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第66巻(巳の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第78巻(巳の巻)
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第40巻(卯の巻)
序文に代へて
緒言
総説
第1篇 恋雲魔風
01 大雲山
〔1085〕
02 出陣
〔1086〕
03 落橋
〔1087〕
04 珍客
〔1088〕
05 忍ぶ恋
〔1089〕
第2篇 寒梅照国
06 仁愛の真相
〔1090〕
07 文珠
〔1091〕
08 使者
〔1092〕
09 雁使
〔1093〕
第3篇 霊魂の遊行
10 衝突
〔1094〕
11 三途館
〔1095〕
12 心の反映
〔1096〕
13 試の果実
〔1097〕
14 空川
〔1098〕
第4篇 関風沼月
15 氷嚢
〔1099〕
16 春駒
〔1100〕
17 天幽窟
〔1101〕
18 沼の月
〔1102〕
19 月会
〔1103〕
20 入那の森
〔1104〕
余白歌
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第一九章
月会
(
つきあひ
)
〔一一〇三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第40巻 舎身活躍 卯の巻
篇:
第4篇 関風沼月
よみ(新仮名遣い):
かんぷうしょうげつ
章:
第19章 月会
よみ(新仮名遣い):
つきあい
通し章番号:
1103
口述日:
1922(大正11)年11月04日(旧09月16日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
沼の南では、黄金姫と清照姫が逃げていく八人のバラモン教との後姿を眺めながら、述懐の歌を歌っていた。
バラモン教徒たちが逃げて行ったあとから、馬に乗って沼を渡ってきたのは照国別の一行であった。黄金姫母娘は照国別に声をかけた。互いに挨拶を交わすと、ここまで来るに至った経緯をお互いに物語った。
レーブは母娘との再会を果たすと、谷底で気絶していたところを照国別一行に助けられた経緯を語った。
黄金姫は、レーブをお供に連れて行きたいと照国別に申し出た。照国別は、日の出別から黄金姫母娘には旅の途上で二人の良い供ができると聞いていたことから、カルとレーブを母娘に預けることにした。
照国別一行は、日の出別の命によりデカタン高原に出て霊鷲山に立ち寄り、近辺のバラモン教徒たちを言向け和すという。ハルナの都を目指す黄金姫母娘とは、ここで別れることになった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-05 12:54:14
OBC :
rm4019
愛善世界社版:
252頁
八幡書店版:
第7輯 510頁
修補版:
校定版:
260頁
普及版:
116頁
初版:
ページ備考:
001
葵
(
あふひ
)
の
沼
(
ぬま
)
の
南岸
(
なんがん
)
に
黄金姫
(
わうごんひめ
)
、
002
清照姫
(
きよてるひめ
)
は
沼
(
ぬま
)
の
面
(
おも
)
を
眺
(
なが
)
めながら、
003
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
悪者共
(
わるものども
)
の
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
く
後姿
(
うしろすがた
)
の
隠
(
かく
)
るるまで
打眺
(
うちなが
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
004
黄金
(
わうごん
)
『
沼
(
ぬま
)
の
面
(
おも
)
にきらめき
渡
(
わた
)
る
月影
(
つきかげ
)
を
005
打
(
う
)
ち
砕
(
くだ
)
きつつ
逃
(
に
)
ぐる
醜神
(
しこがみ
)
』
006
清照
(
きよてる
)
『いと
清
(
きよ
)
くすみ
渡
(
わた
)
りたる
月影
(
つきかげ
)
も
007
水
(
みづ
)
におちては
枉
(
まが
)
にふまれつ』
008
黄金姫
『
水
(
みづ
)
清
(
きよ
)
き
葵
(
あふひ
)
の
沼
(
ぬま
)
の
月影
(
つきかげ
)
は
009
再
(
ふたた
)
びもとの
姿
(
すがた
)
とやならむ』
010
清照姫
『
砕
(
くだ
)
けたる
月
(
つき
)
の
姿
(
すがた
)
も
今
(
いま
)
暫
(
しば
)
し
011
波
(
なみ
)
をさまれば
又
(
また
)
照
(
て
)
り
渡
(
わた
)
る』
012
黄金姫
『
空
(
そら
)
清
(
きよ
)
く
水底
(
みなそこ
)
清
(
きよ
)
き
此
(
この
)
沼
(
ぬま
)
を
013
醜
(
しこ
)
のしこ
人
(
びと
)
掻
(
か
)
き
乱
(
みだ
)
しけり』
014
清照姫
『バラモンの
月
(
つき
)
の
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
015
身
(
み
)
の
滅
(
ほろ
)
び
行
(
ゆ
