(りやうて)でパタパタと(たた)きもがく。
068ポーロ『(なん)だ、069あわただしい(その)(さわ)(かた)070どうしたといふのだ』
071シヤム『()うも()うもあつたものですか、072息子(むすこ)()たのですよ。073ソレあの(むすめ)が、074()うしても()うしても、075()つて(はい)らうと(いた)します』
076ポーロ『()つて(はい)らうと()うて(はい)らうと、077そんな(こと)頓着(とんちやく)ないが、078息子(むすこ)(むすめ)とは(なん)(こと)だ』
079シヤム『あの(おく)(かく)してあつた老夫婦(らうふうふ)(せがれ)(むすめ)がやつて()たのですよ。080カヽ敵討(かたきうち)だと()つて、081数十万(すうじふまん)軍勢(ぐんぜい)引連(ひきつ)れ、082先頭(せんとう)()つて立向(たちむか)ひました』
083ポーロ『()細谷路(ほそたにみち)数十万(すうじふまん)軍勢(ぐんぜい)がどうして()られるものか』
084シヤム『(なん)だか()りませぬが、085随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)白衣(びやくい)軍卒(ぐんそつ)中空(ちうくう)からやつて()ました。086モシモシ大将(たいしやう)087グヅグヅしてゐると岩窟(いはや)退治(たいぢ)(はじ)まります。088(なん)とか用意(ようい)をなされませ』
089ポーロ『エヽ仕方(しかた)がない、090(おれ)一先(ひとま)表口(おもてぐち)立向(たちむか)ひ、091掛合(かけあ)つて()よう』
092()(なが)ら、093レールに(なに)(ささや)きつつ、094表口(おもてぐち)()()し、095叮嚀(ていねい)(こし)(かが)めて、
096ポーロ『(わたし)(この)岩窟(がんくつ)(あづか)つて()りまするポーロと(まを)はした(もの)097何卒(なにとぞ)見知(みし)りおかれまして今後(こんご)()贔屓(ひいき)にお(ねがひ)いたします。098サアどうぞ、099()かけ(どほり)茅屋(ばうをく)なれど、100()遠慮(ゑんりよ)なく、101トツトとお(はい)(くだ)さいませ』
102照国別(てるくにわけ)(たう)岩窟(がんくつ)(ない)樫谷彦(かしやひこ)樫谷姫(かしやひめ)夫婦(ふうふ)(かた)はお()えになつてをるか』
103ポーロ『ハイお()えになつて()ります。104それはそれは()機嫌(きげん)(うるは)しく、105あなた(がた)のお()でを、106欣喜(きんき)雀躍(じやくやく)(てい)でお()ちかねで(ござ)います。107サア(はや)くお(とほ)りあつて、108()対面(たいめん)(ほど)をお(ねがひ)(いた)します』
109照国別(てるくにわけ)(なに)()つても不案内(ふあんない)なる岩窟(がんくつ)110如何(いか)なる計略(けいりやく)(わな)(おちい)らむも(ばか)(がた)い、111()苦労(くらう)ながら、112(その)夫婦(ふうふ)(かた)をここ(まで)案内(あんない)して()てくれ。113吾々(われわれ)此処(ここ)にて()対面(たいめん)申上(まをしあ)ぐるから』
114ポーロ『それも御尤(ごもつと)(なが)ら、115(この)(ごろ)(おん)大将(たいしやう)大足別(おほだるわけ)(さま)が、116ハルナの(みやこ)より、117大教主(だいけうしゆ)のお()しにより、118数万(すうまん)軍卒(ぐんそつ)引率(いんそつ)して、119デカタン高原(かうげん)出陣(しゆつぢん)された()不在中(るすちう)(ゆゑ)120(のこ)りの人間(にんげん)(わづ)かに二十(にじふ)有余(いうよ)(にん)121(あさ)から(ばん)まで留守事(るすごと)(さけ)()み、122他愛(たあい)なく()(つぶ)れて()りますから、123(けつ)して計略(けいりやく)などは(いた)して御座(ござ)いませぬ。124どうぞお(はい)(くだ)さいませ』
