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第66巻(巳の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第40巻(卯の巻)
序文に代へて
緒言
総説
第1篇 恋雲魔風
01 大雲山
〔1085〕
02 出陣
〔1086〕
03 落橋
〔1087〕
04 珍客
〔1088〕
05 忍ぶ恋
〔1089〕
第2篇 寒梅照国
06 仁愛の真相
〔1090〕
07 文珠
〔1091〕
08 使者
〔1092〕
09 雁使
〔1093〕
第3篇 霊魂の遊行
10 衝突
〔1094〕
11 三途館
〔1095〕
12 心の反映
〔1096〕
13 試の果実
〔1097〕
14 空川
〔1098〕
第4篇 関風沼月
15 氷嚢
〔1099〕
16 春駒
〔1100〕
17 天幽窟
〔1101〕
18 沼の月
〔1102〕
19 月会
〔1103〕
20 入那の森
〔1104〕
余白歌
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第二章
出陣
(
しゆつぢん
)
〔一〇八六〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
篇:
第1篇 恋雲魔風
よみ(新仮名遣い):
れんうんまふう
章:
第2章 出陣
よみ(新仮名遣い):
しゅつじん
通し章番号:
1086
口述日:
1922(大正11)年11月01日(旧09月13日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
出陣の用意が整い、幹部たちは見送りをなしたあとに本城の奥殿にて簡単な酒宴を催した。幹部たちが帰途に着いた。夜は深々と更け、夜嵐が吹きすさぶ丑満のころ、大黒主は石生能姫と共に来し方行く末を語らいあっていた。
大黒主が弱気になり、早く息子に位を譲って隠居したいとしょげ返ったのに対し、石生能姫は笑って活を入れ、また本妻の鬼雲姫を呼び戻してともに神業に参加すべきだと意見した。
大黒主は、本妻を追い出したのも、憎い鬼熊別を再び召し出したのも、石生能姫を思い言い分を立てたい一心からだと弁解する。
石生能姫は、鬼雲姫だけでなく鬼熊別も擁護し、両者ともにバラモン教の繁栄には欠かせない人材だと鬼雲彦に忠言した。そして、鬼雲彦があくまで鬼熊別を疑うのならば、自分自身が鬼熊別を訪ね、その心中を見定めて来ると宣言した。
鬼雲彦もついに折れて、石生能姫の鬼熊別邸訪問をゆるし、二人は寝に着いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-11-26 12:10:47
OBC :
rm4002
愛善世界社版:
24頁
八幡書店版:
第7輯 427頁
修補版:
校定版:
25頁
普及版:
11頁
初版:
ページ備考:
001
バラモン
教
(
けう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
002
鬼春別
(
おにはるわけ
)
は
大教主
(
だいけうしゆ
)
003
大黒主
(
おほくろぬし
)
や
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
004
二人
(
ふたり
)
の
旨
(
むね
)
を
奉戴
(
ほうたい
)
し
005
片彦
(
かたひこ
)
、ランチ
二将軍
(
にしやうぐん
)
006
左右
(
さいう
)
の
翼
(
よく
)
となしながら
007
三千
(
さんぜん
)
余
(
よ
)
騎
(
き
)
に
将
(
しやう
)
として
008
ハルナの
都
(
みやこ
)
を
出発
(
しゆつぱつ
)
し
009
陣鐘
(
ぢんがね
)
太鼓
(
たいこ
)
を
打
(
う
)
ちながら
010
法螺貝
(
ほらがひ
)
ブウブウ
吹
(
ふ
)
きたてて
011
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
三五教
(
あななひけう
)
012
イソの
館
(
やかた
)
へ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
013
其
(
その
)
勢
(
いきほ
)
ひの
勇
(
いさ
)
ましさ
014
鬼神
(
きしん
)
も
肝
(
きも
)
を
挫
(
ひし
)
がれて
015
絶
(
た
)
え
入
(
い
)
るばかり
思
(
おも
)
はれぬ
016
軍
(
いくさ
)
の
司
(
つかさ
)
と
仕
(
つか
)
へたる
017
大足別
(
おほだるわけ
)
も
同様
(
どうやう
)
に
018
釘彦
(
くぎひこ
)
、エールの
二将軍
(
にしやうぐん
)
019
三千
(
さんぜん
)
余
(
よ
)
騎
(
き
)
に
将
(
しやう
)
として
020
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
とウラル
教
(
けう
)
021
立籠
(
たてこも
)
りたるカルマタの
022
根城
(
ねじろ
)
をさして
攻
(
せ
)
めて
行
(
ゆ
)
く
023
何
(
いづ
)
れ
劣
(
おと
)
らぬ
勇士
(
ゆうし
)
と
勇士
(
ゆうし
)
024
山野
(
さんや
)
の
草木
(