)
くしるしなるらむ』
016
黄金姫
『
望
(
もち
)
の
夜
(
よ
)
の
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
は
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
017
バラモン
教
(
けう
)
のつきと
異
(
こと
)
なり』
018
清照姫
『
此
(
この
)
月
(
つき
)
の
輝
(
かがや
)
く
見
(
み
)
れば
清照
(
きよてる
)
の
019
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
の
昔
(
むかし
)
偲
(
しの
)
ばゆ。
020
バラモンの
醜
(
しこ
)
の
司
(
つかさ
)
が
踏
(
ふ
)
み
砕
(
くだ
)
く
021
此
(
この
)
月影
(
つきかげ
)
は
運
(
うん
)
のつきかな。
022
運
(
うん
)
のつきとは
云
(
い
)
ふものの
三五
(
あななひ
)
の
023
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
のつき
影
(
かげ
)
でなし。
024
バラモンの
月
(
つき
)
の
都
(
みやこ
)
に
螢火
(
ほたるび
)
の
025
光
(
ひかり
)
を
投
(
な
)
げし
大黒主
(
おほくろぬし
)
のつき。
026
大御空
(
おほみそら
)
雲
(
くも
)
に
隠
(
かく
)
れて
大黒
(
おほくろ
)
の
027
月
(
つき
)
の
姿
(
すがた
)
は
見
(
み
)
えずなりぬる。
028
月
(
つき
)
も
日
(
ひ
)
も
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
に
輝
(
かが
)
やけど
029
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
雲
(
くも
)
にかくれつ』
030
黄金姫
『
又
(
また
)
しても
沼
(
ぬま
)
の
月
(
つき
)
をば
砕
(
くだ
)
きつつ
031
此方
(
こなた
)
に
来
(
きた
)
る
人影
(
ひとかげ
)
ぞ
見
(
み
)
ゆ』
032
清照姫
『
又
(
また
)
しても
醜
(
しこ
)
の
枉日
(
まがひ
)
の
来
(
く
)
るならむ
033
天津
(
あまつ
)
御空
(
みそら
)
の
雲
(
くも
)
深
(
ふか
)
ければ』
034
黄金姫
『
望
(
もち
)
の
夜
(
よ
)
の
月影
(
つきかげ
)
かくす
黒雲
(
くろくも
)
の
035
沼
(
ぬま
)
渡
(
わた
)
り
来
(
く
)
る
枉人
(
まがひと
)
忌々
(
ゆゆ
)
しき
036
刻々
(
こくこく
)
に
近
(
ちか
)
づき
来
(
きた
)
る
人影
(
ひとかげ
)
は
037
先
(
さき
)
の
八人
(
やたり
)
の
醜人
(
しこびと
)
ならむ
038
向
(
むか
)
ふ
岸
(
ぎし
)
渡
(
わた
)
りし
処
(
ところ
)
に
照国
(
てるくに
)
の
039
別
(
わけ
)
の
命
(
みこと
)
の
居
(
ゐ
)
ませしならむ』
040
清照姫
『
玉山
(
たまやま
)
の
峠
(
たうげ
)
に
現
(
あら
)
はれ
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
041
醜
(
しこ
)
の
片
(
かた
)
われ
八
(
や
)
つの
醜人
(
しこびと
)
』
042
斯
(
か
)
く
悠々
(
いういう
)
と
三十一
(
みそひと
)
文字
(
もじ
)
を
歌
(
うた
)
つてる
処
(
ところ
)
へ、
043
又
(
また
)
もや
以前
(
いぜん
)
のキル、
044
エル
外
(
ほか
)
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
何者
(
なにもの
)
にか
追
(
お
)
はれたやうにバサバサと
逃
(
に
)
げ
来
(
きた
)
る
其
(
その
)
様子
(
やうす
)
の
可笑
(
をか
)
しさ。
045
今迄
(
いままで
)
空
(
そら
)
に
塞
(
ふさ
)
がつて
居
(
ゐ
)
た
黒雲
(
くろくも
)
はさらりと
晴
(
は
)
れて、
046
又
(
また
)
もや
皎々
(
かうかう
)
たる
月光
(
つきかげ
)
は
沼
(
ぬま
)
の
面
(
おも
)
を
照
(
て
)
らし
始
(
はじ
)
めた。
047
キル、
048
エル
一行
(
いつかう
)
は
依然
(
いぜん
)
として
母娘
(
おやこ
)
二人
(
ふたり
)
の
此処
(
ここ
)
に
佇
(
たたず
)
めるを
見
(
み
)
て
打驚
(
うちおどろ
)
き
岸
(
きし
)
にも
得上
(
えあ
)
がらず、
049
道
(
みち
)
を
左
(
ひだり
)
に
取
(
と
)
り、
050
東
(
ひがし
)
の
方面
(
はうめん
)
さして
一目散
(
いちもくさん
)
に
水中
(
すゐちう
)
をバサバサバサと
駆
(
か
)
けて
行
(
ゆ