125菖蒲(あやめ)『モシ兄上(あにうへ)(さま)126ウツカリ(すす)んではなりませぬぞ。127コレコレここの番人(ばんにん)とやら、128(はや)(わらは)父母(ふぼ)をここへお()(まを)して()るがよい。129グヅグヅ(いた)すと、130(まへ)さまたちの()(ため)にはなりますまいぞや』
131 ポーロは(あたま)をかき(なが)ら、
132ポーロ『エー()(せつ)御尤(ごもつと)もながら()夫婦(ふうふ)持病(ぢびやう)(おこ)り、133脚気(かつけ)(おこ)つて、134(あし)頭痛(づつう)がすると仰有(おつしや)り、135チヨツとも(うご)けませぬ。136(また)(おく)さまの(はう)産後(さんご)()(みち)とか、137()(みち)とかが()()して、138ウンウン キヤツキヤツ(うな)つてばかり、139身動(みうご)きもならぬ()不自由(ふじゆう)さ、140どうぞあなたの(はう)から(すす)んで()面会(めんくわい)(ねが)ひたう(ぞん)じます』
141照国別(てるくにわけ)『そんなら仕方(しかた)がない、142案内(あんない)(いた)せ』
143ポーロ『サア()うお()でなさいませ』
144()(なが)(さき)()つ。145一行(いつかう)()(にん)(あと)(したが)ひ、146あたりに(こころ)(くば)りつつ、147(おく)(おく)へと(すす)()く。148(たちま)ちカラクリ仕掛(じかけ)(いた)()はクレンと引繰(ひつくり)(かへ)り、149()(にん)はドツと一度(いちど)(くら)陥穽(おとしあな)()()んで(しま)つた。150ポーロはしすましたりと、151(かへ)()(ぢやう)(おろ)し、152(おも)(いし)(ふた)()つのせて、153ホツと一息(ひといき)(むね)()でおろし、
154ポーロ『オイ(みな)(やつ)155モウ安心(あんしん)だ。156()をおちつけよ。157彼奴(あいつ)大足別(おほだるわけ)(さま)恋慕(れんぼ)して(ござ)つた菖蒲(あやめ)といふナイスだ。158そして一人(ひとり)(あに)照国別(てるくにわけ)といふ三五教(あななひけう)有名(いうめい)豪傑(がうけつ)宣伝使(せんでんし)だ。159彼奴(あいつ)言霊(ことたま)にかかつたが最後(さいご)160手足(てあし)(なに)もビリビリとしびれて(しま)無双(むさう)神力(しんりき)がある。161(しか)(なが)らかうやつて奈落(ならく)(そこ)へおとして()けば、162最早(もはや)(この)岩窟内(がんくつない)無事(ぶじ)安穏(あんをん)だ。163(ひと)(いはひ)二次会(にじくわい)(ひら)かうぢやないか』
164とニコニコとして(わめ)()てる。165レール、166シヤム、167ハールは嬉々(きき)として(あつ)まり(きた)り、
168レール『流石(さすが)はポーロさま、169留守(るす)師団長(しだんちやう)(だけ)資格(しかく)十分(じふぶん)具備(ぐび)してゐる。170ヤア天晴(あつぱ)天晴(あつぱ)れかくなる(うへ)(なに)をか(おそ)れむ、171()んで()んで、172()(たふ)し、173(じや)()になるか、174(とら)になる(ところ)まで、175神酒(みき)をあがらうかい』
176と、177(また)もや酒徳利(さけどつくり)穴倉(あなぐら)より(はこ)()し、178一生(いつしやう)懸命(けんめい)(うた)(うた)つて、179悪事(あくじ)災難(さいなん)(のが)れたる祝宴(しゆくえん)()()した。
180 一旦(いつたん)(おどろ)きの(あま)り、181さめかけてゐた(さけ)(ふたたび)まはり()した。182(その)(うへ)(また)もやガブガブとやつたものだから(たま)らない。183何奴(どいつ)此奴(こいつ)もグタグタになつて無我(むが)夢中(むちう)(くだ)らぬ(こと)喋舌(しやべ)()した。