くさき
)
も
自
(
おのづか
)
ら
025
靡
(
なび
)
き
伏
(
ふ
)
しつつ
虎
(
とら
)
熊
(
くま
)
や
026
獅子
(
しし
)
狼
(
おほかみ
)
もおしなべて
027
戦
(
をのの
)
き
逃
(
に
)
ぐる
思
(
おも
)
ひなり
028
実
(
げ
)
に
勇
(
いさ
)
ましき
進軍
(
しんぐん
)
の
029
駒
(
こま
)
の
嘶
(
いなな
)
き
轡
(
くつわ
)
の
音
(
おと
)
030
蹄
(
ひづめ
)
の
音
(
おと
)
も
戞々
(
かつかつ
)
と
031
鬨
(
とき
)
を
作
(
つく
)
つて
攻
(
せ
)
めて
行
(
ゆ
)
く
032
実
(
げ
)
に
勇
(
いさ
)
ましき
次第
(
しだい
)
なり。
033
出陣
(
しゆつぢん
)
の
用意
(
ようい
)
は
急速
(
きふそく
)
に
整
(
ととの
)
うた。
034
大黒主
(
おほくろぬし
)
、
035
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
、
036
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
、
037
雲依別
(
くもよりわけ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
幹部
(
かんぶ
)
は
出陣
(
しゆつぢん
)
を
見送
(
みおく
)
り
成功
(
せいこう
)
を
祝
(
しゆく
)
し、
038
終
(
をは
)
つてハルナの
本城
(
ほんじやう
)
の
奥殿
(
おくでん
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り
此処
(
ここ
)
に
簡単
(
かんたん
)
なる
酒宴
(
しゆえん
)
を
催
(
もよほ
)
し、
039
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
一先
(
ひとま
)
づ
吾
(
わが
)
館
(
やかた
)
へ
立帰
(
たちかへ
)
る
事
(
こと
)
となつた。
040
雲依別
(
くもよりわけ
)
も
亦
(
また
)
其
(
その
)
日
(
ひ
)
は
己
(
おの
)
が
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
り、
041
神前
(
しんぜん
)
に
戦勝
(
せんしよう
)
祈願
(
きぐわん
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏
(
そう
)
し
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
いた。
042
夜
(
よ
)
は
深々
(
しんしん
)
と
更
(
ふ
)
け
渡
(
わた
)
り、
043
咫尺
(
しせき
)
暗澹
(
あんたん
)
として
閑寂
(
かんじやく
)
な
気
(
き
)
に
包
(
つつ
)
まれ、
044
夜嵐
(
よあらし
)
吹
(
ふ
)
き
荒
(
すさ
)
ぶ
丑満
(
うしみつ
)
の
頃
(
ころ
)
迄
(
まで
)
、
045
大黒主
(
おほくろぬし
)
は
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
と
共
(
とも
)
に
来
(
こ
)
し
方
(
かた
)
行末
(
ゆくすゑ
)
の
事
(
こと
)
等
(
など
)
語
(
かた
)
らひ
夜
(
よ
)
を
更
(
ふ
)
かしつつあつた。
046
大黒
(
おほくろ
)
『あゝあ、
047
吾
(
われ
)
こそはバラモン
教
(
けう
)
の
大教主
(
だいけうしゆ
)
となつて
以来
(
いらい
)
、
048
世
(
よ
)
の
為
(
ため
)
、
049
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
にあらゆる
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
を
嘗
(
な
)
め
尽
(
つく
)
し、
050
漸
(
やうや
)
くにして
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
に
根城
(
ねじろ
)
を
定
(
さだ
)
め、
051
稍
(
やや
)
安心
(
あんしん
)
と
思
(
おも
)
ふ
間
(
ま
)
もなく
好事
(
かうず
)
魔
(
ま
)
多
(
おほ
)
しとやら、
052
三五教
(
あななひけう
)
、
053
ウラル
教
(
けう
)
の
奴輩
(
やつばら
)
吾
(
わが
)
教
(
をしへ
)
の
隆盛
(
りうせい
)
を
妬
(
ねた
)
み、
054
今
(
いま
)
や
双方
(
さうはう
)
より
此
(
この
)
本城
(
ほんじやう
)
を
攻撃
(
こうげき
)
し
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼさむと
致
(
いた
)
す
憎
(
につ
)
くき
奴
(
やつ
)
、
055
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