)
く。
051
続
(
つづ
)
いて
勢
(
いきほひ
)
よく
水
(
みづ
)
をきつて
馬
(
うま
)
に
跨
(
またが
)
り
来
(
きた
)
る
物影
(
ものかげ
)
がある。
052
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
に
照
(
て
)
らし
見
(
み
)
れば、
053
どうやら
照国別
(
てるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
らしい。
054
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
馬
(
うま
)
、
055
二人
(
ふたり
)
は
徒歩
(
とほ
)
、
056
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
岸
(
きし
)
に
向
(
むか
)
つて
近
(
ちか
)
づき
来
(
きた
)
る。
057
黄金姫
(
わうごんひめ
)
は
声
(
こゑ
)
をかけ
歌
(
うた
)
ひかけた。
058
黄金姫
『
天
(
あめ
)
も
地
(
つち
)
も
葵
(
あふひ
)
の
沼
(
ぬま
)
を
渡
(
わた
)
り
来
(
く
)
る
059
照国別
(
てるくにわけ
)
の
姿
(
すがた
)
雄々
(
をを
)
しき』
060
清照
(
きよてる
)
『
望
(
もち
)
の
夜
(
よ
)
の
月影
(
つきかげ
)
こそは
明
(
あきら
)
けく
061
照国別
(
てるくにわけ
)
の
司
(
つかさ
)
来
(
き
)
ましぬ』
062
照国別
(
てるくにわけ
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
驚
(
おどろ
)
き、
063
黄金姫
(
わうごんひめ
)
母娘
(
おやこ
)
は
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
ませしかと、
064
馬上
(
ばじやう
)
より
声
(
こゑ
)
を
張
(
は
)
り
上
(
あ
)
げて
歌
(
うた
)
ひ
返
(
かへ
)
した。
065
照国別
『
黄金
(
わうごん
)
の
光
(
ひかり
)
にまがふ
月影
(
つきかげ
)
の
066
清照姫
(
きよてるひめ
)
はここに
居
(
ゐ
)
ますか。
067
望
(
もち
)
の
夜
(
よ
)
の
月
(
つき
)
は
照国別
(
てるくにわけ
)
の
神
(
かみ
)
068
神
(
かみ
)
のまにまに
渡
(
わた
)
り
来
(
き
)
にけり』
069
斯
(
か
)
く
歌
(
うた
)
ふ
間
(
うち
)
に
馬
(
うま
)
は
早
(
はや
)
くも
岸辺
(
きしべ
)
に
着
(
つ
)
いた。
070
照国別
(
てるくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
はヒラリと
馬
(
うま
)
を
飛
(
と
)
び
下
(
お
)
り
黄金姫
(
わうごんひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ
会釈
(
ゑしやく
)
しながら、
071
照国
(
てるくに
)
『
貴女
(
あなた
)
は
黄金姫
(
わうごんひめ
)
様
(
さま
)
、
072
清照姫
(
きよてるひめ
)
様
(
さま
)
、
073
不思議
(
ふしぎ
)
な
所
(
ところ
)
でお
目
(
め
)
にかかりました。
074
随分
(
ずゐぶん
)
途中
(
とちう
)
は
種々
(
いろいろ
)
の
困難事
(
こんなんじ
)
が
起
(
おこ
)
つたでせうな』
075
黄金
(
わうごん
)
『
照国別
(
てるくにわけ
)
さま、
076
大変
(
たいへん
)
にお
早
(
はや
)
う
厶
(
ござ
)
いました。
077
貴方
(
あなた
)
は
馬上
(
ばじやう
)
の
扮装
(
いでたち
)
、
078
吾々
(
われわれ
)
母娘
(
おやこ
)
は
女
(
をんな
)
の
足弱
(
あしよわ
)
で
山坂
(
やまさか
)
を
跋渉
(
ばつせふ
)
したものですから、
079
一足
(
ひとあし
)
お
先
(
さき
)
へ
出
(
で
)
ながら
到頭
(
とうとう
)
追
(
お
)
つつかれました。
080
後
(
あと
)
の
烏
(
からす
)
が
先
(
さき
)
になるとは
此
(
この
)
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いますわ。
081
ホヽヽヽヽ』
082
照国
(
てるくに
)
『どうも
魔神
(
まがみ
)
の
猛
(
たけ
)
ぶ
荒野原
(
あらのはら
)
、
083
御
(
ご
)
先頭
(
せんとう
)
にお
立
(
た
)
ち
遊
(
あそ
)
ばした
貴女
(
あなた
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
いましたな。
084
実
(
じつ
)
は
貴女
(
あなた
)
方
(
がた
)
のお
蔭
(
かげ
)
であまりの
障害
(
しやうがい
)
もなく、