184レール『コレコレポーロさま、185随分(ずゐぶん)ポーロい(こと)出来(でき)たぢやないか、186(さけ)鱈腹(たらふく)()めるなり、187(ぢぢ)(ばば)アの(かたき)()ちに()たと(おも)うた息子(むすこ)(むすめ)奈落(ならく)(そこ)(おと)()んだなり、188最早(もはや)(あめ)(した)(おそ)るべき(もの)一人(ひとり)もなくなつて(しま)つた。189サアこれから(ぢぢ)(ばば)アをここへ()()して()てお(しやく)をさそうかい。190オイ(みな)(やつ)191(ばば)アでも(をんな)だぞ、192(をとこ)ばかりの(この)岩窟(いはや)193滅多(めつた)不足(ふそく)はあろまいがな、194アーン』
195シヤム『(なん)(をんな)だつて、196(ばば)アでははづまぬぢやないか。197(おれ)(いま)()菖蒲(あやめ)とかさつきとかいふナイスを引張(ひつぱ)()して、198(しやく)をさしたら如何(どう)だらうかと(おも)つてるのだ』
199レール『馬鹿(ばか)()ふな、200あんな(やつ)引張(ひつぱ)()して()ようものなら、201(まる)爆裂弾(ばくれつだん)()げたやうなものだ。202(おそ)ろしい代物(しろもの)だぞ。203オイ、204ヤツコス、205(なに)をグヅグヅしてるのだ。206(ぢぢ)(ばば)アをここへ引張(ひつぱ)つて()ぬかい』
207ヤツコス『(やかま)()ふない、208あんな目汁(めしる)(みづ)ばな()れてる(きたな)爺婆(ぢぢばば)をこんな(ところ)()れて()ちや、209(さけ)()()がさめて(しま)うぞ。210それよりも(おれ)(ひと)(しな)よう(をど)つて()せてやるからそれで辛抱(しんばう)せい』
211と、212(はや)くも手拭(てぬぐひ)(ねえ)さんかぶりにして、213一寸(ちよつと)(すそ)をからげ、214()(しり)をふりピシヤピシヤと時々(ときどき)()(たた)き、
215ヤッコス(わたし)在所(ざいしよ)はコーカス(ざん)
216(ふもと)(ふもと)のその(ふもと)
217ヤツトコセー ドツコイシヨ
218樫谷(かしや)(ひこ)樫谷姫(かしやひめ)
219ウラルの(かみ)()取次(とりつぎ)
220こんな牢屋(らうや)()()まれ
221ヨーイトサー ヨーイトサー
222(あさ)から(ばん)まで(むすめ)をくれいと()められる
223どうして(むすめ)がやられようか
224鬼雲彦(おにくもひこ)眷族(けんぞく)
225ドツコイシヨー ドツコイシヨー』
226レール『オイ貴様(きさま)227(ひと)代理(だいり)をするのか、228しやうもない、229モツと()()いた(こと)(うた)はぬかい』
230ヤツコス『老人(らうじん)夫婦(ふうふ)守護神(しゆごじん)(うつ)つて(うた)つてゐるのだ。231サアこれから、232(また)(ひと)(うつ)られてやらうかな。233今度(こんど)大足別(おほだるわけ)ぢや、234ウツフヽヽヽ、
235鬼雲彦(おにくもひこ)大将(たいしやう)
236イホの(みやこ)()ひまくられて
237ヤツトコサー ヤツトコサー
238メソポタミヤの顕恩郷(けんおんきやう)
239ヤツとお(しり)をすゑた(とき)
240ヤートサー ヤートサー
241三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
242肝太玉(きもふとだま)神司(かむづかさ)
243家来(けらい)をつれてやつて()
244(おほ)きな目玉(めだま)をむきよつた
245ドツコイシヨー ドツコイシヨー
246鬼雲彦(おにくもひこ)大将(たいしやう)
247大蛇(をろち)姿(すがた)(あら)はして
248一目散(いちもくさん)自転倒(おのころ)
249大江(おほえ)(やま)とつ(ぱし)
250(また)もやここを()ひまくられて
251(いのち)カラガラ フサの(くに)
252()(かへ)りたる弱虫(よわむし)