に
神経
(
しんけい
)
過敏
(
くわびん
)
となり、
056
夜
(
よ
)
も
碌々
(
ろくろく
)
に
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
寝
(
ね
)
た
事
(
こと
)
もない。
057
せめて
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
の
優
(
やさ
)
しき
言葉
(
ことば
)
を
心
(
こころ
)
の
頼
(
たの
)
みとして
日夜
(
にちや
)
を
送
(
おく
)
る
苦
(
くる
)
しさ。
058
あゝあ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
如何
(
どう
)
してこれほど
災
(
わざはひ
)
の
多
(
おほ
)
きものだらうか。
059
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
浮世
(
うきよ
)
が
嫌
(
いや
)
になつて
来
(
き
)
たわい。
060
早
(
はや
)
く
大教主
(
だいけうしゆ
)
の
役
(
やく
)
を
伜
(
せがれ
)
に
継承
(
けいしよう
)
さして
其方
(
そなた
)
と
共
(
とも
)
に
山林
(
さんりん
)
に
隠
(
かく
)
れ、
061
光風
(
くわうふう
)
霽月
(
せいげつ
)
を
楽
(
たの
)
しみ
余生
(
よせい
)
を
送
(
おく
)
りたいと
思
(
おも
)
ふ
心
(
こころ
)
は
山々
(
やまやま
)
なれど、
062
伜
(
せがれ
)
はあの
通
(
とほ
)
り
文弱
(
ぶんじやく
)
に
流
(
なが
)
れ
世間
(
せけん
)
知
(
し
)
らずの
坊
(
ぼ
)
んちやん
育
(
そだ
)
ち、
063
実
(
じつ
)
に
前途
(
ぜんと
)
は
心細
(
こころぼそ
)
いものだ。
064
何
(
なん
)
とか
致
(
いた
)
して
此
(
この
)
苦艱
(
くかん
)
を
免
(
のが
)
るる
道
(
みち
)
はあるまいかな』
065
とハアハアと
吐息
(
といき
)
をつき
悄
(
せう
)
げ
返
(
かへ
)
る。
066
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
は
打笑
(
うちわら
)
ひ、
067
石生能姫
『ホヽヽヽ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
、
068
何
(
なん
)
とした
弱音
(
よわね
)
をお
吹
(
ふ
)
き
遊
(
あそ
)
ばすのでせう。
069
そんな
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
で
如何
(
どう
)
して
此
(
この
)
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
を
背負
(
せお
)
つて
立
(
た
)
つ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ませうか。
070
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
此
(
この
)
チツポケな
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
ばかりか、
071
豊葦原
(
とよあしはら
)
の
瑞穂国
(
みづほのくに
)
全体
(
ぜんたい
)
をバラモンの
教
(
をしへ
)
に
帰順
(
きじゆん
)
せしめ、
072
恵
(
めぐ
)
みの
露
(
つゆ
)
をば
万民
(
ばんみん
)
に
霑
(
うるほ
)
し
与
(
あた
)
へむとの
御
(
ご
)
神慮
(
しんりよ
)
では
御座
(
ござ
)
りませぬか。
073
左様
(
さやう
)
な
意志
(
いし
)
の
薄弱
(
はくじやく
)
な
事
(
こと
)
では
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
さへも
保
(
たも
)
つ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい。
074
チト
心
(
こころ
)
を
取
(
と
)
り
直
(
なほ
)
して
元気
(
げんき
)
を
出
(
だ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
075
一国
(
いつこく
)
の
王者
(
わうじや
)
たる
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
妾
(
わたし
)
の
如
(
ごと
)
き
卑
(
いや
)
しき
女
(
をんな
)
に
心魂
(
しんこん
)
を
蕩
(
とろ
)
かし、
076
偕老
(
かいらう
)
同穴
(
どうけつ
)
を
契
(
ちぎ
)
り
給
(
たま
)
ひし
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
様
(
さま
)
、
077