085
ここ
迄
(
まで
)
やつて
来
(
き
)
ました。
086
清照姫
(
きよてるひめ
)
様
(
さま
)
もお
元気
(
げんき
)
で
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
います』
087
清照
(
きよてる
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う。
088
随分
(
ずゐぶん
)
脾肉
(
ひにく
)
の
嘆
(
たん
)
に
堪
(
た
)
へないやうな
事
(
こと
)
が
屡々
(
しばしば
)
厶
(
ござ
)
いましたが
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
諭
(
さと
)
しにより、
089
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
をとり、
090
ここ
迄
(
まで
)
来
(
き
)
ました。
091
実
(
じつ
)
に
惜
(
を
)
しい
事
(
こと
)
が
幾度
(
いくたび
)
も
厶
(
ござ
)
いましたよ』
092
照国
(
てるくに
)
『なるほど、
093
私
(
わたし
)
もバラモン
教
(
けう
)
であつたならば
随分
(
ずゐぶん
)
暴
(
あば
)
れて
来
(
き
)
たのですが、
094
本当
(
ほんたう
)
に
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
でした。
095
然
(
しか
)
しこれが
却
(
かへ
)
つて
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
、
096
五十
(
ごじふ
)
や
百
(
ひやく
)
の
小童子
(
こわつぱ
)
武者
(
むしや
)
に
武力
(
ぶりよく
)
を
示
(
しめ
)
した
処
(
ところ
)
で
はづみ
ませぬからな』
097
清照
(
きよてる
)
『
照国別
(
てるくにわけ
)
さま、
098
今晩
(
こんばん
)
はここで
母娘
(
おやこ
)
二人
(
ふたり
)
が
満月
(
まんげつ
)
を
浴
(
あ
)
びながら
一宿
(
いつしゆく
)
を
試
(
こころ
)
みて
居
(
を
)
りますと、
099
バラモン
教
(
けう
)
の
連中
(
れんちう
)
が
此
(
この
)
沼
(
ぬま
)
を
渡
(
わた
)
つて
慌
(
あわただ
)
しく
逃
(
に
)
げ
来
(
きた
)
り
一寸
(
ちよつと
)
手向
(
てむか
)
ひを
致
(
いた
)
しましたので、
100
生命
(
いのち
)
さへ
取
(
と
)
らねば
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
神慮
(
しんりよ
)
にも
背
(
そむ
)
くまいと
思
(
おも
)
ひ、
101
睡
(
ねむ
)
け
醒
(
ざま
)
しに
八
(
はち
)
人
(
にん
)
を
此
(
この
)
沼
(
ぬま
)
へとつて
投
(
な
)
げた
処
(
ところ
)
、
102
思
(
おも
)
うたよりは
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
で、
103
バサバサバサと
真北
(
まきた
)
を
指
(
さ
)
して
沼
(
ぬま
)
の
中
(
なか
)
をもと
来
(
き
)
し
道
(
みち
)
へ
引返
(
ひつかへ
)
しました。
104
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
狼狽
(
うろたへ
)
さ
加減
(
かげん
)
随分
(
ずゐぶん
)
見物
(
みもの
)
でしたよ。
105
暫
(
しばら
)
くすると
又
(
また
)
もや
其
(
その
)
連中
(
れんちう
)
が
鯨
(
くじら
)
におはれた
鰯
(
いわし
)
の
様
(
やう
)
に
先
(
さき
)
を
争
(
あらそ
)
うて
逃
(
に
)
げ
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
り、
106
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
るより
直
(
すぐ
)
に
沼
(
ぬま
)
の
中
(
なか
)
を
東
(
ひがし
)
へとり、
107
只今
(
たつたいま
)
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
つた
処
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
います。
108
まるつきり
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
は
水鳥
(
みづどり
)
の
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
ですよ。
109
オホヽヽヽヽ』
110
照国
(
てるくに
)
『あれ
位
(
くらゐ
)
困
(
こま
)
つた
奴
(
やつ
)
はありませぬわ。
111