253時世(ときよ)時節(じせつ)(ちから)にて
254(ふたた)大黒主(おほくろぬし)となり
255()ぶりを()かしてゐた(とこ)
256()をふり(あたま)()(なが)
257追従(つゐしよう)タラダラお(ひげ)(ちり)
258(はら)つてのけた利巧者(りかうもの)
259ヨーイトサー ヨーイトサー
260それが(たれ)やと(たづ)ねたら
261清春山(きよはるやま)岩窟(がんくつ)
262(とき)めき(たま)(おん)大将(たいしやう)
263大足別(おほだるわけ)醜神(しこがみ)
264オツトドツコイ コラしまうた
265大足別(おほだるわけ)神司(かむづかさ)
266大樽(おほたる)あけて(かん)をして
267何奴(どいつ)此奴(こいつ)()むがよい
268()めよ()()(やま)()
269(いへ)(くら)屋敷(やしき)(いた)るまで
270()んで(なら)べたフラスコの
271徳利(とつくり)トンのトントコトン
272面白(おもしろ)うなつておいでたな
273(おれ)(さけ)()まないが
274けたいな(にほ)ひで()うて()
275レール ポーロの両人(りやうにん)
276(たづ)ねてうせた神司(かむづかさ)
277照国別(てるくにわけ)といふ(やつ)
278(きも)(つぶ)して陥穽(おとしあな)
279卑怯(ひけふ)未練(みれん)()(なが)
280(うま)くやつたる(おん)手柄(てがら)
281天地(てんち)(かみ)()照覧(せうらん)
282梵天王(ぼんてんわう)自在天(じざいてん)
283大国彦(おほくにひこ)(かみ)(さま)
284さぞやさぞさぞ(よろこ)んで
285()いて(ござ)るに(ちがひ)ない
286()いたり(わら)うたり(おこ)つたり
287(まへ)一体(いつたい)(さけ)(くら)うて
288(なに)不足(ふそく)(おこ)るのか
289()いて明石(あかし)浜千鳥(はまちどり)
290()いた(ついで)可哀相(かあいさう)
291さぞ今頃(いまごろ)菖蒲子(あやめこ)
292奈落(ならく)(そこ)でベソベソと
293()いて(ござ)るに(ちがひ)ない
294それを(おも)へば(おれ)だとて
295チツとは()かずにや()られない
296ウントコドツコイ ドツコイシヨ
297()めよ()()(さわ)げよ(さわ)
298一寸先(いつすんさき)(しん)(やみ)
299(あと)から(つき)()るけれど
300(その)(つき)こそは(うん)つき
301うろつき間誤(まご)つきウソつき
302ヤクザばかりが()()うて
303バラモン(けう)(ひら)くとは
304(あき)れて(もの)()はれない
305ウントコドツコイ ドツコイシヨー
306照国別(てるくにわけ)菖蒲子(あやめこ)
307(うま)くおとして(よろこ)んで
308(さけ)にくらひ()()(うち)
309剛力(がうりき)無双(むさう)宣伝使(せんでんし)
310(また)もや(あら)はれ()たならば
311何奴(どいつ)此奴(こいつ)もうろたへて
312一泡(ひとあわ)()くに(ちがひ)ない
313あゝ面白(おもしろ)面白(おもしろ)
314(おれ)高見(たかみ)見物(けんぶつ)
315大足別(おほだるわけ)腰抜(こしぬけ)
316さぞ今頃(いまごろ)(うま)()
317デカタン高原(かうげん)トボトボと
318数多(あまた)軍勢(ぐんぜい)(ひき)つれて
319冥途(めいど)(たび)とは()らずして
320(ある)いて()るか(なさけ)ない
321とは()ふものの(おれ)(たち)
322チツとも(くる)しうない(ほど)
323()れの乾児(こぶん)(えら)まれた
324レール ポーロやシヤム ハール
325(その)(ほか)(もも)のガラクタが
326やりをる(こと)(つら)にくい
327ホンに(あき)れた(やつ)ばかり
328(かみ)布教(ふけう)(たて)となし
329(その)内実(ないじつ)泥坊(どろばう)