特
(
とく
)
に
内助
(
ないじよ
)
の
功
(
こう
)
多
(
おほ
)
き
奥様
(
おくさま
)
をあの
通
(
とほ
)
り
退隠
(
たいいん
)
させ、
078
日夜
(
にちや
)
涙
(
なみだ
)
の
生活
(
せいくわつ
)
を
続
(
つづ
)
けて
御座
(
ござ
)
るのを
他所
(
よそ
)
にして、
079
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
は
妾
(
わたし
)
の
様
(
やう
)
な
女
(
をんな
)
を
弄
(
もてあそ
)
び
給
(
たま
)
ふは
御
(
ご
)
神慮
(
しんりよ
)
に
叶
(
かな
)
はぬ
事
(
こと
)
ではありますまいか。
080
それを
思
(
おも
)
へば
妾
(
わたし
)
も
安
(
やす
)
き
心
(
こころ
)
は
厶
(
ござ
)
りませぬ。
081
何卒
(
なにとぞ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
奥様
(
おくさま
)
を
本城
(
ほんじやう
)
に
招
(
まね
)
き
入
(
い
)
れ、
082
夫婦
(
ふうふ
)
睦
(
むつ
)
まじく
神業
(
しんげふ
)
に
参加
(
さんか
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
083
そして
妾
(
わたし
)
の
位置
(
ゐち
)
を
下
(
くだ
)
して
婢女
(
はしため
)
となし
下
(
くだ
)
されば、
084
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
に
対
(
たい
)
し
力限
(
ちからかぎ
)
りの
忠勤
(
ちうきん
)
を
励
(
はげ
)
む
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
の
覚悟
(
かくご
)
、
085
何卒
(
どうぞ
)
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
086
これが
妾
(
わたし
)
の
一生
(
いつしやう
)
の
願
(
ねが
)
ひで
御座
(
ござ
)
います』
087
大黒主
『ハヽヽヽヽ
其方
(
そなた
)
は
此
(
この
)
大黒主
(
おほくろぬし
)
を
気
(
き
)
が
小
(
ちひ
)
さいと
申
(
まを
)
すが、
088
あまり
其方
(
そなた
)
も
気
(
き
)
が
小
(
ちひ
)
さ
過
(
す
)
ぎるぢやないか。
089
其方
(
そなた
)
が
始
(
はじ
)
めて
吾
(
われ
)
と
褥
(
しとね
)
を
一
(
ひと
)
つにした
時
(
とき
)
、
090
其方
(
そなた
)
は
云
(
い
)
つたぢやないか。
091
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
が
妾
(
わたし
)
のやうな
不躾
(
ふつつか
)
なものを
斯
(
か
)
うして
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さるのは
実
(
じつ
)
に
有難涙
(
ありがたなみだ
)
にくれますが、
092
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
奥様
(
おくさま
)
の
事
(
こと
)
が
気
(
き
)
になつて
心
(
こころ
)
も
心
(
こころ
)
ならず、
093
そればかりが
心配
(
しんぱい
)
だと
申
(
まを
)
したではないか。
094
それ
故
(
ゆゑ
)
、
095
永
(
なが
)
らく
連
(
つ
)
れ
添
(
そ
)
うて
共
(
とも
)
に
苦労
(
くらう
)
を
致
(
いた
)
した
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
を
別家
(
べつけ
)
させ、
096
其方
(
そなた
)
の
希望
(
きばう
)
通
(
どほ
)
りにしてやつたではないか。
097
今
(
いま
)
となつて
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
つてくれては
大黒主
(
おほくろぬし
)
も
困
(
こま
)
つてしまふ。
098
俺
(
おれ
)
が
許
(
ゆる
)
した
女房
(
にようばう
)
、
099
誰
(
たれ
)
に
遠慮
(
ゑんりよ
)
は
要
(
い
)
らぬ。
100
大
(
おほ
)
きな
顔
(
かほ
)
をして
本城
(
ほんじやう
)
の
花
(
はな
)
となり
女王
(
クイーン
)
となつて、
101
吾
(
わが
)
神業
(
しんげふ
)
を
陰
(
いん
)
に
陽
(
やう
)
に
極力
(
きよくりよく
)
助
(
たす
)
けてくれなくては
困
(
こま
)
つてしまふよ』
102
石生能姫
『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
103
妾
(
わたし
)
は
奥様
(
おくさま
)
の
事
(
こと
)
が
気
(
き
)
にかかると
云
(
い