玉山峠
(
たまやまたうげ
)
を
通
(
とほ
)
る
折
(
をり
)
、
112
一匹
(
いつぴき
)
の
狼
(
おほかみ
)
現
(
あら
)
はれ
春公
(
はるこう
)
の
袖
(
そで
)
を
啣
(
くは
)
へて
放
(
はな
)
さないので、
113
狼
(
おほかみ
)
によく
云
(
い
)
ひ
聞
(
き
)
かし
其
(
その
)
後
(
あと
)
へついて
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
れば、
114
谷底
(
たにそこ
)
に
此
(
この
)
レーブ、
115
カルを
始
(
はじ
)
め
八
(
はち
)
人
(
にん
)
のバラモン
教
(
けう
)
の
小童子
(
こわつぱ
)
武者
(
むしや
)
共
(
ども
)
が
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
になつて
倒
(
たふ
)
れて
居
(
ゐ
)
るので、
116
色々
(
いろいろ
)
と
介抱
(
かいほう
)
をし
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
け、
117
此
(
この
)
沼
(
ぬま
)
の
北岸
(
ほくがん
)
迄
(
まで
)
やつて
来
(
く
)
るとズツポリと
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れましたので、
118
一同
(
いちどう
)
そこで
蓑
(
みの
)
を
敷
(
し
)
き
寝
(
しん
)
に
就
(
つ
)
きました。
119
さうすると
夜中
(
よなか
)
時分
(
じぶん
)
に
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
、
120
吾々
(
われわれ
)
の
寝息
(
ねいき
)
を
考
(
かんが
)
へ
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げようと
致
(
いた
)
すので
素知
(
そし
)
らぬ
顔
(
かほ
)
して
其
(
その
)
綱
(
つな
)
をとり、
121
レーブに
一々
(
いちいち
)
酸漿
(
ほほづき
)
をつないだやうに
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
首
(
くび
)
に
綱
(
つな
)
をソツとかけさせおき、
122
一寸
(
ちよつと
)
しやくつて
見
(
み
)
た
処
(
ところ
)
、
123
忽
(
たちま
)
ちウンウンと
苦悶
(
くもん
)
を
始
(
はじ
)
めドタンバタンに
暴
(
あば
)
れまはるので、
124
余
(
あま
)
り
可愛相
(
かあいさう
)
だと
思
(
おも
)
ひ
綱
(
つな
)
を
解
(
ほど
)
いてやると、
125
蛙突這
(
かへるつくばひ
)
になつて
謝
(
あやま
)
りながら
此
(
この
)
沼
(
ぬま
)
へ
八人
(
はちにん
)
連
(
づ
)
れ
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
み、
126
南
(
みなみ
)
をさして
一目散
(
いちもくさん
)
に
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つたと
思
(
おも
)
へば、
127
又
(
また
)
しても
怖
(
あわただ
)
しく
元
(
もと
)
の
処
(
ところ
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
る。
128
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
は
再
(
ふたた
)
び
自分
(
じぶん
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て
又
(
また
)
南
(
みなみ
)
をさして
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
しよつたのです。
129
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
は
水鳥
(
みづどり
)
の
進化
(
しんくわ
)
した
奴
(
やつ
)
と
見
(
み
)
えますわい。
130
アハヽヽヽヽ』
131
黄金
(
わうごん
)
『ホヽヽヽヽ』
132
清照
(
きよてる
)
『レーブ、
133
お
前
(
まへ
)
も
矢張
(
やつぱり
)
谷底
(
たにそこ
)
で
気絶
(
きぜつ
)
して
居
(
ゐ
)
たのかい。
134
私
(
わたし
)
は
又
(
また
)
何処
(
どこ
)
へ
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つたのかと
思
(
おも
)
つてゐたのだ。
135
まあ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
助
(
たす
)
けられて
結構
(
けつこう
)
だつたのう』
136