330本職(ほんしよく)とする(やつ)ばかり
331(この)岩窟(がんくつ)(かみ)(さま)
332聖場(せいぢやう)どころか(おほかみ)
333獅子(しし)(くま)大蛇(をろち)跳梁場(てうりやうば)
334(はや)(たふと)(かみ)()
335此奴(こいつ)一同(いちどう)(ことごと)
336(たひら)げくれればよいものに
337あゝ(かな)はむからたまらない
338かんかんチキチン カンチキチン
339ドツコイドツコイドツコイシヨー
340ホンに(こま)つた(やつ)ばかり
341(かほ)()てさへも(はら)()つ』
342レール『コラコラ()しからぬ(こと)(ほざ)(やつ)だ。343貴様(きさま)三五教(あななひけう)間者(まはしもの)だらう、344コーカス(ざん)のヤツコスの子孫(しそん)だなんて(ぬか)してけつかつたが、345貴様(きさま)はウラル(けう)をすてて、346とうとう三五教(あななひけう)沈没(ちんぼつ)してケツカルのに(ちがひ)ない。347サア有体(ありてい)白状(はくじやう)せい、348(かはづ)(くち)からだ、349大黒主(おほくろぬし)(さま)大足別(おほだるわけ)大将(たいしやう)悪口(わるくち)ばかり(ほざ)きやがつたぢやないか』
350ヤツコス『馬鹿(ばか)だなア、351(おれ)素性(すじやう)今迄(いままで)()らなかつたのか。352(おれ)三五教(あななひけう)岩彦(いはひこ)といふ宣伝使(せんでんし)だ。353(かみ)(さま)内命(ないめい)()つて貴様(きさま)()行動(かうどう)調査(てうさ)してゐるのを()らぬのかい。354サア(なん)ぼなつともがけ、355アタいやらしい、356ドツサリ(ぬす)(ざけ)(くら)()うて、357脛腰(すねこし)()たぬ(ざま)して、358如何(どう)して(おれ)手向(たむか)(こと)出来(でき)ようか。359(まる)(ゐざり)病院(びやうゐん)()たやうなものだ。360サアこれから(この)岩彦(いはひこ)さまが、361(この)出刃(でば)庖丁(ぼうちやう)で、362(おや)ゆづりの(かはごろも)一人(ひとり)(のこ)らず()いでやらう、363覚悟(かくご)(いた)せ。364アハヽヽヽ』
365出刃(でば)庖丁(ぼうちやう)をグツと(にぎ)つてレールの(まへ)()()した。366レールは()げようとすれ(ども)367(あま)りの泥酔(でいすゐ)(くち)ばかり達者(たつしや)で、368手足(てあし)自由(じいう)(うしな)つてゐた。
369レール『オイ、370ポーロ、371シヤム、372ハール、373(なに)してゐるのだ。374(この)ヤツコスを貴様(きさま)()()つて(たた)(ころ)して(しま)へ』
375 ポーロ、376ヘベレケになつて、
377ポーロ『オイ、378レール、379貴様(きさま)のいふこた、380一体(いつたい)381一寸(ちよつと)(わか)らぬぢやないか。382(ころ)すとか(ころ)さぬとかぬかして()るが、383あゝしておけば()(にん)(やつ)ア、384そんなに(ほね)()らなくても、385ひとり木乃伊(みいら)になつて(しま)ふワ。386マア(さけ)でもゆつくり()め、387(おれ)やモウ一足(ひとあし)()(こと)出来(でき)やしないワ、388アーア(くる)しい、389(さけ)()(やつ)ア、390()まれる(とき)にや(うま)(あぢ)をしてゐやがるが、391腹中(はらんなか)這入(はい)つてから(さかん)活動(くわつどう)しやがるとみえて、392()うにも()うにも(くるし)くて仕方(しかた)がない。393ゲー、394ガラガラ ガラガラ、395ウツプー』
396レール『エヽ何奴(どいつ)此奴(こいつ)も、397(よひ)どればかりぢやなア。398さうぢやから(さけ)身知(みし)らずに(くら)ふなというて()かしてあるのだ』
399シヤム『オイ、400レール、401偉相(えらさう)()ふない、402(まへ)だつて、403脛腰(すねこし)()たぬとこまで()うてゐるぢやないか』