)
つたのは
勿体
(
もつたい
)
ない、
104
奥様
(
おくさま
)
を
放
(
はふ
)
り
出
(
だ
)
して
欲
(
ほ
)
しいと
願
(
ねが
)
つたのぢや
御座
(
ござ
)
りませぬ。
105
奥様
(
おくさま
)
のある
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
に
可愛
(
かあい
)
がられては
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まない。
106
奥様
(
おくさま
)
に
会
(
あ
)
はす
顔
(
かほ
)
がないと
云
(
い
)
つたまでで
御座
(
ござ
)
ります』
107
大黒主
『さうだから
其方
(
そなた
)
の
心配
(
しんぱい
)
の
種
(
たね
)
を
除
(
のぞ
)
くために
鬼雲姫
(
おにくもひめ
)
を
遠
(
とほ
)
ざけたのではないか』
108
石生能姫
『それはチト
了簡
(
れうけん
)
が
違
(
ちが
)
ひませう。
109
何程
(
なにほど
)
奥様
(
おくさま
)
が
遠
(
とほ
)
ざかつて
居
(
ゐ
)
らつしやいましても
妾
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
は
如何
(
どう
)
しても
済
(
す
)
みませぬ。
110
今
(
いま
)
までよりも
一層
(
いつそう
)
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
堪
(
たま
)
りませぬ。
111
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
や
国民
(
こくみん
)
には
妖女
(
えうぢよ
)
ぢや、
112
鬼女
(
きぢよ
)
ぢや、
113
謀叛人
(
むほんにん
)
だと
口々
(
くちぐち
)
に
罵
(
ののし
)
られ、
114
如何
(
どう
)
して
之
(
これ
)
で
妾
(
わたし
)
の
胸
(
むね
)
が
安
(
やす
)
まりませう。
115
御
(
ご
)
推量
(
すゐりやう
)
なさつて
下
(
くだ
)
さりませ。
116
貴方
(
あなた
)
は
如何
(
どう
)
しても、
117
口先
(
くちさき
)
で
私
(
わたし
)
を
愛
(
あい
)
して
下
(
くだ
)
さるが、
118
本当
(
ほんたう
)
の
妾
(
わたし
)
の
心
(
こころ
)
を
汲
(
く
)
みとつて
下
(
くだ
)
さらぬ
故
(
ゆゑ
)
、
119
つまり
妾
(
わたし
)
を
苦
(
くる
)
しめ
憎
(
にく
)
み
給
(
たま
)
ふ
事
(
こと
)
となるので
厶
(
ござ
)
ります』
120
と
袖
(
そで
)
を
顔
(
かほ
)
にあてサメザメと
泣
(
な
)
き
沈
(
しづ
)
む。
121
大黒主
『
其方
(
そなた
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ならば
何一
(
なにひと
)
つ
背
(
そむ
)
いた
事
(
こと
)
はないぢやないか。
122
今日
(
けふ
)
も
今日
(
けふ
)
とて
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
如
(
ごと
)
き
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
の
妨害
(
ばうがい
)
になる、
123
蟄居
(
ちつきよ
)
を
命
(
めい
)
じてある
男
(
をとこ
)
を
俺
(
おれ
)
に
相談
(
さうだん
)
もせず
代理権
(
だいりけん
)
を
執行
(
しつかう
)
すると
申
(
まを
)
して、
124
人
(
ひと
)
もあらうにあれほど
俺
(
おれ
)
の
嫌
(
きら
)
ひの
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
を
左守
(
さもり
)
に
任
(
にん
)
じ
城内
(
じやうない
)
の
権
(
けん
)
を
一任
(
いちにん
)
したではないか。
125
俺
(
おれ
)
にとつては
天下
(
てんか
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
、
126
承諾
(
しようだく
)
致
(
いた
)
す
限
(
かぎ
)
りではなけれども、
127
其方
(
そなた
)
の
言
(
い
)
ひ
分
(
ぶん
)
をたて、
128
其方
(
そなた
)
の
機嫌
(
きげん
)
を
損
(
そん
)
じまいと
憤
(
いきどほ
)
りを
抑
(
おさ
)
へて
辛抱
(
しんばう
)
をしてるではないか。
129
万一
(
まんいち
)
此
(
この
)
国
(
くに
)
が
外教
(
ぐわいけう
)
の
手
(
て
)
におちる
様
(
やう
)
の
事
(
こと
)
あらば、
130
俺
(
おれ
)
は
到底
(
たうてい
)
此処
(
ここ
)
に
安心
(
あんしん
)
して
居
(
ゐ
)
ることは
出来
(
でき
)
ない。
131
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