レーブ『はい
有難
(
ありがた
)
う
厶
(
ござ
)
います。
137
到頭
(
たうとう
)
気絶
(
きぜつ
)
致
(
いた
)
しまして
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
り、
138
天国
(
てんごく
)
の
道中
(
だうちう
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りますと、
139
向
(
むか
)
ふの
青々
(
あをあを
)
とした
山
(
やま
)
の
上
(
うへ
)
からレーブ レーブと
呼
(
よ
)
ぶ
方
(
かた
)
がある。
140
私
(
わたし
)
は
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
る、
141
貴方
(
あなた
)
にとつて
放
(
はふ
)
られたバラモンの
部下
(
ぶか
)
カルと
共
(
とも
)
に、
142
其
(
その
)
声
(
こゑ
)
のする
方
(
はう
)
へ
一目散
(
いちもくさん
)
に
走
(
はし
)
らうとした
途端
(
とたん
)
、
143
気
(
き
)
がついて
見
(
み
)
れば
玉山峠
(
たまやまたうげ
)
の
下
(
した
)
に
肩骨
(
かたぼね
)
をぬき
倒
(
たふ
)
れゐましたのを
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
一行
(
いつかう
)
に
助
(
たす
)
けられたので
厶
(
ござ
)
ります。
144
カルも
其
(
その
)
時
(
とき
)
同
(
おな
)
じく
助
(
たす
)
けられ、
145
今
(
いま
)
逃
(
に
)
げて
行
(
い
)
つた
八
(
はち
)
人
(
にん
)
の
奴
(
やつ
)
も
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
ひながら、
146
其
(
その
)
大恩
(
だいおん
)
を
忘
(
わす
)
れて
右
(
みぎ
)
の
如
(
ごと
)
き
怪
(
け
)
しからぬ
振舞
(
ふるまひ
)
に
及
(
およ
)
んだので
厶
(
ござ
)
ります。
147
実
(
じつ
)
に
人間
(
にんげん
)
の
心
(
こころ
)
ほど
悪
(
わる
)
いものは
厶
(
ござ
)
りませぬ』
148
黄金
(
わうごん
)
『
照国別
(
てるくにわけ
)
様
(
さま
)
、
149
よくまあ、
150
レーブを
助
(
たす
)
けてやつて
下
(
くだ
)
さいました。
151
此
(
この
)
男
(
をとこ
)
は
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
に
仕
(
つか
)
へてゐる
忠実
(
ちうじつ
)
な
男
(
をとこ
)
で
厶
(
ござ
)
いますから、
152
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
に
違
(
たが
)
ふか
知
(
し
)
りませぬが、
153
下僕
(
しもべ
)
として
旅行
(
りよかう
)
に
連
(
つ
)
れて
歩
(
ある
)
かうかと
思
(
おも
)
ひますが、
154
どんなものでせう』
155
照国
(
てるくに
)
『それは
誠
(
まこと
)
に
好都合
(
かうつがふ
)
です。
156
貴女
(
あなた
)
も
女
(
をんな
)
二人
(
ふたり
)
きりでは
大変
(
たいへん
)
不便
(
ふべん
)
でせう。
157
その
事
(
こと
)
に
就
(
つい
)
て
私
(
わたし
)
も
一寸
(
ちよつと
)
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
様
(
さま
)
に
誰
(
たれ
)
かお
供
(
とも
)
をお
命
(
めい
)
じになつたらどうですかとお
尋
(
たづ
)
ねした
処
(
ところ
)
、
158
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
様
(
さま
)
は
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
にふつて
仰有
(
おつしや
)
るには、
159
決
(
けつ
)
して
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
らぬ、
160
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
は
途中
(
とちう
)
に
於
(
おい
)
て
屹度
(
きつと
)
二人
(
ふたり
)
のよい
供
(
とも
)
が
出来
(
でき
)
ると
仰有
(
おつしや
)
いました。
161
只今
(
ただいま
)
になつて
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
162
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
には
実
(
じつ
)
に
驚嘆
(
きやうたん
)
致
(
いた
)