404レール『(おれ)(おれ)特別(とくべつ)だ。405(おれ)真似(まね)をすると()(こと)があるものかい。406アーン、407コレコレお()けのヤツコスさま、408そんな出刃(でば)のやうな(あぶな)いものをふりまはさずに(はや)陥穽(おとしあな)()をあけ、409(はや)()(にん)宣伝使(せんでんし)(たす)けぬかい。410そして(おれ)(たち)代表者(だいへうしや)となつて、411()無礼(ぶれい)をお()びしてくれないか。412ナア、413イワイワ岩彦(いはひこ)宣伝使(せんでんし)414(まへ)中々(なかなか)ぬかりのない(をとこ)だ。415(おれ)もカンチンした、416流石(さすが)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)だワイ。417アーン』
418ヤツコス『オヽ貴様(きさま)のいふ(とほ)り、419(はや)宣伝使(せんでんし)(さま)をお(たす)(いた)さねばならぬ。420シツカリ(かほ)()なかつたが、421(なん)でも梅彦(うめひこ)によく()()つたやうだ。422ドレこれから()(にん)(すく)ひあげて、423貴様(きさま)()一同(いちどう)(その)(あと)へほり()んでやらうか。424此奴(こいつ)面白(おもしろ)い』
425立上(たちあが)らうとするのを、426レールは矢庭(やには)にヤツコスの(あし)にくらひつき、
427レール(おれ)はレール()うたのだから、428寝鳥(ねとり)(くび)()めるやうな(こと)をやられちや(うか)()がないワ。429マアマア(ひと)(なべ)()(なか)だから、430(その)(よし)みで(おれ)(だけ)免除(めんぢよ)してくれ。431(その)(かは)りにポーロ、432シヤム、433ハール、434エルマ、435エム(など)一寸(ちよつと)遠慮(ゑんりよ)いらぬから、436ドシドシと()()んでくれ。437モウ()うなると(わが)()大事(だいじ)ぢや、438(ひと)()なうが(たふ)れやうが、439(われ)さへ()けらよい時節(じせつ)だ。440コレ(だけ)道理(だうり)()けて(たの)むのにお(まへ)()いてくれぬのか。441アーン』
442 ()かる(ところ)へキルクは(あわただ)しくやつて()た。
443キルク『オイオイポーロ、444三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)がタール、445ハム、446イール、447ヨセフを(とも)としてやつて()ました。448如何(どう)(いた)しませうかな』
449ポーロ『ナニ、450(また)宣伝使(せんでんし)がやつて()た? そしてハムの兄哥(あにき)()るといふのか、451ソラ洒落(しやれ)てる、452流石(さすが)はハムだ。453(うま)引張(ひつぱ)()んで()やがつたな』
454キルク『イエイエ滅相(めつさう)もない。455ハム、456タール、457イール、458ヨセフはスツカリ三五教(あななひけう)味方(みかた)をして、459ここへやつて()よつたのだ』
460ポーロ『ハハー彼奴(あいつ)鬼熊別(おにくまわけ)さまの子分(こぶん)だけれど、461(おな)(をしへ)だと(おも)つて、462(おれ)(たち)手柄(てがら)をさそうと()れて()たのだらう。463本当(ほんたう)()()いた(やつ)だ』
464ヤツコス『ナニ、465三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()たか、466其奴(そいつ)面白(おもしろ)い、467何奴(どいつ)此奴(こいつ)一人(ひとり)(のこ)らず()ひつぶれて()やがる、468(けつ)して老人(らうじん)夫婦(ふうふ)(たい)後顧(こうこ)(うれ)ひがないから、469(おれ)(ひと)出迎(でむか)へに()()う』