にとつての
一大事
(
いちだいじ
)
を
忍
(
しの
)
んで
居
(
を
)
るのも
其方
(
そなた
)
が
可愛
(
かあい
)
いばつかりだ』
132
石生能姫
『あの
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
貴方
(
あなた
)
の
目
(
め
)
からは、
133
それ
程
(
ほど
)
悪
(
わる
)
い
人
(
ひと
)
と
見
(
み
)
えますか。
134
貴方
(
あなた
)
はお
人
(
ひと
)
がよいから
悪人輩
(
あくにんばら
)
の
讒言
(
ざんげん
)
を
一々
(
いちいち
)
御
(
ご
)
採用
(
さいよう
)
遊
(
あそ
)
ばし
智者
(
ちしや
)
賢者
(
けんじや
)
の
言
(
げん
)
を
用
(
もち
)
ひ
給
(
たま
)
はず。
135
あれほどバラモン
教
(
けう
)
を
思
(
おも
)
つて
厶
(
ござ
)
る
神司
(
かむつかさ
)
は
何処
(
どこ
)
に
厶
(
ござ
)
りませう。
136
それは
貴方
(
あなた
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
、
137
又
(
また
)
私
(
わたし
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
に
関
(
くわん
)
する
事
(
こと
)
、
138
さう
易々
(
やすやす
)
と
少
(
すこ
)
しの
感情
(
かんじやう
)
や
気
(
き
)
まぐれ
位
(
くらゐ
)
に、
139
そんな
大事
(
だいじ
)
がきめられますか。
140
何卒
(
どうぞ
)
心
(
こころ
)
の
雲
(
くも
)
を
取
(
と
)
り
払
(
はら
)
ひ、
141
正
(
ただ
)
しく
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
心
(
こころ
)
を
汲
(
く
)
みとつてやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
142
大黒主
『さう
聞
(
き
)
けばさうかも
知
(
し
)
れないが、
143
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
女房
(
にようばう
)
は
到頭
(
たうとう
)
三五教
(
あななひけう
)
に
寝返
(
ねがへ
)
りをうち、
144
娘
(
むすめ
)
の
小糸姫
(
こいとひめ
)
も
矢張
(
やは
)
り
三五
(
あななひ
)
の
道
(
みち
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
となつてバラモン
教
(
けう
)
の
畑
(
はたけ
)
を
蚕食
(
さんしよく
)
し、
145
色々
(
いろいろ
)
雑多
(
ざつた
)
と
道
(
みち
)
の
妨害
(
ばうがい
)
を
致
(
いた
)
す
奴
(
やつ
)
、
146
ハルナの
都
(
みやこ
)
の
内幕
(
うちまく
)
は
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
三五教
(
あななひけう
)
に
知
(
し
)
れ
渡
(
わた
)
つて
居
(
ゐ
)
るのも、
147
側近
(
そばちか
)
く
仕
(
つか
)
ふる
者
(
もの
)
の
中
(
なか
)
に
内通
(
ないつう
)
するものがなくてはならぬ。
148
若
(
も
)
し
内通
(
ないつう
)
するものありとすれば、
149
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
言葉
(
ことば
)
の
如
(
ごと
)
く
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
外
(
ほか
)
にはない
道理
(
だうり
)
、
150
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
、
151
其方
(
そなた
)
は
之
(
これ
)
でも
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
を
信用
(
しんよう
)
致
(
いた
)
すか』
152
石生能姫
『そりや
貴方
(
あなた
)
お
考
(
かんが
)
へ
違
(
ちが
)
ひでせう。
153
あの
方
(
かた
)
に
限
(
かぎ
)
つて
左様
(
さやう
)
な
卑
(
さも
)
しい
根性
(
こんじやう
)
をお
有
(
も
)
ち
遊
(
あそ
)
ばす
道理
(
だうり
)
は
厶
(
ござ
)
りませぬ。
154
人
(
ひと
)
を
疑
(
うたが
)
へば
何処
(
どこ
)
までも
限
(
かぎ
)
りのないもの、
155
人
(
ひと
)
の
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
直接
(
ちよくせつ
)
にお
審
(
さば
)
き
遊
(
あそ
)
ばしませう。
156
仮令
(
たとへ
)
貴方
(
あなた
)
は
神
(
かみ