します』
163
黄金
(
わうごん
)
『
貴方
(
あなた
)
は
之
(
これ
)
からどちらのお
道
(
みち
)
をおとりになりますか』
164
照国
(
てるくに
)
『
私
(
わたし
)
は
此
(
この
)
沼
(
ぬま
)
の
縁
(
へり
)
を
伝
(
つた
)
つてデカタン
高原
(
かうげん
)
へ
出
(
で
)
て、
165
イドムの
国
(
くに
)
からヤスの
都
(
みやこ
)
へ
渡
(
わた
)
り
霊鷲山
(
りやうしうざん
)
に
立寄
(
たちよ
)
り、
166
バラモンの
処々
(
しよしよ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
を
言向和
(
ことむけやは
)
せとの
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
なれば、
167
直様
(
すぐさま
)
にハルナの
都
(
みやこ
)
に
参
(
まゐ
)
る
訳
(
わけ
)
には
往
(
ゆ
)
きませぬ』
168
黄金
(
わうごん
)
『あゝさうでしたか。
169
私
(
わたし
)
はこれから
右
(
みぎ
)
へとり、
170
フサの
国
(
くに
)
を
横断
(
わうだん
)
し、
171
タルの
港
(
みなと
)
へ
出
(
で
)
て
海上
(
かいじやう
)
をハルナの
都
(
みやこ
)
へ
進
(
すす
)
む
積
(
つも
)
りで
厶
(
ござ
)
います。
172
何卒
(
なにとぞ
)
気
(
き
)
をつけておいで
下
(
くだ
)
さいませ』
173
照国
(
てるくに
)
『
左様
(
さやう
)
ならばここでお
別
(
わか
)
れ
致
(
いた
)
しませう。
174
何卒
(
どうぞ
)
レーブ、
175
カルの
両人
(
りやうにん
)
を
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
ながらお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します』
176
黄金
(
わうごん
)
『いざさらば
照国別
(
てるくにわけ
)
の
神司
(
かむづかさ
)
177
名残
(
なごり
)
惜
(
を
)
しくもここにて
別
(
わか
)
れむ』
178
清照
(
きよてる
)
『
照国
(
てるくに
)
の
別
(
わけ
)
の
司
(
つかさ
)
を
初
(
はじ
)
めとし
179
照
(
てる
)
、
春
(
はる
)
、
梅
(
うめ
)
の
司
(
つかさ
)
と
別
(
わか
)
れむ』
180
照国
(
てるくに
)
『
黄金
(
わうごん
)
の
姫
(
ひめ
)
の
命
(
みこと
)
や
清照
(
きよてる
)
の
181
姫
(
ひめ
)
の
司
(
つかさ
)
よ
安
(
やす
)
く
行
(
ゆ
)
きませ。
182
惟神
(
かむながら
)
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
の
深
(
ふか
)
ければ
183
フサの
海原
(
うなばら
)
も
安
(
やす
)
く
渡
(
わた
)
らむ』
184
照公
(
てるこう
)
『
月
(
つき
)
の
色
(
いろ
)
は
黄金色
(
わうごんしよく
)
に
輝
(
かがや
)
きて
185
清照姫
(
きよてるひめ
)
の
野辺
(
のべ
)
を
行
(
ゆ
)
きませ』
186
梅公
(
うめこう
)
『
大野原
(
おほのはら
)
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
びながら
187
母娘
(
おやこ
)
二人
(
ふたり
)
は
安
(
やす
)
く
行
(
ゆ
)
きませ』
188
春公
(
はるこう
)
『
左様
(
さやう
)
なら
黄金姫
(
わうごんひめ
)
や
清照
(
きよてる
)
の
189
姫
(
ひめ
)
の
司
(
つかさ
)
よレーブ、カルさま。
190
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
くハルナの
都
(
みやこ
)
まで
191
無事
(
ぶじ
)
に
行
(
ゆ
)
きませ
神
(
かみ
)
のまにまに』
192
此処
(
ここ
)
に
照国別
(
てるくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
と
黄金姫
(
わうごんひめ
)
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
東西
(
とうざい
)
に
袂
(
たもと
)
を
別
(
わか
)
ち、
193
各
(
おのおの
)
命
(
めい
)
ぜられたる
道
(
みち
)
を
伝
(
つた
)
うて
征途
(
せいと
)
に
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
194
(
大正一一・一一・四
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北村隆光
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