470と、471岩戸(いはと)入口(いりぐち)(はし)()で、
472ヤッコス『これはこれは三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)(さま)473()(ぞん)じませぬが、474マア(おく)へお(はい)(くだ)さい。475照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)(いま)陥穽(おとしあな)へおとされて(こま)つてゐる(ところ)です。476サア(はや)飛込(とびこ)んで岩窟(いはや)征伐(せいばつ)をして(くだ)さい。477吾々(われわれ)もお手伝(てつだ)ひを(いた)しませう』
478国公(くにこう)『ハテ、479合点(がつてん)のいかぬ(こと)()ふぢやないか、480(まへ)はバラモン(けう)眷族(けんぞく)だらう』
481ヤツコス『(じつ)(ところ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)岩彦(いはひこの)(みこと)だ。482大神(おほかみ)(さま)内命(ないめい)()つて、483(この)岩窟(がんくつ)信者(しんじや)()けこみ、484今迄(いままで)(とき)()つてゐたのだ。485(まへ)もまだ新米(しんまい)()えるが、486ナーニ(あん)じる(こと)はない。487トツトと這入(はい)つてくれ、488随分(ずゐぶん)面白(おもしろ)(こと)(はじ)まつてゐるから』
489鷹揚(おうやう)()(はな)ち、490ニコニコとして(おく)()る。491国公(くにこう)合点(がつてん)()かず、492()(にん)(したが)奥深(おくふか)(すす)()り、493()ひどれの姿(すがた)()て、494(かほ)をしかめ、
495国公『アヽいやな(にほひ)がするぢやないか、496(なん)だムサ(くる)しい、497そこら(ぢう)店出(みせだ)しをしよつて、498オイ(なに)芳香水(はうかうすゐ)がないか、499イヤ防臭液(ばうしうえき)でもいい、500チトふりかけてくれ』
501岩彦(いはひこ)『それは()(かく)502照国別(てるくにわけ)(ほか)(さん)(にん)(すく)()げねばならぬ。503そんな末梢(まつせう)(てき)問題(もんだい)はどうでもいい、504中々(なかなか)()(おも)たくて(おれ)一人(ひとり)では如何(いかん)ともする(こと)出来(でき)ない。505ヤイ、506一同(いちどう)連中(れんちう)さま、507(おれ)(ちから)()してくれ、508ここだ(この)(まる)(あな)一人(ひとり)づつ(ゆび)突込(つつこ)んでグイと引上(ひきあ)げてくれ』
509 国公(くにこう)は『ヨシ()た』と()ひながら(ろく)(にん)(ちから)(あは)せて、510非常(ひじやう)(おも)たい(いた)()()きあけた。511(なか)には()(にん)男女(だんぢよ)一生(いつしやう)懸命(けんめい)天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)してゐた。512国公(くにこう)(あな)(のぞ)いて、
513国公『ヤア照国別(てるくにわけ)宣伝使(せんでんし)(さま)514(あぶな)(ところ)でありました。515黄金姫(わうごんひめ)(さま)516清照姫(きよてるひめ)(さま)命令(めいれい)()つて、517あなた(がた)をお(たす)けに(まゐ)りました』
518照国別(てるくにわけ)『ヤアそれは()苦労(くらう)だつた、519曲津(まがつ)(かみ)()520とうとうこんな(ところ)へおとしよつて流石(さすが)(おれ)如何(どう)なる(こと)かと、521(いささ)心配(しんぱい)してゐた。522()つべき(もの)家来(けらい)なりけりだ。523(はや)縄梯子(なはばしご)でもおろしてくれないか』