)
の
代表者
(
だいへうしや
)
としても
矢張
(
やは
)
り
人間
(
にんげん
)
の
肉体
(
にくたい
)
を
有
(
も
)
つた
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
157
如何
(
どう
)
して
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
善悪
(
ぜんあく
)
正邪
(
せいじや
)
が
判
(
わか
)
りませう。
158
一切
(
いつさい
)
の
心
(
こころ
)
の
雲霧
(
くもきり
)
を
払拭
(
ふつしき
)
し
惟神
(
かむながら
)
の
心
(
こころ
)
に
立
(
た
)
ち
帰
(
かへ
)
り、
159
胸
(
むね
)
に
手
(
て
)
をあててお
考
(
かんが
)
へ
遊
(
あそ
)
ばしたらチツと
御
(
ご
)
合点
(
かつてん
)
が
参
(
まゐ
)
りませう。
160
もしも
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
さまに
左様
(
さやう
)
な
野心
(
やしん
)
がありとすれば、
161
あれだけ
国民
(
こくみん
)
の
信用
(
しんよう
)
を
一身
(
いつしん
)
に
担
(
にな
)
うたお
方
(
かた
)
、
162
どんな
事
(
こと
)
でも
出来
(
でき
)
ませう。
163
貴方
(
あなた
)
は
兵馬
(
へいば
)
の
権
(
けん
)
を
握
(
にぎ
)
つておいで
遊
(
あそ
)
ばす
故
(
ゆゑ
)
、
164
国王
(
こくわう
)
とも
大教主
(
だいけうしゆ
)
とも
仰
(
あふ
)
いでゐるものの、
165
人心
(
じんしん
)
は
既
(
すで
)
に
離
(
はな
)
れて
居
(
を
)
りますよ。
166
髭
(
ひげ
)
の
塵
(
ちり
)
を
払
(
はら
)
ふものばかりお
側
(
そば
)
に
近寄
(
ちかよ
)
つて
貴方
(
あなた
)
を
益々
(
ますます
)
深
(
ふか
)
い
淵
(
ふち
)
に
陥
(
おとしい
)
れるものばかり、
167
本当
(
ほんたう
)
に
貴方
(
あなた
)
の
力
(
ちから
)
になる
誠
(
まこと
)
の
者
(
もの
)
は
此
(
この
)
沢山
(
たくさん
)
な
御
(
ご
)
家来
(
けらい
)
の
内
(
うち
)
、
168
妾
(
わたし
)
の
公平
(
こうへい
)
なる
目
(
め
)
より
見
(
み
)
れば
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
より
外
(
ほか
)
に
只
(
ただ
)
の
一人
(
ひとり
)
もありませぬ。
169
何卒
(
どうぞ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
と
胸襟
(
きようきん
)
を
開
(
ひら
)
いてお
道
(
みち
)
の
為
(
ため
)
、
170
国
(
くに
)
の
為
(
ため
)
、
171
最善
(
さいぜん
)
の
力
(
ちから
)
をお
尽
(
つく
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
に
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
が
真心
(
まごころ
)
をこめてお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
172
大黒主
(
おほくろぬし
)
は
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
ならば
一旦
(
いつたん
)
は
拒
(
こば
)
んで
見
(
み
)
ても、
173
徹底
(
てつてい
)
的
(
てき
)
に
排除
(
はいじよ
)
する
事
(
こと
)
は
恋
(
こひ
)
の
弱味
(
よわみ
)
で
出来
(
でき
)
なかつた。
174
大黒主
(
おほくろぬし
)
は
遂
(
つひ
)
に
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つて、
175
大黒主
『それなら
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
は
其方
(
そなた
)
に
任
(
まか
)
す。
176
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
を
付
(
つ
)
けて
彼
(
かれ
)
に
謀
(
はか
)
られぬ
様
(
やう
)
、
177
此
(
この
)
方
(
はう
)
のために
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
すやうに
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かしてくれ』
178
石生能姫
『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
、
179