524 岩彦(いはひこ)何処(いづこ)よりか縄梯子(なはばしご)持来(もちきた)り、525バラリとかけ()ろした。526照国別(てるくにわけ)(はじ)め、527菖蒲(あやめ)528照公(てるこう)529梅公(うめこう)(ましら)(ごと)縄梯子(なはばしご)(つた)うてかけ(のぼ)り、530国公(くにこう)(まへ)(くび)一寸(ちよつと)()げ、
531『ヤア有難(ありがた)う』
532挨拶(あいさつ)する。533岩彦(いはひこ)照国別(てるくにわけ)(せな)(ふた)()つポンポンと(たた)き、
534岩彦『ヤア梅彦(うめひこ)535(ひさ)(ぶり)だつたねい、536こんな(ところ)()はうとは(ゆめ)にも(おも)はなかつたよ』
537照国別(てるくにわけ)『ヨーお(まへ)岩彦(いはひこ)だつたか、538(なん)不思議(ふしぎ)(ところ)()うたものだ。539(しか)老人(らうじん)夫婦(ふうふ)はどうしてゐるか、540()かしてくれ』
541岩彦(いはひこ)心配(しんぱい)すな、542(おれ)がいつもかくれ(しの)んで十分(じふぶん)()馳走(ちそう)(あた)へ、543大切(たいせつ)(まも)つてゐたから、544二人(ふたり)(とも)至極(しごく)健全(けんぜん)だ。545()けばお(まへ)両親(りやうしん)だつたさうだねい』
546照国別(てるくにわけ)両親(りやうしん)はどこにゐられるか、547案内(あんない)してくれないか』
548岩彦(いはひこ)『ヨシ(おれ)()いて()い、549陥穽(おとしあな)はモウこれ(だけ)だ』
550()ひつつ、551牢屋(らうや)(まへ)(みちび)いた。552()れば牢獄(らうごく)()はパツと(ひら)いてある。553照国別(てるくにわけ)がここへ()(とき)にシヤムの(やつ)554(おどろ)いて()()けておいたからである。555されど老人(らうじん)夫婦(ふうふ)仮令(たとへ)(この)牢獄(ひとや)()(ところ)で、556ヤツパリ岩窟(がんくつ)(なか)だ、557どんな()()はされるか()れないと、558小隅(こすみ)夫婦(ふうふ)抱合(だきあ)つて、559(ふる)うてゐた。
560 照国別(てるくにわけ)(こゑ)をくもらせ、
561照国別『モシお(とう)さま、562()アさま、563(わたし)梅彦(うめひこ)御座(ござ)います、564(いもうと)菖蒲(あやめ)もここに(まゐ)つて()ります。565どうぞ()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
566 (この)(こゑ)()くより老人(らうじん)夫婦(ふうふ)牢獄(ひとや)()()で、567樫谷彦(かしやひこ)菖蒲(あやめ)樫谷姫(かしやひめ)照国別(てるくにわけ)(だき)つき、568(うれ)(なみだ)にかきくれ、569(しば)しは無言(むごん)(まく)をつづけて、570(あつ)(なみだ)(たき)(ごと)くに(なが)すのみなり。
571 これよりポーロ、572レールを(はじ)一同(いちどう)(つみ)(ゆる)し、573照国別(てるくにわけ)両親(りやうしん)(はじ)め、574(いもうと)菖蒲(あやめ)国公(くにこう)(まも)らせ、575タール、576イール、577ハム、578ヨセフも前後(あとさき)(まも)つて、579アーメニヤの故郷(こきやう)(かへ)らしめ、580自分(じぶん)大神(おほかみ)使命(しめい)(はた)すべく、581照公(てるこう)582梅公(うめこう)(および)岩彦(いはひこ)(ともな)ひ、583岩窟(いはや)(あと)にフサの(くに)をさして、584宣伝歌(せんでんか)(うた)ひつつ、585(いさ)(すす)んで()でて()く。586惟神(かむながら)(たま)幸倍(ちはへ)坐世(ませ)
587大正一一・一〇・二八 旧九・九 松村真澄録)
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