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
満足
(
まんぞく
)
致
(
いた
)
します。
180
左様
(
さやう
)
ならば
明日
(
みやうにち
)
早朝
(
さうてう
)
妾
(
わたし
)
より
彼
(
かれ
)
が
館
(
やかた
)
を
訪
(
たづ
)
ね
充分
(
じうぶん
)
に
其
(
その
)
意中
(
いちう
)
を
探
(
さぐ
)
り
果
(
はた
)
して
善人
(
ぜんにん
)
ならば
日々
(
にちにち
)
登場
(
とうぢやう
)
を
命
(
めい
)
じ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
相談柱
(
さうだんばしら
)
と
致
(
いた
)
しますなり、
181
もしも
心
(
こころ
)
に
針
(
はり
)
を
包
(
つつ
)
む
様
(
やう
)
な
形跡
(
けいせき
)
が
鵜
(
う
)
の
毛
(
け
)
の
露
(
つゆ
)
程
(
ほど
)
でもありますなら、
182
それこそ
断乎
(
だんこ
)
たる
処置
(
しよち
)
を
執
(
と
)
らねばなりますまい。
183
それなら
明日
(
あす
)
の
早朝
(
さうてう
)
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
館
(
やかた
)
に
参
(
まゐ
)
りますから
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
を
願
(
ねが
)
つておきます』
184
大黒主
『
其方
(
そなた
)
が
態々
(
わざわざ
)
行
(
ゆ
)
かないでも
此処
(
ここ
)
へ
呼
(
よ
)
び
寄
(
よ
)
せて
調
(
しら
)
べたら
如何
(
どう
)
だ。
185
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものはさう
易々
(
やすやす
)
と
門
(
もん
)
を
跨
(
また
)
げるものではない』
186
石生能姫
『オホヽヽヽ
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
今
(
いま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
187
今日
(
こんにち
)
の
女
(
をんな
)
は、
188
社交界
(
しやかうかい
)
の
花
(
はな
)
と
謳
(
うた
)
はれねば
女
(
をんな
)
ではありませぬ。
189
夫
(
をつと
)
の
成功
(
せいこう
)
は
凡
(
すべ
)
て
女
(
をんな
)
の
社交
(
しやかう
)
の
上手
(
じやうづ
)
下手
(
へた
)
にあるもので
厶
(
ござ
)
います。
190
妾
(
わたし
)
が
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
屋敷
(
やしき
)
へ
参
(
まゐ
)
つたとて、
191
決
(
けつ
)
して
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
のお
顔
(
かほ
)
にかかはる
様
(
やう
)
な
汚
(
けが
)
れた
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
しませぬから、
192
そこは
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さいまして、
193
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
真
(
しん
)
の
精神
(
せいしん
)
をトコトン
探
(
さぐ
)
らして
下
(
くだ
)
さいませ』
194
大黒主
『それなら
何事
(
なにごと
)
も
其方
(
そなた
)
に
一任
(
いちにん
)
する。
195
明日
(
あす
)
は
早朝
(
さうてう
)
よりソツと
余
(
あま
)
り
人
(
ひと
)
に
判
(
わか
)
らぬやうに
彼
(
かれ
)
の
館
(
やかた
)
に
訪
(
たづ
)
ね
行
(
ゆ
)
き
篤
(
とく
)
と
心中
(
しんちう
)
を
見届
(
みとど
)
けてくれ。
196
サア
夜
(
よ
)
も
大分
(
だいぶん
)
に
更
(
ふ
)
けたやうだ。
197
就寝
(
しうしん
)
致
(
いた
)
さうか』
198
石生能姫
『はい』
199
と
答
(
こた
)
へて
石生能
(
いその
)
姫
(
ひめ
)
は
寝具
(
しんぐ
)
をのべ、
200
夫婦
(
ふうふ
)
は
茲
(
ここ
)
に
漸
(
やうや
)
く
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶ
)
りで
心
(
こころ
)
を
落着
(
おちつ
)
け、
201
安々
(
やすやす
)
と
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
いた。
202
(
大正一一・一一・一
旧九・一三
北村隆光
録)
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